どうする:町角で幽霊に出くわす


目次



どうする:町角で幽霊に出くわす

 狭間によるロールプレイ実習「あなたならどうする」です。

 あなたの分身なら、こんな状況に陥ったときにどうしますか。
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 いつものように、いつもの道を歩いているのに、なにか不安を感じていた。
空気がこんなに重いのは、夏の陽気のせいばかりでももあるまい……。
 果たして。視界の隅に気になるものが写った。
 ふと振り向くと、それは人間であった。

 安心したのは束の間だった。良く見ると表情には精気がなく、おぼろに後ろ
が透けてみえるではないか。そうだ、いま目の前にいるのは幽霊なのだ。
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 幽霊は男女いずれでもかまいません。
 場所は、適当ないつもの道でどうぞ。(;^^)


 小説風に仕上げて頂けると面白いかと思われます。( ^^)/
 必要なら、行為判定のテストもしてみましょう。( ^^)/



豊秋竜胆の場合

 ある・晴れた・昼下がり・ではなく、朝方。
 お空は真っ青だった。
 子牛を乗せた荷車だか馬車だかはまったく通りそうにない駅前の通りを、前
世マニア、豊秋竜胆はてくてくと歩いていた。
 「はあ、いい天気☆ こんな日は、やっぱりバイクでどっかに出かけるしか
ないって感じ。琵琶湖はこの前行ったし、龍神温泉は今から行くのは大変だし、
どっかいいところないかなあ。ううん、奈良でも行こうかな。近場だけど、天
竜八部衆像でも観にいこうかしら」
「あのぉ……」
「にしても、お空はこんなに青いのに、なんか空気が悪いわね。磁場が悪いの
かな? こういう体を締め付けるような感じは苦手なのよねぇ」
「もしもし?」
「この空気、わが懐かしの故郷、四日市市を思い出すなぁ。あそこまで空気が
悪くて磁場も悪い街ってそう簡単には見つからないよねぇ。東京くらいのもん
よ、まったく。ぷんぷん」
「そこのぶつぶつ言ってらっしゃるあなた?」
「はい? どちらさまでしょうか?」
 竜胆は少し不機嫌に振り向いた。この人ごみの中で、なぜこの呼ぶ声だけが
明瞭に彼女の耳に届いたのか。彼女にとってはそんなことはどうでもよかった。
 単に、物思いに耽るのを邪魔されたのが不愉快だっただけなのだ。
「あ、主任。今日は早番なんですか?」
「うん。ところで豊秋くん? 道端でそうやって歩いているのは、あまり見て
いていいものではないから、やめておいた方が良いよ。じゃ、これで」
「は、はい、お疲れ様です」
 主任は去って行った。
 ううむ。不覚。
 しかし、呼ぶ声は彼ではない。第一、呼ぶ声は女性のものだった。
「おかしいな? どこに居るのよう、出てきてよう」
 竜胆はきょろきょろとあたりを見渡した。
 ふと、視界の隅に、違和感を感じる。
 そこに、彼女はいた。
 交通事故で命を落としたのか、体中から血を流した姿で、そこにぼんやりと
たたずんでいる。
「わあっ、急に姿を見せないでよ、もう、心臓に悪いったらないんだから、全
く。いくらあたしにひと並外れた霊感があるからって、急に出てきて驚かして
いいってことはないんだからね? あたしは気が弱いんだから……。深呼吸深
呼吸。
 ふうっ、あなたね? あたしの事を呼んでたのは」
「はい……」
「察するに、いいかげんここに縛られているのは飽きたから、あっちに戻りた
くなったって事でしょ。違う?」
「いえ、違いません。お願いします」
「うん、やったげる」
 さっきまでの不機嫌は何処へ行ったのか、竜胆はにっこり笑って、左手を彼
女にかざした。
 掌から、力あるものにだけ見える柔らかな、光の粒子が流れ出す。その光の
粒は、彼女のからだを包みこんで、遥か天空へと伸びて行った。
「あっちにいったら、もう道に飛び出したりするんじゃないのよ」
「はい、ありがとうございます」
「良いって、気にしないで。じゃね。元気でね。さよなら」
 竜胆は空を見上げて、微笑んだ。
 そして、彼女は何事もなかったかのように立ち去った。
 さっきまで彼女がいた場所には、犬のものらしい墓が作られていた。

とよりん☆



百々目鬼翠の場合

「やあ」
 青年は、親しい知人にあったかのような何気なさで会釈した。
「どちらかへお出かけですか?」
 いらえは無い。
「とすると、僕に何か御用でしょうか」
 青白く、透けた顎が微かに動いた。
 Yes。
「まあこんなところで立ち話も何ですから、うちにいらっしゃい。たいしたお
もてなしは出来ませんけど……」
 ちぃ。
 青年の胸元から銀色の生き物がひょっこりと顔を出す。
 イタチだ。
 その瞳は、件の幽霊から外れた壁を見つめている。
「わかりましたよ、ミカヅチ」
 青年は、手にしていた文庫本からするり、と栞を抜き取った。
「この手の方々は、どうしていつも同じパターンなんでしょうか……」
 百々目鬼翠。
 この茫洋とした美青年が、日本有数の退魔師である事を知るものは少ない。

★By たぬきむ

(06ではありませんが)



綾重基務の場合

「おおっとぉ!」
 少年の反応は、幽霊の予想を超えたものだった。
「超常現象研究をしている綾重基務です! いやあ、まさかこんな町中で本物
の幽霊さんに逢えるとは、驚天動地恐悦至極! ……ええっと、本物の方です
よね? 変装とかじゃありませんね? おっと、実は幽霊みたいな宇宙人だっ
た、なんて落ちはナシですよ……いや、それはそれで構わないんですが、そう
するとやはり円盤か何かから出現していただかないと信憑性の方が……あ、と
りあえずこの、レムリア誌の通販で買ったキルリアン写真機で記念撮影なんか
……ハイ、チーズ。……顔色悪いですね? あ、死んでるから当然ですか、は
はあ……ところでこの色紙にサインもいただけません? いや、ほら、最近は
写真見せてもトリックだろう、なんて言うバカが多いもんで……え? ペンが
持てない? うーん、それじゃこっくりさんの要領で、僕の手を動かすと言う
わけには……はい、有り難うございました。
 うーん、達筆ですねえ。もしかして生前は書道の先生か何かを? いやいや、
プライベートにまで立ち入ってしまいましたね。この部分はオフレコにしとき
ますんで。
 ところでですね、我が超常現象研究部では現在部員募集中なんですが……は
い、まだ部員が4名しかいないもんで……あ、OK? いやあ、ありがとうご
ざいます。
 活動には参加していただけますよね? もしやたらサボったりすると、これ
がほんとの幽霊部員、なんちて……」

 ……かくして超常現象研究部に5人目の部員が誕生した。

★By たぬきむ

(これも06ではありませんが)



士堂彼方の場合

 彼方		:「奇妙だ。僕の視覚には、本来あるべきでないものが映っ
		:ている。後ろが透けて見える、と言うことは、ホログラフ
		:の可能性。
		:(手を突き出す)取りあえず、実体がないのは確か。
		: しかし、ホログラフにしては、投影機が」
 幽霊		:「あの、もし」
 彼方		:「おや。音声出力もできるのか。興味深い」
 幽霊		:「何か、勘違いなさってませんか。私は、幽霊です」
 彼方		:「幽霊、さんですか。知らぬ事とはいえ、失礼しました。
		: ところで、この特殊効果は、どのようにして出してるの
		:ですか」
 幽霊		:「私が知るわけ、無いじゃないですか。幽霊なんですから」
 彼方		:「それも、そうだ。(納得) 幽霊というものは、この様に
		:見えるものなのか。
		: ふむふむ。(じろじろ)」
 幽霊		:「……あんまり見ないで下さい。見せ物じゃないんですか
		:ら」
 彼方		:「これは、失礼しました。しかし、僕から見ると、とても
		:興味深いのですよ。何しろ、この様な方にあったのは生ま
		:れて初めてで」
 幽霊		:「そりゃ、私も、幽霊になったのは生まれて初めてですけ
		:どね。
		: ところで、恐くないですか? ちらっと見ただけで逃げ
		:出していく方も、結構いるんですけどね」
 彼方		:「なぜ、恐がるのか、理解できませんね。
		: ところで、一つ質問があるのですが。
		: 貴方は、どのようにして幽霊になられたのですか?」
 幽霊		:「よくぞ、聞いてくれました。
		: 聞いてくれないんじゃないかと、心配してたんですよ。
		:実は……」

(2時間ほど、幽霊の愚痴話)

 幽霊		:「と、言うわけなんですよ。わかっていただけます?」
 彼方		:「大変、興味深かったです。この様な人生もあるのだ、と
		:言うこと、よくわかりました。有り難うございました。
		: ところで、僕はそろそろ帰らなくてはならないので、ま
		:た、明日、お会いできませんか? 
		: 聞きたいことが、まだ、たくさんあるんですが」
 幽霊		:「明日、ですか。特に予定もありませんし。じゃあ、明日、
		:この時間に(消える)」
 彼方		:「では、また」

(次の日)

 彼方		:「幽霊の人、遅いな。一体、どうしたのだろうか」

 どうやら、幽霊は成仏したらしい。
 2時間35分の思考の末、彼方はそう結論し、家路についた。

kanata

(エピソード形式でした)



真夏の幽霊(岩沙琢磨呂の場合)

 琢磨呂	:「ぐおお……あつい……」

 岩沙琢磨呂は、真夏の空の下てくてくと道を歩いている。ガン……ショップ
に、注文した品をとりに行く途中である。漆黒のSWAT……スーツをビシッ
と着こなしているが、それが日光を吸収して異常なまでの熱を持っていること
は言うまでもない。

 琢磨呂	:「ったく……昨日あんなに馬鹿食いするんじゃなかったよ
		:なー。二日酔いで頭は痛いし、胃はもたれるし……最低。
		:そのうえ金が少ないのを忘れてたから、こうやってバスで
		:15分の所を、テクテクとテクシーしなきゃならん訳で……
		:……おっ? こんなトコに公園があったんだな。いつもバ
		:スだったから全っぜん気付かなかったぜ。 ここの中を通っ
		:て裏の林を抜ければ、近道みたいだな」

 彼は公園へと足を踏みいれる。騒ぎ立てる子供、見守る親。ごく日常的な光
景。小説の世界なら「微笑ましい風景が云々」となるのだが、現実は厳しい。

 ガキ		:「ほら見て、ママぁ」
 ママ		:「すごいわねー、@@君〜ん!」

 ガキ		:「えへへ……あ、ママ、あそこのお兄ちゃん、真っ黒だー」
 琢磨呂	:(うるせーボケ、ファッションも解らんやつがごたく並べ
		:んじゃねー)

 ママ		:「ほんとねー、暑くないのかしら」
 琢磨呂	:(暑いわボケ!)

