どうする:見知らぬ異性が尾けてくる


目次



どうする:見知らぬ異性が尾けてくる

 久々の、狭間によるロールプレイ実習「あなたならどうする」です。
 あなた(のキャラクター)なら、こんな状況に陥ったときにどうしますか? 

 キャラクターがいない場合には、キャラ化によって自分自身の分身を作るな
りしてみましょう。

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 ここ数日見知らぬ異性が家まで尾行してくる。どうも、気づかれていないつ
もりらしい。
 いったいどうしたことなのだろうか? 

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 という状況設定です。
・尾行してくる動機を考える
・異性の正体は何者か
・尾行への対応と相手の反応

 を考えて、小説風に仕上げて頂けると面白いかと思われます。
 必要なら、行為判定のテストもしてみましょう。

 エピソードなどに発展しなかった場合には、投稿は再整理されて問いかけと
ひとまとめにして、語り部通信やWWW、語り部通信倶楽部にて公開されます。



岩沙琢磨呂の場合

 琢磨呂	:「飛んで火に入る夏の虫……飛んでSAMに入る戦闘機……っ
		:と……いい加減ムカついてきたな。毎日毎日つけてやがる。
		:よし……ちょっと芝居をうってやろうか」

 次の日、琢磨呂は学校に行くのに少し大きめの鞄を持って家を出た。
 午後7:00……いつものように、背後に気配がする。

 琢磨呂	:「じゃ、シンまた明日な!(よし、やるぞ)」
 慎也		:「おっけ! じゃ……(まかせとけって!)」

 琢磨呂は普段と同じく家に向かって道を進んだが、人気のない公園に着いた
とき、後ろをくるりと振り返った。
 気配の正体であろう者は何食わぬ顔でとつぜん立ち止まり、煙草を探すカッ
コをしている。

 琢磨呂	:(くくく……バカめ!)

 突然、立ち止まっていた琢磨呂は走り出した。追っ手もそれと解らぬよう足
早につけてくる。

 琢磨呂	:(なんと……ここまでウルトラ級にアホだとは! こうい
		:う時は見逃すか、先回りするなどして、決して自分は派手
		:に動いちゃいけないってのに……尾行のイロハも解らん連
		:中か。どっかの組織の下っ端と言う可能性が大きいな……
		:よし)

 琢磨呂はレシーバーを掴んだ

 琢磨呂	:「シン、準備は?」
 慎也(受信機)	:「おっけー、何時でも!」
 琢磨呂	:「よし……5、4、3、2、1」
 慎也(受信機)	:「はぁっ!」

 追っ手のが通り過ぎた瞬間、背後の叢から神夜が飛び掛かる。しかし、流石
に尾行するだけの度胸のある相手だ。体術も心得ていて、慎也の攻撃をすんで
の所でかわし振り返りざまにファイティング……スタイルをとった。

 慎也		:「く……(かわされたかっ!)」
 謎		:「……」

 謎の尾行者の優勢的立場はゼロ……コンマ5秒しか続かなかった。

 琢磨呂	:「おっとぉ、そこまでだ……」

 冷たいベレッタが尾行者の首筋に当たる。

 琢磨呂	:「後ろに気を取られて、 誰をつけてたかわすれちまった
		:かァ? まぁ焦るこたァねぇ。ゆっくりと話してもらおう
		:か」

 だが、その瞬間慎也がばたりと地に倒れる。

 琢磨呂	:「て……てめェ!」

 琢磨呂は咄嗟に飛び退き、(ニトロ弾爆発のショックをさける為)そして慎重
にトリガーを引きしぼった。同時に尾行者の右肩が青白い爆発炎で包まれる。
尾行者はその凄まじい衝撃で身体が一回転し、もんどりうって地面に叩きつけ
られた。とめどなく肩から流れ落ちる、鮮血。

 琢磨呂	:「ふん……顔を飛ばせネェのが残念だぜ。死体は何も喋っ
		:ちゃくれねぇからな」

 琢磨呂が屈みこんで尾行者のアゴを掴み上げたその瞬間、尾行者の目と琢磨
呂の目ががっしりと合い、次に琢磨呂の思考が停まった。

 琢磨呂	:(な……この感覚は……)

