某日、雨。
瑞鶴にて。
天候の所為か、店内にはお客が一人しかいない。
- 花澄
- 「……ふぅ(雨、かあ……もうすぐ、梅雨だものね)」
- 信子
- 「すいませーん、脚立借りるよ?」
- 花澄
- 「はい、どうぞ。どちらに?」
- 信子
- 「あ、いいよ、自分でするからさ」
- 花澄
- 「いえ、持っていきますから(にこにこ)」
- 信子
- 「花澄さんもそんな気ぃ使わないでさ、のんびりした方が
いいと思うよ(^^;」
- 花澄
- 「有難う(苦笑)」
しばし、沈黙が続く。
雨の音が、耳につく。
- 花澄
- 「……かえり、たい、な」
- 信子
- 『え?』
信子の感覚に飛び込んでくる、幾つかの言葉の断片。
『乾いた、痛い、光、畏怖、風、沙、』
『帰りたい、帰りたい、
……帰るすべが無い』
- 信子
- 「?」
脚立の上から振り返った信子の視線と、花澄のそれとが合う。
- 花澄
- 「どの本を、お探しですか?」
- 信子
- 「あ、ううん、何でもないよ」
語尾が沈黙に混ざる。
雨音がそれに続く。
街路樹の緑が滴るほどに濃い。
- 花澄
- 「雨、やみませんね」
- 信子
- 「……そぅだね」
瑞鶴のある日の午後である。
連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部