エピソード245『なんか忙しい狭淵美樹』


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エピソード245『なんか忙しい狭淵美樹』

ある日曜日の天気のよい昼前。美樹の下宿。
 美樹は大量の試験資料に囲まれて唸っている。

電話
「おーい。電話だぞっ」
美樹
「はい、狭淵ですけど」
友人I*1
「あ、俺」

*1 美樹の中学時代からの悪友。今年から社会人。

美樹
「なんですか」
友人I
「今暇か?」
美樹
「全然」
友人I
「どうした」
美樹
「試験前でしてね」
友人I
「そうか。それは残念だな。今から舞鶴までドライブしよ うかと思ってな」
美樹
「みょうこう(*2)が来ていますよね」

*2 言わずと知れたイージス艦三番艦。

友人I
「そうなんだ。気分転換も必要だろう。来い」
美樹
「……うーむ。行きたいのは山々なんですが……(目 の前の試験資料の山と睨み合う) やっぱりだめですね」
友人I
「そうか。次の機会にしよう。次は試験なんぞには負けん からな」
美樹
「うむ。頑張ってくれ」
友人I
「んじゃ」

電話、切れる。
 と思った瞬間に再び電話がなる。

電話
「おーい。電話だぞっ」
美樹
「はい、狭淵ですけど」
友人K*3
「あ、狭淵。久しぶり。今から出てこれる?」

*3 美樹の小学時代からの友人。今年から目出度く司法試験浪人。

美樹
「わたしは試験前なんですが」
友人K
「そうか、駄目か。古書フェアがあるんで誘おうかと思っ
たんだが」
美樹
「……無念ですね。それ、いつまでやっているんですか?」
友人K
「今日でおしまいなんだよな、これが」
美樹
「……残念ですが、また次の機会と言うことにしましょう」
友人K
「ふ。まぁ、試験頑張ってくれたまえ」
美樹
「(嘆息)あぁ、頑張らせてもらいますよ」
友人K
「そんじゃぁ、また」

電話、切れる。
 と思った瞬間に三たび電話がなる。

電話
「おーい。電話だぞっ」
美樹
「はい、狭淵ですけど」
叔母J*4
「あ、美樹?」

*4 美樹の母親の年の離れた妹。中学校教師で独身貴族。

美樹
「叔母さんですか。どうしました?」
叔母J
「今京都駅なんだけど、観光案内してくんないかなぁ。 バイト代は出すわよ」
美樹
「……今、試験前なんですよ」
叔母J
「みーきーくーん? このあたしの頼みが聞けないってゆーの?  このあたしの頼みが」
美樹
「あのー」
叔母J
「いーわ。明日までは京都にいるから。で、試験はいつなの?」
美樹
「明後日です」
叔母J
「そっか。んじゃしかたないわね」
美樹
「また……次の機会と言うことで」
叔母J
「また今度ねー!」

電話、切れる。
 と思った瞬間に四たび電話がなる。

電話
「おーい。電話だぞっ」
美樹
「(なんかもうどうでもよくなってきた)狭淵ですけど」
後輩H*5
「あ、先輩?」

*5 美樹の高校時代の部活の後輩。前に書いたエピソードにも登場している。

美樹
「あ、平瀬さん?」
後輩H
「先輩……機嫌でも悪いんですか?」
美樹
「いや、少し立て続けに電話がきてたもんでね」
後輩H
「それならいいんですけど。試験勉強、はかどっていますか?」
美樹
「まぁ、ぼちぼちかな」
後輩H
「ちゃんと食べてます?」
美樹
「……一応は」
後輩H
「またコーヒーばっかり飲んでいるんじゃないでしょうね?  朝から、何食べました?」
美樹
「……コーヒーは五リットルほど飲んでいる。 で、リッツを一本食べて……。おや? そう言えば昨日からリッツしか食べていない」
後輩H
「そんな事じゃないかと思った。今から差し入れもっていきます
から」
美樹
「……あんがと(うー、部屋を片づけんとあかんではないか)」
後輩H
「それじゃ今から行きますから」

電話、切れる。



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