エピソード372『開店準備』


目次


エピソード372『開店準備』

登場人物

岩沙琢磨呂(いわさ・たくまろ)
  「ロングだ! ロングが一番だ! 意志向上軍総司令部付き副司令官」にして「年上がいいんだ!! 彼女は年上だぁあ! 意志向上軍総司令部付き副司令官」。……女好き。
湊川観楠(みなとがわ・かなみ)
  ベーカリー楠の店長。不幸で幸福。素子に惚れている。
北緒麗衣子(きたお・れいこ)
  岩沙琢磨呂のガールフレンド。すぐどつく。
三河夏和流(みかわ・かわる)
  ベーカリー楠の常連客。彼女募集中。
水島緑(みずしま・みどり)
  ベーカリー楠のバイトをしている少女。人見知りが激しい。
狭淵美樹(さぶち・みき)
  活字中毒の医学生。
如月尊(きさらぎ・みこと)
  FLOWER SHOP Miko 店長。
如月十兵(きさらぎ・じゅうべえ)
  尊の祖父。
浅井素子(あさい・もとこ) 観楠に惚れている。元ベーカリー楠のバイト。現在受験勉強中。
湊川かなみ(みなとがわ・かなみ) 観楠の愛娘。

商店街の美人

琢磨呂
「(どばんっっ!!) てんちょー、いるかっ!!」
観楠
「……いるけど、 ドアはもっと静かに開けてほしーなぁ
苦笑)」
琢磨呂
「そんな細かいこと言ってる場合じゃねーって!」
観楠
「……なに? なにかあったの?」
琢磨呂
「今そこで、すっげー美人見たんだよ!!」
観楠
「美人? そんなに? すごいの?」
琢磨呂
「そりゃーもぅ! 腰まであるストレートのさらさらロン グヘアで、背はちょっと高めで……これで萌えなきゃ男じゃねーっ! って感じのすげー美人。感じからして3つ4つ年上だな」
観楠
「ふーん」
琢磨呂
「この辺じゃあまり見かけない顔なんだけど、てんちょー、 心当たりない?」
観楠
「心当たりといわれても……うちの店にくる女性はみんな 美人で可愛い子ばかりだからなぁ(苦笑)」
琢磨呂
「だーっ! それはまぁ忘れてだな(汗) 他に知らない? 商店街の関係かなんかで?」
観楠
「はて……うーん、記憶にないなぁ(笑)」
琢磨呂
「じゃぁ、てんちょートコのマンションに新しく入居した とか?」
観楠
「それは管轄外だって(汗) 大体なんでそんなこと知って なくちゃいけないの?(汗)」
琢磨呂
「情報収集は戦略の基礎だ!」
観楠
「……なんのための戦略なんだか(呆)」
琢磨呂
「ちっ。てんちょーならわかると思ったんだがな」
観楠
「商店街に関係あるならなにか連絡があると思うんだけど ねぇ」
琢磨呂
「連絡……ってなに? 吹利駅前商店街美女出没情報?」
観楠
「なんなんだそりゃ(笑) いやそーいうのじゃなくて、新 しいお店ができて、どんな人がやってますってくらいだよ」
琢磨呂
「ふーん……新しい店か」
観楠
「はい?」
琢磨呂
「あ、商店街の端っこにさ、改装中っていうかそんな感じ のところがあるだろ?」
観楠
「端っこ……えーと、確か新しくお花屋さんがオープンす るって聞いたなぁ」
琢磨呂
「それだぜてんちょー。きっとそこの関係者だ!」
観楠
「……はぁ〜〜?」
琢磨呂
「長身ロングの美女が営む花屋!  これはもーいくしか ねー! というわけで、てんちょー、つなぎたのむ」
観楠
「まだ決まったわけじゃないんじゃないの?(汗) それに つなぎって一体なに?(汗)」
琢磨呂
「そりゃやぼだぜ(呆) ここの、花の用事は全部俺に任せ てくれねーか?」
観楠
「……別に花の用事はないなぁ」
琢磨呂
「かなみちゃんの自由研究とか、素子へのプレゼントとか!」
観楠
「……そ、そーいうのは自分で買うからいいよ(汗)」
琢磨呂
「ちっ」
麗衣子
「『ちっ』ってなに?」
琢磨呂
「……へ?(汗)」
観楠
「やぁ、麗衣子ちゃん(笑)」
麗衣子
「今までの会話はぜぇぇぇんぶ聴かせてもらいましたから ね」
琢磨呂
「……(汗)」
麗衣子
「ふーん、へぇぇ……ロングで美人ですかぁ?」
観楠
「ついでに年上らしいよ(笑)」
麗衣子
「ふぅぅぅん……よかったですねぇ、先輩」
琢磨呂
「う……(汗)」
麗衣子
「そぉんなひとがいるんなら、この髪もう伸ばさなくても いーですよねぇぇぇ……切ろっかな」
琢磨呂
「ま、まて、落ち着けっ(汗)」
麗衣子
「わたしは落ち着いてますよぉ? えぇ、いつもどーりの 落ち着いてるひとです(怒)」
琢磨呂
「あれは、その、つまりだなっ!!(汗)」
麗衣子
「……ここじゃなんですから、道すがらゆっくり言い訳を きかせてもらいましょうか、先輩?(般若の微笑)」
琢磨呂
「お、おぅっ(汗)」
麗衣子
「どーも、おじゃましましたぁ(笑) さ、いきましょーか 先輩?」
琢磨呂
「(T_T)」
観楠
「……若いってのはいいねぇ(笑)」
夏和流
「駅前……花屋……年上の美人……」
観楠
「何ぶつぶつ呟いているの?」
夏和流
「僕は最近悟ったんです」
観楠
「……何を?」
夏和流
「やはりつきあうのなら年上ロングだと!」
観楠
「君までそーいうことを……」
郁代
「年下ロングもいいよ。結構。あ、ショートでも可」
観楠
「へぇ、そうなんだ」
郁代
「まあ、『年下』の娘とらぶらぶな奴をみてるからな」
観楠
「……誰のこと?」
郁代
「自分の胸に聴いてみな!(笑) この幸せ者!(笑)」
観楠
「(照れ)」
「ロング……あ、そういえば私髪切ったんだっけ……結構 伸びたな(ウィンドーに写った自分を見て独り言) あれ?あの角……(角で荷物を降ろす尊に気付く)」
夏和流
「だぁって、同年代とかだとうまくナンパが成功しないん ですよ」
観楠
「……それが本音なわけね」
夏和流
「なんとでも言ってください。開店したら、絶対僕も見に 行こうっと」
観楠
「はいはい」

