エピソード503『極道の女達?』


目次


エピソード503『極道の女達?』

いんでぃーず・むーびー

直紀の勤務先、ビデオ関係会社の事務所にて……。

直紀
「へ?今なんて?」
上司
「いや、うちのPRも兼ねてコンテストに出すから
インディーズムービーを一本撮って欲しい、言うた
んやが聞こえんかったか?」
直紀
「それは聞こえた、で。誰が撮るって?」

直紀の一言に反応し、周囲の人間がザッっと一斉に直紀を指差す。

直紀
「をい(汗)……あたし一人で撮れってかー(汗)」
上司
「手が空いてるの自分だけやもの、じゃ、宜しく。
あ、経費だからって余りお金使わないでね。
うち貧乏会社なんだから」
直紀
「いんぼーだぁー(じたじた)」

じたじた暴れる直紀。
 そそくさと散っていく同僚達。
 嗚呼、貧乏籤、貧乏籤。

ひらめき

トボトボと吹利商店街を歩く直紀。

直紀
「まぁったく……いきなり作品一本撮れ、はないわよねー
機材はともかく、役者とかシナリオとかどーすんのよ(怒)」

ぼやきながらもFLOWER SHOP Mikoの前を通りかかる。
 店内ではお客と談笑しながら花束を作っている尊がいた。

直紀
(あ、尊さんだ……ってそれどころじゃ無いのよね……)

何時の間にかベーカリー方面に足が向かう。
 カラン、カランとベーカリーのドアが開いて御影が出てきた。

直紀
(あ、御影さんだ……ってそれどころじゃ無いのよね……)

腕組みして考え込みながらトコトコ歩く。
 ごん!

直紀
「(目から火花)痛ったー。ちょっと!何処見て歩……
か無いわよね、電柱は(苦笑)……ん?」

電柱にはられている一枚の映画ポスター。
 最近リバイバルされたヤクザ映画のポスターである。
 大きなタイトルは『極道の女達』と墨痕淋漓書き付けられ、主人公らしい女
 優がサラシ巻きで諸肌脱ぎ、白木の長ドスを構えている姿が写っている。
 他にも「女の好いた腫れたは命(たま)の取り合いや!」等と物騒な事が書
 きなぐられている。

直紀 :「(きゅぴーん!)ぽむ!
手を叩く)……こ、これだわっ!
よし、お願いするだけしてみよう!尊おねーさーん!!
(だっしゅ)」

拳を握り締めて脱兎の如く駆出す直紀。

スカウト!

「ありがとうございましたー(お客を見送る)さてと、そ
ろそろ店じまいしようかなっと(外の花をしまう)」
直紀
「……さーん(小さな声)」
「?……誰かに呼ばれたような……」
直紀
「……とさーん(少し小さな声)」
「直紀さん?」

かなり向こうから手を振りつつ突っ走って来る直紀。
 ダッシュで駆け寄り。

直紀
「尊さんっ!(迫りっ)」
「は、はい?(汗)」
直紀
「尊おねーさん、ビデオ出よう、ビデオっ(嬉々)」
「は?……ビデオ?……(ぼふっ)」
直紀
「ビデオで映画撮りたいの、それに出演して下さいっ」
「あ、ああああ(汗)映画!。映画ね……良かった(大汗)」

良かったって……尊、一体何を想像した?(汗)。
 それはともかく。

「でも、あたし……そういうのやった事無いし(照)」
直紀
「(ぶんぶんっと首を振って)どーしても出て欲しいの、
だめ?(しょーどーぶつの目)」
「う……(汗)(なんかすっごく断りづらい……)判りま
した、あたしで出来る事なら」
直紀
「わぁい(喜)じゃ、明日にでもベーカリーで打ち合わせ
しましょ!あたしまだ捕まえなきゃいけない人が居るから
直紀
それじゃ」

再び疾風の如く駈けていく直紀。
 呆然と見送る尊。

「あ、何の映画か聞くの忘れた……(汗)」

凄い勢いで御影めがけて、疾走する。

直紀
「あ、いたいたっ!みぃかげさぁーんっっ!!」

ききぃっと止まり

直紀
「(ぜーぜーぜー)み、み……」
御影
「よくわからんが、落ち着け(^^;
わしに何か用なのか?」
直紀
「御影さんっ!極道やりましょう!!」
御影
「あぁ??」

路上でいきなり『極道やりましょう!!』は、ないだろう。
 周辺にいた人がざざっと遠巻きに眺めている。買い物帰りとおぼしき主婦
 などは

主婦A
「聞きました、奥様?」
主婦B
「ええ、やっぱり……ねぇ(ひそひそ)」

まぁ、そんなことはお構いなしに

直紀
「あのね、今度ビデオ作ることになったんだけど、役が
御影さんにぴったりなのー(はぁと)ねっ、やろうっ!」
御影
「役って極道のか(汗)」
直紀
「マフィア系じゃなくって着流し仁侠のほうだよー、
ねっ、お願いー!!」
御影
「ま、まぁやれってゆーならやるが。どこでやるんだ」
直紀
「場所はなんとかなりそうなんだけど、小道具とかまだ詳し
いことは決まってないの。明日にでもベーカリーで打ち合
わせしよーと思ってんだけど」
火虎左衛門
「ふっふっふ、俺がいるのを忘れたか?とうっ!!」
直紀
「れ?炎野さん??(きょろきょろ)」

どこからか直紀と御影めがけて急降下する。このまま着地していれば華々しく
 炎野火虎左衛門、参上!!と相成ったわけだが……

御影
「(がしっっと足を掴む)うおりゃあっ!!」
火虎左衛門
「のをっ!!(びたーん!!)」
SE
「ずしゃぁっ」
御影
「お、すまん。条件反射でつい」
火虎左衛門
「鬼…… 鬼神力とは……(がくっ)」
御影
(わしはオロかいな、
 エア・スタンピートで踏みつけた方がよかったか?)

