エピソード353『おニューのバイクっ』


目次


エピソード353『おニューのバイクっ』

とある出来事

ある日、竜胆はいつものよーにバイクでふらふらとその辺を走り回って、家路につこうとしていた。赤信号。交差点の先頭。きゅきゅっと止まる。
 がっつん。
 竜胆は見事に路上に投げ出された。
 停止線からはみ出なかったおかげで、車にひかれることはなかった。
 が。
 哀れ、彼女の愛車は白いセルシオに踏みつけられていた。

竜胆
「……」
車の人
「あ、あわわわわ」
竜胆
「(無言で起き上がる)」
車の人
「や、やってもーた……だ、大丈夫ですか……?」
竜胆
「……弁償」
車の人
「は、はいはい。もちろんさせていただきます」
竜胆
「連絡先おしえて。免許証見せて。後で連絡するから」
車の人
「は、はいぃぃぃ」

バイク談義

緑が表の道に水をまいている。
 と、そこに黒いでっかいバイクがひゅるひゅると小気味いいアイドル音をたてて、すべりこんでくる。

「きゃあっ」
竜胆
「ごめんごめん、驚かせちゃった?」
「と……とっても」
竜胆
「まだ慣れてないんで……ね」
観楠
「おおっ? そ、それはぁっ!」
竜胆
「こんちは☆ へへ〜っ、いいでしょ〜」
観楠
「で、でけー(汗) CBR?」
竜胆
「もらいで全損したんで、買い替えました」
観楠
「でもさ、万が一ってこともあるから……病院は行っとい た方がいいと思うよ?(心配)」
竜胆
「もう行ってきました。擦り傷一個所だけでした(笑)」
「そんなに……スゴイんですか? これ」
観楠
「スゴイもなにも 、ZX-11を超えた唯一のバイクだよ。世 界最速の市販車なんだ」
「へーっ……すごく大きいですね」
竜胆
「うふ。みんなそー言うの」

