目次


エピソード『呼び出しは命令調に』===============================ある日の日曜、三河夏和流の自宅。今はテスト休みでゆっくり休めるのである。

電話
(PRRR)
「もしもし、三河ですが。……はい、……はい。少々お待
ちください」
夏和流
「ふにゅ……むー(寝ている)」
「夏和流。電話よ」
夏和流
「……ふわ? だれ?(寝ぼけ声)」
「スズキ アヤさんですって。だれ?」
夏和流
「ん……あー、ちょっとね。んで、電話どこぉ?(寝ぼけ
声)」
「はい、コードレス」
夏和流
「ほーい。……あ、母親はあっちいっててね(寝ぼけ声)」
「お母さんって呼びなさい(呆れつつ部屋をでる)」
夏和流
「はい、もしもし(まだ寝ぼけ声)」
アヤ
『あ、もしもし? 寝てたの?』
夏和流
「うん。昨日遅かったから……(さらに寝ぼけ声)」
アヤ
『何時に寝たの?』
夏和流
「夜の十二時(しかも寝ぼけ声)」
アヤ
『……今、昼の十二時よ(呆)』
夏和流
「んー……でも、できればもうちょっと寝てたかったなぁ
(やっぱり寝ぼけ声)」
アヤ
『もうっ、とっとと起きるっ!』
夏和流
「(びくっ)は、はぁい!(ちょっと起きた)」
アヤ
『わかればいいの。それで、今日空いてる?』
夏和流
「んーと。うん、すかすかで音もでないよ」
アヤ
『それじゃ、いまから……そうね、四十分後に近鉄吹利駅
で、会える?』
夏和流
「四十分? んーと……うん、大丈夫」
アヤ
『それじゃ、待ってるわよ(がちゃ)』
夏和流
「うん(電話を切る) さて、急いで支度しなくちゃ……。
(しばらくして)あ、駅のどこで待ち合わせるんだろ……?」

吹利駅前にて

夏和流
「えーと……どこかな? 時間は……丁度だけど」
アヤ 
「三河君」
夏和流
「へ? あ、どうも」
アヤ 
「時間通りね、感心感心(笑)」
夏和流
「えーと、今日は……なに?」
アヤ 
「『なに』って……あのねぇ、女の子が誘ってんのに
『なに?』はないでしょ」
夏和流
「ご、ごめん(汗)」
アヤ 
「ま、いいわ。さ、いきましょうか(にこっ)」
夏和流
「行くって……何処へ?」
アヤ 
「(溜息)……三河君?」
夏和流
「は、はぃ……(汗)」
アヤ 
「休みの日に、女の子と何処か行くって言ったらデート
しかないじゃない!」
夏和流
「そう……だったの?」
アヤ 
「そうよっ……もぅ、しっかりしてよね……(溜息)」
夏和流
「……?(汗)」
アヤ 
「なんでもないわ。ところで三河君、今日ってなんの日
か知ってる?」
夏和流
「今日?……えぇと……なんだっけかな?……ごめん、
覚えてない……(焦)」
アヤ 
「……」
夏和流
「……」
アヤ 
「ん……いいの、あとで教えたげる(笑) とりあえず
歩きましょっか(笑顔)」
夏和流
「うん」

付き合いがはじまって、そんなに経ったわけじゃない。
 でも、世に言う「カップル」がやってることは一通り済ませたんじゃ
 ないかと思う……もちろんフィジカルな事は除いて、だけど(照)
 彼女とはひょんなことで出会って、いきなりその場で交際を申し込ま
 れた……ほんとだってば。
 あ、交際を申し込まれたわけじゃなくて、その場で『彼氏』になって
 しまった、という方が正しいかな?
 彼女……「スズキ アヤ」はちょっと強引で、性格もキツめみたいだけ
 ど悪い人間じゃないってのは付き合いはじめてわかった。
 ただ、まだどうにもぎこちない関係である……というのは、僕自信、
 彼女とどう付き合えばいいのか戸惑っていて、彼女は……彼女は僕の
 ことをどう思ってるんだろ?

アヤ 
「……君、三河君ってば!」
夏和流
「あ? あぁ、なに?」
アヤ 
「さっきからどうしたの? なにか、悩んでることでも
あるの?」
夏和流
「いや、そういうわけじゃ……」
アヤ 
「……ちょっと、休みましょうか」

いつのまにか真鶴公園に来てた。
 ここの公園にちゃんとした名前があるってのはつい最近知ったばかり
 で、僕の知り合いの殆どは「らぶらぶ公園」なんて呼んでる。
 その名の通りカップルがやたら目に付く所で……彼女と会う前は、友達と
 一緒に来たこともあるんだけど、男の二人連れじゃぁ流石にちょっと変な
 感じだった(苦笑)
 カップル眺めながら羨ましく思ったりしたんだけど……今は、今の状
 態をまた誰かが羨んだりするんだろうか?