FLOWER SHOP Miko 前

商店街の外れ。角のお店のシャッターが開けられ、運送屋のトラックから、引越荷物らしい大荷物を運び込む運送屋の姿が見える。
 その側では、薔薇やかすみ草などの、花を運んでいる尊(みこと)の姿が見える。

「薔薇にかすみ草に……これでよしっと。運送屋さん、荷 物はそれで最後かしら?」
運送屋
「はい、これで最後です。じゃ、うちらはこれで! まい どどうも〜(ブロロロロ〜)」
「ご苦労様〜……さ・て・と」

店の前に立って、看板を見上げる尊。看板には「FLOWER SHOP Miko」の文字が、白地にピンクのペンキで書かれている。

「あたしのお店……か(微笑)」
十兵
「尊ぉ、荷物(ぜぃ) 全部(ぜぃ) 運んだ(ぜぃ) ぞぉ」
「あ、ありがと、お爺ちゃん」
十兵
「まったく(ぜぃ) 年寄りを使いおって! 一人暮らしな んかするから、余計な手間が増えるわい」
「何いってるの! ここに一人で住めって言ったのお爺ちゃ んじゃない!」
十兵
「はて? そうじゃったかな」
「んもう! 都合のいいときだけ年寄りになるんだから」
十兵
「まぁよいわ、では、ワシはマンションに戻るからな、夕 飯、頼んだぞ」
「はいはい(苦笑) でも、お夕飯何にしよう……今日は引 越で疲れちゃったから、作るの億劫だし……」

