1995年8月、ふと無連絡で4ヶ月もの自転車旅行に出ているうちに、いつの間にか親によって休学届けが出されていた狭淵美樹は、その間は行方不明とされていた。
その後、京都の下宿に戻らずに富山の実家にて、ゴロゴロしながら休学を解くタイミングを見計らっている。
妹の麻樹は、この休学に怒り狂っている。
正月三日。美樹の実家。美樹は書斎にて寝そべって読書中。
- 美樹
- 「うーむ。やはり、この人物は実在なのか。とすると、こ
こまではこの作者は完全に歴史的事実に基づいている、と。
とするとこっちはどうなんだろう、いったい」
起き上がって書棚の方へ向かおうとする。電話が鳴る。
- 狭淵家の電話
- 「電話だよ! 電話だよ! 電話だよ! 電話だよ!
電話だよ! 電話だよ! 電話だよ! 電話だよ!
電話だよ! 電話だよ! 電話だよ! 電話だよ!」
これが呼び出し音である。美樹は引き返して受話器を取る。
- 美樹
- 「はいもしもし」
- 向こう側
- 「もしもしもし」
- 美樹
- 「もしもしもしもし」
- 向こう側
- 「もしもしもしもしもし」
- 美樹
- 「もしもしもしもしもしもし」
- 向こう側
- 「もしもしもしもしもしもしもし」
- 美樹
- 「もしもしもしもしもしもしもしもし」
- 向こう側
- 「もしもしもしもしもしもしもしもしもし」
- 美樹
- 「もしもしもしもしもしもしもしもしもしもし」
- 向こう側
- 「もしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもし」
- 美樹
- 「もしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもし
指を折って数えている)」
- 向こう側
- 「もしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしも
しもし」
- 美樹
- 「む。一回多かったな。そちらの負けですね。うーむ」
- 向こう側
- 「くぅ。負けた……で、美樹だな」
- 美樹
- 「と言うことは麻樹か」
- 麻樹
- 「そうだが」
- 美樹
- 「いまどこだ?」
- 麻樹
- 「いま、公衆電話があるところに降りてきた」
- 美樹
- 「山頂から初日の出でも拝んでたのか?」
- 麻樹
- 「いや、雪が降っていて駄目だった」
- 美樹
- 「そうか。いまから戻ってくるのか?」
- 麻樹
- 「さすがに一回は戻らんとまずいだろう」
- 美樹
- 「まぁ、そうだな」
- 麻樹
- 「多分夕方の6時半の列車で富山駅に着く」
- 美樹
- 「そうか」
- 麻樹
- 「迎えに来るように。自動車で」
- 美樹
- 「うむむ。判った」
- 麻樹
- 「あ、後で色々と話がある」
- 美樹
- 「着いてからにしないか(汗)」
- 麻樹
- 「うむ。着いてからな。ゆっっくりと」
- 美樹
- 「うむ。じゃぁ、富山駅で」
- 麻樹
- 「では」
切れる電話。一つ溜息をつく美樹。天井をしばし睨んだ後に一言。
- 美樹
- 「ま、いっか」
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