エピソード251『イメージし易いんだけど、イメージしきれない世界』


目次


エピソード251『イメージし易いんだけど、イメージしきれない世界』

ベーカリー楠

60畳はゆうにある、ベーカリー楠内部。その空間に机は3つ椅子は長いの6つ、調度といえばそれだけなのでよけいただっ広さが強調されている。
 観楠はその事に気付いた。

観楠
「……ね、三郎君」
三郎
「ぼくは三郎じゃないです。さぶちゃんです」
観楠
「え? ……いや、だから三郎君」
三郎
「上層の意識においての三郎の認識はさぶちゃんなので、 ぼくもさぶちゃんです。植木三郎のシャドウとしての、かなみちゃん内部ではさぶちゃん。同様に観楠さん、あなたは湊川観楠のシャドウとしてのパパですよ」

意識内部の、認識としての観楠は、同時にこのベーカリーのただっ広さの意味も理解する。これは、かなみちゃんの夢の中だ。

観楠
「……道理でなんか、台詞の調子がいいと思った」
三郎
「ぼくもですよ。意識の中で自分の意識を持ったのは初め てだし。……ところで店長さん、なぜこんなことになったのか心当たりあります?」
観楠
「う……うん、あれかな。
僕が……これは、かなみちゃんの夢の中での僕がなんだけど、この僕が夢の中でかなみちゃんの謎について思い出したからなんじゃないかな」
三郎
「かなみちゃんの謎を解くには、かなみちゃんの心の内部 に潜るのが良い、と気がついたんですか」
観楠
「そう、ここにいる僕が、そう気付いたの」
三郎
「しかし、湊川観楠のシャドウとしてのあなたがそういう ことに気付くということは、現実世界の湊川観楠がそういう疑問をかなみちゃんに向けたことから、かなみちゃんの心にそういう疑念が入って来たということではないですか」
観楠
「……他人の夢の中の存在なのに、よくそこまで考えられ るね。とにかく、そういえば湊川観楠がかなみちゃんの謎を知りたがってたことは確かだから、口に出さなくてもちゃんとかなみちゃんは感じ取ってたんだろうね」
三郎
「……まあ、そういう事ならさっさとかなみちゃんの深層 意識を探んに行きましょうや。謎が少しでも解けりゃ万歳ですよ」
観楠
「うん。出ようか」

駅前通り

二人はベーカリーを出た。快晴の空に大きな太陽が輝いている。
 60畳ほどあったはずのベーカリーは町並みの1つとして道のわきに解けこんでおり、そして駅前通りが平日の昼間の雰囲気を作り出していた。

三郎
「この辺り、かなみちゃんもよく知ってるんですか」
観楠
「駅までは連れていった事がある。それで、反対の方へは 小学校への曲がり角くらいまでならかなみちゃんも知ってると思う。けど、それ以上は行った事無い筈」
三郎
「となるとそこから伸びてる先は、かなみちゃんの想像と なるわけですね」
観楠
「うん……じゃ、その先に……あっ」
三郎
「あれ?」

猫が大きくなったようなのと軍人とが、道のわきで格斗している。

三郎
「軍人は……やっぱ、岩沙のシャドウですか?」
観楠
「三彦君が格斗してる所をまだかなみちゃんは見てないか らね。とすると猫のほうは……」
三郎
「……もしかして姐さんのシャドウ……」
観楠
「……まずい物見てしまったのかな」
三郎
「女性像が猫に乗せられる事は多いし」
観楠
「……さ、急ぐか」

