エピソード67『竜胆の父』


目次


エピソード67『竜胆の父』

突然の電話

ぷるるるる……ぷるるるる……。

竜胆
「はい、豊秋れす(チョコパイを食べてる)」
父・竜明
「あ、おとうさんだけど」
ビィ
「あぎゃ?」
竜胆
「(静かにしてなさい。ぐいっ) え、お父さん。どーした の?」
父・竜明
「いや、今度出張で、大阪に行くから、ついでに顔でもみ てこうかと思ってな」
竜胆
「え? いついつ?」
父・竜明
「明後日」
竜胆
「(で。その日は更ちゃんと映画を見る約束が……でもで も、お父さん、気前がいいから、お小遣いくれるかも……ううん、どーしよっ。悩んじゃうぅ(0.1秒)) ……うん、わかった」
父・竜明
「じゃあ、吹利の駅に着いたら、電話するからな」
竜胆
「はーい」

がちゃ。

竜胆
「はうっ、更ちゃんに電話電話……(ぴぽぱ)……出ない(^^;)
これぞまさに電話に出んわ……って、バカ言ってる場合じゃないってぇ(^^;)」
ビィ
「あぎゃ」

その頃の更毬剽夜。

剽夜
「ぬおおおおおお(がちゃがちゃ)。私はっ、覇王丸に愛を 感じるんだあ! (侍魂をやってる)」

父、きたる

さて、当日。

竜胆
「結局、当日になっても連絡が着かなかったよぉ(^^;) こーなったら、覚悟を決めるしかないわっ」
剽夜
「お待たせなのだ」
竜胆
「あ、更ちゃん。あのね。ちょっと相談があるんだけど」
剽夜
「なんだ、唐突に。そりゃ構わんが。対戦に付き合って欲 しいのか? しょうがないなあ」
竜胆
「ちがーう! あのね。びっくりしないで聞いてね。
……お父さんが、こっちに来てるの……」
剽夜
「ほう。それで、食事でもどーだ? なんて言って来たん だな」
竜胆
「そーなの。でね、吹利駅で待ち合わせてるんだけど……」
剽夜
「それなら問題はないではないか。映画を見た後、行って 来るといいぞ」
竜胆
「それがね。待ち合わせ時間が……今なの……」
剽夜
「何! それは、つまり、私にも付き合えと言うのか(^^;)」
竜胆
「だって、更ちゃん捕まらないから、今日まで連絡つかな かったんだもん(^^;)」
剽夜
「むう。覚悟を決めるしかないのか」
竜胆
「そんなに固くならなくてもいいと思うんだけ……」
父・竜明
「お、いたいた。竜胆」
竜胆
「おとーさん!」
剽夜
(ほう。これがあきりんのパパか。さすがに似てないな)
父・竜明
「おかーさんも来てるんだ」
竜胆
「え。聞いてないよ(^^;)」
父・竜明
「びっくりさせようかと思ってな。ん? そちらの彼は?」
竜胆
「あ、えーと。おんなじサークルのぉ」
剽夜
「更毬剽夜と申します。はじめまして。暁工科大工学部3 回生です」
父・竜明
「はじめまして、竜胆の父、竜明です。不出来な娘がいつ も世話になってます」
竜胆
「不出来って、おとーさん(^^;)」
父・竜明
「本当のことだろう。それに、こういう場では、そう言う ものなんだ」
竜胆
「それはわかってるけど」
剽夜
「(さすがあきりんのパパだ。ただモンじゃない)」
父・竜明
「さて、せっかくだから、更毬君。君も一緒にどうだ?」
剽夜
「せっかくの親子水入らずというやつなのに、悪いですよ」
父・竜明
「日頃、竜胆が世話になってるお礼と言う意味で、どうだ い」
剽夜
「そういう意味なら、お言葉に甘えさせてもらいます」

