エピソード428『クマのぬいぐるみ』


目次


エピソード428『クマのぬいぐるみ』

某日、春先。ベーカリー楠
 からんころん、とドアベルが来客を告げる。

「いらっしゃいませ」
花澄
「こんにちは。……ああ良かった、緑さん、いてくれた」
「?」

花澄、手に持った大きな紙バックを差し出す。
 

花澄
「緑さん、もしお好きでしたら、貰ってやって下さいませ ん?」

紙バックの中から、体長20cmくらいのテディベアが5、6体出てくる。

観楠
「どうしたんですか、これ」
花澄
「いえ、この前から熊作りモードに入って、あげる当ても 無いのに調子に乗って作ってしまって(笑) ここだったら緑さんもいるし、店長さんにもお嬢さんいらっしゃるし、貰っていただけたら、と思ったんですけど」
「あの……いいんですか?」
花澄
「ええ、お好きなの、どれでも」

からんころん。

「こんにちは、……あ」
花澄
「あ、尊さん、このクマいりま……」
「(ダダッと駆け寄ってクマを抱きしめる)  きゃ〜可愛 い〜! あっ! こっちの子とこっちの子顔が違う! あ、こっちの子も! (数体のクマを見比べる)」
観楠
「……(呆)」
「……尊……さん?」

眼が点状態で尊を眺める一同。

「え? ……(初めて周りを見回し状況に気付く)……あ、 えーと。と、とりあえずコーヒー下さい(大汗)」
観楠
「あ、はい」
花澄
「尊さん、このクマいります?」
「欲しいです!(即答)……って、このぬいぐるみ達、どう したんですか? 見た所手作りのようですが」
観楠
「へぇ、手作りって良く分かりましたね」
「当然です! ほら、この子達全部顔が違うでしょ。機械 で作られるメーカー量産品じゃこうは行きません。ね、緑ちゃん」

観楠にクマを見せる尊。
 しかし、観楠にはどれも同じに見える(笑)

観楠
「はぁ、そうなんですか……緑ちゃん……判る?」
「ええ、まぁ……」
観楠
「ヌイグルミって……奥が深い」
「で……これってもしかして花澄さんが?」

頷く花澄。

花澄
「作りすぎまして、里子に出さないことには部屋が片付か ないんです。尊さん、もし良かったら貰って下さいません?」
「ほんとですか! あたし、こういうの大好きで(喜)」
花澄
「……何だか意外(しみじみ)」
「はい?」
花澄
「尊さんって、しっかり大人だし凛としてるって印象があ るから、こんなクマとか興味無いかな、って思ってました
にこにこ)」
「え……そんなこと無いですけど……(そ、そんな風に言わ れると、あたしの部屋中ぬいぐるみだらけだって言えないじゃないのー)……えーと」

クマを選んでいる緑と尊を見つつ。

花澄
「やっぱ……可愛いなあ……(にこにこ)」
観楠
「え?」
花澄
「女の子って、ほんと可愛いなあ、と思って」
観楠
「はあ……」
花澄
「女の子にって、作りがいがあるんですよね。喜んでくれ るし、それが正直に顔に出るし、そういう時って見とれるくらい可愛いし」
観楠
「はあ。(賛成は賛成なんだけれど、それを女性が言うと 違和感があるな……)」
花澄
「そう思うとクマ作るのも、もっと楽しくなるんですよね」
観楠
「そんなものですか」
花澄
「そこら辺が動機かも(笑)」
夏和流
「(からんからん)店長さん、こんにちわぁ〜」
みのる
「こんにちは」
観楠
「いらっしゃい、二人とも(にこ)」
夏和流
「いつものくださ……(ふとぬいぐるみに気がつき) あれ? そのぬいぐるみはどうしたんです?」
観楠
「ああ、こちらの方が作って、持ってきてくださったんだ」
花澄
「初めまして、花澄ともうします(にっこり)」
夏和流
「あ、えと、はじめました。僕は三河夏和流っていいます」
花澄
「はじめました?」
夏和流
「(慌てて)あっ、いや、えーと。……間違えました(^^;;;」
花澄
(くすり)
みのる
「西山みのるです。初めまして」
花澄
「初めまして(にっこり)」
夏和流
「(気を取り直して) この熊、みーんな花澄さんが作られ たんですか?」
花澄
「はい、そうです」
夏和流
「ふぇ〜。器用なんですね〜」
花澄
「そうでもないですよ。ちょっと本を読めば、結構簡単に 作れますから」
夏和流
「そうなんですか……。いいなぁ。僕もほしいなぁ」
花澄
「よければ、もらってくださいな。ちょうど、余っていま すから(にっこり)」
夏和流
「もらっていいんですか!? くくぅ、らっきー! YにE をつけて、いぇい(発音注意)って感じ!」
みのる
「……馬鹿みたいだぞ」
夏和流
「いいも〜ん(笑) 尊さん、僕も選ぶの混ぜて〜」
「え? いいわよ……って夏和流君! その子はあたしが 狙ってたのー!」
みのる
「……やれやれ」

