エピソード394『緑が風邪!?』


目次


エピソード394『緑が風邪!?』

12月23日、バイト中の緑

「こほっ、こほっ」
観楠
「あれ、緑ちゃん……風邪?」
「え? そんなこと、無いと思いますけど」
観楠
「そういえば緑ちゃんの風邪引いた時って見たこと無いね」
「はぁ、体丈夫なんで」
観楠
「そう。あ、今日はもうあがっていいよ。クリスマスが近 いんだから風邪引かないようにね」
「はいっ、お疲れさまです(にこ)」
観楠
「(どきっ) 緑ちゃんってやっぱり笑うとかわいいなぁ」
夏和流
「店長さん、聞こえてますよ」
観楠
「か、夏和流くん(汗)」
夏和流
「しかも、録音もばっちりです(ぽち)」
テープ
「緑ちゃんってやっぱり笑うとかわいいなぁ」
観楠
「……(汗)」

翌朝

「ん、朝? なんかからだが重いですぅ」
ISSAC
「現在体温37.9度、抗体の更新期に入りました」
「う、バイト……いかなくちゃ」

その日、フラナと本宮はベーカリーにいりびたってた……

「おはようございます……」
本宮
「(あ、水島さんだ……)」
フラナ
「(ほら、もとみー)」
本宮
「(なんだよ)」
フラナ
「(だめだよぉ、話し掛けなくちゃ)」
本宮
「(そんなこといったってそんな……急に)」
「こほっこほっ」
観楠
「あれ、緑ちゃんやっぱり風邪でしょ」
「こほっこほっ……そうみたいですね……」
フラナ
「風邪ですかぁ(わざとらしく)」
本宮
「(こら、フラナ)」
「あの……」
本宮
「えっあっあの……気にしないでくださいっ」
「あの……あなたは」
本宮
「えっと、あの……おっ俺、本宮……和久っていいます」
「はぁ、よろしく……」
フラナ
「僕、富良名裕也」
「はぁ……」
本宮
「あっあのえっとかっかっか、風邪ですか……あの……大 丈夫ですか。あ、あのよっよければおっ送りましょうか……」
フラナ
「(やった、いいぞもとみー)」
観楠
「(あ、どうしよう、なんか言わなきゃ)」
「えーとぉ(どうしようかな)……バイトが……」
観楠
「緑ちゃん、家で休んだほうがいいよ、そこの二人」
フラナ
「はーい」
観楠
「悪いけど(いいかなぁ)緑ちゃんを送ってもらえるかな、 二人でね」
本宮
「はっはい」
フラナ
「わっかりましたぁ(よぉしチャンスだ)」
観楠
「(心配だ……)」

ベーカリーを出る三人、緑は熱っぽい顔をして足取りもおぼつかない。

フラナ
「大丈夫ですか? 歩けます?」
「え? ええ、大丈夫……です」
ISSAC
「体温38.5度に上昇中、安静を要します」
「……はぁ(わかってます、いま家に帰るところ)」
本宮
「……(ところで水島さんの家って何処なんだろう、聞い てなかったなぁ)」
「……あっ(不意にバランスを失いよろめく)」
本宮
「あ、あぶなっ」

間一髪、差し出した本宮和宏の手によって緑は路上に倒れるのを阻止される。必然的に緑は本宮に抱きかかえられる形になる……

「あっ……(熱っぽい瞳)」
本宮
「あ、あのっそのっ、だだだ、大丈夫ですかっ?」
フラナ
「(チャンスじゃんもとみー、そのまま抱きかかえてっち ゃえ)」
本宮
「(え、で、でもっ)」
ISSAC
「現在のバランス喪失は体温上昇によるめまいと判断、歩 行に支障大」
本宮
「あ、あのっ、歩けますかっ? 歩けないならこのまま行 きますけど……」
「あの……家は……(消え入りそうな声で耳元に)」
本宮
「えっ(耳を近づけ) ええと、はい……○○ですね、えっ と、も少し……我慢してください……必ず」

