エピソード501『香茶馥郁』


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エピソード501『香茶馥郁』

夕刻、グリーングラス。

ユラ
「うーん、何だか暇な日……」

日がだんだん長くなる頃。
 時刻の割に、まだ外は明るい。
 と、扉が開いた。
 入ってきたのは、大き目のかばんを肩からかけた女性。髪の毛を後ろできちんと束ね、黒いリボンでまとめてある。
 黒い靴のかかとが、何かの拍子にかつん、と音を立てた。
 涼しげな風が、どこからか一筋流れ込んだ。

ユラ
「いらっしゃいませ」
花澄
「あ、どうも」

語尾が消え入るような声で、応えがある。

花澄
「ええと、カモマイルとラベンダーと、あとアップルティ、 50gずつ、いただけますか?」
ユラ
「はい、少々お待ち下さい」
花澄
「それと、その……」
ユラ
「は?」
花澄
「座って、宜しいですか?」
ユラ
「はい、どうぞ」

幾つか置いてある丸イスに、花澄はすとんと腰を下ろした。
 そのまま、黙って窓の外を見ている。
 ユラは、お茶を包みおわった。

ユラ
「お待たせいたしました」
花澄
「あ、すみません」

のろのろ、と、花澄が立ち上がる。
 かなり疲れているらしい仕種だった。
 こっくりと肯くと、花澄はまたイスに座り込む。
 その目の前に、ほの甘い湯気をたてる小さなカップがそっと差し出された。

ユラ
「カモマイルとローズと、オレンジフラワーのブレンドな んです。よろしかったら、どうぞ」
花澄
「あ……どうも……」

そのまま暫く、おだやかな沈黙。
 半ば開いた窓から、さわさわと葉ずれの音が流れ込む。
 こっくりと肯くと、花澄はまたイスに座り込む。

ユラ
「お出かけだったんですか?」
花澄
「ええ、ちょっと強行軍で(苦笑)」
ユラ
「ああ、それで」

花澄はまた笑うと、一度目を閉じた。
 そして、すぐ目を見開き、立ち上がった。

花澄
「有難うございます。後、ハイビスカス50g、追加していい ですか?」
ユラ
「あ、はい」
花澄
「おいくらですか?」

ユラの告げた金額を払うと、紙包みを受け取り、かばんの中に落とし込む。

花澄
「ここは、新しいお店、ですよね?」
ユラ
「ええ」
花澄
「ここなら迷わないから、良かった」
ユラ
「は?」
花澄
「有難うございました」

深々、と頭を下げられて、一瞬ユラが反応しきれないうちに、黒いスカートの裾を翻して、花澄は外に出ていった。

ユラ
「また、どうぞ……」

閉まった扉に、ユラはちいさくつぶやいた。
 ガラス越しに西日の射す、妙に夏めいた日のことである。



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