エピソード362『冒険者求む』


目次


エピソード362『冒険者求む』

貼り紙告知

任務は迷宮探査、命の保証なし

ある日のベーカリー、部活がOFFになって結構暇な緑である。

「(うーん、やっぱり部活がないと暇ですねぇ)あ、そうだ」
観楠
「どうしたの? 緑ちゃん」
「いや……あの……これをベーカリーに貼らせてもらおう かと……思いまして(ごそごそ)」
観楠
「ふーん、どれどれ……って(汗)」
「はい?」
観楠
「この『冒険者求む』って」
「いや、あの……パパが地下室で行方不明……でして」
観楠
「地下室? それで、何で冒険者……」
「あ、うちの地下って迷宮……になってるんです……それ で警察なんかには頼めないんで」
観楠
「ふーん、『任務は迷宮探査、命の保証なし』これで人が 来るかなぁ」
「ま、まぁ……こなかったら私一人で……行きますし」
観楠
「ええっ、緑ちゃんこんな危険なところに行くの?」
「はぁ、今まで何度か潜りましたけど……最大で…… 52 階……だったかな?」
夏和流
「ふーん。みのる、おまえこういうの本業じゃなかったっ けか?」
みのる
「物にまつわる魂などが専門だ。ちがう」
夏和流
「でも、きっとアミュレットとかがあるぞ(笑)」
みのる
「なぜわかる」
夏和流
「それは秘密。とにかく、行ってみようぜ。最近暇だし」
みのる
「演劇部で忙しいと言っていたのは誰だ?」
夏和流
「いいからいいから。
水島さぁん、僕らもついていっていいですかぁ?」
「あ、お願いします……人数は多ければ多い方が……いい ですから、それと……中にはいろんなモンスターが居ますから、できるだけ装備は……調えておいて……ください、多少の物……なら用意……しますけど」

影跳と寧

からんころん

影跳
「こんにちは」
「こんにちは〜、かなちゃん居る?」
観楠
「家の方にいるよ」
「つまんなぁい……何か貼ってある」
影跳
「冒険者求む? なんです、これ」
観楠
「いや、何でも緑ちゃんのお父さんが行方不明らしいよ」
「緑ちゃんのお父さんって、いつもプリン食べてる変な科 学者のおぢちゃんの事?」
「大方当ってますけど、変なって……」
影跳
「でも何で冒険者なの?」
「実は、地下が迷路になっていて、どうなってるか判らな いんです」
「科学者と地下室そして迷路と来ればまず間違いなく研究 室に繋がってるはず……」
影跳
「姉ちゃん、何考えてるの?(嫌な予感)」
「(聞いてない)研究室といえば、未知なる機械がいっぱい。
うふ、うふふふふふふふ」
影跳
「ね、姉ちゃん?」
「そりゃもう、行くしか!!」
影跳
「でも、姉ちゃん、命の保証無しって書いてあるよ」
「大丈夫、いざとなったら盾に出もなってくれるんでしょ」
影跳
「えっ? それって俺も行くって事?」
「当然……それとも来てくれないの(嘘泣き)」
影跳
「ふぅ、判ったよ、で、緑ちゃん出発はいつ?」
「もう少し人数が集ってからにしようと思ってますけど……
え〜と、あ、あの寧……ちゃん? いろんなモンスターが居るんだけど……それでもくる気ですか? まぁ、地下の部屋のほとんどはパパの研究室……なんですけど……危険な物ばかりで」
「ふーん、たとえば?」
「いや、たとえば……57階にあるっていう格納庫の一つ…… には対人用の兵器を満載した……パワードスーツが有る……とか」
「パワードスーツ? そんな物まで在るの?
ならそんなに危険じゃないじゃない」
「どうして?」
「だって、そこまで行って私がそれを着ればいいじゃない の」
影跳
「なんかゲームみたいだな」
「でもホントに危険ですよ」
「緑ちゃんは連れていってくれないんだ……。
ぴーーーーーーーーーーーーー(嘘泣き)」
影跳
「(こそっと)一度言い出したら聞かな……」

その時、寧が然り気なく足を思いっ切り踏む

影跳
「……!!」
「??」
「それじゃ、一緒に行きますか」
「わーい」
「でも、パワードスーツが危険だというのは……パパが作っ たものだから……なんですけど……ね」

琢磨呂

席に座っていた琢磨呂が夏和流を捕まえて熱く語っている

琢磨呂
「ニィチャン、俺と一緒にエエことせぇへんか?」
夏和流
「エエコト?」
琢磨呂
「そや。森の中で、迷彩服着て、銃で遊ぶんや!」
夏和流
「……いやです。いたそうですし」
琢磨呂
「そんなにいたくは、ない! 女の子やってサバゲやる御 時勢やで」
夏和流
「うーん……。装備とか、全然ありませんけれど」
「あ、夏和流さん……私の銃……貸してあげましょうか?
この間つい衝動買いしてしまったんですけど」
琢磨呂
「ん、緑ちゃん何買ったの?」
「はぁ、『デザートイーグル50AE 8インチバレルモデル』 って奴です」
琢磨呂
「(汗)」
夏和流
「ん、なんか凄いんですか?」
琢磨呂
「なになに、貸してやるって」
夏和流
「ルールとか、全然わかりませんし」
琢磨呂
「一から教えてやる」
夏和流
「年齢制限があったりは……」
琢磨呂
「しない」
夏和流
「いまちょっと病気気味で……」
琢磨呂
「治ってからでかまわねぇよ」
夏和流
「O-157に感染したりは……」
琢磨呂
「するわけねぇだろ!」
夏和流
「じつは、おなかに赤ん坊が……」
琢磨呂
「いるかぁぁぁ!(どげしっとつっこみ) ええい、おちょ くってんのか、てめえは!」
夏和流
「あいたた……冗談ですってば」
琢磨呂
「つまんねえ冗談してんなっ! それでっ! やるのか、 やらねえのかっ!(怒)」
夏和流
「(気圧されている)や、やりますっ」
「あの、琢磨呂さん?」
琢磨呂
「お、緑ちゃんもサバゲやる?」
「いや、そうではなくって……迷宮探査、やりませんか?」
琢磨呂
「迷宮探査?」
「はぁ、地下には危険なモンスターがうじゃうじゃです」
琢磨呂
「き、危険なモンスター(汗)」
「といっても非現実的なものではなくって、遺伝子を組み 替えられた事によって巨大化したり、狂暴化したり、変な知能を持って人間に敵意を抱いたりした、その、まぁ……マッド・サイエンスな実験の結果産み出されたような産物なんですけど……」
琢磨呂
「……放射能ブレスとか吐かねえか?」
「さぁ、解りかねます……ただ、可能性として決してゼロ ではありませんけど」
琢磨呂
「俺は、帰る(キッパリ)」
「……倒したモンスターの質や数によって、賞金……とい うか、歩合制のバイト料を……(ぼそっと)」
琢磨呂
「……(ピクッ)……家に帰って専用の銃を取ってくる」
「あ、ちなみに武器弾薬庫って明記された部屋が未だに踏 み込んだことのない階層にあるんですよねぇ」
琢磨呂
「て、ことはそこで実銃が手に入ったら……」
「地下で使う分にはかまいませんけど……私物化はだめで すよ?」
琢磨呂
「ハンドガン一丁だけ……なっ!? 頼むよ……」
「ハンドガン一丁ですか……いや、私物化はいけないと言 うのは……ですね、パパが作ったものだから……なんです」
琢磨呂
「そ、それってもしかして」
「はぁ、パパの作る物って半端じゃないですから……もし かしてまともな武器があると思ったんですか?」
琢磨呂
「そりゃぁ、まぁ」
「考えても見てください、フルオート機能の付いたベレッ タなんて使いたいと思います?」
琢磨呂
「ううむ、反動が凄そうだが何とか使えそうだな」
「そのかわり……弾が1秒でなくなりますけど」
琢磨呂
「……」

喬と火虎左衛門

パンを選びながら張り紙を見る喬。

「……『冒険者求む』? TRPGサークルの勧誘でしょう か?
(内容を読んで……) ……『任務は迷宮探査、命の保証なし』?? これはいったい……(汗)」
観楠 
「ああ、緑ちゃんの張り紙ですね。興味あります?」
「はは…… 私が加わっても意味はないでしょう。 ここ のところ仕事も忙しいですしね。
い、いかんっ! こんな張り紙を炎野君に見られたら、無理矢理に連れて行かれることは必至だぁ(大汗))」
観楠 
「そうですか(そりゃあ『命の保証なし』だもんなぁ)」
「(トレイをカウンターへもって行き) 今日は全部持って 帰ることにします。おいくらですか?」

急いで会計を済ませようとするが、そんな行動も虚しく……

火虎左衛門
「よぉっ、喬。張り紙見ただろ? 面白そうだから見てす ぐに参加してしまったぜい」
「(やっぱりな(汗)) ずいぶんと張り切ってるようですが、 『任務は迷宮探査、命の保証なし』ってトコちゃんと見ましたか?」
火虎左衛門
「ナニを言ってんだ、んなもん気にすんなって。タダの演 出だ、え・ん・しゅ・つ」
「そうでしょうか?」
火虎左衛門
「そうそう、そうだって……。それでな、俺だけが楽しい 思いをするのもナンだし、オマエも参加することにしといたからな」
「はいはい、そーですか、そーですか。
……ナンですとーーーーーーーーーっ!!」
火虎左衛門
「言ったとおりだ、ちゃんと準備しておけよ」
「ダレが参加すると言いましたかっ!!」
「(喬の後ろから悲しそうな眼差し&声で) ダメですか……
一度参加してくださると言ってくださったときは、とても嬉しかったんですが…… そうですか……」
(うっ……)
火虎左衛門
「あーあ、女の子悲しませるなんて、オマエってひどいヤ ツだな……」
「オマエが勝手に進めたんでしょうがっ!!」
(無言で見詰める)
「〜〜〜〜〜〜っ!! わかりましたよっ!! 行きますっ」
火虎左衛門
「いよっ! それでこそ漢! カンと書いてオトコと読む のじゃあ!!」
「ありがとうございますぅ」
火虎左衛門
「(緑に小声で耳打ち)な? 喬って頼まれると断れんヤツ だから」
「(小声)ええ、でも何か悪いですぅ」
「(火虎左衛門の背後に立ち) 聞こえてますよ、明確にね。
……あとで憶えてらっしゃいよ……」

美樹

(からんころん)

美樹
「あ、店長、どーもぉ。あれ? この張り紙、何なんです か?」
観楠
「いや、それがですね、美樹さん。
解説……)
という訳なんだそうですよ」
美樹
「はぁ。でもわたしじゃ戦力になりませんしねぇ……。
(独り言) 居候の二人もこういう荒事には向いてませんよねぇ」
観楠
「居候?」
美樹
「あ、いえいえ、そう言うことで、わたしはパスさせてい ただきますと緑ちゃんにお伝えください。
という訳でいつものコーヒーと……何か試作品の試食はありますか?」
観楠
「(妙にうれしそうに) 目くじらパンにコサックパンとい うのを作ってみましてね……」
美樹
「あ、じゃぁ、それお願いしますわ」

そう言っていつもの奧の席に腰掛け、
 「診断と治療−−情報学的側面からのアプローチ」を開く美樹。

観楠
「どーぞ」
美樹
「あ、どーも」

数時間経過。
 読み終えた本から目をあげる。皿の上には何も残っておらず、コーヒーカッ
 プの底にはコーヒーの跡が乾いている。
 ふと時計を見る。待ち合わせの時間までもう15分ほどしかない。

美樹
「あ、店長、それではまた」
観楠
「毎度ありがとうございましたぁ。で、どうでした、味の 方は」
美樹
「まあまあだと思いますよ、あ、急ぎますんで」

去りゆく美樹。
 そして、その日食べたパンが何であったのか……
 美樹は、ついに思い出すことはなかった。

数日後……

「な、なんか……」
観楠
「どうしたの緑ちゃん」
「いえ、なんかあの張り紙が……」
観楠
「結構参加者増えたねぇ」
「はぁ、命知らずな人が多いんですね……この辺って」
みのる
「俺は自分では志願していない」
夏和流
「まあまあ」
観楠
「……(うーん、みんな命の保証なしって所を読んでるん だろうか)」
「ちゃんと読んでますよー(泣)」
火虎左衛門
「だぁから、ンなこと気にすンなってェの(喬の背中をば んばんと叩く)」
「うう……」
「さて、そろそろ人数もそろったことですし」
観楠
「出発かい?」
「はいっ、出発しますぅ」

迷宮決死行

水島家

「さて、みなさん居ますかぁ?」
琢磨呂
「いつでもOKだぜ」
「いるよー」
「居るみたい……ですねぇ。それじゃぁこれを渡しておき ましょう」
影跳
「何ですか? コレ」
「あ、電子マップです。オートマッピング機能が付いてる から結構便利ですよ」
夏和流
「へー。ゲームウォッチみたい」
「途中で迷宮の構造自体が変わったらどうなるんでしょう?」
火虎左衛門
「オマエってほんっとネガティブにモノを考えるなぁ、そ ンなのいちいち気にすンなってェっ(喬の背中をバンバン叩く)」
「うー(頭を抱える)」
「はぁ、確かにあり得ないことはないんですが……現にあ ちこちに空間のゆがみが生じてますから……そもそもこの迷宮自体圧縮空間の中に作られてるんです」
「それは、また……」
「あ、あとマップの中に黄色くマークされてるのがありま すよね?」
「あ、ほんとですね」
「そこは端末になっているんです。 家にあるホストコン ピューターにアクセスできるようになってるはず……です」
「それで、操作の方法なんかは……」
「あ、そこの右端の所にケーブルが収納されてすからそれ を繋いであとは指示に従ってください」
火虎左衛門
「それ出入り口は何処にあるんですか?」
「あ、ええっと確かここです(ポチっとな)」
SE
「ズゴゴゴゴゴゴゴ、プシュー」
「おおっ、コレは凄い」
「さて、行きましょう……か。 とりあえずエレベーター で……52階まで……下りましょう」

エレベーター内

影跳
「あの、水島さん?」
「はい、なんでしょう」
影跳
「モンスターってたとえばどんなの?」
「ええっと、この間出てきたのは……巨大化したオケラ、 だったかもしれません」
影跳
「う、それはイヤかも」
夏和流
「……巨大化した、「虫」がいるんですか?(顔色が悪い)」
「え、ええ……結構いますけれど……なにか?」
夏和流
「やっぱり帰りますっ! 虫はいやだぁ!!」
みのる
「(夏和流にちょっぷ) 静かにしろ。敵が寄ってくる」
夏和流
「あああああ……(泣)」
「あ、着いたようですね」

エレベーターを降りるとそこにはコンクリートで作られたいかにも巨大な迷宮を想像させる高い天井と広い幅を持った通路が現れた。
 エレベーターを降りた一行、結構途方に暮れてたりする。