アヤ 
「静かね……いつ来ても」
夏和流
「うん……」
アヤ 
「あ、そうだ。三河君、こないだ私の名前のこと聞いて
たじゃない」
夏和流
「あ、そう言えばそうだった」
アヤ 
「どんなのか、わかる?」
夏和流
「えーと……色彩の『彩』?」
アヤ 
「……なんだ、知ってたの?」
夏和流
「いや、そんな感じかなぁ……と」
彩  
「どんな感じよ(笑)」
夏和流
「んー……一瞬で、ぱっとわかる色を持っている……って
感じかなぁ?」
「それって、わかりやすい人間ってこと?」
夏和流
「そうじゃなくって……うーんと、色が鮮やかで……(小声)
綺麗だなって……」
「(最後の声は聞きとれなかったが)どうなの?」
夏和流
「……わっかんないや!(照)」
「(くすっ)……そう、ありがと」
夏和流
「なはははは(照)」

さっき、ぎこちない関係って言ったけどそれは間違いじゃない。
 こんな風に普通に話すことも出来るけど……多分、お互いまだカップル
 を「演じている」状態から抜け出てないん思う……少なくとも僕はそう
 だ。彼女は……彼女はどうなんだ?

彩  
「さて、と今日一つ目質問の答え、わかった?」
夏和流
「……なんだっけ?」
彩  
「今日はなんの日か、わかる?」
夏和流
「あぁ、それかぁ……ごめん、全っ然わからないよ」
彩  
「そっか……」
夏和流
「……」
彩  
「……」
夏和流
「(黙り込んじゃった……)」
彩  
「ねぇ、三河君」
夏和流
「何?」
彩  
「……私のこと、どう思う?」
夏和流
「どど、どう思うって、いきなりそのっ(動揺)」
彩  
「強引で、キツくて……初対面の相手をいきなり彼氏に
するヘンな女かしら?(笑)」
夏和流
「……えー……とぉ……(汗)」
彩  
「(深呼吸)今日がなんの日だか教えてあげる。三河君
と初めて会った時、言ったでしょ?『ためしに付き合っ
てみない?』って」
夏和流
「うん……」
彩  
「今日はそのお終いの日」
夏和流
「そ、そ……う」
彩  
「……いままでこんな女の我が侭につきあってくれて、あ
りがとう」
夏和流
「あ、いや、それほどでもないさ……はは」

どう思ってるなんてもんじゃない。
 結果は初めからわかってたんじゃないか(苦笑)
 やっぱりなぁ……僕は所詮場つなぎ、その場しのぎの都合の良い男だっ
 たみたい……だね。

彩  
「でね、三河君に最後のお願いがあるの」
夏和流
「……僕でできることなら」

ほんとは聞きたくない。
 でも、口が勝手に喋ってる。
 もう「都合の良い男」なんか演じなくても良いのに。
 もう聞く必要なんかないのに。……馬鹿かな、僕って。

彩  
「あの……あのねっ。私……」
夏和流
「……」
彩  
「これからも、三河君と付き合いたいの!」
夏和流
「……!?」
彩  
「三河君のこと……都合の良い男だと思ってたことも
あったわ。でも今は違う。三河君と一緒にいると、安
心できる、一緒にいたいって思うから!」
夏和流
「……」
彩  
「……」

 まさか、こんな物語みたいな展開が本当に起こるなんて。
  彼女の顔は真剣で……こんな顔初めて見たなぁ。
  一緒にいれば、もっといろんな表情を見せてくれるんだろうか。ひょっと
  したら、僕しか知らない彼女を見つけることができるかもしれない。
  「彩」の名の通りのたくさんの彼女をね。
  ……なんて、僕には似合わないセリフかな(笑)
  間を置いて、僕は答えた。

夏和流
「お月様に、会ってみたい」
「……え?」
夏和流
「『つき、あいたい』……なんちゃって」
「……」
夏和流
「……あは、あははは(ごまかし笑い)」
「……」
夏和流
「……え、えーと」
(……クス)
夏和流
「えっ?」
「おもしろいよ。……初めて、面白かった(笑顔)」
夏和流
「そ、そう? やったかな(笑)」
「……ご褒美あげる。目を閉じて」
夏和流
「……えっ?」
「ね、はやく」
夏和流
「……うん(このシチュエーションって、まさか……?!)」

 やがて、僕の想像通りに彼女の気配がすぐ近くに感じられて……!



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部