 ガキ		:「ねーねーママ、黒い服って暑いの?」
 ママ		:「そうよ、黒い服はね、夏に着たらとっても暑いのよ」
 琢磨呂	:(だからって着るかどうかは人の勝手やろが!)

 彼はいい加減ムカつく会話に聞き厭き、早くその場から離れて裏手の林の方
へと走り始めた。

 数分後……素晴らしいまでに汗でびしょびしょとなったSWATスーツに身を包
んで、彼は林の入り口を歩いていた。

 琢磨呂	:「遊歩道も何もねぇ! クソッ、上等だ! 木々をかき分
		:けて進むのは、サバゲで慣れてっからな」

 日差しは木々によって遮られ、先程もまでの暑さがウソのように消えてゆく。
ひんやりとした中、汗がどんどんと引いてゆくのが解った。だが彼は、少し涼
しすぎると言うことに、気付くのが遅れた。

 琢磨呂	:「!」

 何者かの気配。先程まで騒がしかったセミは鳴きやみ、鳥のさえずりも聞こ
えない。まるで、その周辺だけが孤立してしまったかのように。

 琢磨呂	:(誰か……いるな。しかし音がしない。存在するという気
		:配はするが、方向も、何もわからねぇ!)

 琢磨呂の背後数メートルで、鳥がバサバサと音を立てて飛び去る。

 琢磨呂	:「(振り向いて)後ろ!?」

 刹那、琢磨呂の目に映画館などで見ることができる 3D のホログラフィクス
……映像のような物が目に入った。それを見た瞬間に彼の身体は石のように固
くなって動かなくなってしまった。金縛り……というやつである。

 琢磨呂	:(くっ……なんだ……こいつ……)

 顔がはっきりしないが、四肢の状態から人間のそれとはっきり解る。だが、
その胴体を通して向こう側にある太くて大きな木が透けてみえるので、そのホ
ログラフィック映像らしき物体が生身の人間でないと言う事だけは解る。

 謎		:(微笑む)

 琢磨呂が動こう、動こうとすればするほど、身体はどんどん固くなってゆく。
その様を見て、ホログラフィック映像の口元がふっとゆるんだ。

 琢磨呂	:(精神を……集中して……と。 セフィル、身体を……身体
		:を、動かしてくれっ!)

 内に秘めたる琢磨呂の第二精神が呼び起こされ、琢磨呂の右手が左脇の下か
ら改造エアガンを抜いて正面に構え、セフティを外し、引金を引くまでの間、
彼の身体を操った。

{注:琢磨呂の精神内部には、異世界からの転生者『セフィル』の精
   神が宿っている。いつの日か、彼が彼女の目的を叶えてくれる
   人間だと信じて、普段は琢磨呂の精神に影響を与えまいと、表
   面意識には出てこない。表面に出れば、琢磨呂の身体を自由に
   操ることぐらいは朝飯前である}

 琢磨呂	:(セフィル……ありがとう……)

 バンバンバンバンバン! 愛銃M-93Rが火を……もとい、特殊BB弾を吐く。
『対物炸裂弾(当たったら爆発する)』と『退妖魔弾(召喚魔獣やアンデッド等
物理的な魔法生物を無力化する)』が交互に発射される。

 ドバッ……ドゴッ……ズバキッ! 

 琢磨呂	:(ふん……下級妖魔がっ!)

 だが、対物炸裂弾だけが空しく木や花を吹き飛ばし、妖魔弾はペシペシと木
の幹に跳ね返される。

 琢磨呂	:「(声が出るようになった)……この悪寒、どう考えても妖
		:魔だと思ったのだが……この銃が効かないとなると、違う
		:のか?」
 幽霊		:「近いですけれど、外れですわ。妖魔……確かに妖魔と言わ
		:れることもありますが、私はさまよえる魂、人呼んで幽霊
		:でございますわ」
 琢磨呂	:「ふん……お嬢様な幽霊……か。ふっ……だが、この通り、
		:金縛りはもう効かないぜ(両手を呆れた時のように広げて
		:見せる)」
 幽霊		:「貴方は、深層心理で身体を操作なさるのですね」
 琢磨呂	:「自分でも良くは解らんがな。唯、こんなとこで幽霊の金縛
		:りに遭って殺られちまうような、そんな小せぇ人生背負っ
		:た人間じゃねーってことだけは、解るぜ(物凄い殺気を発
		:する)」

 琢磨呂は幽霊の顔をぐっと睨みつけた。だが、予想(お岩さんを想像してた)
に反して、可愛い女子大生と言った感じの顔立ちだった

 幽霊		:「(悲しそうな顔)……無理もありませんわね。私は、あな
		:たと少しお話しがしたかっただけでしたの。少し聞いて欲し
		:いことがあっただけでしたの。いきなり私が現われては、
		:貴方に余計な警戒心と恐怖心を与えるだけだと考えまして、
		:身体の方を拘束させていただいて、それからゆっくりと事
		:情を説明しようと考えておりましたの」
 琢磨呂	:「(構えを解く)……根本的に間違ってるぜ?多分あんなこ
		:とされたら、俺じゃなくってもビビリまくってたはずだぜ?
		:絶対普通の会話なんぞできっこない。聞いて欲しいんなら、
		:もっと紳士的なほうほうをとらなきゃならねーとな。まぁい
		:いさ、で、話しってなんだ? あ、先に言っとくが、成仏さ
		:せてくれってったって、俺はボーズじゃねーからな」
 幽霊		:「私……私……うっ……ぐすっ」
 琢磨呂	:「……おい、話しはどーなった」
 幽霊		:「……私が身体を失ったのは、それはそれは辛い闘病生活の
		:なれの果てでした。ですが、幼い頃から布団や病院の中で
		:生活してきた私には、成仏する前にどうしても、どうして
		:も成し遂げたいことがあるんです……」
 琢磨呂	:「ありきたりなパターンだな。で、頼みを聞いてやったが
		:最後、俺を道連れにしてあの世行き……って奴か?」
 幽霊		:「そんなのじゃありませんわ!」
 琢磨呂	:「ジョークだよ、ジョーク!」
 幽霊		:「ジョーク?」
 琢磨呂	:「……冗談、洒落、おふざけ。OK? で、成し遂げたい
		:ことって? まさかベッドで……」
 幽霊		:「ち、違いますわそんなの! 私は……私は唯……(小声で)
		:ごにょごにょ」
 琢磨呂	:「はっきり言おうぜ! 言いたくないことを、恥ずかしそ
		:うに言えば言うほど、自分が惨めに、恥ずかしくなってく
		:るぜ?」
 幽霊		:「笑わないでくださいね……」
 琢磨呂	:「ああ」
 幽霊		:「私、男の人と二人きりで、……を……」
 琢磨呂	:「え!?」
 幽霊		:「だから……海を見に行きたいんです……
 琢磨呂	:「そ……そんだけ!?」
 幽霊		:「ええ(赤面)」
 琢磨呂	:「その身体で、かんたんにWARPして行けるじゃねーの」
 幽霊		:「何故、私が貴方を選んでこの話をしたか、お解りでないよ
		:うですわね」
 琢磨呂	:「?」
 幽霊		:「私は遥か昔から、この地を離れられない霊となっています」
 琢磨呂	:「自爆霊というやつか」
 幽霊		:「自爆ではなく、地縛ですが……」
 琢磨呂	:「どっちでも大差ないじゃねーか」
 幽霊		:「……とにかく、私は海を、成仏するまでに一度だけでも
		:いいから、素敵な男の人と一緒に海を見に行きたいと思う
		:反面、この地に未練が在りまして、振り切れずにいたので
		:す」
 琢磨呂	:「そこまでは解った。で、もう一度聞くが、何で俺なんだ?」
 幽霊		:「一つは、あなたが、地縛霊をその地から轢き剥がすぐら
		:いの強烈な精神作用能力を持っているから。……さっきの
		:行動を考え直して見ますと、その力は自分では上手く制御
		:出来ないみたいですけれども。 そしてもう一つは(赤面し
		:て)……貴方が、私をこの地から引き剥がせるぐらい
		:の魅力を持っていたから」
 琢磨呂	:「悪いが俺はこれから、用事があるんでな」
 幽霊		:「(途方に暮れた目で)そ……そん……」

