どうする:友人が宗教に


目次



どうする:友人が宗教に


 狭間によるロールプレイ実習「あなたならどうする」です。
 あなた(のキャラクター)なら、こんな状況に陥ったときにどうしますか。

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 それはいつものように電車から降り、駅から出てすぐのこと。背後から声が
かけられた。
「あなたの健康を一分間祈らせてください」
 ああ、またかと思いつつも引っ掛かるものがあった。
 声に聞き覚えがあったのである。
 気になって振り向くと……そこには、懐かしい人間の顔があったのだ。
 目つきが変わっているものの、確かに旧友。いつのまに宗教に走ったのだろ
うか。

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 駅前で祈らせてくださいをやっている知り合いに出くわした場合の行動など
を考えてみてください。
 小説風に仕上げて頂けると面白いかと思われます。( ^^)/

 必要なら、行為判定のテストもしてみましょう。( ^^)/




浅井素子の場合

「ふう、疲れたぁ。仕事よりもあの"お客様"の世話の方が大変だぁ。ふぁ〜ぁ、
あふ……帰って寝よ」
 道の脇に立った街灯が灯り始める、そんな時間。素子はパン屋のバイトを終
えて、吹利本町駅に向かって歩いていた。
 と、そのとき。
「う……あそこに立って動かないあの人達は……」
 そう、吹利本町駅に行くには絶対に避けては通れない道。そこに数人の男女
がぼーっと、しかし瞳だけはらんらんと輝かせて立っていた。
 そう、それはどこからどう見ても、あの素子が最も苦手とする人種……宗教
の勧誘の人々だった。
「だ、大丈夫よね。他にも人は居るし。私みたいなの狙わない狙わない」
 なぜ、素子がこの種の人間を苦手とするかと言うと……つい素直に返事をし
てしまって、ついしっかりと話を聞いてしまうからである。大抵どんなに短く
ても30分は離してもらえない。どうせ入る気はないんだから時間の無駄である。
そんなことは解っている。しかし断れないのが素子の弱さであった。
「ああ、こういう時には植木がうらやましいわ」
 意を決し、勧誘員達が待ち受ける、駅までの最後の通りに向かう。うつむき、
口をきゅっと閉じ、早足で通り抜ける。いや、通り抜けようとした。
「ちょっと、すいません。あなたの健康を一分間祈らせて下さい」
「は、はぁ」
 なんで、なんで私なのよぉ。と、心で泣きながら素子は(止めておけばいい
のに)振り返った。
 今、また、同じ過ちを素子は繰り返した。この点に関してはまったく学習能
力が無い。自分でもよーく解っている。
 しかし今回は今まで何度もあった、時間の空費とはわずかに性格が違ってい
た。
(……こ、小林じゃないの……)
 そう、今素子の前で、手を組み、目をつぶり、訳のわからない言葉を唱えて
いるのは小学校の同級生、小林であったのだ。
(い、いつのまに宗教になんか……)
 取り敢えず、名のらずに様子を見る。ただでさえ町で不意に、知り合いに会
うのは苦手なのだ。
「ところであなたは……」
 お祈りを終え、小林は勧誘モードに移行したようだ。しかし素子の顔を見て
もなにも変化はない。忘れているのか、そんなこたどーでもいいのか。そんな
ことは解らない。ただ小林は、マニュアル通りの勧誘を行っている。こうなっ
てしまうと素子に言える事はただ一つ、
「幸せとはなにかと言うと……」
「はぁ」
「教祖様はこうおっしゃって……」
「はぁ」
「一度教会の方へ……」
「はぁ」
 無意味な、しかも一方的な会話をしながら、素子は思っていた……
(あ、星が奇麗ね。今何時かしら。そう言えば今日は土曜日ね。あ! ビデオセッ
トしてたかしら。まあ、しかたないわね。ああ、お腹すいたあ……)
 街灯はこうこうと夜道を照らし出し、月は美しく輝いている。
 まだ夜は始まったばかりだ。

(あーん、はやくおうちにかえりたいよーっ)

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 「知り合い」という要素が、ほとんど忘れ去られた文になってまいました(^^;
 ちなみに実際の私も大差無いです(分身だったら当たり前か(^^;)