本宮は緑を抱きかかえて水島邸へ向かう、ちょっとはなれてフラナもついてくる。抱きかかえた腕が心なしか熱をもってるような気がする……

「う……ん」
本宮
「(落ち着け、今は緊急なんだ……)」

自分に言い聞かせても心は落着かない、心臓の音がどんどん早まってく……さっき話し掛けられた耳が熱い、きっと今の自分は緑に負けないぐらい真っ赤な顔だろう。

フラナ
「(いいぞもとみーゴーゴー)」

後ろで、フラナが上機嫌でついてくる。
 水島邸までの数分間……本宮にとって限りなく長い時間に思えた。

本宮
「はぁはぁえーと、ここですよね……」
「はい……う……すいません(よろよろ)」
本宮
「あの、無理……しないで……お、俺が運びますから」
「……はい……お願いします……」

手の空いたフラナが呼び鈴を鳴らす、本宮は緑を抱え直し玄関に向かう。

本宮
「すいません、本宮といいます、みずし……いや緑さん…… が風邪で倒れてしまって、俺……いや僕が送ってきたんですけど……」
緑ママ
「あらあらあら、そうですか。やっぱり出ていくときに赤 い顔してたからもしやとは思ったのよ」
本宮
「は、はぁ。それで僕はこびますから部屋はどちら……」
緑ママ
「ああ、そうね、こっちよ。あがってちょうだい」

本宮が通されたのはもちろん緑の部屋。本宮、ベッドに緑を寝かせる。

本宮
「よいしょっと」
緑ママ
「ほんとにありがとうね、お茶でもいかが?」

(そのころのベーカリー)

慎也
「こんにちわぁ」
観楠
「やあ……慎也君」
慎也
「どーも(笑) 店長さん、いつものお願いします」
観楠
「……ん、と、りょー……かい」
慎也
「?  なにかあったんですか?」
観楠
「いや、緑ちゃんが風邪引いちゃってね……」
慎也
「風邪?」
観楠
「うん。なんかもう、ふらふらになってたけど……大丈夫 かなぁ」
慎也
「大丈夫……って、そんなに!?」
観楠
「かなり辛そうだったよ。で、たまたま来てたあの……な んとかいう後輩君が付き添って」
慎也
「後輩……フラナですか?」
観楠
「じゃなくって、も一人の方」
慎也
「もとみー……本宮?」
観楠
「そうそう、その本宮君が家まで送ってくれてる……はい、 紅茶おまたせ」
慎也
「……」
観楠
「この分だと、明日は緑ちゃん休みだろうなぁ」
慎也
「ごちそうさまっ(席を立つ)」
観楠
「……って、慎也君全然飲んでないけど?(汗)」
慎也
「これ、お茶代です」
観楠
「……いいよ(苦笑)」

慎也、礼を言ってベーカリーを出る。
 足早に歩いて、向かう先は……

本宮
「あっいっいえおかまいなく……」
フラナ
「飲みまーす(元気よく)」
本宮
「こら、おまえはぁ」
緑ママ
「(くすくす) 元気ねぇ、ちょっとまってて」
本宮
「フラナ……まったく」
フラナ
「だめだよぉ、もとみーもっとお話しなきゃ、チャンスな んだからぁ」
本宮
「チャチャンスって、そんなつもりじゃ……」
フラナ
「じゃ、どんなつもり?」
本宮
「う……え……その……えーと……そのぉ……だなぁ(あ せあせ)」
フラナ
「ふふふ、ゆっくりお話してこうよ、ねっもとみーっ(に こにこ)」
本宮
「フラナに……言い返せない……、くそぉ不覚っ」
緑ママ
「おまたせ、さ、ごゆっくり」

