某月某日、「弾き語り通信倶楽部」のTRPGOFFが開かれた。
場所は、オリジナルルールを手掛けているftこと高村文雄宅である。
OFF終了後、残っているのは文雄と大輔、剽夜と竜胆だった。
- 竜胆
- 「あっ、ネコだ。おっきい。かわいぃぃぃぃ」
- 剽夜
- 「ひもがついてるぞ」
- 文雄
- 「こいつは噛むからなあ。他のネコと隔離しているのだ」
- 竜胆
- 「かまれたら、穴開きますか? 竜王様」
- 文雄
- 「この通りだ(手首を見せる)」
- 剽夜
- 「傷が残ってますね」
- 竜胆
- 「……後ろから見てもこのネコ、まるいですね(笑)」
- 剽夜
- 「はははは。確かに丸い」
- 竜胆
- 「このネコ丸君サマ、胴体だけでも普通のネコ3匹ぶんは
ありますよ(笑)」
- 大輔
- 「ところで、御両人。絵を描いてくれない?」
- 竜胆
- 「いいですよ」
- 剽夜
- 「ちょっと眠いから、一眠りしてから……(横になる)。
今日は疲れたのじゃ……」
- 大輔
- 「どうしたんだい、彼は?」
- 竜胆
- 「ちょっと彩華ラーメンを食べに天理まで行ってたんです」
- 大輔
- 「それは凄い事を(^^;)」
しばらくして
- 剽夜
- 「ぐーっ、すーっ、むーっ……(ぽりぽり)」
- 文雄
- 「彼は、寝ているのか?」
- 竜胆
- 「いびきをかいてるから、寝てますよ」
- 文雄
- 「さすが、手慣れたものだ」
- 竜胆
- 「見慣れてますから(笑)。寝息が激しい時は寝てます……
描き描き)。ちょっとあたしも疲れて来ました(横になる)」
- 大輔
- 「これで文ちゃんも横になれば川の字だ(笑)」
- 文雄
- 「私はそれ程疲れていないのでな」
- 剽夜
- 「むーっ、すーっ」
- 竜胆
- 「ここじゃちょっと寝返りが打てません……よっと」
- 大輔
- 「Lの字型か……竜胆ちゃん、蹴られるよ?」
- 竜胆
- 「多分大丈夫ですよ……」
そう言って竜胆は机代わりのこたつの下に体を潜らせた。まるで、ネコが狭いところに好き好んで入って行く様だった。
結果、寝ている剽夜の足元に竜胆の頭が位置する事になった。
- 竜胆
- 「うん、これで大丈夫。ふうーっ、一休み……(ぽこっ)
はうっ! (頭を抱える) い、痛いよ更ちゃん(泣)」
- 剽夜
- 「……ああ、済まない、あきりん(汗)。悪かった、ごめん」
- 文雄
- 「どうしたのだ?」
- 大輔
- 「剽夜くんが竜胆ちゃんの頭を寝惚けて蹴ったみたいだ」
- 剽夜
- 「大丈夫か、あきりん(汗)」
- 竜胆
- 「だ、大丈夫」
- 文雄
- 「よほど悪い夢を見ていたようだな」
- 剽夜
- 「包丁を持った女の子に追っかけられる夢を見た……(汗)」
- 竜胆
- 「シュールな夢ね」
- 剽夜
- 「うん、かどで待ち伏せて、一本包丁を蹴落としたんだが、
