エピソード101『観楠のパンは……』


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エピソード101『観楠のパンは……』

ある晴れた昼下がり、ベーカリーへ続く道。日阪朝がベーカリーへと歩く。

現在時刻AM11
50、初夏の日差しが朝の肌をきつく照り付ける。

朝はベーカリーに入っていくと、既に定位置となったカウンター席右から三番目(彼はここが好きだといつも言う)に腰を下ろし、アルバイトの女子高校生浅井素子が出てくるまでの間に、ハンカチで額の汗を拭った。程なくして、店の厨房のほうから店長の楠観楠といっしょに浅井素子が姿を現す。

素子
「あ、朝さん、いらっしゃいませ(礼をする)」
「あ、素子ちゃん、観楠は……後ろに、おるな(笑)」
観楠
「なんや、いたら悪いか?」
「別に……あ、レーズンロール1つとアイスコーヒーな」
素子
「はーい」

浅井素子は注文された品を持ってくるために、スカートを翻しながら厨房へと姿を消す。

観楠
「なんや、えらい小食やな」
「パソコン買い替えるかも知れへんからな、節約してんね ん」
観楠
「そうか。ほんなら、腹はへってんねんな?」
「こう暑いと食欲無くなるわ……とかいう奴がおるけど、 やっぱ腹減るときは減るもんやで」
観楠
「ここは友人のよしみで、一つパンを奢ったろ」
「ホンマかいな! おっしゃ! さすが観楠や。子供のえ え手本や」
観楠
「……」
観楠
「で、タダで食わしてやるからには条件付きやで」
「なんやて?(ゴクッ……とつばを飲む)」
観楠
「出したものを食え……だ」
「なんや、そんなことか。てっきりかなみのお守りをしろ とか……」
観楠
「大事な娘をお前の管理下におけるかっちゅうねん(^^;」
「まぁえええわ。パンは嫌いとちゃうしな」

ちょうどその時、浅井素子が冷たいコーヒーと、パンを持ってきた。

観楠
「あ、素子ちゃん、 僕が持つよ……(と言って、朝のパン とコーヒーを受け取る)」
「サンキュ」
観楠
「素子ちゃん、例のパン1つ持ってきてくれないかな……」
素子
「え!? アレですか?」
観楠
「そう……朝に食べてもらうことにしたからね」
素子
「わ、わかりました(不幸な朝さん……)」

不安そうな表情を残して再び厨房に消える素子……
 程なくして、普通のロールパンに砂糖が乗ったようなものを素子が持ってきた。

素子
「はい……店長さん」
観楠
「ああ、ありがとう……朝、これや」
「ふむ……普通の菓子パンにみえるな」
観楠
「パクッと行こう!」
「ふむ……パクっとな、パクっと……(かぶりつく)」

その瞬間、驚愕とも、恐怖ともとれる、複雑な表情を浮かべた朝は、手元のアイスコーヒーですべて喉の奥に流し込んだ。その場で吐かなかったのは、観楠に対する礼儀と、素子の目を気にしての二つの理由からだけであった。

「ゲ、ゲホッ! ケホッ! ……何や、このぱんは!?」
素子
(あーあ、たべちゃった……という顔で目をそらす)
「答えんかいな」
観楠
「……イワシの魚粉パンや……」
「……腹いっぱいや……帰る……」



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