エピソード467『Spring Storm 〜春の嵐〜』


目次


エピソード467『Spring Storm 〜春の嵐〜』

前編:成り行きは必然のごとく

ゆううつなる尊

桜も散りはじめ、春が過ぎ行く事を感じはじめる頃。
 ベーカリー楠の窓際に悩める「をとめ」が一人(笑)。

「はぁ……(溜息)」
観楠
「?」

いつものカウンター席でなく、窓際のテーブル席でぼんやりと物憂げに外を眺めて溜息をつく尊。コーヒーにも手を付けていない。
 数分後……。

「ふぅ……(溜息)」
花澄
「?」

更に数分後……。

「はぁ(再び溜息)」
花澄
「(窓際を見て)? ……尊さん、どうかしたんですか?」
観楠
「(小声)ずっとああなんです、溜息ばかりついて。さっき も声かけてみたんですけど……」
花澄
「何か……悩みでもあるのかしら(心配)」

カラン、コロン。

御影
(さて、軽く一服と……今日は何を食うかな……)

相変わらずサングラスが恐い御影武史である。

「ふぅ(溜息) ……あっ!(席を立って御影に近づく) 御 影さん(俯く)」
御影
「(パンを物色しつつ) ん? ああ尊さんか、わしに何か?」
「実は……お願いが……」
御影
「お願い? 美人の『お願い』は断れんなぁ(笑)
『お命頂戴!』でも何でもいいで。言うてみ(笑)」
「こんな事お願いするなんて……とっても御迷惑だとは思 うんですけど……」
観楠
「ん? なんか様子が変だな」
御影
「いいからいいから、言うてみ(パンを選ぶ)」
「あ、あたしの『恋人』になってくださいっ!」
SE
 どがしゃぁん!! 

トレイを持ったまま盛大にこける御影。
 器用にもトレイ上のパンは微動だにしていない。

「えっ(盛大なリアクションに戸惑う)」
観楠
「なっ……(呆然っ)」
花澄
「なあんだ、そうだったの(にこにこ)」
御影
「(辛うじて立ち直る) お、お、お、お願いって……」

後に御影はこの時の事をこう述懐したという。
 曰く「生まれて初めて『一言で』沈められた」と。

「あっ(赤面)えーと、その、えーとそうじゃなくて、えー と」

自分の『一言』がどの位の破壊力を持っていたか今更気付く尊。

観楠
(そーかみことさんはこういうひとがこのみだったのか)

完全に混乱状態の店長(笑)。

「あ、あのっ(赤面) そーぢゃなくてっ! 御影さんには 恋人『役』をお願いしたいんですっ」
御影
「は? 『役』?」

 同時刻、カウンターの端にて

「あ、あたしの『恋人』になってくださいっ」
SE
(ぶばっ!!)

飲んでいたコーヒーをお約束通り盛大に吹き出す火虎左衛門。
 尊のセリフにぶっ飛びかけたがとっさにトレイでガードする喬。

「……キタないですよ。いくらお約束とはいえ、やってい いことと悪いことがあるでしょうが」
火虎左衛門
「こら、トレイで叩くな……
ふん、このお約束を俺がやらねば誰がやる?」
「誰もしなくていいんですっ!! 
すいませーん、ダスターお借りしますね」
テーブルの上を拭き、ティッシュで床を拭く)

代役願い

しばらくして……。

観楠
「なんだ、そういう事! それで悩んでたんですか(笑)」
花澄
「お見合い、ですか(笑)」
「断りたいんですけど先方がどうしてもって、しつこいん ですよ。だから『あたしにはもう恋人がいるから』ってつい言っちゃったんです、そしたら『じゃぁ証拠を見せろ』って事になって……」
御影
「それでわしに代役を……(苦笑)
しかし、何でわしに? 色男なら他にもいるのに(観楠を見て笑う)なぁ」
観楠
「あは、あは、あははは(乾いた笑い) こ、こりゃどうも
判ってるけど……判ってるけど……やっぱり恐いぃぃ)」
「たとえ真似事ととは言え……あたしまだ馬に蹴られたく ありませんから(笑) それに……」
花澄
「それに?」
「相手の人、どうやらあたしの事色々と調べたらしいんで す(溜息)」
御影
「調べたぁ?(眉を顰める)」
「『恋人がいる証拠を見せる』って言ったら、向こうはこ う言ったんです『まさか行き付けのお店の常連を恋人に仕立てたりしないでしょうね』って……」
観楠
「それって……(嫌な顔)」
花澄
「ここの事……ですよね」
「だから、常連の皆さんや観楠さんには頼めなくって」
御影
「なるほど。わしならまだ面が割れてないということか。 むう……それにしても気に入らん奴だ」
「お願い……出来ますか?」
御影
「OK。そういう腐れゾンビ野郎は、かる〜く説教してや らんとなぁ」

ニヤリと嗤う御影。
 口の端のから鋭い犬歯が覗く。 ☆
 同時刻、カウンターの端にて

「だから、常連の皆さんや観楠さんには頼めなくって」
火虎左衛門
「はーい!! 俺もそこまで常連じゃないですよーっ」
「やめなさい(地獄突き)」
火虎左衛門
「おおう!!(げほげほ)」
「獅堂さんに密告しますよ。
そもそも、オマエじゃあ先方も納得しないでしょうが」
火虎左衛門
「何故だ? 遥か宇宙からやってきたスーパーヒーローの姿 でばっちりキメれば親御さんも安心して嫁に出せるって……」
「ワケないでしょうが(逆水平)」

たのしいデートの予感

御影
「で、わしは何をすればいい?」
「明後日の土曜日、近鉄吹利レジャーランドのオールナイ トでデートするから見に来い、って言ってあります」
御影
「近鉄吹利レジャーランドって『あの』か?」

尊が口にした遊園地は、最近化物が出ると雑誌にまで書かれた有名な遊園地だった。

御影
「まてよ、明後日は新月……そういう事か(にやり)」
「そういう事です(微笑)」
御影
「くっくっく……こいつぁ楽しい『デート』になりそうだ」

尊の真意を諒解し愉快そうに笑う御影。 ☆
 同時刻、カウンターの端にて

火虎左衛門
「ん? 俺が聞いた話だと幽霊だったような……」
「ウワサには尾鰭がつくものですからねぇ……ところで、 考えてませんか? よからぬこと」
火虎左衛門
「まさか、俺はまだ『清め』がマトモに出来ねぇんだから な。『燃え』と『爆ぜ』じゃ幽霊退治は出来ねぇぜ?」
「じゃあ、なにをそんなにわくわくしてるんです?」
火虎左衛門
(大汗)

「では土曜日の夕方、ここで待ち合わせにしましょう」
御影
「分かった。(席を立つ)……土曜日、楽しみにしている」

からん、ころん。
 コートを翻し愉快そうに笑いながら去って行く御影。

花澄
「ねぇ尊さん(微笑)」
「はい?」
花澄
「(耳元で囁く)本当に『真似事』だけ?」
「○×△□!?(赤面っ) かかかかかか花澄さんっ!」
花澄
「なぁに?(にこにこ)」
「……もぅ(赤面) いいですっ」

 同時刻、カウンターの端にて

花澄
「(耳元で囁く) 本当に『真似事』だけ?」
「(無意識の指向性聴覚:1によって傍受) 破壊力抜群な お言葉ですねぇ(汗)」
火虎左衛門
「なにが?(聞こえていない)」

次・回・予・告

御影&尊の美女と野獣コンビが向かった近鉄吹利レジャーランド! 
 見合い相手に見せ付けるように楽しむ二人! 
 だが、新月の夜は魔物の饗宴。二人の背後に迫る黒い影がっ! 
 夜の遊園地が魔城と化す! 
 尊が舞い、御影が吼える! 
 次回 『Spring Storm〜春の嵐〜後編』
 春の嵐を影が切る! 