更に背中からもう一本出て来たので、振り降ろされた包丁をマガジンで受けたのだが、突き刺さった包丁をぐいぐい押して来るんだ。それは女の子の力とは思えなかった……仕方が無いので、迫り来る刃先を歯で受けて、その腕を蹴りあげたら、戻りの脚があきりんの頭にに当たったようだな。本当に大丈夫か?」
- 竜胆
- 「うん、大丈夫……(頭を押さえてる)、どんな女の子だっ
たの?」
- 剽夜
- 「結構可愛い女の子だったぞ……それにしてもリアルな恐
い夢だった……トラウマになりそうだ……やはり合宿で『クトゥルフ』をやったのがよくなかったようだ」
あくる晩 竜胆の部屋
- 剽夜
- 「(描き描き)……あきりん、今からカラオケに行くぞ!」
- 竜胆
- 「行きますか(ノる)」
- 剽夜
- 「行かれますか」
- 竜胆
- 「閉店まで一時間だけど、カラオケに直行!」
- 剽夜
- 「おう!」
駅前には人影も少ない。まあ、午前4時前ともなれば当然だ。
- 竜胆
- 「まさか、入店拒否なんてされないよね」
- 剽夜
- 「一時間だから大丈夫だろう」
- 竜胆
- 「今回は突っ走らせて頂きます」
- 剽夜
- 「練習に丁度いいな……ん? 珍しいな。通行人がいるぞ」
- 竜胆
- 「そうだね……」
- 剽夜
- 「! あきりん、避けろ」
- 竜胆
- 「わあっ! ちょっと、危ないじゃない」
- 少女
- 「……」
少女の手には包丁が握られていた。街灯の光が反射して、その鋭い刃を浮かび上がらせている。
- 少女
- 「……(ひゅっ)」
- 竜胆
- 「くっ、なんなのよ? これ以上やると、こっちだって容
赦しないから!」
- 剽夜
- 「私が引き付けるから、あきりん、どうにかしてくれ」
- 竜胆
- 「わかった!」
- 剽夜
- 「しかし、なんなんだ? この子は……(がしっ)、とても
女の子には思えんぞ、この腕力……」
- 竜胆
- 「更ちゃん! この子、まだ包丁持ってる!」
- 剽夜
- 「むう! (蹴り) しゃれにならんぞ……」
- 竜胆
- 「更ちゃん、 巻き込まれないように気を付けてね! え
いっ」
- 少女
- 「くう……! (ごほっ)」
- 剽夜
- 「! まだ動けるのか? まずい(手を放す)」
- 少女
- 「壊す……! 壊す……!」
- 竜胆
- 「きゃっ! なんなの? ちょっと、 やめなさいって!
痛っ!」
- 剽夜
- 「あきりん?」
- 竜胆
- 「大丈夫……! こんなのかすり傷!」
- 剽夜
- 「そうは見えんぞ。ここはいったん……逃げよう」
- 竜胆
- 「……しかたないわね」
すたすた
- 剽夜
- 「一体何だったんだ? あの子は……」
- 竜胆
- 「さあ……」
- 剽夜
- 「正直な話、逃げ切れたとは思えないな……これでよし、
と」
- 竜胆
- 「……ありがと、更ちゃん。服、弁償するね」
- 剽夜
- 「気にするな。一宿の礼と思ってくれ。さて、どうする?