そして、夏和流達が選んだものは。

「あたしはこの子を頂きます(喜)」
「じゃ、これを……」
夏和流
「僕、このひぐま〜」
みのる
「……ヒグマは、首の下に月の輪はないぞ」
夏和流
「こいつは、月の輪ヒグマっていうんだい(負け惜しみ)」
「ふーん、新種?(くすくす)」
夏和流
「尊さんまで……ふーんだ」
みのる
「いじけるな」
夏和流
「ぶーぶー。(思いつき) あ、そうだ、おまえも貰えば?」
みのる
「折角だが、俺は遠慮しておく」
夏和流
「ふーん、涼子さんにプレゼントしたら?(にやり)」
みのる
「!?」
「え? ……ねぇねぇみのる君、涼子さんってだぁれ? 
くすくす)」
みのる
(無表情のままこめかみに冷や汗が流れる)
夏和流
「涼子さんって言うのはですね……はっ(汗)」

尊、緑達からの死角、背中に当たる冷たい感触。

みのる
「(夏和流にだけ聞こえるように)俺の言いたいことはわか るな……ごまかせ」
夏和流
「り、涼子さんと言うのはですね……えーと、えーと(汗)」

その時、救いの天使がドアベルを鳴らしてやってきた。
 からんころん。

「あ、かなみちゃん、こんにちは」
夏和流
「こ、こんにちはっかなみちゃん!」
かなみ
「あ、かわるお兄ちゃん、緑お姉ちゃん、こんにちはっ。
父様あのねっ、今日学校で先生が、おうちの人にわたしなさいって言ってたのっ(渡す)」
観楠
「ん、あぁはいはい……(読みはじめる)」
みのる
「(ぼそっと) 命拾いしたな」
夏和流
「た、助かったぁ(泣)」
かなみ
「(ふと、テーブルのクマに気が付く) あ! クマさん!
そっと手に取って抱きしめる)わぁ……ふぁふぁ……」
花澄
「かなみちゃん、はじめまして。そのクマさん、貰ってくれる?」
かなみ
「え?(きょとん)……父様?」
観楠
「そのクマのヌイグルミはね、この花澄お姉さんが作った んだ、沢山作ったから貰って欲しいんだって(笑顔)」
かなみ
「くまさん作れるなんて姉様すごーいっ!(驚) かなみこ のクマさん欲しい!」
花澄
「そのクマさんが気に入ったの? じゃ、可愛がってあげ てね(にこにこ)」
かなみ
「うんっ大事にするね! ありがとう花澄姉様っ!(にこっ)」
観楠
「良かったね、かなみちゃん。すみません、花澄さん」
花澄
「いえ、こんなに喜んで頂けるなら作ったかいが有りまし た(にこっ)」
「観楠さん、そのプリント……何です?」
観楠
「あ、ああ、これですか……何でも学校の授業で裁縫する から、裁縫セットの注文を取るそうで……」
「家庭科……今は生活科でしたっけ」
「そっか、新学期だもんね」
かなみ
「ねぇ花澄姉様……かなみもお裁縫覚えたらクマさん作れ るかな?」
花澄
「そうねぇ、ちゃんとお裁縫を覚えればかなみちゃんもきっ と作れるようになるわよ、きっと(にこにこ)」
かなみ
「かなみ……クマさん作るのっ!」
観楠
「(そっか……この子もそういう事に興味を持つ年頃になっ たのか……何時までも子供じゃ無いって事だな……そして何時かは……)」

観楠、何故か「瀑布目の幅涙」。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部