エピソード『陽気がぽかぽか』


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エピソード『陽気がぽかぽか』

登場人物

中原護(なかはら・まもる)
中原医院の院長で霊的精神科医。
森江新(もりえ・あらた)
先天的な操水術士:
加賀閑哉(かが・しづなり)
親ばか(新バカ)な水道局情報員:
宮部晃一(みやべ・こういち)
超能力者。野枝実らに救出され同居中。
鬼李(きり)
影猫。性格的に一番おとなである。
鬼崎野枝実(きざき・のえみ)
影使い。

中原医院にて

「うーたいくつ。しづ、まだ帰ってこないのかなぁ」
中原
「折り紙で遊ぶのは飽きましたか? 新君」
「だーって。まもるちゃん、折り紙もう無くなっちゃった よ」

  手元には色とりどりの鶴や風船はては、どーやって作ったんだ? というものまでが所狭しと散らばっていた。
中原
「いっぱい作りましたねえ。あ、このキングギドラなんて よくできてますね(笑)」
「へへー(得意げ) ね、まもるちゃん。紙もうないの?」
中原
「そうですねえ。確かこの辺に……(ごそごそ)」

  護が机の上を探してる間、ふと窓を見る。小さな庭に人がいた……
「(? なに、してるんだろ??)」

  じーっと一点を見て動かない少年。時折、抱いている黒猫がわずかにみじろきする。
中原
「ほら、この紙なんてどうです? ……ん? ああ、晃一 君を見てるんですか」
「こーいち?」
中原
「ええ、宮部晃一君って言いましてね。ウチの患者さんで す。新君とは歳が近いんじゃないかな?」
「まもるちゃん、それかしてっ」
中原
「はいはい(笑) 友達になれるといいですね」
「うんっ!!」

  紙を抱え、ぱたぱたとかけてゆく。一方庭では、
晃一
『ふふっ……』
鬼李
「どうしたんだ」
晃一
『毎日、違うんだね。空も風も空気も……外ってきもちい い』
鬼李
「……そうだな、同じ時なんて無い。普段は忘れているが な」
晃一
『? だれか……こっちにくる』

  黒猫が晃一の膝から下り、身体全体を使って威嚇する。ぱたぱたと日焼けした小麦色の肌の子供がかけてきて、晃一の目の前で止まった。
晃一
『だれ?』
「きみ……こーいち?」
晃一
『……うん』
「僕はね、新。森江新! 折り紙、まもるちゃんにもらっ たんだ。こーいち、遊ぼうっ!(にこっ)」
晃一
『え?』
鬼李
「……」

  ふっと力を抜くと、晃一の膝の上で丸まる。
「ねこ? こーいちの??」
晃一
『鬼李っていうの。お姉ちゃん……野枝実お姉ちゃんの相 棒』
「あいぼう? 僕もね、しづの『アイボウ』なんだっ(自 慢げ)」
晃一
『しづ?』
「加賀閑哉ってゆーの。水道屋さんで、僕の『ホゴシャ』 なんだって。おとーさんでおかーさんな人っ(にこにこ)
ね、こーいち、折り紙できる?」

  ふるふる首を振る
「じゃ、教えてあげる。これね、こーやって」
晃一
『わぁ……』

  目の前で、ぱたぱたと紙が折られていく。大きな紙で出来たのは兜。紙で出来た兜をぽふっと晃一にのっける。
「はい、あげる」
晃一
『え?』
「友達のしるし」
晃一
『ともだち?』
「うん、友達っ! こーいち、またここにいる? 会える?」
晃一
『うん』
「じゃぁ、またあそぼーね!」
晃一
『……うん!』

  建物の二階。庭先で遊ぶ二人が窓から見える
中原
「うまく、お友達になれたみたいですね。よかったよかっ た(笑) しかし……こんな所で何してるんです、閑哉さん(^^;」
加賀
「あらたぁ……良かったなぁ(感涙) 今日はハンバーグに チーズのっけて旗も立ててスペシャル仕立てにしよう(うんうん)」
中原
「泣きながら今日の献立決めるの止めて下さいよ(^^;
ここ、一応診察室なんですからね」

日常茶飯

晃一
『今日、お友達が出来たよ』
野枝実
「へえ、誰?」

  中原医院からの帰り道。自転車に晃一と鬼李を乗せて、それを手で押しながら帰る。本当ならば自転車を使うほどの距離でもないのだろうが、晃一は歩けない。
晃一
『新くんっていうの』
野枝実
「何歳?」
晃一
『八歳だって。……新くん、お母さんがいないんだって』

  声の響きに野枝実は思わず振り返り、晃一を見やった。晃一は少しはにかんだような笑いを返した。
野枝実
「で、新って子、どんな子?」

  友達と遊び疲れたのか、晃一は夕食の途中、二度ほど皿の中に顔を突っ込みかけた。今は既に熟睡している。
鬼李
「晃一から聞いた通りの子だよ。八歳で、両親はいない。 今は他の人と同居しているが、その人が仕事中は、学校から帰ってから中原医院に行くようにしているって」
野枝実
「それは聞いたけど……」
鬼李
「同居している人は、水道局に勤めているそうだ。新君本 人もどうやら水を操るらしい」
野枝実
「……水?」

  野枝実は眉をひそめて訊き返した。
鬼李
「大丈夫だって」
野枝実
「根拠は」
鬼李
「新君はいい子だぞ」
野枝実
「……あのねえ」

  立派な根拠、というべきかどうか。
鬼李
「お互い様、なんだろうな。二人で本当に楽しそうに遊ん でいたよ」
野枝実
「……ふうん」

  晃一がころん、と寝返りを打ち、掛布団から飛び出した。それを掛け直してやりながら、野枝実は苦笑した。
野枝実
「……しかし……学校、か」
鬼李
「まだ、無理か」
野枝実
「難しいよ。言葉も喋れない、歩けない、じゃね。中原先 生からいろいろ教わっているらしいけど。……それに」
鬼李
「あんたも親のすねかじり、だしなあ」
野枝実
「全く……バイト、探さないと、と思ってんだけど」

  当然ながら、両親は野枝実の同居人を知らない。
野枝実
「明日は授業ないから……どこか連れて行こうか」

  一介の学生に、出来ることなどあまり無くて。
野枝実
「……鬼李」
鬼李
「?」
野枝実
「晃一少年に、あたしは何が出来るのかな……」
鬼李
「……」
野枝実
「おかあさん、か」

  口には出さないものの、晃一が一番会いたがっている人。
鬼李
「……高望みしても仕方ない」
野枝実
「うん」
鬼李
「やったがまだまし、程度でも、前に進むだけいい」
野枝実
「……わかってる」

  野枝実は手を伸ばし、晃一の頭を一度だけそっとなぜた。

解説

中原医院を介して、森江新(もりえ・あらた)や水道局との関係ができることになる最初のシーン。
  日常のワンシーンという雰囲気ですが、この友人関係が今後の物語に置いては重要な役割をはたしていくことを考えると、重要なエピソードなのかも知れませんね。嵐の前の静けさといいますか、命を賭した戦いの合間の時間……のはずです。


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