夏の夜。いつものように竜胆の部屋。
- 剽夜
- 「……(あきりんを怖がらせて遊ぼう)」
- 竜胆
- 「? なんか言った?」
- 剽夜
- 「……あきりん、いいお話をしてあげよう」
- 竜胆
- 「……?」
- 剽夜
- 「とっても涼しくなれるお話だ。ちゃんと聞くんだぞ。途
中で寝たりしないようにな」
- 竜胆
- 「ぎくっ」
- 剽夜
- 「ある所に、赤ちゃんとお母さんがいたのだ。お父さんは、
出張中で家にいなかった」
- 竜胆
- 「もしかして……恐い話?」
- 剽夜
- 「黙って聞きなさい。それで、ある晩のことだ。お母さん
は赤ちゃんを二階で寝かせて、下でテレビを見ていた。すると、電話が鳴った」
- 竜胆
- 「……ね〜、やめようよぅ」
- 剽夜
- 「電話は、出張先からのお父さんからだった。『赤ん坊、
大丈夫か?』 そう聞いてきたから、お母さんは、『さっき寝かせたから、大丈夫』って答えて、切った」
- 竜胆
- 「……ねーってば」
- 剽夜
- 「二、三分して、また電話が鳴った。『赤ん坊、大丈夫か』
って聞いてきたんで、『さっき寝かせたから大丈夫だって』って答えて、電話を切った」
- 竜胆
- 「……(びくびく)」
- 剽夜
- 「二、三分すると、また電話がかかってきた。お母さんは、
さすがに怪しく思って、電話を取った。よく聞いてみると、お父さんじゃないって気づいた。でも、さっきみたいに答えて、電話を切って、警察に電話した」
- 竜胆
- 「……?」
- 剽夜
- 「警察に、変な電話がかかってくるから逆探知してくださ
いって頼んで、電話を切ったら、すぐに電話がかかってきた。『赤ん坊、大丈夫か』」
- 竜胆
- 「きゃあっ!(抱きつきっ)」
- 剽夜
- 「(しめしめ) お母さんは大丈夫だって答えた。電話を切
ると、すぐに電話がかかってきた。取ると、警察からだった。『今すぐそこから出なさい』って言ってきた。『赤ん坊いるんですけど』『いいから、すぐに出なさい。そっちに行きますから』 警察がそう言うから、お母さんは家を出た」
- 竜胆
- 「いやいやいやっ……(びくびくぎゅ〜っ)」
- 剽夜
- 「(うひょ)んで、警察官が来て、家に入って行った……ど
うなったと思う?」
- 竜胆
- 「え? ……その……う〜……ち、血まみれ……?」
- 剽夜
- 「警察は無事だった。無事じゃなかったのは……赤ん坊。
変質者が二階に侵入してて、赤ん坊はめった刺しになってた」
- 竜胆
- 「……嫌……」
- 剽夜
- 「どう? 涼しくなった?」
- 竜胆
- 「……うん……でも、恐い話はやめてよぅ」
- 剽夜
- 「夏は怪談と相場が決まっているじゃないか」
- 竜胆
- 「あたしがそーいうの弱いって、知ってるくせに」
- 剽夜
- 「だからなんだよ」
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