「さて、どうしましょうか」
琢磨呂
「とりあえずこの大人数で行動するのも何やから……」
「2つぐらいのパーティに分かれた方が賢明ね」
琢磨呂
「(うう、俺が言おうとしたのに)」
夏和流
「それで、どういう風に分かれましょうか」
火虎左衛門
「やっぱり戦闘力は五分五分にした方がいいな」
影跳
「て、ことは戦闘力があるのは僕に琢磨呂さんにみのるさ んに火虎左衛門さん……ぐらいかな?」
「あの、私も戦えますけど……」
「緑ちゃん……あまり無理しない方が」
「いえ、元はと言えば依頼したのは私ですし」
琢磨呂
「おい、みーちゃん」
一同
「?」
琢磨呂
「じゃなかった……緑ちゃん……か。言いにくいからみー ちゃんにしとくぞ」
「え? あ? へっ……?」
琢磨呂
「(しどろもどろする緑の態度を無視)良いか、みーちゃん。
これだけの人数がこのような空間で固まっていたら、余りにも脆い。火焔放射で一瞬で全員焦げるぞ!」
火虎左衛門
「お、俺はそんなこたぁしねぇぞ(汗)」
「(小声)あたりまえですっ!! 冗談でも、そんな事してみ なさい。植物人間にしますからねっ!!」
火虎左衛門
「(小声) か、カゲキだな、今日のオマエ(怖)」
「(小声) サイキック・ナイフ、まだ使えますからね」
火虎左衛門
「(小声) げ……」
「(小声) 今日のために使えるか試してみたんですよ」
琢磨呂
「こらぁ、作戦会議中に不明瞭な会話は止めろっ!」
影跳
「これだけのスペースが在れば、大丈夫なんじゃ……」
琢磨呂
「バカモン! これだから戦術的思考のない奴は……(ぶ つぶつ)」
「影跳っ! 岩沙さんの言うことにも一理あるわよ。いく ら広い空間とは言え、敵の攻撃を一点に集中させるような布陣は避けるべきだわ」
琢磨呂
「分かってるじゃねーか、ネーちゃん」
「……寧です」
琢磨呂
「だから、寧ちゃんだろ ←(ネーちゃんと発音してる)」
「あのぉ……」
「(寧を無視) 確かにそうですね……」
琢磨呂
「緑ちゃんは、火虎左衛門さんと寧ちゃんを頼む。俺は喬 さんと影跳と組む……異存は?」
「無いです。あ、このオートマッピングシステムは通信機 を兼ねてますんで……」
琢磨呂
「よしっ……じゃぁ、ここの分岐点まで、別々のルートを 進もう。危なくなったらすぐに助けを求めて後退してくれ」
「解りました」
「任せときなさいって!」
火虎左衛門
「じゃ、行きますか」

地下52階:パーティ琢磨呂

琢磨呂/影跳/喬/夏和流組はゆっくりと右側の通路を進み始める。

琢磨呂
「やな雰囲気だな……」
影跳
「じめっとした、それで居て生暖かいというか……」

照明が消える

「わああああああああああああああっ」
琢磨呂
「クソッ……誰の仕業だっ!?」
影跳
(マッチを擦っている)
琢磨呂
「ばっ……やめろ! いたずらに自分の位置を露呈する気 か。取り合えず様子を見るんだ」
影跳
「どどど……どうやって見るんだよ……」
琢磨呂
「心の目で見る……何て野暮ったいことは言わん。耳を使 え」
影跳&喬
「耳……(そばだてる)」
(エンパスで敵意・殺意・食欲の発せられている方向を探 す。前方に感じられたのは食欲)「(小声)うわ……」
SE
「ばさばさばさっ……かりかりかり……」
一同
「ひいいいっ!」
琢磨呂
「ちっ……命の保証は出来ないってなぁ、マジかも知れん な(サブ……マシンガンを構える)」
(なぁにが「演出」ですかっ!! 気でも失おうものなら、 あの生物にそのままバリバリ食われてしまいますよぅっ!!
……私の正気が失われて苦痛が暴走するのが早いか?)「(小声) 炎野君たちは大丈夫でしょうか?」
「(無線で) ……き……聞こえますか、琢磨呂さん?」
琢磨呂
「(小声で) 取り込み中だ……用件は?」
「電気付きます。目を痛めないでくださいね」

ぱっ! 部屋が明るくなる

夏和流
「うわあああああああああああああっ」

電気がついて最初に目に飛び込んだのは、巨大なカナブン……

琢磨呂
「ちっ……(ズドドドドドドドドドッ!)」

サブ……マシンガンの9mm弾はことごとくその甲殻に弾き返され、部屋中に跳弾した。

琢磨呂
「うわっちっち……」
影跳
「あわわ……」
琢磨呂
「銃は使うなっ! 危険すぎる」

そう言うと琢磨呂は、脂汗を流しながらエア……ガンを引き抜いた。
 爆発弾頭「ニトロ弾」装備の特別製である。

琢磨呂
「来やがれ、バケモン。口を開けた瞬間に吹き飛ばしてや る!」
巨大カナブン
「ギチギチギチギヂキチ」
琢磨呂
「くらいやがれっ」

カナブンが仁王立ちになり雄叫びをあげた所に琢磨呂の特性弾頭が命中する。
 そのままカナブンは頭部を吹っ飛ばされ痙攣しながら後ろへ倒れた。

影跳
「危なかったですね」
「これだから来たくなかったんだ」
夏和流
「し、死ぬ……」
琢磨呂
「(無線で) みーちゃん……こっちは片づいた。ところで さっきのはなんだ?」
「(無線で) 51階から60階までの端末システムを復旧させ ました、これからはこの端末で有線連絡の方が安全です」
琢磨呂
「(無線で) そうか、確かに無線は傍受されると大変だか らな」
「(無線で) そうではなくて……この迷宮は無線が通じな い場所が少なくないですから、それに端末はMULTIVACにアクセスできるようになっているんで、情報はそこから手に入れてください」
琢磨呂
「(無線で) 解った、通信終わり」
「気をつけてくださいね」
琢磨呂
「さて、そろそろ出発するか……っておまえらぁっ」

そこにはへたり込んでる喬と夏和流の姿が……影跳はその脇で苦笑いを浮かべている。

夏和流
「む、むしなんか嫌いだぁ〜」
琢磨呂
「……ンなこと言ってたら……無視して置いてくぞ? こ のいかにもが出そうな所に……」
夏和流  
「ぎええええっ!」
「(胸に手を当てて) ふう……」
琢磨呂
「あまり、喚かなくなったじゃねぇか」
「これ以上足手まといになるわけにはいきませんから、自 分の恐怖心くらいは抑えていないと」
琢磨呂
(だからって、思っただけで抑え切れるシロモノじゃねぇ ぞ。恐怖ってのはよ。……まさか自己暗示ってやつか?)

地下52階:パーティ緑

そのころ緑たち一行は通信システムが大半を占める結構広い部屋に来ていた。

「(端末から) あの……」
琢磨呂
「(端末) どーした、みーちゃんよ?」
「銃声が……」
琢磨呂
「ああ、さっき消火栓のドアを開けたらMP5が中に転がっ
てたんだよ。みーちゃんのオヤジさんが置き忘れたんじゃ
ねーのか?」
「あの……地下室自体が積層崩壊したら、私達は生き埋め
ですから、あんまり……」
琢磨呂
「大丈夫。必要ない弾は撃たねぇからよ」
(心配)
「できましたか?」
「あ、うん。これでいいはずよ」
火虎左衛門
「こっちは誰もいなかったぜ」
みのる
「こっちも同じく無人だ」
「そうですか、では進みましょう」

湿気の強いかび臭い通路を歩く4人。
 くだらない冗談を寧に聞かせて歩く火虎左衛門。
 先頭を歩きながら聞こえてくる火虎左衛門の話にときどきくすくすと小さく微笑う緑。
 ただ、みのるだけが何も言わず、無表情に歩いている。

火虎左衛門
「(みのるに向かって) おい、なんか言えよ。まわりが暗 いから喋らねえと存在忘れちまうじゃねぇか」
みのる
「……(火虎左衛門に目を遣る)」
火虎左衛門
「……うるさいと言いたそうな目だよなぁ、クチで言えよ。 言いたいならな」
「……ケ、ケンカしないで……ください……ね? こん な……ところで……(あたふた)」

寧は「しないわよ」と傍観する。

みのる
「……喋るな、と言うつもりはない。ただ、こういう危険 な状態の中で徒に隙を造るべきではない……と考えている」
火虎左衛門
「へぇ、俺に隙があるとでも?」
「そうみたいですね」
火虎左衛門
「(情けない声で) そりゃねーよ緑ちゃぁ〜ん(泣)」
「泣きそうな顔でこっちを見ないでください(苦笑) なに かカサカサという音がこちらに近づいてます」

緑の指さした方は途中で曲がり角になっていて、
 今の位置から向こうを伺うことはできない。

火虎左衛門
「よっしゃ、相手から近づいてくるなら
迎撃態勢を取ることができるな……」
「そういうこと! 影跳が居ない分、炎野さんには
シッカリガッチリ私を守ってもらわないとね」
火虎左衛門
「へいへい。分かりましたよ、お寧ぃ様。
タイタニックに乗ったつもりで気楽にしてろよ」
(この人って危機感って感情ないのかしら?)
みのる
「来るぞ」

角から現れたのは巨大なムカデ……。
 その顎は人の手首を咬み千切りそうな威容を持っているが、それよりも顎がもたらす毒が恐ろしい。
 無事で済むはずはないだろうことは4人とも容易に想像できた。

火虎左衛門
「先手必勝! 赤龍砲ぅ!!」

突き出された掌から赤熱する光線がムカデの頭を貫く!!
 火虎左衛門はそう確信していた。
 が、ムカデはすばやく頭をもたげて光線を躱した。
 しかし角度の浅かった光線は地に付いていたムカデの
 胴を燃やしており、ムカデの上体はぼとり、と音を立てて落ちた。
 しかしムカデの頭は二つに切られたにもひるまず、
 火虎左衛門に向かって突進する。

火虎左衛門
「なにぃっ!? 畜生、赤龍……」

遅い。

みのる
「(小指ほど長さのの剣のキーホルダーを握って) やはり 隙だらけではないか」

握った剣のキーホルダーをムカデの頭に向かって投げる。
 両目の間、人で言うなら眉間に命中し、刺さりはしたが、針ほどの小さな剣でダメージが与えられる筈はない。

みのる
「(すばやく印を切り) 伏魔の剣よ……」

みのるの解放の印によりキーホルダーが有るべき姿に戻った。
 有るべき姿とはあやかしを切り裂く霊剣である。
 刺さった剣は見る見るうちに大きくなり、ムカデの外殻をこじ開ける。
 ばかっ、とムカデの頭が割れ、その隙間から体液をこぼし……やがて動かなくなった。

みのる
「(火虎左衛門に) 一度死んだな」
火虎左衛門
「ありがたく思ってやるから、もう少し愛想よくしてくれ ねぇか?」

そう言いながら手のひらに宿していた炎をみのるに投げつける。
 炎はみのるの真後ろでのたうっていたムカデの下半分に命中。
 1メートルあるそれは細身のみのるくらいなら弾き飛ばしかねない。

火虎左衛門
「焼き尽くせ!」

火虎左衛門の言葉によりムカデについた炎は一気に燃え上がり、
 外殻、身体を焦がし、水分を蒸発させる。

火虎左衛門
「へへ、おめぇも危なっかしいじゃんよ」
みのる
「(むッ) お互い様だ」
火虎左衛門
「そうそう、お互い様ってヤツよ。
(みのるに近づいて肩を組み、緑と寧に……) 俺ら、一度は死んだ陽気なぞんびーずでーっす!!」

一瞬の沈黙。運のいいことに孝雄はシラケ鳥は造っていないようだ。

「あははははははははっ!! 炎野さんバカっ(爆笑)」
「(くすくす) 寧ちゃん、バカっていっちゃ悪いですよ」
みのる
「……」
火虎左衛門
「おい、なんか言えよ」
みのる
「(霊剣の先を火虎左衛門に突きつけて微かに笑う) ……夏 和流なみに笑いのセンスないな、あんた」
「さて、進みましょうか」
琢磨呂
「(無線で) ザザッ……こっちはほとんど探索完了だ…… ザ……エレベーター前で合流しよう」
「(無線で) 解りました、あと2・3部屋回ってからそち
らへ向かいます」
琢磨呂
「(無線で) 了解した」
「どうかしたの?」
「あ、岩沙さんの方はもう担当区域を終わったようです。
私たちもさっさと終わらせちゃいましょう」
火虎左衛門
「よし、先を急ごうぜ」
みのる
「ここが最後だな」
「ええ、そのはずです」
「なんにもないね」
火虎左衛門
「さて、もどろうぜ」
「そうしましょう」

地下53階:倉庫

琢磨呂
「よう、遅かったな」
「虫……に結構戸惑いまして」
夏和流
「あの……虫ってもっといるの?」
「いや、あまり多くないはずなんですが……変ですね」
「実は黒幕が緑ちゃんのパパだったりして」
影跳
「わぁ、姉ちゃん変なこと……」
「いいんです、実際そういうことがあり得ないこともない ですから」
琢磨呂
「さて、次はB53階だったか」
「ええそうです、確か倉庫だったはずです」
「てことはパワードスーツが(目がお星様)」
琢磨呂
「実銃ざっくざくか(目がお星様)」
「いや、あの……」

などと会話をかましつつパーティを乗せたエレベーターのドアは閉まった。
 エレベーター、地下53階を示す。

「着きましたね」
火虎左衛門
「ところでよ。倉庫って、もしかしたら警備のロボットと かトラップとかあるんじゃねぇか?」
「十分ありうるわね。それじゃあ……」
影跳 
「姉ちゃん。何で俺の背中を押すんだよ(汗)」
夏和流
「まぁまぁ、ここはひとつ穏便にジャンケンで決めましょ う」
火虎左衛門
「女の子二人は抜いて野郎共だけでするか」
「うんうん、いいこと言うわね」
火虎左衛門
「でなきゃ影跳の当たる確率が2人分になるだろうし」
影跳 
「うううう、よく分かっていらっしゃる(泣)」
(無言で脛蹴り)
琢磨呂
「ええいっ、めんどくせぇ、とっとと決めちまおうぜ(いら いら)」

じゃーん、けーん、ぽん!!

みのる
「墓穴をほったな……」
夏和流
「うう、僕は無実だぁぁぁ(大泣)」
琢磨呂
「やかましいっ、男がうだうだ言うんじゃねぇっ」

男性陣の盛り上がってる裏で……緑は倉庫のシャッターの横の端末で自分の知っているすべてのパスワードを試していた。

(うわ…… パスワード書き換えられてるみたい。ま、2・ 3分もあれば探れると思うけど)
「ねぇねぇ、なにやってんの? 私が見てあげよっか」
「ん……いいです……すぐ終わりますから」
「いいからいいから、私だって結構自信あるんだから」
「あ、あのぅ……」

てきぱきと自分のハンドヘルドコンピュータをセットし、探りを入れる寧。その嬉々とした目は「他のことなんか耳に入らない」という彼女の状況を雄弁に語っている。
 緑は寧に任せようと首に差したピンを抜いた。
 そして5分もたたないうちに……。

「はい、終わりっ!! あのおじさんもなかなかのウデだけ ど、やっぱり個人のモノだからこの程度ね」
(この子……生身……よね(汗))

で、野郎共は……。

夏和流
「や、やっぱり5回勝負にしません?(半泣)」

3回勝負を希望し、負け引き延ばしたにもかかわらず惨敗し泥沼にはまっている夏和流。

みのる
「引き際って言葉知ってるか?」
火虎左衛門
「(うんざり) もうあきらめろよ」
琢磨呂
「だぁーっ もういいっ!! 俺が行くっ(銃が目の前だっ ていうのにっ、こいつはっ)」

ここでハンドヘルドコンピュータを片づけ終わった寧が話に割り込む。

「みんなで何やってんの? 影跳」
影跳 
「え? ああ、誰が倉庫の扉を開けるかって、ジャンケン してるんだ」
「って、倉庫のロックとトラップならもう解除したわよ」
夏和流
「(それを聞いて、颯爽と扉の前に立ち髪をかきあげる) 
ふっ、ここは僕に任せてくれたまえ(ニヤリ)」
みのる
(霊剣の平ではたく)

べち!

