とある朝、6時。花澄の部屋。
目覚しが鳴っている。
- 花澄
- 「……わかった、わかったって」
布団から手だけを出し、目覚しへと伸ばす。
くにっ。
- ??
- 「ちぃっ」
- 花澄
- 「は?!」
掛け布団をはねのけて起き上がり、目覚し時計の方向を改めて見る。
目覚しのとなりにてん、と座っていたもの。
- 花澄
- 「……何で?」
同日、夕刻、ベーカリー楠。
からんころん。
- 観楠
- 「いらっしゃい……花澄さん?」
いつもにも増して、ぼーっとした風情の花澄である。
- 花澄
- 「こんにちは。ええと、一さん、今日来られました?」
- 観楠
- 「いえ、今日はまだ見てないですよ。どうしたんですか?」
- 花澄
- 「ああ、そっか。店長さんも被害者でしたっけ」
- 観楠
- 「?」
花澄は背中に背負ったリュックを降ろし、ふたを開ける。
と同時に。
- 観楠
- 「わっ」
真っ黒なおかっぱの髪、金色の真ん丸の目、市松人形特有の白い肌。身長50cmほどの人形が頭を突き出していた。
- 花澄
- 「憶えてらっしゃいますか、悪戯電話のこと」
- 観楠
- 「え、ああ、文雄さんの声の」
- 花澄
- 「この子が、犯人です(あっさり)」
- 観楠
- 「はあ?」
まじまじと見る観楠の視線の先で、それはちい、と一声鳴いて身を縮めた。
- 花澄
- 「木霊、なんだそうです。最初に見た時は、もっと木の瘤
みたいな感じだったんですけど、どうやら家にあった球体関節人形に取り憑いたみたいで」
- 観楠
- 「そんなことが出来るんですか?」
- 花澄
- 「木粘土使ってますから、木霊も取り憑き易かったんでしょ
う。それに、元々球体関節人形って、『取り憑き易い』んだそうです。中身、空洞だから」
- 観楠
- 「……はあ」
- 花澄
- 「でも、ちゃんと山まで連れていったのに。散々迷って、
一日がかりで行ったのに……」
恨めし気に見られて、木霊はますます身を縮めた。
- 花澄
- 「今朝から帰れって言ってるんですけれども、言う事聞か
ないんです。だから、このまま家に置いといていいものかどうか確認したいな、と思って」
- 観楠
- 「大丈夫のような、気もしますけどね」
- 花澄
- 「そう思いたいんですが、前歴が前歴だけに」
からんころん。
- 木霊
- 「ぢぃっっ」
全身黒尽くめの姿にどうやら思いっきり脅えたらしく、木霊はリュックから飛び出すとあっという間に花澄の肩までよじ登った。
- 御影
- 「……正直な反応やな」
- 花澄
- 「ご、ごめんなさい(汗)」
- 御影
- 「いや、いいけど。……しかしこれは」
- 花澄
- 「木霊憑きの人形です」
- 御影
- 「へえ?」
サングラス越しの視線に、木霊は小さくなった。
- 花澄
- 「こういうのって、害になるものでしょうか?」
- 御影
- 「いや、害になるほどのものとも思えんが」
それは確かに、御影には害にもならないだろう。
但し、その判断が一般的かどうかについては疑問が残る。
……が、一般的だろうがなかろうが、花澄にはその判断基準が皆無である。
そして彼女からすれば、一の友人であり、尊の『恋人』(おいおい)である御影は充分専門家の範疇に入る。
よって。
- 花澄
- 「そうか。なら、大丈夫かな(安心)」
- 観楠
- 「大丈夫って、花澄さん……」
- 花澄
- 「害にならないのならば、家に置いといたって問題無いん
です。それならそれで連れてかえれば済みますから……よし、おいで」
肩から木霊を手に受け、リュックの中に移す。
- 花澄
- 「それじゃ……と、食パン一斤下さい(にこにこ)」
- 観楠
- 「あ、はい」
- 花澄
- 「ありがとうございます」
とことこと、パンと木霊を抱えて帰ってゆく花澄を見送りつつ。
- 観楠
- 「大丈夫かなあ……」
- 御影
- 「どうかなぁ……」
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