小説『闇の中で』


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小説『闇の中で』

 闇、闇、闇。
 見渡す限り一筋の光もない闇。
 この部屋に閉じこめられてから何時間過ぎただろう? 
 もしかしたら何日かも知れない。
 時間感覚さえも無くなるほどの闇。
 この学校に連れてこられて一ヶ月、色々な事を教えこまれてきた。
 今度は何をさせれれるのか……そんな事を漠然と考えていると、どこかから
扉が開くような音が聞こえた。
 彼は本能的に神経を集中させる。
 何者かの息づかい、未熟な隠形、そして殺気。来訪者が自分の見方でないこ
とは確かだった。
 彼は唯一持たされたナイフを鞘から抜く。そして、自分も気配を消す。
 彼は生き残る可能性と相手について考えていた。
 あの隠形からして相手が教官で在ることはまず無いだろう。
 しかし自分の未熟な隠形もまた知られている可能性も高い。
 彼は焦っていた。正確に言うと彼の神経は長い闇の生活で極限まで疲労して
いた。(余力 体力[6] 精神力[1])
 長引けば自分が不利だと言うことは、明らかだった。彼は相手が自分の間合
いに入るいなやいきなり切りつけた。
 一度、二度、刃が交わる。
 しかし焦りが彼のナイフさばきを曇らせているのか全く当たらない。
 そして逆に、脇腹を傷つけられ後退し気配を消す。
 彼は自分の傷を確かめようとしたが暗くて解らなかった
 少なくとも動きに支障はなさそうだった。
 今度は少し冷静になって相手の出方を見る。
 傷を負わせたことで、調子づいたのか今度は相手から斬撃が仕掛けられる。
 それをバックステップで避けると彼はナイフを突き出す。
 が、それを受け流され、また攻撃を加えられる。
 それを再び防ぎ今度は少し深めに踏み込み斬撃を加える。
 今度は手応えを感じ、生暖かい物が手にかかる。
 相手は傷のためか気配を消すこともできていない。
 それどころか息が荒くなり、立っているのがやっとという感じだった。
 彼はとどめとばかりに大きく踏み込み喉とおぼしき所にナイフを一閃する。
 左手にナイフを突き立てられるが、かまわずに振りきる。
 生暖かい血が今度は全身にかかる。
 ドサ、何かが倒れる音が聞こえる。
 すると、突然光がともり、視界がホワイトアウトする。
 そして教官の声が響く。
「よくやった。明日から次のステップに入る。よく休め」
 光にようやく目が慣れ、倒れているモノを見るとそれは、よく知っていた人
物だった。
「鐘士元(ショウ・シゲン)」
 彼は呆然と倒れたモノの名を呼ぶ。
 鐘を抱き抱えようとして自分の手が赤く染まっているのを見て止める。
 彼は自分の唯一の友を殺してしまった事を実感し、震える。
 人より長い生を受け、死に対する感情が麻痺していたが、この時目の当たり
にした死ほど、辛いものはなかった。


著作

 SW0111 ラプラスさんの作品。



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