焼肉屋にて

なぜか焼肉屋。

父・竜明
「恥ずかしい話だが、竜胆は焼肉が大好きでね(じゅーっ)」
竜胆
「おとーさん、だったら言わなくてもいいじゃないぃ」
父・竜明
「はっはっは。いいじゃないか(ぱく)」
剽夜
「なんとなく、わかりますよ。竜胆さんを見てれば
じゅーっ)」
竜胆
「(さすがに改まった場ではそーゆー模範的な呼び方をする もんねぇ。更ちゃんって呼ぶのは、止めた方が良いかな?)
父・竜明
「更毬君。改まってもらわなくてもいいよ。普段呼んでる 呼び方でいい」
剽夜
「そうですか。普段はあきりん、って呼んでるんですけど ね(ぱく)」
父・竜明
「ああ、構わないよ。その方が、かしこまらなくていいだ ろう(ごくごく)」
竜胆
「おとーさん、あたしの分も残しといてよ。ほっといたら、 全部食べちゃうんだから(ごくごく)。更ちゃん、隙を見せたら、駄目だよ。自分のお肉は確保しないと(せっせせっせ)」
剽夜
「あきりん。言葉通りの行動だな(^^;)」
竜胆
「こーゆー食欲魔人と暮らしてたら、こーなっちゃうのよ
ぱく)」
父・竜明
「食欲魔人とは失礼だな」
竜胆
「ぴったりだと思うんだけど……」
父・竜明
「私のどこが食欲魔人だ? (ぱくぱく)」
竜胆
「そーやって、ぱくぱく食べるところ」
剽夜
「仲のいい親子ですね」
竜胆
「……なんか引っ掛かる言い方ね」
剽夜
「あきりんのお父さんなんだな、ってよく解りますよ」
父・竜明
「まあ、竜胆も全然女の子らしくないからな。更毬君も大 変だろう」
剽夜
「ええ、もう(笑)」
竜胆
「(なんか、和やかだ……ドラマなんかじゃ、すごく険悪 になるはずなのに……)」
竜胆
「ちょっと、失礼……ほほほ」
父・竜明
「……相変わらず変なやつだ」
剽夜
「そうですね」
父・竜明
「さて、更毬君。一つ訊ねたい事、いや、確認したい事が 有るんだがね」
剽夜
「なんでしょう?」
父・竜明
「竜胆のコト、どこまで知ってるのか、それが知りたいん だ」
剽夜
「……おっしゃる意味がよく解りませんが」
父・竜明
「吹利がどういうところかは、私も少しは知っているつも りだよ。娘を下宿させているところだからね」
剽夜
「……あき、いや、竜胆さんの事ですか……、竜胆さんに は、いつも驚かされてばかりですよ」
父・竜明
「それもそうだろうな。竜胆には、いろいろと変わったと ころがあるからな。話題を限定しよう。その、竜胆の変わったところについて。これなら、少しは話せるんじゃないか?」
剽夜
「竜胆さんの、性格とか……」
父・竜明
「人格とかね」
剽夜
「彼女の、人格についてはかなり知っているつもりではい ます」
父・竜明
「そうか。分裂症患者だと思ってるのかい?」
剽夜
「私を試すつもりでしょう? そんなことはありません。 私は、竜胆さんをそんな目で見た事はありません。もちろん、おじさんもそうでしょう?」
父・竜明
「そのつもりではいるよ。ただ、世間が常にそう思ってく れるとは限らないからね」
剽夜
「竜胆さんが、紅雀院に入ったのも、それが理由ですか?」
父・竜明
「ああ、あのままこっちにいても、竜胆にとっていいこと は決してなかっただろうしね。こんな事件を知っているかい。『高校生集団脳死事件』。3年前に、起こったんだが」
剽夜
「……知っています。竜胆さんも、それに?」
父・竜明
「あの子だけは無事だったがね。事件のあらましを、私の 知っている範囲で話そう……まあ、高校生のグループが、全員脳死に陥った、それが新聞の見出しレベルだな」
剽夜
「私の知っているレベルでは、そのグループのメンバーに は、いくつか共通点があります」
父・竜明
「流行っていたのかどうかは知らないが、彼らは、みな、 前世では仲間だと思っていたようだね。強大な敵と戦う為に、ともに戦った戦士だと。まあ、あの年頃の子たちによくある夢想ってやつだ」
剽夜
「竜胆さんも、そうだったんですか」
父・竜明
「あの子は、今でもそう思っているようだがね。私には、 信じられない。仮に、あの子が本当にそうだったとしても、それを確かめる事は出来ないからね……関係者が、みな脳死と判断された以上」
剽夜
「……」
父・竜明
「だが、あの子がそう言うんだから、そうなんだろう。私 はそう信じている。親だからね。君は、どう思っているんだい? 意見として、聞かせてくれないか」
剽夜
「私は、あの事件は、あながちウソではないと思っていま す。集団で脳死に陥った。しかも、原因は不明。私のような立場の人間なら、それで十分なんですが……」
