小説106『月への遺言』


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小説106『月への遺言』

 今日は十六夜。満月よりは、控えめな。これから消え行く月。

 昨日、満月を見た。ベーカリーに来ていたみんなとおだんごをたべた。
 そのあと、かけるさんや向坂さんの冗談真に受けて、泣いて帰ってきっちゃっ
たもんなぁ……失敗。
 あの、吸い込まれそうな光に、なんか、酔っ払っちゃったのかも。

 月になんて行く訳ないのにね。
 普通に考えたら、今の日本、そんな簡単には死なないもん。

 ……でも……

 私は、いつか、死ぬのかも。
 もちろん、いつかはおばあさんになって、死んじゃうんだから、あたりまえ
な事だけど。
 私、普通じゃない……から……。記憶喪失で、役所や警察にも届けられてな
くて、変な組織に狙われている。そんな、変な奴だから。

 だから、普通じゃない死に方するのかも……。

 どんな事だか、今の私じゃ想像できない。

 私が死んだら、悲しむって言ってくれた人がいるんだ。
 だから、私は簡単には死なない。死ねない。

 でも、どうしても死ななきゃいけないその時は、ずっと一緒に来てくれる人
の手を振り払ってでも、一人でいかなきゃ駄目だよね……。

 今まで守ってもらって、きっとこれからも守ってもらっちゃう。
 自分独りで生きていけるように、その人と一緒に歩けるように、もっと強く
ならなくちゃ。

 そんな、悲しんでくれる人、手を差し伸べてくれる人、そばにいてくれる人へ

 私は、死なないように、死なないですむようにがんばります。

 でも、それでも死ななくちゃいけなくなったら、どうか皆さん、泣かないで。


 十六夜に願う、私のただ一つの願い。




時系列

 「かぐや姫にはなりたくない」の次の日。


解説

 十六夜の月を見上げ、美都が一人思う。
 今まで“今”しか見なかった少女は、満月に魅せられて“いつか”を見るよ
うになった。



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