 ばたっ……ガシャーン……琢磨呂の倒れる音と、次いで銃が地に落ちる音だ
けが空しく響いた……。

						  =<◆>= ウォーレン大尉


三河夏和流の場合

 夏和流	:(すたすたすた)
 謎の女	:(すたすたすた)
 夏和流	:(くるっ)
 謎の女	:(さささささ!)
 夏和流	:「(バレバレなんだけれどな……)
 謎の女	:「(……)」
 夏和流	:(すたすたすた)
 謎の女	:(すたすたすた)
 夏和流	:「(可能性一。僕に恋愛感情があって、接触したがってい
		:るが内気なため果たせない)」
 謎の女	:(すたすたすた)
 夏和流	:「(却下。僕がもてたことはない。可能性二。ぼくではな
		:く、実はみのるに恋愛感情。これは可能性大)」
 謎の女	:(すたすたすた)
 夏和流	:「(可能性三。僕に怨恨があり復讐の機会を狙っている。
		:それなりに可能性がある)」
 謎の女	:(……)
 夏和流	:「(可能性四。尾行が趣味。……推測不可能)」
 謎の女	:(……)
 夏和流	:「(つまるところ、こちらから警戒して接触するのが一番
		:かな……。考えていても始まらないし)」
 謎の女	:(……)
 夏和流	:「あの、すいません」
 謎の女	:(びくっ。さささささ!)
 夏和流	:「(作戦失敗。……もういいや、めんどくさいし。なにか
		:あったらそれまでのことだし)」
 謎の女	:(すたすたすた)
 夏和流	:(家の前につく)「それじゃ、またあした」
 謎の女	:(さささささ!)
 夏和流	:(家へはいる)
 謎の女	:(黙って立ち去る)


南河(みなみかわ) かわる



水島緑の場合

 ISSAC		:「報告、尾行者約一名」
 緑		:「うーん誰かなぁ、人気もないしとりあえずそこの角でや
		:っつけちゃいましょう」
 ISSAC		:「尾行者は非人間と思われます、戦闘モードへ移行します」

 角を曲がる緑、追っ手もそれに習うしかし曲がったところにすでに緑の姿は
なかった。

 ?		:「見失ったか……本部、ターゲットを見失った」
 緑		:「誰?」
 ISSAC		:「体格からグループ2の試作機と思われます」
 緑		:「またパパは敵を作ったの? 全くもう、仕方ない停止させ
		:るわ」
 ISSAC		:「了解」

 バサッ
 そばにあった気から緑が飛び降りてくる試作機はその動作に反応できない。

 緑		:「相手の核を捜して」
 ISSAC		:「走査中……」

 すぐに格闘戦が始まるパンチやキックの応酬、若干緑の方が有利かもしれな
い。

 ISSAC		:「発見! 表示したとおりです」
 緑		:「インパクトブレーカー出力最大!」
 試作機	:「異常エネルギー関知、回避……」
 緑		:「いっけぇぇぇぇ」

 パンチがワンツーで相手の胸に決まる、そのまま胸部を粉砕され試作機は機
能を停止させた。

 緑		:「ふぅ、つかれたですぅ」

					Written with なるぼす by リュー



大門喬の場合

   吹利駅前の大通り
   火虎左衛門の下宿に押しかけに来た喬がぶらぶらと歩いている

 喬		:「(ん?)またですか? 
		: 毎度毎度ご苦労様ですねぇ」

   ここ最近、吹利に来るといつも女性に後をつけられている。
   曜日、時間、行き先が異なっているのにいつもついてくる。
   尾行ととってもおかしくはない。
   まぁ、それ以前に彼女が心を覗こうとしてかテレパシーを
   使ってきているのでそんなことを考えるまでもないのだが。
   で、問題のテレパシーは喬の精神防御によって
   毎度毎度完全に阻まれている。

 喬		:(また炎野君の下宿までついてこられるのも
		: ナンですし、今日は思い切って……)

   くるり、と振り向いて、その女性と視線を合わせる。
   その瞬間、女性は小さく眉を動かしたように見えたが、
   何事もないような素振りですたすたと歩き続ける。
   だが、エンパスである喬は彼女の戸惑いを感知した。

 喬		:(……これぐらいのことで、
		: 簡単に壁(<精神防御の呼称)を崩すなんて)

   女性はそのまま歩き続け、喬とすれ違った。
   その時、喬は……

 喬		:「私に何か用ですか? 
		: ずっと私の精神に入り込もうとしていたでしょう?」
 女性		:(立ち止まる。額には少し汗がにじんでいる)
		:「……」
 喬		:「対応できる用件ならばお聞きしましょう
		: そこの喫茶店でも」
 女性		:「……わかったわ」

   喬にはその女性の声が上擦っているように聞こえた。
   そして彼女の壁から恐怖がにじみ出ているのも感知した。
   その恐怖の元の分からない喬は自らの促したとおりに
   大通りの中の小さな喫茶店に入る。
   喬はミルクティーを女性はチョコレートパフェ(汗)を注文