 琢磨呂はこの瞬間に、覚悟を決めた。こいつを、助けてやろう……と。

 琢磨呂	:「(すまんな、麗衣子……だが、これは人助けで、浮気じゃ
		:ないぜ)だがな。明日にでも、海に連れてってやるぜ。一
		:緒に奇麗な青空と、どこまでも青い水平線でも眺めようや」
 幽霊		:「……うん……ありがとう……ありがとうございます。やっ
		:ぱり、やっぱりあなたに話して、よかったと思いますわ。
		:それでは、明日の朝またここでお会いしましょう」
 琢磨呂	:「ああ。じゃぁな、可愛い幽霊さんよ(歩き出す)」
 幽霊		:「……鈴木 美小夜(みさよ)」
 琢磨呂	:「(振り返って)あん?」
 美小夜	:「私の……私の名前……」
 琢磨呂	:「岩沙、琢磨呂だ……(歩き出す)」
 美小夜	:(忘れない……ずっと。わたしは、琢磨呂、貴方がかけてく
		:れたような、『優しさ』が欲しかったんだわ。海でもなけれ
		:ば素晴らしい男でもない。優しさが、幽霊でも、病弱な女の
		:子でも差別視しないで接してくれる、その優しさが……。あ
		:りがとう、タクマロ……)

 次の日、琢磨呂が林の中で見つけたのは、幽霊でもなければ美小夜でもなかっ
た。そこにあったのは、昨日のようには肌寒くない、空気だけだった。

 琢磨呂	:「……ふん……人様との約束をすっぽかしてここに居ないと
		:言う事は、美小夜、そこに居るんだな。どれだけ先になるか
		:わからんが、文句は言いたいだけ言わしてもらうぜ?」

 琢磨呂は木々の間から見え隠れする青空を見上げて、こう言った。


狭淵美樹の場合

 秋の夜長というより真夜中の京都……左京区。南天にかかるのは、
 十六夜の月。
 意味不明に細かい、幅50センチの道をぼぉっと歩く美樹。
 その脳味噌の中では、内分泌学が、煮詰まっている。明日は試験なのだ。
 ぼんやりと光る幽霊が、道の真ん中にいる。

 美樹		:「……あ、失礼」

 幽霊を軽くよけようとする美樹。

 幽霊		:「……う〜〜」

 避けた側に移動して道をふさごうとする幽霊。

 美樹		:「(立ち止まる) すいません、通しては頂けませんか?」
 幽霊		:「いや」
 美樹		:「しかたない、別の道を(クルリと振り返る)」
 幽霊		:「あの、そうじゃなくて」
 美樹		:「(首だけ振り向く) 何かご用でしょうか?」
 幽霊		:「あの……何か、反応が違いませんか?」
 美樹		:「そんな問題じゃないんですよ。用事があるんですか? 
		: 無いんですか? 無いんでしたら……無いんでしたら……
		:(そのまま歩き去ろうとして、動けないのに気が付く)」
 幽霊		:「すいません……ちょっと金縛りにさせてもらいました」
 美樹		:「口は動かせてもらえるんですね」
 幽霊		:「あの、話、聞いていただけませんか?」
 美樹		:「えっと、わたしの思考は読めますか?」
 幽霊		:「あの、そういう能力は、無いんですけど」
 美樹		:「実は明日試験でしてね。時間がないんですよ。明日の夜
		:なら別にいいんですけど」
 幽霊		:「あの、明日の夜はあたしの方の都合が……」
 美樹		:「それは仕方がありませんね。 じゃあ、明日は駄目とし
		:て……(メモ帳を開く) いつなら空いているんですか?」
 幽霊		:「いや、そういう問題じゃなくてぇ、あたし、出現の法則
		:が厳しいんです」
 美樹		:「はぁ」
 幽霊		:「十六夜の晩にこの路地を通過した人数を一人二人と数え
		:まして、あなたが、その数99999人目なんです」
 美樹		:「はぁ」
 幽霊		:「で、次に出てこれるのは、この路地をあと、90万人の人
		:がとおらなきゃなんないんですぅ〜〜」
 美樹		:「……」
 幽霊		:「だからお願いしますぅ。話聞いて下さいよぉ〜〜」
 美樹		:「(嘆息) こっから動けますか?」
 幽霊		:「えっと、あなたのそばにいるという条件だけですから動
		:けますけど」
 美樹		:「判りました。話聞くことにしましょう。家まで着いてき
		:て下さい。
		:(ふぅ。これで明日の試験はたぶん落ちるんだよなぁ……
		:ま、いっか。どうせ追試してくれるだろうし)」

 美樹の部屋。
 金属製のドアを開けると、部屋は珍しく片付いている。

 美樹		:「あ、わたしの名前は、そこの表札のとこにも書いてあり
		:ますけど、狭淵……狭淵美樹です。美樹は、美しいに樹木
		:の樹。あなたは?」
 幽霊		:「あ、すいません、言い遅れましたが、あたし、宮野琴、
		:です」
 美樹		:「ま、取りあえず玄関先ではなんですし、上がって下さい。
		: (奧に向かって) ふみさん? 	ちょっとお客さんなんで
		:すけど」
 ふみ		:「あ、美樹様。お帰りなさいませ。お客様はどちら様でしょ
		:う。……あら、霊体の方でしたか。初めまして、わたくし、
		:ふみと申します。故有って、この屋敷に居候させていただ
		:いております」
 琴		:「……(屋敷?)」
 美樹		:「あ、ついっと上がって下さい。コーヒーでも入れましょ
		:うか?」
 琴		:「いえ、飲めませんし」
 美樹		:「そうなんですか。なら紅茶にしましょうか。大丈夫です
		:か?」
 琴		:「あ、いえ、あの、すり抜けちゃうんで……」
 美樹		:「これは失礼。知り合いの幽霊の中にはコーヒーマニアが
		:居ましたもんですから、てっきり飲めるものかと」
 琴		:「はぁ?」
 美樹		:「まあ、その辺のクッションにでも座ってて下さい。わた
		:しものどが渇いていますので……(ガスコンロにやかんを
		:かける) ちょっと失礼してお茶を頂きますから」

 数10分経過。

 美樹		:「なるほど……明治維新、いや御一新の前からあの路地に、
		:というわけですか。 しかもおひとりで……なかなかそれ
		:は……」
 琴		:「ええ、9人目の方、99人目の方、999人目の方は、あた
		:しを見るなり声をかける間もなく逃げちゃいましたし、
		:9999人目の方は……」
 美樹		:「どうなさったんですか?」
 琴		:「ひどく驚かれて……そのままお亡くなりに……」
 美樹		:「それは……(絶句)」
 琴		:「ええ、でも、あれから100年近くも経っちゃってますし」
 美樹		:「そうですか……で、これからどうされますか?」
 琴		:「夜が明けたらまたあの路地に……でも、もう、美樹さん
		:があたしを見ることはないと思います。次に通られるとき
		:は99999人目の方ではないのですから」
 美樹		:「なるほど、それは残念ですね」

 夜明け前。琴は帰っていった。
 そして、一夜漬けもできないまま試験前の夜は明ける。

 美樹		:「ふわぁ、ぁぅ〜〜」
 ふみ		:「美樹様、今日は試験ではなかったのですか?」
 美樹		:「そーなんですけどねぇ。ま、なんとかなるでしょう」

 そして試験が終わり、試験の打ち上げの飲み会からの帰り。
 京阪出町柳駅へと自宅生の女の子を送ってから、昨日の路地へとさしかかる。

 美樹		:「今日は、居ない。というより見えないんですよねぇ」

 軽く空中に乾杯の仕草をして、美樹は昨日琴に塞がれた路地を通り抜ける。

 美樹		:「お元気で」

 月は今日も冴え冴えと輝いていた……













 ゴツゴツとした階段を、足音を立てずに上り、下宿の金属製の扉を開ける。

 美樹		:「ほぃ、御帰還っと……あれ?」
 琴		:「あ、美樹さん、お帰りなさい」
 ふみ		:「お帰りなさいませ」
 美樹		:「……琴さん? 帰ったんじゃ……それに、何故見えるん
		:でしょう?」
 琴		:「あ、あたしも勘違いしていたんだけど、あたし、別にあ
		:の路地にずっと張っている必要もなかったのよね。あの路
		:地に特定の回数目に通った人にしか見えないってだけで」
 美樹		:「なるほど、そう言うことですか」
 琴		:「でさ、暇だしさ、ここにいていいでしょ?」
 美樹		:「(天上を見上げて)……ま、いっか」

				   Invisible Tree(=不観樹 露生)



正正正の場合

 いつものように、いつもの道を歩いているのに、なにか不安を感じていた。
空気がこんなに重いのは、夏の陽気のせいばかりでももあるまい……。
 果たして。視界の隅に気になるものが写った。
 ふと振り向くと、それは人間であった。

 安心したのは束の間だった。良く見ると表情には精気がなく、おぼろに後ろ
が透けてみえるではないか。そうだ、いま目の前にいるのは幽霊なのだ。
「邪魔だ」
 錯覚だ、目の錯覚。私は無駄な時間を過ごしたなと思いながら帰路に早々と
ついたのだった。

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 # 戦士スタロンやね(笑)