草原

2、3の交差点を過ぎると、やがて道の脇の商店がまばらとなり、風景もくり返しが多くなってくる。

観楠
「やっぱり小学校の交差点を過ぎたあたりから、風景がぼ やけてきてるね」
三郎
「うん……見て下さいよ向こう。なんか草原があるんです が。そういう話とかしてたんですか」
観楠
「サバゲについて語ってた時のイメージかも」
三郎
「……こんな風景を想像してたのか」
観楠
「もしかしたらテレビの動物番組かも知れないけど」
三郎
「あ、なるほど……どうも、それっぽいですね」
観楠
「じゃあさっきの猫も、動物番組の猫のイメージが竜胆さ んのシャドウとして出て来てたのかな」
三郎
「きっとそれでしょう。……ずいぶん意識が直接的ですね。 現実そのままだ。かなみちゃん自身の想像が入らない限り謎には近づかないんだけど」
観楠
「しょうがないよ。まだベーカリーから少し歩いただけな んだから」
三郎
「……ところで、あの茂みに潜んでる軍人、岩沙じゃない ですか。あの近づいてくるやつ」
観楠
「えっ。……岩沙君。どうしてこんな所に」
岩沙
「俺のイメージと草原のイメージが重なってんだよ」
三郎
「ああ……そういえば、草原はサバゲのイメージでもあっ たんだ」
観楠
「なるほど、動物番組−草原−サバゲ−岩沙君、そう来た わけね」
岩沙
「むう」
観楠
「……ビィがいる」
三郎
「どこ?」
観楠
「ほら……あの樹の下」
三郎
「お、いた。……トラ、ライオンも一緒にいません?」
観楠
「……いる、ね」
岩沙
「まかせろ! なんか知らんが武器類はいくらでもある。
おまえも使うか?」
三郎
「いや、それは岩沙しか使えないんじゃないか」
観楠
「だろうね。僕もわからん」
岩沙
「ふむ、武装を許されたのは俺だけか」
三郎
「それにしても少し暑いですな」
観楠
「いや、べつに暑く……あれ? 暑く……暑いなぁ」
岩沙
「くそ、草が茂ってやがる。サバンナだ。いちばん戦闘が やりにくい」
三郎
「あー、草原の次はサバンナかっ」
観楠
「……もう、ベーカリーも見えないね」
三郎
「もう同じルートでは戻れないんでしょう」
岩沙
「うむ、地図によると、ここは周囲100kmは総てサバンナ の草地となっている」
三郎
「あーあ、でもまだ表層的なことには変わりがないし。こ れもどうせ動物番組の風景でしょ」
観楠
「あ……馬だ」
岩沙
「む? 馬だな」
三郎
「馬にしてはなんか変なもの付けてますね」
観楠
「あれは……ゼッケン?」
岩沙
「もしかして競馬馬じゃないか?」
三郎
「ああ、なるほど。かなみちゃんにとっていちばん馴染み がふかい馬といったらつまり、朝さんが見てる競馬雑誌の馬ですよ」
「どうも、そうみたいや」
観楠
「朝ぁぁ。賭事を教えるんじゃねー(目の幅涙)」
「ええやん。感受性の鋭いうちに学んどいた方が勝つで。 早期英才教育やな」
三郎
「……目の幅涙までちゃんとイメージにあるのか」
観楠
「え? あ? そういえば。くぅぅ、僕はかなみちゃんに こんな風に見られてたのかぁぁ(目の幅涙)」
三郎
「そのうち凍りつくような事もいうんじゃないですか」
観楠
「うっ」

教会

岩沙
「それはともかく、変な建物があるが」
「これは教会らしい」
観楠
「え? なんでわかる?」
「俺の目的地らしい」
三郎
「……なるほど、近鉄駅前の切支丹教会に似てるし」
観楠
「そういえば、かなみちゃんが中を見たいっていうから、 ちょっと連れて入ったんだった」
「俺は入るぞ」
岩沙
「どうする? 店長」
観楠
「うん、まあ、入ってもいいけど」
岩沙
「くそっ、何処なんだここは」
観楠
「ベーカリーから駅前通り、草原、サバンナ、教会と来た。 だから……つまり……教会だなあ」
三郎
「朝さん、そろそろ馬から降りたらどうです」
「ん。そうやな」
観楠
「うん、中も教会そのまま。たしかこの辺に入り口があっ て、大きい扉もこんな感じにあった」
三郎
「それじゃ表層の意識そのままですね」
観楠
「うーん、特に変わった所は無いなあ……」
「おまえら行った時、人はおらんかったんか?」
観楠
「え? あ。そういえば、結構人が来てたはずなのに」
岩沙
「牧師のおっさんもいねーな」
「ところで、あれは、人か?」
三郎
「いやあれは……、よくある天使像でしょ」
観楠
「あれ? ……白い服で、羽があって、……これ、かなみ ちゃんが読んでたお話に出てくる天使そっくりだなぁ……」
三郎
「ごく一般的なイメージですがな」
岩沙
「おい」
三郎
「ん?」
岩沙
「……今、こいつ、動かんかったか?」
三郎
「むー……」
観楠
「も、もしかしてこれ……いや、この人」
三郎
「おい、浅井」
素子
「なに?」
観楠
「うわっ」
三郎
「……しかしお前、すげーイメージだな」
観楠
「うん、そういえばかなみちゃんが読んでたお話で、天使 が怪我を治してたんで素子ちゃんみたいだねと言ってたんだよ。それだ」
素子
「あれ? 治療? ベーカリーでした事あった?」
岩沙
「こういうイメージがある以上、なんかしてんだろ」
三郎
「……くそ、しかし浅井、お前まで出て来たらますます表 層的な意識にしかいてられなくなるだろう。もっと深く潜らなきゃ謎の解決はできん」
素子
「いや、もうかなり深い層にまで来てるんじゃないの? 
あたしの表層のシャドウは多分、ベーカリーで働いてる姿だろうから……」
観楠
「あ、そうか、そうだよなあ……。じゃあもう表層意識は 突破したのかな?」
「……それにしては何一つ収穫が無いな」
三郎
「かなみちゃんがどういう目で我々を見ていたかが明らか になったのは収穫ですな。けけけけけけ」
観楠
「うっ(目の幅)」
岩沙
「まあまあ店長、姐さんよりゃマシだって」
竜胆
「……い・わ・さ?」
観楠
「あっ! 牧師さ……んじゃ、ない、竜胆さん」
三郎
「……猫のシャドウじゃないですな」
観楠
「うーん、あれはほんとにごく表層でのシャドウだったの かなあ……」
岩沙
(……なんかこの姐さん、ディープな感じがするぞ。かな みちゃんも深層では姐さんの過去を悟ってたのか?)
「しっかし、俺、なんで出て来たんやろ……」

