小説104『過ぎ去ろうとする年に』


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小説104『過ぎ去ろうとする年に』


年末年始

 年末年始は、師走という名の通り、忙しい。
 大掃除やお正月の支度が、その主なもの。

 お正月を迎える上で、普通の人は年末になると、
 必死で年賀状を書きはじめる。
 しかし、必死になって年賀状を書く人が多ければ多いほど……
 それは、届ける人も多く必要ということになって。

 かくして、郵便局は年末になると、
 年末年始臨時郵便局員「ゆうメイト」を雇うのだ。

 大部分は高校生。
 働く理由は、人によってさまざま。
 悠のように、必要な経費を稼ぐために働く人もいれば、
 休みを有効に使うという目的で働く人もいる。
 働く場所も、希望によりさまざま。
 冷たい風の吹く中を、自転車で回って郵便物を届ける外務。
 郵便物を配達しやすいように区分する内務。


今年の干支は

「おはよーございますっ☆」
「あ、おはよーっ」
「おっはよ〜♪」

 8時15分に郵便局について。
 半に勤務が始まる。

 当面の今日の仕事は……第9区の大区分。

「3の16、3の……19っ、3の……」

 県、市までは郵便局に運ばれてきた時点で、すでに区分されていて。
 その後配達のエリアごとに、郵便課内務の人が、区分する。
 この配達のエリアが、第9区とか第10区と呼ばれるもので、
 県、市、町、丁までで分けられている。
 その後の番地で分けるのが、大区分。
 
「3の5、3の7、3の……6」

 左手に50枚ほどをまとめて持ち、親指で1枚ずつずらして。
 表に書かれた住所、その部分を、間違えないように読み上げながら。
 右手で区分棚のブロックに放りこむ。

 ときには、裏に書かれたイラストのカラーインクが、
 表に染み出していたりするものもあって。
 興味半分に、裏返してみたりもする。
 今年……今度の干支は、龍。


空の糸

「あれ……」

 何気なく、仕分けるために手に取って。
 真っ白な紙面に整列しているのは、見覚えのある筆跡。
 差出人に目を走らせると。

「やっぱり……」

 吹利県吹利市……水瀬璃慧。

 宛先は、京都府左京区……狭淵美樹。

(見覚えはあるんだけど……誰だっけ……)

 つい、と考えこんで。
 数瞬後に、気付く。

(神酒さんじゃない……)

 普段、ネットでしか会わないから。
 なかなか本名がでてこない。

(神酒さんって……京都に住んでたんだ……)

 他にも。
 平塚花澄。一十。小滝ユラ。雪丘望。如月刹那。兼沢圭人……
 瑞鶴。ベーカリー楠。マリカ。グリーングラス……

 こうしてみると……
 見えない不思議な力で繋がっているのかな……と。
 何となく、実感。

 ふと顔を上げると。
 年賀状の一枚一枚を彩っている、きらきらと輝く、糸が。

 送る人と。
 受け取る人と。
 通い合う、暖かい心。
 ……繊い、貴い、絆が。
 見えた……そんな気が、した。

(今年は……いろいろなことが、あった年だったなぁ……)

 視界の隅で儚く消えた輝きに、思いを馳せて。
 記憶の紗がかかった光景を、蘇らせて。
 過ぎようとしている年に向かって、ひとこと。

(ありがとう)

 心の中で、そっと、囁いた。


解説

 郵便局のアルバイトをしている悠の、とある時間の断片。
 年賀状を見て、思うこと……


時系列

 1999年の年末。12月の29、30日ころ。



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