エピソード476『雨』


目次


エピソード476『雨』

帰り道

観楠
「かなみちゃん……」
かなみ
「……」
観楠
「あのね、かなみちゃん。悲しいときは思いっきり泣いて いいんだよ」
かなみ
「……かなみ、泣かないもん」
観楠
「……」
かなみ
「かなみ、泣かないもん!」
観楠
「かなみちゃん……」
かなみ
「ミかとやくそくしたもん! ちゃんと良くなってかえっ てくるって、ミか言ってたもんっ」
観楠
「そっか……そうだね」
かなみ
「ミか、かなみとのやくそくやぶったりしないもんっ!  だから、だから……かなみ泣かないっ!」

数日前・昼

観楠
「ただいまぁ……あれ、誰もいないのかな? ミか、いる かい?」

返事は無い

観楠
「誰もいないのか……ま、一人でご飯食べるのもたまには いいや」

とりあえず腰掛ける。
 ……ぶしっ。

ミか
「痛っ」
観楠
「み、ミかっ!? 
ミか
「お、重いぃ〜〜」
観楠
「あぁあぁ、ごごごめんごめん(汗)」
ミか
「はぁ、びっくりした。あ、パパおかえり」
観楠
「ただいま……は置いといて、びっくりしたのはこっちも だ。なんで椅子の上なんかにいたんだ?」
ミか
「んーとねぇ……お昼の準備しようと思ったら急に眠くなっ て……それから覚えてないの」
観楠
「ふぅん……そう言えば最近よく寝てるけど、体の調子が 悪い、とかないか?」
ミか
「ううん。ただちょっと眠いだけ」
観楠
「そうか。なら、いいんだけど……」
かなみ
「ただいまっ!」
ミか
「あ、かなみちゃん帰ってきたよ。おかえりぃ」
観楠
「……」

次の日・ベーカリーにて

大輔
「ミかの様子が変?」
観楠
「えぇ……最近からなんですけど。こぅ……元気が無いと いうか、疲れてるようで」
大輔
「……」
観楠
「まさか医者にかかるわけにもいかないんで、大輔さん ならなにかわかるかと思って」
大輔
「そうですか……(考)」
観楠
「……」
大輔
「……(悩)」
観楠
「……あの?(汗)」
大輔
「……以前」
観楠
「はい」
大輔
「以前、私がミか出したあとにパパさんに言った事、覚え てます?」
観楠
「大輔さんがって……まさか!?」
大輔
「この際だからはっきり言いますね。多分ミかに寿命が来 てるんです」
観楠
「寿命って、そんないきなり……(絶句)」
大輔
「いきなり、じゃないですよ。今までから比べるとすごく 長生きなんですよ」
観楠
「……」
大輔
「これからもっと動かない……正確には動けない時間が増 えてくるはずです」
観楠
「……な、なんとかならないんですかっ!?」
大輔
「……こればっかりは……」
観楠
「大輔さんっ!!」
大輔
「……申し訳、無い……です(苦)」
観楠
「……」
大輔
「あの、すいませんがしばらくの間、ミかをうちの方に連 れて来てくれませんか?」
観楠
「ミかを?」
大輔
「なんにもならないかも知れませんけど……できる限りの 事をしてやりたいんです」
観楠
「……」
大輔
「観楠さん」
観楠
「わかりました……お願いします」
大輔
「あの、かなみちゃんにはどうしましょう? 私が言って みます?」
観楠
「いえ、あの子には私から言っておきますんで……」

次の日・夜

かなみ
「父様、ミかは?」
観楠
「ん?」
かなみ
「ミかがいないの。父様、ミかどこ行ったか知らない?」
観楠
「ミかはね、大輔さんの所だよ」
かなみ
「だいすけにいさまのとこ? どうして?」
観楠
「それは……その……」
かなみ
「かなみ、だいすけにいさまのとこに行ってくる!」
観楠
「あ……ま、待ちなさい!」
かなみ
「……とうさま?」
観楠
「かなみちゃん、今から言うことをよく聞いてね」
かなみ
「なぁに?」
観楠
「ミかね、今病気なんだ」
かなみ
「……きのうはげんきだったのに?」
観楠
「うん……病気っていうか、最近ちょっと体の調子が悪い んだって。だから、大輔さんに診てもらってるんだよ」
かなみ
「……」
観楠
「良くなればすぐ帰って来るって言ってたから、お家で待っ てようよ、ね?」
かなみ
「……ん……(心配)」

