エピソード478『祖母へ……』


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エピソード478『祖母へ……』

昼時、とある老人ホームにて……。

本宮
「ここ……だな」

『本宮園子』
 ドアに付けられた名札、本宮の父方の祖母にあたる人だ。

本宮
「おばあちゃん、五年ぶりか……どうしてるかな……」

思い返せば、それは……日曜の朝。

「和ちゃん、和ちゃん起きてる?」
本宮
「なに、母さん?」
「よかったわ、今日用事ある? なかったらちょっとおつ かいに行ってほしいのよ」
本宮
「ああ、いいよ」
「ちょっと、遠いんだけど、おばあちゃんのとこなのよ、 ちょうど、今出かければお昼前頃につくから」
本宮
「おばあちゃん……隣の県の……」
「ごめんなさいね、急に。でもどうしてもはずせないお仕 事が入っちゃったのよ」
本宮
「……うん、わかった」

父方のおばあちゃん……どうにも昔から苦手だった。
 元気で、気が強く、子供にとってはちょっとこわい存在だった。
 それに母方の祖母が外国人、というところがどうにも気に入らなかったらしく、孫の俺達にあまり優しくなかった気がする。
 もっとも俺の場合、右目のこともあるのだろうけど。
 あまり、可愛がってもらった……という記憶は無かった……
 もう5年も顔をあわせていない。俺の事をどう思っているだろうか。
 少々躊躇しながらも、軽くドアをノックをする。
 しばらくたってから、ゆっくりとドアが開く。

祖母
「はい、あら……まさか和ちゃん? 和ちゃんね。まあま あ大きくなって」
本宮
「……お……ばあ……ちゃん?」

思わず息を飲んでしまった。
 元気だった祖母、気が強くはつらつとしていた祖母。今はその面影はかけらもなかった。
 目をしょぼつかせ、よろよろと歩いている。肺をやられてしまったのか、鼻にチューブをつけ、酸素タンクのカートに引いている。

祖母
「いらっしゃい、和ちゃん、さ入って」
本宮
「あ、おばあちゃん。大丈夫」

危なっかしい足取りの祖母を慌てて支える。

本宮
(軽い……)
祖母
「あら、ごめんなさいね、和ちゃん。だめねえ……急に動 くと」
本宮
「ううん、ゆっくりしてて」
祖母
「いいのよ、まっててね、すぐお茶を入れるからね」
本宮
「おばあちゃん……」

よろよろと台所へ歩いていく祖母。

本宮
「おばあちゃん……別人みたいになってる……」

おばあちゃん……いつの間に……こんなに年老いてしまったのだろうか。
 いや、5年間……変わってしまうのには十分過ぎる程だ、……今になって5年という歳月が重くのしかかってくる。
 なぜ、もっと……もっと祖母にあってあげなかったんだろう……
 昔のはつらつとした姿が印象深い分、今の祖母の姿が痛々しく感じる。
 老いる……
 改めてこの言葉の意味と重さとを痛感した。

祖母
「和ちゃん、おまたせ。ゆっくりしていってね」
本宮
「おばあちゃん……」
祖母
「和ちゃん、本当、久しぶりねえ、見違えちゃったわ。もっ と顔を見せて」

しわだらけの顔に、老眼鏡をかける。目も悪くなってしまっているみたいだ。

本宮
「おばちゃん……目悪いの……」
祖母
「大丈夫よ、こうすればちゃんと見えますからね。まあま あ立派になって」
本宮
「……おばあちゃん……」
祖母
「和ちゃん? どうしたの」

……沸き上がる後悔、身勝手な自分に対する自己嫌悪。
 老いていく……ということへ対する自分の無力感……
 心から……体から、こみあげてくる涙を……隠す事ができなかった……

祖母
「和ちゃん、泣いているの? どうしたの?」
本宮
「……おばあちゃん、おばあちゃん……ごめん……俺、もっ と……もっと会いにくればよかったのに……俺……俺……」
祖母
「和ちゃん、どうしたの」
本宮
「おばちゃん……元気だったのに、いつもはつらつとして たのに……いつの間に……そんな……」
祖母
「そんな……いいのよ、和ちゃん、私が悪いのよ。私が和 ちゃんやお兄ちゃんたちに冷たくあたってたせいで、なかなか遊びに来たがらなくなってしまったんだから。自業自得なのよ、ね」
本宮
「でも、おばあちゃん……こんなに、こんなに……具合が 悪くなってることすら……知らなかったんだ……俺……」
祖母
「和ちゃん、そんなことないのよ、私が黙っているように 言ったのよ。学生さんは何かと忙しいんだから、余計な事で時間を割いてしまったら申し訳ないわ」
本宮
「おばあちゃん……違う……おばあちゃんは俺の事、考え てくれていたのに……俺は……俺は自分の事ばかり考えてて……ばあちゃんの事、何も考えてあげてなかったんだ」
祖母
「和ちゃん、そんなことないのよ」
本宮
「おばあちゃん……ごめん……俺は……」
祖母
「和ちゃん……」
本宮
「自分のことしか……考えてないんだ。人の事を……考え ているふりして、自分の事しか頭に無かったんだ……俺、自分が……情けないよ」
祖母
「和ちゃん、ありがとう。そう言ってくれるだけでいいの よ、ほんとうにいいのよ、ね」
本宮
「……おばあちゃん」