これから。たぶん追って来てるはずだ」
- 竜胆
- 「……あたしと更ちゃん、どっちが狙われてるのか知らな
いけど、放って逃げるのもしゃくだし、どっちみち逃がしてくれそうにもないし……」
- 剽夜
- 「気が進まないけど、戦うしかないようだな」
- 竜胆
- 「そうね。……よっと(立ち上がる)」
- 剽夜
- 「左腕、大丈夫か?」
- 竜胆
- 「大丈夫だって……痛いけど」
- 剽夜
- 「さて、そろそろ来る頃だ……」
- 竜胆
- 「来たわ」
- 少女
- 「……壊す……」
- 剽夜
- 「すまないがあきりん、時間を稼いでくれ」
- 竜胆
- 「あいよ」
- 少女
- 「……壊す……修羅……」
- 竜胆
- 「壊されるわけにはいかないのっ(エーテル攻撃)」
- 少女
- 「(無言でふっ飛ぶ)」
- 剽夜
- 「……暗き影の住人よ!」
剽夜の呪文が完成した。林立するビルが織り成すいくつもの影が、少女を包み込む。
- 竜胆
- 「……凄い妖気ね……」
- 剽夜
- 「呪文からも判るだろうが、いわゆる黒魔法だからな。あ
きりんには少し辛いかも知れん。そんなに長くは続かないから、済まないが我慢してくれ」
- 竜胆
- 「うん……(へなへな)」
- 剽夜
- 「とりあえず包丁は取り上げておこう。こんなもので刺さ
れたら痛いなんてものじゃないからな」
- 竜胆
- 「気を付けてね……」
- 剽夜
- 「(包丁を取り上げる)さて、口くらいはきけるはずだが、
話してはくれないだろうな……思考を読むか」
- 竜胆
- 「……更ちゃん、止めた方がいいよ……その子は、何かに
支配されてる……」
- 剽夜
- 「そのようだな。しかし、このままにしておくわけにもい
かん」
- 竜胆
- 「その子……強すぎる……! 離れて!」
- 剽夜
- 「? な、何だ?」
- 少女
- 「壊す!」
少女は自らを戒めている影を取り込んでいた。その影は、剽夜の支配を離れ、逆に剽夜を束縛しようとした。
- 竜胆
- 「更ちゃん! (エーテル攻撃)」
またもや少女は無言でふっ飛ぶ。
- 剽夜
- 「助かった、あきりん」
- 竜胆
- 「(はあっ)……その子……きっと、前に……知っていたよ
うな気がする」
- 剽夜
- 「……修羅の住人か?」
- 竜胆
- 「(無言でうなずく)……たぶん……あたしじゃ……倒せな
い」
- 剽夜
- 「あきりん、逃げるぞ(竜胆を軽々と抱き上げる)」
- 竜胆
- 「あ……ちょっと、更ちゃん(赤面)」
- 剽夜
- 「苦情はあとだ!」
- 竜胆
- 「ごめんね、重いでしょ」
- 剽夜
- 「お約束だな、こういう状況での(笑)」
- 竜胆
- 「……そんなこと考えてなかったのに」
- 剽夜
- 「まあ、いい。せっかくだから、なにか作戦でも考えてく
れ」
- 竜胆
- 「あたしがそーゆーの苦手なの、 知ってて言ってるんで
しょ」
- 剽夜
- 「はっ、そうだった。あきりんは素でロールプレイできる
希有な存在だったんだ……いつも、私が作戦を考えていたのだった……」
- 竜胆
- 「どーせ、あたしは素で大ボケキャラをロールプレイ出来
ますよーだ(ぷんぷん)」
- 剽夜
- 「私としたことがうかつだった……ん? あきりん、後ろ
を見てくれないか」
- 竜胆
- 「んー。追っかけて来てる……」
- 剽夜
- 「しゃれにならんぞ。夢で見たまんまではないか」
- 竜胆
- 「あたしの頭、蹴った時のアレ?」
- 剽夜
- 「そうだ」
- 竜胆
- 「あのまま、夢見てたら、勝ったんでしょ?」
- 剽夜
- 「うむ。たぶんな。しかし、皮肉にも、夢と同じなのは、
鞄がない事だ」
- 竜胆
- 「でも、あたしがいるってのは、夢と違うでしょ」
- 剽夜
- 「そうだな……さすがに疲れた。このへんで迎撃するしか