いれたての紅茶を飲みつつ談笑する三人、もっともしゃべってたのは大半フラナだったが。

緑ママ
「そういえばあなた達、緑のお友達?」
本宮
「え……俺、いや僕たちは緑……さんのバイトしているパ ン屋によくきていて……」
フラナ
「お友達です(きっぱり)」
緑ママ
「まぁそうなの、あの子はすぐ人見知りするから、結構心 配してるのよ」
本宮
「(フラナ、おまえ調子のいいこというなよ)」
フラナ
「(だって、僕にとってはお友達だもん、もとみー違うの?)」
本宮
「(それは……その……)」
緑ママ
「? どうしたの二人とも」
本宮
「えっ、いえ……あの、その(わたわた)」
フラナ
「あ、そういえば(がさがさ)ここらにあるへんなものって なんですかぁ」
本宮
「(うまいな……フラナ)」

がさがさとボールに手足がくっついたような妙な代物を引っ張り出すフラナ。

緑ママ
「ああ、これは主人の発明品なのよ」
フラナ
「発明品? いいなぁ一つほしいなぁ」
本宮
「勝手に人のうちをあさるなよ……」
緑ママ
「そうねぇ主人さえよかったらもってってもいいけれど」
フラナ
「よぉし、あとでおじさんに聞いてみよっと」
本宮
「……(もうなにもいわん)」

そこへばたばたと足音をたてて孝雄参上。

孝雄
「(バタン) 緑が風邪だとおっ」
本宮
「あっ、ど、どうも」
フラナ
「お邪魔してまぁす」
孝雄
「なんだ君らは(じろり)」
緑ママ
「この子たちが緑を送ってきてくれたんですよ」
フラナ
「どおも、フラナでーす」
本宮
「本宮です、あ、はじめまして……」
孝雄
「そうか、それはすまなかったねぇ。うーむ、風邪を引い たと言うことは……免疫機構かっ(だぁっしゅ)」
フラナ
「うわ、速い」
本宮
「(水島さんの……お父さん……だよな?)」
フラナ
「あ、そうだ。発明品のこと聞くの忘れてたっ」
本宮
「それで、あの……どちらへ?」
緑ママ
「ああ、きっと地下よ。研究室があるの(クスクス)」
インターホン
「ぴんぽ〜ん」
緑ママ
「あら、どなたかしら。MULTIVAC! 起きてる?」
MULTIVAC
「来客は片山慎也どのと確定」
本宮
「わっ、な、なんだ?」
緑ママ
「うちの主人が作ったAIなの……そうそう、速くドアを開 けてあげないとね」

ぱたぱたとドアの方へ小走りに去っていく緑ママ。

緑ママ
「はーい、いらっしゃーい」
慎也
「あ、あのっ緑ちゃんが風邪引いたって聞いて……ハァ ハァ、風邪引くなんて珍しいから、ハァハァ俺心配で……」
緑ママ
「まぁ、とにかくあがって。心配ないわ、主人がつきっき りですから」

一方その頃、取り残されてしまった状態の本宮とフラナ、
 フラナが急に黙り込んでしまう。

フラナ
「(片山慎也って慎也先輩のことだよね……まさか……)」
本宮
「? どうしたフラナ」
フラナ
「(……まずいなぁ……もとみー……どうしよう……)」
本宮
「おい、どうしたフラナ(心配気に) おまえも風邪か?」
フラナ
「ん、何でもない(……鉢合わせになったら……)」
本宮
「フラナ、変だぞおまえらしくない」

おたおたと悩むフラナ、心配気な本宮、その二人をよそに部屋に緑ママと慎也が談笑しつつ入ってくる。

本宮
「え、あれ慎也先輩(なんで? 先輩が水島さんの家に)」
フラナ
「(あうぅ来ちゃったよぉ)」
慎也
「ああ、おまえらか(ちょっと複雑な視線を向ける)」
緑ママ
「あら、お知り合い?」
本宮
「ええ、学校の先輩で……(慎也先輩……なんで……)」
緑ママ
「ちょっと待ってね、お茶をいれてくるから」
慎也
「いえ、おかまいなく」