 喬		:「話は聞くとはいいましたが……
		: パフェまでおごるなんて言ってないんですけど(泣)」
 女性		:(パフェを食べるのに夢中(?))
 喬		:「本題に入りたいんですけど(汗)」
 女性		:「伊吹東高校ってご存知かしら?」
 喬		:「いえ、私は滋賀県民ですから」
 女性		:「あら、そうなの。
		: ……まぁ、いいわ。
		: そこでね、攻撃性のテレパシーを受けて
		: 精神の破壊された子が居るのよ。
		: 因みにその子は弱い者いじめが大好きなんですって。
		: ……何か思い出さない?」
 喬		:「K中学の《マインド》ですか? 嫌な思い出ですね。
		: ヒーロー気取りのサディストはもう沢山です。
		: ……ところで、
		: 非常に安直な答をだそうとしてません?」
 女性		:「まさか。念のためってやつよ。
		: あなたがしたとは断定しないけど、
		: してないことも断定できないでしょう?」
 喬		:「私は関与していませんよ。
		: ……しかしこんなことを聞くために
		: いままでずっと尾行してたわけですか?」
 女性		:「ええ、実はね、あなたが怖かったのよ。
		: 話じゃ《マインド》、つまりあなたは
		: 人の心に恐怖を刻むとか、狂気を根づかせるとか
		: いろいろ言われているんですもの」
 喬		:「ウワサとはいえ、酷い言われようですね。
		: 確かにそういった前科はありますが、
		: そんな見境ないイッちゃったことしてません(泣)」
 女性		:「そうみたいね。
		: これなら最初から職務質問から入ったらよかったわ」
 喬		:「おや、刑事さんでしたか」
 女性		:「ううん、雇われてるの。テレパシー能力を買われてね。
		: でも、あなたの壁にこともなげに阻まれてたんで
		: 自信が揺らいじゃったけどね」
 喬		:「それと人を尾行するのは不得手のようですね」
 女性		:「なかなか痛い所を突くわね。
		: ま、なんか気がついたことがあったら聞かせて頂戴」
 喬		:「深入りするつもりはないですよ」
 女性		:「あら、そう?」
 喬		:「じゃ、約束もありますので私はもう出ますよ」
 女性		:「ええ、パフェごちそうさま」
 喬		:「やっぱり私が払うんですか?(しくしく)」

                            だいまん



豊中雅考の場合

 まずそれに気がついたのは、居候だった。

 居候		:「お若いの、さっきから若くて可愛い子がくっついてくる
		:ぞ」
 豊中		:「ん?」

 深く考えていなかった豊中は、居候の発言をとりあえず無視した。

 居候		:「おい、あっちむけあっち。あの子の顔が見えん」
 豊中		:(無視無視)
 居候		:「おーい、せっかくくっついてきてくれているんだぞ?」
 豊中		:「偶然だろ?」

 一瞬『恋愛感情があって、接触したがっている』という可能性を検討した豊
中だったが、次の瞬間にはその可能性を否定した。
 そのような感情放射が感じられなかったからである。
 こちらに向けられた何らかの関心は、すぐに察知できた。しかし、その細か
い種類はわからなかった。
 あまり、好ましくないものであることだけは確かだが。

 居候		:「お若いの、若くてきれいな女性は、貴重品だぞ」
 豊中		:「何の話だ?」

 今のところ、相手を攻撃する気はなかった。
 次の角を突然曲がり、そこで壁に体をつけるようにして、相手を待つ。
 女の軽い足音が、慌てたように早くなった。

 そして、女が角を曲がった途端、豊中は女を捕まえた。

 同時に、相手の思考を読む。

 そして、白々しく聞いた。

 豊中		:「道にでも迷ったんですか?」
 尾行者	:「え……ええ」
 豊中		:「住宅地というのは意外と、人気のないところですからね。
		:どちらまで?」
 尾行者	:「ちょっと、そこまで……」
 豊中		:「本格的に道に迷われたようですね。交番が近くにありま
		:すから、そこまでお送りしますよ」

 言いながら、居候に女の思考から読みとったことを伝えた。

 居候		:「なに、退魔士だって?」
 豊中		:「どうやら、何かと間違われたようだ」
 居候		:「わしが話すか……ちょっと口を貸せ」

 女は歩きながら、豊中をチラチラと見ていた。
 女というより、まだ少女だ。せいぜい十八くらいだろう。

 豊中(居候)	:「お仕事も楽じゃないな」
 退魔士	:(ぎくっ)
 豊中(居候)	:「まして相手に勘づかれてるとなると」
 退魔士	:「えっ……なんのことですか?」

 相手が動揺していることが、豊中には良くわかった。

 豊中(居候)	:「いやなに、退魔士というのはたいていむさいおっさんか、
		:神さびたばあさんの仕事だと思ってたもんでね。若い子も
		:いるんだな」
 退魔士	:(ますます動揺)
 豊中(居候)	:「でも、どうしてわしなんだ?」

 豊中		:「『わし』はよせ、くそじじい」
 居候		:「じじいだからいいだろ」

 退魔士	:「道、わかりますから」

 こわばった顔で言った相手の肩に、豊中はさりげなく手を置いた。

 豊中(居候)	:「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」

 退魔士はさっと姿を消し、後には豊中が残された。

 居候		:「で、結局なんだった」
 豊中		:「単なる思い込みだな。俺が悪霊つきだと、誰かが吹き込
		:んだらしい」
 居候		:「吹き込んだ? 依頼人は誰だよ」
 豊中		:「まだプロじゃないんだ。良くいるだろ、『自分は選ばれ
		:た戦士だっ!!』てやつ。真面目に相手することはないね」
 居候		:「ふーん。それにしても可愛い子だったな。電話番号くら
		:い聞いとけばよかった。そこまでは読まなかったのか」
 豊中		:「あまり関わりたくない。それに、どうせ明日も尾行して
		:くるさ」

