エピソード『FROZEN ROSES〜氷のくちづけ〜』
FROZEN ROSES……吹利街道を奥に入った狭い裏路地にて……。
蔓薔薇の生い茂る古めかしい洋館を改装して作られたバー。ぼろぼろの看板に小さく書かれた文字。
- 友久
- 「随分と……寂れた店だな」
風変わりな女主人が自分の趣味と道楽で経営している、と聞いている。変わり者ながらも、強力な呪符使いとして裏の世界では知られていて、この寂れたバーも、飲みに来る客よりもっぱら裏の筋の客の方が多いらしい。
- 友久
- 「ま、虎穴に入らずば……だな」
カラン……古めかしい飾りの付いたドアを開ける。昔作りの店内が見える。店に入ろうとした、その一瞬。
- 友久
- 「なっ!」
突然、空を切って飛んでくる……薔薇。普通ではない……ただならぬ『冷気』が込められた薔薇。とっさに身をひねり、薔薇を叩き落とす。
シャリン! 澄んだ音色たて、木っ端微塵に砕ける……薔薇。
- 友久
- 「痛っ……」
叩き落とした指先がしびれる、冷たさのため乾いた皮膚が割け、血がにじんでいる。しかし、傷みすら感じない。
- 女
- 「あら、かわされちゃった」
視線の先。カウンターには、人懐こそうな笑みを浮かべた女がいた。ゆるいソバージュの長い黒髪、ハッキリとした目鼻立ちの整った顔。マボガニーレッドの艶やかな唇、口元の小さなほくろが印象的だ。
- 友久
- 「……何の真似だ」
心持ち半身で構え、青い瞳が女を見据える。いつでも……相手の動きに反応できるよう相手の呼吸を読む。
- 女
- 「さすが、それなりに腕はたつのね」
- 友久
- 「お褒めにいただいたのは光栄だが……随分な挨拶だな」
- 女
- 「そんなに怒らないで(くす) あなたの『気』から察して
このくらいはできてもらわないと、楽しめないじゃない」
- 友久
- 「あいにく、俺はもっと違う楽しみがいいな」
- 女
- 「あら、おマセさんね(くすくす) ……そんなに構えてな
いで飲み物でもおごるわ」
- 友久
- 「……次は味覚のテストか?」
- 女
- 「そんなに拗ねないで……(くすくす) ちゃんとしたもの
よ」
屈託なく微笑む女に、肩の力を抜き、構えを解き、カウンターに腰を下ろす。女が丁寧に、手早く水割りを作る。
- 女
- 「そう言えば、お名前を聞いてないわね」
- 友久
- 「本宮友久」
- 女
- 「友久君ね、どうぞ」
- 友久
- 「ああ、……あんたの名前は?」
この呪符師の情報を得た時も、FROZEN ROSESという店の名前しか聞いていない。
- 女
- 「ああ、ある程度……認められない限りは、名前は明かさ
ない事にしてるの」
- 友久
- 「なるほど、俺は失格か?」
くすくすといたずらっぽい微笑を浮かべる顔を寄せてくる女。
- 女
- 「薔氷冴(みずたで・ひさえ)よ」
女から、ふわりとほのかに甘い香りが漂う……心をくすぐる女の香り。甘い香りの奥に……冷たく鋭い……術士としての気配。
FROZEN ROSES……凍てつく女にして、比類無き呪符使い。薔氷冴(みずたで・ひさえ)との出会いだった……
FROZEN ROSESと薔氷冴の紹介エピソードですね。このあと、定番の背景・集散場所として、活用されることになります。
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