そりゃそーだ。竜胆が乗ってると、バイクにへばりついてるようにしか見えないほど大きいんだ。

観楠
「サイドミラーにウィンカーが入ってる……このライト、 縦に二つ並んでるの?」
竜胆
「はい。最近のHONDAの傾向ですね(笑)」
観楠
「?」
竜胆
「今度のプレリュードは縦目らしいです。なんかヤって紫 擾くんが言ってました」
観楠
「うーむ(まじまじ)」
「メーター……330までありますね」
竜胆
「まあ、出した事ないけど、メーター読みで300は超すよ」
観楠
「ば、化け物……よくこんなの……乗る気になったね(汗)」
竜胆
「前乗ってたバンディットよりいいですよ。取り回しは辛 いけど、全然ぶれないんです。タイヤも標準でバトラックス履いてるし、ブレーキもコントロールしやすいし」
観楠
「……乗ってみたい……(ぼそ)」
竜胆
「いいですけど……」
観楠
「や、やっぱやめとく(汗) 転倒したりしたら大変だし」
竜胆
「店長さんもどうです? 大型☆ 教習所12時間でいけま すし……んで、ワルキューレに乗るの」
観楠
「あ、あれもあれで化け物だよ(汗) 1500だったっけ?」
竜胆
「ゴールドウィングもいいかもしれませんね☆ あれなら、 タンデムも楽ちんで、かなみちゃんも大喜び☆」
観楠
「……む〜。あのさ、思うんだけど」
竜胆
「なんです?」
観楠
「バカ高いバイク買うなら、いっそのことクルマ買えば良 いと思わない? これならかなみちゃんが落ちる心配もないわけで……」
竜胆
「……てんちょーさん(笑)」
観楠
「なんでしょう?(笑)」
竜胆&めぐみ
「うらぎりものぉ〜〜」
観楠
「な、なんで沙村さんまで(汗)」
竜胆&めぐみ
「(ブーイングの嵐)」
観楠
「じゃぁ……さ、竜胆ちゃんが乗るとか……(汗)」
竜胆
「あたしもめぐみもだめです」
観楠
「何故?(汗)」
竜胆
「だってぇ☆」
めぐみ
「ねぇ☆」
観楠
「事情が許さない限り無理ですっ(大汗)」
竜胆
「バイク乗るのに現実見つめてちゃつまんないですよ」
めぐみ
「(うなずく)」
竜胆
「確かにGLは高い。それは認めます。しかし! ロマンが あるじゃないですか。大陸的なおーらかさを感じられるじゃないですか。所有する喜び、誇れる愛車。自慢げに友達に話す娘の姿!」
観楠
「……最後のは、何?(汗)」
竜胆
「カローラに乗せるのと、GLに乗せるのと、どっちがいい でしょう? カローラじゃ普通です、普通過ぎます! その点、GLはいいです、普通じゃなさすぎます! 可愛い娘に普通じゃない体験をさせてあげたい、喜ぶ顔が見たい、 そんで、娘にこー言われたい、『父様、だ〜い好き☆』」
めぐみ
「……なんでカローラにこだわるの?」
竜胆
「普通すぎて、どこにあっても目立たないからだって更ち ゃんが言ってたから、普通の代名詞ってことで(笑)」
観楠
「しかし、経済的事情が……」
竜胆
「それはわかってます。……あ、そうか、なーんだ、解決 しちゃいましたよ(笑)」
観楠
「へ?」
竜胆
「お金を工面する頃には、かなみちゃんもおっきくなって るでしょうから、バイクから落ちる心配も減るです、はい」
観楠
「どーしても、僕がGL買わないとだめなの?(汗)」
竜胆
「需要があるから供給が成り立つんです。いまここに愛す る娘のために新しいバイクを買いたい父親がいる」
観楠
「そー……なのかな(汗)」
竜胆
「そーなんですっ。で、普通の買うとタンデムできない」
観楠
「そりゃまそーだね」
竜胆
「というわけで、めでたくGLを買うことに決定しました☆」
めぐみ
「おめでとー☆(ぱちぱちぱち)」
観楠
「……どーいうわけだよぅ(汗)」
竜胆
「あーもぉ、煮え切らないんだから! いーですか? 
こーいうのは欲しいときが買い時なんです」
観楠
「だからって……そー、ほいほい買えるシロモノじゃない よ、アレは(汗)」
めぐみ
「それに、経済的事情は最初からわかってますし」
竜胆
「問題は、店長さんの感覚ですよね。同じ百五十万円出し て買うなら、車が得かバイクが得かってことでしょ」
観楠
「ついでに、置くところもないなぁ(笑)」
竜胆
「あれだけおおきいとねぇ」
「あの、うちの父に相談してみましょうか?」
観楠
「いや別に(汗) ほんとに買うわけじゃからね(苦笑)」
めぐみ
「五十万円くらいなら、車の方が得ですけど、百万円超え たら、バイクの方がいいです」
観楠
「……じゃ、じゃあ車推進派の意見もきいてみようよ(汗) し、紫擾くんはどーかな」
時雨
「まぁ、 基本的にかかるお金はバイクの方が断然有利で しょう」
観楠
「ほうほう」
時雨
「しかし、ですねぇ。バイクをあまりおすすめしないのは いくつかの訳があるのです」
観楠
「なんですか」
時雨
「まず、乗る時期の問題ですね。基本的に真夏と真冬はつ らいでしょう。それに雨が降ったらもう大変ですよ」
観楠
「まぁ、そりゃそうでしょう」
時雨
「大事な娘さんを突然の雨でびしょぬれにするのはいやで しょう?」
観楠
「確かに」
時雨
「それと、まぁこれは賛否が別れるところでしょうが。バ イクの構造はもう10年ぐらいは何ら変化がないんですよ。
車ならGDIやらABS、LSD、アクティブヨーコントロールシステムと数え上げたらきりがない」
観楠
「そんなもんですか」
時雨
「それと万が一の時が有りますね。基本的に同じスピード で事故を起こした場合、絶対車の方が安全ですよ。かなみちゃんのためにもこれは重要です」
観楠
「確かに」
時雨
「基本的にモータースポーツはあくまでも機械と同居した 状態ですから機体の方も進化しないとねぇ」
観楠
「うぅ〜ん」
時雨
「まぁ、お金の問題にしてもゴールドウィングは中古なん てなかなかないでしょうが、車ならいくらでも有ります」
観楠
「それはそうでしょうね」
時雨
「150万有れば結構な車は買えますよ」
観楠
「でも、個性の点ではゴールドウィングに勝てないでしょ?」
時雨
「店長さん、それは基本的に間違いですよ。個性というの は自分で出すんです。市販の車をかって個性的なのは車が個性的なのであって、乗ってる人は限定されないんですよ」
観楠
「それはそうでしょうけど……」
時雨
「とりあえず本体を買う。そしてフルエアロ、アルミホイー ルを自分なりにアレンジしてつける。そして内装に凝る。これはバイクには難しいことです。それに飽きたら駆動系をいじる。足周り、ターボのブーストアップ、この辺なら今は合法的にやりたい放題ですよ」
観楠
「個人で使うのと、家族で使うのじゃぜんぜん違ってくる よ、そーいうの(苦笑) 一人身ならもぅ、やりたい放題なんだけどなぁ……やっぱりクルマかなぁ」
時雨
「そうですよ、やっぱり車ですよ。どうです、RX-7FCなん か150万もあれば良いのが買えますよ。2シーターなのでかなみちゃんとドライブできますし」
観楠
「いや、2シーターはちょっと……」
時雨
「なにかご不満でも?」
観楠
「その、まぁ何と言いますか。2シーターだと、大勢乗れ ないですよね?」
時雨
「そりゃ2シーターですから」
観楠
「クルマ買うならもっとこう、おとなしいので良いんです けど……」
時雨
「ほう」
観楠
「たとえば……家で使うのに不自由ないとか、荷を多く積 めるのが良いです」
竜胆
「GLなら積載量も並みじゃありません」
観楠
「え……と(汗)」
竜胆
「ちゃんとかなみちゃんも乗せられますし、しかも他人に 自慢し放題!
クルマなんて言わないで、これ買いましょっ!」
観楠
「だ、だからそれは無理だってば……(汗)」
「あの……さっきから、聞きなれない言葉がいっぱいで…… 会話が理解不能なんですぅ……」
竜胆
「あ、ごめんごめん。説明するから」
観楠
「かなみちゃんも……バイクに乗せてあげたいよなぁ…… TZRじゃ……辛いよなぁ……」
影跳
「あれぇ、店長さんどうしたんですか?」
観楠
「竜胆ちゃんがバイクを新しくしたみたいだから、品評会 を……」
影跳
「へぇ、どれどれ
これってCBR1100XXじゃないですかぁ。いいな。いいな」
竜胆
「影跳もバイクに興味があるの?」
影跳
「今度免許を取りに行くつもりです。中型ですけどね」
竜胆
「へぇ、免許とったら、みんなでツーリングにでも行きま しょ☆」
観楠
「かなみちゃんなんかも連れてね」
影跳
「えぇ」
竜胆
「じゃぁ、他の友達の所にも見せに行くからもう行くわね」