後編:デートのなかの真実

尊の爆弾発言の次の日。
 金曜日、夜。

御影武史・自室にて

御影
「……笑っとらんと、どんな服着てくるかぐらいは聞いて おくべきだったかも知れん。何着ていくかな……」

開け放したクローゼットの前で、御影はつぶやいた。

御影
「(がさごそ) 何を着ていくと言うより、デートに着てい ける服があるのかオイ、って感じよなぁ。まさか遊園地にスーツ着ていくわけにはいかんし……、変に気合の入った格好だと『恋人役』としては不合格だし」

ぶつくさ言いながら決して多くない衣装をひっかきまわす。

御影
「確かこのへんにコットンのジャケットがあったはず……
ごそごそ) お、あった……のはいいけど……シワだらけやな。まぁよかろう。Tシャツの上にこれ着て、下はジーンズにウルヴァリンの靴、っと。ううむ、まるっきり普段着……」

如月尊・自室にて

御影が衣装に悩んでいる頃とほぼ同時刻。

「な、に、き、て行こうかしら……でも、あんまり気合入っ た格好も不自然よね……確かこの間買った(クローゼットを漁る)……これなんか(身体に当てる)」

服を当てたまま姿見の前に立ち、クルッと一回転してにこっと微笑んでみる。

「うー……いまいち……じゃぁこっちは……」

この後、尊の一人ファッションショーが数時間にわたって続いたが、それを知っているのは当人のみである。琢磨呂吼える! --------------
 いよいよ当日土曜日、夕刻。
 ベーカリー楠には妙な緊張感が漂っていた……。

観楠
「えーと、トレイは整理したし、床の掃除はしたし……あ、 テーブルは拭いたかな」
花澄
「さっき拭いたじゃないですか二回も。観楠さん、まるで 自分の事みたい。そんなに気になるんですか?(くすくす)」

先ほどから冬眠明けのクマのようにうろうろと落着かない観楠を見て、花澄が春風のような笑顔でおっとり笑う。

観楠
「そ、そりゃまぁ……ね(苦笑)」

カラン、コロン。
 真鍮のドアベルが来客を告げた。

「こ、こんにちは……(照)」

ドアを開けてスリムジーンズにサマージャケット、フレームレスのファッショングラスを掛けた尊が入ってくる。
 もちろん髪はお気に入りの赤いリボンで止め、アクセントに黒のレザーキャップをかぶっている。
 どうやらこれが昨晩の一人ファッションショーの成果らしい。

観楠
「噂をすれば……いらっしゃい(笑顔)」
「えっと(照)……その……御影さん……は?」
観楠
「いやぁ、まだ来てないけど」
竜胆
「尊ちゃん尊ちゃん、今日彼氏とデートなんだって?(笑)」
「(ぼふっ)り、りん姉さんっ! ……(赤面) か、彼氏っ て、そおいうのじゃないんですってば!」
琢磨呂
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! 
尊の姐さん! なんで俺というものがありながらあんなヤクザな野郎とデートなんかっ!」
「た、琢磨呂君?(汗)」
竜胆
「落ち着きなさいって(りんどうちゃんぱんち)」
琢磨呂
「いってぇな、いきなり殴るこたぁねーだろ姐さんよぉ。
ったく、これが落ち着いてられるかよ! 恋人役ってことはだ、手ぇつないだり腕組んだり肩に手ぇまわしたりナニしたりで必要以上にあの野郎の手が尊の姐さんに触るんだぜ?
うおおおおおおおおっ許っせええええええええええっ!」
竜胆
「落ち着けって言ってるでしょーが(りんどうちゃんぱん ちDX)」
観楠
「いきなりスーパーコンボ……(汗) まあまあ、琢磨呂く ん。そう興奮せずに」
「だって、琢磨呂くんにはちゃんとした彼女がいるでしょ? そんな人には頼めないもの……それに……」
花澄
「それに? なぁに?(微笑みながら顔を覗き込む)」
「えっ!? あっ……その……もう! いぢめないで下さいっ
ぷぃっ)」
琢磨呂
「だいたい尊の姐さんがこっちに引っ越してきたときに、 いちばん最初に目ぇつけたのはこの俺なんだぜ。それなのにあの野郎、俺を差し置いて真っ先にデートだとぉ?」
「……琢磨呂くん、それは違うわ」
琢磨呂
「あぁ? どこが違うって?」
「あたしの初のデートの相手は、緑ちゃんよ(笑)ねっ? 
にこっ)」
「え? あ……はい(にこっ)」
観楠
「ああ、この間のジャンボパフェだね」
琢磨呂
「くっ、……そんなのデートって言わねぇよ」

カラン、コロン。

観楠
「いらっしゃ……、あ」
琢磨呂
「相手はあのヤクザなにーちゃんだぜ? 香港かマカオに 売り飛ばされでもしたらどーすんだ?」
御影
「美人だから高く売れる」
琢磨呂
「そう。だから用心のためにも、コイツを持ってってくれ
ごとっ)」
竜胆
「岩沙……、スタンガン持ちだしてどーしよーっての?」
琢磨呂
「催涙スプレーも用意しておいた」
御影
「用意周到だな」
琢磨呂
「……?(振りむいて)ああっ、テメエ聞いてやがったな!」
御影
「とりあえず香港は夏に返還されるぞ」
「あの……御影さん、今日はよろしく……お願いします」
御影
「いや、こっちこそ。よろしく」
琢磨呂
「安心してくれ姐さん、俺がちゃーんとこのニーチャンの 背中に銃口を向けてるから」
竜胆
「いーわーさー! いーかげんにしなさいっ!」
観楠
「気持ちはわからなくもないけどね(年上でロングの美人 だもんなぁ)。でも、これも尊さんのためなんだから」
琢磨呂
「うおおあああああああっ、やっぱこんなの嘘だああああ あああっ!(駆けだす)」
観楠
「琢磨呂くん、紅茶代! おーい。……あああ、行っちゃっ た。また怨念残してなきゃいいけど……」
御影
「それじゃ、わしらも出かけるとしますか?」
「あ、はい。そうですね」
竜胆
「ねぇねぇ尊ちゃん尊ちゃん(手招き)」
「なんですか?」
竜胆
「(尊にだけ聞こえるように) ペアルック?(ぼそっ)」
「(真っ赤) ち、っち、ちっ、違いますっ! 偶然ですっ!」
御影
「何を話してるん?」
竜胆
「をとめの秘密(笑)」