TELTELTELTELTELTEL……

観楠
「あ、と。はい湊川で……あ、ミか?」
かなみ
「ミかっ!?」
観楠
「体の方は大丈夫……そか、よかった(笑) かなみちゃん ……うん、いまここに居るよ。かなみちゃん、ミかだよ」
かなみ
「もしもし、ミか?」
ミか
『あ、かなみちゃん、ミかだよ』
かなみ
「ミか、びょうきだいじょうぶ?」
ミか
『うん。心配かけてごめんね。あのね、かなみちゃん』
かなみ
「なに?」
ミか
『ミかはしばらく大輔パパのとこにいて、かなみちゃんと 一緒にいられないけど』
かなみ
「うん」
ミか
『宿題するの忘れちゃだめだよ』
かなみ
「うん」
ミか
『あと、パパはお仕事大変だから家のことはかなみちゃん がお手伝いしてあげてね』
かなみ
「ミかといつもやってたもん」
ミか
『うん、そーだね(笑) あ、大輔パパが変わってって』
大輔
『もしもしかなみちゃん?』
かなみ
「だいすけにいさま、ミかはだいじょうぶなの?」
大輔
『ん……しばらくゆっくりすれば大丈夫だと思うよ』
かなみ
「あのね、あしたミかのおみまい行っていい?」
大輔
『あ、うん。いつでもおいで(笑)』
かなみ
「じゃぁ、あした学校がおわったらいくね!」
大輔
『待ってるよ(笑) あ、お父さんに変わってもらえるかな?』
かなみ
「うん。父様、だいすけにいさまがかわってって」
観楠
「あ、はいはい。もしもし……あ、ども……」
かなみ
「父様、さきにおふろはいるね」
観楠
「ん? うん……あ、いえ。かなみちゃんが……えぇ…… えぇ、そうですか……わかりました……」

湊川家の人員が一人減った生活が数日続いたある日のこと。

かなみ
「ただいまぁ」

TELTELTELTEL……

かなみ
「あ! はい、みなとがわです」
観楠
『かなみちゃん、帰ってた?』
かなみ
「父様」
観楠
『かなみちゃん、良く聞いてね。さっき大輔さんから連絡 あって……』
かなみ
「だいすけにいさまから?」
観楠
『今すぐうちに来て欲しいって。で、いまからかなみちゃ ん迎えにいくから、出かける用意しといてね』
かなみ
「うん」

大輔宅にて

かなみ
「ミか、ミかっ!」
観楠
「かなみちゃん、落ち着いてっ」
ミか
「……」
かなみ
「ミか!! おきてっ、かなみがきたのっ!!」
ミか
「か……なみ、ちゃん?」
かなみ
「ミか!!」
ミか
「あ、ほんとにかなみちゃんだぁ……パパは?」
観楠
「ここにいるよ」
ミか
「ん……」
かなみ
「ミか、びょうきなおらないの?」
ミか
「そんなことないよ……ちょっと時間がかかりそうだけど、 ちゃんと治るから……ねぇ、かなみちゃん」
かなみ
「なに?」
ミか
「パパのお手伝い、ちゃんとしてる?」
かなみ
「うん、やってる! ミかがいなくてもちゃんとお手伝い してるし、あさねぼうもしないもん」
ミか
「宿題忘れちゃだめだよ(笑)」
かなみ
「うん(笑)」
ミか
「パパ」
観楠
「……なんだい?」
ミか
「あのね……ミかはパパのこと大好きだよ」
観楠
「……ありがとう(笑泣)」
ミか
「パパ……泣いてるの?」
観楠
「え? いや……(苦笑)」
ミか
「かなみちゃんはまだ子供だから、いろいろ面倒かかると 思うけど……頑張ってね(笑)」
観楠
「はは……そーだね」
かなみ
「かなみ、子供じゃないもんっ!(ぶーっ)」
ミか
「ねぇ、かなみちゃん」
かなみ
「?」
ミか
「あのね、ミかはしばらく動けなくなるの。でもね、どん なに時間がかかっても、また動けるようになって帰ってくるから……待っててね」
かなみ
「うん、待ってる。ミかはかなみのいもうとだもん。ちゃ んと良くならないとだめよ」
ミか
「……ミか、きっとよくなるから……絶対かなみちゃんと パパの所に帰って来るから……」
観楠
「もういい、もういいよ、ミか」
ミか
「だから、それまで待ってて……」
かなみ
「ミか!?」
ミか
「すぐだから……パパ、かなみ……お姉ちゃん(にこっ)」
観楠
「ミかっ!」
ミか
「……」