一枚のタペストリが正面の壁にかかっている。

観楠
「もしかして、あの絵……」
三郎
「どうも、ぼくらみたいですね」
岩沙
「しかし三郎よ、店長と貴様しか描かれてないが」
三郎
「そうだよなぁ……」

絵のなかと外

観楠
「絵の中にぼくらがいるね」
三郎
「どうもわてらみたいやなぁ……」
観楠
「でも、それにしては向こうのほうが人数多くないかな」
三郎
「一枚表層の連中やと思うけど、こっちに来れたん、わて らだけとちゃうか」
観楠
「うん、そういえばこんな絵、うちには無かったしね」
三郎
「湊川観楠の家なら前行った事あるけど、なんかここは大 分イメージちゃうなぁ」
観楠
「かなみちゃんはこう見てたんだね……ベーカリーみたい に、やっぱり部屋が広い」
三郎
「店長さん、茶入りましたで」
観楠
「あ、ありがとう……ってうちの茶じゃないのこれ」
三郎
「ええの。どうせその辺はあいまいや」
素子
「ごめんなさい、ちょっと使わせてもらいました」
観楠
「あ、いや、いいんだ」
三郎
(こいつ、茶のイメージと連動しとんのか?)
三郎
「さて。どです。そろそろ疲れてませんか」
観楠
「うん……まだろくに動いてないけど、……たしかに疲れ てきたね」
三郎
「無理に動くからでっせ。理解できんままにふらふら動い たって意味あらへん」
観楠
「ふらふら動くっていっても、これは状況のほうが勝手に 変わるんだから仕方がないよ」
三郎
「浅井、お前はえらい楽そうやな」
浅井
「え? そりゃ日曜だし、朝から何処へも行ってないし…… 別に疲れてないけど」
観楠
「……どうも、動いてるのはぼくらだけみたいだね」
三郎
「それ以前に意志を持ってるのはわてらだけちゃうか」
浅井
「意志? 意志なんて」
三郎
「ああ、ちょいまち、お前さんの意志はかなみの記憶とし ての意志や。でもわてらの意志は意識内存在としての自由意志をもっとるんや」
観楠
「……そういえば、不思議だなぁ」
三郎
「何がです」
観楠
「ぼくはかなみちゃんの謎を知りたいという意志で自由意 志を持てたみたいなんだけど、三郎君、君はどうして自由意志を持てたんだろう」
三郎
「多分パイロットあーつまり水先案内人やな。店長、店長 が一人で行くのが不安で、誰か案内する人を欲しがったんとちゃいますか」
観楠
「現実世界で、湊川観楠が?」
三郎
「そう。で、かなみちゃんの意識内でいちばんぴったり当 てはまったんがわてという事とちゃいますか」
素子
「あたしも結構、出てるみたいだけど」
三郎
「おみゃーは2回きりだろが」
素子
「ベーカリーにもいたのよ」
観楠
「バイトで来てもらってたからかなみちゃんにとっていち ばん馴染みだったんじゃないかな」
三郎
「いや、それだけやったら自由意志なんか持てん。……そ れにしてはえらい付いて来おるなあ……」
観楠
「何かの象徴として出てるとか?」
三郎
「またえらい古い単語やな象徴……うーん、いや、ちょっ と解らんな。なんででとるんやこいつ」
観楠
「そういえば朝もなんの関連性もなく出て来たし」
三郎
「うわ、もう解らん、もう解らん」
三郎
「そうはいうものの、夢は眠りを妨害したりせんのか」
観楠
「……それはつまり、僕たちの存在がかなみちゃんの眠り に影響を与えないかどうかって事?」
三郎
「うん。わてらがここにおるちゅう事はかなみちゃんの前 意識もしくは無意識におしこめられとるわてらが、まあこれは直接わてらという訳やないが、それが意識にまで上がってきとるという訳で……面倒や、書くからこれ見てくれ」

                 |        意識    |
                |                 |
                |                  |
                |                     |
                |       前意識          |
                |=======================|
                |                       |
                |       無意識          |
                |                      |
                 |      Es             |

素子
「フロイト?」
三郎
「そや。要するに前意識や無意識でごちゃごちゃやっとる のがぽんと意識に出たらどうするという事」
観楠
「ごちゃごちゃしとるのって、何?」
三郎
「そらまー、その……ごちゃごちゃしとる奴や」
観楠
「謎、とか?」
三郎
「そやそや、それ」
素子
「たしかにさっき変な猛獣もいたし……そういえば植木、 殺されかけてなかった?」
三郎
「いや、かなみちゃんのイメージやからそこまではいって ないと思うが」
観楠
「それより、どうして素子ちゃん、それ知ってるの?」
素子
「え……そりゃ、見てましたし……」
三郎
「手前、さっきから全然おらんかったのになんでそんだけ 知ってんねん」
素子
「ええっ、……そんな事いっても」
観楠
「……そういえば」
三郎
「ぬ?」
観楠
「素子ちゃんが居ないのはまだ解るけど、どうしてかなみ ちゃんが出て来ないんだろう」
素子
「あたしは居るんですが……。……あ、もしかしたら、あ たしと同じように見えてないだけかもしれませんよ」
三郎
「店長、店長」
観楠
「うーん……」
三郎
「店長、かなみちゃんは、こいつらですぜ」
観楠
「え? ……あっ、そうか」
三郎
「わてら以外、人全員物全部がそうで」
観楠
「……じゃあ、この回りの情景も何もかも、全部かなみちゃ んなのか」
三郎
「ま、そゆことになります」
観楠
「ということは、さっきの道路……道路かな? まあいい や……その道路も、かなみちゃんの夢なわけだなあ」
三郎
「まー、ありゃごく表層のつまらんやつでしたが」
観楠
「う、うん。たしかにあまりこれといって見るものは無かっ たね……。
……よし!」
三郎
「うに?」
観楠
「もっと奥までいこう。こんな所で立ち止まらずに」
三郎
「行きますか、やっぱ」
観楠
「さ、みんな外へ出よう」
三郎
「みんなちゅうても、浅井がおりませんな」
観楠
「あれ……ほんとだ。また……」