と、店先で夕食の献立に悩む尊の鼻先に、何とも言えない良い香りが漂ってきた。

尊のお腹
(ぐぅ〜)
「やだっ(真っ赤)、誰にも聞かれなかったわよね(きょろ きょろ)」
「でも、いい匂〜い! どこかで、パンかケーキでも焼い てるのかな?(きょろきょろ)」
「ベーカリー楠……って、パン屋さんか。そだ! 後で引 越の御挨拶も兼ねてパン買いに行こっと!」

機嫌良く鼻歌何ぞを歌いながら店の中に入っていく尊。
 尊が店の中に消えると同時にベーカリー楠のドアが開き、男女の二人連れが出てきた。

琢磨呂
「いててっ! ま、まてっ! 耳引っ張るな! ちぎれる!」
麗衣子
「さぁ、きりきり歩くっ!!(怒)」
琢磨呂
「お、落ち着けっ、話せば判る! 話せば!」
麗衣子
「今日という今日はキッチリお仕置きしてあげます!(ず るずるずる……)」
「(何なんだろ……変な人達ねぇ)」
麗衣子
「(鋭い視線が一閃)」
(びくぅっ!)
琢磨呂
「(大声で)  て、てんちょぉぉぉぉぉぉぉぉ! 後は頼 ん……(麗衣子に口を押さえられる)……むご……むうごごご!! !」

ずるずるずる……

ベーカリーにて

「(小声で) あのぉー、この度こちらに引っ越してまいり ました……」
観楠
「後は頼んだって……あ、いらっしゃいませ(なるほど、琢 磨呂君の言った意味がやっと解ったよ)」
「あの……今の人たちは……一体……(振り返っている)」
観楠
「ああ、あれなら気にしないで下さい、いつもの事ですか ら(笑)」
「はぁ……(なんか一瞬身の危険を感じたのは気のせいか しら) あ、御挨拶が遅れました。今度、そこの角で花屋を始めます、如月尊と言います、よろしく(ぺこり)」
観楠
「こりゃどうも、ごていねいに(礼) 私はここの店長で湊 川観楠と申します、以後宜しくお願いします(笑)  (しかし……なるほど、こりゃぁ琢磨呂君でなくても騒ぐ訳だ)」
「? なにか?」
観楠
「あ、いや、その、奇麗な方に越してきて頂いて、この辺 も華やかになるなって(汗々)」
「(くすっ) 御上手ですね」
夏和流
「あ〜、だまされちゃダメですよ、今までこの言葉で店長 さんにだまされた女性は数知れず……」
観楠
「夏ぁ〜和〜流〜くぅ〜ん(目の幅涙) どうして君は……」
夏和流
「真実ですから」
美樹
「いわゆる一つの、実績による評価というものですね。店 長のこれまでの努力が報われたというわけで……。
あ、コーヒーもう一杯貰えます?」
観楠
「美樹さんまで……(よれよれ) 尊さんに誤解されるじゃ 無いですか〜」
美樹
「何か問題でも?」
「(くすくす) 面白い方達……(微笑ましげに眺める)」
夏和流
「ところで、店長さんばっかり売り込んでないで、僕らも 紹介して下さいよ。あ、僕は謎の常連高校生客R、三河夏和流です。よろしく」
観楠
「売り込んでないって(苦笑) えっと、そっちで本を読ん でるのが狭淵美樹さん、うちの常連年長組です(笑)」
美樹
「あ、どーも、狭淵です。よろしくお願いします。
軽く頭を下げてから再び本に戻る)」
「よろしく。(にっこり) でも、年長組って……そんなに 大勢常連さんが?」
観楠
「ええまぁ、ご覧の通りうちは喫茶コーナーがあるんで、 こっちにばっかり人が集まっちゃって(苦笑) で……」