 さ



豊中雅考の場合

 何かの強い感情が、人気のない交差点から感じられた。

 豊中		:「誰もいないようだが……おかしいな」
 居候		:「zzzzzzzzz……」

 居候は、どうやら太平楽に眠っているようだった。

 いや、こいつは睡眠を必要としない。おかしいと思った豊中は、居候を『叩
きおこした』。

 居候		:「なにするんだ」
 豊中		:「狸寝入りはやめろよ。お前も気がついたな?」
 居候		:「な、なにがだよ?」

 豊中はニヤリと笑った。

 豊中		:「この強い感情、それに誰もいないこの状況。幽霊だ」
 居候		:「うげろわぎゃ(声にならない……もともと声は出せない
		:が……悲鳴)」
 豊中		:「この感情だと、人間だな。それも多分、かなりの苦痛を
		:感じている……いや、感じていた、か」
 居候		:「なまんだぶなまんだぶ」
 豊中		:「……どーしておまえが念仏唱えるんだ…… 同類のくせ
		:に……」
 居候		:「誰が同類だ、お若いの。こういうときには、ちゃんと供
		:養しなくては」

 居候が念仏を唱えるのを聞きながら、豊中は交差点を渡った。
 何も起こらなかった。

 そして1ヶ月もたったころ、もう一度同じ交差点を通った時も、同じ感情が
その場に留まっていた。

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 豊中の感覚では、上の程度でしょう。幽霊が見えるとは思えない。
 それに基本的に、豊中/居候ペアは物理戦闘向きかと。あくまで探知能力が
あるだけで、実体のないものの相手はあまりしたことがないはずです。


平塚花澄の場合

 ほとほと、と歩く。
 大学生街の本屋の閉店時間は、遅い。夕方から後にはバイトの子が増えるか
ら毎日残るわけでもないけれども、結局週の半分は10時をまわってから帰るこ
とになる。
 ほとほと、と、だから歩く。

「……?」
 街灯の明かりを頼りに、歩きながら本を読んでいた花澄は目を上げた。
「……何でしょう?」
 街路樹の根元に、ぽつんと立っている誰か。街灯の狭間、薄暗い中で、しか
しその誰かの顔ははっきりと見えた。
「何か、御用ですか?」
 20代の、くっきりとした顔立ちの女性。コートの襟を立てて、自分の腕で体
を抱きしめるようにして、それでもまだ寒い、というように。
「……寒いのよ」
「大丈夫ですか?」
「あんたが来たから、春と勘違いしたわ……起きて損した」
 とげとげしい物言いに、花澄は小首をかしげた。
「ご迷惑、でしたか?」
「……許したげるわよ」
「ありがとうございます」
 季節は、夏。この時間になってもまだ、地面から熱が漂うというのに。
「眠れますか?」
「こんなに寒くなきゃね」
 腹立たしげに、コートの襟をつかんで。
 ……春宵姫。
 こんな時は、この渾名を返上したくなる。
「……あの」
「なによ」
「あの、もし眠れないのなら……少し付き合っていただけませんか?」
 女はまじまじと花澄を見た。
「……馬鹿じゃないの?」
 これは肯定。
 そう判断して、花澄は微笑った。

 動けない、という彼女の為に、自販機で日本酒を買った。季節柄熱燗が見当
たらず、仕方なく手の上で暖めて(もらって)から手渡した。
 馬鹿じゃないの? と、彼女はまた繰り返した。ええ、馬鹿ですけど、私美
人好きですもん、と花澄が答え、もっとあきれられた。
 ……冬の最中にねえ、振られたのよ。腹立つじゃない、街中カップルだらけ
になる季節にさ。
 ……そんな勿体無いことする馬鹿がいるんですね! 
 ……そうっ! あんたより、はっきり言って馬鹿! 
 けたけた、と彼女は笑った。

 夏の朝は、早い。
 白みはじめた空を見て、初めて彼女は無念そうな顔をした。
 まだ起きていたいけど、もう時間切れみたいだわ。口惜しいわねえ、あんた
みたいな馬鹿、滅多にいないのに。
 まだ、寒いですか、と花澄が聞き、まだ少しね、と、彼女が笑った。
 でも、あんた、そこにいてくれるからいいわ。寝付くまでの間……後2、3
分。そう言うと、彼女は、重さの無い頭を花澄の方に凭せ掛けた。
 ああ、あんたの周りに、春があるわねえ……
 そのまま、ふう、と、彼女が消えた。

「……ありがとうね」
 立ち上がって、宙に向かって呟く。それから彼女は、白みかけた空の下を、
文庫本を読みながら歩いていった。
「取り合えず……寝よう。帰ったら」
 背中を押す風に向かって呟きながら。


魔神欄丸の場合

 魔神はたまたま本屋に買い物に出かけた。近距離なのにリッターバイクを出
して。(分からない人は100km以内の場所に移動するのにジェット機を使うと考
えて貰えば結構です)
 本屋から帰って来て愛機に跨ろうとすると、女の人が何故か手招きをしてい
る。
「こんな時間になにしとるんや。 はよ帰らんと。最近物騒やから。送ったる
からバイクの後ろにのり」
 すると、女性は消えて、そこにはキーホルダーが残っていた。
「?? ……。 いいや。拾お」
 翌日その場所について新聞記事データベースを漁ると、女のライダーがそこ
で事故を起こしたということが判明した。魔神はそのキーホルダ−を自分の愛
機のキーに付けることにした。



御影武史の場合


「どーゆー基準で選んでるのか知らんが、はっきり言って人選ミスだぞ」
「……」
 困ったような表情をうかべ、ゆらめきながらついてくる袴姿の少女の幽霊を
横目で見ながら、御影武史は言った。
 真夜中である。行きつけのネットの宴会に出席したのだが、調子にのって飲
み食いしまくったら帰りの電車賃が足りなくなった。しかたなく武史は、一時
間ほどまえから、小雨のふる無人の街を歩きつづけている。
「わしみたいに霊感ゼロのヤツの前に出てくるから、なにが言いたいのかさっ
ぱり通じんだろが。……って、こっちの言うことが通じてるかどうかも疑問か、
これは」
 武史の歩みは止まらない。そして少女の幽霊も離れようとしない。
「適任者を探せとゆーに。だいたい、わしに何をどーせぇとゆーのだ」
 つい、と、幽霊が動いた。武史の前に立ちふさがる。
 武史も足を止める。
「あ〜の〜な〜」
 目を細めてうなる武史。
 と、幽霊が横を向いた。思わず武史もそっちを見る。
「……ん?」
 少女の幽霊が、ふわふわと漂っていく。道路の向こう側に、黒々とした塊が
あった。その塊のそばに、少女は浮かんでいた。
 本格的に降りはじめた雨と、少女の周囲がみょうに暗いせいで、その塊がな
にかわからない。多少の興味も手伝って、武史はその塊に近よっていった。
「慰霊碑……か」
 それにしては様子がおかしい。そのわけはすぐに知れた。
 倒れているのだ。
「ガキがふざけて倒したんだろーな」
 慰霊碑にペンキで殴り書きされた卑猥な単語を見て、武史はつぶやいた。雨
はもはや土砂降りといっていいほどだ。
 もとどおりに立て直してくれと言いたいんだろーな、やっぱり。
 武史は、倒れていた自然石の慰霊碑をもとどおり(と思われる状態に)立て
てやる。落書きは、まぁがまんしてもらうしかあるまい。
「夜中に土砂降りのなかでナニをやっとるんだ、わしは。これでよかろ?」
 言いながら武史は、いままで少女がいた場所に目をやった。だが、少女の姿
はどこにも見えなかった。
「やれやれ」
 手についた泥をジーンズにこすりつけて落とし、武史は嘆息した。
 雨は、いつのまにか上がっていた。