御約束の『お互いに緊張して間が持たない遊園地までの道中』を経て近鉄吹利レジャーランドへ。

近鉄吹利レジャーランド入口付近

「オマエ……やはり来ていましたか」
火虎左衛門
「なにがだよ、俺はここで着ぐるみを着て風船を配ってた だけだぜ? ま、それが終わってバイト料も出たから、これから思いっきり遊ぶつもりなんだが」
「そうですか。で、私がそれを信用するとでも?」
火虎左衛門
「まさか」
「安心なさい無理に連れ帰るつもりはありませんから。
ただ……監視をさせていただきますんで、人のお見合いをブチ壊そうなんて夢にも思わないようにしてくださいね
サイキックナイフを光らせる)」
火虎左衛門
「オマエ……ヒマなんだな……」
「バカ言いなさい。オマエのせいで300前に私の髪が真白 にならないことを祈りますよ」
火虎左衛門
「言ってろ……おっ、来たみたいだぜ」

夕日に照らされた吹利レジャーランドの入口。
 最近の『噂』のせいか、折角のオールナイトだというのに客はまばらである。
 その中にやたら人目を引く異質なカップルが一組。

火虎左衛門
「おーおー、目立つこと目立つこと(苦笑) コレなら少し 位見失っても大丈夫だな」
「何を見失うんです?」
火虎左衛門
「さぁな(白々しく)」

エンカウント

御影
「んで? その見合い相手の野郎ってのは?」
「たしか入口に来てるはずなんですけど……どの人なんだ ろう?(きょろきょろ)」
御影
「は? ……どの人って」
「実は……あたしも写真を見せてもらって……無いんです ……それに名前も……(恐縮)」
御影
「(呆)……何だそりゃ」
「でも、ここに来れば判るって、おじ……じゃ無かった祖 父が」
??
「尊姉さん」
「えっ?(振り向く)」

振り向いた瞬間、尊の表情が凍り付いた。
 驚愕に言葉が続かず、唇が震える。

「……う……そ……嘘でしょ?(汗)」

凍り付いた尊を庇うように、スッと御影が前に立つ。
 表情は硬い。
 後ろから声を掛けたのは二十歳位の青年だった。
 極平凡な顔立ちだが、にこにこ笑う顔の少々垂れ目気味の目が、思わずつられて笑ってしまうような愛敬を持っている。
 格好もポロシャツにジーンズ、スニーカー、と、至って平凡な物であるが、飄々と人を食ったような雰囲気が御影の六感に触れた。

御影
「姉さんだと? あんた……何だ?」
青年
「これは失礼しました。僕は天城信吾と申します(一礼)
尊姉さんの幼馴染み、とでもと言えばいいのかなぁ(笑)」
「ほ、本当に……信吾君……なの? ……本当に信吾君な のねっ!」

見る間に大きな瞳に涙が溜まり、瞬きにより真珠の粒が頬をつたう。

信吾
「尊姉さん……お久しぶりです(笑顔)」
「……莫迦っ!」

堪えきれずに信吾を抱きしめる尊。
 頭一つ低い信吾の肩口に顔を埋め肩を震わせる。

「もう……心配……したんだからぁ……三年も連絡しない でっ」
信吾
「御免なさい尊姉さん。まぁ、色々とありまして」

尊に抱きしめられ苦笑しながら頭を掻く信吾。

御影
「えーっと……(頭を掻く) 話が見えないんだが……わし にも判るように説明……してくれるか?(苦笑)」

それを遠くから眺めてる二人は……。

火虎左衛門
「なんで、尊さん泣いてるんだ? まさか、あのダンナが 泣かしたとか?」
「バカ言いなさい、しかし、これほど感動的な再会の場面 に立ち会えるとは思いませんでした(既にハンカチの用意)」
火虎左衛門
「はぁ?」

園内休憩所

火虎左衛門
「さぁて、今日は夜通し遊ぶつもりだからな、ちゃんとハ ラごしらえをせんとな」

ハンバーガー3個とポテトL、シェイクに缶コーヒーを広げて食べはじめる火虎左衛門。

「よくそれだけ入りますね(汗)」
火虎左衛門
「着ぐるみってのは、動かなくても体力を消費するモンな んだぜ。とくに夏場は脱水症状も引き起こしかねん。だから、バイトの後はしっかり食わねぇと」

ハンバーガーをぱくつく火虎左衛門達から少し離れた所。
 ようやく落ち着いた尊、御影、信吾の三人は園内の休息所のベンチに腰を下ろしていた。

「信吾君は……祖父の友人のお孫さんで、あたしの幼なじ みなんですけど、三年前のある事件以来、行方不明になってたんです……全く……人に心配掛けて(溜息)」

泣いていた為、少し赤い眼で信吾を睨む。

信吾
「御免なさい、ちょっと連絡の取れない場所に居たもんで
苦笑)」

相変わらずの笑みを浮かべながら信吾が頭を掻く。

御影
「ある事件、てぇのは?」
「それは……(口篭る)」
御影
「ま、話したくないなら無理には聞かんが。所で、信吾やっ たな、お前さん何でこんな所におるん?」

何でそんな判りきった事を聞くのかと、さも不思議そうに御影を見返す信吾。

策士十兵

信吾
「御影さん、でしたっけ? 何も聞いてないんですか?」
御影
「何を?」
信吾
「尊姉さんも? 十兵お爺ちゃんから何も聞いてないんで すか?」
「お爺ちゃんが?」

嫌な予感が尊の背中を突っ走る。
 ここまで御約束が続けば後の展開は推して知るべし。

信吾
「僕、尊姉さんと『恋人』さんを見に来たんですけど(笑) 十兵お爺ちゃん、僕が見合い相手だって言ってなかったんですか」

にこにこと尊と御影を見上げる信吾。

「!? っ……お爺ちゃん……はめたわね……」

祖父十兵の策に見事にはまり、恨めしそうに天を仰ぐ尊。

信吾
「こちらの御影さんが『恋人』さんでしょ? ちがうの?
にこにこ)」
「そ、そうよ、御影さんはあたしの恋人よ、ねっ(汗)」
御影
「お、おう(汗)」
信吾
「それじゃ、僕は『デート』の邪魔しちゃいけないから、 離れてついていきますね(笑顔)じゃ、ごゆっくり」

とことこと離れて行く信吾。
 後に残されるカップル一組。

「(ふぅ)……御影さん」
御影
「あん?」
「いきましょっ! 折角来たんだから楽しまなきゃ(にこっ)」

子供のように御影の手を引っ張る。

御影
「……(後ろの信吾を伺う)そうだな……行くか(笑)」

絶叫マシーン『スパイラル・フォール』

「これ前から一度乗りたかったの!(笑顔)」

吹利レジャーランドの人気No.1絶叫マシーン。
 形はいわゆる垂直落下式フリーフォールだが、その落差80メートル以上。
 落下時はカタパルトにより最大速度200キロを越え、背面逆落としでひねりが入ると言う極悪な代物である。
 搭乗後。