							 ☆砂沙美でした。☆




植木三郎の場合

 俺は意気揚々と店を後にした。
 素子や三彦が先に帰っているはずだが、先といっても2,3分ぐらいのこと
だからひょっとしたら追い付くかもしれない。まあ電車は確実に同じになるだ
ろうが。
 あ、三彦はいつもの「1時間待ち」か。いつもながら悲惨なやつだな。
 もっとも素子の方も他社乗り換えだから、似たようなもんか。
 その点、10分に1本帰れる電車がある俺は、気楽なもんだ。
 ……比較的、だけどね。
 俺は、日が沈んで西の方に出だした金星を背に、悠然と吹利駅を目指して進
撃した。
 と。
 俺の砥ぎ済まされた鋭敏な視覚は、駅前にたむろする異様な目つきの一団を
視認した。毎度おなじみ、いつもの、あれだ。
 うーむ……最近増えたな。いつ来ても待ってやがる。何が救済だ。そんなに
救済したければまず最初に自分の頭を救済してもらえ。まったくいつもいつも
通行の妨害をしおってからに、俺のような善良な市民にとっては有害極まり無
い大敵である。
 さて、そんな社会の大敵の群ではあるが、人生なにごともネタならざるは無
しとはよく言ったもので、俺はうっとおしいあいつ等をダシに遊ぶ方法を考え
付いていた。
 先週は−−これはアーサーネットの人の入れ知恵なのだが「浄化する? 神
戸には阪神大震災で被災した病院が、人工透析ができず困っているんですよ。
存分に浄化してきて下さい」というやりかたで撃退し、3日前はおぼえたての
中国語を駆使して相手を沈黙せしめ、つい昨日はたしか三彦から借りたグロッ
グ17とかいう拳銃をわざと落としてびびらせて撃退した。後から考えるとあれ
は危なかったが。
 ま、そんなわけで、今日もやつらを遊んでやるやり方を考えながら、敵密集
地域に進撃を敢行したのだ。
 ところが、今日の状況は昨日までと違いいささかではあるが変化が見られた。
 教団側が俺の小学校時代の同期生を出して来るとは、その時まで予想できな
かった。これはなかなか気のきいた演出だ。6点はやれる。
「ああ、サブ、ひさしぶりやね。
 俺いまボランティアやってんねんけど、祈らせてくれへん?」
 演出は良かったが、人選は悪かったようだ。
 だれがこんな事いわれて「はい、そうですか」となるか。
 しかし、ボランティアとは笑止。もっと他に語はないのか。
 ……俺は1秒程度の考案の末、今日の新手の挑戦に対する対抗法を決定した。
 ボランティアという語が本来持つ意味、「軍隊に志願する」をつかわせて貰
おう。
「ボランティア! うん、いい言葉や! 
 おまえも遂に軍国の道に目覚めたか!」
「え……いや、なにいってるん?」
「ボランティアやってるんやろ? 
 ええ事やないか〜。で、どこ? 海? 陸?」
「え……な、なにそれ?」
「とぼけんなよ、さ、いっしょにいくで」
 何を……、という元同期生のか細い疑問の声は無視して、横隔膜を使用した
一杯の腹式呼吸を行い、瞬時溜め、吐き出すと同時に自慢の声で叫ぶ。もちろ
んその友人の声に似せることは忘れない。
 右手では、やつの右手を高くあげさせるように持ち上げて。
「天皇陛下、万歳!!」
 効いた。決まった。
 通行人はまばらではあったが、そのほとんどが驚いてこちらを振り向いてい
る。
 もちろん俺はうまくやったから、俺が叫んだとは思われていない。
 すべてやつの行為として通行人には理解されている。
 ……勝った。完勝だ。
 俺は悠然とその場を立ち去った。

 立ち去りかけた時に、ふと視界の隅に止まるものがあった。
 浅井だった。
 トロい浅井は、こーいうものが一番苦手だと話していたのはおぼえている。
 となると、ほとんど毎日出没するこいつらには、ほとんど毎日捕まっている
という事になる。なかなか悲惨なやつだ。
 ちょっと見捨てて行くのはかわいそうになってきた。
 救出しよう。浅井救出作戦だ。
 俺はその場から直線的に浅井に近づいていった。
 1.5mの距離にきた時、作戦を開始した。
「よ〜、素子」
 やたらなれなれしくなるように声を作り、そのまま接近を続ける。
 ぎょっとして振り向く、浅井を勧誘中なのであろうと思われる狂信者A(仮名)。
 こんなやつに用は無い。無視して続ける。
「悪い、またしちまって。さ、いこか」
 狂信者A(仮名)に立ち直る暇を与えず、次の言葉が出る前に、浅井の肩に
手を回し、悠然とその場を立ち去る。
 救出劇は、一瞬で終わった。

 手を放しながら、俺は学校の英語教師の口調を真似て、こう言った。
「おっまえは、アホか!」

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>「ああ、こういう時には植木がうらやましいわ」

  そーか、植木を忘れとった(^_^;)

							    坂井飛曹長




酒井三彦の場合

 またか。俺のこの種のヤツらに対する行動は、何度も何度も考え練り上げた
完璧な拒否作戦を遂行するという事に決めてある。
「いえ、いりませ……」
 きっぱりと拒否の意を現そうとした時、振り向いたのが悪かった。
 あ、でも、悪かったかどうかは解らないな。
 ……そこには俺の知った顔、高校時代の同期、吉野がいた。
 顔つきや雰囲気が多少変わってはいるが、確かにそれは吉野だった。
 俺はびっくりした。そのためか、多少スキが出来たんだろう、吉野は口を開
いた。
「やっぱり……岡本だろ。
 ちょっと自信がなかったけど、いや、とにかく偶然だよなぁ。
 同試射通ったんだって? いいよなぁ!」
「艦学のお前がなにいうとんねん! 
 にしても偶然やな、艦学やったら別の線ちゃうん?」
「いや、今日はちょっと用事があってね。
 それよりどうだい、暇だろ? 昼めし、いかない?」
「おう、ええぞ」
 その時、確かに吉野は攣った笑いを浮かべた(観察技能なんてない→技能6
相手は浮かべただけ→目標−3視力1.5→+1 ロール:6 失敗)はずだが、
それに気付かなかったのは迂闊だった。
 最初に掛けて来た声は、俺達が高校生だった頃に流行った悪徳宗教のマネだ
と考えてあまり気にも留めてはいなかった(相手の警戒心を解く為、宗教とは
関係ないフリをする 勧誘技能→9 友達だからぜひ救済しなければかわいそ
うだという思い込み 一時的特徴の @福の@@への信心→2 目標値に6
ロール→8,6 2回目で成功 岡本は抵抗しようという意志がない)が、なん
となく雰囲気から
 こいつはあやしい、と思いはじめて……