 そして豊中の推測通り、翌日もその少女は、豊中を尾行していた。
 そして三日めの晩、少女に尾行されることに飽きた豊中は、わざと繁華街に
でかけた。
 少年課の婦人警官が少女を補導するのを確認し、豊中はその場を去った。

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 ……結構根性曲がっていますが、尾行者が尾行者ですから。
 >私はここまで根性曲がっていませんので。念のため。



平塚花澄の場合

 どうも、ここ毎日、誰かが尾けてくる。
 同じ時間帯。帰る道が同じ人なのか、とも思った。が、こちらが足を速めれ
ば、二三歩遅れて足音も速まるし、止まれば後ろの誰かも、たたらを踏むよう
にして急停止する。……誰だろ。
 考えかけて、花澄は慌てて頭を振る。考えてはいけない。気付いてはいけな
い。怖がってはいけない。
 そんなに寂しい場所に住んでいるわけでもないので、実際のところ怖がる必
要も無いのだが、それにしても、こう毎日続くと気味が悪い。考えても考えて
も、心当たりが無いから、なお気味が悪い。
「……駄目」
 気味悪がらないこと。怖がらないこと。
 どちらにしろ、相手は自分に何を出来るわけでもないのだから。

 ざん、と風が鳴った。

「……大丈夫」
 音を立てて横を吹きすぎる風は、しかし花澄の髪をわずかに揺らしただけで
通り過ぎる。後ろの気配が、何かにたじろいだように立ち止まるのを、彼女は
感じ取った。
「大丈夫、だから」

 ごくたまに、だが、彼女の力……と、人が勝手に解釈するもの……をめ
がけて近づく人がいる。馬鹿らしい、と思う。どちらにしろ、相手は自分に何
を出来るわけでもない。そして、自分も、相手に何かを出来るわけでもない。
 だから、気がつかない。関わらない。関わりたくも無い。

 ポケットを探って、鍵を引っ張り出して。
 髪を一つ揺すって、花澄は扉を開けた。


>……異性である必要性が無いなあ……(^^;;;)
 でも、ここで彼女が下手に振り向いたり、誰何なんてしようものなら、一発
で過剰防衛になりかねないので、どうしても完全無視、の形になります。
 まあ、後二、三日すれば、足音にも慣れて、本読みながら帰るんでしょうね。

 ……と、いうところです。
 よろしくお願いします。

それでは、また。

  いー・あーる


御影武史の場合

「んじゃ、また」
「ん。おやすみー」
 御影武史が友人宅から出てくると、あいかわらず彼女はそこにいた。
 時計の針は深夜の十二時をさしている。武史が友人宅に着いたのが八時だか
ら、四時間ものあいだ、電柱にくくりつけられたテレクラのノボリに隠れて、
彼が出てくるのを待っていたらしい。
 ……この寒いのに。
 なんとなくかわいそーな気持ちになってくるよな。
 武史は近くの自販機で缶入りミルクティーのホットを買うと、缶を路上に置
いた。相手が男だったらとっくに張り倒してるんだろーな、などと漠然と考え
ながら、人通りのとだえた裏道を歩きだす。
「尾行が趣味の女の子に好かれても、あんまりうれしくないような気がするな。
デートの時も物陰に隠れながらついてきたりして、映画館でも斜め後ろの席に
座ったりするのな。……デートというのか、そーゆーのも?」
 バカなことを武史はつぶやいた。
 だいたい、尾行している女性に好かれているなどという発想が、いったいど
のへんからわいてくるのか、はなはだ疑問である。
「四日も続けて四六時中追っかけまわされたら、もしかしてこの子はわしに気
があるのではなかろうか、という疑問が浮かぶのも、健全かつケモノのよーな
青年男子としては少しもヘンではないと思うぞ」
 尾行者の彼女は、しばらく武史の背中とアスファルト上の缶紅茶をかわるが
わる見ていたが、武史が角を曲がって見えなくなると、ノボリの陰から出てき
て、缶紅茶を拾い上げた。缶を両手で包むようにして、冷えきった手を暖める。
そのまま小走りで武史のあとを追った。
 武史の歩く速度はかなり速い。「女の子速度」の三倍はあるだろうか、おか
げで尾行者の彼女は、ほとんどいつも小走りで追いかけなければならなかった。
 そんな尾行が目立たないはずがない。
 気づかれていることに気づいているのかどうか、彼女は開いてしまった距離
を詰めようとしている。
 バレバレなんだが……まぁよかろう。
「ん? っと、今のうち今のうち」
 表通りとの交差点の信号が赤に変わろうとしている。武史は急ぎ足で横断歩
道を渡った。
 そして、背後の足音も、あわてて赤信号を強引に渡ろうとする。
 待て、おい! 
 少なくなったとはいえ、表通りはまだ車の往来があるのだ。おまけにこの通
りは酔っぱらい運転や族が多いときている。
 案の定、ふりむいた武史の視線の先に、ヘッドライトに射すくめられている
彼女の姿があった。

 どがっ! 