 一週間後、武史は同じ場所を通りかかった。
 慰霊碑の横に、真冬だというのに白い小さな花が咲いていた。




如月尊の場合


「あ〜あ、すっかり遅くなっちゃった」
 今日はお店が休みの日。久しぶりにショッピングを楽しんだあたしは家路を
急いでいた。
 終電まであと15分、間に合わせるためあたしは全速力で駅へ向かった。
『……すけて』
 風に紛れて聞き取りづらかったけど、何か声が聞こえた。
 声の主を探して周りを見回してみたけど、誰もいない。
 目の前には寒々しい路地と街灯があるだけ、人通りはあたし以外全くない。
 空耳かと思って歩き出したあたしの耳に又、声が届いた。
『た……け……て』
「ふむ……」
 見つめる視線の先には、小さな公園の入り口があった。どうやら声はそこか
ら聞こえてきたらしい。
 腕時計をチラリと眺める。
 最終電車の5分前。このまま走っていけばまだ間に合う。
 思案10秒。
 あたしは溜息をついて公園に入った。
 さほど広くない公園内に、ジャングルジムなんかの遊具が幾つかあり、水銀
灯に照らされ十重二十重の影を落としている。
 声の主は探す間でもなく公園内を走り回っていた。
『やーっ! だれか助けて!』
 小さな女の子の幽霊が妖物十数体に追い回されている。
 女の子は4〜5歳位で、可愛いフリルの付いたよそ行きのスカートに、ちっ
ちゃな赤い靴を履いている。
 幽霊でも息が切れるのだろうか白い頬が桜色に上気して、血色の良い幽霊と
いう世にも珍しい状態で逃げ回っていた。
 それに対し妖物どもは、首が半分もげた人形やら、頭が上下逆さまに付いた
犬やらでっかい目玉やら……よくもまぁこんなにエグイ奴ばっかり集まったと
思うような奴が大小取り混ぜ十数体。
 ある程度予想はしてたとは言え、あたしは気色悪さに眉をしかめる。
 妖物どもはあたしに気付かず、あっという間に女の子を滑り台の上へ追いつ
めた。
「喝っ!」
 冷たい夜気を切り裂くあたしの一喝に、女の子も妖物も一瞬すくみ上がり動
きが止まる。
「お嬢ちゃん! 今行くから動いちゃ駄目よっ!」
 入り口から滑り台までは約10メートル。あたしは動きの止まった一瞬を逃が
さず一気に駆け寄ると、取り囲む妖物どもの頭上を飛び越え滑り台の上へ、ふ
わりと着地する。
 よほど恐かったのだろう、女の子は滑り台の上でうずくまり震えていた。
「大丈夫? もう、安心していいからね」
 あたしは精一杯の笑顔で笑い掛けた。
『おねえちゃん……たすけて……くれる……の?』
 女の子は涙にぬれた顔を上げ、脅えた目であたしを見上げる。
 返事の代わりに女の子の涙を指で拭い、手を握ってあげる。
 小さく華奢な手が震えている。
『ぐすっ……ひくっ……恐かったよぉ』
 女の子はあたしが味方だと判ると、首っ玉に飛びつき堰を切ったように泣き
出した。
『えぐっ……恐いよぉ……ぐすっ……あいつらが、あいつらが追っかけてくる
のぉ……梨佳を苛めるのぉ』
 腕の中で泣きながら震えている女の子、梨佳ちゃんをそっと下に降ろし微笑
みながら言い聞かせる。
「もう……大丈夫だからね、お姉ちゃんがアイツらやっつけてあげるから」
 梨佳ちゃんは小さく鼻をすすって頷き、泣き止んだ。
「ちょっと待っててね」
 あたしは梨佳ちゃんを庇うように振り向くと『力』を使うため目を閉じ、意
識を集中する。
 深く澄んだ湖のイメージ。
 徐々に加速しながらどんどん底へ潜っていく。
 深く、深く、深く、もっと深く、暗く冷たい底へ……。
 そして湖の底に眠るあたしを見つける。
 冷たい湖底に横たわる彼女がゆっくりと目を開けた、あたしは彼女の目を覗
き込む。
『貴方は、誰?』
 湖底に横たわる彼女があたしに問い掛ける。
「貴方はあたし、如月尊」
『私はあたし、私は、あなた』
「そう、あなたはあたし」
 彼女が微笑み、あたしに手を差し伸べる。
 あたしは彼女をそっと抱き起こし、抱きしめる。
 彼女もあたしを柔らかく抱きしめる。
 全身に満ち溢れる充足感。
 あたしの中で何かが閃光と共に弾けた。
 ゆっくりと目を開く。
 その瞬間、今まで奇妙な雄叫びを上げ蠢いていた妖物どもが静まり返る。
 奴等には判ったのだろう、先ほどまで目の前にいた新しい獲物が、違う物に
変わった事を。
「あたしの目の前で悪さをするとはいい度胸だ。元の姿へ還してやるから覚悟
しろっ!」
 体中に満ちた力を言葉に込め叩き付ける、滑り台を取り囲んでいた妖物数体
がその霊圧に負けて弾き飛ばされ、耳障りな悲鳴と共に砕け散った。
 言葉が判ったかどうかは定かでないが、今の一撃で奴等はあたしを「敵」と
認識したようだ。
「梨佳ちゃん、ここを動いちゃ駄目よ」
 あたしは滑り台の手すりを足掛かりに少し離れた広場へ飛ぶ、夜空より黒い
コートが風を孕み、羽のように舞う。
 広場へ降り立ったあたしを奴等が取り囲むが、囲むだけで襲ってこない、先
ほどの一撃でこちらの力を認識したようだ。
「ふふっどうしたの、何故来ないの? あの子の魂よりあたしを食らう方がずっ
と力が付くわよ」
 自分の声と思えない濡れた蠱惑に満ちた声があたしの口を衝いて出る。
 その声に妖物どもが食虫花に惹かれるようにザワリと包囲の輪を縮める。
「ほら、おいで……」
 手近な一体を差し、指先で招き寄せる。剛毛に覆われた猿のような妖物が酒
に酔ったようにフラリフラリと這い寄ってくる。
 足元まで這い寄ると、足から腰とつたい胸元まで這い上がる。
「くっ……ぅん」
 剃刀のような鍵爪が胸元のシャツを切り裂き、その下の白い肌をも切り裂く。
 行く筋も付いた傷口からツゥと血が溢れだし見る間にシャツを紅く染めてい
く。
 歓喜の吠え声をあげた妖物が滲む鮮血をすすり嘗め回す。
「さぁ……おまえも……」
 妖しく招くあたしに、憑かれたように一体又一体と次々に這い寄り、まとい
つき、あっという間に全身を覆い尽くす。
 あたしは全身を覆うこの世ならざる感触に身悶え、身をくねらす。
「そろそろ……いいかしら」
 ありえない方向からあたしの声がした。
 あたしはさっきの滑り台の上に立っていた。
「如何かしら、あたしの『影』のお味は?」
 あたしと瓜二つの姿を持つ『影』の悩ましい媚態に苦笑しながら奴等を見下
ろす。
「おまえらと同質の力で作ったあたしの影だからね、味も格別でしょ」
 奴等はあたしの声も聞こえず狂ったように影を貪る、影の味に狂喜し共食い
を始めた奴すらいる。
「さて、そろそろ終わりにしましょう」
 冷たく言い放つと印を結び呪縛の呪を放つ。
「『縛』」
 ビキッ。
 呪に呪縛され『影』を貪る妖物どもが一匹残らず凍り付く。
「あるべき姿に還元なさい……『滅』」
 力を込めて発した浄化の呪と共にあたしの影が閃光に包まれる。影に纏いつ
く妖物が光に飲み込まれ声を上げる暇すら無く焼き尽くされていく。
 閃光が収まった時、広場には古びた人形を始め無数のガラクタが転がってい
た。
「やっぱり……捨てられた物の恨み」
 物言わぬガラクタを眺め、あたしはやり場の無い寂しさに溜息を吐く。
 こいつらも持ち主が大事にしてさえくれれば……。
 ポッという小さな音と共に散らばったガラクタが燃えだした、送り火のよう
にあちこちで燃え上がる小さな炎は、見る間にガラクタを焼き尽くし真っ白な
灰へと変えて行く。
「終わったわ梨佳ちゃん」
 振り向いたあたしの目の前に、柔らかな燐光に包まれた梨佳ちゃんが浮かん
でいた。
『ありがとう……お姉ちゃん……梨佳……これでパパとママの所へ行ける……』
 微笑む梨佳ちゃんの輪郭が徐々にぼやけて行く。
「そう……パパとママのところでゆっくり眠りなさい」
 梨佳ちゃんは小さな光の球となり、やがて消えていった。
『お姉ちゃん……最後に……名……前……おし……て』
 穏やかな夜風に紛れ、切れ切れの声が届く。
「尊、如月尊よ」
 あたしは微笑みながら夜空を見上げる。声は梨佳ちゃんに届いたのか返事は
無かった。
「パパ、ママ……か……」





 梨佳ちゃんが消えた虚空を見上げていたあたしは、ふと呟いた。
「ところで今日……どうやって帰ろう」

 了
	 葵 一 (E-Mail:yajima@cht.co.jp) (97' 1/28)

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PS.結構恥ずいなぁこれ(^^;
           		葵 一 (E-Mail:yajima@cht.co.jp)



本宮和久の場合


 本宮		:「遅くなったなぁ……今日は」
 
 すっかり暗くなった道を一人歩きながらぽつりとつぶやく。
 今日はクラス委員委員会の日。一年副委員長という立場上、会議の時はどう
しても帰りが遅くなる。副委員長になったのは別に人望があるというわけでも
なく、単になり手がいなかったからという理由である。

 本宮		:「そのくせ、みんな人に頼るんだよな……どいつもこいつ
		:も……」

 ぶちぶちいいながらも、遅くまで会議に出席し、委員の女の子をわざわざ遠
回りして家まで送ってあげる所が、お人好しの彼らしい所だが。
 途中、人気のない墓地の側にさしかかる。普通はこわいだろうが、彼にとっ
てはさして怖くも感じない、別に気にも止めずに通っていく。

 本宮		:「お化けより……人間の方が怖いよなぁ」

 これが彼の持論だ。

 本宮		:「とくに女の子は……って……ん?」
 女の子	:「……ぐすっ……ひっく……」

 ちょうど墓地の入り口あたり、年の頃7・8歳くらいの女の子がうずくまっ
て泣いている。

 本宮		:「女の子……こんな時間……に?」
 女の子	:「……ひっく……ひっ……」

 普通、こんな時間に女の子が一人でいるのは常識で考えればおかしいと思う
のだが、そうもいかない。泣いている子をほおってはおけないのが本宮である。

 本宮		:「……うーんと、えーと……きみ、どうしたの?」
 女の子	:「……ぐすっ……」

 女の子と目が合う、黒い瞳、きれいにそろえられた黒髪、白いワンピース、
ぬけるような肌が不自然に白いように感じる。

 女の子	:「……ひっ……く……」
 本宮		:「……あの……(あれ? おかしいな……呼吸が……読め
		:ない)」

 呼吸を読む……合気柔術で相手の動きを知るために、相手の呼吸を把握する
こと……昔から鍛練していたため、普段から人の呼吸を読むのが彼の癖になっ
ている。
 呼吸が読めない……生きていない……ってことは……幽霊。