父・竜明
「私のような人間だとね。そうは思えないんだ。科学的に 解明されなければ、こじつけてでも、科学の範疇に収まるようにする。それが、普通の人間っていうもんだろう」
剽夜
「……」
父・竜明
「たぶん、自分の娘が当事者でなければ、今でもそう思っ ているだろう。だが、竜胆を見ていると、竜胆がウソを言っているようには見えないし、なにか、思い込んでいる、それだけとも思えないんだ」
剽夜
「私のような若輩が、こんなことを言うのはなんですが、 その判断は間違ってないと思います。……娘さんに、御理解があるんですね……竜胆さんも幸せでしょうね」
父・竜明
「誉めないでくれよ、照れるじゃないか」
剽夜
「私は……竜胆さんが言っている事は、本当だと思ってい ます。詳しい事は解りませんが、なんらかの原因があって、高校生のグループは、全員……竜胆さんをのぞいて、脳死状態に陥った。それは事実ですしね」
父・竜明
「君なりの解釈を聞かせてくれないか……」
剽夜
「……竜胆さんに聞いたのですが、彼女たちのような、前 世の記憶を持った人間というのは、だいたい、その記憶の復活に関して、二通りのパターンがあるそうです。まず、うまれつき持っている者。この場合は、まったく問題がありません。精神的な負担と言う意味で。残る一つですが……後から思い出す、というパターンの方ですね。
こちらに問題があるんです」
父・竜明
「……つづけてくれないか」
剽夜
「前世の記憶が復活した場合、当然、今までの記憶とはな んの関連もない訳ですから、かなりの混乱を生じます。
その結果、精神的に参ってしまうこともあるでしょう。
竜胆さんも、それで苦しんだと言っていました。……一時、竜胆さんが別人に思えた時はなかったですか?」
父・竜明
「あったよ。高校3年の初め頃か。例の事件の起こる少し 前だ」
剽夜
「おそらく、竜胆さんたちのグループのメンバーは、その 時期にみんなして、前世の記憶を復活させたんでしょう。それで、その混乱に耐え切れず、精神の死、医学的見地で言う脳死に陥った。そう思っています」
父・竜明
「竜胆が別人のように見えたのは……」
剽夜
「精神を守る為だとおもいます。自分の人格を維持する為、 別の人格を作り出し、竜胆さん自身の人格は、殻に閉じこもった。そすることで、竜胆さんの人格は崩壊を免れた。たぶん、自衛作用でそうしたんだと思いますが……」
父・竜明
「……なるほど」
剽夜
「なぜ、竜胆さんたちがそうしたのかは解りません。すみ ませんが」
父・竜明
「いや、十分参考になったよ。一般には信じてもらえない だろうが、君の説明でかなり納得する部分があった」
剽夜
「……脳死に陥った高校生……竜胆さんの仲間ですが、回 復した人物はいるんですか」
父・竜明
「いや、いないよ。 少なくとも、私の知っている限りで は……」
剽夜
「竜胆さんがなかなか里帰りしない理由がわかりました……」
父・竜明
「こっちに戻って来ても、辛い事を思い出させるだけだろ うしね。正月とか、盆くらいにしか帰らなくていいと言ってあるんだ」
剽夜
「……」
竜胆
「お待たせしました……あれ? あんまり箸が進んでない のね。あたしの為に残してくれたの? おとーさん」
父・竜明
「ああ。せっかくだからな。滅多に食べないだろうから、 今のウチに食べておけ」
竜胆
「はーい……更ちゃん、おとーさんとなんか話した?」
剽夜
「いろいろと興味深い話をな……」
父・竜明
「更毬君は、お前にはもったいないくらい、人間が出来て るなあと思ってたところだ」
竜胆
「……複雑な気分」
父・竜明
「ははは。まあ、食べなさい。更毬君もね。遠慮しないで」
剽夜
「では、いただきます」

吹利駅前。

父・竜明
「じゃあ、おとーさんは帰るからな」
竜胆
「気をつけてね。駅、乗り過ごしちゃ駄目よ」
父・竜明
「お前じゃないんだから、そんなミスはしないよ……更毬 君と仲良くな(小声)」
竜胆
「うん」
父・竜明
「じゃあ、更毬君、これからも面倒だろうが、竜胆をよろ しく頼まれてくれるかい」
剽夜
「ええ、できる限り……今日は、ごちそう様でした」
父・竜明
「それじゃ、もう時間だから……(駅の構内に消える)」
竜胆
「行っちゃった」
剽夜
「……もう、こんな時間か。帰るのがめんどくさいな。ど うせ明日も休みだし、今晩、泊めてくれ」
竜胆
「いいよ。KOFの対戦でもしよ☆」
剽夜
「ああ」



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