ある日曜日の天気のよい昼前。美樹の下宿。
美樹は大量の試験資料に囲まれて唸っている。
- 電話
- 「おーい。電話だぞっ」
- 美樹
- 「はい、狭淵ですけど」
- 友人I*1
- 「あ、俺」
*1 美樹の中学時代からの悪友。今年から社会人。
- 美樹
- 「なんですか」
- 友人I
- 「今暇か?」
- 美樹
- 「全然」
- 友人I
- 「どうした」
- 美樹
- 「試験前でしてね」
- 友人I
- 「そうか。それは残念だな。今から舞鶴までドライブしよ
うかと思ってな」
- 美樹
- 「みょうこう(*2)が来ていますよね」
*2 言わずと知れたイージス艦三番艦。
- 友人I
- 「そうなんだ。気分転換も必要だろう。来い」
- 美樹
- 「……うーむ。行きたいのは山々なんですが……(目
の前の試験資料の山と睨み合う) やっぱりだめですね」
- 友人I
- 「そうか。次の機会にしよう。次は試験なんぞには負けん
からな」
- 美樹
- 「うむ。頑張ってくれ」
- 友人I
- 「んじゃ」
電話、切れる。
と思った瞬間に再び電話がなる。
- 電話
- 「おーい。電話だぞっ」
- 美樹
- 「はい、狭淵ですけど」
- 友人K*3
- 「あ、狭淵。久しぶり。今から出てこれる?」
*3 美樹の小学時代からの友人。今年から目出度く司法試験浪人。
- 美樹
- 「わたしは試験前なんですが」
- 友人K
- 「そうか、駄目か。古書フェアがあるんで誘おうかと思っ
-
- たんだが」
- 美樹
- 「……無念ですね。それ、いつまでやっているんですか?」
- 友人K
- 「今日でおしまいなんだよな、これが」
- 美樹
- 「……残念ですが、また次の機会と言うことにしましょう」
- 友人K
- 「ふ。まぁ、試験頑張ってくれたまえ」
- 美樹
- 「(嘆息)あぁ、頑張らせてもらいますよ」
- 友人K
- 「そんじゃぁ、また」
電話、切れる。
と思った瞬間に三たび電話がなる。
- 電話
- 「おーい。電話だぞっ」
- 美樹
- 「はい、狭淵ですけど」
- 叔母J*4
- 「あ、美樹?」
*4 美樹の母親の年の離れた妹。中学校教師で独身貴族。
- 美樹
- 「叔母さんですか。どうしました?」
- 叔母J
- 「今京都駅なんだけど、観光案内してくんないかなぁ。
バイト代は出すわよ」
- 美樹
- 「……今、試験前なんですよ」
- 叔母J
- 「みーきーくーん? このあたしの頼みが聞けないってゆーの?
このあたしの頼みが」
- 美樹
- 「あのー」
- 叔母J
- 「いーわ。明日までは京都にいるから。で、試験はいつなの?」
- 美樹
- 「明後日です」
- 叔母J
- 「そっか。んじゃしかたないわね」
- 美樹
- 「また……次の機会と言うことで」
- 叔母J
- 「また今度ねー!」
電話、切れる。
と思った瞬間に四たび電話がなる。
- 電話
- 「おーい。電話だぞっ」
- 美樹
- 「(なんかもうどうでもよくなってきた)狭淵ですけど」
- 後輩H*5
- 「あ、先輩?」
*5 美樹の高校時代の部活の後輩。前に書いたエピソードにも登場している。
- 美樹
- 「あ、平瀬さん?」
- 後輩H
- 「先輩……機嫌でも悪いんですか?」
- 美樹
- 「いや、少し立て続けに電話がきてたもんでね」
- 後輩H
- 「それならいいんですけど。試験勉強、はかどっていますか?」
- 美樹
- 「まぁ、ぼちぼちかな」
- 後輩H
- 「ちゃんと食べてます?」
- 美樹
- 「……一応は」
- 後輩H
- 「またコーヒーばっかり飲んでいるんじゃないでしょうね?
朝から、何食べました?」
- 美樹
- 「……コーヒーは五リットルほど飲んでいる。
で、リッツを一本食べて……。おや? そう言えば昨日からリッツしか食べていない」
- 後輩H
- 「そんな事じゃないかと思った。今から差し入れもっていきます
から」
- 美樹
- 「……あんがと(うー、部屋を片づけんとあかんではないか)」
- 後輩H
- 「それじゃ今から行きますから」
電話、切れる。
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