エピソード152『バレンタインという行事もそう言えばありましたねぇ』


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エピソード152『バレンタインという行事もそう言えばありましたねぇ』

2月13日の夕刻。美樹の下宿。電話が鳴る。

電話
「おぉーいっ、電話だぞぉっ おぉーいっ、電話だぞぉっ おぉーいっ、」
美樹
「はい狭淵ですけど」
高校時代の後輩
「あ、先輩? 明日空いていますか? P先輩の就職祝選 びに行きません?」
美樹
「ん? 明日? 構いませんよ」
高校時代の後輩
「んじゃ、どこで待ち合わせましょう?」
美樹
「そうですねぇ……吹利大橋の北側の歩道なんてどうでしょ う。発見しやすさでは間違いないですし」
高校時代の後輩
「判りました。で、時間取りたいんで、早めにしたいんで すけど」
美樹
「うーむ。11時ではどうかな」
高校時代の後輩
「ならそうしましょう。11時に、吹利大橋の北側歩道です ね。それじゃぁ11時に」
電話
「つーぅ、つーぅ、つーぅ、つー」

翌日。10時40分。吹利大橋の北側歩道。

美樹
「……風が冷たひ。
そうか。橋の上という待ち合わせ場所にはこんな盲点があったんですねぇ。ウンウン」

風が吹きすぎていく。風が吹きすぎていく。風が吹きすぎていく。

美樹
「この風では本も読めませんしねぇ」

20分経過。

高校時代の後輩
「先輩!」
美樹
「や」
高校時代の後輩
「こ、ここ、寒いですね。早く動きません?」
美樹
「そうですねぇ。ちと冬場の待ち合わせ場所には向きませ んでしたね。今度からは一考しましょう」
高校時代の後輩
「早く行きましょ」

後輩に引っ張られるようにして歩く美樹。
 着いた先はファンシーショップである。
 就職祝を送る相手のPは、美樹にとっての中学からの腐れ縁的親友、彼女にとって高校の部活の先輩である。
 三軒ほど廻ると、もう、昼を軽く廻っていたが、まだ、送るものは決まっていない。

高校時代の後輩
「おなかすいたし、お昼にしません?」
美樹
「そうですね。もう一時ですからね」

実は、珍しく、昨夜夕食を取っていた美樹はあまり空腹ではないのだが、それを言うと、栄養士を目指している彼女にこっぴどく叱られるのが判っているので口にはしない。
 二人は、デパートの最上階のレストラン街の洋食店にはいる。

高校時代の後輩
「バイキング方式だから、お得よ。ここ」
美樹
「ふーん。良く来るの?」
高校時代の後輩
「大学の仲間と」

彼女の大学は、女子大である。
 彼女と友達達がここに来る様子を想像して、少し美樹の口元がほころぶ。

美樹
「そーなんですか。わたしは滅多にこう言うところで食事 はしませんからねぇ」
高校時代の後輩
「先輩。ちゃんと食事しないとまた痩せますよ」
美樹
「実はまた50キロ割っているし」
高校時代の後輩
「ほんっとにもぉ、……死にますよ」
美樹
「死にたかぁ、ないですね」
高校時代の後輩
「ならちゃんと食べて下さい!」
美樹
「ほい。(肩を竦めて)気をつけます。
……でも、良くそんなサラダ入るね」
高校時代の後輩
「サラダだけでも十分に元が取れますよ」

食事はつつがなく進行する。で、一段落。

高校時代の後輩
「あ、で、これ」
美樹
「あ、チョコ? んー。サンクス」

そのチョコの箱を、5インチフロッピーサイズだなと考えながら
 すっぽりといつも本を持ち運んでいる鞄に入れる。

高校時代の後輩
「じゃ、行きましょ」
美樹
「レジ、まとめて払っときますから」
高校時代の後輩
「後で出しますね」
美樹
「ん、判りました」

心の中で肩を竦める美樹。
 その後の買い物で、Pへの贈り物は土鍋に決まった。
 夜。いつものようにベーカリー楠に寄って帰った美樹の下宿。
 今日はベーカリーがやけに騒がしかったと思いながら、
 チョコレートの包みを開けて半分ほど食べ終わった美樹。
 電話に手を伸ばして、短縮ダイヤルを押す。

電話
「ぷぽぱぺぷぷぷぺぺぺぺ」
高校時代の後輩
「はい。平瀬です」
美樹
「あ、わたしです」
高校時代の後輩
「あ、先輩?」
美樹
「いえいえ、チョコの感想でもと思いまして」
高校時代の後輩
「どうでした?」
美樹
「なかなかおいしかったですよ。あと、形が面白いですね。 開いた本の形ですか」
高校時代の後輩
「あ、壊れてませんでした?」
美樹
「大丈夫でしたよ」
高校時代の後輩
「よかったぁ。一回、ゴンってぶつけたから、こわれてる んじゃないかって思ってたんです」
美樹
「いえいえ、全然大丈夫でしたよ。では、貴重なカロリー 源、有り難うございました」
高校時代の後輩
「ええ」
美樹
「のこりもゆっくり賞味させていただきます」
高校時代の後輩
「それじゃあ。また。おやすみなさい」
美樹
「おやすみなさい」
電話
「つーぅ、つー」



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