どたどたとこちらに走ってくる音がして

「また、人様に迷惑かけて…ってなにをやってるんです、
オマエは(^^;」
火虎左衛門
「……(きゅう)」
直紀
「炎野さーん、だいじょぶ?(つんつん)」
火虎左衛門
「てやぁっ!!(と、ヘッドスプリング)なんのこれしき!
 話は聞かせてもらったぜ、直紀ちゃん!!
 小道具類はこの俺にまかせろ!
 実家に帰ればストックなんざずらりとあるぜ!!」
直紀
「そーなんですかぁ、助かりますー!!あ、あとね殺陣とか
も教えて欲しいんだけど、いい?」
火虎左衛門
「まかせろ(ぐっ)おい、喬!おまえも手伝え」
「まぁ、かまいませんが、その前に……
 ハナ血くらいさっさと拭きなさい
 (ポケットティッシュを投げつける)」
下準備、完了?-------------
 直紀の自室

電話
「てるるる、てるるる〜」

フローリングの床にこれでもか!とばかりに置かれた資料の山、山、山。
 先ほどからひっきりなしに電話が鳴り響く。

紘一郎
「来いと言ったから来たんだが……なんだこの状態は(呆)」
直紀
「あ、紘一郎っ!電話取って、でんわー!!」
紘一郎
「(はぁ)はい、柳です。はい……え?料亭??はぁ、担当
と代わりますんで、少々お待ちください」
直紀
「もしもし、あ、はい!ええ……あ、ほんとにいいんですかぁ
はい!ありがとうございますー!!」

がちゃん。

直紀
「よぉし!撮影場所げっとぉ!!(ぐっ)紘一郎こっち
こっち〜。はいっ、これっ!(どさどさどさっ)」
紘一郎
「な、なんなんだ。これは」

渡されたものは仁侠、極道関係の資料。

直紀
「シナリオ考えんの手伝ってっ(極上笑顔)」
紘一郎
「…………………………」
直紀
「(じーーーーーっ)」
紘一郎
「やだ(きっぱり)」
直紀
「ひどいぃぃ、さてはあたしのこと愛してないのねっ」
紘一郎
「馬鹿なこと言ってる場合か(ぐりぐり)」
直紀
「みゅー、んじゃあ撮影手伝ってよぉ。人手が足りないの〜」
紘一郎
「役者じゃないならまあ、かまわんけど(^^;」
ミーティング-------------
 かららん

「あら?直紀さんまだ来てないのか。観楠さん、コーヒー
貰えますか?」
観楠
「いらっしゃい、尊さん。映画にでるんだって?」
「もうそんなに話が広まってるんですか?直紀さんに拝み
倒されちゃって、つい。でも、実はまだ何の映画か聞いてな
いんです(苦笑)」
観楠
「そーいえば、御影さんも似たようなとこ言ってたような…」
「みっ御影さんも??」

と、尊が言ってるそばから、かららんと御影が入ってくる。

火虎左衛門
「よう、旦那。こっちこっち」
「こんにちは、御影さん」
御影
「おう、(きょろ)柳さんはまだか」
火虎左衛門
「女の仕度は時間がかかるのが相場ってもんだ」
「経験者は語る…ですか(にやり)」
火虎左衛門
「お、俺のことは別にいーだろっ!(焦)」
「御影さんも、直紀さんと待ち合わせですか?」
御影
「ああ、柳さんに映画の出演を頼まれて。今日ここで
打ち合わせをするんだが、(きょろ)まだ来てないようだな」 
「あたしも、直紀さんに映画に出演してくれって言われて
今日打ち合わせなんですけど」
御影
「……」
「……」
直紀
「あ、集まってますねっ!遅くなってごめんなさーい」
「直紀さんっ!!(迫る)」
直紀
「わぁっ!あーびっくりしたぁ。どしたんです?」
「(小声)あたし、相手役が御影さんなんて聞いてないですよ
(真っ赤)」
直紀
「あれ?……言ってなかったっけ?」
「聞いてませんって(赤面)」
花澄
「……見たいっ!(握り拳)」
直紀
「え?」
花澄
「見たい、ですっ!直紀さん、極道の妻の格好、されるん
ですって?」
直紀
「はいぃ?!」

情報が、どこかでひずんだらしい。

花澄
「え、だって、御影さんが極道の格好をして、直紀さんが
極道の妻の格好をされるって聞いたんですけれども?」
直紀
「だ、誰から聞いたんですか?それ(^^;」
花澄
「たしか……炎野さんだったかしら?」
「また、オマエとゆー奴は!(さっくり)」
火虎左衛門
「きゅう」
一同
「………(^^;」
 
直紀
「あ、ええっと。あたしは、監督兼役者ってとこですけど
そんな重要な役はやんないですよ。第一妻の役なんて…
(ちらりと尊を見て)尊おねーさんに恨まれるのヤだし」
「なっ、直紀さんっっ!!なんでそーなるんですかっ
(さらに真っ赤)」
花澄
「でも、極道のかっこはなさるんですよね?」
直紀
「うん、そのつもりだけど?」
花澄
「着付け、お手伝いしますから。見せて下さいねっ(嬉々)」
直紀
「な、何で花澄さんってば、そんなに嬉しそうに…
ありがたいけど(汗)」
花澄
「好きなんです、そういうの(にこにこ)」
直紀
「ま、いっか。さぁって打ち合わせしましょっ!」
(ご、極道の女って(汗)御影さんの妻役?……で、この
メンバー……)

揃い踏みしたメンバーに、そこはかと無い不安感に襲われる尊。
 頬を伝う一筋の冷や汗、いや、それにしては顔が紅いが(笑)。

直紀
「……それでね、きりゅーいんはなこの生涯とか極道の妻
達みたいな路線でいこーと思うの」
「え? き、鬼龍院? 極道の妻達?……というと……
 ……こほっ(咳払)……(キッと斜に構えて)
 『御集まりの親分集皆々様に申し上げます。
  大親分亡き後、この組は跡目がおらんさかい、うちが
  仕切るよって。あんじょうたのんます』」
直紀
「姉さん!(尊さんノってるぅ)」
「『ガタガタ騒ぐな!……よろしゅう……御座いますな?』
……こ、こんな感じで良いんでしょうか(照)
あ……(我に返る)い、今のカットして下さい(赤面)」
直紀
「ええ〜っ、今のすっごく良かったのに〜」
「そんな……恥ずかしいですよ、やっぱり」
観楠
「(尊さん、かっこいいなぁ)」