 本宮		:「……(どうしたもんかな)」

 その割には落ち着き払っている、多少の事には動じない。

 女の子	:「……ぐすっ……あのね……つる……なくなちゃったの……」
 本宮		:「つる?」
 女の子	:「ついてきて、こっちなの……」
 本宮		:「えっ、ちょっと」

 墓地の中に走っていく女の子、ちょっと躊躇しつつも後を追う本宮。

 女の子	:「ここなの……」
 本宮		:「ここ……は……まさか」

 その通り、ひっそりと立つ墓石の前。

 女の子	:「……これ……つる……」
 
 女の子が指差した先には色とりどりの折り紙で折った千羽鶴。
 でも、よく見てみると、およそ半分くらいが不自然にむしり取られている。
多分……子供のいたずらだろう。

 女の子	:「千羽……作ったの……ななえのびょうきがよくなって、
		:みんなと遊べますようにってお願いしながら、一生懸命折っ
		:たの……なのに……知らない人がもってっちゃったの……」
 本宮		:「自分で……全部作ったの?」

 こくん、とうなずく女の子。本宮がむしられた千羽鶴を手にとって見る。

 本宮		:「これは、わざとだな……いたずらか……これは」
 女の子	:「ひどいよ……ななえ……一生懸命折ったのに……ひどい
		:よ……」
 本宮		:「それで……ずっと……泣いていてたの?」
 女の子	:「うん……」
 本宮		:「……そうか……よし! わかった。俺が作ってやる」

 とたんに女の子の顔がぱっと明るくなる。

 女の子	:「ホント! 本当に?」
 本宮		:「ああ、だからもう泣かなくてもいいんだ。明日、持って
		:きてやるよ」
 女の子	:「ほんとだね、約束だよ、指切り!」
 本宮		:「ああ」
 女の子	:「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーますっ」
 本宮		:「指切った」
 女の子	:「約束だよ……千羽鶴」
 本宮		:「わかった。じゃあ、また明日な」

 墓地を出て家に向かう本宮。

 本宮		:「まだ、小学2・3年くらいだったよなあの子。あんな小
		:さな子が一人で千羽鶴作ったのか」

 ふいにハッとなって、はた、と立ち止まる。

 本宮		:「……待てよ……何羽か継ぎ足しじゃなくて……全部作るっ
		:てことか……。こりゃあ……徹夜だな」

 翌日、完徹あけの目をこすりつつ何とか学校へ、そしてその帰り道。

 フラナ	:「さぁ終わったおわったぁ、もとみーかーえろっ」
 本宮		:「フラナ、佐古田。俺、ちょっと寄るとこあるんだけど……
		:いいか?」
 フラナ	:「寄るとこ? うん、いいよ」
 佐古田	:「ジャカジャ〜ン(オッケーの音色)」

 昨夜の墓地、あの女の子がいた墓石の前。
 よくみると千羽鶴の他に人形、小さな花が供えてある。
 コンビニで買った線香に火を付け、そこらで摘んだすみれの花をビンにさす。

 本宮		:「さて、約束の品……」

 がさがさと鞄から包装紙で折った鶴を取り出す。昨夜、夜なべして作った千
羽鶴である。

 本宮		:「ごめんな、こんな紙だけど……」

 かさっ、と鶴を墓前に供えて手を合わせる。

 本宮		:「成仏……してくれよな……」
 フラナ	:「……」
 佐古田	:「……」

 佐古田も胸で十字を切って神にいのる、フラナもパンパンと手を打っていのる。

 本宮		:「……フラナ、そりゃ柏手だ……」
 フラナ	:「そうだっけ? うちはこうだけど」
 本宮		:「……まぁ……いいか……それぞれだし。……さて帰るか」
 フラナ	:「うん」
 
 帰り際、ふと、振り向いてみる。でもそこには誰もいなかった。けれど、な
んとなくあの子が……いるような気がした。気がしただけ……なのだけれど……
 すぅ……と深呼吸し、つぶやくように言葉をつむぎだす。

 本宮		:「じゃあな……」
 フラナ	:「どしたの? もとみー」
 本宮		:「いや……なんでもない」

 墓地を出て、少し遠慮がちにフラナがたずねてくる。

 フラナ	:「ねぇ、もとみー……誰のお参りだったの?」
 本宮		:「ちょっと……な、ちょっとした知り合いだ」
 フラナ	:「ふぅん……じゃ、早くベーカリーいこっ」
 本宮		:「ああ、そうだな……」

 最後に、もう一度振り向いてみる。そこにはもう……あの子はいなかった。

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なんかもとみーがいい奴してたなぁ(いいめは見てないけど)


田中久志でした。



津久見神羅の場合


「世の中には珍しい人間がおるもんやな」
 神羅は尾けてきている女性をチラリと見ながら言った。
「それにしてもこんな夜遅くに何の為に尾けとるんかが疑問や」
 辺りは物音一つせず静まり返っている。
 ただ、神羅の足音だけが響いていた。そう、一人だけの足音が。
 女性も確かに歩いて追ってきている。たとえ靴を履いていなくてもなんらか
の足音がしてもおかしくない。なのに、足音は一つ。
 神羅はそれに気付いたのか歩くスピードを上げる。
 女性も当然追ってくるがやはり足音はしない。
「これは正体を確かめんと」
 近くに公園が見えたので進路を変えて入っていく。
 中心辺りに来たところで立ち止まり、そして振り向いた。
 周りには隠れられそうな障害物はなく女性と対面する形になる。
「あんた、普通の人間じゃないやろ」
 女性に向かって声をかける。
「失礼ね。どこが人間じゃないっていうのよ」
 女性はコートを羽織っているが足をよく見ると半分ぼやけていた。
「そんなこと言われても足が薄れてますやん、おたく」
 呆れたように答える。
「あら、驚かないのね。面白くないわ」
「見慣れているかんね」
「まあいいわ。それより私に憑依されない? 結構楽しいわよ」
 勧誘するように女性が誘う。
 思わず神羅は後ろに下がる。
「遠慮しときますわ」
「せっかく私がこう言ってあげてるのに断るのね。じゃあ仕方ないわね。力づ
くで憑依してやるわ」
 そう言って幽霊が迫ってきた。
「では、こっちも……」
 間合いを取りながら神羅は一枚の符を取り出して額の前に構える。
「偽りの姿に封印されし我が刀よ。今封印をとき汝の真の姿を現せ」
 神羅の言葉とともに符が炎に包まれ刀の形になってゆく。
「そんな刀で私が切れるのかしら?」
 幽霊はそう言いながら次第にスピードを上げてゆき突進してきた。
 神羅は体をひねってかろうじて避けたが、頬に3本の赤い筋ができる。
「どうしたの? 早くやりなさいよ。できるものならね」
 嘲り笑うようにして自分の心臓の部分を指差す。
「後悔しても知らんで」
 腰を落とし居合の構えを取る。
 再び幽霊が突進してくる。
「せいや!」
 掛け声とともに真横に切る。
 胴体を半分に切られた幽霊が茫然と自分の姿を見ていた。
「切られちゃったのね、私……」
 幽霊は薄らいでそして消え去った。
「何か、可哀想やったな」
 刀を符に戻してその場を離れる。
 月の光だけが公園を静かに照らしていた……

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 「見知らぬ異性が尾けてくる」と「町角で幽霊に出くわす」の合体です。
 最初は「異性が尾けてくる」を書いていたんですが、気が付くと幽霊ネタが
出来たんで結局くっつけちゃいました。
 久しぶりに書いたんでかなり変で見苦しいと思います。
 これでやっとこの世界に存在できたという感じです。

						SW0157 月夜龍神丸



三河夏和流の場合

 1997年、6月。
 そろそろ、吹利にも夏の到来を感じさせる暑さが迫ってきた。
 夏。
 夏といって、夏和流がすぐに思い浮かべるのは
 ――自分の名前に使われているな。
 ――アイスクリーム。
 ――ナッツ。
 の三つである。
 普通の人間とは思考がかなりかけ離れている。普通の人ならば、海や怪談な
どと言うだろうに。
 怪談。
 幽霊の物語。
 世間の人は信じていないが、幽霊とは、現実にいるのである。
 夏和流が怪談のことを思い浮かべないのはそれが現実にいることを知り、更
にそれとの接触の回数が何度もあるからかも知れない。