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  うーむ……

							    坂井飛曹長




湊川観楠の場合

「父様、あれなぁに?」
 かなみが指さした方向へ目を向けると、駅の昇降口のあたりに若者が数人、
道行く人々を捕まえてはなにか話かけているのだが、聞いてくれる人はあまり
いないようだ。
「あれは……なにかの勧誘、かな?」
「カンユウって?」
「そうだね……例えば何かしようとするときに、他の人にも『一緒にやらない
か』って声をかけるコトだよ」
「ふぅーん……」
 納得したのかしないのか、かなみはそれきり口をつぐんでしまったようであ
る。
 さて駅前を通り過ぎようとしたとき、2人の前に人影が現れた。
 そして開口一番こう言ったのである。
「あなた方の健康と幸せを祈らせて下さい」
 言いながら既に黙祷状態に入っている彼に確かに見覚えがあった。
「お前……広石! なにしてんねん、一体!?」
「父様、知ってる人なの?」
「あぁ、友達だよ……ちょっと、来いよお前!」
 ひたすら黙祷している彼の腕をつかんで駅の裏手へ回る。何事かと見送る人
もいるがそこは現代の日本人。自分に関わりがなければ気にも止めない。やが
て人気の少ないところへ、そして腕を放してやる。
「いてて……なにをするんですか、ひどいなぁ」
「ひどいなぁって、そのしゃべり方はなんだよ!? それに、『祈らせろ』? 
お前、宗教は大嫌いだったろ? なにかあったのか?」
 体をがくがく揺さぶりながら一気にたたみかける。
 が、聞いているのかいないのか、うつろな表情のままいっこうに反応がない。
「おい、広石? 返事しろよ! 広石!!」
「父様ぁ……」
 恐くなったのか、かなみがズボンの裾をつかむがそれにも気づかず体を揺さ
ぶる。が、彼の表情は一向変わらない。
「くそっ! 一体なにがあったっつーんだよ……なんでお前が……」
「父様ぁ!!」
 悲鳴とも叫び声ともとれるかなみの声で我にかえる。
「この人、どうするの、どうなっちゃうの? ねぇ父様ぁ!!」
 足にしがみついて見上げたその顔に涙が見える。しまった……
「あ、あぁ……ごめんね、脅かしちゃったね……」
 さて、どうしようか。
「文雄さんか美樹さんならコレがなんだかわかるかも知れないんだけど……」
 しかし、彼らがココにいるはずもない。広石は相変わらずうつろな表情で立っ
ている。
 彼を見て。かなみを見る。よし。
「ウチに連れていこう。かなみちゃん、いいかい?」
「うん……」
 かなり不安な様子、まぁムリもないが。
 とりあえず、明日店で文雄か美樹に聞いてみよう、そう決めて再度彼の腕を
つかんで歩き出す。
「さぁ広石、行くぞ! お前疲れてんだきっと!」
 まかせとけ、必ずお前をモトの広石にしてやるから! 

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  (小説……長文は苦手なんだけど、LET’S TRY!)

  やっぱ、難しいですね……(奥が深い!)
								    楠




狭淵美樹の場合

 ホームから降りる人の流れに、いまいち乗り損なうようにして、美樹は自動
改札を通過した。すでにラッシュアワーをとうに過ぎた時刻。黒いショルダー
バッグを左肩に掛けて、右手にはさっきまで車内で読んでいたとおぼしき薄っ
ぺらい文庫本を人差し指を栞代わりに挟んだままで持っている。すでに日課と
なっている慣れた足どりで、数人を追い越しながら吹利駅前の角田書店へと向
かおうとする美樹に、不意に声がかけられる。
「おい、狭淵」
 美樹は、一瞬聞こえたかのように立ち止まったが、空耳と解釈して、再び歩
き出す。そう、今日はすんでの所で先日手に入れ損ねたハードSF作家のエッ
セイ集が、手にはいるような気がするのだ。美樹の歩幅は大きい。そのせいか、
こうして歩いていても、周囲より二割増は早い。
「おい、狭淵、無視すんなま」
 さすがに明らかに呼ばれていることに気がついて、美樹は少し不快げに無言
で振り返る。自分の名前を呼んだらしき人物に目を停める。同じぐらいの年齢
の男。見覚えがあるようなないような気がしないこともないような気がしなく
もない。
「久しぶりだな、こんなとこで。今何しているんだ?」
 男の興奮した話し方に生返事で答えているうちに、どうも、男は富山にいた
頃の知人であったような気がしてくる。しかし、名前は思い出せない。
「……ところでだ。今、暇か?」
「暇といやぁ、暇だが」
「ちょっと三分間ほど時間くれんか?」
 もう、彼の話で三分以上の時間を空費したような気がしていたが、そのこと
はあえて口にはしない。しかし、とにかく、本屋が自分を呼んでいるのだ。
「ちょっと祈らせてもらいたいんだが……」
 そう言うことだったのか。少し得心がいった美樹は、かなり不快になってい
たが、それを顔には出さない。
「ここで、だ。今、十時だよな」
「あぁ」
 いきなり美樹が何を言い出すのか判らなくて、男は戸惑ったような表情を見
せる。
「わたしが、アラーの神に祈りたいから、一緒に祈ってくれって言い出して、
メッカに向けて礼拝しだしたらどうする?」
 美樹が何をいいたいのか判らすに目を白黒させる男。
「と、いう訳で、そう言うことは同じようにわたしの習慣には含まれていない
から。そういうことで」
 言うなり、男への関心を失って、くるりと振り返り足早に角田書店に向かっ
て去る美樹。あとに、呆然とした男が残される。
 美樹は、角田書店の自動ガラス戸が開くなり、そのままの歩速で単行本(文
芸書)のコーナーへと向かおうとして気がつく。女子学生風の客が今しも、レ
ジに彼のお目当ての本を持っていこうとしていることに。それ一冊しかここに
入っていないことにも。
 あいつのせいだよな。
 美樹はかなり憤然と呟く。
 その日の数分後、新刊のならびで読み続けているシリーズの続刊を発見する
まで彼の不機嫌は持続した。結局、駅前の男の名前は思い出せなかった。