カランコロン。

観楠
「おや、3人そろって。いらっしゃい」
「かくかくしかじかとゆーわけでパンの耳ください」
豊中
「だからそのあほな説明はやめろと」
ユラ
「いぢましいと言うかなんと言うか」
直紀
「あ、ねぇねぇ! 一さんも映画出よう映画!それで御影さん
と決闘するの!(笑)」
「ダンナと決闘? 嫌だぁ、まだ死にたくないぃ!」
直紀
「えぇーっ、そんなぁ。一さんにも出てほしいのに。ね、
お願い(しょーどーぶつの目)」
「(はう……こ、こんな目で見つめられたら……)
 う、うん」
直紀
「わーい、ありがとーっ!」
ユラ
「へぇ、面白そうですねえ」
直紀
「でねっ、御影さんが極道でね尊さんがその妻みたいなの
やりたいのー(満面笑顔)」
豊中
「こいつは上映会をしなくちゃいけませんねぇ、御影の旦那」
居候
『赤くなっとる赤くなっとる』
御影
(無言で殴る)
SE
「ごすっ」
豊中
「(頭をかかえて)……旦那、グーで殴らんでくださいよ。
……痛ひ(涙目)」
御影
「尊さんに漣丸でざくざく、ってやられたほうが良かった
か?」
「うふふふふふふ」
豊中
「み、尊さん……目が据わってるんですけど……(汗)」
居候
『ぐ、ぐーだ。ぐーのほうが良いぞ、若いの(汗)』
本宮
「(へぇ……映画かぁ……)」

この日、本宮はフラナ、佐古田と共に斎藤家へ招待されていた。
 瑞希の「教育」を回避するためにベーカリーでの出来事を余さず話したとし
 て、それをいったい誰が責められるだろう?

撮影準備だ、スタンバれ!

花澄
「うーん(悩)」
「花澄さん、どうしたんですか?」
花澄
「あ、丁度良かった。ちょっとちょっと」
「はぁ?」

花澄にくっついて、衣装の並ぶ部屋へ入る尊。

花澄
「イメージとして、この留袖がいいと思うんだけど、
ちょっと羽織って……あ、やっぱり」
「丈が少し足りないみたい(汗)」
花澄
「まあ、それは上げがしてあるから、それをほどけば
良いと思うんだけど……後は、晒し布買ってこないと」
「??」
花澄
「尊さん、ウエスト細いんだもの。着物って、元々ずん胴の
日本人に似合うように作ってあるから。ええと…これくらい
かな?」

そこら辺を引っ掻き回して帯を引っ張り出し、それをくるくると尊に
 巻き付ける。

「あ、あつい(汗)」
花澄
「甘い、尊さん。この上に襦袢と着物が来るの。確か雪の
降るシーンがあるから、紗だの呂だのは着れないし」
尊   
「(な、何か花澄さん、目の色が変わってる…)」
花澄
「後は直紀さんでしょ。彼女はきちんと上げを縫った方が
いいし…あ、でもその前に炎野さんに許可とらなきゃ……。
はい、わかりました。後はこちらで用意します(にこにこ)」
「は、はあ……(汗)有難う、花澄さん」
花澄
「いいえ(にこにこ)。奇麗な人たちがもっと奇麗になる
お手伝いだもの。楽しくって」
尊   
「………(大汗)」
 
 着付けを済ませ、上機嫌の花澄とともに撮影場に姿を表わす尊
 
「あの……どうでしょうか(照)」
瑞希
「わ、みこちゃんきれー」
花澄
「ふふっ、やっぱり留袖似合いますねえ」
直紀
「御影さん、尊さんになんか言う事があるでしょお?(にこっ)」
御影
「え、いや、わしは……(大汗)」
「(じっっと見つめる)似合い…ませんか?」
瑞希
「(心の声)言え、言うんだ!御影さん」
御影
「その……奇麗ですよ、凄く」
「(かぁぁ)あ、ありがとうございます」

尊と御影が盛り上がってる中、直紀はなぜか肩を抱いてうずくまっている

花澄
「直紀さん、なになさってるんです?」
直紀
「き……聞いてる方が恥ずい(むずむず)」

ヒットマン決定?

直紀
「あ、そーいや最初のシーン、ヒットマン役どーしよ。
エキストラも、もーちょっと欲しいとこよねぇ(うーん)」
火虎左衛門
「あんまり予算ないんだろ?俺の知り合いに頼んでも
いいけど、どーする?」
瑞希
「ふふっ、心配ないわ直紀さん。こいつが責任持って
やらせて貰うからっ(笑)(ぽん、と肩をたたく)」
本宮
「なんで俺がぁっ!」
瑞希
「いいじゃない、あんたが三人の中で一番頑丈で強いんだし
まだあるわよ、御影につっかかってぶっ飛ばされるチンピラ1
とか殴り込みで直紀さんにばっさり切られる雑魚その一とか
みこちゃんに切りかかろうとして、返す刀でさくっといっちゃ
う役とかあたしに逆らって平手打ち食らう、若いもんの役
とか…」
本宮
「…思いっきりやられ役ですね」
瑞希
「なによ、やられ役のほうが難しいのよ、だからあんたに
頼んでんじゃない」
本宮
「瑞希さん…(ちょっとジト目)いつ…俺に役を頼みました…」
瑞希
「(ぽりぽり)そーいや、むりやり引きずり込んだんだっけ
かな…」
火虎左衛門
「まぁ、もとみーならタッパもあるし、殺陣もそこそこでき
るしな」
直紀
「本宮君、頼んでいい?(じぃっ)」
本宮
「(あー(^^; 女の人のこーゆー目って弱いんだよなぁ)
……はぁ、やらせて貰います」
瑞希
「よっし、よくいった!それでこそ男の子っ!!(ばしばし)」

撮影開始っ!