 突っ込んできたスポーティカーを片手で強制停止させた武史は、腰を抜かし
てへたりこんでいる尾行者の彼女を見下ろして言った。
「なんでわしが世話を焼かにゃならんのだ」
「あ……」
 武史は、猫を持つときみたいに彼女の襟首をつかんで持ち上げると、歩道ま
で運んでいく。そのあと、車道をふさいでいるスポーティカーを引きずって路
肩によせておいた。
 運転手はエアバッグにつっぷして気を失っているようだ。ま、死にはしない
だろう。
 武史は座りこんだままの彼女を見る。明らかに怯えて、彼女はあとずさった。
「ひっ……」
 そろそろ野次馬が集まりだしている。武史は彼女の腕をつかんで立ち上がら
せると、嫌がる彼女を引きずって「事故現場」を離れた。
「い、痛い……離して」
 いくつか角を曲がり、ひとけのない細道につれこんでから手を離す。
「さてと」
 半眼で彼女を見る。二十才ぐらいだろうか、ややキツめの大きな目にストレ
ートボブの、美人と言いきっていい女性である。
「何か言いたいことは?」
「……わたしを助けたのは失敗だったわね」
 腹をくくったらしい。怯えているが、恐怖してはいない。
 片方の眉を軽く跳ねあげることで、武史は先をうながした。
「助けなければ……、放っておけば、明日から、平和な日々が戻ってきたって
いうのにね。莫迦なやつ」
「馬鹿か。そーだな、そうかもしれんし、そうでないかもしれん」
 平然と応える武史。
 その返事を聞いて、彼女のほうが昂ぶってきているようだった。
「……殺してやる。絶対……殺してやる。……ゆるさない」
 彼女は泣いていた。キッ、と武史を見据え、目を見開いたまま、涙を流して
いた。
 理由が思いうかばない。
 女、もてあそんでポイするほどモテた覚えはないんだが、悲しいことに。
 なんか誤解されてるような気がするんだが。
 ま、よかろう。
「そうだな。せいぜいがんばるように」
 気のない調子で応じて、武史は背を向けた。
 彼女の呪詛の声が、背中にはじけた。

 しかしなー、本気で記憶にないぞ。いくらなんでも殺したいほど恨まれるよ
うなことをしたとゆーなら、忘れてるわけがないんだが。




柳直紀の場合

 直紀		:(やな感じ……(ーー#)

 ここ数日ずっと背後に気配を感じる。(気付いたのが、だからひょっとした
らもっと前からかもしれないけど)
 ポーン。買い物袋を下げた人でいっぱいのエレベーターがゆっくり降りてく
る。ぎゅぅぅぅうううっっ!! 年の瀬も手伝ってひどい混雑はまぁ毎度のこと
か(呆)

 直紀		:(くっそぉ(怒) こーなったら相手が誰であれ今日の買い
		:物つきあってもらうんだからっ!! かくごしろよっっ) 

 いきなりぐるっと振り向いたせいでか尾行者とおぼしき男(実は今まで顔は
見てなかったのぉ(^^;) ビクッとしてから視線をはずす。周りの人よか頭
一つ分でかいんでよけい目立つ。

 直紀		:(あいつだな、あいつだなっ、あいつだなぁぁっ!!(怒))

 思いっきり睨みつける。……これじゃ満員電車で痴漢にあった女子高生とあ
まりかわらんぞ(^^;そこへいきなり

 おばさん	:「ちちち痴漢よヲオおぉぉぉぉっっ!!(途中裏声あり)」

 エレベーターのガラスをも粉砕しかねない大音響!! おばさんの手の中には
しっかりかの尾行男の手が……(……;

 おばさん	:「さあっ、どーゆーことなのかハッキリさせようじゃない! 
		:あんた」
 直紀		:(結果的にはこのままのほうがいいんだろうけど、そうなる
		:とあたしの『尾行男に冬物スーツ数着とその他もろもろを買
		:わせよう計画(仮題)』が水の泡っ!)
 尾行男	:「え? あ……っと??(事情がよく判ってないらしい)」

