小説067『兄妹』


目次



小説067『兄妹』


登場人物

 狭淵美樹(さぶち・みき)	:医学生。留年中。
 狭淵麻樹(さぶち・まき)	:研修医。美樹の妹。


本文

 美樹はコップの縁に口を付け、ちびりちびりと含んでいく。
 麻樹はコップを傾けて、飲み干していく。
 麻樹が自分のコップに日本酒を注ぐ度に、ゆっくりと、一升瓶の中の酒の量
は減っていく。
「親父様は、お元気でしたか」
 美樹が尋ねる。
 尋ねながら思い出している。過去を。
「元気だ」
 麻樹が答える。
 答えながら思い出している。過去を。
「そうですか…………」
 美樹が呟く。コップの底にわずかに残っていた液体が喉の奥へと過ぎ去って
いく。
「相変わらずな」
 麻樹が呟き返す。コップの中の液体を飲み干す。
 過去はもう遠い。
 虫が鳴く。
 霞川の河原は、兄妹の他に人影もなく。
 川表を吹く風が、兄妹の皮膚から暑気を払っていく。
 兄妹は、互のコップに透明な液体を注ぎあう。
 それが透明であるかという事すら不明確な闇の中で。

                            (fin)


時系列

 1999年5月


解説

 連休に実家に帰った妹と、河原で酒を酌み交わす狭淵兄妹。



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