エピソード509『思い出のアップルティ』


目次


エピソード509『思い出のアップルティ』

帰り道で

夕方、帰宅途中の花澄。偶然、同じく帰宅途中の瑞希と鉢合わせる。

瑞希
「あれぇ、花澄さんだ。やっほー」
花澄
「瑞希さん、こんにちは」
瑞希
「なんですか? その包み」
花澄
「これですか? 近くにハーブショップができて、色々買 い込んできたんです」
瑞希
「へぇ、どんなもんですか?」
花澄
「カモマイルとラベンダーと、あとアップルティ、ハイビ スカスを少々」
瑞希
「アップルティ……」

アップルティ、という単語を聞いて、瑞希の表情がわずかに変る。

瑞希
「アップルティ……ですか……」
花澄
「瑞希さん、アップルティお好きなんですか?」
瑞希
「ん……特に好きだってわけじゃないけど、一時期凝って たな。不純な理由だけど」
花澄
「不純な理由ですか?」
瑞希
「そ、不純な……ね。あ、立ち話も何だから、うちにによっ てきませんか」
花澄
「いいですね、早速これいただきましょうか」

そして斎藤宅。
 かちゃかちゃと買ったばかりのアップルティを煎れる。
 ゆっくりとアップルティを口に含む瑞希。

瑞希
「思い出なんですよ……」
花澄
「思い出?」
瑞希
「学生の頃の、ね」

遠くを見る目になる瑞希、思わず瑞希に見入ってしまう花澄。

アップルティとの出会い

回想シーン。
 とある専門学校。

瑞希
「いるかな……織田先生」
友人
「いるに決まってんでしょ」

廊下から、そろそろと職員室を覗き込む生徒二人。
 他の教師と談笑している、30程の細身で長身の男を見ている。
  

瑞希
「ふふっ、織田先生だぁ」
友人
「ねぇ、どこがいいの? あんなおじさん」
瑞希
「失礼な、32はおじさんじゃないわよ。とにかくいいの!」
友人
「あんたの趣味ってわかんない……ひとまわり年上よ……」
瑞希
「いいもんわかんなくて、よぉし、失礼しまぁす」

からから、と職員室に入る瑞希。

瑞希
「おーだせーんせいっ」
織田
「ああ、富良名か」
瑞希
「あの、ちょっと教えて欲しいんですけど」
織田
「よく聞きにくるな、富良名は」
瑞希
「え、そうですか(照れ) あれ……なんか、いい匂いしま すね」
織田
「ああ、アップルティだよ、飲んでいくか?」
瑞希
「わぁい、もらいます。先生、凝ってるんですか」
織田
「いや、単にアップルティが好きなんでね。これが」
瑞希
「そうなんですか(くす)」
織田
「おかしいか、そんなに?」
瑞希
「そんなことないですよ」

そして、いれたてのアップルティを飲みながら談笑する瑞希。

瑞希
(先生……アップルティ好きなんだ)

回想終わり……
 かちゃ……とカップを置く瑞希。

瑞希
「その話、聞いてから……かな、アップルティに凝ったの は……」
花澄
「そうなんですか」
瑞希
「今考えると……お馬鹿よね。先生の好きなアップルティ 飲んでるだけで、幸せ〜って気分になれた」

時は過ぎ、思い出になる

花澄
「それから、どうなったんですか? 先生は」
瑞希
「……結局、そのまんまだったのよね、自己完結しちゃっ て勝手にはしゃいで、勝手にあきらめて……でも」
花澄
「……好きだったんですね、先生の事、それだけの事でも」
瑞希
「……その頃は……ね。でも、先生は……すぐに婚約しちゃっ たのよね」

回想シーン……

友人
「……もう……いいの? 瑞希」
瑞希
「うん……なんか……ね、あっさりしてるな……涙もでて こない……冷たい女なのかな……あたし……」

うつむく、瑞希。

友人
「そんなこたないよ……」
瑞希
「……そう……かな……」

ぽつ……
 ひとつ、またひとつ落ちてきたのは……涙。

瑞希
「しまった、うー泣くな! 涙腺! 聞いとんのか! こ れしきで……泣いてたまるか!」
友人
「……いーから、泣いてるときくらい静かに泣け」
瑞希
「だってさ、シャクじゃないよ……」

ぐいっと、手元のカップの中身ををがぶ飲みする。
 それは、すっかりさめてしまったアップルティ……
 織田先生が好きだった、アップルティ……

瑞希
「……織田先生……」

こうして、見事に恋は破れ去った……
 回想終わり

花澄
「……そうですか。そんな思い出があるんですね」
瑞希
「もう……先生のことなんか、顔も思いだせないのに…… ね」

くすっと笑う花澄。

花澄
「ほんと、女の子って可愛いですね」
瑞希
「そうね、あの頃が一番可愛かったんだろうな……あたし」
花澄
「瑞希さん……女の人はいつだって可愛いですよ」
瑞希
「(くす)そうね……そうだと、いいね」



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部