 ポーン。ドアが開いたと同時に

 直紀		:「(……よしっ) すみません、おりま〜すっ!」

 がしっと尾行男の腕をふんづかまえ人をかきわけていく。

 おばさん	:「ちょっ……!! 話しはまだ……」

 最後の方の言葉はエレベータに詰め込む人で聞こえなかった。

 直紀		:「さて、こっちもハッキリさせよーじゃない?!」
 尾行男	:「……(こくりとうなづく)」

 尾行男	:「事情を話すことは納得したが、ここで話す必然性はある
		:のか?」

 シャッとカーテンが開き、直紀が顔だけ割り込ませる。

 直紀		:「うっさいな! 紳士売り場の更衣室は売り子が話しかけ
		:てこないからちょうどいいのよっ。それとも女子トイレの
		:方がよかった?!」
 尾行男	:「……(冷や汗) では本題に入ろう。(場所が場所だけに)
		: 手短に話すが、私が尾行していた訳はさる筋からの依頼
		:でな……当分……そうだな、依頼日程は記載されていなかっ
		:たから最低でも1年くらいか……まあ、そういうわけだ」
 直紀		:「……(呆) はしょりすぎて何が何だかわかんないわよ」
 尾行男	:「そうか? 私の中では話しは完結してたのだが……?? 
		:まあいい、どっちにしろ話しの内容は公開できんのだ分か
		:るだろう?!」
 直紀		:「……まあね、気になることは多々あるんだけど。あたし
		:に危害を加える気がなけりゃその辺は不問にするわ。(なん
		:かロクでもないよーなことっぽいし)……その依頼主とやら
		:があたしのことを素行調査済みなら危害を加えた時点でど
		:んなことになるか想像に硬くないわよねっ(にこおっ)」

 し……ん

 尾行男	:「(……負傷を負えば秒殺まちがいなしの文句はあながち間
		:違いではないってことか)……死に急ぐ気はさらさらないし、
		:依頼内容以外のことに干渉する気はないぞ。
		: 個人のプライバシーは確保されて当然だからその点につ
		:いても心配は無用だ」
 直紀		:「……ストーカーまがいのことしといて、そーゆーことを
		:言うのはこの口かぁっ?! しかも言い方が高圧的だしっ(怒)」

 いいけど二人ともここがデパート内ってこと忘れてない? 

 尾行男	:「ほれほりはぎ、ほれではへふぁつはとひふふぉうふぁふ
		:りらほ。(訳:それより柳、これでは目立つなというほうが
		:無理だぞ)」
 直紀		:「柳って呼ぶなあっ!(怒) 言われんでもわかってるわよっ
		:でも……くそうっ! 恩を仇で返しやがってぇ!! 
		: (さらにひっぱる手に力が入る)」
 尾行男	:「だだだだだだ……」

 いいかげんギャラリーも多くなってきたし、疲れたりで双方ダメージ大だ! 
(特に尾行男)ぜーはー肩で息しながら、

 尾行男	:「(ぜーはー) で、では私は定期連絡が在るのでこの辺で
		:失礼する」
 直紀		:「(ぜーはー) あーもう何でもいいわよ、定期連絡でも何
		:でも好きにしちゃってよ……(脱力)」
 尾行男	:「そ……そうだ。私は加賀という、名前くらい知っておい
		:てもばちはあたらないだろう(うむうむ)
		: ではさらばだっ!!(脱兎)」
 直紀		:「(がばっ) まだゆーか貴様ぁっ!! ……ってあーもうっ!! 
		:……つかれた(ーー;」