キャスティング監督、総指揮、尊の片腕役      :柳 直紀如月組跡目 如月 尊役       :如月尊如月組若頭? 御影 武史役     :御影武史敵対組、斎藤組の後妻 斎藤 瑞希役 :斎藤瑞希斎藤組組頭筆頭 一十役       :一十レフ版持ち             :大門喬 (平塚花澄)カメラ       :岩沙琢磨呂、斎藤瑞希(カメラマン兼任)衣装着付け、メーキャップ      :平塚花澄チンピラ役、エキストラなど     :スナフキン愛好会衣装提供、演技指導         :炎野火虎左衛門小道具・照明            :豊中雅孝特殊効果              :キノエ、キノト、炎野火虎左衛門救護班               :小滝ユラ特殊効果対策班           :柳紘一郎資料提供・松蔭堂救護班、現わる!-----------------

直紀
「駄目じゃないですかぁ御影さん、エキストラ本気で
なぐっちゃ。もう次のシーンの用意出来ちゃってんのに、
このアザ、消えませんよ」
御影
「本気だった訳やないんやけどなあ、まずかったかんかなあ」
直紀
「まずいも何も。さっきの殴り合いの前のシーンを、これか
ら撮らなきゃなんないんですけどっ(汗)」
御影
「あーー。そりゃ、確かに間抜けだ(大汗)」
直紀
「困ったなぁもう…」
豊中
「柳さん、そーゆーんだったら、いい人知ってるんですが」
直紀
「え、ほんと?」
「(豊中の襟首を掴んで)だめです」
豊中
「だが一、背に腹はかえられんぞ」
「背と腹以前だ。「あれ」だろ?俺はいやだぞ」
直紀
「えー、どういうこと?え、ユラさん?あ、納得。たしかに
こないだの肺炎かかりかけ事件以来、少々のことじゃ体調
崩さなくなったし」

携帯電話を取り出す直紀。

直紀
「もしもし…あ、ユラさん?…そう、今映画撮ってるんだけ
ど、エキストラの子がアザ作っちゃって…出番まで?うん…
あと一時間位。え?大丈夫?なんとかなる?よかったぁ、
じゃ、待ってまぁす!」

豊中をものかげにひきずっていく一。

「…豊中、おまえ余計なことを」
豊中
「だが、現にいなきゃ困るんじゃないか。
ま、俺はキャストじゃないから、怪我する心配ないしな」
「…ほー…そうか。怪我する心配ないか…
(みしめきどかぐしゃぼき)」

自転車をとばしてくるユラ。

ユラ
「なおきさーん、おくれてすいませーん、怪我人って…」
「まず、これ(豊中を突き出す)」
豊中
「(力一杯)いらんっっっ!このくらいならほっときゃ
治るっ!」
居候
『ひわぁぁぁ(汗)』
直紀
「……なんか病院行くのが嫌でだだこねてるよーにも
見えるなぁ(笑)」
「そんな生易しいもんじゃないですよ(^^;」
直紀
「そなの?ユラさんの薬よく効くのに……」
「いや、薬が精製されるまでに数々の人た……(びくぅっ!)」
ユラ
「一、楽しそうねぇ(にっこり)何を話してたのかしらぁ?」

豊中をひっ掴み仁王立ちのユラ

「なっ(汗)いや、なにも話してないぞ!あ、俺そろそろ
スタンバらないと(滝汗)」

そそくさとその場を立ち去ろうとする、一

ユラ
「待ちなさい、一。ここ切り傷があるわよ。すぐ済むから
豊中と一緒に、こっちにいらっしゃい(にっこり)」
直紀
「あ、ほんとだ。近くで話してたけど気付かなかったぁ。
ユラさんって良く気のつく人なんですねぇ(尊敬)」
「いやっ!大丈夫だ、これくらい怪我のうちにも入らんっっ!!」
直紀
「だめですよぉ、破傷風とかになったらどーすんですか?
じゃ、ユラさんお願いしますね(にこ)」
ユラ
「まかせといてっ!さ、いくわよ、二人とも(笑)」

オープニング

夜…一人近くの公園を散策する如月組組長。
 突然、何かに気付いたようにふりむく。

如月
「誰だ、そこにいるのは…」

ザッ…
  突然、茂みから若い男が現れる。その手には、ぎらりと光る短刀が
 握られていた。背の高い黒髪の男、人の良さそうな糸目…しかし…
 その表情は冷たく凍り付いていた。

男(本宮)
「如月の親分…命(タマ)とらせてもらいます…」
如月
「貴様…どこの組みのもんや…」
男(本宮)
「答える義務はありやせん…」
如月
「ぬかせ…」

す…っと壮年とは思えない素早さで男の手をはらおうとする。
 しかし、これをなんなくかわす男。

如月
「おのれ…」
男(本宮)
「俺を…ただの鉄砲弾だとお思いですかい?…親分」

にやり…と鋭い笑みを浮かべ、一瞬にして間合いを詰め…
 どんっ!と…身体ごと組長に突っ込んでいく。

如月
「ぐっ…ごぼっ(口から血が溢れる)」
男(本宮)
「(くくくっ)…終わりだ…」

力を込めて小刀を引き抜く男。抜くときの返り血で全身血で真っ赤に
 染まる…

男(本宮)
「へへ…これで如月も終わりだ…へへ…あははははっ」

笑いながら走り去っていく男。

如月
「う……みこ…と…」
舞台裏00

直紀
「はいカットぉ!いいぞ、なかなかのワルぶり!」
フラナ
「もとみー凶悪ぅ」
本宮
「うわ…べっとり…」

全身血糊をべったりとつけたまま戻ってくる本宮。

御影
「いや、そうしてるとホンマ人殺しの後だな、これで外歩い
た日にゃ職務質問どころじゃすまんぞ」
本宮
「え…まあ、ほんとに…つい…のっちゃって…」
瑞希
「な〜んか演じはじめると、夢中になる質ね〜」
フラナ
「でも演技うまかったよぉ、もとみー」
本宮
「そうかな…(照れ)」
直紀
「あ、本宮君!次、次、御影さんに絡むチンピラで入るから
すぐ着替えて」
本宮
「あ、はい、ちょっと待っててください」
「えーと、それ終わったらあたしに切られるシーンなんだけ
ど、合間にちょっと切る練習させてくれる?」
本宮
「そうですね、切られ方ももうちょっとやっときたいし…」
瑞希
「そーだ、あたしの次のシーン…組の若い者に気合を入れる
場面で…平手打ちくらう役だから…痛かったらごめんね」
本宮
「痛かったらて…手加減してくれるんじゃ」
瑞希
「あたし、手加減て苦手なのよ(キッパリ)」