夏和流
「おおっ!!(後頭部おさえる)」
火虎左衛門
「(みのるに) 燃やしていいか?」
みのる
「骨も残すなよ」
「(火虎左衛門に) やめなさいって(苦笑) 倉庫で武器を 調達するのが先でしょうが」
琢磨呂
「うむ、そのとおり。
実銃、実銃〜〜〜っ(目がお星様&ダッシュ)」
「パワードスーツぅ〜〜〜(目がお星様&ダッシュ)」

倉庫探索

倉庫の中は予想以上に広く、雑然としていた。
 散らかっているのだ。
 探し物を見つけるには随分と時間がかかるかもしれない。

「既にセキュリティは解除してます。必要なものは探して 持ち出してください」
琢磨呂
「うおぉぉぉ、銃はどこだぁ!」
「パワードスーツはいずこおぉぉぉ!」
「って聞いてませんね(苦笑)」
火虎左衛門
「俺、高速振動剣とかそういったモノ」
「防毒マスクとか、軽くて動きを妨げない防具なんかは人 数分あった方がいいですよね。
私個人では護身用に短銃をいただきたいですね」
火虎左衛門
「オマエ、注文が多いな」
「安全のためですよ」
夏和流
「これなんかいいな……これもお金になりそう……」
火虎左衛門
「おい、何やっているんだ?」
夏和流
「え? 「だんじょん」名物「財宝」を泥棒……もとい、 報酬として……」
みのる
(無言で後ろに立つ)
夏和流
「……な、なーんちゃって……。はは……」
みのる
「……殺虫剤でも持っていろ」
「はぁ、なんかみんな凄いですねぇ」
みのる
「なかなか広いところだな」
火虎左衛門
「よっしゃ、俺もなんか探してくるか」
「じゃ、私も行ってみましょうかねぇ」

琢磨呂と寧

琢磨呂
「す、すげえ(ごくっ) まるでテロ組織のアジトだなここ は」

琢磨呂の眼前には乱雑に積み上げられた兵器が入っている箱があった。

琢磨呂
「とりあえずコレは……M16だな、コレなんてハンドバズー カじゃねえか……ここじゃ使えんな……」
「あー、パワードスーツは何処かしら。あのおじさんの作っ たものならとんでもない物ができあがってるはずだわ」

きょろきょろあたりを見回しながら歩き回る寧、そこへふとシートをかぶせられた巨大な物が目に入る。

「うーん、コレなんて臭いわね……そーれっ。こ、これ は! なんでアパッチがこんな所にっ(汗)」

そう、シートをかぶせられていたのはあの戦闘ヘリのアパッチであった、こんな地下室で全く謎である。

琢磨呂
「バカもの、コレの何処がアパッチだ!」
「戦闘ヘリなんてみんなアパッチで良いのよっ」
琢磨呂
「コレは戦闘ヘリじゃない、戦闘偵察ヘリだ! それも合 衆国でまだ機密扱いになっている、RAH-64コマンチじゃないか」
「ふーん……そんな凄い物なの?(小突く)」
琢磨呂
「あー、乱暴に扱ったら、表面のステルス塗装が……」

ばりっ

琢磨呂
「は!?」
「腕が貫通しちゃったけど……」
琢磨呂
「もしかして……(蹴る)」

めきょっ!

琢磨呂&寧
「レ、レプリカどころか、ハリボテじゃねーーか!」

一方緑は……

「さて、このフロアーの端末はここですね(端末直結)」

壁に埋め込まれているコンソールを見つけると、緑はコンソールと自分の首の後ろの端子を直結した。
 IDを入力しパスワードを入力する……

MULTIVAC
「識別完了……ようこそ Ms.Midori」
緑(直結中)
「フロアー53階のマップを、あと53階のセンサーは生きて る? 生きてたらサーチして」
MULTIVAC
「マップ転送中……完了! 現在53階のセンサー群はすべ て作動を停止、応答しません」
「そう……あら、ここの階って全部倉庫なんですねぇ」
MULTIVAC
「倉庫にある品物の一部ですが『目録』がDr.Takaoのデス クに存在していますが?」
「サイズによりますねぇ……このサイズなら大丈夫、転送 してください」
MULTIVAC
「Yes 目録を転送します……完了!」
「ところで、もしかして転送プロトコルを変えた?」
MULTIVAC
「Yes 一月前にDr.Takaoの手によって変更されました。何 か不都合でも?」
「ううん、なんでもない。ログアウトするわ」
MULTIVAC
「あまり無理なさらないように」
「それじゃ……ね」

現実世界に戻る、ふと気配を感じて振り向くとそこには寧がいた……。

「緑ちゃん……あんた」
「ばれちゃい……ましたか」
「何者なの? もしかして、ロボット?」
「いえ、私はサイボーグ。それも脳以外をすべて機械化し た戦闘サイボーグです……」
「それってやっぱり、緑ちゃんのあのパパが?」
「はい、私は小さい頃に大きな事故に巻き込まれたそうで す、死に瀕していた私をパパはサイバー技術によって再生させました」
「そう、それでそのケーブル……」

そういうと寧は緑を指さした、どうやら首筋にはまったままになっているケーブルを指しているらしい

「あ、これですか? MULTIVACにアクセスしてたんです」
「ふーん、便利ね。私もそういうの欲しいわ。それじゃ私 はあっちを探してみるから」
「あ、あのっ(焦)」
「ん、なに?」
「秘密に……してもらえますか?」
「人間一つや二つ秘密はあるものよ、かくいう私にも秘密 はあるしね。もちろん秘密にするわ」

そういい残すと寧は物陰へと消えていった。

そのころ夏和流は

夏和流
「うーん、僕はみのるの行ったとおり殺虫剤でも探すかな
お、コレなんか良さそうだな」

夏和流が手に取ったのは一本のスプレー缶、段ボールにびっしりと箱詰めされていた奴である。しかも缶には、なにも貼っていないが段ボール箱にはしっかりと「危険! 孝雄チューン済み」と(笑)

夏和流
「試しにこの壁に吹きかけてみるかな(シュー)」

するとスプレーを吹きかけられたコンクリートは物の見事に解け始める……。

夏和流
「めっちゃ、やばいやん! このスプレー(苦笑)」
夏和流
「(きょろきょろ見回し) でも殺虫剤ないとまた虫が出て きたとき恐いからなぁ……。他にないかな……。
(缶を手に取り)? この缶なんだろ?(ぷしゅ!)」

すると突然白い霧が夏和流を包む!

夏和流
「わわわわわっ!? 二助の兄は『たすけ』てぇぇぇぇ!?」

やがて助けはやってきたが。

影跳
「どうした……なんだ、この霧?」
琢磨呂
「わけがわかんねぇな。うかつに近づくんじゃねぇぞ」
火虎左衛門
「燃やすか?」
みのる
「それがいい。髪の毛一本残すなよ」
「何を燃やすんですか……?(汗)」

そして、霧が晴れたときには、缶が落ちているだけだった。

「えーと……『携帯用転移スプレー』? どこに移動する かは……書いていないわね」
「どうしましょう……探しましょうか?」
みのる
「世界平和と俺の精神安定のために、ほっとけ」
琢磨呂
「そうだな。うかつに手を出したあいつも悪い」
「まあ戦力ダウンは否めませんが……なんとでもなります」
火虎左衛門
「(出口で) おーい! さっさといこーぜ!」
影跳
「じゃあ、行きましょうか」

みな薄情である。

昼下がりのベーカリー

日曜日の昼下がり、いつもなら常連客で一杯のはずのベーカリー楠であるが、今日はちと様子が違う。

観楠
「平和だねぇ……」

「ほうっ」と、溜息をつき、頬杖をついたまま店内を見回す。人影は……あった。一人黙々を本を読み、時折珈琲を口にしている某人物が……。
 その時カランカランッと勢いよく扉を開けて郁代が入ってくる。

郁代
「や、マスターおひさし」
観楠
「郁代さん? あれれ、お久し振りです(笑)」
郁代
「あれれ?」
観楠
「あれれ」
郁代
「(何々だか……) あれ? あんまし客いないね」
観楠
「皆あれに(目で示す) 行ってるみたいだよ」
郁代
「何々……、「冒険者求む!」ははぁ、これに飛び付かん 奴はおらへん、ということか」
観楠
「皆無事だといいんだけれど……」
郁代
「ふ〜ん。ちょっと占ってみるか」
観楠
「へ? 占い?」
郁代
「最近これに凝ってんの。まあ、真似事やけど結構当たる んよ」

と、言いつつテーブルの上にタロットカードを出し、時計周りに混ぜ始める。
 観楠は興味深そうにそれを見守っている。某人物は……我関セズである。
 郁代は適当にカードをカットし、2組の山を作る。

郁代
「状況は……っと、ふむ。因子は……」

と、カードを交互にめくり、6枚のカードで円を作り、中央に十字方に2枚のカードを重ねた。

観楠
「どうでた?」
郁代
「……う〜ん、マスターこれ結構やばいよ」
観楠
「えっ?」
郁代
「早いところ手を打たんとまずい事になりそうや」
観楠
「まずい事って、まっ、まさか……」
郁代
「うむ、早いところ素子ちゃんにプロポーズしないと、素 子ちゃんの方に新しい出会いがある、と出ている。
因みにマスターの方はさっぱり。これがラストチャンスに限り無く近いからきばってやんないとまずいかも。
ラッキーカラーは白・赤、まあ、薔薇の花束でも持って行くんやね」
観楠
「何を占なってんだぁぁぁぁっ!(観楠乱舞モード)」
郁代
「ぺしっ」
観楠
「ああっ、小パンチで消された……」
郁代
「ふむ、あき(りん) ちゃんの言った通りだな。
で、マスター。ほれ」

と、郁代、観楠の方に手を出す。

観楠
「なんですか?」
郁代
「見料500円」
観楠
「あんなんで見料取るんかぁぁぁぁぁっっ!!」
美樹
「あっ、コーヒーお代わりお願いします」

腕を組んで貼紙を読む郁代。

郁代
「だんじょんか……。おもしろうそう」
「……方向音痴がなにゆーとんねん」
郁代
「あっ、しらんなー! 俺地下道とか、迷路では迷わへん ねんで」
「信用でけへん」
郁代
「ほんまやて」
「ぜーったい信用でけへん。お前吹利のデパートでまよっ とたやんか」
郁代
「あ、あれはやなぁ、タワー型やからゴニョゴニョ」
「地下やったら絶対迷わへんねんな」
郁代
「おうともよ」
「(ニヤリ)ほんなら行ってみるか?」
郁代
「望むところよ! って、俺戦う手段ってほとんどないん やけど……」
「なんやおじけづいたんか?」
郁代
「んー。(沈思黙考)」

郁代、ぽんと手を打ち。

郁代
「うってつけの職業があったっけ」
「なんや」
郁代
「方向音痴のマッパー」
観楠
「……仕事疲れでネジでも弛んだか?(汗)」
郁代
「……多分(汗)」
謎の声
「ほほう、頭にネジが……うひゃひゃひゃひゃ。おいち いっ!」
郁代
「……いま、誰かいた?」
観楠
「……緑ちゃんのお父さんのような……」

2人、そっと後ろを振り返る

美樹
「……」

無言で珈琲を飲んでいる美樹の姿だけがあった。

郁代・観楠
「げ、幻聴かな……?」

そして、忘れ去られていた夏和流は……

夏和流
「うわああああ……あれ? ここは……」

転移スプレーにもくもくと包まれた夏和流は、気がつくとベーカリー楠の前に立っていた。

夏和流
「直前に考えていたところに出るスプレーだったのかな……」

ぶつぶつ考えていた夏和流だが、とりあえず中に入ろうと決心した。
 ……だがそのとき、後ろから奇声が。

謎の声
「その通りぃ! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……」
夏和流
「うぉあ!?(ふりむく)」

しーん。

夏和流
「な、なんだったんだろ……(汗) とりあえず、中に入ろ う……メカの目からめか(中)へ入る、なんちゃって」

本人としては、気を落ち着けるためのギャグだったのだが……

謎の声
「改造かね! ならば、いますぐわしが!」
夏和流
「ひぁあ!?(ふりむく)」

やっぱりしーん。

夏和流
「(汗) いや、何となく読めたよーな……。
(わざとらしく)おお、これはすごいへいきだ」
謎の声
「どれどれ! うひゃひゃひゃひゃ、わしがさらに改造を!」
夏和流
「(振り向いて確認) やっぱり、いない……」

とりあえず、夏和流はベーカリーの中へと入ることにした……

夏和流
「こんにちわー……どうしたんですか、二人とも。顔色が
よくないみたいですけれど……」
観楠
「い、いや……」
郁代
「いま、幻聴が……」
夏和流
「……二人同時に幻聴ですか?」
郁代・観楠
「う、うん……」
夏和流
「二人同時って事は、普通に聞こえたんじゃないんですか?」
観楠
「でも、(かくかくしかじか) って事が……」
夏和流
「……ああ。実は僕もさっきからそういう声が聞こえるん
です。
 例えば……身体改造でもしようかなー」
謎の声
「ほほう、改造を……うひゃひゃひゃひゃ、おいちいっ!」
郁代・観楠
(げっ!?)
夏和流
(くるっと振り向く)

しーん。一瞬にして消えている。

夏和流
「……まあ、とりあえず気にしない事にしました」
観楠
「気にしないって……(汗) よく平気だね」
夏和流
「生きていれば、いろんな事があるものですよ……(遠く を見つめる)」
郁代
「そういう問題か?」
夏和流
「なにか問題でも?」
郁代
「……まあ、納得できるんならええけどな……」
観楠
「(はっと気がつく) そういえば、なんでここに? 確か 緑ちゃんとダンジョンに入ったんじゃなかったの?」
夏和流
「じつは(格さん助さん) というわけで」
観楠
「なるほど(かくかくしかじか) なわけね」
郁代
「あ。そういえば、さっきの声は、目的の緑ちゃんのお父 さんの声ちゃう?」
観楠
「そういえば……」
夏和流
「そうなんですか?」
郁代
「気がつかんかったか?」
夏和流
「人生には失敗が付き物です……(遠くを見つめる)」
郁代
「今度はそれじゃごまかされへんで」
夏和流
「ふっ……(微妙に汗)」
観楠
「……いったい何なんだろうね……二重の意味で……」
郁代
「それはそうとして……、どうすん? 自分?」
夏和流
「へ?」
観楠
「これからどうするの? ダンジョンに戻るの?(苦笑)」
夏和流
「あ、あーあー。どうしましょう?(笑)」
郁代
「ええかげんなやっちゃな(^^;。ま、何かの縁やし占った ろ。このカード適当に混ぜて」
夏和流
「こうですか?」
観楠
(興味深そうに見ている)
郁代
「ほしたらカードを2枚抜いてここにおいて」
夏和流
「はい」

逆位のデスに逆位の運命の輪。

観楠
「……なんかタロットって知らないけど、良いようには見 えないような……」
夏和流
「ははははははは……(力ない笑い)」
郁代
「えーと……」
夏和流
「で、どっ、どうなんですか?」
郁代
「んー……」
夏和流
「もしかして、生死に関わってくるのでは?」
郁代
「えーとね、定められた転成……というより、繰り返され る生。あっ、2度あることは3度ある、って意味かな?」
夏和流
「と、いいますと?」
郁代
「あのね、逆位のデスの示すのは、”起こり得ないような 事”。逆位の運命の輪は、”定めれらし事”とか、”繰り返されること”てな意味にとれる」
観楠
「で、起こり得ないような事って……」
夏和流
「もしかして……。わわわわっ」

と、言ってる内に夏和流の姿が消えた。

観楠
「きっ、消えた!!」
郁代
「……どこ行っちゃったんだろう……」

と、郁代、カードを一枚めくる逆位の陰者、ついでもう一枚、チャリオット。

郁代
「ふむ、戦士の集うところに現れる……か、元ん所に戻っ たみたいやね」
観楠
「やれやれ……。なんかどっと疲れた」

夏和流、気がつくとスプレーした場所に戻ってている。呆然としつつも足元のテレポーテーションスプレー(勝手に命名)に目をやるとそこには……

スプレー
「効果時間15分」

の文字があった。

観楠
「聞こうとおもったんだけど」
郁代
「なにを?」
観楠
「いや、いつもそんなもん持ってんのかって」
郁代
「んー……今回はたまたま……かな」
観楠
「んじゃ、なにか?  俺と素子ちゃんのこと占うだけの為
にわざわざ持ってきたってか(汗)」
郁代
「だって、気になるしぃ〜〜(笑)」
観楠
「気にするなぁ〜〜!!(汗)」

弾き語り通信倶楽部より


>Subj: だんじょん内にて
皆さん、どこにいらっしゃるんですかー!