電車に乗って……

ドアを開けてからしばらく歩き、電車に乗る。電車を降りてまたしばらく歩いている。その間の情景は定かではない。

観楠
「ちょっとしんどくない?」
三郎
「しんどいですな」
三彦
「貴様、これくらいの坂で何をへたばっておるかっ。いい か、前線で頑張っていらっしゃる将兵さんは……」
岩沙
「全くだ」
涼介
「そりゃきみらがちょっと急ぎすぎやわ」
三彦
「貴様、それでも帝国軍人か!」
涼介
「ちがうって……」
素子
「帝国軍人なら荷物もってよ〜」
三彦
「自分の糧食くらい自分で運ばんか」
出雲
「……元気だね」
岩沙
「そりゃ、軍人たる者」
観楠
「……サバゲのフィールドかな?」
三郎
「店長、サバゲフィールドにしては山道を登るのは面妖し い。それに樹が少なすぎる。フィールドじゃないと思うですが」
観楠
「あ、そうか……じゃあ、あれかな? あの山登りのとき の……」
三郎
「うーん……でも、それにしても樹が少なすぎると思いま せん? 一面茶色の山道ですよ」
三彦
「うむ、実に大陸的でよろしい。陸軍的なのがいかんが」
岩沙
「アンブッシュがないだけいーじゃねえか」
涼介
「……といいながら、なんで銃構えてるの?」
三彦
「ばかもの、帝国軍人たる者見張りがなってなかったら失 格だ。いついかなる時も陛下よりの恩賜の銃は使用可能なようにしておけ」
素子
「無いんだけど」
三彦
「……非国民め」
出雲
「君ら、重くない?」
岩沙
「む? たったの3.9kgですよ」
三彦
「自分のはもう少し重いが」
岩沙
「そりゃ旧式なだけだって」
三彦
「機構が簡潔で故障がなくて良いのだ」
涼介
「……3.9kgって、ノートパソコンより重いんじゃないの?」
素子
「あたしの286BOOKで3.7kgだから3.9kgって……重い!」
出雲
「うーん、元気だねー」
三郎
「店長、少し人数が少ないように思いません?」
観楠
「うん、それ思ってたんだ。それに見た事無い風景が続く しね……ちょっと考えてたんだけど」
三郎
「ふむ」
観楠
「三郎君さっき『夢は眠りを妨害……』って言ってたよね。 あれ、どういう事?」
三郎
「えー……つまりですね、眠りという物は精神の休息してい る状態といえますよね」
観楠
「……見えない、聞こえない、わからない……なるほど」
三郎
「いや、見えないはそりゃ目つぶってるんだから見えませ んが、聞こえてる物は聞こえてるんですよ。ただそれを認識していないというだけで。つまり判断を停止しちゃう。
ところが、大きな物音で目醒めたりしますよね。あれ考えると、寝てる間もちゃんと知覚は働いてるってことがわかります。少しだけど」
観楠
「……つまり、寝てる間は知覚の働きが極端に少なくなるっ て事?」
三郎
「そゆことです。で、眠りを妨害するって場合は、この少 なくなった知覚でもはっきりと認識できるような大きな刺激を与えてやればいいわけです。蹴るとかどつくとか」
観楠
「ふんふん。……なんか、わかりかけて来たように思う。 眠りを妨害するって、強い刺激を与えればいいわけだね」
三郎
「そうです。この精神内部から強い刺激を与えれば良いわ けです。蹴ったりどついたりする訳にはいきませんから、与えるダメージの種類は当然精神的なものです」
観楠
「なるほどなるほど、つまりショックな夢を見せればいい わけだね」
三郎
「ま、そうすりゃ立派に夢が眠りを妨害した事になります から。問題はどうやってショックな夢を見せるかですが、それは多」
三彦
「おいっ、小隊止まれ」
岩沙
「どうした?」
三彦
「これを見ろ」
岩沙
「……全員、伏せろ」
涼介
「どうしたん?」
岩沙
「この足跡を見ろ。百人は下らない軍がここを通ってるぞ」