「意外と大した事無かったわね(笑)」
御影
「ま、こんなもんだろ、なんならもう一回乗るか?」
「んー時間が勿体無いから次のに乗りましょ(にこっ)」
係員
「……(汗)」

蒼い顔で後ろにへたり込んでいる他の乗客達、中には失神してる人までいる。平気な顔をしてるのは御影&尊コンビのみである。
 係員はまるで化物を見るように二人を見送った。
 そのころ、御影たちの後に乗った二人組は……。

火虎左衛門
「ああああああああ、さっき食ったばかりのハンバーガー が……うっぷいつもなら、この程度……おおおおぅ」
「うううううううう、私はこういうものは、てんでダメな んですよ(ふらふら)」
火虎左衛門
「……おおっと、二人が行ってしまう……後をつけねば、 おおうぇっぷ」
「……もう、やめなさいって」
火虎左衛門
「(無理に笑って) あぁ〜ん? 聞〜こ〜え〜んなぁ〜
ダッシュ)」
「ああっ、待ちなさい(よろよろ)」

で、尊達は。

「次はあれ乗りましょ!(笑顔)」
御影
「うげ……(絶句)」

まわれメリーゴーランド

尊が指差したのはシンデレラや白雪姫をモチーフにした想われるメリーゴーランドだった。
 闇の中にカラフルなイルミネーションがきらめき、白馬や馬車がまわる姿は一種幻想的ですらある。

御影
「た、たのむ! これだけは勘弁してくれ! 他の物なら 何でも付き合うが、こ、これだけは、勘弁してくれ(汗)」
「どうして? あたしと乗るの……嫌?(くすくす)」
御影
「いや、そういう訳じゃ(滝汗)」

確かに、ほとんど『ヤクザの若頭』か『特捜部の敏腕刑事』という恐持ての男がメリーゴーランドに乗っているのは、可笑しいを通り越してシュールな光景だろう。
 御影が困り果てるのを眺め、小首を傾げくすりと笑う。

「じゃぁあたし、一人で乗ってきますね(にこっ)」

ヒラリと身を翻し入り口に向かう。

御影
「ああ、そうしてくれ(た、助かった……)」

後をつける2人組みは……。

火虎左衛門
「じゃ、俺も乗ってくるわ」
「私は遠慮します、あんなモノの後にこんなのに乗ったら、 確実に気持ち悪くなりそうですし、何より恥ずかしいです」
火虎左衛門
「残念だな……じゃ、俺の活躍でもしっかり見ておくんだ な」
「活躍? ……!! 、ま、待ちなさい」
火虎左衛門
「(意地悪く)もう遅いぜ」

帽子を目深に被り直して、乗り場に向かう火虎左衛門。
 やがて尊を乗せ、軽やかな曲とともにメリーゴーランドがまわり出す。

信吾
「楽しそう……ですね」
御影
「ああ、子供みたいだな」

何時の間にか信吾が御影の横でメリーゴーランドに乗った尊を眺めていた。
 夢の回転木馬の前に佇む男二人の影をイルミネーションが幾重にも作り出す。

信吾
「……初めて見ました、尊姉さんのあんな楽しそうな笑顔」
御影
(訝しげに信吾を眺める)
信吾
「尊姉さんとは子供のときから一緒でした。でも……僕は いつも守られてばかりだった……僕にはあんな笑顔を見せてくれなかった。三年前、尊姉さんの前から姿を消した時誓ったんです、尊姉さんに守られるんじゃない、尊姉さんを守れる強い男になって帰ってこようと、いつもあんな笑顔でいられるよう僕が守ろうと」

色取り々のライトの中から尊が二人に手を振る。

御影
「(尊に向かって小さく手を上げる)強く……なれたのか?」
信吾
「なった……つもりです。(笑顔で尊に手を振り返す) 本 当は恋人だって言い張った奴をこの手で叩きのめしてでも尊姉さんを連れて行くつもりでした」

悪戯っぽく笑い、隣の御影を見上げる。

御影
「いい心がけだ。気に入った。で、どうする? わしを張 り倒して彼女を連れていくか?」

まるで友達を将棋に誘うように言い放ち、不敵に笑う御影。

信吾
「でもやめました(あっさり) 僕が守る必要無いみたいで すから(肩を竦める)」
御影
「あん?」
信吾
「尊姉さんの人を見る目は確かですからね(笑) これから も尊姉さんを……頼みます」

深々と一礼する信吾。

御影
「ふん……買いかぶりすぎだぜ」

木馬の回転が止まり、夢の刻が終わった。

信吾
「僕は他の乗り物でも見てきます(笑顔) それじゃ」

雑踏に紛れて行く信吾。

あとらくしょん

「ねぇ何を話してたの?」
御影
「ん? 昔の……話しをな」
「えっ!?(ぼふっ)」

御影は『三年前信吾が姿を消した時の話』のつもりだったが、尊は何か勘違いしたらしい。

「ま、まさか……(真っ赤) ちょちょっと御影さん! あ の子一体何を話したんですっ(あたふた)」
御影
「さぁてね、ご想像に任せる(笑) それとも、聞かれると まずい事でもあるんか?(にや)」
「……し、しりませんっ!(ぷいっ)」

頬を膨らませそっぽを向く尊。

御影
「くっくっくっく……(肩を震わせ可笑しそうに笑う)」
「もぉ、一体なにを聞いたんです?(苦笑)」
御影
「ま、追々話すさ。さて次は何にのる……」
火虎左衛門
「はーっはっはっははっは!!」

メリーゴーランドから響いてくる妖しげな笑い声。
 イカレた笑い声を上げながら、次々と別の馬に飛び移る火虎左衛門。
 時折馬車の上に乗ってアクロバティックなダンスまで披露する。

御影
「なんだ……ありゃ?」
「さぁ?(汗)」

しまいには、無責任な野次馬のセリフのせいで、
 遊園地のアトラクション扱いされる火虎左衛門。

「何だか……楽しそう……ですね(汗)」
御影
「ああ、別の意味でだがな(大汗)」

辺りに響き渡る高らかな笑い声。

「……い、行きましょうか?(汗)」
御影
「そうするか、関わらん方がよさそうだ(汗)」
「ああああああああああ、予想通り……(後悔)」

魔城出現

ゴーン。
 大きな時計台の鐘が響いた。
 尊がハッと時計台を見る。
 ゴーン、ゴーンと時計が続けて鐘を打つ。
 鐘は正確に十二回なって止まった。
 一転、引き締まった顔で振り返る。
 振り返った二人の正面には『ファンタジー・キャッスル』と看板が掛けられた大きなお城がそびえていた。
 辺りは人々が行き交っているが、奇妙に正面の城の周囲だけ避けている。
 おまけに誰もそれを不思議に思わないらしい。
 城は、シンと静まり返り、入口の扉を黒々と開けている。
 その時、メリーゴーランドの上では……。

火虎左衛門
「はーっはっはっはっはっはぁ! むっ!! あの城……怪 しいな。これこそ悪の気配!! 行くぜっ!! ファンタジーキャッスルへ!!!!とうっ!(飛び降りてダッシュ)」
「ああっ!! 待ちなさい、炎野君!!」