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 こんな感じですね。
 自分の目当てのもの以外は目に入ってこないという性格ですし(^^;
 現実のわたしよりも過激かも(^^;
 わたし自身も、あの手の祈りの人には、
 「結構です」の一言ですます方なので(^^;

							  Invisible Tree




永瀬顕の場合

 たしかに、たしかにあの子だ。俺より身長が高くなってるんだな。
「あ、ああ、いいですよ。こうするんですか?」
 両手を差し伸べて、目を閉じる。すると彼は私の腕を取ってブツブツと呪文
を唱え始める。
 一分の沈黙、それは過去に置き去りにされたメモリーを呼び起こすには十分
な要素だった。
「終わりました。これであなたは健康です」
「ほんまかいな……ところで、君、桑野君ちゃう?」
「……ち、違います」
 顔に狼狽の色が現れる。桑野は私に気付いたようだ。
「いや、その声、その顔、まさに桑野や」
「違うゆうてるやろっ!」
 走り去ろうとする桑野の袖をつかんだが、少林寺を習っていた彼は腕を巻き
込んで私の手を振りほどいた。
 桑野の姿は人ごみに消える……。
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 五時間、そろそろ疲れた永瀬はここでセーブして、近くの喫茶風パン屋に足
 を運ぶのであった。

       ま、インサイド技能の応用ですかな(爆)  永瀬 顕 / しゅぺる




日阪朝の場合

 まあ友人だったとは言え、それも中学生の頃……もう何年も経つわけだし、
昔のままの人物である方がおかしい。それに2年ほど前にもそんな奴から電話
があった……あれは何の宗教だったか……
「ひさしぶりやな、中学の時以来か?」
 旧友はしばらく私のことに気づかずきょとんとしていたが、程なくして思い
出したらしく、周囲の視線を意にも介さず大きな声でなつかしさを表現した。
 それからしばらくは、昔と言うには大げさな昔の話が続き、お互い「宗教」
のことなど忘れていた……
「で、こんなとこで何やってんねん?」
 しまった、と思った。
 大体、祈らせろとか言うのは勧誘のきっかけ……旧友で昔話をしてしまった
などは、それこそ最大のきっかけを与えたということになる。
 相手もそれがわかっているらしく、とにかく逃げられないように言葉を選ん
でその宗教の話を始めた。
 私は、なんとかこの話を打ち切らなくてはと焦り、宗教の話などまったく耳
に入っていなかった。
 こういう場合、なにかとまずいことが多くなる。
 彼はその宗教が正しいと思って信じているのだから、相手にとっても良いこ
とだとか考えてるに違いない。
 無碍に断って逃げるわけにも行くまい。私がきっかけを作ったのと同じなの
だから……
 しかし、このまま話を続けさせるわけにもいかない。
 でなければ、彼の純粋な心を傷つけてしまう可能性が大きい……

 「ちょっとまってくれ、おれ宗教にはあんまり興味ないで」
 しかしおそらく“勧誘の方法”というものに沿って、彼は話だけでも聞いて
から、と食い下がった。それに誰しもはじめは興味がないものだ、ともっとも
らしいことまで言う。さらに、話を聞いてから断られても構わない、とまで言
ったのだ。
 やめてくれ! 違うんだ! たのむから! 普通の人は巻き込めない! 
 旧友はやめてくれるはずもなく、私の右脳にもやもやと何かが現れるのを感
じた。

 ……1時間後、そこには独自の宗教観を切々と説かれている“旧友”の姿が
あった。
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					月坂史葉(SHO)




士堂彼方の場合

 士堂は、自分に声をかけた人物の顔を見た。
 どうやら、自分の知り合いらしい。そういえば、そうだった。比較的、付き
合いの深い知り合い。こんなところで、会うとは。
 彼は、一方的に話している。口元に、軽い笑み。

 特に急ぐ用事はない。されるまま、祈ってもらった。そして、誘われるまま、
近くのベンチで話をした。
 どうやら、彼の人生観は変わってしまったらしい。
 らしい、というのは、彼は、自分の人生観が変わった、とは言うが、どう変
わったかは言明しないのだ。
 なぜ信じるか。それを知りたいものだ、と思いつつ、士堂は彼の話を聞いて
いた。

