エピソード『顕、瑞希を誘(いざな)う』===================================
学校帰りの長瀬顕、信号を待っていると道路を挟んで向かいに瑞希を発見。
瑞希も顕に気付きにっこり微笑む。信号、青になる。向かい側で待つ瑞希。
道路を渡る顕。
- 瑞希
- 「おや顕君、文字通りばったり出くわしたなぁ」
- 顕
- 「しらじらしい挨拶ですね」
- 瑞希
- 「いきなりだけどウチに寄ってかない? 今日は仕事お
-
- 休み。今、美味しいお菓子を買ったところなんだ」
- 顕
- 「あ。それは良いですね。是非寄らせていただきます」
ま、なんやかや話しながら斎藤宅へ到着。瑞希がスリッパをパタパタいわ
せて台所へ消える。顕がソファへどっかり座り込み煙草を吹かせている気
分に、気分だけに浸る。リビングのテーブルに灰皿がないところから、こ
の家では煙草を吸う人間がいないらしい。
- 瑞希
- 「お待たせ」
- 顕
- 「いい香りですね」
顕は紅茶の香りなどわかりもしないがとりあえず「良い」と言っておく。
瑞希が顕の向い側に腰掛ける。ふと、顕が自分を見つめている気がした。
- 瑞希
- 「ん? どうした?」
- 顕
- 「瑞希さん」
- 瑞希
- 「なんだい?」
顕の瞳に邪(よこしま)な光が宿る。
- 顕
- 「ショートカットにしませんか。絶対似合います。保証
-
- します」
- 瑞希
- 「いやです」
二人は何事も無かったように手に持ったカップの紅茶をすすり始める。し
かしリビングには未だ精神に訴えかけるある種の空気がびしびしと張り詰
めていた。
- 瑞希
- 「……」
- 顕
- 「……」
- 瑞希
- 「……お菓子、美味しい?」
- 顕
- 「とても美味しいです。どこで買ったんですか。今度自
-
- 分で買いに行きます」
- 瑞希
- 「近鉄百貨店の一階に新しくできたお菓子屋さん。名前
-
- は……包み紙に書いてあるよ」
- 顕
- 「どれ。あ。コスモポリタンですか。なるほど、美味し
-
- いわけだ」
しばらくの沈黙の後……。
- 顕
- 「(ぼそっと)ショート……」
- 瑞希
- 「いやだ」
後日・ベーカリーにて
- 琢磨呂
- 「ははは!こんな事があったのか」
- 顕
- 「ちぐしょー!」
- 琢磨呂
- 「ま、所詮はみな日本人だという事だ」
- 顕
- 「なんじゃそりゃ」
- 琢磨呂
- 「古来日本女性というものは、長く美しい髪を美徳として
-
- 来たものだ。貴様らがいかに布教しようと、所詮少数勢力
-
- に過ぎんという事だ………(煙草をくゆらす)」
- 顕
- 「お前、いつから煙草吸うようになったんや?煙草嫌いやっ
-
- たんとちゃうんかい。麗ちゃんに怒られるぞー >煙草」
- 琢磨呂
- 「顕、よく見ろ。こいつは煙草に見えて煙草ではない。」
- 顕
- 「ん?パイポみたいやけど、何やその煙は?」
- 琢磨呂
- 「ふむ………ドライアイスが内蔵されていてな。俺が暖か
-
- い息を吹きかける事で急速に気化して白い煙を出す。端か
-
- ら見てると本当に煙草みたいだろ?」
- 顕
- 「馬鹿かお前は………」
- 琢磨呂
- 「お前と違って信者勧誘に忙しくないんでな」
- 素子
- 「こんにちわー。おひさしぶり」
- 琢磨呂
- 「うおおおおおおお!非国民登場!」
- 顕
- 「お、久しぶりの信者登場だ」
- 素子
- 「あんた達、またそんなことで議論してるの?」
- 顕
- 「イヤ、その美しいショートの髪についての………」
- 素子
- 「え?」
- 琢磨呂
- 「素子、俺はただこの素晴らしい改良型パイポの話をして
-
- いただけだ。決して絶対断じてましてそんなことはありえ
-
- ない。」
- 素子
- 「………日本語、しゃべろーね」
- 琢磨呂
- 「………解かった。所で素子、ちょっと大事な話がある。
-
- (超マジな顔)」
- 素子
- 「ちょ………いきなりどーしたのよ?」
- 琢磨呂
- 「いや、ここではまずい………」
- 顕
- 「席、外そうか?」
- 琢磨呂
- 「すまんな………頼めるか?」
- 顕
- 「その辺の話の分からん人間じゃないさ。」
顕、テーブルを離れて端の席へと移動する。
- 琢磨呂
- 「でだ………素子(改良型パイポをくゆらす)」
- 素子
- 「なに?長瀬君に聞かれたくないような話って?」
- 琢磨呂
- 「………俺は、勇気を出して素子に言うぜ。」
- 素子
- 「え!!(そ………そんな………わたしには大好き
-
- な人が居るのに(カウンターで洗い物をする25歳、
-
- 自営業の某氏をちらっと見る))」
- 琢磨呂
- 「あのな………素子(ぎゅっとこぶしを握り締める)」
- 素子
- (きゃーきゃーきゃー!どーしよ!)
- 琢磨呂
- 「ロングにしてくれないか………」
- 素子
- (茫然自失)
- 琢磨呂
- 「頼むっ!ぜええええったいlongが似合う!素子の美しい
-
- 艶のあるその髪なら、longにしない事ほどもったいない事
-
- はない。」
- 素子
- (こ、こいつはァ〜)
- 琢磨呂
- 「ま………個人の裁量だがな(ふらっと去ろうとする)」
- 素子
- 「イヤ!(キッパリ)」
ひゅううう〜。MISSION-FAILED。
数分後。素子は観楠とカウンターで楽しそうに談笑し、琢磨呂は隅のテーブル
で沈んでいる。そこへ顕が声をかける。
- 顕
- 「あんなデカイ声で言ったら店の外でも聞こえるぞ」
- 琢磨呂
- 「ふっ………これで貴様と同類か」
- 顕
- 「まーまー、そう嘆くなって。明日があるさ(遠い目)」
- 琢磨呂
- 「ふ………顕。俺は、負けんぞ!」
- 顕
- 「ふ………こっちこそ!」
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