通行人を避け、柵を飛び越え進む火虎左衛門とその後を追う喬。
 素早い火虎左衛門になかなか追いつくことはできない。
 どんっ!! 
 見知らぬカップル(男の方)に突っ込んでしまった火虎左衛門。

火虎左衛門
「おおう、すまねぇ!!」

倒れてしまった男(だせぇ) にそれだけ言って、そのまま走り去る。

「待ちなさい、炎野君(ぜぃぜぃ)」
「待てや、デブ!!(喬の腕をつかむ)」
「は? ……って、ぅわっ!!」

そのまま引っ張られたうえに足を引っかけられる喬。
 その時、御影達は……。

「あの城……呼んでるみたいですね」
御影
「そうらしいな、ほんとは奴に化物でも見せりゃぁビビっ て逃げ出して見合も破談……と思ったが……ちぃと予定が狂ったか(笑)」
「ええ(笑顔) でも、折角のご招待ですから(にこ)」
御影
「いくか?(笑) しかし何時もの刀、持ってねぇが……い いのかい?」
(にこっ)

御影の問いに笑顔を返し、城へ歩き出す。
 一組のカップルが一組の戦士に変わった。

完結編:ファンタジー・キャッスル!!

魔城の突入口?

二人より前に、魔城の入り口に到着した火虎左衛門。

火虎左衛門
「うーん、わざわざ敵さんの招待通り正面からってのも芸 がなさ過ぎる。他に入り口はないものか……」

城の周りを調べ、通用口がないか調べる火虎左衛門。
 しかしそれは徒労に終わる。

火虎左衛門
「っかしぃなぁ、通用口くらいあるモンだろ? あーあ、ム ダなことしたな(空を仰ぎ見る)……!! そーだよ!! 窓だ!! よーし!!」

城の近くに生えてる一番大きな樹に向かい、攀じ登りはじめる。
 そして城の窓より少し高いところにある枝に腰掛ける。

火虎左衛門
「ひっひっひ、窓をブチ破って颯爽と登場すれば、敵さん ビビりまくるぜ、きっと……(にやにや) ……さて、行くか……とうっ!!」

樹の枝を十分にしならせて、ジャンプする火虎左衛門。
 だが、城との距離は10メートルはある。
 どう考えても届かない。

火虎左衛門
「炎野流操炎術、烈火翔・レベル2っ(ぼそっ)」

しかし、火虎左衛門も『爆ぜ』だけなら父、燃太郎を上回る操炎術師である。下半身に細かな爆炎を纏い、それを推力にして、窓へと一直線。
 がぎぃぃぃぃぃぃん!! 

火虎左衛門
「な、ん……だよ、この窓。いや……」

結界。
 遊園地ほどの人の多いところにありながら、完全な人払いができるところから考えて、その結界の力を想像すると、これくらいのことは解るはずなのだが……。

火虎左衛門
「結界があるなら、あるって最初から言ってくれよ……」

ずるずると壁を滑り、すぐ下にあったバルコニーに叩き付けられる。
 スタントマンの条件反射か、受け身だけはしっかり取ったものの、まもなく意識がなくなっていく……。
 さて、カップルの男に絡まれた喬の方はというと……。

「ブツかっといて何の挨拶もなしかい!!」
「(とりあえず恐怖心は抑制……と)私はぶつかってはい ませんが?」
「やかましい!! さっきのボケはオノレの連れだろうが、 代りに責任取るくらいできんのか!? え?」
「やめなよ、みっともない」
「(女性を見て) なるほど、彼にぶつかられてコケてし まった情けなさを払拭すべく、彼より弱そうな私を痛めつけよう……と、いうわけですか」
「なんだと!! 勝手なことぬかすなぁっ!!」

図星だったようだ。いきなり殴り掛かってきたのがその証拠。
 マトモに食らう喬。

「いきなり何をするんですか」

喬の言葉にも耳を貸さず、殴り続ける男。

(ふぅ、こういう手合いは相手が無抵抗と知ると、調子に 乗ってしまうんですよね、勢いがいいのは反撃されるときまでのクセに)
「もう、いい加減やめなさいよ、警備員呼ぶからね」
「いや、それには及びません。私が殴られ続ければいいだ けですから」
「アンタ、バカぁ? そんなに殴られたいなら勝手にしな さいよ」

いい気になって、喬を痛めつける男は気づかないのか。
 これだけ殴られながら喬は一歩たりとも後ろに下がってないことを。

「ガキが……(ぼそっ)」
「なにおぅ、てめぇ弱いくせに」
「力がないのと、使わないのとは全然違いますよ(度し難 い馬鹿ですね、この人)」

不意にぬっ、と手を伸ばして男の首をつかむ。

「あなたのくれた痛みを熨斗つけて返して差し上げます
痛覚共感サイキックナイフを75%、と)」

喬のつかんだ手のひらから伸びたサイキックナイフが男の喉を刺し、喬の痛覚の75%が送り込まれ……。

(さらに 100%っと……)
「……っ!! !!」

今まで殴り続けてきた打撃をそっくりそのまま返された男。
 そのまま倒れる。
 無理もない。
 痛みに慣れる前に大きな苦痛を一気に味わったのだから。

「行動には常にリスクがつきまといます。あなたが喧嘩を 売った相手がいつもあなたより弱いと限らないのは言うまでもなく、その相手が非常に残酷な人間だったり、倫理観念の欠落した人だったりする可能性だってあるのです。
軽率な行動で身を危険にさらしたいのならば、私は無理に慎重になれ、とは言いませんが……おや? 気絶していましたか(おまけに根性無しときたモンだ。最低だな)」

それじゃあ、仕方がない、とばかりに女の方に向き直る喬。
 先ほどまでの呆れた表情は無くなり、恐れの色さえみえる。

「そう怯えられても困りますが(汗) とりあえず、彼が起 きたらさっき言ったようなことを伝えておいてくださいますか?」

無言でうなづく女。

「(無理ないか、首をつかんだだけで気絶させるなんてま るで、化け物だからなぁ)……じゃ、急いでますので」
(しっかし、遠慮なく殴ってくれましたなぁ。まだ痛みが 取れないや)

言うだけ言ってすたすたと去っていく喬。
 見失った火虎左衛門を探す為、エンパシーを使って彼の精神波(感情パターン)を捜索する……。
 捜索……。
 捜索……。
 捜索……。
 該当する感情パターン存在せず。

(おかしい……炎野君の精神波が感じられない? 帰った かな? うーん)

実はファンタジーキャッスルのバルコニーで気絶しているのだが。

「仕方ない、帰りますか。これ以上の長いは明日の出勤に 響きますし」

こうして薄情な監視役は遊園地を後にした。

魔城入口

しん、と静まり返り、黒々と口を開けるファンタジー・キャッスル。
 その前に佇む二人。

「真っ暗ね……御影さん明りになるもの……ライターか何 か持ってませんか?」
御影
「悪いな、わし煙草吸わねぇんだわ」
「へぇ……(ちょっと意外そうに眺める)」
御影
「意外……か?」
「あ、いえっ別に。でもこう暗くっちゃ先に進むにも」
御影
「いや、明りの心配はいらねぇみたいだ(指差す)」