ミかの体が「普通の人形」になったのはそれから間もなくだった。

湊川家・夜

観楠
「かなみちゃん……全然泣かなかった、な」
かなみ
「父様」
観楠
「ん」
かなみ
「かなみ、もうねるね」
観楠
「あぁ……お休み。あの、かなみちゃん」
かなみ
「なぁに?」
観楠
「あ、その……げ、元気だそうね」
かなみ
「かなみ、げんきだよっ」
観楠
「そう、そうだね(笑)」
かなみ
「だって、ミかとやくそくしたんだもん。ミかと……ミか、 ちゃんと治るって……(ぐすっ)」
観楠
「……」
かなみ
「よく、なって、かなみと、もういっかいおしゃべりした り(ひっく)、あそんだりする、のっ、ちゃんとやくそくしたんだもん、だから、ないたりしないもん!」
観楠
「かなみちゃん……」
かなみ
「父様ぁ、う、うぁ、ぁぁぁっ(泣)」

観楠、かなみを抱きしめる

観楠
「かなみちゃん……今は泣いていいから、思いっきり泣い ていいから……(涙)」

曇、ところにより……

近くの公園でのこと

直紀
「ん? かなみちゃん?」
かなみ
「あ、直紀ねえさま」

泥の着いた手で目の辺りを擦ろうとする。目は……少し赤い。

直紀
「あぁ(焦) こすっちゃだめ」

水のみ場で手を洗いながら

かなみ
「直紀ねえさま」
直紀
「ん〜、なに?」
かなみ
「かなみ泣いてないからねっ、ごみが目にはいちゃったか ら。だからっ……!!」
直紀
「……そっか、痛くない?(にこ)」
かなみ
「……うん、へいき」
直紀
「……ねぇ、かなみちゃん! ブランコ乗らない?」
かなみ
「? うん……」
かなみ
「きゃあっ! 直紀ねえさま、たかいよぉ」
直紀
「しっかり捕まってないと、おっこちちゃうぞぉ(笑) そー れっ!」
かなみ
「きゃあっ!」
かなみ
「おもしろかったねっ、直紀ねえさまっ!」
直紀
「……かなみちゃん」
かなみ
「なーに? 直紀ねえさま(にこっ)」

きゅっっとブランコごと抱きしめる

かなみ
「ねえさま??」
直紀
「……こーしてると、人の気持ちが流れてくる気がしない? たとえ相手の事をよく知らなくても……判らなくても」
かなみ
「……」
直紀
「(髪を撫でる) 話したくなければ、話さなくていいから すこし……そばに居させてくれる?」
かなみ
「直紀ねえさま……ありがとう」

(湊川家にて)

かなみ
「父様、あのね」
観楠
「んー?」
かなみ
「あのね、かなみが学校に行ってて、父様がお店に行って るあいだ、ミかひとりぼっちでさびしいとおもうの」
観楠
「……そう、かもね」
かなみ
「それでね、ミか、おみせにつれていってあげて」
観楠
「お店に?」
かなみ
「うん。かなみは学校におともだちいっぱいいるからさみ しくないの。ミかもおみせにいったら父様といっしょにいられるからさみしくないとおもうの」
観楠
「……そっか(笑)」
かなみ
「うん(にこっ)」

(ベーカリーにて)
 からん、ころん

「こんにちはぁ」
観楠
「ぁ、いらっしゃい。お昼休み?」
「そんなとこです……あら、ミかちゃんですね」
観楠
「えぇ」
「レジのとこで時計抱いて……かわいいっ(はぁと)」
観楠
「はぁ……」
「ミかちゃん、こんにちは(にこっ)」
ミか
「……」
「?  おーい、もしもーし」
観楠
「あの、尊さん……」

観楠、尊に事情を説明する

「そうだったんですか……」
観楠
「……あの子なりにいろいろ気をつかってくれてるのはわ かるんです。でも、それにどう答えたらいいのかわからなくて……」
「はぁ」
観楠
「なにか元気付けるような言葉のひとつもかけてあげられ ないんですよ、未だに」
「……」
観楠
「……」
「観楠さんて……そんな人だったんですか」
観楠
「?」
「ちょっと、幻滅です」
観楠
「ぁ……」
「今回の事で、一番悲しい思いしてるのはのはかなみちゃ んでしょ? そのかなみちゃんの一番の支えになれるのは観楠さん、あなたじゃないんですか?」
観楠
「……」
「そのあなたが、いつまでも悩んでたらかなみちゃんの心 はずっと癒されないまま」
観楠
「でも……じゃぁ、どうしろってっ!?」
「そんなの決まってるじゃないですか。観楠さんは、いつ ものままで、かなみちゃんに接してあげればいいんです」
観楠
「……」
「私達がどんなに慰めたって、観楠さんの一言にはかなわ ない……そうでしょ?」
観楠
「……尊さん……」
「なにも特別なことをしなくても、普通に側にいてあげる だけでいい。そう思いますよ……ね、元気だして下さい」



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