小説108『公園の日常〜サボテン(の)観察日記』


目次



小説108『公園の日常〜サボテン(の)観察日記』


登場人物

 サボテン			:佐古田宅にあるごく普通のサボテン
 佐古田真一(さこた・しんいち)	:無口不愛想ギター少年、風見アパート在住
 田中鈴樹(たなか・すずき)	:小人さん依存症なお気楽極楽兄さん
 小人さん			:田中鈴樹にとりつく小さな妖精達
 雪丘望(ゆきおか・のぞむ)	:どこでも眠れる眠り娘


休日

 公園である。外で活動するには少々冷え込む時期ではあるが、やはり
昼間は日差しが暖かい。今日は実に珍しく家主と一緒に当方もお出かけ
である、もっとも当方は家主の手の平に乗っているだけなのだが。
 さほど広い公園でもないが、休日の昼間とあってか数人の人間の姿が
見える。犬の散歩をしている老人にベンチに腰掛けてぼんやりしている
青年、その向こうにベンチで横になっている少女。しかし公園のベンチ
で眠っているというのはいくらなんでも体が冷えるのではなかろうか?
最近の女性は強いものである。

 家主が空いてるベンチに腰掛けたその隣に当方を置いた。いい気分で
ある、やはり日差しは昼間の眩しい日差しが良い。

「ふぁ〜〜…暇だなぁ… いい事だね〜〜〜…」

 隣のベンチでは青年が一人、ぼんやりと空を眺めながら座っている。
だけなら普通なのだが、なにやら青年の肩や頭やひざに飛び跳ねる小さ
な人影が見えるのは当方の目の錯覚であろうか?

 ぴょん

「あんまり遠くに行っちゃだめだよ〜〜〜」

 ぴょんぴょん

 錯覚ではなかった模様。
 家主のいるベンチに飛び乗ってきたのは紛れもなく本物の人である。
当方、九ヶ月と十日生きた中でこれほど小さい人間を見たのは生まれて
はじめてである。というより人ではないような気もするのだがどう見て
も人の形をしているのである。
 小さい人は何やら当方と家主の方を興味深く見ている、我々が珍しい
のであろうか?少々変わり者の家主はともかく平凡な一サボテンである
当方はさほど珍しくはないと思うのだが。
 飛び跳ねる小さな人に気づいたのか、家主がちらりとこちらを見た。
一瞬小さい人に目を留めたが、それだけで何事もなかったように黙って
傍らのギターを取り上げてぽろりぽろりとかき鳴らしはじめた。

 よく周りを見てみると、小さい人は一人だけでなく青年の肩の上に二
人、地面で遊んでいるのが三人、膝の上で転がっている一人。それぞれ
家主のギターに興味があるのかちらりちらりとこちらを見ている。

「うん…いい演奏だね ぼくもこのまま…」

 ぼーっとしているようだ。しかしこの青年と小さい人達の関係は一体
どういったものなのだろうか?

 とてとて
 ひょい
 ぴょん
 ひょこっ

 そうこうしているうちに小さな人達が周りに集まってきた、どうやら
おびえより興味が打ち勝ったようだ。
 一人二人三人四人五人……まだ増える。

 とんとんたん
 とんとんたん

 ・
 ・
 ・

 踊りはじめた。

 とんとんたん
 とんとんたん

 家主の周りをまわるように足踏み、手拍子が加わっていく。当の家主
はというと周りの状況は一切気にせずただただギターをかき鳴らすのみ
である、たいした集中力というかなんというか。
 その頃残った青年の方は最後の一人の小さい人とピンポン球でキャッ
チボールなぞをしていた。心なしかその姿が寂しそうなのは当方の気の
せいか……などと思っていたら最後の一人まで踊りの輪に入ってきてし
まった、青年置いてけぼりである、ちょっといぢけてしまった模様。

 とんとんたん
 とんとんたん
 とんたたたんたんたん

 ギターが止む。
 飛び回っていた小さい人達は一斉に青年の元へ戻っていった。
 戻ってきた小さい人達に気を取りなおしたのか、青年が立ち上がって
こっちへ歩いてきた。

「うちの子達に 良い演奏をありがとうございました」

 なるほど、親子であったのか。

 家主は無言で帽子を軽く傾け、青年はぺこりと一つ頭を下げて小さい
人を引き連れながら公園を後にした。

 そのまま、家主は当方を片手に青年と反対方向の道で公園を後にした。
 ちなみにベンチで横になって寝ていた少女は家主が演奏している間も
ずーーーーーっと寝ていたことを付け加えておく。

 完


解説

 公園でさまざまな人にでくわすサボテンの話。



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