三彦
「うむ、大軍の行軍の後だ」
涼介
「……なんで大軍が通ったら隠れなきゃならんの?」
岩沙
「軍事の基本だ、なぁ」
三彦
「うむ」
涼介
「はぁ……」
素子
「ちょっと待って、どうして軍隊って解るの?」
三彦
「それは……」
三郎
「太陽が黄色かったからだ」
素子
「……」
出雲
「で、伏せてどうするの?」
岩沙
「敵の動向を探る」
三彦
「うむ、斥候を出す」
観楠
「……あ、じゃあ、僕行って来るよ」
三郎
「ほなわしも行くか」
三彦
「よし、敵情を出来るだけ詳しく探ってアい」
岩沙
「気付かれるなよ」
三郎
「はっ。では植木伍長斥候に出撃するであります」
観楠
「……三郎君、やっぱりサバゲだったね」
三郎
「う〜む。それにしては全然フィールドらしくないですな」
観楠
「(はあ、はあ)……三郎君」
三郎
「(ぜえ、ぜえ)なんです?」
観楠
「これは……絶対おかしいよ」
三郎
「どこが……ですか」
観楠
「どうして、こんなに坂が続くの。こんな急な坂はかなみ ちゃん登った事ないはず……だろう」
三郎
「登山のときの記憶かもしれませんよ。かなみちゃんには あれくらいの山でも辛かったんでしょう」
観楠
「じゃあ、樹が全くないのはどういう事」
三郎
「……それが解らんのです。まあ、単なるイメージの集合 と考えれば苦にならんですが」
観楠
「イメージの集合ねえ……どうもこう登り坂ばっかりだと 疲れる……疲れる、って何か意味あるのかな」
三郎
「さあ……。わてらが意識持ちだからこんな所で疲れてる のかなぁ……。どうも単純ではなくなってきましたな」
観楠
「うん。全然知らないよ、こんな風景。僕はこんな所に かなみちゃんを連れていった事は……(!)」
三郎
「?」
観楠
(もしかして……僕の所に来る……前、の?)
三郎
「……ははあ。探り当てましたてね」
観楠
「え?」
三郎
「『かなみちゃんの謎』の尻尾、ですよ。より深層にある 謎の、前意識にまで出て来た尻尾をね」
観楠
「……どういうこと?」
三郎
「かなみちゃんが店長の所に来る前の記憶……ではないか、 と見ても面妖しくないわけですよね」
観楠
「……どうしてそれ、知ってるの」
三郎
「店長。店長は店長であり同時にかなみちゃんです。ぼく も同じくぼくであり同時にかなみちゃんです。……とはいえ意識を持っている以上ほかの夢存在とは少し違うので完全に思考を共有する事はできませんが。基礎知識は同じはずです」
観楠
「うん……じゃあ、かなみちゃんが来た時の状況も知って るわけか……」
三郎
「あくまで記憶にあるというだけですが」
観楠
「うん……。ところで、謎の尻尾って?」
三郎
「タグのような物です。無意識に入り込んだ記憶の中には 意識や前意識の中に何らかの手掛かりを残している事があります。前意識とは思いだそうとすれば比較的簡単に思い出せる記憶ですから、この中に残った尻尾は意識で認識することも容易なんです」
観楠
「……じゃあ、この土ばっかりの山道も、何かの尻尾……っ てことになるの?」
三郎
「多分そういう事だと思います」
観楠
「うーん……。……あれ」
三郎
「……あれ? ……店長、あれ見えます?」
観楠
「うん。馬と……それから……侍?」
三郎
「確かに侍です。……大鎧を着てますね」
観楠
「一騎だけ?」
三郎
「兜の鍬型から見て多分室町くらいの兵でしょう……室町 だから一騎でも別に不思議はありません」
観楠
「どうして不思議じゃないの?」
三郎
「……まあ、なんとなく」
観楠
「……。……ところで。どうする? 後をつけてみようか」
三郎
「さっきの足跡もこいつらですかね。……面白い、つけて みましょう」