ないようだな……ほい」
- 竜胆
- 「……しかたないなあ。アレを使うしかないみたいね」
- 剽夜
- 「アレ?」
- 竜胆
- 「折伏刀。実体はないけど、十分効果はあるはずよ。特に、
あの子に憑いてるやつにはね……」
- 剽夜
- 「出し惜しみしてたのか?」
- 竜胆
- 「うん。だって、使ってる姿を想像してみてよ」
- 剽夜
- 「……変だな」
- 竜胆
- 「でしょ。絶対、変な目で見られるから、使わなかったの
左手を鞘に見立てるように、構える)」
- 剽夜
- 「酒飲みながら聞いた覚えはあったが……あきりんも使え
たのか」
- 竜胆
- 「ラーフィスちゃんよりは威力が落ちるけどね……結局の
ところ、使い手の霊力で威力が変わるから」
- 少女
- 「……修羅……壊す……殺す……」
- 竜胆
- 「……(剣を抜き放つしぐさ)」
- 剽夜
- 「私はなにをすればいいのだ?」
- 竜胆
- 「魔法で援護!」
- 少女
- 「……く……折伏刀か……」
- 竜胆
- 「見えるみたいね。だったら、話は早いわ」
- 剽夜
- 「援護魔法ね……。えーと、」
と言いつつ、剽夜はポケットからハンカチを取り出し、すばやく広げながら、呪文を詠唱する。
- 剽夜
- 「我が魔法名に於いて命ず。”布”と言う名をもって、そ
の天駆ける力宿らん。”天女羽衣”」
呪文の詠唱が終わると、ハンカチがふわっと浮き上がって、竜胆の体を羽衣のように覆った。
- 竜胆
- 「なにこれ、更ちゃん?」
- 剽夜
- 「いわゆる、天女の羽衣と言うやつで、体が軽くなる魔法
だ。あきりんは、足をけがしているからな……一応空も飛べるぞ」
- 剽夜
- (しかし、 この呪文は終わるとハンカチがだめになるんだ
よな……ふぅ、まっ、いいか)
- 竜胆
- 「あ、だいぶ楽に動ける。ありがとう、更ちゃん」
- 剽夜
- 「一宿の礼だ」
- 竜胆
- 「(少女に向き直って)出来れば使いたくなかったけど……
こっちもやられる訳にはいかないのっ! えぇぇぇい(ぶんっ)」
- 少女
- (包丁で受けようとする)
- 竜胆
- 「無駄よっ」
剽夜の霊視能力は、竜胆が手にした刀も、それに切り裂かれた少女の姿も捉えていた。
- 剽夜
- 「……凄い威力だな(道の霊体まで切り裂いてるぞ)」
- 竜胆
- 「まだまだ。浅かったわ」
- 少女
- 「くうっ……痛ぅ……」
- 竜胆
- 「もう一太刀浴びせておかないと安心出来ないわね……」
- 剽夜
- 「あきりん、これ以上やると、この子の肉体にまで影響が
出るぞ」
- 竜胆
- 「それはないわ。更ちゃんに見えてるのは、この子に憑い
てるやつの姿よ……この子は、まだこいつの中にいるんだから。こいつを折伏しないと……」
- 剽夜
- 「……本当に大丈夫なのか?」
- 竜胆
- 「これは、神の刀よ。その力も、神の手によるものよ。大
丈夫」
- 少女
- 「……痛い……」
- 竜胆
- 「! この子の魂が表面に……」
- 剽夜
- 「……あきりん? 何か出て来たぞ。……こ、これは……
これが、この子に憑いてたって言うのか……」
- 竜胆
- 「これは……修羅の住人じゃない! まさか、『眠れるセ
ト』の……そんな、そんなことって……(汗)」
- 剽夜
- 「あきりん?」
- 竜胆
- 「……ここで……倒しておかないと……」
- 剽夜
- 「あきりん!」
- 竜胆
- 「更ちゃん……あたし、勘違いしてた……憑いてたんじゃ
ない、この子が……こいつだったの……」
- 剽夜
- 「え? あきりんみたいにか? 転生体って言うのか」
- 竜胆
- 「うん……だから、こいつを斬ったら、この子も、無事で
は済まない……。でも、あたし、この子を……斬らなくちゃいけない……」