 その後、近くの道場に行かないか、と誘われたが、断ることにした。士堂が
興味があったのは、彼であり、彼の道場ではなかったから。

 信仰の一例をみることができ、士堂は満足して帰路についた。

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こんなものでしょうか。
「旧友」の度合いによって、何処までつき合うかは違うと思いますが。

								  kanata




久永涼介の場合

「あーしんどい」
 僕は肩に手をやりながらつぶやいた。
「今日は疲れた。はよ帰って寝よ。しっかしついてないよなぁ。よりによって
教卓の目の前の席になるとは。これから地獄の日々が始まるのか……。いや
やなぁ」
 今日はもう誰とも話したくない。知り合いに会っても知らんふりしよう。
 そう思いながらバスが来るのを待っていると、どこかで見たような顔の男が、
僕のすぐ前に並んでいる人に声をかけたようだった。
「すいませんが貴方の健康と幸福を祈らせてください」
 おかしいな。宗教関係の知り合いはいないはずなのに。そう思っていると前
の人がうまいこと断わってしまったようだ。
「私は@@教の信者なんです。私のほうこそ貴方の健康と幸福を祈らせてくだ
さい」
 これは旨いことを言う。今度はこの方法で断わってみよかな。けど、これで
この人がターゲットを僕にかえてきたらヤだな。けどこんな日は、嫌な事が重
なりそうな気がしてきた。
「貴方の健康と幸福を祈らせてください」
 う。やっぱり来たか。後ちょっとでバスが来……あ、来た、ラッキー。こ
れを口実にして断わろう。
 ん? しかしこいつ誰やったかなぁ。うーん、誰やったかなぁ。……あ! 
こいつ中嶋!? 
 小学校のときから危ない奴やと思ってたが、まさか宗教に走るとは! 
 なんて考えてる場合ではなかった。こっちが黙ってるのをいいことにいきな
り祈り始めてしまったではないか。こうなっては逃げだしにくい。しょうがな
い、バスは一本遅らそう。
 それから暫くして、祈り終わった中嶋は、勧誘モードに入ろうとしていた。
ここで何か言わんと帰られへん。そう思った僕は思い切って言ってみた。
「すいませんが、中嶋さんじゃないですか?」
「へっ? 何で貴方が私の名前ををっ!? お前は久永! なんでこんな所におん
ねん!」
「なんでって言われてもなぁ。ここからのバスに乗らんな家に帰られへんもん」
「う! そうか。お前引っ越ししたんやった! ……いまのは見なかったこと
にしてくれ! 頼んだで! じゃあな!」
 それだけ言うと中嶋は大慌てで逃げて行った。
 はぁ、人って変われば変わるもんやなぁ。 僕も中1の時はこんなんと違う
かったのに。
 いまでは……はっ! いかんいかん。この事は考えへんことにしてたんやっ
た。まぁいいか。中嶋は少なくとも殺人宗教じゃなかったみたいやから。
 しかし結局帰んの遅なってしまったな。はよ帰りたかったのに。
 あー疲れた。はよ帰って寝たいなぁ。

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  かなり遅くなってしまいましたが、「一応」書くだけ書いてみました。
  しかしこれで僕の文才のなさがお解り頂けるでしょう。(^^;)

 こういったものを書くのは初めてなので、読みにくいでしょうけど許したって
 ください。		 ~~~~~~

 うーむ。知り合いと全然関係無い上に、だらだらと書いただけやった。
 一人称で書く気もなかったのに。
 良くないなぁ。けど初めてだし、まぁいいでしょう。(全然良くない)


	                          未来路


正正正の場合

 それはいつものように電車から降り、駅から出てすぐのこと。背後から声が
かけられた。
「あなたの健康を一分間祈らせてください」
 ああ、またかと思いつつも引っ掛かるものがあった。
 声に聞き覚えがあったのである。
 気になって振り向くと……そこには、懐かしい人間の顔があったのだ。
 目つきが変わっているものの、確かに旧友。いつのまに宗教に走ったのだろ
うか。
「黙れ」
 人違いだ、人違い。私は無駄な時間を過ごしたなと思いながら帰路に早々と
ついたのだった。

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# こーゆー奴なの(笑)

 さ



岩沙琢磨呂の場合

 それはいつものように電車から降り、駅から出てすぐのこと。背後から声が
かけられた。
「あなたの健康を一分間祈らせてください」

 琢磨呂	:「代わりに俺が、お前の安らかな死後を願ってやろうか? 
		:ハンマーが倒れるまでのゼロ・コンマ数秒間だけな(エア
		:ガンのコルトパイソンを突きつける)」
 宗教な奴	:「(びくりともせずに、イっちゃった目で)いえいえ、あな
		:たのそのような汚れた心を……」
 琢磨呂	:「だ……駄目だこりゃ……(銃を仕舞って、無視して歩き
		:出す)」
 宗教な奴	:「ああ、汚れた心の持ち主よ、お待ちなさい」
 一般人	:(汚れた心と言われている琢磨呂をものめずらしげに見て
		:る)
 琢磨呂	:「(無視だ、無視……てくてく)」
 宗教な奴	:「そこの”汚れた心の持ち主”よぉ〜!(追いかけて来る)」
 琢磨呂	:「(我慢、我慢、知らぬふり……)」
 宗教な奴	:「そこの”汚れた心の持ち主”よぉ〜!(まだ追いかけて
		:来る)」
 琢磨呂	:「(ぶちっ)じゃぁかしゃぁぁぁぁー! おんどりゃぁぁぁ
		:あ!」(標準語訳:「うるせぇぇぇ! この野郎!」)

