エピソード324『純愛セレナーデ:閉店前のベーカリー』


目次


エピソード324『純愛セレナーデ:閉店前のベーカリー』

登場人物

湊川観楠
う〜ん……素子ちゃ〜ん、かむばーっく! 
浅井素子
……店長……むにゃむにゃ

ベーカリーの夜

観楠
「じゃあ、緑ちゃん、あがっていいよ……」
「は、はい」
観楠
「緑ちゃんもどうにか慣れてきたかな……接客以外は……」

接客については生来の内気のせいか、相変わらずの緑嬢。しかし、それ以外の仕事については、飲み込みも早く、店長たる観楠を満足させている。
 これで接客ができれば……文字どおり新・看板娘なのだが。

「あの、それじゃ、お先……失礼します……」
観楠
「はい、お疲れさん。帰り、気をつけてね……って、慎也 くんがいるから大丈夫か」
慎也
「何言ってんですか(汗)」
「……」

二人が行ってしまうと、ベーカリーが急に広く感じる。

観楠
「……波風立たないのはいいこと……か。竜胆ちゃん、よ ほど悩んでたんだな……ま、元気になったみたいだから、よかったよかった」

その竜胆は、お土産を食べるとさっさと帰ってしまった。

観楠
「波風立たない……そういや、最近立ってないな……朝の やつは仕事が忙しいし、高校生組は受験……受験か」

先の看板娘も、受験を理由に退職した。
 さすがに厄介なイベントだ。

観楠
「元気で……やってるかな……」

ふと片付ける手が止まる。
 今は、冷やかす常連もいない。
 冷やかされることも少なくなった。
 もうだいぶ会ってない……

観楠
「会いたい……な」

素子

素子
「ふわぁぁぁぁ……眠」

見飽きた参考書を閉じて、素子は伸びをした。

素子
「……一年も勉強づけなんて……最悪」

素子は写真立てを手に取った。
 前の弾き語りのオフの時……もうしばらく参加してない……に撮った写真。

素子
「りん姉さんが撮ったんだよねぇ……岩沙のカメラで」

高校生組+年長組勢揃いといった趣。
 店長の隣で、自分が映っている。

素子
「店長……」

店長の言葉は、今も覚えている。
 返事は受験が終わってからでいいって……
 ホントは今すぐ言いたい。一年前みたいに、自然に、側にいたい。

素子
「……まだ、片付けは済んでないな……」

素子は受話器を取った。ボタンを押す手が、途中で止まる。

素子
「今、電話してどうなるの……?」

受話器を置いて、素子はベッドに倒れ込んだ。枕をぎゅっと抱きしめて、ため息をつく。

素子
「会いたいよぅ……」

声が聞きたい。顔が見たい。会って話がしたい。
 しばらく考えて、素子はベッドから起き上がった。

ベーカリーの夜part2

観楠
「……ふう。ぼーっとしててもしょうがないか。今ごろ素 子ちゃんだって勉強がんばってるんだ。僕ががんばらなくてどうするよ」

観楠は片付けをまた始めた。
 しばらくして、ドアを叩く音が聞こえる。

観楠
「……?」

この時間にくるなんて……馴染みの客じゃないな。
 観楠は営業スマイルを浮かべながら、ドアを開けた。

観楠
「すいません、もう閉店なんです」
素子
「……知ってます」
観楠
「わ、え、あ、も、素子ちゃん?」
素子
「店長……お久しぶりです」
観楠
「どうしたの……? こんな時間に……」
素子
「犬の散歩だって出てきました……」
観楠
「……ま、は、入ってよ(汗)」
素子
「はい、お邪魔します」
観楠
「……はい。紅茶でよかった?」
素子
「はい、いただきます」
観楠
「……」
素子
「……」
観楠
「(どーした観楠ぃ! 会いたかったんだろぉ! なんか 言えよぅ!)」
素子
「(素子、どーしたの? 会いたいからきたんでしょ)」
観楠&素子
「あの……^2」
観楠
「素子ちゃんから……どうぞ」
素子
「え……はい、その……会いたくて……来ました」
観楠
「僕も……会いたかったよ……」
素子
「そ、それだけですから……その……閉店で、忙しいのに、 失礼しました(汗)」
観楠
「気にしなくていいよ。会いたかったのは……僕だってそ うなんだから」
素子
「……店長」
観楠
「勉強、がんばってる?」
素子
「は、はい……早く……終わらせたいから」
観楠
「そうだね」
素子
「店長を……待たせてるのは……悪いですから」
観楠
「素子ちゃん……」
素子
「あの、店長、これ」
観楠
「……?」
素子
「ベルの番号です……」
観楠
「……」
素子
「それじゃ、もう遅いですし……帰ります」
観楠
「そ、そうだね、親御さんも心配するしね……」
素子
「店長……おやすみなさい。かなみちゃんにも」
観楠
「うん、伝える。おやすみ」



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