キャンプ

観楠
「……三郎君、三郎君」
三郎
「……にゅ」
観楠
「……ちょっと……休まない……」
三郎
「……そうですね……ちょっと」
観楠
「じゃあ、あの樹の下あたりで」
三郎
「はいはい。……ふう」
観楠
「あー……、疲れた」
三郎
「どんなくらい歩きました?」
観楠
「さあ……。かなり歩いたよ」
三郎
「あのおっさん行ってまいますが、どうします」
観楠
「ごめん、ちょっと休もうよ」
三郎
「そうですな……わてももう疲れました」
観楠
「はー……ずっとこんな坂道ばっかりなのかなあ……」
三郎
「……店長、飲むもんなんかありません?」
観楠
「それ、僕も思ってたんだけど。無いかなあ……」
三郎
「小川一つないですな」

どのくらい休んでいたのか。やがて日が暮れる。

観楠
「……これからどうしよう」
三郎
「さあ……戻るにも戻れるやら」
観楠
「さっき来た道、わかる?」
三郎
「それが、解らんのです」
観楠
「……だよね……僕もわからない」
三郎
「……戻れそうにないなら、進むしかないです。……って どうせ元来た道を逆に辿ったとしても進むという事に変わりはないんですが」
観楠
「いや、イメージの連想で戻れるかもしれないよ」
三郎
「……同じ事だとは思いますが……まあ。戻るなら戻るで も」
観楠
「そうだなあ……」
三郎
「ま、それ考えるのは後にして。飯食いません?」
観楠
「えっ、三郎君食べ物持ってるの?」
三郎
「……店長、背中に背負っている日本軍装備のリュックに 飯盒ぶらさがってるでしょ」
観楠
「……あ、ほんとだ」
三郎
「リュックの中に固形燃料と米もあるはずです。あとは水 ですが……」
観楠
「……なんか、『水』って書いた缶詰があるんだけど」
三郎
「あ、それ水缶です。いくつあります」
観楠
「4つあるみたい」
三郎
「よかった。4合ほど米炊けます」
観楠
「……米はとがなくていいの?」
三郎
「今日の分の米だから、出撃前にといであるはずです」
三郎
「気を付けてくださいよ。この固形燃料、燃やしてる時そ ばへ寄ると目が痛いですから」
観楠
「いててて」
三郎
「……風下に行っちゃいかんです」
観楠
「いたいた」
三郎
「ま、そのうち治ります」
観楠
「ふー……痛かった」
三郎
「安物の固形燃料使うとこうなるんです」
観楠
「うーん……さすが日本製」
三郎
「日本だけじゃないですよ。目が痛くならない固形燃料使っ てるのはスイスだけです」
観楠
「むー……。ところで三郎君」
三郎
「なんです」
観楠
「これから……どうしよう」
三郎
「まあ、日も暮れましたし、そう動くこともないでしょう」
観楠
「じゃあ、今日はここで野営するの?」
三郎
「動いてもいいですが……闇夜だし、山の夜はどうなるか 解りませんよ」
観楠
「うーん……今日はここで野営かあ……。じゃあこの荒れ 山の一本道、明日もずっと進むの?」
三郎
「いつまでも荒れ山の一本道って事はないでしょう。夢は 一本道じゃないですよ」
観楠
「……」
観楠
「米だけの食事って、これだけで大丈夫かなあ……」
三郎
「米と水で一週間以上闘う将兵さんの苦労を思えば、この くらいなんともありません」
観楠
「三彦君みたいなこというなあ……」
三郎
「ま、おおかた大丈夫でしょう。ちょっとした山の2、3 日の行程ならベーコンとウィスキーだけで過ごせるくらいだし」
観楠
「……誰だいそれ」
三郎
「ともかく、さっさと寝ちまいましょう。リュックに天幕 が付いてるはずですから、はずして使って下さい」
観楠
「うーん……ついに野宿かあ」
三郎
「野外では日登ると同時に目がさめますよ。はやく寝てお いた方が」
観楠
「うん、わかった。じゃもう寝るよ」
観楠
(……結局なんなんだろうな。家を出て……それから…… えーと……どうやってここまで来たんだっけ。電車……に乗って……それで……みんながいて……三彦君と岩沙君が足跡を見つけて……。それから……侍。馬。朝。あ、素子ちゃん。……絵。樹。……教

さらなる内部

観楠
(あれ……なんだろう、ここは)

観楠は首を巡らし、まわりをぐるりと眺めた。木造の廊下−いわゆる縁側というものなのだろうか、片側が庭に面している廊下が続いていた。今、観楠は庭に向かって立っている。目の前には十段ほどの階段が庭に向かって降りており、その向こうには広い庭を隔てて門らしき物が見える。

観楠
(……三郎君は?)

観楠は三郎の姿を求めたが、見つける事はできなかった。
 階段の、向かって右手に橘、左手に桜、そして……ちょうど正面に常盤木がそびえている。中央の常盤木は南に向かってその枝を長くのばしており、その下に御座が作られてあった。

観楠
(……御座?)
三郎
「……店長」
観楠
「あ、三郎君。どこ行ってたの」
三郎
「いや……より深くへの意識内容の潜行を試みたら、なん か訳の解らない所に出てしまいまして……。前意識より下に降りるのはつらいですわ。やっぱ。 ……それに、どうも……まあ、当然ともいえますが、やはり意識構造図どおりに下に降りることはできませんね」
観楠
「え……それってつまり、あの図が間違えてたって事?」
三郎
「そりゃあれは意識構造というものの1つの仮説に過ぎな いわけだし……とにかく、そろそろ自由な移動が難しくなってきましたな」
観楠
「うん……ここはどこだろう?」
三郎
「どこでもないんじゃないですか」
観楠
「どこでもないって……。これに似た所、無かったかなあ」
三郎
「店長、時代劇とか見ます?」
観楠
「いや、僕はあまり見ないけど。……かなみちゃんが、大 輔さんと一緒にちょっとだけ見てたのは知ってる」
三郎
「……よく考えると時代劇にこんな所は出て来ませんな」
観楠
「うん、なんというか……もっと古いんじゃない? おか しいなあ……どっかで見たような……」
三郎
「集合的無意識というのがあります。……つまり、意識体 なら誰でも持っていると考えられている根底共通記憶」
観楠
「根底共通……?  つまり、誰もが元から知ってるよう な……というか……そういうもの?」
三郎
「はい」
観楠
「……じゃあ……僕のこの『どっかで見たような』が集合 的無意識だとしたら、三郎君、君にも共通の記憶だって事じゃないかなあ……」
三郎
「みゅう、そういえば。ぼくは知りませんね」
観楠
「……じゃあやっぱり僕の個人的な記……」
三郎
「店長、ちょっとあれ」

御座の前に一人の人物が立っている。彼は御座に向かって立っている……つまり常盤木に、さらには観楠や三郎に向かってもいるという事になるが、観楠や三郎に気付いた様子はない。

観楠
「……誰だろう」
三郎
「御座、って、台付きだから……天皇の座る所ですよね。 じゃああの人は……」
観楠
「……天皇?! ……なんでこんな所に!」
三郎
「いや、そうと決まったわけではありませんが」
観楠
「……椅子をじっと見るばかりで、座ろうとしないよ。やっ ぱり違うんじゃない?」
三郎
「うーん……あれ? 店長、あともう一人、誰かいません?」
観楠
「えっ? どこ?」
三郎
「ほら、あの御座のわきに……」