そして…

本宮
「はぁ…なんか…おもいっきりしばかれる役勢揃いですね」
「(ぱらぱらと台本めくる)…でもこれ、しばかれ役みんな
お前の名前で書いてあるぞ」
本宮
「…俺…生きてクランクアップ迎えられるでしょうか…」
豊中
「安心しろ、心強い救護係がいるから(にやり)」
本宮
「そうですか?よかった(ほっとした表情)ちょっと心配し
てたんですよ」
「ああ、あいつな…(ううむ、教えるべきか)」

シーン01. 如月組組長の死

組長の墓前。すでに夜も更け、誰もいない棺の前でぎゅっと位牌を握り
 占める。

「(……仇は必ず!でも……)」
憂いを帯びた姿は疲れのためか…だが目だけは決意に満ちていた。

御影
「姐さん、やはりここでしたか」
「御影はん、来客は?」
御影
「客は全部、直紀の姉さんが取り仕切ってます」
「直紀が…そう」

ふっと、細く息をはく。沈黙

御影
「姐さん…気ぃ落さんといてください」
「わかってます…あてがしっかりせんと」
御影
「姐さん、後のことはわしらにまかせてお休みになって
ください」
「その気持ちだけで充分や、甘えてはいられへん」

きゅっと表情を引き締める尊。

御影
「無理はなさらんでください、一番辛いのは姐さんなの
ですから」

そっと、尊の肩を抱く御影。

「…御影はん…あて…」
御影
「尊姐さん…」

見詰め合う二人…そして…舞台裏01

瑞希
(じーっ)
「…あのぉ…瑞希さん…」
瑞希
「んーどしたのみこちゃん?ほら続けて続けて、
練習時間ないんだぞぉ」

答えつつ、ハンディカムを二人から離さない瑞希。

「立ち稽古まで…撮らなくても…緊張するじゃないですか」
御影
「…(ぽりぽり)」
瑞希
「これも、カメラの前で緊張しない為の訓練訓練、ほら次の
シーン!みこちゃん、御影さんにそっと寄り添う!
ほらぁ早くぅ(くす)」
「でも…(真っ赤)その…」
瑞希
「ほぉら、御影さん。そっとみこちゃん抱きしめる!(くす)」
御影
「はい…(うう…瑞希さんに…何も言えん)」

そ…っと、ぎこちなく尊を抱き寄せる御影。
 真っ赤になって抱き合う姿…しっかりと瑞希のハンディカムで
 撮影されている。

瑞希
(ふふ、メイキングオブ極道の女…今から楽しみ)

横から瑞希をつつく豊中。

豊中
「瑞希さん、そろそろ出番です。スタンバってください」
瑞希
「いいとこなのにぃ〜」
豊中
「俺が代わりに撮っときますよ(にやぁり)」
シーン02. 襲名…杯----------------------大広間。近隣の親分衆の集まる中、如月組7代目の襲名式が執り行われる。

「(この中に……仇がいるかもしれへん)」
直紀
「姐さん、皆様お集りのようで……」
「今、いくわ……」
すっと、直紀を従え。場に現れる。親分衆に向き直ると、キッと斜に構え

「御集まりの親分集皆々様に申し上げます。大親分亡き後、
この組はうちが仕切るよって。あんじょうたのんます。」
SE
「姉さん!」
「ガタガタ騒ぐな!……よろしゅう……御座いますな?
(親分集を見渡す)」
親分集側近
「ほう、それはまた……細腕繁盛記、というところですかな?
(嫌みな笑い)」
SE
「どすっ(短刀が畳に突き刺さる)」
直紀
「なめてもろたら、困りますな(にこっ)」
側近
「貴様ぁ」
直紀  
「動かんときっ」
 
 小柄数本が、畳に刺さる。
直紀
「女やからって、うちらは、なあんも困りませんなぁ。
困るんは、あんたらとちゃいますか?」
 
 にっと笑った顔のまま。
直紀
「(低めの早口で)女にメンツ潰されるんが、そんなに
恐いんか」
親分集
「なんやと!」
「直紀、控え」
直紀
「せやかて姐さん……」
「ええから、控えとき」

建前上、尊の口調はキツイが、目は笑っている。
 曰く、「よくやった」と。

「(親分集に向き直り)失礼いたしました。ご覧の通り
この組には御影を始め、生きのいいのがそろっています
よって、どうぞ御心配なく。この組のシマはうちらが立
派に守って見せます」

尊は暗に、こう言いたいのだ。
 「うちのシマに手を出すな」と。

親分集
「ぐっ……ふん、後で泣かんこっちゃな」
直紀
「ふん、鳴く?鳴いてるのはどっちや(嘲笑)」
  舞台裏02
紘一郎
「ほい、カットー(かちん)」
直紀
「ふい〜、終わったぁ(へなへな〜)」
紘一郎
「さっさと着替えて、配置につく!俺、これで上がるからな」
直紀
「はぁーい。あ、花澄さぁーん(ぶんぶんっ)
着物ほどくの手伝ってー」
紘一郎
「あ、いたいた。一さん、次のシーンなんですけど」
「次ってゆうと…ああ、如月組に挨拶代わりに舎弟何人かを
なぎ倒すシーンな。あれが、何か?」
紘一郎
「姉キがどーしても、雷雨飛び交うなかっつーシチュエー
ションに萌えまして(^^; 俺が結界張りますんで何かある前に
挨拶しとこうと思って」
「な、何かって(汗)」
紘一郎
「俺、結界張るの苦手なんすよ。(きっぱり)じゃ、がん
ばって下さい(すたすた)」
「いや、がんばれって……こ、紘一郎君ーーーー!!(泣)」
シーン03. 誘いの手--------------------
 人気のない工事現場
 瑞希、御影がたたずんでいる…

瑞希
「…しつこい女と思うかもしれないわ…」

おもむろに口を開き、すっ…と御影の両頬をなぜる瑞希。

瑞希
「あたしの組にいらっしゃい、悪いようにはしないわ
あんな、親分も死んだちっぽけな組にいつまでの義理立て
する必要無いわ。…ねぇ…お願い…
でなきゃ、あたしは…あんたを…殺さなきゃいけなくなる…」

