エピソード523『感情工学こと始め』


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エピソード523『感情工学こと始め』

吹利学院大学部。そこの一角は、明らかに空気の色が違った。すなわち。むさ苦しいのである。そして、そのむさ苦しい建物の一つ。四階だてのビルの一つ、西よりの一室では。

永井助手
「ところで、この誇り高くかつホコリ舞う状態、
何とかなりませんか?」
指さした先。…………綿ボコリが固まっている。

院生1
「あ、そういえばまずいですねえ」
永井助手
「機械が壊れますよ、そのうち」
院生2
「もう壊れてますよ、プリンタ。豊中君、どうなってる?」
豊中(卒論)
「ドラムカートリッジの交換が必要ですね。今のところそれ
で使ってみましょう」
院生2
「新しいカートリッジ、あったかなあ」
ごそごそとロッカーをかき回す。宙を舞うホコリの量が増えた。

永井助手
「加藤君、またホコリが(^_^;)」
紅一点
「しょうがないなあ。加藤さん、これこれ」
ごろごろと年代ものの電気掃除器をひきずって来て、掃除を開始する……と思いきや、積もったホコリを吸いとっただけ。

院生1
「竹村さん、ついでに掃除する気、ない?(^_^;)」
竹村(院生)
「ない(^_^;;)」
院生1
「(^_^;;;)ま、いっか」
永井助手
「良くない(;_;)。そろそろ実験室の方も物を動かさないと、
次の装置が立ちあげられないよ」
加藤(院生)
「次の実験って、たしか感情工学でしたよね?誰がやるんで
したっけ」
院生1
「僕の記憶が正しければ、豊中君ですよ」
豊中(卒論)
「え”!?俺だけですか」
院生1
「ああ、あとは加藤君もです。理学部の新谷ゼミとの共同研
究だそうですよ」
加藤(院生)
「とはいっても、俺は解析専門だけどね」
豊中(卒論)
「とほほ(^_^;)」
エピソード「感情工学事始め・幕間」========================================登場人物---------

豊中雅孝
学部四年生(卒論生)、エンパスであることは研究室の人間には
黙っている(隠しているわけではない)
江連孝典
学部四年生(卒論生)、UFOマニア。
サイコバリア作成能力あり。実験台に選ばれている。
竹村陽子
院生(修士一年)。研究室唯一の女子学生。彼氏無し、らしい。
加藤敏彦
院生(博士一年)。ゲームプログラマバイトに忙しく、めったに
研究室に顔を出さない。

日常の光景。

実験室にて。豊中は、首をひねっていた。

豊中
「っかしーなー」
江連
「なにやってんだよ、豊中」
豊中
「だあああああっ、下手に動くんじゃねー、江連!そのプローブがいくら
すると思ってるんだ!?」
江連
「えっと……………(思い出して)数百万、だったな(汗)」
豊中
「判ったら動くな。じっとしてろ。息もするな。心臓も止めてくれると有
り難い」
江連
「………………アホなこと言うな(-_-;)」
豊中
「なに、ちょっとした本音だ気にするな。言ってみただけさ」
馬鹿なことを言いながら実験をしている卒論生二人。そのころ、学生部屋のワークステーションの前では。

竹村
「えー、何よこのデータわっ!まぁた雑音の嵐じゃない!!」
加藤
「どーもこれ、外部の雑音みたいだねえ」
竹村
「豊中クンの取ったデータ、全っ然役に立たないじゃないの!!!
雑音処理はもおイヤ(^_^;)」
加藤
「彼が雑音源だったりして(笑)
そうだ、彼が雑音源だと仮定して、ちょっとシミュレーションしてみた
結果があるんだけど」
竹村
「見せて見せて」
ニギヤカに計算機作業に励む院生二人。

加藤
「で、これが感情波強度パラメータ(画面上のスライダーをクリックし
てみせる)」
竹村
「とりあえず、強度だけなんですね。観測データの取り込みは?」
加藤
「これ(クリックすると雑音だらけの観測データがグラフの形で表示さ
れる)。
で、こっちが豊中君の取ったデータで、こっちが俺が取った奴。被験者
は両方とも江連君。これに強度パラメータを変化させながらシミュレー
ション結果を重ねると」
ぽちっとな。院生二人、無言でしばしディスプレイを眺める。

竹村
「あのー、これって、豊中君の出力(汗)」
加藤
「江連君よりよっぽど強いねえ(汗)」
竹村
「あはははは(乾笑)…………………はあ。偶然…………ですよね」
加藤
「彼が取ったデータの平均的なサンプルなんだけどね…………これ」
さて、実験室にて。

豊中
「っかしーなー、やっぱり変だぞ」
江連
「どこだよ?」
取ったばかりのデータを見ながらごそごそやっている学部生二人。

江連
「ここ、パルス状に出てくるはずだよな?」
豊中
「今の仮説によればそうだな。………………計算、ミスったか?誤差の
嵐だぞ」
江連
「回路の異常じゃないのか」
豊中
「そのチェックなら十回以上やったよ。パソコンのシールドもチェック
したし」
江連
「しかし、メインがアナログ回路だろう?雑音に弱いぞ」
豊中
「そのへんは処置済みだ」
データの入ったフロッピーを古色蒼然たるパソコンから抜き取り、ネットワークマシンに。データ転送後、学生部屋に戻った下っ端二人を賑やかな声が出迎える。

竹村
「マックスで強度130ですねえ」
加藤
「江連君は?」
竹村
「マックス90。加藤さん、豊中君に変更しません?」
豊中
「あのー、加藤さん、少々お聞きしたいことが」
すっかり作業に飽きて科学雑誌を読んでいた加藤、顔を上げる。

加藤
「何?」
豊中
「ちょっと妙なデータが出てまして」
空いているワークステーションからログインし、データを呼び出す豊中。覗き込む加藤。

加藤
「どれ?」
豊中
「ここです。たしか、仮説によればここで出てくるのはパルス状の
波形のはずですよね?どうも仮説と合わないんですよ。仮説を棄却
できるほどのデータはないのですが」
加藤
「ソースは?」
豊中
「これです。江連のファイルなんで…………コピーして、と」
あまりソフトウェアは得意でないようである。作業の手も早いとは言いがたい。

加藤
「うーん……………あ、ここね」
江連
「そこです。デルタ関数を使っているんですが」
加藤
「パルスだからねえ…………え?」
豊中
「デルタ関数?」
竹村
「おや?」
紙と鉛筆を使って手早く計算をはじめる竹村と豊中。自分のノートパソコンを叩く加藤。計算が終了したのは、三人ほぼ同時。

豊中
「……………うげっ」
竹村
「おやぁ?」
加藤
「ははぁ」
豊中&竹村&加藤
「これ、デルタ関数じゃなくってガウシアン・パルス
だ」
江連
「……………てことは、つまり(げんなり)」
豊中
「数式そのものを間違えたな(げんなり)」
竹村
「良くある話だって(朗笑)」
加藤
「本当か?(爽笑)」



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