観楠はもう一度御座のわきを詳しく見た。
 はたして三郎の言うとおり、そこにはもう一人の人物が立っていた。
 一人の子供だった。
 観楠の視線はその子供の上に留められたまま、長く動かなかった。
 子供は、御座の前にたたずむ人物のほうに向き直った。

子供
「この木の南の御座こそが、安泰の場所でございます」

観楠は駆け出すことができず、ただ子供を眺めていた。
 子供、御座、そして御座の前の人物の姿は、観楠と三郎が茫然としている間にかき消すように無くなっていた。庭に面した廊下に残されたはただ観楠と三郎の両人のみだった。

観楠
「……三郎君、見た、ね」
三郎
「はあ……たしかに」
観楠
「たしかに、あの子……かなみちゃん、だったね」
三郎
「そう見えました」

観楠は三郎の言葉があまり届いていないかの如くに、顔を下に向けて何事か考えている。三郎にとってはただ無為な時間でしかなかったが、観楠はあらゆる可能性を考え、状況を理解しようとしていた。

三郎
「……自己の姿を自己として認識する例は、珍しくありま せん。それをぼくらが見たとしても、別に」
観楠
「いや、それより」
三郎
「?」
観楠
「かなみちゃんが言ってた事、聞いたよね?」
三郎
「ああ……『この木の南の御座こそが、安泰の場所でござ います』でしたか?」
観楠
「それなんだけど……」
三郎
「見た所この後ろの建物は書院っぽいですから。庭に向かっ た方が南だってのはあってると思いますよ」
観楠
「……そういうのじゃなくて……、木に南って書いたら、 もしかして」
三郎
「木に南……なるほど!」

認識はしたものの

三郎
「さて。こんな所でいつまでも留まってるわけにもいきま せんが」
観楠
「……いや……ちょっと待って……」
三郎
「何か」
観楠
「……その……なんというか……僕もどこか別の場所に移 動したいんだけど……その」
三郎
「移動したいんなら移動すれば……あ。なるほど。どこに 移動すればいいのか解らない状態ですね」
観楠
「簡単にいってしまえばそうなんだけど。……そうか…… 行き先が解らないのは三郎君もか……もか…… モカコーヒー」
三郎
「(聞かなかった事にしよう) どうせ解らんなら解らんば りに何処へ行ってもいいでしょう。あの正門から出ませんか」
観楠
「うーん……でも」
三郎
「何か」
観楠
「その……その、正門から出たら、あの……つまり……。
……あの子……に……会えるのかな」
三郎
「……ああ。その事ですか。そりゃどこに行っても意味は 同じです。とにかくかなみちゃんに少しでも関連が深そうな所を辿っていったらいいわけだから」
観楠
「……そっか。じゃあどこへ行っても同じなんだね」
三郎
「だと思いますよ。この場合、このでかい木造建築物と正 門とではかなみちゃんへの関連度という点ではどちらもいい勝負の無関連さですから」
観楠
「……そうだよね。
……そうだとしたら、なんでこんな建造物が……)
三郎
(しかし、店長の氷結ギャグイメージはちゃんとかなみちゃ んの精神内部にあったのか……)

木造の大きな門を開けると、すぐの所にもう一つの門がある。
 大きさ、形、ともに今の門とさほどの違いは無い。
 観楠はその門にもなにげなく手をかけ、押し開けようとした。
 だが、両開きの門はさきほどの門と違い、押しても全く動かなかった。

三郎
「店長、早く開けましょうや」
観楠
「うん……そう思って押してるんだけど」
三郎
「ナニか。錆びてるんですか」
観楠
「いや……そうじゃないみたいなんだけど」
三郎
「おかしいなあ……ちょっとどいてもらえます」
観楠
「ああ……はい」
三郎
「ファイア(SE:どごっ)! ……痛い」
観楠
「……大丈夫?」
三郎
「なるほどこれは固い」
観楠
「おかしいなあ……どこにもつっかえなんて……」
三郎
「ところで店長、これ錠とちゃいます?」
観楠
「あれ……あ、ほんとだ。じゃあこの鎖は……」
三郎
「扉全体に絡まってるじゃないですか。そりゃ開きゃしま せんよ」
観楠
「……いくつ付いてるの、これ」
三郎
「アディンドゥバツリィチトーリェピャーチシェスチシェー ミ……えーと……たくさん」
観楠
「……たくさん付いてる」
三郎
「うーむ……なんだこれ」
観楠
「どうする? これじゃ向こうへ行けないよ」
三郎
「……どっかに鍵でもあるんですかな」
観楠
「さっきの建物の中にあるっていうの? ……RPGみたい」
三郎
「かなみちゃんて、たしかRPGやった事無いですよね」
観楠
「うん……あの子はやった事無いはずだけど」
三郎
「もしかして他のがきの家でやってるかもしれませんが」
観楠
(ぴくっ)
三郎
「……ま、まあ、どうします」
観楠
「……(ぴくっ、は抑えて)うーん……」