ダンジョン内に戻ってきたので、合流させて下さい!


river


 ダンジョン内にて、はぐれてしまった三河夏和流より(笑)




> 皆さん、どこにいらっしゃるんですかー!
> ダンジョン内に戻ってきたので、合流させて下さい!
> river

やっと連絡が入ったと思ったら夏和流君か……(笑)。(ひでえ)
無事にダンジョンに戻れたようでよかった、よかった。

他のメンバーはどうなったのだろう? 定時連絡もないし……。
捜索隊を出す必要があるかな?
#ミイラ捕りがミイラに……

さて、夏和流君の運勢は逆位のチャリオットに正位のスター。
うーむ、「今の片思いは駄目になる。しかし次の恋は成就しそ
う」次回に期待、てとこだね。
あ、ダンジョン内のでは正位のハングトマン(吊るされ男)
……合流するのはちと難しいかも。
がんばれ!

		HG0077	いたくよき


>皆さん、どこにいらっしゃるんですかー!
>ダンジョン内に戻ってきたので、合流させて下さい!

現在位置を教えてください。
誘導します。


	みどり



みどりさんにお話が

>>皆さん、どこにいらっしゃるんですかー!
>>ダンジョン内に戻ってきたので、合流させて下さい!
>現在位置を教えてください。
>誘導します。

ううう、恐かったです……。三十分もどこへ行っていたんですか?(T_T)

現在位置は、例の倉庫の前です。


RIVER


>ううう、恐かったです……。三十分もどこへ行っていたんですか?(T_T)
>現在位置は、例の倉庫の前です。

了解しました、そのまま倉庫を通過してください。
反対側のドアのところで待ってます。


	みどり


$$エピソード『冒険者求む』=======================ある日のベーカリー、部活がOFFになって結構暇な緑である。

「(うーん、やっぱり部活がないと暇ですねぇ)あ、そうだ」
観楠
「どうしたの?緑ちゃん」
「いや……あの…これをベーカリーに貼らせてもらおうかと
 ……思いまして(ごそごそ)」
観楠
「ふーん、どれどれ……って(汗)」
「はい?」
観楠
「この『冒険者求む』って」
「いや、あの…パパが地下室で行方不明…でして」
観楠
「地下室?それで、何で冒険者…」
「あ、うちの地下って迷宮…になってるんです…それで警
 察なんかには頼めないんで」
観楠
「ふーん、『任務は迷宮探査、命の保証なし』これで人が
 来るかなぁ」
「ま、まぁ…こなかったら私一人で…行きますし」
観楠
「ええっ、緑ちゃんこんな危険なところに行くの?」
「はぁ、今まで何度か潜りましたけど…最大で…52階…
 だったかな?」
夏和流
「ふーん。みのる、おまえこういうの本業じゃなかったっけか?」
みのる
「物にまつわる魂などが専門だ。ちがう」
夏和流
「でも、きっとアミュレットとかがあるぞ(笑)」
みのる
「なぜわかる」
夏和流
「それは秘密。とにかく、行ってみようぜ。最近暇だし」
みのる
「演劇部で忙しいと言っていたのは誰だ?」
夏和流
「いいからいいから。
 水島さぁん、僕らもついていっていいですかぁ?」
「あ、お願いします…人数は多ければ多い方が…いいです
 から、それと…中にはいろんなモンスターが居ますから、
 できるだけ装備は…調えておいて…ください、多少の物…
 なら用意…しますけど」

からんころん

影跳  
「こんにちは」
寧   
「こんにちは〜、かなちゃん居る?」
観楠  
「家の方にいるよ」
寧   
「つまんなぁい……何か貼ってある」
影跳  
「冒険者求む?なんです、これ」
観楠  
「いや、何でも緑ちゃんのお父さんが行方不明らしいよ」
寧   
「緑ちゃんのお父さんって、いつもプリン食べてる
    
 変な科学者のおぢちゃんの事?」
緑   
「大方当ってますけど、変なって……」
影跳  
「でも何で冒険者なの?」
緑   
「実は、地下が迷路になっていて、
    
 どうなってるか判らないんです」
寧     
「科学者と地下室そして迷路と来ればまず間違いなく
    
 研究室に繋がってるはず………」
影跳    
「姉ちゃん、何考えてるの?(嫌な予感)」
寧   
「(聞いてない)研究室といえば、未知なる機械がいっぱい
    
 うふ、うふふふふふふふ」
影跳   
「ね、姉ちゃん?」
寧   
「そりゃもう、行くしか!!」
影跳  
「でも、姉ちゃん、命の保証無しって書いてあるよ」
寧   
「大丈夫、いざとなったら盾に出もなってくれるんでしょ」
影跳  
「えっ?それって俺も行くって事?」
寧   
「当然……それとも来てくれないの(嘘泣き)」
影跳  
「ふぅ、判ったよ、で、緑ちゃん出発はいつ?」
緑   
「もう少し人数が集ってからにしようと思ってますけど……
  
 え〜と、あ、あの寧……ちゃん?いろんなモンスターが居るん
 だけど……それでもくる気ですか?まぁ、地下の部屋のほとん
 どはパパの研究室……なんですけど……危険な物ばかりで」
「ふーん、たとえば?」
「いや、たとえば…57階にあるっていう格納庫の一つ…
 には対人用の兵器を満載した…パワードスーツが有る…とか」
寧 
「パワードスーツ?そんな物まで在るの?
     
 ならそんなに危険じゃないじゃない」
緑  
「どうして?」
寧  
「だって、そこまで行って私がそれを着ればいいなじゃないの」
影跳 
「なんかゲームみたいだな」
緑  
「でもホントに危険ですよ」
寧  
「緑ちゃんは連れていってくれないんだ……
    
 ぴーーーーーーーーーーーーー(嘘泣き)」
影跳  
「(こそっと)一度言い出したら聞かな……」

その時、寧が然り気なく足を思いっ切り踏む

影跳  
「……!!!!!」
緑   
「??」
「それじゃ、一緒に行きますか」
「わーい」
「でも、パワードスーツが危険だというのは…パパが作っ
 たものだから…なんですけど…ね」

席に座っていた琢磨呂が夏和流を捕まえて熱く語っている

琢磨呂
「ニィチャン、俺と一緒にエエことせぇへんか?」
夏和流
「エエコト?」
琢磨呂
「そや。森の中で、迷彩服着て、銃で遊ぶんや!」
夏和流
「……いやです。いたそうですし」
琢磨呂
「そんなにいたくは、ない! 女の子やってサバゲやる御時制やで」
夏和流
「うーん……。装備とか、全然ありませんけれど」
「あ、夏和流さん…私の銃…貸してあげましょうか?、こ
 の間つい衝動買いしてしまったんですけど」
琢麿呂
「ん、緑ちゃん何買ったの?」
「はぁ、『デザートイーグル50AE 8インチバレルモデル』
 って奴です」
琢麿呂
「(汗)」
夏和流
「ん、なんか凄いんですか?」
琢磨呂
「なになに、貸してやるって」
夏和流
「ルールとか、全然わかりませんし」
琢磨呂
「一から教えてやる」
夏和流
「年齢制限があったりは……」
琢磨呂
「しない」
夏和流
「いまちょっと病気気味で……」
琢磨呂
「治ってからでかまわねぇよ」
夏和流
「O-157に感染したりは……」
琢磨呂
「するわけねぇだろ!」
夏和流
「じつは、おなかに赤ん坊が……」
琢磨呂
「いるかぁぁぁ!(どげしっとつっこみ)
ええい、おちょくってんのか、てめえは!」
夏和流
「あいたた……冗談ですってば」
琢磨呂
「つまんねえ冗談してんなっ! それでっ! やるのか
やらねえのかっ!(怒)」
夏和流
「(気圧されている)や、やりますっ」
「あの、琢磨呂さん?」
琢磨呂
「お、緑ちゃんもサバゲやる?」
「いや、そうではなくって…迷宮探査、やりませんか?」
琢磨呂
「迷宮探査?」
「はぁ、地下には危険なモンスターがうじゃうじゃです」
琢磨呂
「き、危険なモンスター(汗)」
「といっても非現実的なものではなくって、遺伝子を組み替
 えられた事によって巨大化したり、狂暴化したり、変な知能
 を持って人間に敵意を抱いたりした、その、まぁ……マッド
 ・サイエンスな実験の結果産み出されたような産物なんです
 けど……」
琢磨呂
「……放射能ブレスとか吐かねえか?」
「さぁ、解りかねます……ただ、可能性として決してゼロでは
 ありませんけど」
琢磨呂
「俺は、帰る(キッパリ)」
「……倒したモンスターの質や数によって、賞金……とい
 うか、歩合制のバイト料を……(ぼそっと)」
琢磨呂
「……(ピクッ)……家に帰って専用の銃を取ってくる」
「あ、ちなみに武器弾薬庫って明記された部屋が未だに踏
 み込んだことのない階層にあるんですよねぇ」
琢麿呂
「て、ことはそこで実銃が手に入ったら…」
「地下で使う分にはかまいませんけど…私物化はだめですよ?」
琢磨呂
「ハンドガン一丁だけ………なっ!?頼むよ………」
「ハンドガン一丁ですか…いや、私物化はいけないと言う
 のは…ですね、パパが作ったものだから…なんです」
琢麿呂
「そ、それってもしかして」
「はぁ、パパの作る物って半端じゃないですから…もしか
 してまともな武器があると思ったんですか?」
琢麿呂
「そりゃぁ、まぁ」
「考えても見てください、フルオート機能の付いたベレッ
 タなんて使いたいと思います?」
琢麿呂
「ううむ、反動が凄そうだが何とか使えそうだな」
「そのかわり…弾が1秒でなくなりますけど」
琢麿呂
「……」

パンを選びながら張り紙を見る喬。

喬  
「……『冒険者求む』?
 TRPGサークルの勧誘でしょうか?」
(内容を読んで……)
「……『任務は迷宮探査、命の保証なし』??
 これはいったい……(汗)」
観楠 
「ああ、緑ちゃんの張り紙ですね。興味あります?」
喬  
「はは…… 私が加わっても意味はないでしょう。
 ここのところ仕事も忙しいですしね。
(い、いかんっ! こんな張り紙を炎野君に見られたら
 無理矢理に連れて行かれることは必至だぁ(大汗))」
観楠 
「そうですか(そりゃあ『命の保証なし』だもんなぁ)」
喬  
「(トレイをカウンターへもって行き)今日は全部持って
 帰ることにします。おいくらですか?」

急いで会計を済ませようとするが、そんな行動も虚しく……

火虎左衛門
「よぉっ、喬。張り紙見ただろ?
 面白そうだから見てすぐに参加してしまったぜい」
喬  
「(やっぱりな(汗))ずいぶんと張り切ってるようですが、
『任務は迷宮探査、命の保証なし』ってトコちゃんと見まし
たか?」
火虎左衛門
「ナニを言ってんだ、んなもん気にすんなって。
 タダの演出だ、え・ん・しゅ・つ」
喬  
「そうでしょうか?」
火虎左衛門
「そうそう、そうだって……
 それでな、俺だけが楽しい思いをするのもナンだし
 オマエも参加することにしといたからな」
喬  
「はいはい、そーですか、そーですか。
 …………………………………………
 ナンですとーーーーーーーーーっ!!!」
火虎左衛門
「言ったとおりだ、ちゃんと準備しておけよ」
喬  
「ダレが参加すると言いましたかっ!!」
緑  
(喬の後ろから悲しそうな眼差し&声で)
「ダメですか……
 一度参加してくださると言ってくださったときは
 とても嬉しかったんですが…… そうですか……」
喬  
(うっ……)
火虎左衛門
「あーあ、女の子悲しませるなんて、オマエって
 ひどいヤツだな……」
喬  
「オマエが勝手に進めたんでしょうがっ!!」
緑  
(無言で見詰める)
喬  
「〜〜〜〜〜〜っ!!
 わかりましたよっ!! 行きますっ」
火虎左衛門
「いよっ! それでこそ漢!
 カンと書いてオトコと読むのじゃあ!!」
緑  
「ありがとうございますぅ」
火虎左衛門
「(小声で緑に耳打ち)な? 喬って頼まれると断れんヤツ
だから」
緑  
「(小声)ええ、でも何か悪いですぅ」
喬  
「(火虎左衛門の背後に立ち)聞こえてますよ、明確にね。
 ……あとで憶えてらっしゃいよ……」

(からんころん)

美樹  
「あ、店長、どーもぉ。あれ? この張り紙、何なんですか?」
観楠
「いや、それがですね、美樹さん。
      (解説)
という訳なんだそうですよ」
美樹
「はぁ。でもわたしじゃ戦力になりませんしねぇ……
(独り言)居候の二人もこういう荒事には向いてませんよねぇ」
観楠  
「居候?」
美樹
「あ、いえいえ、そう言うことで、わたしはパスさせていた
だきますと緑ちゃんにお伝えください。
という訳でいつものコーヒーと……何か試作品の試食はあり
ますか?」
観楠
「(妙にうれしそうに)目くじらパンにコサックパンという
のを作ってみましてね……」
美樹
「あ、じゃぁ、それお願いしますわ」

そう言っていつもの奧の席に腰掛け、
 「診断と治療−−情報学的側面からのアプローチ」を開く美樹。

観楠
「どーぞ」
美樹
「あ、どーも」

数時間経過。
 読み終えた本から目をあげる。皿の上には何も残っておらず、コーヒーカッ
 プの底にはコーヒーの跡が乾いている。
 ふと時計を見る。待ち合わせの時間までもう15分ほどしかない。

美樹  
「あ、店長、それではまた」
観楠  
「毎度ありがとうございましたぁ。で、どうでした、
味の方は」
美樹  
「まあまあだと思いますよ、あ、急ぎますんで」

去りゆく美樹。
 そして、その日食べたパンが何であったのか……
 美樹は、ついに思い出すことはなかった。
 数日後……

「な、なんか…」
観楠
「どうしたの緑ちゃん」
「いえ、なんかあの張り紙が…」
観楠
「結構参加者増えたねぇ」
「はぁ、命知らずな人が多いんですね…この辺って」
みのる
「俺は自分では志願していない」
夏和流
「まあまあ」
観楠
「……(うーん、みんな命の保証なしって所を読んでるんだ
ろうか)」
喬  
「ちゃんと読んでますよー(泣)」
火虎左衛門
「だぁから、ンなこと気にすンなってェの」
(喬の背中をばんばんと叩く)
喬  
「うう……」
「さて、そろそろ人数もそろったことですし」
観楠
「出発かい?」
「はいっ、出発しますぅ」

水島家

「さて、みなさん居ますかぁ?」
琢麿呂
「いつでもOKだぜ」
「いるよー」
「居るみたい…ですねぇ。それじゃぁこれを渡しておきまし
ょう」
影跳
「何ですか?コレ」
「あ、電子マップです。オートマッピング機能が付いてる
 から結構便利ですよ」
夏和流
「へー。ゲームウォッチみたい」
喬  
「途中で迷宮の構造自体が変わったらどうなるんでしょう?」
火虎左衛門
「オマエってほんっとネガティブにモノを考えるなぁ、
 そンなのいちいち気にすンなってェっ」
(喬の背中をバンバン叩く)
喬  
「うー(頭を抱える)」
「はぁ、確かにあり得ないことはないんですが…現にあち
 こちに空間のゆがみが生じてますから…そもそもこの迷宮
 自体圧縮空間の中に作られてるんです」
「それは、また…」
「あ、あとマップの中に黄色くマークされてるのがあります
よね?」
「あ、ほんとですね」
「そこは端末になっているんです、家にあるホストコンピ
 ューターにアクセスできるようになってるはず…です」
「それで、操作の方法なんかは…」
「あ、そこの右端の所にケーブルが収納されてすからそれ
 を繋いであとは指示に従ってください」
火虎左衛門
「それ出入り口は何処にあるんですか?」
「あ、ええっと確かここです(ポチっとな)」
SE
「ズゴゴゴゴゴゴゴ、プシュー」
「おおっ、コレは凄い」
「さて、行きましょう…か。とりあえずエレベーターで…
 52階まで…下りましょう」