狭淵美樹の場合

 講師が質問はないかと言うのを見計らって、さっさと教科書とプリントを鞄
の中につっこむ。とりあえず、明後日に次の追試がある以上あんまり遊んでも
いられない。とりあえずとっとと帰って……その前に買い物もしてかにゃなら
んか。
 ダウンジャケットの前ボタンを歩きながらとめる。自転車のキーを取り出し
……かけて気が付く。わたしの愛車は、修理中なのであった。
 今日の午前の授業中のことなのだが、気が付くと前輪が盗まれていたのだ。
犯人が見付かることはまずないだろうし……しかし、なんの変哲もないママチ
ャリの前輪、しかもそろそろ金属疲労を起こしかけているのを盗んで何か面白
いのだろうか? しかし、世の中には理解しがたい事は数多くあることには違
いない。災難と言うことだわな。
 そんな事を思いながらスリッパをスニーカーにはきかえる。
 顔見知り数人に挨拶をしながら、玄関を出る。風は冷たい、が晴れている。
空を見上げて一つ伸びをする。世はなべて事も無し。世界はおーむね平和だ。
医学部構内を北門に向かって進む。ちょうど他の学年の授業も終わったところ
らしく、やたらと人通りが多いような気がする。
 普段自転車でとばしてる道も、徒歩で動くと予想外に時間がかかるものだ。
寄るべきポイントを選び出して帰宅経路を決定する。
 まずはそこの書店での新刊チェックだよな。
 そんな事を考えながら北門を抜ける。
 数歩行ったところで、背後で物音が上がる。それは例えて言うならば看板に
人間の頭部をぶつけた様な音だった。
 振り向くと、道の端に突き出しているレストランの看板の下で痛そうに頭を
抱えてしゃがみ込んでいる制服姿の女の子がいた。かつてわたしもその看板に
は頭をぶつけたことがあるので判るのだが、あれは痛い。
 あれは確か3年ほど前ではなかったろうか。そんな事を考えながら書店の自
動ドアを抜ける。さほど大きくはないが、ノヴェルズの新刊の入荷が早いので、
良い書店だ。期待はしていなかったが、新刊の棚には、わたしの探し求めてい
る書はなかった。また原稿を落としたのだろう。その作家の作品が発売予告日
に書店にならんでいるのを見たことがない。
 文庫の新刊チェック作業に取り掛かろうとしたところで、自動ドアの方から
鈍い音がした。
 振り向くと、さっきの女の子が開いていない自動ドアに正面から突っ込んだ
音であったらしいことが見て取れた。タッチ式で開く自動ドアって最近増えた
ような気がする。気のせいかもしれないが。
 顔見知りの店主に軽く会釈して、書店を出る。交差点を渡ってそのまま東大
路通りを北上する。
 今日は生協には寄らずにそのまま北上。生協に寄ってしまうとついつい時間
を潰しすぎてしまう。今日のわたしには、そういう暇はあまりないのだ。
 自転車置き場と化している歩道を大股で歩く。対向人が来る度につっかえる。
歩きにくいことこのうえない。
 後ろで自転車が倒れる音がした。ドミノ倒しにわたしのすぐ脇までおよそ十
数台が倒れてくる。振り返ると、さっきの女の子がドミノ倒しの起点とおぼし
き位置で自転車を立て直している。
 よくあることだ。その辺を歩いている通行人と共に自分の脇の数台を立てる
のを手伝う。女の子は恐縮しきったように廻りに頭を下げている。
 わたしは鞄を肩に担ぎ直すと、再び北上を開始した。
 百万遍の交差点の歩行者用信号が点滅を開始しているのが目に入り、ダッシ
ュをかける。ぎりぎり、反対側の信号が青になる直前に渡りきり、歩を緩める。
 とりあえず、スーパーで卵と牛乳と買って……と、珈琲豆も切れてたし。
 盛大なクラクション。どうして関西ドライバーはクラクションをよく鳴らす
のだろうか。こっちでは挨拶がわりに鳴らしたりするもんなぁ。あれはあんま
り良いことのような気がしないんだけどなぁ。
 田中公設市場と言う名のスーパーに入る。偶然にも特売で牛乳が安い。幸運
なことだ。2本買う事にしよう。卵の置いてある方面に向かう。床が濡れてい
る。こういうので滑る人間とかが居るものである。特に子供とか。
 なんたる幸運。卵も今日は安い。しかし2パックは買わない。当たり前だ。
 ついでに肉のコーナーも見ておこうか。
 そう考えて棚の間のショートカットルートを通過する。やっぱ菓子系は高い
よなぁ。しばらく金ないし。
 首を思わずすくめる。何かがひっくり返る音。
 振り返ると、卵のコーナーが倒れてて大惨事になっている。またもやさっき
の女の子が、店員に頭を下げている。今日は彼女にとっての厄日であるに違い
ない。大惨事、大惨事、第三次世界大戦っと呟きながら肉のコーナーに向かう。
肉はあまり安くない。ま、肉はまだ残っているはずからいいか。
 さすがに夕方だけあって、レジには主婦がやたらとならんでいる。ちらほら
大学生とおぼしき若い男性の姿もある。まぁ、自分もその一員なのだが。
 レジを済ませて外に出ると、道路の向かい側のビルの窓が夕日をもろに反射
していた。明日も晴れるのだろうか。とりあえず、寒くないといいのだが。
 さっきの女の子が店員のおばさんに何度も頭を下げながら出てくるのが見え
る。世の中の災難というものはきっと色々理不尽なものであるのだろう。意外
と平等なものでもある様だし。
 とりあえず、帰ったら忘れずにメモっておかなくては。いい小説のネタにな
る。試験が終わったら続きを書こうと考えている小説に使えるかどうかは判ら
ないが。
 珈琲屋を経由して、下宿にたどり着く。
 煎り立ての豆で、早速ふみさんが珈琲を入れてくれる。
「それって、もしかして、その女の方、美樹さんにご用があったのではないん
でしょうか?」
 わたしの話を聞いて、ふみさんがそう評する。
「あたしもそんな気がするな」
 琴ちゃんが、同意する。
「だとしたら、なんの用だったんでしょうねぇ……?」
 まぁ、本当にわたしに用があったのだとしたら、呼び止めればいいだけの事
だし。気にしても仕方があるまい。むしろ、今気にしなくてはならないのは明
後日の薬理学の追試だ。
 さすがに煎り立ての豆をすぐに挽いて入れた珈琲の味は格別。ゆっくりとす
する。
 チャイムが鳴る。
「はーい、どちら様ですかぁ?」
 とりあえず答えておく。返事はない。仕方がないのでカップをおいて玄関に
向かう。戸の向こうに人の気配はない。
 扉を開くと何かが戸の前においてある。取り上げてみる。袋の中には、神戸
の洋菓子メーカーのロゴの入った箱。
「どうしたんですか?」
 玄関まで出て来たふみさんが、尋ねる。
「よく判らないんですが、菓子折のようです」
 菓子箱を取り出すと、一枚の紙が落ちた。琴ちゃんが取り上げる。
「『先日はありがとうございました』、だって」
「他には何か書いてないのかな」
「なんにも。それだけだよ」
 うーむ。ま、いいか。世の中深く考えても判らないことの方が多い。
 きっと、問題はない。扉を閉めて、部屋の中に戻る。
「珈琲に付けるのにちょうどいい、と言うことで。ふみさん、琴ちゃん、そん
な所にいつまでも居ないでコーヒーブレイクの続きにしましょう」

