エピソード432『引っ越し祝いは一升瓶』


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エピソード432『引っ越し祝いは一升瓶』

引っ越しの日

春の日差しを時折感じる3月なかばの水曜日

かなみ
「父様っ」
観楠
「どうしたの、かなみちゃん」
かなみ
「あのねっ。おとなりにだれかおひっこししてきたみたい なのっ」
観楠
「へぇ〜そうか、もうそんな時期かぁ」
かなみ
「でねっ、ごあいさつしに行くのっ」
観楠
「それじゃあ一緒に行こうか?」
かなみ
「うんっ。ミかも一緒ね」
ミか
「は〜い」

その時。

SE
ぴんぽーん
観楠
「誰だろう? はーい、ちょっとまってくださーい」
ミか
「さっき話していたお隣さんじゃないの?」
観楠
「(ガチャ) どちら様ですか?」
紘一郎
「あ、どーも。……湊川さんですよね?」
観楠
「はい。そうですが」
紘一郎
「始めまして。こちらに越してきた者の……まあ、弟なん ですが。とりあえずお隣に挨拶をしとこうという事で……そうそう柳紘一郎(やぎ・こういちろう)と言います」

と言って一升瓶・熊本の銘酒『美少年』を取り出す。

観楠
「……(汗)」
紘一郎
「ん? もしかしてお酒は駄目ですか?」
観楠
「はぁ、ちょっと酒だけは」
かなみ
「父様っ。どうしたの?」
観楠
「あ! そうだかなみちゃん。お隣さんに挨拶するんでしょ」
かなみ
「うんっ、兄様。お名前はっ」
紘一郎
「紘一郎っていうんだ……え〜と、かなみちゃん」
かなみ
「紘兄様ねっ」
紘一郎
「ん〜。紘ちゃんでいいよ、そう呼ばれているから」
かなみ
「じゃあ、紘ちゃんっ。よろしくねっ」
紘一郎
「よろしく(笑) あと湊川さん。隣に入るのは俺じゃなく て、うちの姉ちゃんですから、揚げ足をとるようだけど違います。俺はやたらと荷物が多いので手伝わされただけですから」
観楠
「あら(汗) じゃあそのお姉さんは……」
隣のドア
 ばんっ!
すーちゃん
「ちょっと紘ちゃん。お隣に挨拶しに行くのはいいけど、 そろそろこっちの方も手伝ってよぅ」
紘一郎
「(ま、まずい。姿見せたままじゃないか) ああ。すぐ戻 るからそんなに怒るな」
観楠
「柳君。あの人がお姉さん?」
紘一郎
「いや彼女は俺の知り合いで……」
すーちゃん
「すーちゃんっていいます」
観楠
「はぁ、そうですか。始めまして」
すーちゃん
「紘ちゃ〜ん。早いとこ片付けないと昼飯食えないよ〜」
紘一郎
「諦めろ。どうせ昼までには終わらんから」
すーちゃん
「ううっ。わたしの昼飯(T_T)」

奥の方から

直紀
「すーちゃん、配線違うよ! 何でレンジとMACが一緒に 刺さってんのよ(汗)」
すーちゃん
「なおちゃ〜ん! おひるぅぅぅっっ昼飯ぃ、食べよ食べ よぉ」
直紀
「……だめっ! この状態で食ったら大変なことになる(泣) ん? こーいちろーは??」
すーちゃん
「あっ、紘ちゃん! 早く戻ってよー(手を振る)」
紘一郎
「(頭抱えてる)……なんかご迷惑掛ける前に謝っときます」
観楠
「いや……なんか大変そうだし、あとでまた挨拶にいくね」
紘一郎
「すみません。一段落着いたら挨拶に来させますんで」
直紀
「師匠〜! さぼっちゃだめだぞぉー。もどってこーい!」
すーちゃん
「師匠ぉ、早く戻ってくるのさ〜(大笑)」
紘一郎
「だからっ! その呼び方はやめいっつーに!!」

ばたばた戻ってゆく

観楠
「し、師匠?? 柳君っていったい……(^^;」
観楠
「……な、なんだかよくわからないけど……」
ミか
「いい人みたいでよかったね」
観楠
「引越しの手伝い、行った方がいいかなぁ……」

後日……

紘一郎
「え〜と、確かこの辺りだって……あ、あったあった」
からんころん

観楠
「いらっしゃい。って柳君じゃないか、来てくれたんだ(笑)」
紘一郎
「ええ。一回行こうと思ってたんで」
観楠
「まあそんなとこに立ってないで掛けてよ」
紘一郎
「そんじゃお言葉に甘えて……」

と言ってカウンターの席に座る。

紘一郎
「ふ〜ん」
観楠
「どうしたの柳君? きょろきょろと珍しそうに見てるけ ど」
紘一郎
「……いいですね」
観楠
「何が?」
紘一郎
「この店の雰囲気ですよ。こうなんつーかとっても落ち着 いていられる、そんな感じがするんですよ」
観楠
「ありがと(笑) でもこういう日は久しぶりだなあ。いつ もは常連が2・3人いるから、こうゆっくりしてられないしね」
紘一郎
「そりゃあ大変ですね(笑)」
観楠
「まあね(苦笑)」
紘一郎
「そーいや湊川さん」
観楠
「何?」
紘一郎
「この前うちの姉ちゃんが引っ越ししたとき、ふと気付い たんですが……」
観楠
「はぁ(何が言いたいんだろ)」
紘一郎
「湊川さんの名前、何て読むんですか?」
観楠
「名前?」
紘一郎
「そーです。変わってるなぁ……と思って」
観楠
「そーりゃ……ま、変わってる書き方するけど……」
紘一郎
「『観る』『楠』でしたよね?」
観楠
「……良く覚えてるね」
紘一郎
「めずらしいですから(笑) で、読み方は?」
観楠
「ん……かなみ」
紘一郎
「へ?」
観楠
「『かんくす』と書いて、かなみっての」
紘一郎
「むぅ……娘さん、なんていいましたっけ?」
観楠
「……『かなみ』(照)」
紘一郎
「……」
観楠
「……」
紘一郎
「……」
観楠
「な、なんで黙っちゃうかなぁ?(汗)」



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