エレベーター内

影跳
「あの、水島さん?」
「はい、なんでしょう」
影跳
「モンスターってたとえばどんなの?」
「ええっと、この間出てきたのは…巨大化したオケラ、だ
 ったかもしれません」
影跳
「う、それはイヤかも」
夏和流
「……巨大化した、「虫」がいるんですか?(顔色が悪い)」
「え、ええ……結構いますけれど……なにか?」
夏和流
「やっぱり帰りますっ! 虫はいやだぁ!!」
みのる
「(夏和流にちょっぷ)静かにしろ。敵が寄ってくる」
夏和流
「あああああ……(泣)」
「あ、着いたようですね」

エレベーターを降りるとそこにはコンクリートで作られたいかにも巨大な迷宮
 を想像させる高い天井と広い幅を持った通路が現れた。
 エレベーターを降りた一行、結構途方に暮れてたりする。

「さて、どうしましょうか」
琢麿呂
「とりあえずこの大人数で行動するのも何やから…」
「2つぐらいのパーティに分かれた方が賢明ね」
琢麿呂
「(うう、俺が言おうとしたのに)」
夏和流
「それで、どういう風に分かれましょうか」
火虎左衛門
「やっぱり戦闘力は五分五分にした方がいいな」
影跳
「て、ことは戦闘力があるのは僕に琢麿呂さんにみのるさん
 に炎野さん…ぐらいかな?」
「あの、私も戦えますけど…」
「緑ちゃん…あまり無理しない方が」
「いえ、元はと言えば依頼したのは私ですし」
琢磨呂
「おい、みーちゃん」
一同
「?」
琢磨呂
「じゃなかった……緑ちゃん……か。言いにくいからみーち
 ゃんにしとくぞ」
「え?あ?へっ……?」
琢磨呂
「(しどろもどろする緑の態度を無視)良いか、みーちゃん。
 これだけの人数がこのような空間で固まっていたら、余りに
 も脆い。火焔放射で一瞬で全員焦げるぞ!」
火虎左衛門
「お、俺はそんなこたぁしねぇぞ(汗)」
喬  
「(小声)あたりまえですっ!!
 冗談でも、そんな事してみなさい。
 植物人間にしますからねっ!!」
火虎左衛門
「(小声)か、カゲキだな、今日のオマエ(怖)」
喬  
「(小声)サイキック・ナイフ、まだ使えますからね」
火虎左衛門
「(小声)げ……」
喬  
「(小声)今日のために使えるか試してみたんですよ」
琢磨呂
「こらぁ、作戦会議中に不明瞭な会話は止めろっ!」
影跳
「これだけのスペースが在れば、大丈夫なんじゃ……」
琢磨呂
「バカモン! これだから戦術的思考のない奴は……(ぶつぶつ)」 
「影跳っ! 岩沙さんの言うことにも一理あるわよ。いくら広
 い空間とは言え、敵の攻撃を一点に集中させるような布陣は
 避けるべきだわ」
琢磨呂
「分かってるじゃねーか、ネーちゃん。」
「……寧です」
琢磨呂
「だから、寧ちゃんだろ ←(ネーちゃんと発音してる)」
「あのぉ……」
「(寧を無視)確かにそうですね……」
琢磨呂
「緑ちゃんは、炎野さんと寧ちゃんを頼む。俺は喬さんと
 影跳と組む……異存は?」
「無いです。あ、このオートマッピングシステムは通信機を
 兼ねてますんで……」
琢磨呂
「よしっ……じゃぁ、ここの分岐点まで、別々のルートを進
 もう。危なくなったらすぐに助けを求めて後退してくれ」
「解りました」
「任せときなさいって!」
火虎左衛門
「じゃ、行きますか」

地下52階

琢磨呂/影跳/喬/夏和流組はゆっくりと右側の通路を進み始める。

琢磨呂
「やな雰囲気だな……」
影跳
「じめっとした、それで居て生暖かいというか……」

照明が消える

「わああああああああああああああっ」
琢磨呂
「クソッ……誰の仕業だっ!?」
影跳
(マッチを擦っている)
琢磨呂
「ばっ……やめろ! いたずらに自分の位置を露呈する気か。
 取り合えず様子を見るんだ」
影跳
「どどど……どうやって見るんだよ……」
琢磨呂
「心の目で見る……何て野暮ったいことは言わん。耳を使え」
影跳&喬
「耳……(そばだてる)」
喬  
(エンパスで敵意・殺意・食欲の発せられている
 方向を探す。前方に感じられたのは食欲)
「(小声)うわ……」
SE
「ばさばさばさっ…………かりかりかり…………」
一同
「ひいいいっ!」
琢磨呂
「ちっ……命の保証は出来ないってなぁ、マジかも知れんな
(サブ・マシンガンを構える)」
喬  
(なぁにが「演出」ですかっ!!
 気でも失おうものなら、あの生物に
 そのままバリバリ食われてしまいますよぅっ!!
 ……私の正気が失われて苦痛が暴走するのが早いか?)
「(小声)炎野君たちは大丈夫でしょうか?」
「(無線で)……き……聞こえますか、琢磨呂さん?」
琢磨呂
「(小声で)取り込中だ……用件は?」
「電気付きます。目を痛めないでくださいね」

ぱっ! 部屋が明るくなる

喬  
「うわあああああああああああああっ」

電気がついて最初に目に飛び込んだのは、巨大なカナブン………

琢磨呂
「ちっ……(ズドドドドドドドドドッ!)」

サブ・マシンガンの9mm弾はことごとくその甲殻に弾き返され、部屋中に跳弾した。

琢磨呂
「うわっちっち……」
影跳
「あわわ……」
琢磨呂
「銃は使うなっ! 危険すぎる」

そう言うと琢磨呂は、脂汗を流しながらエア・ガンを引き抜いた。
 爆発弾頭「ニトロ弾」装備の特別製である。

琢磨呂
「来やがれ、バケモン。口を開けた瞬間に吹き飛ばしてやる!」
巨大カナブン
「ギチギチギチギヂキチ」
琢麿呂
「くらいやがれっ」

カナブンが仁王立ちになり雄叫びをあげた所に琢麿呂の特性弾頭が命中する。
 そのままカナブンは頭部を吹っ飛ばされ痙攣しながら後ろへ倒れた。

影跳
「危なかったですね」
「これだから来たくなかったんだ」
夏和流
「し、死ぬ…」
琢麿呂
「(無線で)みーちゃん…こっちは片づいた。ところでさ
 っきのはなんだ?」
「(無線で)51階から60階までの端末システムを復旧
 させました、これからはこの端末で有線連絡の方が安全です」
琢麿呂
「(無線で)そうか、確かに無線は傍受されると大変だからな」
「(無線で)そうではなくて…この迷宮は無線が通じない
 場所が少なくないですから、それに端末はMULTIVACにアク
 セスできるようになっているんで、情報はそこから手に入
 れてください」
琢麿呂
「(無線で)解った、通信終わり」
「気をつけてくださいね」
琢麿呂
「さて、そろそろ出発するか…っておまえらぁっ」

そこにはへたり込んでる喬と夏和流の姿が…影跳はその脇で苦笑いを浮かべている。

夏和流
「む、無視なんか嫌いだぁ〜」
琢磨呂
「……ンなこと言ってたら……無視して置いてくぞ? このい
 かにも「虫」が出そうな所に……」
夏和流
「ぎええええっ!」
喬  
「(胸に手を当てて)ふう……」
琢磨呂
「あまり、喚かなくなったじゃねぇか」
喬  
「これ以上足手まといになるわけにはいきませんから、
 自分の恐怖心くらいは抑えていないと」
琢磨呂
(だからって、思っただけで抑え切れるシロモノじゃねぇぞ。
 恐怖ってのはよ。……まさか自己暗示ってやつか?)

パーティ緑

そのころ緑たち一行は通信システムが大半を占める結構広い部屋に来ていた。

緑   
「(端末から)あの……」
琢磨呂
「(端末)どーした、みーちゃんよ?」
「銃声が……」
琢磨呂
「ああ、さっき消火栓のドアを開けたらMP5が中に転がっ
 てたんだよ。みーちゃんのオヤジさんが置き忘れたんじゃ
 ねーのか?」
「あの……地下室自体が積層崩壊したら、私達は生き埋めで
 すから、あんまり……」
琢磨呂
「大丈夫。必要ない弾は撃たねぇからよ」
(心配)
「できましたか?」
寧  
「あ、うん。これでいいはずよ」
火虎左衛門
「こっちは誰もいなかったぜ」
みのる
「こっちも同じく無人だ」
「そうですか、では進みましょう」

湿気の強いかび臭い通路を歩く4人。
 くだらない冗談を寧に聞かせて歩く火虎左衛門。
 先頭を歩きながら聞こえてくる火虎左衛門の話にときどきくすくすと小さく
 微笑う緑。 
 ただ、みのるだけが何も言わず、無表情に歩いている。

火虎左衛門
(みのるに向かって)
「おい、なんか言えよ。まわりが暗いから
 喋らねえと存在忘れちまうじゃねぇか」
みのる
「……(火虎左衛門に目を遣る)」
火虎左衛門
「……うるさいと言いたそうな目だよなぁ、
 クチで言えよ。言いたいならな」
緑  
「……ケ、ケンカしないで…ください…ね?
 こんな…ところで…(あたふた)」

寧は「しないわよ」と傍観する。

みのる
「……喋るな、と言うつもりはない。
 ただ、こういう危険な状態の中で
 徒に隙を造るべきではない……と考えている」
火虎左衛門
「へぇ、俺に隙があるとでも?」
緑  
「そうみたいですね」
火虎左衛門
「(情けない声で)そりゃねーよ緑ちゃぁ〜ん(泣)」
緑  
「泣きそうな顔でこっちを見ないでください(苦笑)
 なにかカサカサという音がこちらに近づいてます」

緑の指さした方は途中で曲がり角になっていて、
 今の位置から向こうを伺うことはできない。

火虎左衛門
「よっしゃ、相手から近づいてくるなら
 迎撃態勢を取ることができるな……」
寧  
「そういうこと! 影跳が居ない分、炎野さんには
 シッカリガッチリ私を守ってもらわないとね」
火虎左衛門
「へいへい。分かりましたよ、お寧ぃ様。
 タイタニックに乗ったつもりで気楽にしてろよ」
緑  
(この人って危機感って感情ないのかしら?)
みのる
「来るぞ」

角から現れたのは巨大なムカデ……
 その顎は人の手首を咬み千切りそうな威容を持っているが
 それよりも顎がもたらす毒が恐ろしい。
 無事で済むはずはないだろうことは4人とも容易に想像できた。

火虎左衛門
「先手必勝! 赤龍砲ぅ!!」

突き出された掌から赤熱する光線がムカデの頭を貫く!!
 火虎左衛門はそう確信していた。
 が、ムカデはすばやく頭をもたげて光線を躱した。
 しかし角度の浅かった光線は地に付いていたムカデの
 胴を燃やしており、ムカデの上体はぼとり、と音を立てて落ちた。
   
 しかしムカデの頭は二つに切られたにもひるまず、
 火虎左衛門に向かって突進する。

火虎左衛門
「なにぃっ!? 畜生、赤龍……」

遅い。

みのる
「(小指ほど長さのの剣のキーホルダーを握って)やはり隙
だらけではないか」

握った剣のキーホルダーをムカデの頭に向かって投げる、
 両目の間、人で言うなら眉間に命中し、刺さりはしたが、
 針ほどの小さな剣でダメージが与えられる筈はない。

みのる
「(すばやく印を切り)伏魔の剣よ……」

みのるの解放の印によりキーホルダーが有るべき姿に戻った。
 有るべき姿とはあやかしを切り裂く霊剣である。
 刺さった剣は見る見るうちに大きくなり、ムカデの外殻をこじ開ける。
 ばかっ、とムカデの頭が割れ、その隙間から体液をこぼし……
 やがて動かなくなった。

みのる
「(火虎左衛門に)一度死んだな」
火虎左衛門
「ありがたく思ってやるから、もう少し愛想よくしてくれね
ぇか?」

そう言いながら手のひらに宿していた炎をみのるに投げつける。
 炎はみのるの真後ろでのたうっていたムカデの下半分に命中。
 1メートルあるそれは細身のみのるくらいなら弾き飛ばしかねない。

火虎左衛門
「焼き尽くせ!」

火虎左衛門の言葉によりムカデについた炎は一気に燃え上がり、
 外殻、身体を焦がし、水分を蒸発させる。

火虎左衛門
「へへ、おめぇも危なっかしいじゃんよ」
みのる
「(むッ)お互い様だ」
火虎左衛門
「そうそう、お互い様ってヤツよ」
(みのるに近づいて肩を組み、緑と寧に……)
「俺ら、一度は死んだ陽気なぞんびーずでーっす!!」

一瞬の沈黙。運のいいことに孝雄はシラケ鳥は造っていないようだ。

寧  
「あははははははははっ!! 炎野さんバカっ(爆笑)」
緑  
「(くすくす)寧ちゃん、バカっていっちゃ悪いですよ」
みのる
「……」
火虎左衛門
「おい、なんか言えよ」
みのる
(霊剣の先を火虎左衛門に突きつけて微かに笑う)
「……夏和流なみに笑いのセンスないな、あんた」
「さて、進みましょうか」
琢麿呂
「(無線で)ザザッ…こっちはほとんど探索完了だ…ザ…
 エレベーター前で合流しよう」
「(無線で)解りました、あと2・3部屋回ってからそち
 らへ向かいます」
琢麿呂
「(無線で)了解した」
「どうかしたの?」
「あ、岩沙さんの方はもう担当区域を終わったようです、
 私たちもさっさと終わらせちゃいましょう」
火虎左衛門
「よし、先を急ごうぜ」
みのる
「ここが最後だな」
「ええ、そのはずです」
「なんにもないね」
火虎左衛門
「さて、もどろうぜ」
「そうしましょう」

エレベーター前

琢麿呂
「よう、遅かったな」
「虫…に結構戸惑いまして」
夏和流
「あの…虫ってもっといるの?」
「いや、あまり多くないはずなんですが…変ですね」
「実は黒幕が緑ちゃんのパパだったりして」
影跳
「わぁ、姉ちゃん変なこと…」
「いいんです、実際そういうことがあり得ないこともないで
すから」
琢麿呂
「さて、次はB53階だったか」
「ええそうです、確か倉庫だったはずです」
「てことはパワードスーツが(目がお星様)」
琢麿呂
「実銃ざっくざくか(目がお星様)」
「いや、あの…」

などと会話をかましつつパーティを乗せたエレベーターのドアは閉まった…
 エレベーター、地下53階を示す。

喬  
「着きましたね」
火虎左衛門
「ところでよ。倉庫って、もしかしたら
 警備のロボットとかトラップとかあるんじゃねぇか?」
寧  
「十分ありうるわね。それじゃあ……」
影跳 
「姉ちゃん。何で俺の背中を押すんだよ(汗)」
夏和流
「まぁまぁ、ここはひとつ穏便に
 ジャンケンで決めましょう」
火虎左衛門
「女の子二人は抜いて野郎共だけでするか」
寧  
「うんうん、いいこと言うわね」
火虎左衛門
「でなきゃ影跳の当たる確率が2人分になるだろうし」
影跳 
「うううう、よく分かっていらっしゃる(泣)」
寧  
(無言で脛蹴り)
琢磨呂
「ええいっ、めんどくせぇ、
 とっとと決めちまおうぜ(いらいら)」

じゃーん、けーん、ぽん!!