御影の指差す先にはゆらゆらと揺らめく鬼火が一つ。
 一つ、二つ、三つと瞬く間に無数の鬼火が灯り、通路にそって足元を照らし出す。

御影
「凝った演出じゃねぇか(笑)」

と、空中に浮かぶ鬼火が一、二度揺らめき通路を進み出した。

「ついて来いって、言ってるみたい」
御影
「らしいな。ったく……誰だか知らんが無粋な奴だ。だい たい案内役といやぁ可愛いバニーのお姉ちゃんと相場が決まっとるだろうが」

ずだんっ! 。
 御影の靴の上に力いっぱい踏み降ろされるスニーカー。
 が、いかんせん痛覚に耐性のある御影の事「何かに踏まれた」位にしか感じない。

御影
「ん? 今何か足を踏んだな……なぁ今何か……」
「知りませんっ(ぷいっ)」

スタスタ先に歩いていく尊。

御影
「あ、おいっ……どうしたってんだ急に? ……女心って もんはよく分からん」

ぼやきつつも後を追う御影。

闇の舞台

鬼火の案内も消えた。
 一寸先も見えない真の暗黒が二人を包む。
 周囲の気配から自分達が広い所にいる、としか判らない。
 辺りの音も聞こえず。聞こえるのは互いの呼吸音のみ。

御影
「いる……のか?」
「ええ……何か……いる」

死角を庇うように自然と背中合わせになり、辺りを伺う。
 突如、一筋のスポットが二人を照らし出した。

「っ!?」

二人の眼が眩しさに馴れる前に。
 鈴が、鳴った。
 シャン! 。
 シャン! 。
 シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン……。
 シャン! 。

満員御礼

やっと光に馴れた二人が目の当たりにしたのは空中に浮かび上がる一人の道化師だった。

道化師
「ようこそ! 私の舞台へ!」

浮かんだまま慇懃、大袈裟に一礼して見せる道化師。
 極彩色の鈴付き衣装にとんがり帽子、曲がった靴、真っ白な顔に真っ赤な唇。星型に隈取られた目。
 だが、本来「眼」のあるべき場所に眼は無く、只、黒い虚空があるのみだった。

道化師
「今宵は素晴らしいゲストをお迎え出来て光栄に存知ます、 美しい女優の登場にお客様方もさぞお喜びでしょう!」

道化師の声と共に周囲の照明が一斉についた。
 うぉぉぉぉぉぉぉん! 。
 と同時に、唸りにも似た喚声が響き渡る。

御影
「んだぁ?(汗)」

二人が立っていたのは広いホールの舞台の上。
 そして客席を埋め尽くしたのは……。

「死霊……」

夥しい数の死霊達だった。
 己が内蔵をスナック代わりに貪り食いながら舞台を眺める餓鬼。
 虚ろな眼窩でカタカタ嗤いながら舞台を眺める髑髏。
 タキシードとドレスで正装、アクセサリーにナイフを背中に突き刺した首無しのカップル……etc。
 気の弱い者が見れば失神、いや、失神できたものは幸福だろう。

御影
「気に入らねぇな」

合わせたままの背中越に、御影がさも不機嫌そうに呟く。

「は?」
御影
「なんで『女優』だけなんだ? 。ここに『俳優』も居る だろうが」
(くすっ)

冗談なのか本気なのか、あくまで余裕の御影につられて小さく笑みがこぼれる。

道化師
「では、今宵のお相手を勤めます者をご紹介しましょう、 出ませいっ!」

声と共にザッっと二人の周りを取り囲む者達。
 二人は瞬時に身構えた。
 が。

世にも奇妙な相手役

(呆)
御影
「……なめとんかこら(怒)」

取り囲んだのは人間大のウサギ、イヌ、ネコを始めとするキグルミ達。
 その数、十数体。
 表情の無いまま、頼りなく揺れながら徐々に包囲の輪を狭めていく。

御影
「わし、真面目に相手すんのすげー馬鹿々しいんだが…… 今更『降りた』っての無しだよな?(苦笑)」
「多分ね、あたしも帰りたいわ(苦笑)」

苦笑する二人を無視し、道化師は陶酔しきった口調で叫ぶ。

道化師
「さぁ、お客様も御待ちかねです! 舞って頂くは死のフ ラメンコ! MUsic Startッ!」

フラメンコのリズムを持って耳に届く『悲鳴』。
 それに合わせ床を踏み鳴らすキグルミ達。
 舞台正面、客席中央にしつらえられたバンド席で『悲鳴』を『奏でる』のは骸骨のバンドメン。
 使うギターは両手両足を縛られ、指先から足先まで弦を渡された人間。
 骨の指が弦を弾くごとに、高低大小様々な悲鳴が『ギター』の口から奏でられる。

御影
「莫迦言っとらんと、ちとシリアスせにゃならんか……来 るぞっ!」

律義に主旋律が始まるのを待って、取り囲んでいたキグルミ達が襲い掛かる。
 その内、一体のネコが尊の首を掻き切ろうと手を伸ばす。
 その動きは、間抜けな外見に似合わず意外と早い。予想以上の速さに、ギリギリ見切ってかわした筈が極浅く首をかすめた。

「痛っ! ……こいつら早いっ!」
御影
「気ぃつけろよ、見かけは間抜けだが力とスピードは中々 だ」

猛虎咆哮

振り返れば御影も何体かのキグルミ相手に立ち回っている。
 だが、岩をも砕く御影の拳も、ふわふわのキグルミ相手では威力も半減してしまい、大したダメージを与えられない。
 しかも中身が空となればなおさらだ。

御影
「殴りがいのねぇ奴等だっ!(怒)」

苛立ちながらも後ろから覆い被さるクマに背面回し蹴りを叩き込む。ヒットした蹴りでクマの鼻面がボコリとへこむ。
 が、それだけだった。

御影
「邪魔だっ!」

雄叫びと共にクマの頭を両手で鷲掴みにすると渾身の力で引き裂く。

御影
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっらぁ!! バーサーカークロォォォ ォォォォッ!」

ミリッミリッとクマの頭が軋み、ある一点を境にビッっと真っ二つに裂ける。

御影
「ハぁっはっはっはァっ! DIE!!」

真っ二つに引き裂かれ、詰め物をまきちらして文字どおりボロ屑と化したクマを、御影は無造作に床に落とし、踵で踏み砕く。

御影
「(ユラリと振り返る)……次はどいつだ? ああ?(凄笑)」

神楽舞踊

尊はネコの鉤爪をかわし、ふわりとトンボを切って間合いを取ると、濡羽色の髪を彩っていた紅いリボンを抜き取る。
 巻かれていたリボンが抜かれると、緩く編んでいた三つ編みがほどけ、長い髪が舞う。

「くすっ……いらっしゃいよ」

構えも取らず、棒立ちで微笑む尊の声に応じ、イヌとゾウが左右から飛び掛かる。
 しかし、尊に触れようとしたゾウの惨状に、イヌの動きが止まった。
 何時の間にか尊の足元に倒れ伏したゾウのキグルミは、全身をズタズタに切り裂かれ、白い綿を見せている。