 一度は仕舞ったコルトパイソン357マグナム4インチバレルタイプをホルス
ターから引き抜き全弾斉射するまでわずか数秒。
 しかし、やはりあいては「イっちゃってる目」の人であった。ある意味ター
ミネーターより恐いかもしれない。

 宗教な奴	:「そこの……」
 琢磨呂	:「もーやめ、俺は帰る(マッハ2.5で走り去る)」



豊中雅考の場合

 それはいつものように電車から降り、駅から出てすぐのこと。背後から声が
かけられた。「あなたの健康を一分間祈らせてください」

 居候		:「……振り向く価値はある。声が可愛いぞ」
 豊中		:「……なんか、やな予感がするんだがね?」

 しかし、それでも振り向く豊中。いやな予感は的中し、そこに虚ろな笑みを
たたえていたのは間違いなく、元同級生の鈴木正美だった。
 そういえばこの間、だれかに正美が宗教にはまったって、聞いたような気が
するな。

 居候		:「へええ、可愛い子じゃないか。目が虚ろなのが気に入ら
		:んけど」

 むろん、居候の『声』は正美には届かない。虚ろな笑みのままで、「あなた
の健康を一分間祈らせてください」。
 豊中は、正美が苦手だった。ついでに、新興宗教信者も、嫌いだった。
 その二つが同居している今の正美は、蛇がニコチンを嫌うのと同じくらい、
豊中の神経に触った。
 理由はわかっている。感情放射が、一般人より強く、しかも異常なのだ。本
能が警戒警報を鳴らしているのが、よくわかった。
 正美本来の感情と、新興宗教信者の信仰心は、そもそもどこか似ていたので
ある。強いが、主体性が感じられない。存在が空洞化しているのに、本人はそ
れに気づかない。
 それの相乗効果……ずいぶん、マリオネットじみた感情だった。
 この状態の人間なら、からかっても問題はないな。

 そう結論づけて、豊中は黙ってそこに立っていた。
 正美は目を閉じ、手をかざし、何か妙なごたまぜの『呪文』を唱え始めた。
 今がチャンス。豊中は、こっそりとあとずさり、ものかげに隠れた。

 そして一分後。一杯食わされた正美は、きょろきょろとあたりを見回してい
た。

 居候		:「……おまえもいい加減、性格悪いのう」
 豊中		:「罪のない悪戯だよ、相棒」
 居候		:「可愛い子だったのに。もったいない」
 豊中		:「ああいうのは誘ったって無駄さ。それより、バイトだバ
		:イト」

 豊中はバイト先に向かって歩き出した。

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 旧友であっても、歩き出した道が異なれば、相手が干渉してこない限り構わ
ない。そういう人間だったわけですね。
 ……をや、これでは私の反応と変わらないではないか(^_^;) 



平塚花澄の場合

 電車から押し出され、改札をくぐり抜けてゆく、ごくいつもの風景を、実は
花澄はあまり良く見たことがない。
 大概本に鼻を突っ込んだ形で、ここを通る。電車に乗る前に本を買うと、丁
度降りる頃には本にほどよくのめり込んでいることになる。人の流れは無秩序
に見えて案外一定で、読むのに困ることも無い。
 学生の乗り降りの激しい駅前、それも受験前になると、増える人々がいる。
幸福の為に祈るのだ、と、幸福をすっかり忘れたような顔で言ってのける人々。
……幸福を祈るっていうんなら、せめて祈って欲しくなるぐらいの表情に
なれないものかしらね……
 そんなことは、勿論口には出さない。ただ、本を壁代わりにして、伸びてく
る腕を防いでゆくだけ。
 自然、溜息がもれる。目に入りかけた髪を払って、花澄は少しだけ本から目
を離した。
「あれ、平塚さん?」
 ……え? 
 花澄は思わず身を縮めた。一旦離した視線を、また本の方に向けて。多分、
聞き違いだ。それに平塚なんてそう珍しくも無い姓だ。
 関わりたく、無い。
「春宵姫!」
 ……え?! 
「……さとみ……?」
「やっぱ、花澄やん!」
 本から目を上げた……上げてしまった花澄の目の前に、女が立っていた。
年を刻んだ、けれども確かに見覚えのある顔。
「何で、ここにおんのん?!」
「え……」
「あんただけは、どうやって探しても見つからなかったんよ。……大学出て、
どこいっとったの?」
「どこって……留学してたから」
 どこか青白い顔。奇妙な目つき。腕を伸ばしてくる人々と共通の空気が、し
かしはらはらと落ちてゆく。
「さとみこそ、こちらに帰って来てたんだ」
「うん。実家の近くよ」
「……偶然だねえ……」
「ほんとに……何年ぶり?」
「えーと……何か、数えると悲しくなるわ」
 高校の頃の同級生。その輪郭に、ごく自然に近づいて。
「……かわらんねえ、花澄って。……」 
「さとみも」
「ううん。昔っからあんたの周りって春だけど、いまでも春やもんねえ」
 空気が、和らいでゆく。昔のままに。

「あ、ごめん、もうすぐ仕事始まるから」
「何の仕事?」
「本屋の店員」
 らしすぎておかしい、と、彼女は大笑いした。でも、あんただったら学者か
何かになるんだと思った、とも。
「したら、またね」
「うん。また、あおうね」
 じゃね、と手を振って別れてゆく。そして、しばらく行ってから、双方思わ
ず首を傾げることになる。
「……あれ?」
 でもやはり、和らいだ空気の中に留まったままで。

