サボテン :佐古田宅にあるごく普通のサボテン
佐古田真一(さこた・しんいち) :無口不愛想ギター少年、風見アパート在住
こんこん :キツネぬいの使い魔
小松訪雪(こまつ・ほうせつ) :骨董屋主人
縁側で庭を眺めながら日差しを浴びる。
同じ日差しをいえど、風見アパートのちゃぶ台の上で浴びるのとまた違った
味わいがあるものである。
というわけで、当方、風見アパートから程近くの、とある骨董品店に家主と
一緒にお邪魔している次第。ここの主人と我が家主は知り合いらしく、当方の
隣で二人そろって正坐をしながら、ずずいとお茶をすすっている。家主とはど
んな縁であるかは当方の知るところではないが、先ほど茶をすすめた骨董品店
の主人の様子からして、家主の風変わりな面にもかなり馴れているように見受
けられる。
そうでなくても、少々偏屈で人嫌いな我が家主の性質からすると、今日のよ
うに他人の家に一人で遊びにいくことなど極めて珍しいことである。
それにしても縁側で日光浴とはなかなか風流なものである。
悦々
一刻。
空になった湯呑を盆にのせて下げる店の主人についで、家主も縁側から席を
外した。知り合いでもいるのか一礼して奥の部屋へと入っていく。当方、我が
家主の輸送に移動を全て依存しているため、そのまま当方おいてけぼりである。
無人になった縁側。
差し込む日差しはだんだん傾いて目にまぶしい、目は無いが心情で。
家主も店の主人もまだ戻らない。この時間帯からすると店の主人は食事の準
備でもしているのであろうか? 家主は……家主のことなので行き方不明は日
常茶飯事である。縁側は心地よいのであるが、日が落ちて冷え込む前に誰か気
づいて欲しいものである。
てふ
はて?
当方の背後(相対的にいって)から床の間に小さな音がする。
誰かの足音であろうか? それにしてはずいぶん小さい音である。
てふてふっ
細い顔、とんがった耳、ふさふさした尻尾、じっと見る目
狐……である。
この地域も都会化が進んでいるようであるが、まだまだ残っているらしい、
頼もしいものである。それにしても少々小さい、まだ子供なのであろうか?
じーーーーっ
なんとも言えないぞわぞわと滲みあがるような、寒々とした予感がする。
じーーーーーーっ
いや、当方、植物である故、蛋白質摂取には向いていないと思われる上、炭
水化物の摂取においても栄養価は低く、しかも当方の体を覆う刺で口や手を怪
我する恐れもあり、捕食にはおおよそ適していないことをご理解いただきたい。
じーーーーーーーーっ
これは当方の己の保身のみを考えてのことではなく、貴殿の見の安全と栄養
摂取を考えてのことである。ご一考していただきたく……
ぴょいんっ!
当方絶体絶命である。
…
はて、何も起こらない。
ふとすぐ目の前でじたばたと先ほどの子狐が暴れている。その首根っこを捕
まえているのが……家主である、さすがは我が家主。
「おや、こんこんくん。サボテンなんぞ食ったら刺が痛いぞ」
奥から店の主人が家主の手から子狐をひょいと取り上げる。当方はあやうく
捕食されるところだったというのに随分な言われようである。
「そろそろ帰るのかね?」
店の主人の言葉にこくんと頷く家主。当方も異存無しである、いかに縁側が
すごしやすくとも捕食されるのは勘弁願いたい。
我が家主、ひょいと当方を持ち上げると店の主人にぺこりと挨拶し、子狐の
頭をぽんぽんとなでると玄関へ向かった。
しかし、捕まえられていても、あの子狐の目はあきらめていなかった……
恐々
松蔭堂へ佐古田につれられ遊びに(?)きていたサボテンが松蔭堂常連ぬいに
洗礼を受ける話。
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