その日の狭淵美樹の日記より
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愛車前輪盗難さる。謎の菓子折有。珈琲旨し。試験勉強進まず。
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							  (おわり)

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 なんで?  と、思うかもしれませんが続きはありません。
 美樹はこれ以上詮索する気はないですし、
 女の子の方も、これ以上尾行する意味はなくなりましたから。
 美樹がこの女の子と再び遭遇するとしても、それはまた別の話です。

				   Invisible Tree(=不観樹 露生)


勝賀瀬貞夫の場合


 私は仕事を終え、実家に車を置き、食事を済ませ、自分の家に向かって歩い
ていた。
 夕暮れの住宅街を歩きながら尾崎は軽く呟いた。
「またか……」
 何故なら、尾崎の後ろを、ここ最近付け回している、女性がいるのだ。
「4日も連続で尾行されると、偶然で片づける訳にはいかないが……何故尾行
してるんだろう……新手のストーカーか? この前、ホームページ上で公開し
た小説に、妙なメールを送られた事があるが……女性にうらまれるような覚え
も残念ながら無いし……かと言って、身の危険は無さそうだが……」
 尾崎は何故身の危険を感じていないのか……
 それは、毎朝 左手の動脈と首の二個所の動脈が、同じ脈拍かを調べている
からである。過去に、正常な脈拍で無い時に、悪寒を感じて、飛びのいたら、
居眠り運転のトラックがさっきまで立っていた所に突っ込んで来た事があるの
である。
 それまでは半信半疑であったが、それ以降はその毎朝のチェックを欠かす事
は無かった。
「こんな事もあろうかと想って……」
 尾崎は内ポケットから鏡と櫛を取り出した。そのセットには吹利銀行のマー
クが入っているのは言うまでも無い……何故なら、尾崎の勤める会社のメイン
バンクなので、時折そのような物を営業が持って来るのだ。
 尾崎は髪を整えるふりをして、密かに背後を尾行してくる女性を観察してい
た。
「年の頃は20代前半……髪が長くて顔ははっきりしないな……白いマスクか……
顔を隠すのには有効的だな白いコート? この暑いのにか?」
 尾崎は、観察を終え、鏡と櫛をしまった。
「今日こそは、正体を暴いてやる……」
 尾崎は少しして、自動販売機の前で足を止めた。尾行者は、少し後ろで、財
布を出すそぶりを見せていた。
「ふっ……律義な人だな……」
 尾崎は、一番辛い、ジョルト×10 ジュースのボタンを押した

 ガシャコン

 取り入れ口に手を入れて、尾崎は缶を取り出した。
 尾崎は、後ろの女性に見えないように、缶を振った。
 そして、尾崎は振り返りざまに、プルを捻って背後の女性の顔に吹きかけた。
「ひっ」
 女性は、いきなりの事に驚き、目に手をやった。そして、がら空きになった
ボディーに唯一得意な裏拳を突き込んだ。
「げふっ」
 女性は昏倒してしまった。
「何者だ!」
 尾崎は、馬乗りになって、女性のマスクを剥ぎ取った。
 尾崎は絶句し、その女性から離れた。
「ポマードぉぉぉぉ」
 尾崎は奇声を上げて走っていった。さすがに、口裂け女には、早九字も効か
ない……三十六計逃げるに如かず……尾崎が学んだ孫子の兵法にもあるとは言
え、見事な逃げっぷりであった。
 そうでなければ、肉体的な能力に欠ける尾崎が、生き残れる筈も無かった。

 尾崎が走って行った後、女性は顔のマスクを剥いだ。
「身元調査も楽じゃ無いわね……報告書を書かなくちゃ……」
 女性は座り込んで、何かをメモっていた。
”昨今の事件と、被疑者は、関係無いようです。調査を終了します”
 昨今の事件とは、数ヶ月前に、尾崎が、遭遇し、己の力に目覚める一端となっ
た事件であった。
 その逃げっぷりのおかげで、尾崎は疑われずに済んだのであった。
 けど……何か情けないような気がするのは気のせいだろうか……



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