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 花澄の圧勝です。
 彼女が友人、と認識するからには、花澄に向かって「幸運の為に……」な
どとやる奴ではないのです。それほど彼女を知らない奴を、友人の範疇には入
れません。(し、多分全然憶えていないと思う。そんな人……)



御影武史の場合

「……十五分待ちか」
 駅前のバス停、時刻表と腕時計を交互に睨んで御影武史はつぶやいた。
「歩くか」
 バスを待つより早い。そう判断して歩きだす。
 だらだらと流れる人波を、横目でストリートミュージシャンの演奏をながめ
つつ、意外と器用に追いこしてゆく。追いこしながら、ティッシュくばりのお
ねーちゃんからポケットティッシュをしっかり受けとっていたりするのが、セ
コイというかなんというか。
「すいません、ちょっとおたずねしますが」
 いきなり横から呼び止めた者がいる。
「はい?」
 てっきり時間か道筋を聞かれるのだと思って立ち止まったのが、誤算といえ
ば誤算。
「あなたはいま幸せですか? 満たされていますか?」
 そーくるか。
 他人の幸福、あるいは他人の不幸が何だというのだ。だいたいこういう手合
いは、本人がいちばん幸の薄そうなツラをしている。自分ひとりを幸せにでき
ないヤツが、他人を幸せにできるはずがない。大きなお世話である。
「神はすべてお見通しです」
 ぬあああああっ。うっとーしーっっ! 
 せっかく立ち止まってやったというのに、言うことはソレかいっ! 
「たったいま不幸になったような気がするけどな」
 眉根をよせて目は半眼。視線は上から見くだすように。セリフはドスの効き
まくった重低音。
 かなりコワい。
「か……神の審判が、……くだ……下されようとして……」
 いきなり腰のひけている勧誘者は、武史を上目づかいに見て、いきなり躁病
患者と化した。
「あ、……もしかして御影ちゃう? ひさしぶりやなぁ、高校出て以来とちゃ
うか?」
「……」
「いま何しとるん? なんかぜんぜん変わらんなぁ」
 ごーっつぅ変わったぞ。昔やったら、とうにキレとる。オノレが勧誘モード
に入ったあたりでな。
 考えてみれば丸くなったな、わしも。それはそうと……
「誰?」
「え?」
「おまえ、誰? どこの誰やね?」
「ほら、二年のとき同じクラスやった川本。忘れんなよ〜」
 忘れるもなにも。
「知らん」
「……へ?」
「ンなヤツは知らん」
 忘れたのではない。忘れたふりをしているのでもない。最初っから少しも憶
えていないのである。
 虚を衝かれたような表情で固まっている勧誘者に背をむけ、武史は何事もな
かったかのように歩きはじめた。



スナフキン愛好会の場合

 **富良名裕也**

「もとみー遅いなぁ」
 日曜日、駅の前でひとりぼやくフラナ。
今日は一緒にギターの練習に行くはずなのにぃ、待ち合わせにもとみーがこな
い。佐古田もいないけどそれはいつものことだしなぁ。先に行きたくても一人
で行けば絶対道に迷うしなぁ……ちぇ。
「おーそーいー、ぶー」
 さっきからずうっとこの繰り返し、退屈だよぉ。
「あの……すいません」
「うに?」
 突然わきから影の薄そうな男が話しかけてきた、なんか怪しい。
「あの……あなたの幸せと健康のために……一分間だけ祈らせてください」
 何のことはない、ただの宗教もんか。あれ……なんだかひっかかる……
どっかでみたような陰気臭い顔……こいつは……
「まさか……ひびやん?」
「え、あれ……きみは……裕也君……」
 ひびやん、中学一年の頃のクラスメイトの笛吹響だ、なかよくというより自
分が勝手にまとわりついて遊んでた奴だ。真面目で引込み思案でいつも引っ張
りまわしてた記憶がある。
「ひーびやんっ久しぶりぃ、え、なんで? なんでシューキョーやってんの?」
「え、それは……あの……親が……」  
 響はなんだか顔をそらすように答えた。
「そうだ……確か……」
 両親が離婚して、高校が一緒になれなくて、ずっと音信不通になってて、そ
の間なにかあったのかな、中学の頃より一層表情が暗く、影が薄くなってる。
「あの……ごめん……迷惑だったかな、あの……ごめんね……」
 恐縮してあわてて走っていこうとする響。そおはいくかっ
「ひびやぁんちょっとまってよぉ」
 すかさずはしっと服のすそをつかむ、響は面食らったように振り向いた
「ねぇ久しぶりなんだから、どっかよってこうよ、もとみーもくるしさぁ」
 なんか今のひびやん心配だし……、と心のなかで付け加えておく。
「裕也君……僕は……いいよ、僕みたいなのがいたら邪魔だし……僕なんか……」
 こりゃ重傷だ、ここは逃さん。
「なんで、そんなことないよ、ねぇ遊ぼう、あ・そ・ぼ」
 必殺あ・そ・ぼ&屈託のない笑顔、心なしか響の顔が明るくなった気がする。
「……うん……ありがとう……でも今日はちょっと……」
「そうなんだ……でもまた今度みんなで遊ぼうよ、ねっねっ」
「……裕也君……うん……今度ね……」
「じゃ、今度の日曜さぁもとみーや佐古田とかも呼んでさぁ」
 響に何があったのか……そんなことはどうでもいい細かい事は気にしない。