凄まじい速さで、走り去る竜胆

影跳
「りん姐さんかっこいいなぁ(ボソ)」
観楠
「かっこいいって、今の大木にしがみついたコアラのよう な竜胆ちゃんが?」
影跳
「いや、あの、その」
「バイクに乗った竜胆さんって愛らしい(うっとり)」
観楠&影跳
「……」
「私もそのうち免許取ろうかなぁ」
影跳
「む。なら、一緒に行きましょう」
「え(汗) そ、そのうちですから(汗)」
影跳
「僕も今は車でていっぱいだから、ちょうどいい感じです」
観楠
「……学校はいいの(汗)? 3ナイとかやってないの?」
「……どーでしょうね(汗)」
影跳
「こっそりやれば大丈夫」
観楠
「試験場から教育委員会に連絡が行くとか、暗い噂がいっ ぱいなんだけどね(汗) 他に住所を移せば解決するとも聞くけど……」

用語解説

バンディット
 90年型リミテッドモデル。SUZUKI70周年記念車。
ZX-11
 ZZR1100とも言う。これもまた300キロオーバーのモンスター。
ワルキューレ
 HONDAアメリカが開発したアメリカン。水平対向6気筒エン ジンを搭載するリアル……アメリカン。
ゴールドウィング
エアコン、ステレオ装備のグランドツアラー。
これに乗っててツーリングしないのはただの馬鹿(笑)



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