カラン、コロン

素子
「こんにちは〜!」
観楠
「あれ? 素子ちゃん、勉強はOFFかい?(笑)」
素子
「ちょっと参考書を買いに(笑)  そしたらそこでかなみ ちゃんと会ったんで(笑顔)」
かなみ
「父様ただいまっ(笑顔)」
「きゃ〜! 可愛い〜! 観楠さんの娘さんですか?」
かなみ
「かなみ、父様の娘だよっ!」
「そっか、かなみちゃんていうの……あれ? 名前が?」
観楠
「いや、それは……その……(苦笑)」
素子
「店長、こちらの方は?」
観楠
「(素子ちゃんナイス!) こちらは今度そこの角で花屋さ んを始められる如月尊さん。いま、御挨拶にみえたんだ、こちらは浅井素子ちゃん、うちの看板娘零号です(笑)」
素子
「看板娘零号の浅井素子です(笑)」
「如月尊です、よろしく」
観楠
「で、こっちが看板娘初号の水島緑ちゃん(笑)」
「よ、よろしく……(汗)」
「よろしくね、緑ちゃん(にっこり)」
「はい……よ、よろしくお願いします(ぺこり)」
素子
「(内緒話モード) 店長、店長」
観楠
「(つられて内緒話モード) ん? なに?」
素子
「(ぼそぼそ) 今、そこで、岩沙達とすれ違ったんだけど
……『あれ』ってひょっとして(ちらっと尊を見て苦笑)」
観楠
「(ぼそぼそ) 御名答(苦笑)」
素子
「(ぼそぼそ) 懲りない奴……(苦笑)」
「(なに内緒話してるのかしら……でも……仲良さそう)」
かなみ
(傍に立って下から尊をじ〜っと見上げる)
「ん? なあに? かなみちゃん?(しゃがみ込んでにっ こり)」
かなみ
「(くんくん) 姉様、とってもいい匂いがする」
観楠
「こ、これかなみちゃん、失礼でしょ!」
「いえ、いいんですよ……でも、あたし香水なんてつけて ないけど……」
「あ、でも……いい匂い……」
かなみ
「あのね、お花の匂いがするの!」
「なるほど(微苦笑) さっきまで温室にいたから花の匂い が髪に付いちゃったのかな……。かなみちゃんは、お花好き?」
かなみ
「うん! だ〜いすきっ!(満面笑顔)」
「そう(にっこり) じゃぁ、かなみちゃんにこれあげる」
観楠
「へぇ、ジャスミンですか。すみません尊さん。ほら、か なみちゃん、ありがとうは?」
かなみ
「いい匂〜い! ありがとう! みこ姉様!」
「素子さんと緑さんも、お近付きの印に、これどうぞ」
素子
「えっ? わたしにも? 有り難うございますっ(喜)」
「わぁ、奇麗。……うれしい……」
観楠
「二つともあまり見かけない花ですけど、なんていう花な んですか?」
素子
「あれ? これ……ドライフラワーなんかで見る……」
美樹
「エリンギウム、南ヨーロッパ原産のセリ科の花。水島さ んのは弟切草ですね」
「へぇ、よく御存知ですね。エリンギウムは普通ドライフ ラワーにするんですけど、そのままでも結構奇麗ですから」
素子
「そういえば『おとぎりそう』って弟を切る草って書くん でしょ? 奇麗だけど縁起が……あっ!(自分の口を押さえる)御免なさい尊さん」
「(くすっ) いいんですよ(微笑) でも、弟切草はもう一 つ使い道があるんです」
「もう一つ……使い道……ですか?」
「ええ、女の子がこの花を枕の下に敷いて眠ると、未来の 伴侶の姿を夢に見る事が出来ると伝えられています」
「えっ!? 伴侶って……」
「信じるか信じないかは、人それぞれですけど(微笑)」
夏和流
「あぁ、いいなぁ」
「あっと、御免なさい! 男性はこっちをどうぞ」
夏和流
「やったぁ(喜)」
観楠
「夏和流君……(苦笑)」
美樹
「おや、わたしにも頂けるんですか? 
これはどうも御丁寧に。ありがとう御座います」
「観楠さんもこれどうぞ。良かったらお店に飾って下さい」
観楠
「僕にも頂けるんですか? いやぁすいません(大照) で も、これはまた……小さい鉢植えですね?」
美樹
「これは……蘭、ですね?」
「ウチョウ蘭です。高山植物で、本来は採ってはいけない んですが、うちは株分けに成功しましたから」
観楠
「でも、蘭って育てるの難しくないですか?」
「大丈夫。花は女の子と同じで、大好きな人の傍にいれば、 大きく美しく育つものなんです、ね。(にっこり笑って女の子三人の方に振る)」
素子
「!?(真っ赤)」
「えっ? ……あの……その……私……えっと……オーブン 見てきますっ(裏へダッシュ)」
かなみ
「かなみ、父様の事大好きだから、大きくなるっ!(極上 笑顔)」
観楠
「か、かなみちゃん……(幸福の目の幅涙)」
「あ、いっけな〜い、もうこんな時間! 急いで買い物し てかなきゃ! ええっと、これとこれとこれとこれっ! お願いします……って観楠さん?」
観楠
「……(幸福の目の幅涙) はっ! あ、あぁ(大照)」
「よっぽどかなみちゃんが可愛いんですね(くすくす)」
観楠
「いやぁ(照笑) あっと、そのパンは僕からの引越祝いで す、サービスしときますよ」
「えっ? 良いんですか?(喜) じゃぁ……遠慮無く」
観楠
「素子ちゃん、そこの袋を取ってくれない……あれ? 
きょろきょろ) いない」
かなみ
「素子姉様、真っ赤な顔して行っちゃったよ(外を指差す)」
観楠
「? じゃぁ、僕が包むか……(がさごそ) はい、どうぞ」
「有り難うございます。じゃ、あたしはこれで……あっと、 これ、うちの店のチラシです、よかったら店の方にもいらして下さいね、それじゃ」
かなみ
「ばいばい〜(笑顔で手を振る)」
観楠
「んと、なになに」

