エピソード491『緑陰深沈』


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エピソード491『緑陰深沈』

某日、雨。
 瑞鶴にて。
 天候の所為か、店内にはお客が一人しかいない。

花澄
「……ふぅ(雨、かあ……もうすぐ、梅雨だものね)」
信子
「すいませーん、脚立借りるよ?」
花澄
「はい、どうぞ。どちらに?」
信子
「あ、いいよ、自分でするからさ」
花澄
「いえ、持っていきますから(にこにこ)」
信子
「花澄さんもそんな気ぃ使わないでさ、のんびりした方が いいと思うよ(^^;」
花澄
「有難う(苦笑)」

しばし、沈黙が続く。
 雨の音が、耳につく。

花澄
「……かえり、たい、な」
信子
『え?』

信子の感覚に飛び込んでくる、幾つかの言葉の断片。
 『乾いた、痛い、光、畏怖、風、沙、』
 『帰りたい、帰りたい、
 ……帰るすべが無い』

信子
「?」

脚立の上から振り返った信子の視線と、花澄のそれとが合う。

花澄
「どの本を、お探しですか?」
信子
「あ、ううん、何でもないよ」

語尾が沈黙に混ざる。
 雨音がそれに続く。
 街路樹の緑が滴るほどに濃い。

花澄
「雨、やみませんね」
信子
「……そぅだね」

瑞鶴のある日の午後である。



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