あれはむかしのおはなし。 まだ、わたしがわかかったころの。 だれも、そらなんてとんでなかったころの。 ふと気がつくと、朝だった。 たぶん。 「元木目君、元木目君!」 ほへ? 「……………徹夜かね、こんな所で………」 これは社長。朝一番に出勤してくる。 「………………寝てたみたい………………です」 そうこたえる。 「いい若い女の子が、こんな所で徹夜してどーするね…………そん なに仕事が残っていたかな………」 こちらを気遣って下さっているのはありがたいのだけれども……… 「あ、いえ………………」 仕事がそんなに多いわけではない。 「昨日の定時上がりから…………つい……………」 社長が怪訝な顔をする。 「そのまま寝てたんですけど………」 人気のないオフィスは………………眠気を誘ってしまうから。 空襲中の防空壕の中も…………こんな感じで。眠かったけど。 「あー。判った。他の女の子達が出勤してきたら、替わって帰って、 ちゃんと寝なさい。こんな所で寝て……倒れられたら、こっちがか なわん」 いや………ゆっくり眠ったから。 全然業務には支障はないんだけどな…………… ま……………… 「あ、社長…………………」 ふときがつく。なにか言わなきゃならなかったことに。 机の上にちらばってた書類の中から一枚無造作に引っぱり出して。 「この会社なんですけど…………あぶないです」 提携している会社の名前をさす。 「は? あぶない?」 社長が怪訝な顔をする。 …………………… 「…………もういいから帰って寝なさい。んむ。………んったく……」 ぶつぶつと言いながら。 帰っていく。 わたしも………………帰って寝る。もう一回。 柔らかい布団……………いいかもしんない。 「おーい、こんな所で寝てるんじゃないぞー、おいっ」 えーっと。 目を開けて。あぁ。宇宙船の中。 「……………夢を………………見てました……………たぶん」 地球時代の。本当に、小さな。 (終)
元木目照子が、ぼ〜〜〜〜〜っと昔のことをふと思いだしてみた話です。
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