みのる
「墓穴をほったな……」
夏和流
「うう、僕は無実だぁぁぁ(大泣)」
琢磨呂
「やかましいっ、男がうだうだ言うんじゃねぇっ」

男性陣の盛り上がってる裏で……
 緑は倉庫のシャッターの横の端末で自分の知っている
 すべてのパスワードを試していた。

緑  
(うわ…… パスワード書き換えられてるみたい。
 ま、2・3分もあれば探れると思うけど)
寧  
「ねぇねぇ、なにやってんの?
 私が見てあげよっか」
緑  
「ん…いいです…すぐ終わりますから」
寧  
「いいからいいから、
 私だって結構自信あるんだから」
緑  
「あ、あのぅ……」

てきぱきと自分のハンドヘルドコンピュータをセットし、
 探りを入れる寧。その嬉々とした目は
 「他のことなんか耳に入らない」
 という彼女の状況を雄弁に語っている。
 緑は寧に任せようと首に差したピンを抜いた。
 そして5分もたたないうちに……

寧  
「はい、終わりっ!!
 あのおじさんもなかなかのウデだけど
 やっぱり個人のモノだからこの程度ね」
緑  
(この子…生身…よね(汗))

で、野郎共は……

夏和流
「や、やっぱり5回勝負にしません?(半泣)」

3回勝負を希望し、負け引き延ばしたにもかかわらず
 惨敗し泥沼にはまっている夏和流。

みのる
「引き際って言葉知ってるか?」
火虎左衛門
「(うんざり)もうあきらめろよ」
琢磨呂
「だぁーっ もういいっ!! 俺が行くっ」
(銃が目の前だっていうのにっ、こいつはっ)

ここでハンドヘルドコンピュータを片づけ終わった寧が話に割り込む

寧  
「みんなで何やってんの? 影跳」
影跳 
「え? ああ、誰が倉庫の扉を開けるかって、
 ジャンケンしてるんだ」
寧  
「って、倉庫のロックとトラップならもう解除したわよ」
夏和流
(それを聞いて、颯爽と扉の前に立ち髪をかきあげる)
「ふっ、ここは僕に任せてくれたまえ(ニヤリ)」
みのる
(霊剣の平ではたく)

べち!

夏和流
「おおっ!!(後頭部おさえる)」
火虎左衛門
「(みのるに)燃やしていいか?」
みのる
「骨も残すなよ」
喬  
「(火虎左衛門に)やめなさいって(苦笑)
 倉庫で武器を調達するのが先でしょうが」
琢磨呂
「うむ、そのとおり。
 実銃、実銃〜〜〜っ(目がお星様&ダッシュ)」
寧  
「パワードスーツぅ〜〜〜(目がお星様&ダッシュ)」

倉庫の中は予想以上に広く、雑然としていた。
 散らかっているのだ。
 探し物を見つけるには随分と時間がかかるかもしれない。

緑  
「既にセキュリティは解除してます。
 必要なものは探して持ち出してください」
琢磨呂
「うおぉぉぉ、銃はどこだぁ!」
寧  
「パワードスーツはいずこおぉぉぉ!」
緑  
「って聞いてませんね(苦笑)」
火虎左衛門
「俺、高速振動剣とかそういったモノ」
喬  
「防毒マスクとか、軽くて動きを妨げない防具なんかは
 人数分あった方がいいですよね。
 私個人では護身用に短銃をいただきたいですね」
火虎左衛門
「オマエ、注文が多いな」
喬  
「安全のためですよ」
夏和流
「これなんかいいな……これもお金になりそう……」
火虎左衛門
「おい、何やっているんだ?」
夏和流
「え? 「だんじょん」名物「財宝」を泥棒……もとい、
 報酬として……」
みのる
(無言で後ろに立つ)
夏和流
「……な、なーんちゃって……。はは……」
みのる
「……殺虫剤でも持っていろ」
「はぁ、なんかみんな凄いですねぇ」
みのる
「なかなか広いところだな」
火虎左衛門
「よっしゃ、俺もなんか探してくるか」
「じゃ、私も行ってみましょうかねぇ」

そのころ琢麿呂は
 ----------------

琢麿呂
「す、すげえ(ごくっ)まるでテロ組織のアジトだなここ
 は」

琢麿呂の眼前には乱雑に積み上げられた兵器が入っている箱があった。

琢麿呂
「とりあえずコレは…M16だな、コレなんてハンドバズ
 ーカじゃねえか…ここじゃ使えんな…」

そのころ寧は
 ------------

「あー、パワードスーツは何処かしら。あのおじさんの作
 ったものならとんでもない物ができあがってるはずだわ」

きょろきょろあたりを見回しながら歩き回る寧、そこへふとシートをかぶせら
 れた巨大な物が目に入る。

「うーん、コレなんて臭いわね…そーれっ。こ、これは!
 なんでアパッチがこんな所にっ(汗)」

そう、シートをかぶせられていたのはあの戦闘ヘリのアパッチであった、こん
 な地下室で全く謎である。

琢磨呂
「バカもの、コレの何処がアパッチだ!」
「戦闘ヘリなんてみんなアパッチで良いのよっ」
琢磨呂
「コレは戦闘ヘリじゃない、戦闘偵察ヘリだ! それも合衆国
 でまだ機密扱いになっている、RAH-64コマンチじゃないか」
「ふーん……そんな凄い物なの?(小突く)」
琢磨呂
「あー、乱暴に扱ったら、表面のステルス塗装が……」

ばりっ

琢磨呂
「は!?」
「腕が貫通しちゃったけど……」
琢磨呂
「もしかして……(蹴る)」

めきょっ!

琢磨呂&寧
「レ、レプリカどころか、ハリボテじゃねーーか!」

一方緑は…
 ----------

「さて、このフロアーの端末はここですね(端末直結)」

壁に埋め込まれているコンソールを見つけると、緑はコンソールと自分の首の
 後ろの端子を直結した。
 IDを入力しパスワードを入力する…

MULTIVAC
「識別完了…ようこそ Ms.Midori」
緑(直結中)
「フロアー53階のマップを、あと53階のセンサーは生きて
 る?生きてたらサーチして」
MULTIVAC
「マップ転送中…完了!現在53階のセンサー群はすべて作
 動を停止、応答しません」
「そう…あら、ここの階って全部倉庫なんですねぇ」
MULTIVAC
「倉庫にある品物の一部ですが『目録』がDr.Takaoのデス
 クに存在していますが?」
「サイズによりますねぇ…このサイズなら大丈夫、転送し
 てください」
MULTIVAC
「Yes 目録を転送します…完了!」
「ところで、もしかして転送プロトコルを変えた?」
MULTIVAC
「Yes 一月前にDr.Takaoの手によって変更されました。何
 か不都合でも?」
「ううん、なんでもない。ログアウトするわ」
MULTIVAC
「あまり無理なさらないように」
「それじゃ…ね」

現実世界に戻る、ふと気配を感じて振り向くとそこには寧がいた…

「緑ちゃん…あんた」
「ばれちゃい…ましたか」
「何者なの?もしかして、ロボット?」
「いえ、私はサイボーグ。それも脳以外をすべて機械化し
た戦闘サイボーグです…」
「それってやっぱり、緑ちゃんのあのパパが?」
「はい、私は小さい頃に大きな事故に巻き込まれたそうで
す、死に瀕していた私をパパはサイバー技術によって再生
させました」
「そう、それでそのケーブル…」

そういうと寧は緑を指さした、どうやら首筋にはまったままになっているケ
 ーブルを指しているらしい

「あ、これですか?MULTIVACにアクセスしてたんです」
「ふーん、便利ね。私もそういうの欲しいわ。それじゃ私
はあっちを探してみるから」
「あ、あのっ(焦)」
「ん、なに?」
「秘密に…してもらえますか?」
「人間一つや二つ秘密はあるものよ、かくいう私にも秘密
はあるしね。もちろん秘密にするわ」

そういい残すと寧は物陰へと消えていった。
 そのころ夏和流は
 ----------------

夏和流
「うーん、僕はみのるの行ったとおり殺虫剤でも探すかな
 お、コレなんか良さそうだな」

夏和流が手に取ったのは一本のスプレー缶、段ボールにびっしりと箱詰めされ
 ていた奴である。しかも缶には、なにも貼っていないが段ボール箱にはしっか
 りと「危険!孝雄チューン済み」と(笑)

夏和流
「試しにこの壁に吹きかけてみるかな(シュー)」

するとスプレーを吹きかけられたコンクリートは物の見事に解け始める…

夏和流
「めっちゃ、やばいやん!このスプレー(苦笑)」
夏和流
「(きょろきょろ見回し)でも殺虫剤ないとまた虫が出て
 きたとき恐いからなぁ……。他にないかな……。
(缶を手に取り)? この缶なんだろ?(ぷしゅ!)」

すると突然白い霧が夏和流を包む!

夏和流
「わわわわわっ!? 二助の兄は『たすけ』てぇぇぇぇ!?」

やがて助けはやってきたが。

影跳
「どうした……なんだ、この霧?」
琢磨呂
「わけがわかんねぇな。うかつに近づくんじゃねぇぞ」
火虎左衛門
「燃やすか?」
みのる
「それがいい。髪の毛一本残すなよ」
「何を燃やすんですか……?(汗)」

そして、霧が晴れたときには、缶が落ちているだけだった。

「えーと……『携帯用転移スプレー』? どこに移動する
 かは……書いていないわね。」
「どうしましょう……探しましょうか?」
みのる
「世界平和と俺の精神安定のために、ほっとけ」
琢磨呂
「そうだな。うかつに手を出したあいつも悪い」
「まあ戦力ダウンは否めませんが……なんとでもなります」
火虎左衛門
「(出口で)おーい! さっさといこーぜ!」
影跳
「じゃあ、行きましょうか」
そのころのベーカリー楠では……
 日曜日の昼下がり、いつもなら常連客で一杯のはずのベーカリー楠であるが
 今日はちと様子が違う。

観楠
「平和だねぇ……」

「ほうっ」と、溜息をつき、頬杖をついたまま店内を見回す。人影は…あった。
 一人黙々を本を読み、時折珈琲を口にしている某人物が…。
 その時カランカランッと勢いよく扉を開けて郁代が入ってくる。

郁代
「や、マスターおひさし。」
観楠
「郁代さん?あれれ、お久し振りです(笑)」
郁代
「あれれ?」
観楠
「あれれ」
郁代
「(何々だか…)あれ?あんまし客いないね」
観楠
「皆あれに(目で示す)行ってるみたいだよ」
郁代
「何々…、「冒険者求む!」ははぁ、これに飛び付かん
 奴はおらへん、ということか」
観楠
「皆無事だといいんだけれど…」
郁代
「ふ〜ん。ちょっと占ってみるか」
観楠
「へ?占い?」
郁代
「最近これに凝ってんの。まあ、真似事やけど結構当た
 るんよ」

と、言いつつテーブルの上にタロットカードを出し、時計周りに混ぜ始める。
 観楠は興味深そうにそれを見守っている。某人物は…我関セズである。
 郁代は適当にカードをカットし、2組の山を作る。

郁代
「状況は…っと、ふむ。因子は……」

と、カードを交互にめくり、6枚のカードで円を作り、中央に十字方に2枚
 のカードを重ねた。

観楠
「どうでた?」
郁代
「…う〜ん、マスターこれ結構やばいよ」
観楠
「えっ?」
郁代
「早いところ手を打たんとまずい事になりそうや」
観楠
「まずい事って、まっ、まさか……」
郁代
「うむ、早いところ素子ちゃんにプロポーズしないと、
 素子ちゃんの方に新しい出会いがある、と出ている。
 因みにマスターの方はさっぱり。これがラストチャン
 スに限り無く近いからきばってやんないとまずいかも。
 ラッキーカラーは白・赤、まあ、薔薇の花束でも持っ
 て行くんやね」
観楠
「何を占なってんだぁぁぁぁっ!(観楠乱舞モード)」
郁代
「ぺしっ」
観楠
「ああっ、小パンチで消された…」
郁代
「ふむ、あき(りん)ちゃんの言った通りだな。
 で、マスター。ほれ」

と、郁代、観楠の方に手を出す。

観楠
「なんですか?」
郁代
「見料500円」
観楠
「あんなんで見料取るんかぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
美樹
「あっ、コーヒーお代わりお願いします」

腕を組んで貼紙を読む郁代。

郁代
「だんじょんか……。おもしろうそう」
「………方向音痴がなにゆーとんねん」
郁代
「あっ、しらんなー!俺地下道とか、迷路では迷わへんねんで」
「信用でけへん」
郁代
「ほんまやて」
「ぜーったい信用でけへん。お前吹利のデパートでまよっと
 
 たやんか」
郁代
「あ、あれはやなぁ、タワー型やからゴニョゴニョ」
「地下やったら絶対迷わへんねんな」
郁代
「おうともよ」
「(ニヤリ)ほんなら行ってみるか?」
郁代
「望むところよ!って、俺戦う手段ってほとんどないんやけど……」
「なんやおじけづいたんか?」
郁代
「んー。(沈思黙考)」

郁代、ぽんと手を打ち。

郁代
「うってつけの職業があったっけ」
「なんや」
郁代
「方向音痴のマッパー」
観楠  
「……仕事疲れでネジでも弛んだか?(汗)」
郁代
「……多分(汗)」
謎の声
「ほほう、頭にネジが……うひゃひゃひゃひゃ
 おいちいっ!」
郁代
「…いま、誰かいた?」
観楠
「…緑ちゃんのお父さんのような…」

2人、そっと後ろを振り返る

美樹
「……」

無言で珈琲を飲んでいる美樹の姿だけがあった。

郁代・観楠
「げ、幻聴かな…?」

そして、忘れ去られていた夏和流は……

夏和流
「うわああああ……あれ? ここは……」

転移スプレーにもくもくと包まれた夏和流は、気がつくとベーカリー楠の前に
 立っていた。

夏和流
「直前に考えていたところに出るスプレーだったのかな……」

ぶつぶつ考えていた夏和流だが、とりあえず中に入ろうと決心した。
 ……だがそのとき、後ろから奇声が。

謎の声
「その通りぃ! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……」
夏和流
「うぉあ!?(ふりむく)」

しーん。

夏和流
「な、なんだったんだろ……(汗) とりあえず、中に入
 ろう……メカの目からめか(中)へ入る、なんちゃって」

本人としては、気を落ち着けるためのギャグだったのだが……

謎の声
「改造かね! ならば、いますぐわしが!」
夏和流
「ひぁあ!?(ふりむく)」

やっぱりしーん。

夏和流
「(汗) いや、何となく読めたよーな……。
 (わざとらしく)おお、これはすごいへいきだ」
謎の声
「どれどれ! うひゃひゃひゃひゃ、わしがさらに改造を!」
夏和流
「(振り向いて確認)やっぱり、いない……」

とりあえず、夏和流はベーカリーの中へと入ることにした……

夏和流
「こんにちわー……どうしたんですか、二人とも。顔色が
 よくないみたいですけれど……」
観楠
「い、いや……」
郁代
「いま、幻聴が……」
夏和流
「……二人同時に幻聴ですか?」
郁代・観楠
「う、うん……」
夏和流
「二人同時って事は、普通に聞こえたんじゃないんですか?」
観楠
「でも、(かくかくしかじか)って事が……」
夏和流
「……ああ。実は僕もさっきからそういう声が聞こえるん
 です。
 例えば……身体改造でもしようかなー」
謎の声
「ほほう、改造を……うひゃひゃひゃひゃ、おいちいっ!」
郁代・観楠
(げっ!?)
夏和流
(くるっと振り向く)
 
 しーん。一瞬にして消えている。
 
夏和流
「……まあ、とりあえず気にしない事にしました」
観楠
「気にしないって……(汗) よく平気だね」
夏和流
「生きていれば、いろんな事があるものですよ……(遠く
 を見つめる)」
郁代
「そういう問題か?」
夏和流
「なにか問題でも?」
郁代
「……まあ、納得できるんならええけどな……」
観楠
「(はっと気がつく)そういえば、なんでここに? 確か
 緑ちゃんとダンジョンに入ったんじゃなかったの?」
夏和流
「じつは(格さん助さん)というわけで」
観楠
「なるほど(かくかくしかじか)なわけね」
郁代
「あ。そういえば、さっきの声は、目的の緑ちゃんのお父
 さんの声ちゃう?」
観楠
「そういえば……」
夏和流
「そうなんですか?」
郁代
「気がつかんかったか?」
夏和流
「人生には失敗が付き物です……(遠くを見つめる)」
郁代
「今度はそれじゃごまかされへんで」
夏和流
「ふっ……(微妙に汗)」
観楠
「……いったい何なんだろうね……二重の意味で……」
郁代
「それはそうとして…、どうすん?自分?」
夏和流
「へ?」
観楠
「これからどうするの?ダンジョンに戻るの?(苦笑)」
夏和流
「あ、あーあー。どうしましょう?(笑)」
郁代
「ええかげんなやっちゃな(^^;。ま、何かの縁やし占ったろ
 このカード適当に混ぜて」
夏和流
「こうですか?」
観楠
(興味深そうに見ている)
郁代
「ほしたらカードを2枚抜いてここにおいて」
夏和流
「はい」