- 剽夜
- 「こいつが……あきりんの言ってた、『敵』ってやつなの
か」
- 竜胆
- 「うん……正確には、『敵』の一人……。あたしは、こい
つを斬らなくちゃ……それが、使命だから……」
- 剽夜
- 「どうしても、か」
- 竜胆
- 「あたしだって、本当は斬りたくない! でもね。やらな
いと……皆に、迷惑がかかるわ。今なら、この子だけで済む……」
- 剽夜
- 「……」
- 竜胆
- 「更ちゃん……今なら間に合うから、先に帰ってて……」
- 剽夜
- 「そうはいくか。あきりん一人置いて帰れって言うのか」
- 竜胆
- 「この子を……殺すところを……見られたくない……」
- 剽夜
- 「水臭いな。私とあきりんの仲だろう? それに、その刀、
本当に折伏できるなら、死ぬ事はないだろう?」
- 竜胆
- 「更ちゃん……ありがとう……」
- 竜胆
- 「貴方には悪いけど覚悟してね。えぇぇいっ、……やぁ」
竜胆は刀で少女の腕を切り付け、返す刀で足を切り付けた。少女は倒れ、
剽夜の目には、少女の霊体が傷ついてエーテルがどくどく流れ出すのが見
えた。
- 剽夜
- 『まぁ、これなら普通の人は暫く動けまい……』
竜胆は刀を握り直し、額にねらいをつけた。少女の顔を見ながら、竜胆
の頭にある思いが横切る。
- 竜胆
- (この子のように、私も覚醒に失敗していたら……)
少女の顔に自分が重なり、その思いに耐え切れず、思わず竜胆は少女か
ら目を逸らしてしまった。
- 剽夜
- 「危ないっ!! あきりん!!」
- 竜胆
- 「えっ……」
竜胆が目を開くと、目の前に包丁があった。しかし、その包丁はもう永
遠におろされる事はなかった。目線を下ろすとその訳が解った。少女の腹
部から木のナイフの先端が見えていたからである。
そして、少女の体がゆっくりと崩れ落ち、後ろから剽夜の体がゆっくり
とあらわれた。
- 竜胆
- 「更ちゃん、なんで……」
バシッ。乾いた音がビルの谷間にこだまする。
- 剽夜
- 「馬鹿。戦いの最中に目をそらすとは何事だ。死にたいの
か!!」
- 竜胆
- 「でも……でも、何も殺さなくたって……」
- 剽夜
- 「覚醒に失敗した修羅が、これから普通の生活をおくれる
と思うのか? 誰かが止めなきゃ、この子の回りの人も、この子も被害を受けるんだぞ!!」
- 竜胆
- 「ねぇ、じゃぁ、この子の魂は? この子の未来は? 一
体どうするって言うのよ」
- 剽夜
- 「魂は因果律に縛られているからな。修羅界に戻るだろう」
- 竜胆
- 「……」
- 剽夜
- 「この子の未来は、俺達が背負うしかあるまい。俺達には
その責任が有るんだ。人を殺すって言う事は、その人の全てを背負うって事だからな……過去も未来も」
- 竜胆
- 「でも、他の方法はなかったの!?」
- 剽夜
- 「無かったと言えば嘘になる。確かに最善の策とは言えな
い。しかし、考えてみろ。折伏するって事は、属性を変えるって事だ。修羅の権化と化した物から、修羅という心を全く消すんだぞ。そういう心を無くしてまともに生活できると思うのか?」
- 竜胆
- 「じゃぁ、これからも救うすべはないって言うの?」
- 剽夜
- 「いや、覚醒にさえ失敗しなければ、善の心も残っている
からな、折伏したら丁度よくなるんだがな。また、覚醒に失敗していても、折伏する力を加減すれば何とかなるだろう……。もっとも、それは大変難しい事だがね」
剽夜は、頭を掻きながら、竜胆の視線をかわして宙を見て言った。
- 剽夜
- 「……いやぁ、今回はとっさの事で術を使いそこなったん
だ。竜胆を失うわけにはいかなかったのでね」
それだけ言うと、剽夜はくるりと竜胆に背を向けた。そして、竜胆は風
の音が変ったのに気付いた。そう、それはまるで泣きぶさむように吹いて
