猫が二匹、塀の上で睨みあっていた。一匹は白く、一匹は黒い。二匹の猫のちょうど中間にはししゃもパン一個。
- 萌
- 「フゥ〜(訳:これ、あたしの!)」
- マヤ
- 「ニャウ〜(訳:喧嘩売る気?)」
塀の下では、人間がこれを見上げていた。
- 大河
- 「萌、人のものに手を出すなよ」
- ユラ
- 「マヤ、なにやってんの?」
そこで、空気の弾ける音。塀の上にいきなり現れる少女一人。
- 萌
- 「うにゃっ!(訳:何よ!?)」
- マヤ
- 「フ〜ッ(訳:誰!?)」
- 茜
- 「あ、猫!」
逃げる暇もなく、二匹は少女の腕の中に。
- 茜
- 「わ〜い(むぎゅうう)」
人間に頬ずりされて慌てる猫二匹。呆れている人間二人。
- ユラ
- 「あの子……いったい、どこから出てきたわけ?」
- 萌
- 「にゃぁ(訳:マサヒロ〜、たすけてよぉ(;_;))」
大きなためいきが誰かの口から一つ。
- 豊中
- 「茜、さっさと降りてこい!」
ふりむく飼い主(?) 二人。
- ユラ
- 「あれ、豊中」
- 大河
- 「あの子の知り合いですか?」
- 豊中
- 「いとこです」
苦虫を噛み潰す豊中。
- 萌
- 「みぃ〜(訳:早く〜、助けてってばぁ(;_;))」
大河は猫を抱えた少女に向き直り、
- 大河
- 「(苦笑) ええと、放してやってくれませんか?」
- メイ
- 『(萌に) 変身しちゃえばいいんじゃないの?』
- 萌
- 『(声に出さずに呟く) 出来るわけないでしょっ?(焦)』
- 豊中
- (? ……あの猫、思考しているようだが??)
接触しない限り中身は読めない役立たず一人。
- 豊中
- (会話している? それにしては相手の思考が感じられな
いのだが……?)
- ユラ
- 「考え込んでる暇に、何とかしてやれないの?」
- 豊中
- 「(我に返って) 食いもので釣るか、仕方ない」
こうしている間に、猫化している茜。漫画化すれば、猫耳と猫尻尾が生えている心理状態である。
- 萌
- 「(でも引っかくくらいならいいかなぁ?)」
- 豊中
- 「い〜から離してやれ、茜(呆) プリンおごってやるから」
- 茜
- 「可愛いのに〜」
それでも手は緩める茜。慌てて逃げ出す猫二匹。
- 茜
- 「プリンじゃなくてプリンアラモードがいい」
- 豊中
- 「どっちでもいいからとっとと降りてこい。……すまんな、
マヤ」
黒猫が、金色の瞳をきらめかせる。
- 萌
- 『なによぉ、あたしにはあやまんないのぉ?』
- 豊中
- 「おっと、そっちの白いのもな(笑) 怒らないでくれよ」
- ユラ
- 「あんた、そ〜ゆ〜こと言ってると、すっごく怪しいわよ」
- 大河
- (猫に話かけるんだから、確かに怪しいよな……)
- 茜
- 「んじゃ、おごってよね!!」
塀から飛び降りるところは、誰の目にも映らなかった茜。
- ユラ
- (あの子、一体いつ降りてきたのよ?)
- 豊中
- 「(茜の耳元で) 無駄にテレポートするなよなまったく」
- ユラ
- 「(うーんどういうことだろう。ま、いいか) あの、これ
からお茶するつもりだったら、グリーングラスに来ない?」
- 豊中
- 「グリーングラスに? なんでまた」
- ユラ
- 「これからの季節のサービス用に、ハーブゼリー試作した
んだけど、作り過ぎちゃって……
(大河に)よろしかったら、寄っていらっしゃいませんか?
なんだか、うちの子が御迷惑かけたようですし、お詫びのかわりにでも」
豊中、”試作品”と聞いて、一瞬あとずさる。が、大河にも声がかかっているのを見て、
- 豊中
- 「ふつうの、なんだな?」
- ユラ
- 「何それ。(茜、大河に)よろしかったらどうぞ(にっこり)」
- 茜
- 「(なんだかわかんないけど、なんか面白そうだからいいや)
はいはいはい、行きまーす♪」
- 萌
- 「あたしもっ、あたしも行くっ」
- ユラ
- 「えっ……?」
振り向くと、小さな女の子が大河の服につかまって笑っている。
- 豊中
- (さっきの白猫と同じ思考波だな?)
- ユラ
- 「(……最近、目、悪くなったのかな。どこにいたんだろ
うあの子)妹さんですか?」
- 萌
- 「(ムッ) 違うもんっ。萌は(ムグッ)」
慌てた大河に口を抑えられる萌。
- 大河
- 「まぁ、そんなとこです……(^^;;)」
- マヤ
- 「みゃあ……(訳:ユラ、この子、さっきの白い子……)」
- ユラ
- 「え、そうなの!?」
- 豊中
- (いきなり猫に返事してるあんたのほうがよっぽど怪しいぞ、
ユラ(^_^;))
- ユラ
- 「え、ええと、それじゃあ、いきますか。すぐそこですか
ら……」
一同、ぞろぞろと歩み去り、夏を思わせる日差しの中、塀の上にはししゃもパンがひとつ。
そして三十秒後。
- マヤ
- 「うにゃぐるぅ(訳:忘れてた!)」
戻ってきて、ししゃもパンをくわえて立ち去る黒猫一匹。後には、初夏の日差しとししゃもの匂いだけが残った。
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