フラグ

三郎
「じゃ、とりあえず戻ってみますか」
観楠
「うん、開きそうにないもんね」
三郎
「……実は引き戸になってたりして(笑)」

観楠と三郎は、たくさんの鍵に封印された扉を離れ、ふたたび庭に面した建物の縁側に立った。

観楠
「とりあえず見るとすれば、今はここしか無いわけだよね」
三郎
「多分そうでしょう。ここ以外にはとくに行くあてもない わけだし」
観楠
「……じゃあ、開けるか」
三郎
「さ、店長どうぞ」
観楠
「う、うん」

観楠は障子を開けた。12畳はあろうか、奥に置き床があるだけの簡素な和室が、外光に照らしだされた。

岩沙
「お館様、良いところにいらして下さった」
観楠
「ええっ?」
三郎
「(小声) 店長、調子を合わせて」
観楠
「(小声) あ……ああ……(岩沙を向いて)何かな?」
岩沙
「知らせが来ました。決断の時です」
観楠
「う……うむ……その前に、状況を確認する。岩沙、これ までの経緯を説明せよ」
岩沙
「ま、店長が知らんのも無理ないって」
観楠
「……え?」
三郎
「(小声) 調子合わせる必要無かったですな」
岩沙
「む? 植木殿、調子を合わせるとは?」
三郎
「(小声)……やっぱり調子合わせなきゃならんらしいです な」
観楠
「岩沙、それより状況は?」
岩沙
「はっ。……状況については我々軍人にお訊ねになるより 調査局の者に御訊ねになった方がよろしいかと」
観楠
「うん。じゃあ調査局の人呼んで来て」
岩沙
「了解っ」

岩沙は奥の襖を開け、退出した。

観楠
「……なに、これ?」
三郎
「さあ……なんでしょうね。……この辺のレベルの場合、 人物の姿のシャドウよりフラグのシャドウの方が強いですから、あの岩沙が何かの……たぶん軍事関係のだと思いますが……のシャドウと見たほうが」
観楠
「あの岩沙君、軍人の象徴なの?」
三郎
「多分」
観楠
「じゃあ、岩沙君で象徴される軍人って……何?」
三郎
「さあ……」
観楠
「しかし一体ここどこなんだろう……」
三郎
「さあ。もーさっぱり解らんです。……ながーいフィール ドを歩いてたあたりからどうも回りが曖昧になってきてます」
観楠
「こんな所に連れて行った覚えはないんだけどなぁ……」
三郎
「でも、お話とかの中では出てるんとちゃいます」
観楠
「うーん」

考え込む観楠。腕組みをして顔を下に下げた時、前の襖が音もなく開いて素子が入って来る。

観楠
「……」(考え込んでいるので気付かない)

三郎は時代風俗には詳しくなかったがなんとなく部屋が武家屋敷じみていることに気付いた。観楠と三郎は障子を背にして正座しており、入って来た素子は襖を背にして正座している。

素子
「お館……様?」
観楠
「え……うわぁぁああ」

店長、びびる。(なんでや?)

観楠
「ああぁ……びっくりした。素子ちゃん、どうしてこんな 所に」
素子
「……素子?」
三郎
「(小声) 店長、固有名詞はやばいですよ」
観楠
「(小声) え、どうして」
三郎
「(小声) もうこの辺まで来たら誰が誰とかいうのが無い んとちゃいますか」
観楠
「……よくわからないけど……」
素子
「あの……お館様?」
観楠
「は、はいっ!」
素子
「……詳しい報告はこちらの密書にありますので」
観楠
「あ、はいはい、これはどうも」
素子
「……では」

来た時と同じように、音もなく襖を開け退出する。

観楠
「……あー、だー、くそっ」
三郎
「どない?」
観楠
「も、訳が解らん。何だ何だ何だ。あーっ一体何がどうなっ てるのかさっぱり。いや。くそっ」
三郎
「……訳が解らん、と」
観楠
「そう。……ここは何処なんだ?! あれは一体誰なんだ?! 
だー……わーっ」
三郎
「さー……。わてはもうとっくの昔に訳わからんですよ。 まあこういう風にして普通の夢の中の存在はこれ以上の奥には行けなくなるんだと思いますがね。……わてらやからここまで来れたんですよ」
観楠
「……うーん」
三郎
「わてらは独立意識だから、ここから進むも戻るも自由に できますが」
観楠
「……うーん……そうか……。この訳の解らんのも、かな みちゃんの意識の中の何か、なのか……」
三郎
「探せばなんか見つかるかも知れませんよ」
観楠
「うーん……そうかあ……まだ何も解ってないし、ここで 止まってしまうと何も解らないまま終わってしまうんだなあ」
三郎
「ま、何も解らないって事は無いでしょう……いままで見 て来た物もそれぞれなんか意味があったはずです」
観楠
「そっか……」
三郎
「……さて、ではどうします」
観楠
「うん、やっぱり進もう」
三郎
「やっぱり、そうしますか」
観楠
「こうなったらとことんまで探りを入れてやる」
三郎
「探りを入れるなんざ、言葉が悪いですよ」
観楠
「あ、そういえば……じゃあ真相を究明するというのはど うかな」
三郎
「どっかの写真週刊誌みたいですが……まあそんな事はど うでもよく。さっきの手紙、何です?」
観楠
「ああ、あれ……。開けてみようか」

#ここまでで書き手が受験のため中座……。



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