エピソード510『ベーカリーのとある一日』


目次


エピソード510『ベーカリーのとある一日』

(ベーカリー・朝5時半)

観楠
「ふぁぁぁ……さーて、今日も一日頑張るかぁ(あくび)」
普通のパン屋は午前3時ごろに仕事を始める。パンの製造工程を考えると、こんな時間に準備始めて朝のお客をさばけるわけないのだが……

観楠
「とりあえず、菓子・惣菜から始めて、と……(あくび)」
あくびなんぞしてる場合じゃない(汗)菓子パンやら惣菜パンの生地は作ってから一日冷蔵庫で寝かせる。次の日、寝かせた生地をホイロと呼ばれる加湿棚に入れて一時間前後発酵させてから2次加工・焼成となる。その間に売り場のメインとなる食パンを2種類作るわけなのだが……観楠は食パンのことなどお構い無しに生地が並んだ鉄板をホイロに入れていく。やがて棚が全部埋まった所で

観楠
「ふんふんふーん(鼻歌)」
粉袋から無造作に小麦粉を両手でつかみ出す。食パンを作るのには強力粉を使用するのだが、なにも手に握り締める事などしなくても良い。

観楠
「今日は……平日だし、あまりお客来ない日だから少な
目にいっとくか。食パン、食パン……四角いブロック、
3斤棒……ぅ、ょっ、と」
が。観楠が握り締めた手を作業台の上で開くとどういうわけだか出来立ての食パンがあらわれた(汗)この不思議な能力のおかげで、観楠はのんびりできるのである(笑)

観楠
「ほぃ、ほぃ、ほぃ……っ」
作業台の上はあっという間に食パンで一杯になる。食パンをケースに移し、観楠はそのまま24本の食パンと14本のバケットを作り上げた。

観楠
「朝はこんだけありゃ充分だな。さて、と」
(ベーカリー・朝6時半)

観楠
「そろそろいいかな?」
加湿棚の中を覗き、生地の発酵具合を確認。

観楠
「これとこれとこれ……これも……大丈夫だろ」
釜の温度を確認し、生地の載った鉄板を入れていく。加湿棚の空いたところには入りきらなかった生地を放り込む。

観楠
「焼きあがるまで……揚げ物揚げ物」
ドーナツ生地はメーカー物である(汗)以前、自分で生地を練って常連に試食してもらったのだが「イマイチ」という感想を貰ってしまったので、メーカー仕入れに変えたのだ。

観楠
「……ドーナツ4色セットって割と人気あったなぁ。
今日もやってみるかな……」
……そーゆーことは前もって決めておくのが普通である。メーカーから生地を仕入れる場合、商品展開は一週間くらいまとめて決めてそれにあわせて発注をするので、いきあたりばったりだと後で痛い目にあうのがオチである(汗)

観楠
「でもドーナツ生地あったっけか?……」
在庫の管理もきちんとしないと、棚卸しで泣きを見る(汗)

観楠
「ま、いーや。今日の特売は別にあるし、定数でいこう」
(ベーカリー・朝7時)

観楠
「っと、もうこんな時間か……さて。店開けますか!」
パンが焼きあがるまでのわずかな時間で、売り場の電気を入れ、扉の鍵、シャッターを開けていく。商店街に人気は少なく、時折店の前を通るのはこれから出勤といった出で立ちの人だけである。

観楠
「うん、今日もいい天気だ!(笑)」
パートさん
「おはようございまーす」
観楠
「おはよー(笑)んじゃ、加工から入ってもらえる?」
パートさん
「わかりましたぁ」
と、そのとき、ひどいブレーキ音をたてて、一台の自転車が店の前に止まった。からんからんからんからんっっっっ

観楠
「おぅわ(汗) いきなりお客だよー!?(汗)」
パートさん
「はいはーい」
勢いよくドアをあける白い人影。と、

ユラ
「あああ、しまったぁ、また白衣で来ちゃった!!」
 店に一歩踏み込みかけて、慌てて飛び出す。
パートさん
「店長、お客さんは?」
観楠
「……と思ったけど、違ったみたい……いや、そーでも
ないのかな? 向いのハーブ屋さんだった様な気がする
んだけど……(混乱)」
からんからんっっもう一度入って来たときは、ジーンズにTシャツ、長い髪は適当にひっつめて、結った毛先が頭のあちこちから跳ね出しているという格好である。