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|         FLOWER  SHOP  Miko   OPEN!                |
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|    来る12月4日近鉄吹利駅側に「FLOWR  SHOP  Miko」    |
|  新装オープン!                                                      |
|  切花、鉢植各種取り揃えております。                                  |
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|        大切な人への贈り物に、あなたの想いを花束にして……            |
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|    営業時間       10:00  〜  20:00                         |
|    定休日         毎週  月曜日                                       |
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|  尚、ご連絡頂ければ配達も致します。                                  |
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|      吹利学校大学部 |          |           |□                       |
|      --------------]|[---------+-----+---+-+-----吹利本町商店街--    |
|      至JR文研都市駅/   吹利大学|通り |   | |□                       |
|                   /            |     |   | |□          吹利本町     |
|                  /             |     |   | |□近鉄吹利駅             |
|                 +--------------+-----+---+-+ |                       |
|                /               |         |   |                       |
|               /                |      [*]|←ココ                     |
|      京大吹利/                 |     ----+   |                       |
|      学舎   /                  |             |                       |
|            /                   |             |                       |

観楠
「ふ〜ん、明日オープンか……かなみちゃん、明日行って みようか」
かなみ
「うんっ!」
夏和流
「いくんですか? なら、僕もお供します」
観楠
「え、べつにいいよ」
夏和流
「いえ、花って重いでしょうし。それに絶好の口実ですし」
観楠
「……君って、正直だね」

一方その頃、外へ駆け出した素子は……。

素子
「(どきどきどきどき)あ〜びっくりした……尊さん、いき なりあんな事言うんだもの、心臓が止まるかと思っちゃった。
でも……大好きなあの人の側にいれば……あたしも……あの人に振り向いてもらえる位……側にいても見劣りしない位、素敵になれる……かな?(くすっ)」

一方、バックヤードの緑は……。

「(未来の……伴侶……)」

じっと手に持った弟切草を見つめる緑。

「試して……みようかな……でも……」

ふと、脳裏に慎也の笑顔が横切る。

「(あの人は私の事……『好き』って、言ってくれた…… 試すなんて……)」

何かを追い払うように、ふるふると頭を振る。
 そして、小走りに流し台に駆け寄り、大きなコップに水を満たす。

「花瓶が無いから……御免ね後でちゃんと生けて上げるか ら」

たたっ、とお店に戻っていく緑。
 テーブルの上にはコップに生けられた弟切草が一輪、窓から差し込む穏やかな光に照らされていた。



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