春の日差しを時折感じる3月なかばの水曜日
- かなみ
- 「父様っ」
- 観楠
- 「どうしたの、かなみちゃん」
- かなみ
- 「あのねっ。おとなりにだれかおひっこししてきたみたい
なのっ」
- 観楠
- 「へぇ〜そうか、もうそんな時期かぁ」
- かなみ
- 「でねっ、ごあいさつしに行くのっ」
- 観楠
- 「それじゃあ一緒に行こうか?」
- かなみ
- 「うんっ。ミかも一緒ね」
- ミか
- 「は〜い」
その時。
- SE
- ぴんぽーん
- 観楠
- 「誰だろう? はーい、ちょっとまってくださーい」
- ミか
- 「さっき話していたお隣さんじゃないの?」
- 観楠
- 「(ガチャ) どちら様ですか?」
- 紘一郎
- 「あ、どーも。……湊川さんですよね?」
- 観楠
- 「はい。そうですが」
- 紘一郎
- 「始めまして。こちらに越してきた者の……まあ、弟なん
ですが。とりあえずお隣に挨拶をしとこうという事で……そうそう柳紘一郎(やぎ・こういちろう)と言います」
と言って一升瓶・熊本の銘酒『美少年』を取り出す。
- 観楠
- 「……(汗)」
- 紘一郎
- 「ん? もしかしてお酒は駄目ですか?」
- 観楠
- 「はぁ、ちょっと酒だけは」
- かなみ
- 「父様っ。どうしたの?」
- 観楠
- 「あ! そうだかなみちゃん。お隣さんに挨拶するんでしょ」
- かなみ
- 「うんっ、兄様。お名前はっ」
- 紘一郎
- 「紘一郎っていうんだ……え〜と、かなみちゃん」
- かなみ
- 「紘兄様ねっ」
- 紘一郎
- 「ん〜。紘ちゃんでいいよ、そう呼ばれているから」
- かなみ
- 「じゃあ、紘ちゃんっ。よろしくねっ」
- 紘一郎
- 「よろしく(笑) あと湊川さん。隣に入るのは俺じゃなく
て、うちの姉ちゃんですから、揚げ足をとるようだけど違います。俺はやたらと荷物が多いので手伝わされただけですから」
- 観楠
- 「あら(汗) じゃあそのお姉さんは……」
- 隣のドア
- ばんっ!
- すーちゃん
- 「ちょっと紘ちゃん。お隣に挨拶しに行くのはいいけど、
そろそろこっちの方も手伝ってよぅ」
- 紘一郎
- 「(ま、まずい。姿見せたままじゃないか) ああ。すぐ戻
るからそんなに怒るな」
- 観楠
- 「柳君。あの人がお姉さん?」
- 紘一郎
- 「いや彼女は俺の知り合いで……」
- すーちゃん
- 「すーちゃんっていいます」
- 観楠
- 「はぁ、そうですか。始めまして」
- すーちゃん
- 「紘ちゃ〜ん。早いとこ片付けないと昼飯食えないよ〜」
- 紘一郎
- 「諦めろ。どうせ昼までには終わらんから」
- すーちゃん
- 「ううっ。わたしの昼飯(T_T)」
奥の方から
- 直紀
- 「すーちゃん、配線違うよ! 何でレンジとMACが一緒に
刺さってんのよ(汗)」
- すーちゃん
- 「なおちゃ〜ん! おひるぅぅぅっっ昼飯ぃ、食べよ食べ
よぉ」
- 直紀
- 「……だめっ! この状態で食ったら大変なことになる(泣)
ん? こーいちろーは??」
- すーちゃん
- 「あっ、紘ちゃん! 早く戻ってよー(手を振る)」
- 紘一郎
- 「(頭抱えてる)……なんかご迷惑掛ける前に謝っときます」
- 観楠
- 「いや……なんか大変そうだし、あとでまた挨拶にいくね」
- 紘一郎
- 「すみません。一段落着いたら挨拶に来させますんで」
- 直紀
- 「師匠〜! さぼっちゃだめだぞぉー。もどってこーい!」
- すーちゃん
- 「師匠ぉ、早く戻ってくるのさ〜(大笑)」
- 紘一郎
- 「だからっ! その呼び方はやめいっつーに!!」
ばたばた戻ってゆく
- 観楠
- 「し、師匠?? 柳君っていったい……(^^;」
- 観楠
- 「……な、なんだかよくわからないけど……」
- ミか
- 「いい人みたいでよかったね」
- 観楠
- 「引越しの手伝い、行った方がいいかなぁ……」
- 紘一郎
- 「え〜と、確かこの辺りだって……あ、あったあった」
からんころん
- 観楠
- 「いらっしゃい。って柳君じゃないか、来てくれたんだ(笑)」
- 紘一郎
- 「ええ。一回行こうと思ってたんで」
- 観楠
- 「まあそんなとこに立ってないで掛けてよ」
- 紘一郎
- 「そんじゃお言葉に甘えて……」
と言ってカウンターの席に座る。
- 紘一郎
- 「ふ〜ん」
- 観楠
- 「どうしたの柳君? きょろきょろと珍しそうに見てるけ
ど」
- 紘一郎
- 「……いいですね」
- 観楠
- 「何が?」
- 紘一郎
- 「この店の雰囲気ですよ。こうなんつーかとっても落ち着
いていられる、そんな感じがするんですよ」
- 観楠
- 「ありがと(笑) でもこういう日は久しぶりだなあ。いつ
もは常連が2・3人いるから、こうゆっくりしてられないしね」
- 紘一郎
- 「そりゃあ大変ですね(笑)」
- 観楠
- 「まあね(苦笑)」
- 紘一郎
- 「そーいや湊川さん」
- 観楠
- 「何?」
- 紘一郎
- 「この前うちの姉ちゃんが引っ越ししたとき、ふと気付い
たんですが……」
- 観楠
- 「はぁ(何が言いたいんだろ)」
- 紘一郎
- 「湊川さんの名前、何て読むんですか?」
- 観楠
- 「名前?」
- 紘一郎
- 「そーです。変わってるなぁ……と思って」
- 観楠
- 「そーりゃ……ま、変わってる書き方するけど……」
- 紘一郎
- 「『観る』『楠』でしたよね?」
- 観楠
- 「……良く覚えてるね」
- 紘一郎
- 「めずらしいですから(笑) で、読み方は?」
- 観楠
- 「ん……かなみ」
- 紘一郎
- 「へ?」
- 観楠
- 「『かんくす』と書いて、かなみっての」
- 紘一郎
- 「むぅ……娘さん、なんていいましたっけ?」
- 観楠
- 「……『かなみ』(照)」
- 紘一郎
- 「……」
- 観楠
- 「……」
- 紘一郎
- 「……」
- 観楠
- 「な、なんで黙っちゃうかなぁ?(汗)」
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