エピソード323『ものがたりの中で』


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エピソード323『ものがたりの中で』

いつもと同じようにみんなが集まるベーカリー。
 そこへ、また人が入ってきた。

夏和流
(からんからん)
みのる
「ついたぞ」
観楠
「やあ、今日は遅かったね……どうしたの?!」
夏和流
(目に涙がたまっている)
みのる
「原因はこれです(本を出す) その前にとりあえず、麦茶 ありますか?」
観楠
「あ、うん……(麦茶を出す)」
夏和流
(黙って麦茶を飲む)
観楠
「それで……なにがあったの?」
みのる
「この本……こいつがいつも読むシリーズのヤツなんです けれどね。それの登場人物が死んだとかで、泣いているんです」
一同
「……(あきれかえる一同)」
観楠
「それで、泣いていたの? 別段大したことじゃ……」
夏和流
「(きっと睨む) どうして大した事じゃないんですか。好 きな人が死んだんですよ」
観楠
「いや、物語の中だけの話だし……(^^;;;;」
夏和流
「いっしょです。この世界も物語じゃないって、観楠さん 証明できます?!  『物語』だって『現実』かもしれないじゃないですか」
観楠
「それは……」
夏和流
「だから泣いているんです。ほっといて下さい」
ドア
 からんからん
文雄
「……どうしたのかね、つるしあげかね?」
観楠
「いや……小説の登場人物が死んじゃって悲しいんだそう で……(困惑)」
文雄
「うむうむ、分かるなその気持ち。私もいまだに悲劇を読 んだりすると涙ぐむもんだからなぁ」
一同
「(不信の目)」
文雄
「だがしかし、泣いている場合ではないのではないかね?」
夏和流
「え……?」
文雄
「君が本当に嫌ならば、手段はいくらでもあるはずだ」
夏和流
「手段……。僕にできるのは……。電話。FAX。葉書」
文雄
「うむ。それらの手段を使えば、なんとかなるかも知れな い」
夏和流
「そうか……。早速やってみます(だぁっしゅ)」
素早く去っていく夏和流。見送る一同。

文雄
「……意外に、単純だな。もう泣き止んでいる」
みのる
「あれがあいつの長所なんだろう。
ところで、俺は奴の代わりに代金を払うつもりはないが」
観楠
「え? じゃあ、この帳簿につけておかないと……」
からんからん。もう夏和流が戻ってきた。

夏和流
「すみません皆さん、住所と名前借ります(どさっ)」
テーブルに詰まれたのは山のような葉書の束……。



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