豊中が一週間ばかり姿を見せなかった、次の週のこと。
- 豊中
- 「何だ一、まだ生きてたのか。相変わらずパンの耳を食っ
ているようだが」
- 一
- 「生きとるわい。何の用だ」
- 豊中
- 「土産を買ってきてやったぞ、感謝したまえ」
- 一
- 「天変地異の前触れか?」
キノトとキノエ(オコジョのまま)が、笑った。
そしてオコジョの姿のまま後足で立ち上がり、
- キノト
- 『お土産って、なんですか?』
- 豊中
- 「う〜む……離れてると何を質問されているのか、分から
ん。肩に乗るか、手に触るかしてくれ。あるいは人間バージョンになるか」
- 一
- 「やめておけキノト、実験動物にされるぞ」
- 豊中
- 「するか。オコジョは貴重な動物だぞ。こいつを使うくら
いなら人間を使う」
- キノエ
- 『人間の方が下なのね(笑)』
オコジョの小さい前足が、豊中の手に触れた。
質問を読みとって、豊中はニヤリとわらった。
そして取り出したもの。一見すると何のへんてつもないクリームサンドビスケットのパックと、見るからに悪趣味な包装紙に包まれた箱。
包装紙をのぞき込み、キノトが妙な顔をした。
- キノト
- 『毒団子、って書いてあるみたいなんですけど』
- 豊中
- 「その通り。15個入りの団子のうち2個はトウガラシ入り、
というパーティーグッズだな。ちゃんと土産物屋で買ってきたんだぞ」
- 一
- 「お前なぁ」
- 豊中
- 「安心しろ、こっちはちゃんとしたクッキーだ」
- 一
- 「お前がそう言うと、全っ然安心できんのだがな」
- キノト
- 『なんて書いてあるんですか?』
- 豊中
- 「へ? あ、そうか、日本語は書いてないもんな。ドリア
ンクリームサンド、だよ」
- 一
- 「キノエ、キノト、お前らは毒団子の方にしとけ。これな
ら、臭いで分かるだろ」
- キノエ
- 「そうします、でもこれって何かルール違反みたい(笑)」
- 豊中
- 「お前はどうなんだ?」
- 一
- 「『私はいかなるときでも、誰からでも挑戦は受ける!』」
- 豊中
- 「?」
- 一
- 「昔、アントニオ猪木というプロレスラーはそう言ったの
だ」
- 豊中
- 「ふむ、ならば受けるのだな(にやり)どっちだ。ドリアン
クリームか? 毒団子か?」
- 一
- 「毒団子での一本勝負だ」
- 豊中
- 「そう来るか。キノエ、キノト、ちょっとこっちに来て手
に触っていてくれ。主に教えちゃだめだぞ」
十は目の前の団子をにらんだ。団子というよりも小さな大福餅と行った風情がある。おそらく中にはあんこが詰まっているに違いない、そしてうち二つには唐辛子が入っているのだ。
- 一
- 「(おちつけ、十。いいか、物事には必ず表と裏がある。そ
の表裏は時により自在に変化する。その変化を見切ってこそ良き術師となりうるのだ。全神経を集中しろ、見切るのだ。そう、唐辛子「赤」つまり五行の「火」に対応する、俺の性は「土」。火は燃えることで土を生み出す。つまり火と土は相生の関係にある。やれる。勝ったぞ、十。お前の望む団子が火、つまり唐辛子だ。だから、本能的にやばいと思うものを取れ。それで、勝てる!)」
十はオーバーアクションで一つの団子を取った。
- 一
- 「豊中! 俺の勝ちだ!!(ぱくっ、もぐもぐ)」
意地悪げに見つめる豊中。ゆっくりと動く顎が一瞬止まる。
- 一
- 「う、うおおおおおおおおおおっ!?」
- 豊中
- 「水でも持ってきてやれ、キノト。(ため息) しかし、何
でたかが六分の一の確率にああまで馬鹿なこと考えるかね」
やれやれと行った表情で肩をすくめる豊中。悶絶した十を二匹の式神は半ば諦めたように見つめていた。
とことこと走っていったキノトが、水を持って戻ってくる。
さすがに、水の入ったグラスを運ぶにはオコジョの体は不便だったと見え、戻ってきた時は少年の姿をとっていた。
- キノト
- 「持ってきました(諦め顔)」
- 豊中
- 「ごくろうさん。……おや?」
モンゼツしている一をにやにやしながら見ている人相の悪い男に、豊中は気付いた。御影である。
- 豊中
- 「御影の旦那でしたか。飯ですか?」
- 御影
- 「うんにゃ。茶を飲みに来た。それよりこいつはなにやっ
てんのか、教えてくれんか、豊中」
- 豊中
- 「はあ。俺が買ってきた土産と、俺が知り合いにもらった
土産を持ってきたんで、俺が買ってきた方を食わせてやったんですが」
- 御影
- 「で、これか。どんな土産だ?」
悪趣味な包装紙を見て、御影はにや〜りと笑った。
- 豊中
- 「旦那も試しますか(無表情を装っている)」
- 御影
- 「ん? こっちはなんや」
- 豊中
- 「知り合いの女性からもらったバリ土産ですよ」
- 御影
- 「……ドリアンぅ?(うさんくさそー)」
このころになると、一は立ち直っていた。
いつもながら、立ち直りの早い奴である。
- 一
- 「(こっそり) なあおい、買ってきてくれた女性ってだれ
だよ」
- 豊中
- 「(ひそひそ) ユラだ」
一は複雑な顔。
- 御影
- 「食ったことはないなぁ」
- 豊中
- 「(相変わらずポーカーフェイスで) 熱帯フルーツでして
ね。果物の王様と呼ばれているそうです」
- 御影
- 「まともなホテルには持ち込み禁止と聞くな」
- 十
- 「なんだ、知ってるんだ」
- 御影
- 「だから、食ったことはないって言っただろ」
- 豊中
- 「それじゃぁ、どうです。旦那もおひとつ(にや)」
- 御影
- 「ほほぉぅ、それはわしに対する挑戦だな(にや)。うけて
たつぞ(ひょいぱく)」
口に放り込んでから御影は後悔した。
- 御影
- 「これは……味はともかく、臭いが……」
- 豊中
- 「どうです?(にや)」
- 御影
- 「(息を止めると速攻で噛み砕いて飲み込む) お、思った
よりおいしいじゃない……か」
- 豊中
- 「それじゃぁもーひとついかがです?(笑)」
- 十
- 「ひとつと言わずに何個でも(笑)」
- 御影
- 「お、おう」
結局、ほとんど御影ひとりで食ったらしい。
- 御影
- 「あう……(胃袋が腐敗しとる〜)」
テーブルにつっ伏している)
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