いるのであった。
- 竜胆
- 「……」
そして、竜胆の返事は風の音にかき消され人の耳に届く事はなかった。
- 竜胆
- 「……更ちゃん……あたしは……正しかったの? もしか
して、あたしは……許されない事を……」
- 剽夜
- 「……」
- 竜胆
- 「前世がどうであれ、人を一人、殺してしまった……」
- 剽夜
- 「それは……」
- 竜胆
- 「あたしのせいで、更ちゃんの手を……」
- 剽夜
- 「……あきりん」
- 竜胆
- 「え?」
- 剽夜
- 「あきりんは何も気にする必要はないと思うのだが」
- 竜胆
- 「でも……」
- 剽夜
- 「結局のところ、あきりんの理屈を借りれば、本体がする
べき事のはずだ。あきりんはラーフィスの転生体なんだろう? 言ってみれば、代理人のようなものじゃないのか」
- 竜胆
- 「でも、あたしはラーフィスなのよ?」
- 剽夜
- 「最初から知ってた訳じゃないだろう。あきりんは責任感
が強いから、それを知った時に素直に従っただけじゃないのか。本当に戦うべきなのは、ラーフィスであって、その転生体であるあきりんじゃない。そう思うんだが……」
- 竜胆
- 「……」
- 剽夜
- 「そう考えないと、やっていけないぞ」
- 竜胆
- 「なんか、逃げてるみたいで嫌だ」
- 剽夜
- 「じゃあ、どうするんだ。この子の親に謝るのか?」
- 竜胆
- 「……」
- 剽夜
- 「だから、無理矢理でも納得するしかないんだ」
- 竜胆
- 「……」
- 剽夜
- (言い過ぎたかな……)
- 竜胆
- 「……わかった」
- 剽夜
- 「そうか。じゃあ、これからどうするんだ?」
- 竜胆
- 「とりあえず、この子を交番にでも……(ふらっ)」
- 剽夜
- 「あきりん? しっかりしろ……(ゆさゆさ)」
- 竜胆
- 「……疲れたみたい……更ちゃん、お願いできる?」
- 剽夜
- 「私一人では怪しまれるではないか。せめて交番までは一
緒に来てもらわないと……」
- 竜胆
- 「そうだね。じゃ、行こっか……」
- 文雄
- 「どうしたのかね、二人とも顔色が良くないぞ。……とき
にその娘は何なのかね?」
- 竜胆
- 「……」
- 文雄
- 「やれやれ、言いたくないのかね。(少女にルーズリーフ
をあてる)」
- 剽夜
- 「みゅう、いきなり封印する気か?」
- 文雄
- 「別に資料術は封印するばかりがのうじゃないんだがね。
実際には封印するよりは、こうして読み取るだけのほうが楽だぞ」
- 剽夜
- 「(ルーズリーフを読む) ……正確に読めているな。傷害
者、能力、身体状況……このままでは一時間後に衰弱死か……」
- 文雄
- 「助ける気が有るんなら、新谷ゼミに連れていくぞ。そう
でないなら……預かっておこう。紙に封じて。封じている間は時も凍ったままだから死ぬことはないし……それを苦痛に感じることさえできんからな」
- 竜胆
- 「竜王様……本当に、あたしたちは……いえ、何でもない
です」
- 文雄
- 「……気にする事はない。間違った事はしていないはずだ
からな。それより、助ける気はあるのか、ないのか」
- 竜胆
- 「力だけを……封じる事は出来ないのですか?」
- 文雄
- 「(しばし沈黙)無理だな。解っているはずだ、お前自身
が、そうできないように」
- 竜胆
- 「あたしは、この子を助けたいのです。たとえ、それが使
命に反するとしても……この子に、罪はありません。そうでしょう?」
- 文雄
- 「……その通りだ。では、吹利学校まで付き合ってもらう
ぞ。大丈夫だ、新谷先生は信用出来る人物だからな」
- 竜胆
- 「はい……」
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