エピソード『戻る――誰も居ない部屋』
帰ってみると、誰もいなかった。
- 野枝実
- 「……珍しいな」
同居人が一匹から一匹と一人、そして一匹と二人へと変化するにつれ、この部屋に自分一人、ということが珍しくなっていった。
- 野枝実
- 「……しんどい、な」
壁際に、ぺたんと座り込む。壁が冷たい。異様に広い部屋を、野枝実はぼんやりと見やった。
しんとした中に、壊れたようにぼんやりして座る。何だか、そんなことを忘れていたように思う。
四六時中人がいる環境、というのが、実は最大の苦手であったりする。晃一少年は早く眠るし、友久はふいとどこかに行ってしまうから、それでもまだ何とかなっているのだが。
疲れている。
どこかでいつも、気を張っている感覚。
それが普通なのだ、それで音を上げるようならば人とは暮らせない、と以前人から言われた。そうなのだろうな、と、やはりぼんやりと考える。
同居人達はどこにいるのだろうか、とか、いつ帰って来るのだろうか、とか、まるでぼやけた頭の中に張り巡らされた蜘蛛の巣のようで。
ぱたり、と、野枝実は壁際に崩れた。
- 野枝実
- 「……もう、いいのに」
今くらいは。彼らがいない時くらいは。
長い髪が、まるで頭から流れ出す血の海のように広がった。
野枝実の性格づけのためのエピソードのひとつですね。ここまでくると、小説形式で行ったほうが良かったのかも知れません。
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