エピソード213『カムバック素子!?』


目次


エピソード213『カムバック素子!?』

ある日の情景

浅井素子が受験のため一時的にバイトを止めて、だいぶの月日が経った……ように、関係者一同には思える今日この頃。

観楠
「(コポポ……)……ふぅ(溜息)」
「何溜め息ついてんねや?」
大輔
「そこはそれ(笑) いつもなら……(にやり)」
「なるほど(笑)」

本編

観楠
「はぁ……(こーひーをこぽこぽ)」
竜胆
「はぁ……(プリンをひしひし)」
観楠
「あーあ」
竜胆
「うりゅぅ〜」
「……二りして何虚空見つめてんねん!? 五月病かいな?」
観楠
「(朝の方を向きもせず)へろろーん」
客A
(侵入する)
観楠
「……(5秒ほど遅れて)……いらっひゃいませ」
「(頭を抱える)……こりゃ完全なビョーキやな」

客A、パンを買って帰る。

竜胆
「みゅぅ……モコちゃん……」
観楠
「あるばいとぉ〜(語尾に『浅井ちゃん』が省略されてい る)」
「だぁぁぁぁっ! うっとぉしいったらあらへんわ! 男 なんやったらもっとシャキッとせんかシャキッとぉぉぉ!!」

観楠、0.00542秒でシャキッとする。
 竜胆、遅れることコンマ00045秒でシャキッとする。

観楠
「シャカッ!」
竜胆
「ジャキッ!」
「(ななな、何やこの変わりようは? 俺の言葉ってそん な影響力あるんか?)」

カラン、コロン……ベーカリー楠のメイン・ドアーが、上部に取り付けられた来客探知用の鐘の鳴る溌剌とした音と共に開かれ、五月の日差しもまぶしい表通りから、店内の客三名にとっては見慣れた……それでいて懐かしい顔が覗いた。

素子
「お久しぶりです(にこっ)」
観楠
「もももももも……」
竜胆
「もももも……」

観楠と竜胆の『も』が音波の振動数の若干のずれによってうなりを形成する。

観楠
「素子ちゃん!?」
竜胆
「モコちゃん!?」

ああ良かったな観楠&竜胆! 神はあなたがたの深き祈りを無駄にはなさらなかったああすばらしき宗教信仰。

素子
「店長さんも……竜胆さんも……ほんとにお変わりなく……」
(うっ……既に忘れられてるでぇ……)
観楠
「もことともとこと素子ちゃん(舌絡みモード)」
(やっぱビョーキや)

瞬間、浅井素子であったはずの顔が後部からの衝撃で前のめりに倒れこみ、一瞬にして観楠や竜胆、そして朝の視界にあるのは浅井素子の後頭部となった。そして、その後頭部に、ドアの隙間から飛び掛かる影があった。
 刹那、浅井素子の後頭部は飛び込んできた節操のない人物のジャングルブーツに無残にも覆われてしまった。効果音は『げしっ!』である。

観楠
「もとこ……ちゃ……」

と言うよりも早く、飛び込んできた人物が口を開いた。

琢磨呂
「俺から逃げようだと? 四九万五千時間早ェんだよ!」
観楠
「ちゃ……ん……! 琢磨呂君、なんてことを!」
竜胆
「いーーわーーさーー? あたしの可愛いモコ……」
琢磨呂
「馬鹿野郎!  これを見て物を言えってんだぜ。まった く……どこがどーゆーふーに『可愛いモコちゃん』なのか、北大西洋潜水艦保有条約に即して800字以内で説明してみろよ、姐さん!」

そう言って琢磨呂が首根っこを掴んで引っ張りあげたのは、女物の服を着た男……紛れもない『音祇君』であった……合掌。

観楠
「……」
竜胆
「……800字……だったわよね?」
琢磨呂
「馬鹿言ってんじゃねーぜ? ま、コイツのおかげで、ス タン弾頭のテストが出来たってもんだがな。じゃ!」

そう言って、気絶した音祇を琢磨呂は引きずり、そして店を出ていった。

観楠
「はぁ〜」
竜胆
「みゅぅ〜」

そこには、再び『モコちゃんいないよサミシイよ』病にうなされる観楠と竜胆、そして両者に呆れる朝のみが残った。

エピローグ

音祇は、確かに竜胆と観楠に大ダメージを与える事に成功した。だが、琢磨呂と言う最大の壁に阻まれ、計画は半ば失敗におわった。なぜ琢磨呂が音祇を追っていたのか、琢磨呂の試用した『スタン弾』なるものは謎に包まれたままである。
 また、この事件において最大に悲しい人物となったのは、確かに観楠であり竜胆であるが、筆者としては、最後まで無視され続けた『日阪朝』ではないだろうかと思う。
 このところ、読者の諸君の意見とやらを聞いてみたく思い、ここらでペンを置くこととしよう。



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