とつぶやきながら原稿用紙をペンでつつき、左手ではしきりにコーヒーのカップをまわしている。
三彦は傍らでベレッタF92を分解している岩沙を覗きこみながらその作業を見ていたのだが、どうも先程から進んでいない。
スライドの肉厚豊かなドルフィンタイプなのに無理矢理引っ張って外そうとしたり、ネジ外しで反対にまわしかけたり、分解前にマガジンを抜くのを忘れていたり、はたで見ていてもわしにやらせろぉぉぉぉ状態になってくる。が、ざんねんながら三彦はベレッタF92の分解方法を知らない。そのモデルガンは持っていないし、なにより個人的にベレッタ社は好かんという以上持つ気もない。
その様子を、観楠がじーっと見ている。
いや、ぼーっと見ているという表現がより正しい。
どーしよう。歩を使う? いや、持ち駒はこれ1つだし、次に攻められる角の防衛用に残しておいたほうがいいかな。となるとここは金、いや金はもったいないな銀、銀では力不足だなあ。竜を戻すか? それももったいないしなあ。一手損する。それにしても仮にも師匠なのに、香くらい落としてくれたっていいじゃないかあ。くぅぅ、また負けそう。みゅ、王を囲ったのが敗因かなぁ。
いや囲わないと無茶苦茶な突撃をしてくるからなあれ? つむ? いや、間違い。やっぱりつまないか。むぅぅ、金でいくか銀でいくか……。
ぶつぶつと続けながらペンのほうは全然原稿用紙の上を動いていず、隅のほうにメモが2、3文字ある程度。
バレル回りの潤滑油を確かめて、スプリングを落ちないようにカップにくっつけて置く。分解したパーツを机の上に並べるから、テーブルの半分くらいはパーツ置き場になっている。ネジが一つ、ころころころ……と床の上に落ちた。もとより誰も気付く筈もない。
むぅぅ、金を出すと角が這入って来るぞ。やばいなあ。でも銀じゃ力不足だしなあ。やばいなあ。しかし金を出すしか無いんだろうなあ。音祇の脳裏に敗北の文字が電光掲示板よぎり。数字の3。
しかし、金を出すしかないし。あれ、この桂で飛んだらどうかな? うぉ、王さん丸出し。ほしけりゃやるよ。そんなしょうぎってあるか。
原稿用紙のうえにバカボン風の太陽が描かれている。