「どうしたの? ……来ないならこっちから行くわよ」

ビュッ。
 尊の手に握られたリボンが紅い閃光と化した。
 無表情なイヌのキグルミが縦に裂け、ゆっくり崩れ落ちていく。

「一匹二匹は面倒よ、まとめてかかってらっしゃい!」

闇の舞台の幕が開いた。
 至上の武道家は同時に至上の舞踏家でもある。
 そんな言葉を体現するように、この世為らざる音楽に合わせ自然と身体がリズムを刻み、ステップを踏む。
 何処か演舞にも似た御影の『剛』、『直』、『砕』。
 一瞬も止まらず舞う尊の『柔』、『曲』、『切』。
 触れる者全てを粉砕し、切り裂く。
 一曲終わる頃、二人の周りに動く物は無かった。

役者は揃った

「そろそろ御大自ら御相手してくれても良くない?(浮か ぶ道化師を見上げる)」
道化師
「いえいえ、まだお客様のお相手が残っておりますが?」

嘲笑うように空中から見下ろす。

御影
「『踊子さんには手を触れない』ってのがルールじゃねぇ のか?(笑)」
「踊子……さん?(ジト眼で御影を睨む)」
御影
「……と、とにかくだ(汗) そんな気色の悪い連中にファ ンサービスする気はねぇよ。それにな、役者はもう一人いる」

御影の声と共に二階客席にヒョコッと顔が覗いた。

信吾
「あれー見つかっちゃいましたかー(笑顔)」
「信吾君?」

客席の手すりにもたれ、とぼけた笑顔で頭を掻いている。

御影
「誰がそんなところでタダ見しろと言った? 降りて来て 手ぇ貸しやがれ(苦笑)」
信吾
「だって御影さん達、絶妙のコンビネーションなんだもの、 つい見とれちゃった(笑)」

思わず顔を見合わせる二人。

「……(赤面)」
御影
「……さっさと降りて来いっ!」
信吾
「はーい」

と言ってヒョイと手すりを飛び越える。
 猫のように身軽に一階観客席に降り立つと、ぐるりと周りを見回す。

信吾
「ふぅん……大盛況だねピエロさん」

相変わらず笑みを絶やさず、道化師を見上げる。

道化師
「こちらの方がお相手頂ける……と?」

嘲るように信吾を見下ろす道化師。

御影
「ああ、損はさせねぇと思うがな」
「御影さんっ」

何か言おうとする尊を片手で押し止め、続ける。

御影
「な、信吾よ?(ニヤリ)」

意味ありげな笑みを信吾に向ける御影。

信吾
「拙い芸ですけどね(にこにこ)」

滅びの旋律

信吾がポケットから取り出したのは数本のU字に曲がった金属。
 コォォォォォン! 
 手近な椅子に打ち付けると美しい音色が微妙な韻律を伴って流れる。
 一本、二本、三本と手の中に増えていき、両手の音叉が共鳴する。

「音叉……?」
道化師
「で……それで終いか?」
信吾
「いえいえ、これでは芸になりませんので」

両手に持った音叉を手近な「観客」に向ける。
 巧みに操られた音が一筋に収束した時、「観客」が声を上げる間もなく文字通り塵となって崩れ去った。

信吾
「そろそろ終幕です。闇は闇へ、塵は塵へと還って頂きま しょう」

死霊の間にパニックが起った、お互いに食い合い、踏み付け合い逃げ惑う。
 その死霊達を見えない音の牙が追う。
 信吾の手の一振毎に数十の死霊が塵と化す。
 見る間に全ての死霊が闇へ還った。

信吾
「とまぁ引き立て役はこの辺で(にこにこ)」

道化師に負けず劣らず大袈裟に一礼して見せる信吾。
 再び静まり返るホール。

同時刻、バルコニー

火虎左衛門
「……ん?」

やっとこさ、気絶状態から目を覚ました火虎左衛門。
 ォォォォォォォォォォン!! 

火虎左衛門
「んを? 何の音だ? ……って、おぅあっ!!」

信吾の音叉の波動が死霊を突き抜けてしまったのだろう。
 バルコニーの窓を突き破って寝ぼけ眼の火虎左衛門の頬をかすめた。

火虎左衛門
「んだぁ!? 俺を差し置いて戦いは始まってるようだなぁ」

音叉の波動を警戒し、おそるおそる窓を覗き込む火虎左衛門。

フィナーレ(終幕)

御影
「さて客も帰った事だし、そろそろフィナーレと行くか?」
道化師
「そのようですね(怒)……今宵は終幕と致しましょう、 では私も……っ!?」

浮かんだまま闇に溶け込もうとする道化師。
 身体は闇に融けても首から上がどうしても消えない。
 何時の間にか道化師の首に巻かれている紅いリボン。

「あら? そのリボン気に入らなかったかしら、似合うと思 うんだけど」

くすくす笑いながら首だけの道化師を見上げる。

御影
「おっとっと、ショーマスターが逃げちゃぁいけねぇなぁ
凄笑)」
信吾
「最後までキチンと付き合ってくれなきゃ(にこにこ)」
道化師
「おのれ……おのれ……おのれぇぇぇぇぇ!」

真っ赤な口をカッと耳まで開き、一番与し易しと踏んだ尊の首筋を狙う。
 喉笛を噛み切る寸前、御影が道化師の顔面をつかんだ。

御影
「華麗なフィナーレってのを教えてやろう。それはな……」

野球のボールよろしく大きく振りかぶり、道化師の首を信吾に投げつける。
 キィィィィン。ひときわ高い音が響き、道化師の怨嗟の叫びと混ざり合う。

道化師
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

空中で塵と化し崩れ去る道化師。
 ヒラヒラと落ちるリボン。

御影
「こうやって勧善懲悪した後に『The END』って出 るのが御約束なんだよ」

足元のリボンを拾い上げる御影。

これも一つの御約束

御影
「終わったか。ま、中々面白い趣向だったがな」

足元のリボンを尊に手渡す。ミシ。

「悪趣味ねぇ(苦笑) あたしは当分夢に見そうだわ」

手渡されたリボンで髪を縛り直す尊。ミシミシ。

「なんか……変な音……しない?(汗)」

ミシミシミシッ。

御影
「……信吾(汗)」

ミシミシミシミシミシッったらミシミシミシミシっ! 。

信吾
「はい?(汗)」
御影
「お前……さっき……こっちにも『音』向けたろ(汗)」
信吾
「……てへっ(笑)」

どがんっ。
 突如抜ける足元の床。

御影
「『てへっ』じゃねーっ!」
「きゃーっ!」

がしっ、と辛うじて右手で縁につかまる御影。
 舞台の下、「奈落」までは相当あるらしく下の様子はまったく見えない。

御影
「危ねぇ危ねぇ……(ふにゅん)……ふにゅん?」

やな予感とやーらかい感触に恐る恐る自分の左腕を見る。
 咄嗟に落ちる尊を助けようと手を伸ばした、伸ばしたのはいいのだが。御影の左腕に後ろから抱えられ、赤面しつつ「ぢーっ」とジト眼で見上げる尊。当然腕の当たっている所は……。