 そして。
 今日も、公園でそれとの接触があった。
 幽霊のセリフとして有名なものは、うらめしや、である。
「うらめしや……つまり、裏に飯屋があるとか……」
 きっぱりと違う。
「体を、よこせ……」
「人がだじゃれの研究を重ねているのに、ツッコミも何もナシで体をもらおう
なんて、ずるいぞ」
 ツッコミがあれば、いいのだろうか。
 もし誰かがそう問いを発すれば、夏和流は考え込んだだろうが、相手は幽霊。
「体を、よこせ……」
 自らの死を認められず、生への執着だけで存在するもの。生き返るまで、彼
らに安息は来ないのかも知れない。
 そんな相手に、何も伝わるわけもない。伝えられない。
 そして、夏和流自身もそんなだじゃれを伝える気なんてなかったのだろう。
「よこせ……背は横じゃなくて、縦のことだよ」
「体を、よこせ……」
 夏和流は。
 死者を生き返らせる術を知らない。
 そして、死者を嫌いになれない。
「体を、よこせ……」
「体……からっぽだー。なんちゃって」
 何度目だろう。死者の怨念は、夏和流を傷つけられず、ただ空へ溶けていく。
夏和流は、虚ろな呟きをやめ、ついに俯いた。
「死にたく、ないんだよね……誰もが」
「体を、よこせ……」
「僕は……死にたくない。けれど……今のまま、生きていていいのかな。君の
方が、生きる権利があるのかも知れないね……」
 命。飼っていた、ペットの命。
 意味もなく。ただ、自分の過失で失ってしまった命。
 その命を考える度、夏和流は、自分がどんなヤツなのかを考える。
 ――嫌なヤツ。人として、生きている存在の中で、最悪。
 いくつもの罵詈雑言が並び、そして。
 ――大嫌い。
「体を、よこせ……」
 だから。
「体を、よこせ……」
「いいよ」
 夏和流は、頷いた。
 夏和流が次に気付いたとき。
 目の前には、親友の姿があった。
「……そっか。あの人、また死んじゃったか」
 何が起こったか、悟り呟く。
「……ああ」
 親友は、頷く。怒りを、込めて。
 その怒りは、誰に向けられているのだろう。
「……でも、どうして僕は生きているのかな?」
 かすかに、笑う。嘆きを、込めて。
 その嘆きは、何に向けられているのだろう。
「生きているからだ。だから、お前は生きている」
 理論として、成り立っていない。
 ――なぜ、僕は生きているの……?
 何も、夏和流は答えなかった。ただ、その疑問だけがあった。
「……いい加減にしろ」
 滅多に自分から喋らないその親友が、怒りを言葉にしてぶつけた。
「お前は、死にたいのか」
「……死にたくは、ない」
「ならば、生きよう、そう思ったらどうだ」
「人を、犠牲にして? 僕は、そんなことまでして生きる価値なんか、ない……」
 そう呟き終わったとき、風が、怒りに押しのけられて悲鳴を上げた。
「痛……」
 赤く晴れ上がった頬に、熱い痛みが伝わる。
「生きる、価値だと?」
 静かな口調。それが崩れたことは、ほとんどない。一年に、一回ぐらいもあ
るのだろうか。
 今は、崩れているが。
「ふざけるな!」
 一喝。
「お前は、生きている。ならば、それが生きる価値だ。生き続ける、意味だ」
「僕は……嫌だ……僕なんて、生きていたって、他人を不幸にするだけだ……」
「それがどうした!」
 大気を揺るがせ、想いが伝わる。
「生きているものは、必ず何かを、誰かを不幸にする。それは、真実だ。生き
ているものは、他者の命を喰らい、生き抜く。
 他者を不幸にするのは、当たり前だ。
 だか、それで貴様が死ねば、何も残らない。死者の、死んだ意味が否定され
る。不幸にしたのならば、不幸にするのならば、それを糧に強くなれ。誰もが
幸せになれるように、強くなれ!」
「僕は……僕は……」
 また、夏和流は俯いた。
「……まだ、死にたいか」
「死にたく、ないんだ……ただ、これ以上、生きるのが嫌だったんだ……」
 ふっ……と優しい風が吹いた。
「共に、生きていこう。お前なら、きっと、いつか他者を幸せにできる。それ
まで、共に生きていこう」
 風は、目の前から吹いていた……。



柳直紀の場合

 夏のある日、夜風が生暖かく木々を揺らす。住宅街の中にぽつんと立ってい
る杉の木はザワザワと風になぶられている。

 女の声	:『……クルシイ』

 8月とはいえ7:30もすぎればあたりはとっぷり、スーパーの袋を下げ、ちょっ
と入り組んだ住宅街に入る。

 直紀		:「7時回ってんのに、なんなのよこの暑さわぁ(ーー#
		: 寒いのはなんとかなるけど、この暑さはいまだに慣れな
		:いわ」

 ぶつぶつ文句を言いながら、すたすたと自宅のマンションへ足を向ける……
が、

 直紀		:「あ、あれぇ?? ここどこ?」
 女性の声	:「あの……」
 直紀		:「(じょ、冗談でしょ。なんで家の近所で迷子になんなきゃ
		:ならんのよー!!)に、22にもなって……」
 女性の声	:「あ、あのぅ……」
 直紀		:「(たしか、三丁目の角を曲がってえ、……うん、そうだ。
		:だからこの道をまっすぐいけば大通りに続く道に出るはず
		:なのにっ)」
 女性の声	:「あの私……」
 直紀		:「(おさらいおさらい。……やっぱあってるよなあ? うー
		:んとなると後考えられるのは……)」
 女性の声	:「わぁぁーーーーっっ!!」
 直紀		:「うっさいなぁ、今考え事してんだから後になさい。後にっ!
		:(くるっと振り向く)」

 振り返るけどそこには誰もいない……大声を出したにもかかわらず、幸いに
も文句を言ってくる人はいない……いないが気まずいのには変わりないぞ。

 直紀		:「(悪寒?? なんか今、ゾクッときたぞ)」

 所変わって自宅のマンション。すでに時刻は真夜中。

 女性の声	:「あのう、出直してきましたが……」
 直紀		:「くうくう……」
 女性の声	:「起きてくださいよぉ(;;」
 直紀		:「む? ううーん(ねがえり)」
 女性の声	:「後でって言ったからちゃんとお約束な時間(丑三つ時のこ
		:とか?)に出てきたのにっ(泣)」
 直紀		:「あうう、またゼリー風呂ぉ(^^; ……うにゃうにゃ」
 女性の声	:「しくしく(泣)」
 直紀		:「うにゃ? なんか水が……あ、しょっぱい。だれ? 何
		:時だと思ってんのよぅ(ちょっと不機嫌)」  
 女性の声	:「ああっ起きて下さったんですねっ(嬉)」

 目をこすりこすり上を見上げると和服を着た黒髪の女性が嬉しそうに顔を覗
き込んでいた。歳はたぶん同じかちょっと上くらい。見た感じ、深層の令嬢っ
てトコかな。肩口からさらさら流れる髪はあたしの顔にかからず通り抜けてし
まっていた。(ゾクッ)

 直紀		:「(まただ……また寒気) その声、さっきの??」
 女性の声	:「ええ(嬉) 私、那摘(なつめ)と申します。
		: 先程はお取り込み中の様でしたので、出直してきました」
 直紀		:「ふーん、なんか用?(まだ不機嫌)」
 那摘		:「……あまり驚かれてないんですね(じぃーっと見る)」
 直紀		:「けっこう怖いんだけどね。初めて幽霊なんて見ちゃった
		:し、霊感なんて無いと思ってたから対応が慣れてないのよ」
 那摘		:「この時間帯って私達が見えやすいんですよ。霊感なんて
		:なくっても大丈夫ですし、ほら」

 そういって首に手を掛ける。細くて妙に冷たい手は着実に首に食い込んでい
く。(ゾクゾクッ)

 直紀		:「ぐっ……(ちょっと待てぇ〜(焦) まずい、まずいぞ!! 
		:この状態はっ)」
 那摘		:「……アタタカイ、イイナ(目が虚ろ)」
 直紀		:「あ……っく(いやぁー!!(大焦) やばい、やばいってば! 
		:このままじゃ裏の猫に餌あげらんない、ってそーじゃないぃ
		:(かなり混乱してる))」
 那摘		:「(ビクッ) あ……あら? やだごめんなさい! 触るこ
		:とも出来るって言いたかったんですけど……大丈夫ですか
		:(手を離す)」
 直紀		:「ゲホッ、こ……殺す気かぁっ!! ……まさか、ほんっとー
		:に殺す気で付きまとってんじゃないでしょーね(ジト目)」
 那摘		:「(ブンブン) いいえっ!! 本当に……そんなことする気
		:ないのに……手が……て……が……(泣)」
 直紀		:「わ、わかったっ! もー言わないから耳元で泣くのはや
		:めてっ(焦)」
 那摘		:「ご、ごめ……ごめんな……さい(ぐすっ)」
 直紀		:「泣かない、泣かない(笑) ねっ!」

 しっか、と手を握りぶんぶん上下に振る。

 那摘		:「……ありがとうございます。こんなに良くしてもらった
		:の……はじめて……です(嬉) 時々……自分じゃなくなる
		:ような気がするんです。前にも……たしか8年くらい前に
		:も同じようなことがあって、それ以来なるべく人と会わな
		:いようにしてたんですけど……今日に限ってなんだか……
		:呼ばれてる様な気がして」
 直紀		:「呼ばれてる……か。さっきも言ったと思うんだけど、あ
		:たし霊感なんかないし、そーゆー相談事は解決してあげら
		:んないんだけど……ごめん」
 那摘		:「気にしないで下さい。私、もう行きます。もう……これ
		:以上人を殺したく……ないです!」
 直紀		:「あっ、ちょっと待ってよ!」

 手を掴もうとしたが、するっと通り抜けてしまった。姿もさっきより薄くなっ
た様な気がする。

 那摘		:「……もうすぐ姿も見えなくなります。これからも決して
		:貴方に近づきませんから……(すぅっと消える)」

 ぐるりと部屋を見渡す。なにも変わってないはずなのに、漠然とした違和感
だけが残っていた。鏡に目を映すと、呆然とした自分が映っている。
 まだ首には赤く跡が残っている。彼女がここに存在したという本当(げんじつ)
そ……っと首に手を当てて、