 いつもと変わらず振る舞うフラナ、響の顔に笑顔が浮かぶ、そういう奴だ……
フラナは。

 **佐古田真一の場合**

 吹き抜ける風が心地良い……。駅前でギターをしょって佐古田はたたずんで
いた。
 珍しく待ち合わせに本宮が遅れている。フラナはたぶん迷っているんだろう。
冬の日差しが柔らかく照らす、ムーミン谷に春は近い。
「すいませーん、ちょっといいですか」
 せっかく、心地よく浸っているときに声をかけるとは、無粋な奴だ
「あなたの幸せと健康のために一分間だけ祈らせてください」
 くだらん、優しい風と暖かい日差しに包まれている事が何より幸せだという
に。
「あれ、おまえ佐古田、佐古田だろ」
 失敬な奴だ、馴れ馴れしく人の名前を……そう言えば、見覚えがある。
「久しぶりだな三年ぶりだろ、おまえかわらんな」
 誰だこいつ、名前がおもいだせん、とりあえず今の自分の気持ちをギターで
弾いておこう、ギターはすべてを語ってくれる。
 無言でギターを弾くだす佐古田。しばらくしてそそくさと佐古田から離れて
いく宗教男。彼が佐古田のギターの語らいを理解したかどうかはわからない。

 **本宮和久の場合**
 
 日曜日、わたくたと駅前に向かって走る本宮。
「やばい、完全に遅刻だ」
 アニキのやつ、人のギターを勝手にいじりよって、おかげで約束の時間に三
十分も遅刻だ。
「まずいな、フラナの奴、怒ってるだろな、佐古田は……まいいか」
 走って駅前についたもののフラナも佐古田もそこにはいない、まずいなあい
つ……また道に迷ったか、まいったな……どこにいったやら……
「すいませーん、ちょっといいですか」
 突然、女の子が話し掛けてきた。俺はそれどころじゃないんだが、でも耳は
しっかり聞く体勢になってしまう……悲しい。
「あなたの幸せと健康のために一分間だけ祈らせてください」
 宗教か、最近増えてるな……しかもよりによって女の人……困る、これは困
るぞ。
「え、あ、すいません、あっあの……急いでるんで……その」
 や、やりにくい、かといってぶっきらぼうにいうのもなんだし。
「あれ……ひょっとして本宮君?」
 なんだ、なんで俺の名前を、そういえばこの顔、どこかで見たような……
「……まさか……小潮さん」
 小潮理代子、中学の頃のクラスメイトだ、髪型が違うせいで気がつかなかっ
た。
「小潮さん……宗教入ってるの……」
 たしかのオカルト関係が好きだとはいっていたけど……
「……うん、友達に誘われてね……なんか、知ってる人に知られるのってなん
か恥ずかしいね」
 肩をすくめて照れ笑いする小潮。そういや彼女の私服姿、はじめて見たな。
結構かわいい……って何考えてるんだ俺はぁ。
「どうしたの?」
「え、いや……あの……な、なんで宗教に?」
「ん……あんまり乗り気じゃなかったけど、断るのも、友達に悪いと思って……」
 友達に……でも、ものには限度ってもんがあるよな、宗教なんか特に……。
「……でも……イヤなら……ちゃんと言った方が……いいと思うよ、俺は……」
「そう……だよね。でも断りきれなくて……あたし」
 うつむく小潮、しまった、まずい……なんとかフォローしないと……
「あの……でも、小潮さん……えっとその、人それぞれだし、うん」
 説得力ないな、どうしてこうまともに話せないんだ、俺は。
「ありがと、でもごめんね。時間とっちゃって」
「いや、いいよ」
 実はあんまりよくないけど……
「あ、そろそろあたし行かなきゃ、ねぇ今度みんなでどっかいこうよ、フラナ
くんにも会いたいし」
「そ、そうだね」
 フラナの奴人気あるよなぁ、いつもこれだよ……
「じゃあね本宮君」
「う、うん」
 短めの髪をなびかせて走っていく小潮……その姿をついつい見送ってしまう。
「……」
 ん……なんだか背後から視線を感じる……これは……
「もーとーみーぃ」
 フ、フラナ、いつの間にここに現れた。
「あ……フラナおまえここに……」
「いたよぉさっきから、もとみーが楽しく話してる間ずぅっと」
 フラナがジト目見てる……まずい、これはかなりきてる。
「ずぅぅぅぅっと待ってたんだよぉ」
「は、反対側にいたのか、てっきり迷子になったかと、ははは」
 やばい、これは完全に俺が不利だ……言い訳の仕様がない……
「いーいよ、べぇっつにぃ女の子と話してる方が楽しいしねぇぇ」
「いや、これは宗教の勧誘で、そんな……えーと、なぁ」
「もーとーみー、お腹すいちゃったなぁ、ずぅぅっと待ってたしぃ」
 そーくるか、ま、これはしゃあないか……と……
 ジャカジャンジャンジャン
 不意に聞こえてくるギターの音色……あいつか……
「……本宮」
 佐古田、しまったこいつもいた。
「もーとみぃぃん」
 にやにや笑いのフラナ、無表情にギターを弾く佐古田……
 
 この後、ギター練習をすませ、三人は食べ物屋三軒をはしごし四軒めにして
本宮の泣きが入り解散となった。
 もとみーってば不幸……



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