信吾
「(上から覗き込んで) えーっと、引き上げない方がいい ……のかな?(笑)」
御影
「ばかやろーっ! そうじゃねぇだろ! 早く引き上げ ろっ!(焦)」

合掌。

バルコニーの道化

火虎左衛門が、そっと窓から覗くと。
 キィィィィィン!! と、ひときわ高い音とともに、道化師が掻き消えていくのが見えた。そして何やら飛礫のようなものが飛んでくる……。
 余裕を持って躱す火虎左衛門。その飛礫は、大きな広場に向かって飛んでいく……

火虎左衛門
「なんだ、ありゃあ? しっかし……俺の出番はナシか い(泣) って、おぉいっ!!」

床が崩れる!! 三人の立っている床が。

火虎左衛門
「くそっ!! 烈火翔、レベル3っ!!」

火虎左衛門の下半身をジェットのような爆炎が覆う。火虎左衛門独自の操炎術による飛行。割れた窓の隙間を通って、奈落に吸い込まれようとする三人を救う為に突進!! って……。
 信吾は奈落の縁で立っている。御影は奈落に落ちかけたものの奈落の縁をがっしりつかんでいる。尊はその御影の腕に支えられている……誰を助ける? 火虎左衛門よ。

火虎左衛門
「うう、俺の出る幕ってホントにねぇのな(涙) しっかし、 あの兄ちゃんのウデ……尊さんのムネに触れてねぇか?(汗)」
ま、お約束通りいえばそのとおりの展開だけどな。それよりも広場に飛んでいったモノが気になるし……行ってみるか)」

身を翻し夜の闇に身を躍らせる火虎左衛門。
 そして広場に着地する。

深夜の広場

広場は噂のおかげで見事に静まり返っている。
 その中からあの飛礫を探すのは一苦労かと思った火虎左衛門だが……。

火虎左衛門
「うぉ、すンげェ寒気だな。いや悪寒か? こりゃ思ったよ り探しやすそうだな(笑)」

そう言いながら手を忙しく動かして次々と印を結ぶ。
 彼が炎野流操炎術で最も苦手とする『清め』の技の行使はマニュアル通りの手順を踏まなければまともに発動しないのだ。

火虎左衛門
「(ぜーはー、ぜーはー)……焦怨の焔、怪しいものがあっ たら教えてくれ」

運良くまともに発動した白焔〜焦怨の焔〜を放つ。
 白焔はふよふよと宙を漂い、静止する。

火虎左衛門
「ここか? ……って、なんだ? 舌か?」

うねうねと蠕動する、ピンク色のナメクジのような舌。

火虎左衛門
「……なんかの本で読んだことがあるぞ……舌から生まれ たアヤカシの本体は舌。舌がある限り災厄を撒き散らす……だったかな? ってーことは、コレって、あのピエロの舌か。あの3人詰めが甘かったみたいだな(苦笑)」

ディバッグから、コルク栓の瓶と操炎術によって『清め』た焼き塩と蝋燭をとりだして、道化師のタン塩を瓶にしまう。

火虎左衛門
「さて……零課にでも持っていけばいくらかで売れるだろ うな。バケモンのサンプルだからな」

瓶に『焦怨の焔』で溶かしたロウを流して完全に栓をしたのをディバッグにしまいこむ。
 零課に話をつけるには、あのクソ親父の顔を使わないと行けないことを腹立たしく思いながら……。
 火虎左衛門は下宿へと帰っていった。

エピローグ:春の嵐は起きにけり

翌日。
 穏やかな日曜日のベーカリー楠。
 店の前で箒を片手に空を見上げる観楠。

観楠
「いー天気だなぁ……っと(伸びをする)」
新聞配達
「朝刊でーす」
観楠
「はい、ご苦労様。どれどれ……(汗)」
新聞記事
「昨夜0時頃、近鉄吹利レジャーランド内、イベントホー ル『ファンタジー・キャッスル』に何者かが侵入。舞台、残されていた小道具類等を破壊した模様。尚、『ファンタジー・キャッスル』は昨年十数名の死傷者を出した火災以来使用されておらず、取り壊しも決まっていたため営業に支障は無いとレジャーランド側はコメントしている」
観楠
「……吹利レジャーランドって……尊さん達がゆうべ行っ た所、だよな」
「おっはよーございまーす(にこ)」
観楠
「おはようございます。尊さん、ゆうべ吹利レジャーラン ドへ行ったんですよね?」
「(ぎく) えーっと(汗) あそーだぱんかってかなきゃ
棒読み)」

カラン、コロン。
 と何時ものように扉を開けたのだが、この時尊は気付いていなかった。
 ベーカリー楠がファンタジー・キャッスル以上の魔城と化している事に。

竜胆
「おはよう尊ちゃん(にこにこ)」

にこにこと「小悪魔の笑み」を浮かべ、待ち構える竜胆。

「……りん……姉さん?(滝汗)」
竜胆
「ゆうべ……楽しかった?(にこ)」
「ええ……まぁ……(激汗)」

迫る竜胆、あとずさる尊。

竜胆
「さ、おねーさんに『全部』お話してちょうだい(笑)」
「あははは(汗)」

あとずさった背中がドアに当たった、そのまま後ろ手に開けて逃げようとするが、そうは問屋が降ろさない。
 後ろ手に開けようとしたドアが勝手に開き、入ってきた人とぶつかった。

花澄
「きゃっ……ああ驚いた」
竜胆
「つっかまえたミ☆」

竜胆に首根っこを捕まえられる尊。

竜胆
「ぜーんぶ白状すれば御上にも御慈悲はあるぞ(笑) って ねぇ、この首筋の痣……何?」

首筋に残る小さな痣。

(あっ……ネコのキグルミに引っかかれた時!)
竜胆
「ははーん……なるほど(にこ)」
「? ……あ゛あ゛あ゛ーっ! りん姉さん何かすっごい 勘違いしてるっ!(滝汗)」
竜胆
「何が勘違いなのかなー、おねーさん知りたいなー(にこ)」
花澄
「なんだか楽しそうですねぇ……混ぜて貰えます?(にこ)」

この時、竜胆、花澄の笑みが「大悪魔メフィスト」の笑みに思えたと尊は述懐している。
 それはさて置き店の外。

信吾
「ふぅん……」

ちょっと離れた所から店内を伺っている信吾。

御影
「信吾じゃねぇか」
信吾
「御影さん……」
御影
「どうした? 入らんのか?(ベーカリーを指差す)」
信吾
「いえ、止めておきます。僕、また出掛けますから(にこ にこ)」
御影
「出掛ける? ……そうか……次に会った時は一手、手合 わせ願おう」
信吾
「ええ、必ず。それと尊姉さんに伝言、お願いできますか?  心配しないでくれ……って」
御影
「判った。必ず伝える」
信吾
「それじゃ、僕はこれで(一礼)」

深々と一礼し、駅の方へ去っていく信吾。
 御影も背を向け歩き出す。
 が……御影は知らない。
 ベーカリーに待ち構える過酷な運命を(笑)。

御影
「信吾の野郎ぉぉぉぉっ! 知ってて教えなかったなぁっ!」



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