 直紀		:「那摘っていったっけ、あの子。……ずっとあの状態で何
		:年もいたのかな」

 受話器に手を掛け、掛けなれた番号を押す。

 受話器	:「トゥルルルル」
 直紀		:「……問題はさ、一人でかかえてないで吐き出しちゃえば
		:いいのよ」
 受話器	:「トゥルルルル、ガチャッ」
 紘一郎	:「……ふぁい、柳です」
 直紀		:「あ、紘一郎? 遅くに悪いんだけどさ、ちょっと聞いて
		:くれる?」
 紘一郎	:「姉ちゃん……切るぞ(不機嫌)」
 直紀		:「待てって!(汗) 急用なの(事情を説明する)」
 紘一郎	:「……んーーーわぁった。今からいく……(抑揚のない声)」
 直紀		:「(ガチャン) あいつ……寝ぼけてないか??」

 15分後マンション前

 直紀		:「紘一郎……あんた寝てるでしょ(呆)」
 紘一郎	:「ん〜ん。寝てないーー(抑揚のない声)」
 直紀		:「(きょろ) すーちゃんは?」
 紘一郎	:「すーちゃんは鳥目ーーー(抑揚のない声)」
 直紀		:「と……昔のなごりか? まぁいいや。たぶんさ、那摘に
		:とり憑いてる(と思われる)奴ってあたしに用があったんじゃ
		:ないかって気がすんの」
 紘一郎	:「(こくこくうなづく)」
 直紀		:「もうすぐ見えなくなるって言ってたからあんまり時間が
		:ないの。始めにあったとこから探してみようと……なに?」

 ずいっと液体の入ったビンを突き出す。

 紘一郎	:「ねーちゃん、純水って知ってるか(抑揚のない声)」
 直紀		:「じゅん……?? ああ、半導体の洗浄に使ってるヤツね」
 紘一郎	:「(こくり) とりあえず気を入れてみた。そんなに強くな
		:いから人体に影響はない(はず)」
 直紀		:「ふーん(ごくん)」
 紘一郎	:「……いきなり飲むんか(抑揚のない声)」
 直紀		:「全部は飲んでないよ、一口だけ……ん?」

 (ゾクゾクッ)

 直紀		:「う、うわっ!(なに? 空気が……重い!?)」
 紘一郎	:「(ハッ) 何だ!? ああ?? 姉ちゃん? ……なんで俺、
		:ここにいるんだ??」
 直紀		:「(……みえ……た!) 那摘っ!! そこにいるんでしょ?!」
 那摘		:「どうして……もう時間は過ぎてるのに」
 紘一郎	:「姉ちゃん、なんか女の声が聞こえっぞ! どーなってん
		:だ?」
 直紀		:「紘一郎……あたしの話し聞いてた?(呆)」
 紘一郎	:「なんの事だよ。なあ、何で俺ここにいんの?」
 那摘		:「(ビクッ) きゃ……! や……やだ、やだあーーーっっ!!」

 那摘の身体から白い靄の様なものが出てくる。靄はどんどん辺りを染め、視
界一面に広がっていく。那摘から出てきた物体は、外の空気に溶ける様に揺ら
めいている。ぼんやりした輪郭に目だけが怪しく光っている。
 (ゾクゥッ)

 直紀		:「(何あれ? 靄みたいだけど)うわ……目が光ってる(汗)」
 紘一郎	:「何やってんだよ! 姉ちゃん(ぐいっと下がらせる) こ
		:れ……まずいぞ、すごい殺気」
 直紀		:「な……那摘っ! 返事してよ!!」

 ぐったりしていて、姿も希薄になっているようだ。靄の一部は完全に外に出
きってなく、那摘の心臓辺りに突き刺さっている。

 紘一郎	:「姉ちゃん、相手から目を離すな! ガン飛ばせ、ガン!!」

 ヒュウッ
 靄状の物体がこっちに向かってくる。

 直紀		:「ひゃあ(焦) こういちろーあれっ、あの武器でないのっ?!」
 紘一郎	:「ムチャゆーな!(焦) あれは時間がかかるんだよ」
 直紀		:「きゃああ〜!!」

 ばしゃっ! 
 靄状の物体との間に水の膜が覆っていて、弾かれたように後ろへ飛ぶ。

 直紀		:「はれ? これ、なに??」
 紘一郎	:「集中せんかあ!(怒) 自分が出したんだろーが。そのま
		:ま持続してろよ、もーすぐ出来るから!!」
 直紀		:「わ、わかった!(さっき違和感があったけど……気のせ
		:いか)」

 ばしゃんっ!! 
 物体が覆うように膜の上に被さってくる。

 直紀		:「くぅうう!」
 紘一郎	:「……よーっし。姉ちゃん、3つ数えてから結界を解け!」
 直紀		:「っっ!!(こくん)」
 紘一郎	:「1(手の辺りから光りが出てくる)」
 直紀		:「(なに? これは……怒り?? 感情が流れてるの?)」
 紘一郎	:「2(光りがだんだん形を成してくる)」
 直紀		:「(悲しみ……が支配している)」
 紘一郎	:「さんっ!!(匕首を相手向かって投げつける)」
 直紀		:「……っごめん!!」

 がきん! と匕首が水の壁に阻まれる。

 紘一郎	:「……姉ちゃん! どーゆーつもりだよ」
 直紀		:「ごめん。……だけど気持ち分かっちゃったんだもん! 
		:悲しんでるの……解ってて見捨てるのはやだもん」
 紘一郎	:「これだから……(はぁー) だからって何とかしてやれる
		:のか? いくら同情したところで今そんな余裕があるか?!
		: 第一、そんな状態でいつまで結界張ってられるかどう
		:か……」

 ぺたんとへたり込んでなお結界を張り続ける。身体じゅう汗だくで倒れない
のが不思議なくらい。

 紘一郎	:「……解けって」
 直紀		:「(ぜいぜぃ) いや……」
 紘一郎	:「(……このままじゃもたないな) 姉ちゃん……悪いが介
		:入させてもらうぞ!(結界に力を注ぎこむ)」
 直紀		:「いぃぃやぁ!!」

 相変わらず相手の攻撃は止むこともなく水の壁を攻撃し続ける。しかしその
姿は始めて対峙したときより、小さくなっている。そのかわりさっきまで透明
だった結界がどす黒くなってきていた。

 紘一郎	:「なんなんだ……結界があいつを取り込んでるのか?」
 那摘		:「う……ううん。わた……し?」
 紘一郎	:「ん? また女の声が聞こえ出したぞ」
 那摘		:「あ、あなたたち大丈夫ですかっ?!(駆け寄る)」
 紘一郎	:「(目を細めてる) あれかあ? さっきから那摘ってよん
		:でんのはってこら! こっち来るんじゃない!」
 那摘		:「(びくうっ) だ、だってあの人……」
 紘一郎	:「だれのせーでこんな事になってると思ってるんだ! 
		: それよりこいつはなんなんだよ、姉ちゃんは悲しんでる
		:とかいって聞かないし(はぁ〜)」
 那摘		:「あれが……私を操っていたもの」

 靄状の物体はどんどん結界に取り込まれ、その姿は両手で抱えられるくらい
の小ささになっていた。ぼんやりとした姿もだんだんはっきりしてゆく……

 紘一郎	:「これは……猫か」
 那摘		:「……小菊?? どうして……!」
 直紀		:「(ばたっ)」

 倒れたのと同時に結界が音をたたて落ちてくる。

 紘一郎	:「姉ちゃん、しっかりしろ! おいどーゆうことだよ。
		: ……俺は姉ちゃんみたく甘くないからな(凄む)」
 那摘		:「この子は……生前私が飼っていた猫です。生まれつき病
		:弱で目もほとんど見えなかったから……とても気になって
		:た。大事だった、私が死んだときもずっと枕元で泣いてく
		:れた! なのに、なんで……こんなこと!!」
 直紀		:「……このこすごく悲しかったんだよ(子猫に手を向ける)」
 紘一郎	:「なっ!」

 子猫はちょっと戸惑いながらも、とことこやってきて膝の上に足を乗せて、
こっちを見ている。

 直紀		:「こうやって……撫でてもらいたかったんだよ。だって……
		:しあわせそう(微笑む)」
 紘一郎	:「……平和ボケも大概にせんと危険だとゆーに(呆)
		: だ、そうだぞ。那摘さん(ひょいっとつまんで渡す)」
 那摘		:「……はい(微笑む) ありがとう」

 空は白く、夜があけてゆく。子猫も那摘も乳白色で……輪郭もはっきりしな
くなって消えていった。

 紘一郎	:「……逝ったな」
 直紀		:「(こくん) なんか寂しいね。ご主人を探すために手にい
		:れた身体が主人だったなんて……」
 紘一郎	:「まぁ、そーゆーこともあるってことじゃないか? 
		: しかし、純水にこんな使い道があったとはな。使えるぞ、
		:これ(ほとんどカラのビンを掴む)」
 直紀		:「ん。(こくん) 飲むと一時的に霊力が上がるようだしね。
		: でもけっこー制御が難しいよ。なんかつるって滑ってく
		:んだもん!」
 紘一郎	:「そ、か。……んじゃ、帰ーるわ(ふわぁ〜)」
 直紀		:「いま……何時ぃ(ふぁ〜) あたし今日から会社が〜」
 紘一郎	:「(時計を見る) 5時……前」
 直紀		:「そぉ、9時になったら電話ちょうだいね〜
		: (ぽむぽむ肩を叩く)おやすみぃ(笑) こーいちろー」

 ふらふらした足取りでマンションに向かう。紘一郎そのままマンション前で
手をじーっと見つつ、

 紘一郎	:「(ゆっくり指をおりながら) ……ちょっとまて、するっ
		:てーと、俺は4時間しか寝れんのか?」




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