日曜日、瑞鶴にて。
- 花澄
- 「ちょっと、本の届け物にいってきますね」
- 店長
- 「ああ、早く戻ってこいよ」
とは言われたものの。
- フラナ
- 「花澄さん、多分こっちだよ」
- 花澄
- 「そう? ありがとう、フラナくん」
案内人が悪かった。
あちらこちらと歩き回り、どこかもしれない原っぱに出てきてしまう二人。
- フラナ
- 「あれぇ、ここ? どこだろ。見覚えは……あるけど……」
- 花澄
- 「どこでしょう? 私、はじめて来ましたね」
- フラナ
- 「ちょっとひとやすみしよっか……なんか疲れちゃった……」
- 花澄
- 「そうね、風も気持ちいいし」
- フラナ
- 「……ごろごろ、んー気持ちいいね。花澄さん」
涼しい風が吹いている。
原っぱに転がってるフラナ、隣に座って涼む花澄。
ふと、視線を動かした先に……
- 花澄
- 「あら? めずらしい」
小さな男の子がちょこんと揺れる草の葉にのっている。
くりくりとした大きな目で、じっとフラナを見つめている。
- 花澄
- 「どうしたの? あなたの季節はもう過ぎているのに」
そっと手を伸ばす、しかし、小人は花澄にびっくりしたように草の陰に引っ込んでしまう。
- 花澄
- 「そんなに怖がらないで、出てらっしゃい(にこ)」
そろそろと草の陰から顔を出す小人。ピョンピョンと葉っぱを飛び越え、フラナの頭に舞い下りてくる。
- 花澄
- 「あなたは、フラナくんを知っているの?」
こくこく、うなずく小人。しきりにフラナの髪を引っ張って呼びかける。
しかし……
- フラナ
- 「どうしたの? 花澄さん」
小人にまるで気付かず、不意に起き上がるフラナ。
小人はあやうく振り落とされそうになりながらも、何とかフラナの肩にしがみつき、頭に上って必死に呼びかけている。
が、フラナはまったく気付いていない。
- 花澄
- 「見えない……のね」
- フラナ
- 「なに?」
- 花澄
- 「ううん……何でもないの」
- フラナ
- 「みゅう、変なのぉ」
また、ころんと転がるフラナ。またもや振り落とされそうになる小人。そんな様子を見つめていた花澄。
- 花澄
- 「あなたの……大切なお友達なのね、フラナくんは」
こくこく、まっすぐに花澄を見つめ何度もうなずく小人。
- 花澄
- 「ずぅっとずぅっと前からお友達なのね」
ふいに微笑んでいた花澄の顔が悲しそうに歪む。
- 花澄
- 「あなた……本当に、フラナくんの事が大好きなのね……
でも」
- フラナ
- 「どうしたの? 花澄さん、そろそろ行かなきゃだよ」
勢いよく起き上がり歩き出そうとするフラナ。
小人はあっさり振り落とされてしまう。ふわり……と花澄が小人を両手に受け止める。
- 花澄
- 「でも……もう、今の彼には……君を見る事ができないの、
時が……経ってしまったから」
わからない、理解できない、という表情を浮かべる小人。
精いっぱいに優しい表情を浮かべ、優しく語りかける花澄。
- 花澄
- 「人はね、時が経ってしまうの。
どんなに幸せなときでも、楽しい時でも、時は過ぎていってしまうの……それは、寂しい時もあるし、悲しい時もある。でも、それ以上に嬉しいことでもあるのよ」
さみしいような……悲しいような……泣き出しそうな表情を浮かべる小人。
- 花澄
- 「悲しまないで……」
そっ……と小人に頬を寄せる花澄。
- 花澄
- 「行きなさい……」
草の陰に小人を降ろす花澄。
まだ、名残惜しそうにフラナを見つめる小人。
- 花澄
- 「ごめんなさいね、行きましょうかフラナくん」
その時、急にフラナが何かに気付いたように口を開いた。
- フラナ
- 「あ! ……ここ……花澄さん、僕思い出した」
- 花澄
- 「思い出した?」
- フラナ
- 「ここ、僕が小さい頃近くに住んでたんだ。その頃、ここ
の原っぱで遊んでたんだ」
- 花澄
- 「そうなの、それで……」
ふいに、遠くを見詰めるフラナ。
- フラナ
- 「いつも……ここで友達と遊んでたんだ」
- 花澄
- 「お友達?」
- フラナ
- 「うん、ずっと……もう顔も覚えてないずーっと前のお友
達。一人でさみしいとき……いつも歌を歌ってくれたの、いつも、聞きながら眠っちゃって、最後まで聞けなかったんだ、なんでかな……ふいに、思い出しちゃった」
- 花澄
- 「そう……フラナくん、今でもそのお友達のこと好き?」
- フラナ
- 「うん、大好き」
- 花澄
- 「そう……よかった」
帰り間際、原っぱで……
優しい歌が聞こえてくる、子供達への歌がほんの少しだけ寂しい声が混じっていたように思った。
優しい、暖かい……そして寂しい歌声が響いていた……
- フラナ
- 「あの子……どうしてるかな? ……元気かな……」
- 花澄
- 「きっと……元気よ……きっと」
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