ユラ
「おはようございまーす!!」
観楠
「あぁ小滝さんでしたか、おはようございます(笑顔)
今日はまた一段と早いですねぇ……」
ユラ
「いえ、天気もいいし、今日は公園で鳩と一緒にごはんに
しようかなーって。当たれるうちに太陽さんにあたっとかな
いと、体、へんになりそう」
言いながら、パンを選んでカウンターに置く。代金を払いながら、ふと足元に目を落し、

ユラ
「あ゛あ゛っっっ!!今日ってばもう…」
つっかけているのは、実験室用のナースサンダルだったりする。ま、白衣で飛び出してくるぐらいだから、そんなもんだろう。

ユラ
「今朝も五時起きで実験してたんですよー。夕方はバイトが
ありますし。なんかもう、朝って凄くあわただしくって…」
いいわけのように言いながら、パンの包をうけとり、にこっと笑って一礼。ちょっと時計に目をやって、

ユラ
「よし、実験室に戻る時間まであと30分!
…行ってきます!」
からんからん…窓の向こう、白衣をひるがえした自転車があっという間に遠ざかってゆく。

パートさん
「…なんというかまあ、目覚し時計みたいなお嬢さんです
ねえ…」
観楠
「…(笑)」

からからん。
 
 長身の男が入ってくる。

「キノエ、キノトお前らは外で待ってろ。シシャモパンでい
いな?」

遅番の仕事を終えたらしく疲れ切った表情の十だ。

観楠
「おはよう、徹夜かい?」
「ええ、ちょっと手間取っちゃって。クリームパンとチョコ
コロネあります?あとシシャモパン」
観楠
「甘い方はちょっと待ってもらえれば出来るよ。ドーナツな
ら上がってるけど」
「じゃあ、待ちます」
 
 しばらくして、
 
観楠
「はい、チョココロネにクリームパン。焼きたてだよ」
「じゃあ、それにドーナツとシシャモパン二つづつ下さい。
あ、あと」
観楠
「?」
「クリームパンとチョココロネのこと、内緒にしといて下さ
い」
観楠
「(なんだかなぁ)はいはい(^^;;」
「それじゃ」

からからん。(湊川宅・7時半)

かなみ
「ん……(くぅぅー)」
観楠
「ただいまぁ。かなみちゃん、起きる時間だよ」
かなみ
「……ふぁ……とうさま、おはよ」
観楠
「はい、おはよう(笑)ご飯作ってるから、顔洗って
おいで」
かなみ
「ん……」
観楠
「えーと、目玉焼き……げ、黄身が潰れたっ(汗)スクラ
ンブルエッグに変更っ!と、レタスレタス……トマトと
キュウリ切って、あ、カイワレも刻んどこう。で、ツナ缶
開けてサラダはこれでよし。あとはトーストか。あ。かな
みちゃーん」
かなみ
「なぁに?」
観楠
「ホットミルクとカフェオレとどっちがいい?」
かなみ
「んーと……ミルクがいい!」
観楠
「はーい。ミルク温めて…………トーストも焼けたな。よし
朝ご飯の準備はこれでOK。ご飯できたよー」
かなみ
「はーい。……んしょ(椅子にすわる)いただきまぁす!」
観楠
「はいどうぞ(笑)……って、もうこんな時間か」
かなみ
「おみせのじかん?」
観楠
「んー、かなみちゃん、ごめんね(苦笑)食べおわったら
お皿流しに入れといてくれるかな?」
かなみ
「うん」
観楠
「じゃぁ、行って来るね。あ、かなみちゃん、夜はなにが
いい?」
かなみ
「んーとねぇ……」
(ベーカリー・朝8時20分)この時間になると通勤・通学の人達で駅前があふれかえり、商店街の生鮮
 ・青果・飲食店が本格的に活動を始める。

観楠
「お待たせっ!(汗)」
パートさん
「店長、遅いですよっ!」
観楠
「ごめんごめん(汗)えと、あとなにができてない?」
パートさん
「なにがって、いろいろですっ!」
観楠
「りょーかぃっ!んじゃ、レジに専念して、バックは
気にしなくていいから売れるものなんでも売って行こ………
うわ!」
ずどどどどどどどどどどど! 砂塵を巻き上げ突っ走る人物一人。

琢磨呂
「(10m彼方から)てんちょぉぉぉぉぉ! カツサンド2つじゃ
ああああ!」
観楠
「ほい、ほい(カツサンドを流れる手つきで袋ずめにする)」
キキキキキ……ずごん! カウンターに激突するようにして止まる琢磨呂。観楠はすかさず………

観楠
「はいごくろうさま。XXX円でございま〜す」
琢磨呂
「オーケイ、1000円払っておく。オーバーした分は付けにま
わしてくれ、釣り銭受け取る時間がねぇ」
観楠
「了解。毎度ぉ〜〜〜」
すでに琢磨呂は砂塵とともに吹利駅へと爆走し始めていた。