ぱたぱたと部屋を出ていく緑ママ。部屋には、フラナ、本宮、慎也が残される……複雑な表情の慎也、不安な面持ちの本宮、焦りまくるフラナ。
 重苦しい沈黙が続く……。

フラナ
「えーとぉ、やっほうせぇんぱいっ(わざと明るい声)」
慎也
「ああ」
本宮
「どうも、先輩(……お見舞いに……来たんだよな)」
フラナ
「うー(どぉしよぉこの空気ぃいやだよぉ)」

途切れる会話、再び重苦しい沈黙が部屋を覆う。

慎也
「(来るタイミングまずかったな、まあ、どうせばれるや ろけど)」
フラナ
「うー(もとみぃ)」
本宮
「(えーと、なんて聞こう……) あの……慎也先輩」
慎也
「ん、なんだ。もとみー」
本宮
「先輩も……水島さんのお見舞いですか……」
フラナ
「(慌てて) あーわかったぁ、先輩も発明品もらいにきた んだぁ」
慎也
「そうそう、これなんかつぶらな瞳がぷりちぃで……って なにやらせんねん」
フラナ
「もうっ、先輩ってばお茶目さんっ(必死に明るく振る舞 う)」
慎也
「おまえがふったんやろが、こいつぅ(つん)」
フラナ
「てへへ、先輩ものったくせにぃ(頭ぽりぽり)」
本宮
「……(ごまかしてる、二人とも……やっぱり……)」

つぎに沈黙を破ったのは本宮だった。

本宮
「(真面目な顔) 先輩、ちょっと聞きたいことがあるんで すけど」
フラナ
「(あぅぅ、だめだよぉもとみー)」
慎也
「ん、なんだ」
本宮
「先輩は……水島さんと……あの……」
慎也
「……」
フラナ
「(もとみぃぃぃ)」
緑ママ
「(ぱたぱた)はい、おまたせ」
フラナ
「あーやったぁ、クッキーおいしそう(大きな声)」
緑ママ
「(くすくす)さ、どうぞ」

ひたすら緑ママの気を引くフラナ、無言のまま見詰め合う慎也と本宮。

本宮
「……(水島さんと……付き合ってるんですか……)」
慎也
「……(もとみー、これだけはゆずれねぇんだ)」
緑ママ
「あら、二人ともどうしたの」
フラナ
「いえ、あのその僕、他の発明品もみたいなぁ」
緑ママ
「ええ、いいわよ、こっちにたくさんあるから」
フラナ
「もとみーもおいでよぉ」
本宮
「いや、俺はいいよ……(心配すんなフラナ)」
フラナ
「(……もとみー……)じゃちょっといってくるよ」

二人が部屋から出ていく、向かい合う二人。

慎也
「……で、話ってなんだ」
本宮
「……先輩」

腕が震える、心臓がつぶれそうなほど脈うっている、冷や汗がつたう。

本宮
「先輩は……水島さんと……水島さんと」
慎也
「本宮……もう言うな」
本宮
「……すいません……(うつむく)」
慎也
「おまえが……あやまるこたないさ……(本宮から視線を そらす)」
本宮
「はい……」
フラナ
「(ぽてぽて)……もとみー……」
慎也
「おう……早かったな」
本宮
「……(うつむいたまま)」
フラナ
「せんぱい……(慎也を見る)」
慎也
「心配すんな、フラナ」
本宮
「(勢いよく) フラナ、帰るぞ(ぐいっ)」
緑ママ
「あら、もう帰るの、もっとゆっくりしていってもいいのに」
フラナ
「もとみーちょっと、もとみーぃっ(ぐいぐい)」

慎也から顔をそらすように走っていく本宮、引っ張られていくフラナ。
 二人を複雑な表情で見送る慎也。

本宮
「(……馬鹿野郎……俺は……とんだお間抜け野郎だ……)」
フラナ
「(もとみー……)」



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