訴えるような視線。
 黙って目をそらし、そっと瑞希の手をはらう御影。

御影
「…すいません、こたえる事は…できません
わしには、せねばならんことがありますので」

払われた手を握り緊め、きっと御影を見据える瑞希。

瑞希    
「…あの女ね…」

ぴく…かすかに御影の表情が変った…

御影
「…」
瑞希
「あの女の為でしょう!死んだ親分の為なんて嘘!
あの女の為に…むざむざ命を捨てるって言うの!」
御影
「…わしは…器用に世の中を渡っては生きられんのです
この話、聞かなかった事にします」
瑞希
「利口になりなさいよ!御影!」

瑞希の声に応えず、振り向きもせずに歩いていく御影。
 御影の後ろ姿を見送り、きゅっ…と手を握り緊める瑞希。

瑞希
「如月尊、このままじゃ…済まさないよ…」
舞台裏03

御影
「はぁ(汗々)」
瑞希
「ふー、お疲れ様っ」
直紀
「すごいっ瑞希さん艶っぽ〜い」
瑞希
「ふふっ人妻の色気ぇ〜ぶいっ」
花澄
「いいなぁ…御影さん、うらやましいです(しみじみ)」
「…そうですね」
瑞希
「んーみこちゃん、どうしたの(くす)」
「いえ…(ぶすっ)」
瑞希
「ふふ、ひょっとして嫉いた?みこちゃん」
「そ…そんなことないですよっ」
瑞希
「ふぅん、ほっぺひくひくしてるの…あたしの
気のせいかな(ぷにぷに)」
「き、気のせいですよっ!(真っ赤)」
直紀
「(くす)瑞希さんて、いぢめっこだぁ」

休憩・打ち合わせ

台本見ながら御影に話し掛ける瑞希。

瑞希
「(服のすそくいくい)み〜か〜げさん!このシーンなんだ
けどさ」
御影
「ん?どれだ」
瑞希
「東京であたしと御影さんがいたとこのシーン」
御影
「ん、ああ東京にてのシーンか、わしが尊さんの組に
戻るっちゅうとこだな」
瑞希
「うん、ここっであたしさ、御影さんのことを引き止め
たくて…でもできないって、葛藤するシーンなんだけどさ。
ここで、もっとこうらぶらぶモード出せないかなぁと思って」
御影
「ら、らぶらぶモードって、あーた(汗)そんな…」

いきなり焦る御影、くすくすと御影の顔をうかがいながら

瑞希
「ひょっとして、嫌なの?あたしとらぶらぶモードすんの」

くすくす…いたずらっぽい笑みを浮かべながら御影の顔を覗き込む瑞希。
 ちょっと、顔近づきすぎのよーな気が…

御影
「いや…それは、瑞希さん人妻だし…人様の奥さんに(焦)」
瑞希
「(くす)演劇だよ…これって?それでも?」
御影
「そう言われましても(汗)」
瑞希
「ぶー、御影さんみこちゃんとはらぶモードできるのに、
あたしじゃらぶモードやってくんないんだぁ」

急に拗ねた口調になる瑞希、でも目は笑ってる。
 ひたすらあせりまくる御影。

御影
「(滝のよーな汗)あ…う…そんなことは…」

ぺろっと舌を出し、す…っと御影から離れる瑞希。

瑞希
「じょおだんだよっ(くす)御影さん、本気で焦ってるぅ〜」
御影
「あ、あのね…」
直紀
「瑞希さーん、そろそろ出番だよ〜」
瑞希
「あ、はーい」

てててて

御影
「はぁぁぁ、焦った…」
「いや、あんなダンナ、はじめて見ましたよ」
御影
「…お前、瑞希さんにあんな風に言われて平静を保てるか?」
「…う、それは…」
豊中
「瑞希さん、強い…」

シーン04. 対決!

いきなり如月組に乗り込んだ、真紅のスーツに身を包んだ女。その傍らには
 長ドスを構えた男が、組のものに睨みをきかす。
 

瑞希
「(くすくす)一、そのへんにしときな」
「……」

値踏みするように、じっと尊を見て、はンと鼻で笑う。
 

瑞希
「ふぅん、あんたがあたしから御影をとった泥棒猫?」
SE
「どすっ」
「瑞希の姐さん!」

ヒュンと瑞希の顔、数ミリの所に小柄が突き刺さる。

直紀
「……なんやて、も一度ゆうてみ。姐さんを罵倒すンのは
うちが許さんよ(懐から小柄を見せる)」
「(すっと手で制する)直紀……待ちぃ」
直紀
「姐さん!せやけどっ(きっと睨む)」
「(正面向いて)瑞希はん、あんたも極道の女やったら……
ケジメの取り方……判りますな?」

どすっ!と抜き身で畳に突き立てられる二本の白木の長ドス。

「お互い恨みっこなしや、細工なんぞしてあらへんよって、
どっちでも好きな方取り」
瑞希
「おもしろい!あたしの御影にちょっかいだしたこと、
たっぷり後悔させてやるよっ(ちゃきっと長ドスを構える)」
「(すっ…とドスを抜き瑞希をにらみすえる)女の好いた
惚れたは命(たま)の取り合い。往生しいや!」
舞台裏04
  シーンの変わり目、何だかんだと片付けつつ

花澄
「瑞希さんに尊さん、かあ……いいなあ、御影さん」
御影
「……はあ?」
花澄
「そんな役なら、私が代りたいです……(深い溜息)」
御影
「………(^^;;;)」
シーン05 そして……---------------------

「行くん?」
御影
「……すいません」
「犬死に……するだけやで」
御影
「分かってます」
「そんなことして、死んだ大親分が喜ぶと思うてるん?」
御影
「それも、分かってます」
「……ほな、なんでやの!」
御影
「すいません、姐さん。
 わしは、こういう生き方しか、よぉしませんのや」
御影
(長ドス片手に背を向ける)
ひしっ!(注
背中にすがる)
「必ず……帰ってきておくれ……(涙)」
御影
「行って……めぇりやす(振り返らず歩き出す)」

で、何故か降り出す雪。
 舞台裏05
 カチン☆

直紀
「はい!カットぉ!うーんやっぱり絵になるなぁ(笑)」
「は、恥かしい……(赤面)」
直紀
「なーにを(笑)もーしっかり気分入っちゃって!涙だって
目薬使う必要無かったじゃない」
(赤面)