パートさん
「毎度毎度忙しい人だねぇ〜」
観楠
「まぁあれが琢磨呂くんだからね。さ、これからが正念場だ!」
(ベーカリー・朝10時)通勤・通学ラッシュがおわって一段落の時間。かと思いきや実はそうでなく、ここからは朝の一仕事を終えた主婦達が買い物に出かける時間の始まりなのだ。

観楠
「さーて、朝のラッシュはしのいだぞ」
パートさん
「店長、本日のオススメがあまり残って無いんですけど
どーします?」
観楠
「……そんなに売れちゃったの?(汗)」
パートさん
「クルミボール平日110円が70円でしょ?そりゃ
売れますよ」
観楠
「70?90じゃなくって?(汗)」
パートさん
「前90にしたら残ったから70で行こうって、言って
たじゃないですか」
観楠
「む、むむぅ……そんな設定だったか……(汗)」
……商品の展開を考えるときには、利益も考慮にいれること。売れればいいってわけでもないのだ。

観楠
「ま、やってしまったなら仕方ないか。んじゃ追加つくる
から……あとどれくらい持ちそう?」
パートさん
「そうですねぇ……」
*****(商店街関係者が絡むなら、これ以降ですね)*****(ベーカリー・12時)

観楠
「はぁ……どーにか落ち着いたか」
パートさん
「んじゃ、そろそろあがりますね」
観楠
「お疲れ様(笑)さーて……喫茶の方、準備しないとな」
忙しい時間その一「朝の部」が終了すると、ほんの2時間ほど余裕ができる。といってものんびりできるわけでもないのだが。

観楠
「メシ……なんにしようかな……」
からんからん

直紀
「かっなみさーん、ご飯ちょうだいっ!」
観楠
「あ…相変わらずだね、直紀さん(^^;
今日は何にする?」
直紀
「バジリコのバケット一つぅ!(びっ)あ、これから
喫茶の準備ですか?」
観楠
「そう(笑)あ、紅茶いれようか?」
直紀
「もぉ、休めるときに休まないとだめですってば!それくらい
自分でやりますから、ねっ(にこっ)」
ぱたぱた厨房に入ってゆき、慣れた手つきで紅茶を煎れる。

直紀
「はい、観楠さん」
観楠
「ありがと。なんか、悪いね(苦笑)」
直紀
「どーいたしましてっ。んにゃ?携帯??はい、柳です」
上司
『柳ぃ!お前どこに行ってる(汗)』
直紀
「美食を求めて、ちょっとそこまで(笑)」
上司
『訳の解らん事で会議を抜け出すな!とっとと戻ってこい!』
直紀
「酷いぃ、バケットは焼きたてがおいしーのにぃ!」
上司
『……柳、30分で戻らなかったら月末どーゆー事になるか
解ってるな(にやり)』
直紀
「や…(^^;
やーねぇ、すぐ戻りますよぅ!(極上笑顔)」
ぴっと携帯を切り

観楠
「バケット一つ、テイクアウトだね(^^;」
直紀
「はうう、おあずけ食らった犬の気分(しくしく)」

カランコロン。
 入ってきたのはジーンズに黒いラグビージャージ姿の御影だった。

御影
「や、どーも」
観楠
「あ、御影さんいらっしゃい。あれ? 今日は平日なのに
私服ですか?」
御影
「いやぁ、ゼミで宴会こみの合宿があるんで。無理言うて
昼から抜けさせてもらったのだ」
観楠
「そういえば、学生さんだったんですねぇ」
御影
「いちおうは(笑)
 ああ、いつものように紅茶をよろしく(パンを物色)」
観楠
「わかりました。
 あ、そうそう。新製品があるんですけど、試食してもら
えません?」
御影
「ああ、ええよ。……ほぉ、これが……ミニあんぱんに青
ノリをかけただけに見えるが……。あ、いや、このフォル
ムはもしや……」
観楠
「そう。たこやきパン。……どうです?」
御影
「うーん、ソースがまだ弱いかな」
(ベーカリー・夕方4時半)この時間になると、学校帰りの学生達や夕飯の買い物に来たお客などで商店街はまた賑わう。賑わう、といってもこの商店街から人気が絶えるのは深夜から未明にかけてだけであるが。

観楠
「うーむ……やっぱり人手足りないなぁ……誰かバイト
探さないとな、ほんとに」
お茶を入れながら、パンの追加を焼きながら、レジもやるというのはやはりきついものである(苦笑)

