夕方、帰宅途中の花澄。偶然、同じく帰宅途中の瑞希と鉢合わせる。
- 瑞希
- 「あれぇ、花澄さんだ。やっほー」
- 花澄
- 「瑞希さん、こんにちは」
- 瑞希
- 「なんですか? その包み」
- 花澄
- 「これですか? 近くにハーブショップができて、色々買
い込んできたんです」
- 瑞希
- 「へぇ、どんなもんですか?」
- 花澄
- 「カモマイルとラベンダーと、あとアップルティ、ハイビ
スカスを少々」
- 瑞希
- 「アップルティ……」
アップルティ、という単語を聞いて、瑞希の表情がわずかに変る。
- 瑞希
- 「アップルティ……ですか……」
- 花澄
- 「瑞希さん、アップルティお好きなんですか?」
- 瑞希
- 「ん……特に好きだってわけじゃないけど、一時期凝って
たな。不純な理由だけど」
- 花澄
- 「不純な理由ですか?」
- 瑞希
- 「そ、不純な……ね。あ、立ち話も何だから、うちにによっ
てきませんか」
- 花澄
- 「いいですね、早速これいただきましょうか」
そして斎藤宅。
かちゃかちゃと買ったばかりのアップルティを煎れる。
ゆっくりとアップルティを口に含む瑞希。
- 瑞希
- 「思い出なんですよ……」
- 花澄
- 「思い出?」
- 瑞希
- 「学生の頃の、ね」
遠くを見る目になる瑞希、思わず瑞希に見入ってしまう花澄。
回想シーン。
とある専門学校。
- 瑞希
- 「いるかな……織田先生」
- 友人
- 「いるに決まってんでしょ」
廊下から、そろそろと職員室を覗き込む生徒二人。
他の教師と談笑している、30程の細身で長身の男を見ている。
- 瑞希
- 「ふふっ、織田先生だぁ」
- 友人
- 「ねぇ、どこがいいの? あんなおじさん」
- 瑞希
- 「失礼な、32はおじさんじゃないわよ。とにかくいいの!」
- 友人
- 「あんたの趣味ってわかんない……ひとまわり年上よ……」
- 瑞希
- 「いいもんわかんなくて、よぉし、失礼しまぁす」
からから、と職員室に入る瑞希。
- 瑞希
- 「おーだせーんせいっ」
- 織田
- 「ああ、富良名か」
- 瑞希
- 「あの、ちょっと教えて欲しいんですけど」
- 織田
- 「よく聞きにくるな、富良名は」
- 瑞希
- 「え、そうですか(照れ) あれ……なんか、いい匂いしま
すね」
- 織田
- 「ああ、アップルティだよ、飲んでいくか?」
- 瑞希
- 「わぁい、もらいます。先生、凝ってるんですか」
- 織田
- 「いや、単にアップルティが好きなんでね。これが」
- 瑞希
- 「そうなんですか(くす)」
- 織田
- 「おかしいか、そんなに?」
- 瑞希
- 「そんなことないですよ」
そして、いれたてのアップルティを飲みながら談笑する瑞希。
- 瑞希
- (先生……アップルティ好きなんだ)
回想終わり……
かちゃ……とカップを置く瑞希。
- 瑞希
- 「その話、聞いてから……かな、アップルティに凝ったの
は……」
- 花澄
- 「そうなんですか」
- 瑞希
- 「今考えると……お馬鹿よね。先生の好きなアップルティ
飲んでるだけで、幸せ〜って気分になれた」
- 花澄
- 「それから、どうなったんですか? 先生は」
- 瑞希
- 「……結局、そのまんまだったのよね、自己完結しちゃっ
て勝手にはしゃいで、勝手にあきらめて……でも」
- 花澄
- 「……好きだったんですね、先生の事、それだけの事でも」
- 瑞希
- 「……その頃は……ね。でも、先生は……すぐに婚約しちゃっ
たのよね」
回想シーン……
- 友人
- 「……もう……いいの? 瑞希」
- 瑞希
- 「うん……なんか……ね、あっさりしてるな……涙もでて
こない……冷たい女なのかな……あたし……」
うつむく、瑞希。
- 友人
- 「そんなこたないよ……」
- 瑞希
- 「……そう……かな……」
ぽつ……
ひとつ、またひとつ落ちてきたのは……涙。
- 瑞希
- 「しまった、うー泣くな! 涙腺! 聞いとんのか! こ
れしきで……泣いてたまるか!」
- 友人
- 「……いーから、泣いてるときくらい静かに泣け」
- 瑞希
- 「だってさ、シャクじゃないよ……」
ぐいっと、手元のカップの中身ををがぶ飲みする。
それは、すっかりさめてしまったアップルティ……
織田先生が好きだった、アップルティ……
- 瑞希
- 「……織田先生……」
こうして、見事に恋は破れ去った……
回想終わり
- 花澄
- 「……そうですか。そんな思い出があるんですね」
- 瑞希
- 「もう……先生のことなんか、顔も思いだせないのに……
ね」
くすっと笑う花澄。
- 花澄
- 「ほんと、女の子って可愛いですね」
- 瑞希
- 「そうね、あの頃が一番可愛かったんだろうな……あたし」
- 花澄
- 「瑞希さん……女の人はいつだって可愛いですよ」
- 瑞希
- 「(くす)そうね……そうだと、いいね」
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