シーン06. 別れ

御影
「(荒い息)……ただいま……帰りました(にっ)」
「……おかえりなさい(涙をこらえた笑顔)」
御影
「……さすがに、疲れました」
「そう……。ゆっくりお休み……」
御影
「そう……します……(ぐらっ)」
(無言で御影を抱きとめる)
御影
「すいません、姐さん。血が……」
「ええんよ。あんたが……御影はんが戻ってきてくれた。
それだけでうちは幸せなんよ……。汚れるぐらい、どうっ
てことあらへん」
御影
「……すいません」

その時……
 物陰から飛び出した若いチンピラが、叫びながら銃を構えた。

??
「うわああああああああっ!」
御影
「姐さん!」

銃声。一発、二発、三発……

??
「は……はは……、やった……やったぞぉぉぉぉっ!」
御影
(無言で手にした長ドスを投げる)
??
「やった(どすっ)……え? あれ?(倒れる)」
「……御影はん? 御影はん!」
御影
「怪我は……ねぇですかい?(にっ)」

力のない笑みをうかべて振りむく御影の胸には、いくつもの赤黒い穴が穿た
 れていた。
 ゆっくりと膝をつき、仰向けに倒れる。

「いや、嫌ァ! 血が……血が止まらない……」
御影
「……姐さん、汚れます」
「あ、あかん……あかんえ……死んだら、あかんえ……。
お願いや……うち……うち、まだ何も言うてへん。まだ何
も聞いてへん」
御影
「姐さん……」
「うちを、うちをひとりにせんといて……。なぁ……うち、
ひとりは嫌やの……」
御影
「すいません……」
「謝らんでええ。せやから、死なんといて……。御影はん
……。武史……うち……うちは……」
御影
「……分かってます、姐さん。……尊」
「武史……(泣き崩れる)」

カチン☆

直紀
「カット! おっけー! 撮影終了っ、おつかれさまーっ!」
瑞希
「きゃーっ、みこちゃん大熱演ーっ! 熱っぅ〜い!」
花澄
「ほんとに、尊さん綺麗でしたねぇ」
「ど、どうも(照)」
豊中    
「瑞希さん、ちょっとメイキングのテープチェックします
んで」

ハンディカムとテレビにつながるボードが怪しげ(汗)。

豊中
「う〜ん、ちょっとここ、使えないかな」

‥‥‥‥ビデオからノートパソコンに映像を取り込んで、いじくる豊中。
 背後で見ている一、ユラ。

ユラ
「何に使う気?」
豊中    
「ポスターなんかも作れるかな〜、と思ってね」
「う”‥‥‥‥いいぞっ!(拳を握りしめる)」
豊中
「直紀さん直紀さん、こんなのどうですか」

切り出した画像はやや暗め。元がハンディカムの映像だからしかたがない。
 倒れた御影をだきしめて泣き崩れる尊の映像である。

豊中
「もうちょっといじくって、ポスターにでも」
直紀
「おっけ〜っす(にこにこ)」
御影
「なにしとるんや」

何故か赤い顔の御影。画面をのぞき込み、無言で豊中を殴る。

豊中
「(痛いと思いつつ)照れなくってもいいでしょう、旦那。
素直じゃないんだから」
御影
(無言の圧力)
「何をしているのかしら?(さりげなく殺気)」
豊中
「(汗)え〜とですね、ポスター用映像なんかもあると便利
かなと。旦那が照れまくってるようですが実は旦那‥‥‥」
SE
がしいっ

御影のごつい手に肩を掴まれ、声も出なくなる豊中。

御影
「こいつのいうことは気にしなくてええ」
「そうですか?(真っ赤)」
瑞希
「みこちゃ〜ん、着物かえて〜!」

尊が立ち去った後。

御影
「余分なこといいおって(赤い顔)」
豊中
「(にやにや)旦那、本心を隠したかったら接触テレパスに
触れないことですよ」
SE
ぼくっ

まともに殴られた頭を抱える豊中を置いて、立ち去る御影。

豊中
「いってぇ………何もマジで殴らなくたって」
ユラ
「馬鹿(冷)」
 
  NGシーン(笑)----------------
 
尊&瑞希
「御影さんっ! どっちを選ぶんですっ!?(睨む)」
御影
「……あ、いや、それは……」
尊&瑞希
「?」
御影
「……あ、悪い。セリフ忘れた」
琢磨呂
「くおらぁ、人が笑いたいの我慢してカメラ回してやってる
のに忘れるたー何事だ(爆)」
「ダンナ、本気であせっただろ?」
花澄
「(台本を見つつ、ぽそっと)尊さん、標準語に戻ってる……」
直紀
「結構、マジ、でしたよね」
「(はっと気付いてばばっと台本を見直す)す、すいません
リテークお願いします……
(いけない……つい本気になっちゃった)」
御影
「尊さん、これ、演技。演技だってば(汗)」
「あ……(汗)」

そして、休憩中の会話。

瑞希
「みーこちゃん(おもむろに後ろから抱き付く)」
「わ!きゃ!瑞希さん。なんですか」
瑞希
「さっきのシーンさぁ、みこちゃん結構マジだったね。
ぢつは本気で妬いてたのかなぁ?(くす)」
「な、な、なんですか、いきなり!(真っ赤)そんなこと
ないですっ」
瑞希
「ふぅん(くす)じゃ、今はそーいうことにしとく
(くすくす)」
「もう、瑞希さんてばっ(真っ赤)」
「いや〜、ダンナの冷や汗たらしてる顔なんか見たの初め
てだよな(笑)」
御影
「まぁな……。美女ふたりに同時に言い寄られた経験なん
か、ないだけにな」
「まぁたまた、そーゆーことを言う」
御影
「……十、おまえわしがその手のモテモテ系の人間だと思
うか?」
「う……、そう言われると返答に困るが」
「(ふぅん。……あ、あたし、どうして安心してるの?)」

舞台裏NG

花澄
「えと、ここでよろしいですか?(レフを持って)」
琢磨呂
「被写体の顔を良くみる! 顔の部分に光は当ってはいる
けどその部分がカメラから見えない! もっと右、右!」
花澄
「(あたふた)」
琢磨呂
「………」
花澄
「(うろうろ)」
琢磨呂
「そこだ動くなっ!」
花澄
「(びくぅ!)」
琢磨呂   
「よし、撮影開始!」

………………………………

花澄
「腕が………(レフ版が、ぐらっ)」
琢磨呂
「だーーーーーーーーー! カット! レフ、動かさない!」
花澄
「は、はーい」
琢磨呂
「もう一度! Go」

御影と尊が二人とも移動する

花澄
「(かたくなにじーっとうごかない)」
琢磨呂
「そこは角度を変えなきゃならん場面だってーーーーー!
   