観楠
「でも、なんとかなってるもんなぁ……慣れてきたって
のもあるけど」
からんころん

観楠
「あ、いらっしゃい」
「こんにちわぁ」
観楠
「あれ、久しぶりだね」
「今日は予備校もないんで、ちょっと息抜きでもしようか
なって思ったんで……来ちゃいました(にこ)」
観楠
「何か飲む?」
「コーヒー……もらえますか?」
観楠
「ちょっと待っててね」
(ベーカリー・夕方5時半)5時半を過ぎれば、あとはいかに商品を売り切るか、という時間帯である。パンは焼き物であるがそんなに保存が効くものでもないので(……保存できるのは食パン系くらいである)菓子パンやら惣菜パンはあまれば廃棄処分になる。

観楠
「かといって、捨てるのももったいないからこうやって
袋詰めしてセットで売るんだよ……これが目当てでくる
人も実際いるしなぁ(笑)」
陳列されている商品の残り具合を見ながら適当に袋詰めを作っていく。

観楠
「合わせて500円前後を380円。これ以上はまから
ない(笑)」
……誰に向って喋ってるんだ(汗)

観楠
「これでも余る時は余るし……」
中年女性
「あのー」
観楠
「あ、いらっしゃいませ」
中年女性
「このセットなんですけど、こっちのトレイに載ってる
分と中身交換できませんか?」
観楠
「え、あぁ、かまいませんよ(笑)じゃ、好きなの5つ
ほど選んで下さい(笑)」
中年女性
「いいんですか?すいません(苦笑)」
観楠
「いえいえ、どーいたしまして(笑)」
中年女性
「じゃ、これとこれ、と……」
これくらいはサービスしとくもんである(笑)売れなくなる時間である以上、少しでもお金に変えておくのが得策。(ベーカリー・6時半)

観楠
「ふぁ〜〜……と、あと30分かぁ……(あくび)
夕飯何がいいって言ってたっけ……」
TELTELTELTEL……

観楠
「おっと。御電話有り難うございます。ベーカリー楠
で……あ、かなみちゃん?うん、うん……わかった。
じゃ、もうすぐしたら帰るからね(笑)さて……」
閉店前には本日分の事務処理を全て終わらせておく。空いた時間は有効に使うべし。

観楠
「仕入れは今日はなかった。発注は昨日済んだし……
他の伝票なにかあったかな?」
(ベーカリー・夜7時)

観楠
「さて、閉めるか」
店内にお客がいないのを確認して。

琢磨呂
「(猛スピードで)わーっ、わーっ!店長ストップぅ!」
観楠
「!(シャッターを下ろす手が一瞬ひるむ)」
音速で進入してきたかと錯覚するほどの猛スピードで閉まりかけたシャッターを潜り抜け、カウンターに激突するようにして止まる琢磨呂。乞われかけのピストンエンジンのように、息が切れている。

琢磨呂
「はぁはぁはぁはぁ………間に合った」
観楠
「何? 忘れ物?」
琢磨呂
「明日の朝の食糧補給だ。一発目からキツイ授業があるんで
な、パワー補給する物資が要る。カレーパンと焼きそばパン
とカツサンド、仕上げに特大メロンパン。」
観楠
「これまた濃い組み合わせを………あ、カレーパンは今日は
残ってないよ」
琢磨呂
「作ってくれぇぇぇぇっ!………って時間でもないな。あ、
じゃそこに残ってるくだけかけのドーナツで良いわ。安くし
てくれよな」
観楠
「そーゆー台詞はツケを払ってから言いなさい」
琢磨呂
「ぐぬっ………ふぬっ………ふぐおおおおおおおおおおおお
お!(魂の叫び)」
観楠
「(叫ぶ琢磨呂を、べつだん気にもかけずに)はい、しめて
XXX円」
琢磨呂
「んじゃ店長、達者でなっ!(笑)」
観楠
「ほい………って、もう行ってしまった。相変わらず行動が
迅速だ………悪く言えば落ち着きがない(苦笑)」
観楠
「シャッターおろして、と……これでよし。あとは廃棄
のチェックと、ゴミの始末と……」
残った商品を片づけつつ、値段・個数を記入しておく。こういうデータが蓄積されると「作りすぎ」や「商品足りず」といった事態を防げるのである。

観楠
「棚拭いて、床掃いて…………よし。んじゃ電気消すかぁ
電気切った、水道止めた、ガスの元栓閉めた」
一つ一つ指差し呼称である(笑)でもただ漫然とチェックするよりは確実である。



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