3月14日。吹利市、京大吹利キャンパス内の公衆電話ボックス。
美樹が電話をかけているようです。
あ、出てきました。4時半らしいです。
4時15分過ぎ。京阪吹利駅。
人を待たせるのが嫌いな美樹は、早めに来すぎています。
しかし、読む本はいくらでもある模様。柱にもたれ掛かって、何やら、「九谷焼と甲冑」なる古ぼけた本を広げています。
背表紙に値段のシールが貼ってあるところを見ると古本のもようです。
居心地悪そうに、背中をしきりにもたれ直しています。
あ、駅の出口の方から、ショートカットの女性が現れました。
美樹を見つけると真っ直ぐに向かってきます。
「先輩!」
声をかけられて、美樹は本をしまってショルダーバッグを持ち直す。
「や」
短く、返す。
「その辺の喫茶店でもはいろか?」
そう言いながら、駅の出口に向かう二人。
「あ、先輩? あたしいい喫茶店見つけたんですよ。パンも売ってるの」
「へー」
そういう店って結構あるんだなぁと考えながら、相づちを打つ美樹。
「ベーカリーが、メインみたいなんだけどね」
「なんて店?」
「ベーカリー楠ってゆーの」
思わず転けそうになる美樹。
「ぶない。割るところであった」
「どうしました?」
「それ、知り合いの店なんですよ。ほら、ネット関係のさ」
「ふーん、そうなんだ」
「という訳で、別の店にしませんかね」
「えーっ。いいけどーっ」
少しふくれる彼女。
美樹は、ごまかすつもりか、アーケード内の小さな店を指さす。
「で、そこにしません?」
「アオダマ? ふーん、ま、良いですけどね」
「お茶一杯ぐらいおごりましょう」
「らっきー」
軽く肩をすくめながら店に入る美樹。
テーブルについて、美樹はアップルティーを、彼女はロシアンティーを頼む。
「で、これ。一応おかえしということで」
美樹は、いつもの鞄から小ぶりの箱を取り出して彼女に手渡す。
「ん。ありがと。帰ってから楽しみに開けてみるわ」
……んで、用件は終わったようで、1時間弱の歓談のあとで、
二人は、店を出ていく。
「ほんじゃ、また」
「じゃ」
店の前で反対方向に分かれていく二人。
しかし美樹は気付いていないもようです。
この店も、高校生組のたまり場であったということに……(笑)
#このあと特に話題には発展しなかったのか……