エピソード415『春にはまだ遠い』


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エピソード415『春にはまだ遠い』

まだ春には遠いある日、ベーカリー楠の前にて。

花澄
「真っ直ぐだから迷わない、って言われたけど、本当に
無事着いたなあ………(感動)で、帰る時には出て、
左に行けばいいのね。よし」

パン屋の入り口で方向確認をする図。中から見ていると相当変である。

「………どうしたんでしょうか、あの人」
観楠
「何だろうね」
「道、間違えたんでしょうか」

からん、ころん。
 花澄が入ってくると同時に、扉から暖かい風が吹き込んでくる。

「(………あれ?)いらっしゃいませ」
花澄
「(あ、かわいい……ってそうじゃないっ)えっと……
ここ、ベーカリー楠、ですよね?」
「はい、そうですけど?」
花澄
「よかったあ(にこにこ)えーと……いわしパンって
ありますか?」

数秒の、間。

観楠
「…………は?」
花澄
「(あれ?)あの、いわしパンってあるって、聞いたん
ですけど…………」
観楠
「………失礼ですけど、誰から聞かれました?」
花澄
「うちに来て下さるお客さんから………ええと、この前
オーリン・ヘイゲルの本を予約していった………狭淵さ
んという方から、なんです、けど………」
観楠
「(あの人わ………)いえ、あれはですね、今のところ試
作品ですから(汗)」
花澄
「あ、そうなんですか……(少し残念)」
観楠
「え、えーっと……この次ご来店の際には必ずご用意
させて戴きますんで……申し訳有りません」
花澄
「あ、じゃ、楽しみにしています。(にこにこ)」
「はい、合計850円です」
花澄
「はい。………あ、どうも」
「ありがとうございました」

からん、ころん。

花澄
「ここを出て、左………だった………あれ?」

行きと帰りとでは、同じ風景でも見えかたが違うのである。

花澄
「あれ……でも、こっちでもないし………(焦)」

からん、ころん。

花澄
「あの、もうしわけありませんが……」
観楠
「はあ」
花澄
「瑞鶴へは、どうやって行くんでしょう?」
観楠
「瑞鶴、ですか?うちからですとそこの大学通りへ出て、後は真っ直ぐですが……本を買いに行かれるんならこの近くにも本屋さん有りますよ」
花澄
「いえ……その……そういう訳じゃ……無いんです」
観楠
「?」
花澄
「その、瑞鶴の……店員……なんです……アルバイトですけど(頬を染めて俯く)」
観楠
「は?(硬直)」
「え?(硬直)」

あまりの事に硬直する一同。
 暫く後、この事件が原因かどうかは不明だがベーカリー楠の紙袋の裏にベーカリー周辺の略図が印刷される事となったが、それは吹利商店街に新たな看板



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