うおー畜生これじゃ撮影が進まない! 誰か専門家呼んで
   
こいー!」
花澄    
「専門家…専門家の方って、誰でしょう(おろおろ)」

本気で殴りあわないよーに(汗)

直紀
「んー、次のシーンは御影さんと一さんの決戦、っと」
(レフを持ちながら)
「ジャガーノートvsガンビット……ですか」
直紀
「炎野さん、御影さんの特殊メイク終わった?」
火虎左衛門
「はっはっは、どーだ。ばっちりだろ」
御影
「うぉ、血糊がべとついて気色悪ぅ」

顔の半分が血まみれの特殊メイクを施された御影が、火虎左衛門の背後から
 顔を出す。心構えができていても、そのインパクトはかなりのものだ。

「ダンナ、本気はナシですぜ」
御影
「努力はしよう。ただ血糊が目がふさがってるから、遠近
感がつかめん。手元が狂ったらスマンな」
「はぁぁうぅぅぅ(涙)」
直紀
「それじゃ用意いいですかぁ?」
琢磨呂
「こっちはいつでもOKだぜ!(カメラを構える)」
直紀
「はーい、それじゃいきまーす。シーン34カット8、よーい
……スタート!(カチンコっ)」

対峙する御影と十。唸る拳!

直紀
「流石ねー、迫力あるぅ(惚れ惚れ)」
花澄
「そうですねえ、凄い」
琢磨呂
「おい、にーちゃん達目がマジだぜ!?」
豊中
「今の御影さんのパンチ打ち抜いてたぞ(^^;」
花澄
「でも誰が止められるんでしょう?」
 
御影
「(血塗れの顔で)くぅふっふっふっふ、楽しいよなぁ!
そうやろ、十!!(どごっ、脇腹をかすめて拳が地面を打つ)」
「チイィ、この化け物野郎がぁぁっ!(脇腹の激痛に歯を食
いしばり、肘を取りに行く)」
火虎左衛門
「これじゃ、このシーンは使えないな。ヤクザの出入りじゃ
無いぞ。作り直すか?」
「そんな予算ないはず、止めないと」
ユラ
「そろそろ、あたしが本当に必要かな?」
瑞希
「ふっ、大丈夫よ(にやり)」
御影&十
「うぉぉぉおおおおおおっっっっ!!」

その時、二人の間に割って入る影。
 御影の鼻先には漣丸、十の顔にはエビアンの膜。

「はい、そこまで(はぁと)」
直紀
「迫力あるけど、怪我されちゃかなわないからねっ」
特殊効果NG-------------
 草むらがたなびく夕暮れ。
 対峙する、男が二人……

「瑞希の姐さんはてめえみたいな野良犬にゃあつりあわ
ねえンだよ。とっとと手ぇひいてもらおうか(にやり)」
御影
「野良犬にさらわれたてめぇはいい面の皮だよな(冷笑)」
「てめぇ………、殺す」
御影
「やってみな、苦労するぜぇ」
 
 戦う御影と一。賭けるものは組の威信などではなく、男のプライド。
直紀
「はいっ、そこでキノエちゃん雷っ!」
キノエ
「まかせてっ」

バリバリバリバリバリ!

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛(感電中)」
御影
「(うーむ、筋肉が痙攣してしゃべることすらできんな)」
直紀
「きゃーっ、にのまえさーんっ!キノエちゃんストップ
ストップぅっ!」
キノエ
「あれ?やりすぎちゃったかな……」
直紀
「にのまえさーんっ!しっかりしてーっ!」
「し、死ぬかと思った……」
ユラ
「で?治療してほしいのは誰?(わくわく)」
御影
「わしは平気だから、十を看てやってくれるか」
ユラ
「はいはぁい。さぁ一、まずこれを飲みなさい」
「いや、大丈夫だから」
ユラ
「焦げてるのに大丈夫なわけないでしょ。いいから飲む!」

極道の女達ポスター作成秘話?

直紀
「尊さんこっちこっち、もーちょっと寄ってー」
花澄
「直紀さん、そんなに腕ふりまわしちゃ、着崩れちゃう」
立ち位置を支持する、直紀。

「こ、こうですか?」
瑞希
「(くす)そぉんなに真っ赤じゃ、ポスター使い物にならな
いわよ、みこちゃん(くすくす)そう思わない、御影さん?」
御影
「いや、その…(汗)」
「わ、わかってますっ(赤面)」
直紀
「あ、瑞希さん。ドス抜き身でこー下ろしてっ。一さん
そこに立て膝ついてねー」
瑞希
「おっけー。こう?」
するっとスリットから太股が覗く。

琢磨呂
「うをーーーーー!!萌えーーーーー!!!」
「(平常心、平常心だっ!平静を保て、十!!直紀さんが
いるんだぞ!ああ、でもスーツがぁぁぁっっ!!)」
直紀
「うんっ!かぁっこいいー瑞希さん(はぁと)ってこらっ!
琢磨呂君、萌えないっ(笑)」
琢磨呂
「そりゃ、無理ってもんだぜ。直紀ちゃんー」
直紀
「もぉ、カメラマンがそんなじゃ困るでしょーが(^^;
さぁって、炎野さん!いいよぉ」 
火虎左衛門
「よっしゃ!いっちょ、ハデにいくぜ!」

そして、会社では?

ちゃららら〜
 音楽とともに、延々と流れるテロップ

直紀
「ふふーんっ!(上機嫌)どう?すっごいでしょお」
上司
「………………………」
同僚
「………………………」

暗い上映室で画面を見つめる上司と同僚の顔が、やけに白く見えるのは
 画面の光りのせいだけではないような気もするが……気のせいだろうか?
 テロップも終わり『完』の文字が大画面に映し出されても微動だにしない、
 上司&同僚。さすがにいぶかしく思って、ひょいっと顔を覗き込む。

直紀
「ねぇってばっ!感想はーーーー??」



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