エピソード514『君は心の埋め草』


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エピソード514『君は心の埋め草』

黒電話のベルの音。
 畳に寝転がってうとうとしていた訪雪はよっこらしょっと起き上がり、寝ぼけ眼で受話器を取る。

訪雪
「うにゅ(はい、もしもし)」
電話の声
「もしもし、こまっちゃん? 規子だけど」

電話の主は大学の研究室の同窓生だった。
 在学中はいろいろとつるんで遊び歩いた悪友の一人だが、別にそれ以上の関係ではなかった。
 卒業してすぐに就職し、いまは普通の会社に勤めているはずだった。

訪雪
「うきゅ(何か用)?」
規子
「わぁ、全然変わってないね、こまっちゃんも。ねぇねぇ 聞いてよ。うちの会社ってばホントに……」

(中略。以下1時間に亘り会社に関する愚痴が続く。その間訪雪の発した言葉は、「うむうむ」「うにゅ?」「うきゅう」の3種のみ)

規子
「あ、もうこんな時間だ。こまっちゃんに話したらなんか 楽になっちゃった。
じゃまたね。今度またカラオケ行こうね〜」
訪雪
「うにゅ(じゃあね)」

受話器を置いた訪雪が呟く。

訪雪
「そういや儂、いま一言も日本語話さなかったよなぁ…… ふにぃ(伸び)」

寝転がりかけたところに、再び電話のベル。

訪雪
「うにゃ(はい、もしもし)」
電話の声
「もしもし……そちら松蔭堂さんですよね?」
訪雪
「うにゅ(そうですが)……あ、失礼」



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