エピソード522『猫の受難、あるいは塀の上の一幕』


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エピソード522『猫の受難、あるいは塀の上の一幕』

猫が二匹、塀の上で睨みあっていた。一匹は白く、一匹は黒い。二匹の猫のちょうど中間にはししゃもパン一個。

「フゥ〜(訳:これ、あたしの!)」
マヤ
「ニャウ〜(訳:喧嘩売る気?)」

塀の下では、人間がこれを見上げていた。

大河
「萌、人のものに手を出すなよ」
ユラ
「マヤ、なにやってんの?」

そこで、空気の弾ける音。塀の上にいきなり現れる少女一人。

「うにゃっ!(訳:何よ!?)」
マヤ
「フ〜ッ(訳:誰!?)」
「あ、猫!」

逃げる暇もなく、二匹は少女の腕の中に。

「わ〜い(むぎゅうう)」

人間に頬ずりされて慌てる猫二匹。呆れている人間二人。

ユラ
「あの子……いったい、どこから出てきたわけ?」
「にゃぁ(訳:マサヒロ〜、たすけてよぉ(;_;))」

大きなためいきが誰かの口から一つ。

豊中
「茜、さっさと降りてこい!」

ふりむく飼い主(?) 二人。

ユラ
「あれ、豊中」
大河
「あの子の知り合いですか?」
豊中
「いとこです」

苦虫を噛み潰す豊中。

「みぃ〜(訳:早く〜、助けてってばぁ(;_;))」

大河は猫を抱えた少女に向き直り、

大河
「(苦笑) ええと、放してやってくれませんか?」
メイ
『(萌に) 変身しちゃえばいいんじゃないの?』
『(声に出さずに呟く) 出来るわけないでしょっ?(焦)』
豊中
(? ……あの猫、思考しているようだが??)

接触しない限り中身は読めない役立たず一人。

豊中
(会話している? それにしては相手の思考が感じられな いのだが……?)
ユラ
「考え込んでる暇に、何とかしてやれないの?」
豊中
「(我に返って) 食いもので釣るか、仕方ない」

こうしている間に、猫化している茜。漫画化すれば、猫耳と猫尻尾が生えている心理状態である。

「(でも引っかくくらいならいいかなぁ?)」
豊中
「い〜から離してやれ、茜(呆) プリンおごってやるから」
「可愛いのに〜」

それでも手は緩める茜。慌てて逃げ出す猫二匹。

「プリンじゃなくてプリンアラモードがいい」
豊中
「どっちでもいいからとっとと降りてこい。……すまんな、 マヤ」

黒猫が、金色の瞳をきらめかせる。

『なによぉ、あたしにはあやまんないのぉ?』
豊中
「おっと、そっちの白いのもな(笑) 怒らないでくれよ」
ユラ
「あんた、そ〜ゆ〜こと言ってると、すっごく怪しいわよ」
大河
(猫に話かけるんだから、確かに怪しいよな……)
「んじゃ、おごってよね!!」

塀から飛び降りるところは、誰の目にも映らなかった茜。

ユラ
(あの子、一体いつ降りてきたのよ?)
豊中
「(茜の耳元で) 無駄にテレポートするなよなまったく」
ユラ
「(うーんどういうことだろう。ま、いいか) あの、これ からお茶するつもりだったら、グリーングラスに来ない?」
豊中
「グリーングラスに? なんでまた」
ユラ
「これからの季節のサービス用に、ハーブゼリー試作した んだけど、作り過ぎちゃって……
(大河に)よろしかったら、寄っていらっしゃいませんか? 
なんだか、うちの子が御迷惑かけたようですし、お詫びのかわりにでも」

豊中、”試作品”と聞いて、一瞬あとずさる。が、大河にも声がかかっているのを見て、

豊中
「ふつうの、なんだな?」
ユラ
「何それ。(茜、大河に)よろしかったらどうぞ(にっこり)」
「(なんだかわかんないけど、なんか面白そうだからいいや) はいはいはい、行きまーす♪」
「あたしもっ、あたしも行くっ」
ユラ
「えっ……?」

振り向くと、小さな女の子が大河の服につかまって笑っている。

豊中
(さっきの白猫と同じ思考波だな?)
ユラ
「(……最近、目、悪くなったのかな。どこにいたんだろ うあの子)妹さんですか?」
「(ムッ) 違うもんっ。萌は(ムグッ)」

慌てた大河に口を抑えられる萌。

大河
「まぁ、そんなとこです……(^^;;)」
マヤ
「みゃあ……(訳:ユラ、この子、さっきの白い子……)」
ユラ
「え、そうなの!?」
豊中
(いきなり猫に返事してるあんたのほうがよっぽど怪しいぞ、 ユラ(^_^;))
ユラ
「え、ええと、それじゃあ、いきますか。すぐそこですか ら……」

一同、ぞろぞろと歩み去り、夏を思わせる日差しの中、塀の上にはししゃもパンがひとつ。
 そして三十秒後。

マヤ
「うにゃぐるぅ(訳:忘れてた!)」

戻ってきて、ししゃもパンをくわえて立ち去る黒猫一匹。後には、初夏の日差しとししゃもの匂いだけが残った。



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