小説001『むかしといえばそのむかし』


目次



小説001『むかしといえばそのむかし』


本編

 あれはむかしのおはなし。
 まだ、わたしがわかかったころの。
 だれも、そらなんてとんでなかったころの。


 ふと気がつくと、朝だった。
 たぶん。

「元木目君、元木目君!」

 ほへ?

「……………徹夜かね、こんな所で………」

 これは社長。朝一番に出勤してくる。

「………………寝てたみたい………………です」

 そうこたえる。

「いい若い女の子が、こんな所で徹夜してどーするね…………そん
なに仕事が残っていたかな………」

 こちらを気遣って下さっているのはありがたいのだけれども………

「あ、いえ………………」

 仕事がそんなに多いわけではない。

「昨日の定時上がりから…………つい……………」

 社長が怪訝な顔をする。

「そのまま寝てたんですけど………」

 人気のないオフィスは………………眠気を誘ってしまうから。
 空襲中の防空壕の中も…………こんな感じで。眠かったけど。

「あー。判った。他の女の子達が出勤してきたら、替わって帰って、
ちゃんと寝なさい。こんな所で寝て……倒れられたら、こっちがか
なわん」

 いや………ゆっくり眠ったから。
 全然業務には支障はないんだけどな……………
 ま………………

「あ、社長…………………」

 ふときがつく。なにか言わなきゃならなかったことに。
 机の上にちらばってた書類の中から一枚無造作に引っぱり出して。

「この会社なんですけど…………あぶないです」

 提携している会社の名前をさす。

「は? あぶない?」

 社長が怪訝な顔をする。
 ……………………

「…………もういいから帰って寝なさい。んむ。………んったく……」

 ぶつぶつと言いながら。
 帰っていく。

 わたしも………………帰って寝る。もう一回。
 柔らかい布団……………いいかもしんない。



「おーい、こんな所で寝てるんじゃないぞー、おいっ」

 えーっと。
 目を開けて。あぁ。宇宙船の中。

「……………夢を………………見てました……………たぶん」

 地球時代の。本当に、小さな。

                           (終)


登場人物紹介

元木目照子
ひたすらぼけてる八百比丘尼

解説

元木目照子が、ぼ〜〜〜〜〜っと昔のことをふと思いだしてみた話です。


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