年末年始は、師走という名の通り、忙しい。
大掃除やお正月の支度が、その主なもの。
お正月を迎える上で、普通の人は年末になると、
必死で年賀状を書きはじめる。
しかし、必死になって年賀状を書く人が多ければ多いほど……
それは、届ける人も多く必要ということになって。
かくして、郵便局は年末になると、
年末年始臨時郵便局員「ゆうメイト」を雇うのだ。
大部分は高校生。
働く理由は、人によってさまざま。
悠のように、必要な経費を稼ぐために働く人もいれば、
休みを有効に使うという目的で働く人もいる。
働く場所も、希望によりさまざま。
冷たい風の吹く中を、自転車で回って郵便物を届ける外務。
郵便物を配達しやすいように区分する内務。
「おはよーございますっ☆」
「あ、おはよーっ」
「おっはよ〜♪」
8時15分に郵便局について。
半に勤務が始まる。
当面の今日の仕事は……第9区の大区分。
「3の16、3の……19っ、3の……」
県、市までは郵便局に運ばれてきた時点で、すでに区分されていて。
その後配達のエリアごとに、郵便課内務の人が、区分する。
この配達のエリアが、第9区とか第10区と呼ばれるもので、
県、市、町、丁までで分けられている。
その後の番地で分けるのが、大区分。
「3の5、3の7、3の……6」
左手に50枚ほどをまとめて持ち、親指で1枚ずつずらして。
表に書かれた住所、その部分を、間違えないように読み上げながら。
右手で区分棚のブロックに放りこむ。
ときには、裏に書かれたイラストのカラーインクが、
表に染み出していたりするものもあって。
興味半分に、裏返してみたりもする。
今年……今度の干支は、龍。
「あれ……」
何気なく、仕分けるために手に取って。
真っ白な紙面に整列しているのは、見覚えのある筆跡。
差出人に目を走らせると。
「やっぱり……」
吹利県吹利市……水瀬璃慧。
宛先は、京都府左京区……狭淵美樹。
(見覚えはあるんだけど……誰だっけ……)
つい、と考えこんで。
数瞬後に、気付く。
(神酒さんじゃない……)
普段、ネットでしか会わないから。
なかなか本名がでてこない。
(神酒さんって……京都に住んでたんだ……)
他にも。
平塚花澄。一十。小滝ユラ。雪丘望。如月刹那。兼沢圭人……
瑞鶴。ベーカリー楠。マリカ。グリーングラス……
こうしてみると……
見えない不思議な力で繋がっているのかな……と。
何となく、実感。
ふと顔を上げると。
年賀状の一枚一枚を彩っている、きらきらと輝く、糸が。
送る人と。
受け取る人と。
通い合う、暖かい心。
……繊い、貴い、絆が。
見えた……そんな気が、した。
(今年は……いろいろなことが、あった年だったなぁ……)
視界の隅で儚く消えた輝きに、思いを馳せて。
記憶の紗がかかった光景を、蘇らせて。
過ぎようとしている年に向かって、ひとこと。
(ありがとう)
心の中で、そっと、囁いた。
郵便局のアルバイトをしている悠の、とある時間の断片。
年賀状を見て、思うこと……
1999年の年末。12月の29、30日ころ。
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