逆位のデスに逆位の運命の輪。

観楠
「…なんかタロットって知らないけど、良いようには見えな
 いような…」
夏和流
「ははははははは…(力ない笑い)」
郁代
「えーと…」
夏和流
「で、どっ、どうなんですか?」
郁代
「んー…」
夏和流
「もしかして、生死に関わってくるのでは?」
郁代
「えーとね、定められた転成…というより、繰り返される生
 あっ、2度あることは3度ある、って意味かな?」
夏和流
「と、いいますと?」
郁代
「あのね、逆位のデスの示すのは、”起こり得ないような事”
 逆位の運命の輪は、”定めれらし事”とか、”繰り返される
 こと”てな意味にとれる」
観楠
「で、起こり得ないような事って…」
夏和流
「もしかして…。わわわわっ」

と、言ってる内に夏和流の姿が消えた。

観楠
「きっ、消えた!!」
郁代
「…どこ行っちゃったんだろう…」

と、郁代、カードを一枚めくる逆位の陰者、ついでもう一枚、チャリオット。

郁代
「ふむ、戦士の集うところに現れる…か、元ん所に戻った
みたいやね」
観楠
「やれやれ…。なんかどっと疲れた」

夏和流、気がつくとスプレーした場所に戻ってている。呆然としつつも足元
 のテレポーテーションスプレー(勝手に命名)に目をやるとそこには…

スプレー
「効果時間15分」

の文字があった。

観楠  
「聞こうとおもったんだけど」
郁代  
「なにを?」
観楠  
「いや、いつもそんなもん持ってんのかって」
郁代
「んー……今回はたまたま……かな」
観楠
「んじゃ、なにか? 俺と素子ちゃんのこと占うだけの為
 にわざわざ持ってきたってか(汗)」
郁代
「だって、気になるしぃ〜〜(笑)」
観楠
「気にするなぁ〜〜!!(汗)」
=====================================================================>Subj: だんじょん内にて皆さん、どこにいらっしゃるんですかー! ダンジョン内に戻ってきたので、合流させて下さい! river==========================================================================================================================================> 皆さん、どこにいらっしゃるんですかー! > ダンジョン内に戻ってきたので、合流させて下さい! > riverやっと連絡が入ったと思ったら夏和流君か……(笑)。(ひでえ)無事にダンジョンに戻れたようでよかった、よかった。他のメンバーはどうなったのだろう? 定時連絡もないし……。捜索隊を出す必要があるかな? 
 #ミイラ捕りがミイラに……さて、夏和流君の運勢は逆位のチャリオットに正位のスター。うーむ、「今の片思いは駄目になる。しかし次の恋は成就しそう」次回に期待、てとこだね。あ、ダンジョン内のでは正位のハングトマン(吊るされ男)……合流するのはちと難しいかも。がんばれ!  HG0077 いたくよき==========================================================================================================================================>皆さん、どこにいらっしゃるんですかー!>ダンジョン内に戻ってきたので、合流させて下さい!現在位置を教えてください。誘導します。
  みどり==========================================================================================================================================みどりさんにお話が>>皆さん、どこにいらっしゃるんですかー!>>ダンジョン内に戻ってきたので、合流させて下さい!>現在位置を教えてください。>誘導します。ううう、恐かったです……。三十分もどこへ行っていたんですか?(T_T)現在位置は、例の倉庫の前です。RIVER==========================================================================================================================================>ううう、恐かったです……。三十分もどこへ行っていたんですか?(T_T)>現在位置は、例の倉庫の前です。了解しました、そのまま倉庫を通過してください。反対側のドアのところで待ってます。
  みどり=====================================================================

地下53階・倉庫

「あれ?どうしたんですか三河さん」
夏和流
「え?あれ、ここは」
「?」
夏和流
「ん、いや、なんでもないよ」
「あの、中央の広場に集まってもらえます?リストが手に
入ったものですから」
夏和流
「あ、うんすぐ行くよ(おっかしいなぁ、確にベーカリー
にいたと思ったんだけど)」

倉庫中央

雑然としたこの倉庫であるが、なぜかこの中央部だけは片づいている。

「みなさん集まりましたか」
琢磨呂
「おう、全員居るぜ」
火虎左衛門
「何かあったのか?」
「あ、いえ、そういうわけではなくて。ここにある品物で
すけど一部のリストが手に入ったんです」
「え、本当?パワードスーツをさっきから探してるんだけ
ど無いみたいなのよね、そのリストには載ってない?」
「はぁ、残念ですけど載ってません」
夏和流
「ねぇ、みのるは何か見つけたの?」
みのる
「ん、俺の趣味には合わないものばかりだ」
夏和流
「なぁんだみのるも結局なにも持ってきて無いのかぁ」
みのる
「実用的な物は、残念ながらな。持っていきたい物はあっ
たが」
夏和流
「持っていきたい物って?」
みのる
「合体ロボットらしき物だ」
夏和流
「…………なんで、合体ロボットが欲しいの?」
みのる
「趣味だ(きっぱり)」
夏和流
(そぉいえば……みのるって特撮好きだったっけ)
火虎左衛門
「みのるの趣味って言やアレだろ?
 いかにも古臭そうで怪しい骨董品屋で眠ってそうな
 ガラクタ紛いのヤツ」
みのる
「……(無言で剣を突き付ける)」
火虎左衛門
「こらっ、刃物の切っ先を人に向けるんじゃないっ!!
 人に剣先を向けるなって取説に書いてなかったのか?」
みのる
「書いてあるわけないだろう」
夏和流
「……剣に取説があるの?(汗)」
「あの、岩沙さん。さっきから気になってるんでけど……
その後ろの箱はいったい(汗)」
琢磨呂
「ああ、これか。みんなの分の武器だ、とりあえず初心者
や女性でも扱えるオーソドックスな奴を押さえてみたんだ
が」
火虎左衛門
「おおっ、MMでいう高周波ソード、
 通称ドリルソードではないか!!
 お目が高ぇじゃねーかよぅ(笑)」
「ああ、そうですか(汗)とりあえず今後の作戦なんです
けど」
「また敵だらけって言うのは嫌ですよ」
火虎左衛門
「しょうがないだろ、迷宮なんだから」
喬  
(うう……私の平穏な日々はいったい)
「えーとですね、54階から56階はどうも私たちが進入
するのは不可能みたいです」
夏和流
「えっ、なんで?」
「MULTIVACのセンサーが気温400度というのを指してる
んです、さすがに熱すぎますね」
火虎左衛門
「規模にもよる制御できないほどの熱量じゃねぇな」
喬  
「バカ言いなさい、部屋いっぱいの炎をオマエじゃ
 消せるわけないでしょうが。
 それに熱源が炎とは限らないんですから」
緑  
「マイクロ波で廃棄物で焼却してると思われます」
喬  
(マイクロ波焼却炉…… ナニ燃やしてるんだろう(汗))
影跳
「ここって本当に地球?」
「きっとあのおじさんのことだから異次元かもね」
夏和流
「そ、そんなぁ」
みのる
「情けない声を出すんじゃない」
「えーと、とりあえず次は一気に60階まで下ってみたい
と思います」
夏和流
「なんなら一気に100階とか下りちゃえばいいんじゃ」
「いえ、この第1エレベーターでは60階までしか下りら
れないんです。第二エレベーターは61階にあるんで1階
層ほど階段で下りないとだめですね」
「影跳!しっかり守ってよね(微笑)」
影跳
「う、うん(汗)」
琢磨呂
「じゃぁ、とりあえず武器を配っとくか」
「琢磨呂さん、どんな武器を捜してきたんですか?」
琢磨呂
「まず、女の子にも扱い易い『火炎放射器』だろ……
……」
「ちょ、ちょっと!こんな閉鎖空間でそんなもの使っ
たら一瞬で酸素欠乏になっちゃうじゃないの!」
琢磨呂
「……そう言えば、そうか。緑ちゃん、空調はど
うなってるんだ?」
「さぁ、相当整備されてるはずですが限界はあるでし
ょうから……さすがに火炎放射器はまずいんじゃな
いでしょうか」
琢磨呂
「反動が無くて初心者にも扱い易いと思ったんだが
……じゃ、つぎ」
SE
「がさごそ」
琢磨呂
「えーと、緑ちゃん用に大口径の大型ハンドガンだ。
緑ちゃんのパワーなら十分使いこなせるはずだし、
狭い建造物内部では長物を振り回すよか良いだろう」
「こ、これは?(ずっしり)」
琢磨呂
「……見たところ、DesertEagle 50AEのカスタマイ
ズバージョンのようだな。並みの破壊力じゃないぞ、
恐らく(一度は緑に渡したものを再び手に取り調べる)
……やはり!」
「?」
琢磨呂
「こいつぁ、50AEなんてもんじゃねぇ。何かDesertに
してはでかいと思ったんだ……これ、ライフル弾仕
様になってやがる!」
「!!!」
琢磨呂
「なんつー化けもんだ(がさごそ)……お、今度はま
ともだな。Stear社のサブマシンガンと、AUGのショー
ティ。こいつは建物内で使用するにはベストの組み合
わせかも知れん。……(ぶつぶつ)」
「こーんなばかでっかいものを私が使うの?(身長12
0cmの寧がAUGを担いで言う)」
琢磨呂
「寧ちゃんの為に、こういう武器も用意してあるのさ
(がさごそ)……じゃん!キャリコピストル22LR仕
様。破壊力は凄く落ちるけど、連射性能と装弾数はト
ップクラスの銃だから、時間稼ぎには使える。ただ、
こいつの破壊力を信頼するのは困り者だ。なにせ熊に
全弾撃ち込んでもほとんど効かんからなぁ」
「そ……」
琢磨呂
「かといって44口径のマグナムハンドガンなんぞ寧ち
ゃんの体で撃ったら腕が吹っ飛ぶ。寧ちゃんでも撃て
る22口径の銃である程度の制圧力を求めるならばキャ
リコ系しかない」
「わかったわ」
琢磨呂
「野郎どもは、メインはAUGのShortyを使う。7.7mmNA
TO弾だからな、反動を押さえて撃たないと当たらんぞ!」
火虎左衛門
「う……結構重いな」
琢磨呂
「バカ言え、強化プラスチックだぞ、男がそんなもので音
を上げてどうする!」
一同、割り当てられた武器を眺めている

みのる
「(AUGショーティを持つ)……確かに少しは重いな」
夏和流
「(AUGショーティを持つ)あう、全然すこしじゃないよう」
火虎左衛門
「(AUGショーティを持つ)やはり重い物は重い……」
影跳
「(AUGショーティを持つ)た、確かに」
「私もこれを使うんですか(AUGショーティを持つ)」
琢磨呂
「取り回しのよさ、Great!
ブルパップによる精度、Good!
独自のシステムによる高速連射性能、Wonderful!
その上プラスチック本体で軽量、Fantastic!!!」
一同
「どこがじゃぁぁぁっっ!( Splash!)」
琢磨呂
「人の言うことを聞こうともしない奴等だ。とにかく、
野郎はAUG、寧ちゃんはキャリコピストル。緑ちゃんと
俺は(がちゃがちゃ)……これを使う」
琢磨呂取りだしたる火器は、40mmグレネード連装発射機。孝雄カスタムで片手撃ちが出来るようにしたタイプであるが、明らかにサイボーグなどのために開発された火器である。

「そ……それは!」
琢磨呂
「ふふふ……」
「そんなの生身の腕で使ったら……はっ!」
そう、緑も琢磨呂も腕は生身ではなかったのである。みなまで言いいはしなかったが、緑の瞳はその事実を知っていることを明らかに物語っていた。

琢磨呂
「俺と緑ちゃんは、こいつと、ステアーSMGというサ
ブマシンガンを使う。9mm弾をばらまく暴れ馬だが、
腕さえしっかりしてりゃぁ扱える。OK?」
「りょ、了解。やってみます」
琢磨呂
「OKじゃ、とりあえず扱い方を教えるからな」
以後10分ほど、琢磨呂による銃器講座が続く……

「岩沙さん、危ないっ!(SMG乱射)」
琢磨呂
「くっ……(床を転がりながら緑の射撃した方向へ少
し遅れて乱射)」
直後、琢磨呂が1秒前までいた場所に大きな爪の後が付きコンクリートが抉り取られる。

琢磨呂
「ちっ!(手早く体勢を立て直すとグレネードを構える)」
そこには、一見熊にも見えるがは虫類の鱗を持ち合わす、遺伝子操作を受けたのだろう獣がいた。

「ガァァ!」
琢磨呂
「これでも喰らいやがれっ!(グレネード発射!)」
「グァォォ!(見事着弾し、凍結する)」
琢磨呂
「……何で凍結するんだ? この弾は……」
「パパが、弾も改造していたんだと思います……」
琢磨呂
「まあ、倒せたんならいいけどよ……」
(氷漬けになって通路に立っている)
夏和流
「え、えーと、確かここを引いて、弾が出る……」
みのる
「夏和流。もう終わったぞ」
夏和流
「……あれ?」
琢磨呂
「うーむ」
「どうしたんですか?」
琢磨呂
「で、出番がなかった(汗)」
「あれ?」
影跳
「どうしたの姉ちゃん」
「うん、この虫なんだけどね。チタンで出来てない?」
「あ、そういえば……」
みのる
「完全に造られた物……だな」
夏和流
「ええ、ただの虫じゃないのっ?」
火虎左衛門
「チタンじゃ俺の炎じゃやばいかもしれないな」
火虎左衛門
「だが!! 俺の炎にこの熱い情熱があれば!!
 チタンだろうがティターンだろうが
 焼き尽くしてみせるっ!!(力説)」
喬  
「黙りなさい(こっそりとサイキックナイフで刺す)」
火虎左衛門
(ぐったり)
「私の力も通じますかねぇ」
「と、とりあえず先に進みましょう」
エレベーターに乗り込む全員

「……」
エレベーター
「ゴォォォォォォ」
夏和流
「あ、あの水島さん?」
「はい、なんでしょう」
夏和流
「ここって何階まであるの?」
「さ、さぁ。このまま進めば新記録になります」
影跳
「新記録ってことは今まで何回かここに来てるってこと?」
「ええ、もうかれこれ4,5回は。」
琢磨呂
「緑ちゃん、これから先はなにがあるか解ってるのか?」
「はぁ、たぶん62階にパパが設置した最強のガードシス
テムが……」
琢磨呂
「ガードシステム?トラップみたいのか?」
影跳
「物理的なトラップなら僕が突破できると思うけど」
「電子的なのは私に任してよね」
「いえ、そんななま易しいものじゃなくて、パパが造った
『人型汎用戦闘兵器』が設置されていると思うんです」
琢磨呂
「62階に?その階に何かあるのか?」
みのる
「何かがなければガードシステムなど置かないだろうな」
夏和流
「でも62階はエレベーターでパスするんでしょ?」
「そうですね、向こうは兵器ですし回避した方が得策です」
琢磨呂
「今俺らが持ってる武器じゃ対抗できないか?緑ちゃん」
「さぁ、どうでしょうか」
エレベーター
「チーン」
「着いたようですね」
琢磨呂
「さあ、『人型汎用戦闘兵器』、出てくるなら
さっさと来やがれ!相手してやる」
夏和流
「そんなこと言って出てきたらどうするんですか?」
琢磨呂
「ぶちのめす」
「取りあえず慎重に行きましょう」
「そうですね」
  
 隈無く探索する
琢磨呂
「緑ちゃん、何処にも『人型汎用兵器』なんていないぜ」
「おかしいですねぇ」
影跳
「姉ちゃん!!こ、これ」
「こ、これは(絶句)」
みのる
「落とし穴に落ちたみたいだな」
琢磨呂
「な、情け無さ過ぎるぞ(涙)
俺との熱い戦闘はどうなるんだ!『人型汎用兵器』」
「パパ……(涙)」
謎の人
「はくしょん!おいちい!!」
火虎左衛門
「どうするんだ?これ」
「ほっといて、これが守ってたものを探しましょうか?」
その時、ぎぎぎと音をたてながら『人型汎用戦闘兵器(以下えう゛ぁ)』は起きあがった!