失ったものは……戻ってこない……時間も、健康も……
 泣いても……悔やんでも……どうにもならないことなのに……
 それでも、悔やまずには……いられなかった……
 夕方、老人ホームを後にして……

本宮
「……おばあちゃん……」

会いに行こう、もっと……おもいやってあげよう。
 たとえ、時間は戻せなくても……
 たとえ、健康は取り戻せなくても……
 また、会いに行こう……
 後悔は……一生消えることはなくても……
 公園のベンチに一人で腰掛ける本宮。
 その表情は暗く沈んでいる……

本宮
(明日の土曜日、病院へ行って俺はまた泣くんだろうか? 
おばあちゃんをみてどうすればいいんだ……)

そこに……

火虎左衛門
(お、もとみーじゃねぇか……ひっひっひ、少し驚かせて やろうか)

火虎左衛門、本宮の後ろまで忍び足で近寄り……

火虎左衛門
「すぅ〜〜ぱぁスカロクラッシャーーーっ!!!!(声のみ)」
本宮
(どびっくぅっ!!)

本宮、よほど驚いたのか、ベンチから数センチ飛び上がる。
 その後、ゆっくりと振り向いて……

本宮
「なんだ、炎野さんか……」
火虎左衛門
「おいおい、なんだはないだろうが、人が折角声かけてやっ たのによぅ」
本宮
「……」
火虎左衛門
「……フラナ少年が言ってたぜ、月曜からもとみーがふさ ぎ込んでるって……」
本宮
「……ほっといてくれませんか? 今は誰とも話したくな い……」
火虎左衛門
「……どうした、何かあったのか?」
本宮
「なんでも……ないです」
火虎左衛門
「ウソ言え、俺は今、モーレツに悩んでいます。誰か話を 聞いてください。って、顔に書いてあるぜ」
本宮
「……聞きたいですか?」
火虎左衛門
「ああ、力になれるなら手も貸そうじゃねぇか。
秘密ならちゃんと守るぞ、キャプテントンボーグの名にかけてな」
本宮
「わかりました」

老人ホームでの出来事を一部始終話す本宮。
 思い出したのか、細い目から涙があふれそうになっている。

火虎左衛門
「あほう(本宮の頭を小突く)」
本宮
「!?」
火虎左衛門
「たしかに、ばあちゃんの姿を見て驚いたとは思うが、
そこでスグ泣く奴があるか。オマエが泣いたらばあちゃんだって悲しいことくらい解るだろうが」
本宮
「……」
火虎左衛門
「そーゆーときは帰ってから泣け、それがだめなら便所行っ てくるとか言って顔を洗って来るなりしろ。
そんな事をして悲しませるよりマシだろ?」
本宮
「でも…… 俺……」
火虎左衛門
「耐えられない、とか言うのか? そこがオマエの身勝手 なんだよ。オマエが泣くことでばあちゃんはオマエに哀しい思いをさせたことと、哀しい思いをさせた原因の自分を許せなく思うハズだ。
ばあちゃんの為にもオマエは泣くな」
本宮
「じゃあ、俺はどうすれば……」
火虎左衛門
「フツーでいいんだよ。土産でも持っていって、さも用事 のついでに立ち寄ったような顔でばあちゃんの話相手になればいい。帰り際にばあちゃんが笑顔で今日は楽しかったとでも言ってくれればそれでいいんだ」
本宮
「それで、おばあちゃんは……」
火虎左衛門
「もとみー、オマエは医者か?」
本宮
「いえ……」
火虎左衛門
「時間を戻せるか?」
本宮
「いえ……」
火虎左衛門
「他人に命を分け与えることができるか?」
本宮
「……」
火虎左衛門
「な? オマエにできることはばあちゃんの中の悲しみと かを和らげることなんだ。コレは医者や他人にはマネできねぇ、オマエら家族しかできねぇ」
本宮
「……」
火虎左衛門
「人を思いやることができねぇ自分がイヤなんだろ? 
だったら行動しろ。行動して、ばあちゃんの見せた笑顔を信じろ。評価を下すのはオマエじゃないんだ」
本宮
「……」
火虎左衛門
「自分に勝手に0点付けてうじうじしてみろ、結局何も出 来ないまま終わっちまうぜ?」
本宮
「……わかりました」
火虎左衛門
「さて……と、説教はここで終わりにするが、少しは参考 になったか?」
本宮
「ええ……」
火虎左衛門
「……うーん、まだ本調子じゃなぇなぁ……
よし! 景気付けにラーメンでも食いに行くか? 
DXチャーシューメンにライス付きまでならおごってやるぞぅ」
本宮
「え?」
火虎左衛門
「気にするな、今の話を誰にも言いふらさないという、口 止め料も含まれてある(笑) 特に喬のバカに知られたらトンデモないことになるからな」
本宮
「じゃあ、ごちそうになります」
火虎左衛門
「よぉし! じゃ、行くか」



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