えう゛ぁ
「まてぇい! ここを通りたければ、私と勝負しろぉ」
夏和流
「ああ、起きあがった! ……けど首が曲がってる」
みのる
「落ちたときにぶつけたんだろう」
火虎左衛門
「……だせぇ」
「放っておいた方がよくありませんか?」
「そうね、そうしましょ」
「こっちにいってみましょう」
口々にいろいろ言いながら、結局そこを離れようとする一同。だが。

えう゛ぁ
「そぉうはいかぁん!」
えう゛ぁのまわりから、光輝く壁が現れたかと思うと、次の瞬間に場所が変わっていた。あたりには包丁に鍋に水道に……一見キッチン、どう見てもキッチン。

琢磨呂
「なんだ、こいつは?」
えう゛ぁ
「ふっふっふ、私の『ATフィールド』へようこそ」
「ATフィールド?」
夏和流
「なんの略でしょうね?」
えう゛ぁ
「『アブソールト・テイスティ・フィールド』だ」
「直訳すると……『絶対においしい空間』?」
えう゛ぁ
「そうだ! ここで、私と料理対決を……」
SE
「どごぉん!」
えう゛ぁ
「ぐはぁっ(沈黙する)」
夏和流
「……琢磨呂先輩?」
琢磨呂
「(銃をおろし)とっとといこうぜ」
火虎左衛門
「……だせぇ」

えう゛ぁ、健気にもよろよろと立ち上がる。

えう゛ぁ
「ヒトがわざわざ平和的にコトをすすめてやろうと
 思ったのに、よほど死にたいらしいな」
夏和流
「(無視)さっさといきましょう、
 ここにはもうなにもないみたいですし」
琢磨呂
「……待て、ヤツの装甲を見ろ、
 ふつうならもう少し弾がめりこんでいるはずだが」

えう゛ぁ、うずくまったかと思うとすっ、と立ち上がり、

えう゛ぁ
「えう゛ぁフラーッシュ!!」
「装甲を飛ばしてきた?!」
影跳
「姉ちゃん、後ろに隠れて!」

鞘に収めたままのナイフで次々と破片を弾き落とす影跳。
 同じく剣でさばくみのる。
 大きな破片を的確に避ける琢磨呂。同じく火虎左衛門。
 物陰に隠れてやりすごす喬、緑、夏和流。

「自爆? いえ、あれは?!」

甲殻類の外骨格を思わせる装甲の外れたえう゛ぁ
 それは背の高い女性の体型をしていた。
 張り巡らされた人工の皮膚のところどころ剥き出しになっている
 金属が人間とは掛け離れたものであることを見せ付けている。

(一昨年の私? しかも色々と凶悪に改造してるわね
 パパったら私のレプリカをガーディアンにするなんて)
琢磨呂
「ウソだろおい?!
 着弾したはずの部分が無傷じゃねぇか!!」
「あの金属は『タカオニウムTM』です!!」
夏和流
「た、たかおにうむ?」
「ええ、パパが作った金属で情報を与えることにより
 異様に強固になったり、
 不気味に柔軟になったりする、
 特殊な形状記憶合金です」
「って、銃器は歯が立たないんですか?」
みのる
「おそらく、な」
「ええ、おそらく先ほどのフリーズグレネードも
 効かないと思います」
琢磨呂
「打つ手はなしか?」
「寧さんっ、そこの端末からMULTIVACにアクセスしてタカ
オニウムTMの弱点を検索してください」
みのる
「それまで時間を稼げというのか?」
寧  
「わかったわ。それまでいける、影跳?
 タカオニウムTMが緑ちゃんの言うとおりのものなら
 アンタのナイフも効かないわよ」
影跳
「へへ、僕もあっちにいる間に手癖が悪くなった。
 そう思うよ(ポケットの中からナイフを取り出す)
 高速振動ナイフっていうヤツらしいけど、
 コレなら結構戦えると思う」
「私は恐怖心を取り除くことができますが……」
琢磨呂
「いや、いらねぇ。カンが鈍るからな(銃を構える)」
影跳
「ある程度の恐怖感は慎重さと戦略をねる手助けを
 してくれるからね(ナイフのスイッチを入れる)」
みのる
「そういうことだ、あなたは夏和流が喚かないように
 していてくれたらいい(剣を構える)」
「では、お願いします」
「夏和流君、お二人を守る自信がありますか?」
夏和流
「ちょっとないですね。幸運でも起こればいいんですが」
「ま、強い意志があれば幸運なんて転がり込んで
 くる……ものだと……思いたいですね(苦笑)」

悠然と腕を組んで冒険者を待ち構えるえう゛ぁ。
 無敵の防御を誇るタカオニウムTMによる自信なのだろうか?

えう゛ぁ
「相談は終わったか?
 しても無駄だと思うがな」
影跳
「そうかな? 
 そう言って無様に死んだヤツはゴマンといるモンだぞ」
火虎左衛門
「(両手に炎を宿しながら)なぁ、知ってるか?」
琢磨呂
「なにがだ?」
火虎左衛門
「鉄は熱いうちに打て、ってな(不敵な笑み)」
えう゛ぁ
「なに!?(火虎左衛門の炎に包まれる)」
琢磨呂
「全員伏せろっ!」
琢磨呂のかけ声とともにその手から発射される40mmグレネード、激しい爆風のため全員の視覚が奪われる。

影跳
「なんて威力なんだ」
「もうっ、まだアクセス中なのにっ。ケーブルが切れたら
どうするのよ」
みのる
「やったか?」
しかし、ぼろぼろになりながらも悠然と姿を現す「えう゛ぁ」

えう゛ぁ
「あーっはっはっはっ、これぐらいダメージなら
……ふんっ」
「そんな、再生している」
夏和流
「あわわわ、どうするんですかぁ?」
影跳
「このナイフの威力を試すときだ(飛び出す)」
琢磨呂
「援護するぜっ」
火虎左衛門
「おれもだっ」
みのる
「おなじく」
全員の集中砲火を受けよろめく「えう゛ぁ」そこへ影跳がつっこんでいく。

えう゛ぁ
「動作分析……防御!」
影跳
「あまいな」
えう゛ぁ
「な、なに、こんなスピードを人間が出せるはずが」
影跳
「死ねっ」
えう゛ぁの首筋に突き立てられる影跳の高速振動ナイフ!

えう゛ぁ
「うぐおぉぉぉぉぉぉ(うしろによろめき光り始める)」
「いけない、あの光は……」
「わかったわ緑ちゃん、奴の弱点が」
「T−コア……」
「え?どうしてわかったの?」
「むかし……パパが研究していたんです、試作タイプはみ
んな自爆しちゃったんで残ってなかったハズなんですけど
……まさか作動して、それが残ってるなんて」
えう゛ぁ
「はぁはぁ、ふふふ、『T−コア』がある限り俺のタカオ
ニウムTMは無敵だ」
琢磨呂
「くそっ、次から次へと再生していきやがる」
影跳
「ナイフのバッテリーがそろそろ……」
「サイキックナイフも聞かない……」
夏和流
「奴は……無敵?」
「(まさか……私の体にもT−コアが?そんなはず……信
じたくない)」
ISSAC
「T−コアを発見。インパクトブレーカーで粉砕可能。マ
ーカーポイントを打て」
「ISSAC!いつの間に」
ISSAC
「私は君の戦闘補佐システムだ、こういう状況での動作が
一番効率的だ」
「援護を……お願いします」
琢磨呂
「まさか緑ちゃん、奴と格闘戦でもする気か?」
みのる
「なにか策があるようだな」
火虎左衛門
「援護、引き受けたぜ」
「お願いします、影跳さん奴の足をねらって動きを止めて
ください」
影跳
「まかして」
「いきますっ」
みのる
「はぁっ!」
琢磨呂
「くたばりやがれ(SMG乱射)」
火虎左衛門
「燃え尽きろぉ」
影跳
「ここだっ」
またもや集中砲火でずだぼろになる「えう゛ぁ」

えう゛ぁ
「無駄だというのが……なにっ、緑っ!!」
「さよなら……ガーディアンさん」
ひねりを利かしたパンチが「えう゛ぁ」の胸にヒットする。それと同時に緑の拳に内蔵されたインパクトブレーカーがすさまじい衝撃を「えう゛ぁ」に伝える。

えう゛ぁ
「ぐぁぁぁ、ま、まさか……俺の、俺のT−コアを?」
「破壊させてもらいました」
影跳
「(緑ちゃん……何か武道でもやってたのかな?)」
火虎左衛門
「(緑ちゃんの今の踏み込み、どう見てもただ者じゃない
な)」
えう゛ぁ
「た、タカオニウムTMが、い、維持できないぃイイ」
琢磨呂
「あばよ(グレネード発射)」
体の維持が出来ずに液状化し始めた「えう゛ぁ」は物の見事にグレネードで四散する。

「やれやれ、これでやっと進めますね」
「(これは……)まってください、それ以上進まないで」
琢磨呂
「ん?どうかしたのか」
「その角を曲がったところ……見てください」
火虎左衛門
「なんかあんの……げ」
琢磨呂
「どうした……(絶句)」
「わお、なんか変なカプセルにロボットか1,2,3……
6体もあるっ」
「やっぱり、さっきのはダミー……」
琢磨呂
「緑ちゃん、あいつの戦闘力は?」
「たぶん、兵装はバルカン砲からバズーカまで。パワーと
耐久力も考えれば私たちの兵装では少し難がありますね」
夏和流
「それで、どうするの?」
「とりあえず私が様子を……」
琢磨呂
「いや、俺が行って来る」
「岩沙さん……」
琢磨呂
「女の子に危険なことやらせるわけにゃいかんだろ?」
火虎左衛門
「かっこつけやがって」
琢磨呂
「ふ、じゃ、ちょこっと見てくるわ」
罠がないかと気をつけながらも、そろそろ〜とカプセルの所まで行き、カプセルをのぞき込む琢磨呂

みのる
「もどってきたぞ」
「なんかあきれ顔してますねぇ」
「どうでしたか?」
琢磨呂
「腐ってた……」
全員
「へ?」
琢磨呂
「やすいパーツで作ったんだろうな、金属パーツはかびて
たし、あの分だとファイバーなんかも腐ってるんじゃない
かな」
「それじゃあ、安心して進みましょうか……」
夏和流
「……ほんとに腐ってる(つんつん)」
琢磨呂
「やめとけ、万が一って事もある」
影跳
「この先は?」
「これでもう198階まではエレベーターでいけるはずです」
みのる
「あと少しだな」
夏和流
「うーん……長い戦いだったなぁ……(しみじみ)」
「しみじみするのはまだ早いわよ」
琢磨呂
「ネーちゃんの言うとおりだぜ。油断は禁物だ」
ごー。ちーん。

「あと二階……ここらからは階段だけです」
夏和流
「それはいいですけれど……」
琢磨呂
「……いきなり広くなったな」
影跳
「野球場くらいの広さはあるね……」
SE
(ごぉぉぉぉ)
夏和流
「うっ……不気味な響き……」
火虎左衛門
「ラスボスでもご登場か?」
「だとしたら、あれは……」
孝雄
「うきゃきゃきゃきゃ、ようこそみなさん、私の迷宮へ」
「パパっ!そんなところでなにをやっているの?」
孝雄
「うきゃきゃきゃきゃきゃ、それはですねぇ……」
火虎左衛門
「(あれが)」
琢磨呂
「(緑ちゃんの)」
夏和流
「(パパ?)」
みのる
「(狂ってるな)」
緑をのぞく全員
「……(汗)」
孝雄
「今まで使っていた私のサブ脳が学習した記録をメイン脳
にマージしているのですよ」
「サブ脳って……なに?」
孝雄
「それは聞くよりも見て貰った方がいいようですね、こち
らです……うきゃきゃきゃきゃきゃ」
「(パパ……プリンを食べてない)」
妖しげな装置がうごめく広い部屋を後に、階段を下りていく緑たち一行。

孝雄
「こちらですよ……」
琢磨呂
「こ、こいつは」
「スーパーコンピューターね?でも、こんなのって」
孝雄
「そりゃそうでしょう、なんせ私が組み上げたものですか
ら、もちろんOSも私のオリジナルです」
「凄いわ……?、これ一つのコンピューターじゃないのね」
孝雄
「そう、13機がリンクしてます……その名も「使徒」」
夏和流
「某人気アニメじゃあるまいし(汗)」
みのる
「すこしだまっていろ」
夏和流
「きゅぅ」
影跳
「で、これでなにをしようというんですか?」
孝雄
「だから言ったでしょう、そこのカウントを見てください」
火虎左衛門
「あと1分?」
孝雄
「そう、あと1分です。あと一分で私はあの栄光のメイン
脳へと機能を移行できるのです」
琢磨呂
「って、ことはだな。今のあんたは人形ってわけか?」
孝雄
「それを説明する暇は……な、い……よう、です(ガクッ)」
「パパっ」
突然倒れる孝雄、駆け寄る緑

「これ、ロボット……」
琢磨呂
「なんだって?」
「凄いわね、ここまでの物を作れるなんて」
「と、言うと本当の水島さんのお父さんはどこにいるので
しょう」
みのる
「?(夏和流……どこへ行った)」
そのころ夏和流は

夏和流
「んー、なんか奥の方に来ちゃったけど、つくづく妖しい
ところだなぁ、ん?なんだコレ」
みのる
「ここにいたか」
夏和流
「あ、みのる、コレなんだろう?」
みのる
「ん?これは……人、だな」
夏和流とみのるが見上げるそれはかなりの大きさのガラスケース、その水溶液中にはいろいろなケーブルに繋がれた男が一人浮かんでいた。

夏和流
「これ、もしかして」
みのる
「そうだな、これがきっと父親なのだろう」
ケース
「ピシッ」
夏和流
「うわわわ、なんか割れ始めたみたいなんだけど」
みのる
「下がった方が良さそうだ」
ケース
「ゴボゴボ」
ケース内の排水が始まりケースにはヒビが入り続ける、そしてそれは砕け散る。

孝雄
「ふーう」
夏和流
「あ、あのう」
みのる
「他の人達を呼んでこい」
琢磨呂
「もう来てるぜ」
夏和流
「水島さん……あの、あれ」
「あれは、パパなの?」
孝雄
「くっくっく、うきゃきゃきゃきゃきゃ、やっと戻ってこ
れたぞ、この私の体にっ」
火虎左衛門
「私の体?どういうことだ?」
「そうか……」
影跳
「なんかわかったのか姉ちゃん」
「あれほどのロボットが作れるなら解らないでもないわ、
たぶん緑ちゃんのパパ、自分を実験台にしたんじゃないか
しら」
琢磨呂
「まさか」
火虎左衛門
「そんなこと……正気の沙汰じゃない」
「あのおじさんが正気だと思える?」
孝雄
「あながち間違いでもないぞそれは」
「パパっ(抱き付きっ)」
孝雄
「心配かけたな、緑」
琢磨呂
「で、さっそくなんだが、事のいきさつを教えてくれない
か?」
孝雄
「そうだな、いきさつと言うほどでもないんだが……ただ
の実験だ」
一同ずっこける

火虎左衛門
「実験……?」
孝雄
「なぁーに、万一の時のサブシステムを作ったんだが、そ
こに人格を移したとたんに元の体に戻れなくなってな、今
日やっとの事で元に戻ったというわけだ」
夏和流
「じゃあ、ベーカリーとかでのなぞの声は……」
孝雄
「ああ、あれかね? この場でも周りの状況がわかるように様々な場所にカメラをしかけた、そのせいだろう」
「やれやれ……大山鳴動してネズミ一匹、ですか」



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