吹利学院大学部。そこの一角は、明らかに空気の色が違った。すなわち。むさ苦しいのである。そして、そのむさ苦しい建物の一つ。四階だてのビルの一つ、西よりの一室では。
- 永井助手
- 「ところで、この誇り高くかつホコリ舞う状態、
-
- 何とかなりませんか?」
指さした先。…………綿ボコリが固まっている。
- 院生1
- 「あ、そういえばまずいですねえ」
- 永井助手
- 「機械が壊れますよ、そのうち」
- 院生2
- 「もう壊れてますよ、プリンタ。豊中君、どうなってる?」
- 豊中(卒論)
- 「ドラムカートリッジの交換が必要ですね。今のところそれ
-
- で使ってみましょう」
- 院生2
- 「新しいカートリッジ、あったかなあ」
ごそごそとロッカーをかき回す。宙を舞うホコリの量が増えた。
- 永井助手
- 「加藤君、またホコリが(^_^;)」
- 紅一点
- 「しょうがないなあ。加藤さん、これこれ」
ごろごろと年代ものの電気掃除器をひきずって来て、掃除を開始する……と思いきや、積もったホコリを吸いとっただけ。
- 院生1
- 「竹村さん、ついでに掃除する気、ない?(^_^;)」
- 竹村(院生)
- 「ない(^_^;;)」
- 院生1
- 「(^_^;;;)ま、いっか」
- 永井助手
- 「良くない(;_;)。そろそろ実験室の方も物を動かさないと、
-
- 次の装置が立ちあげられないよ」
- 加藤(院生)
- 「次の実験って、たしか感情工学でしたよね?誰がやるんで
-
- したっけ」
- 院生1
- 「僕の記憶が正しければ、豊中君ですよ」
- 豊中(卒論)
- 「え”!?俺だけですか」
- 院生1
- 「ああ、あとは加藤君もです。理学部の新谷ゼミとの共同研
-
- 究だそうですよ」
- 加藤(院生)
- 「とはいっても、俺は解析専門だけどね」
- 豊中(卒論)
- 「とほほ(^_^;)」
エピソード「感情工学事始め・幕間」========================================登場人物---------
- 豊中雅孝
- 学部四年生(卒論生)、エンパスであることは研究室の人間には
-
- 黙っている(隠しているわけではない)
- 江連孝典
- 学部四年生(卒論生)、UFOマニア。
-
- サイコバリア作成能力あり。実験台に選ばれている。
- 竹村陽子
- 院生(修士一年)。研究室唯一の女子学生。彼氏無し、らしい。
- 加藤敏彦
- 院生(博士一年)。ゲームプログラマバイトに忙しく、めったに
-
- 研究室に顔を出さない。
実験室にて。豊中は、首をひねっていた。
- 豊中
- 「っかしーなー」
- 江連
- 「なにやってんだよ、豊中」
- 豊中
- 「だあああああっ、下手に動くんじゃねー、江連!そのプローブがいくら
-
- すると思ってるんだ!?」
- 江連
- 「えっと……………(思い出して)数百万、だったな(汗)」
- 豊中
- 「判ったら動くな。じっとしてろ。息もするな。心臓も止めてくれると有
-
- り難い」
- 江連
- 「………………アホなこと言うな(-_-;)」
- 豊中
- 「なに、ちょっとした本音だ気にするな。言ってみただけさ」
馬鹿なことを言いながら実験をしている卒論生二人。そのころ、学生部屋のワークステーションの前では。
- 竹村
- 「えー、何よこのデータわっ!まぁた雑音の嵐じゃない!!」
- 加藤
- 「どーもこれ、外部の雑音みたいだねえ」
- 竹村
- 「豊中クンの取ったデータ、全っ然役に立たないじゃないの!!!
-
- 雑音処理はもおイヤ(^_^;)」
- 加藤
- 「彼が雑音源だったりして(笑)
-
- そうだ、彼が雑音源だと仮定して、ちょっとシミュレーションしてみた
-
- 結果があるんだけど」
- 竹村
- 「見せて見せて」
ニギヤカに計算機作業に励む院生二人。
- 加藤
- 「で、これが感情波強度パラメータ(画面上のスライダーをクリックし
-
- てみせる)」
- 竹村
- 「とりあえず、強度だけなんですね。観測データの取り込みは?」
- 加藤
- 「これ(クリックすると雑音だらけの観測データがグラフの形で表示さ
-
- れる)。
-
- で、こっちが豊中君の取ったデータで、こっちが俺が取った奴。被験者
-
- は両方とも江連君。これに強度パラメータを変化させながらシミュレー
-
- ション結果を重ねると」
ぽちっとな。院生二人、無言でしばしディスプレイを眺める。
- 竹村
- 「あのー、これって、豊中君の出力(汗)」
- 加藤
- 「江連君よりよっぽど強いねえ(汗)」
- 竹村
- 「あはははは(乾笑)…………………はあ。偶然…………ですよね」
- 加藤
- 「彼が取ったデータの平均的なサンプルなんだけどね…………これ」
さて、実験室にて。
- 豊中
- 「っかしーなー、やっぱり変だぞ」
- 江連
- 「どこだよ?」
取ったばかりのデータを見ながらごそごそやっている学部生二人。
- 江連
- 「ここ、パルス状に出てくるはずだよな?」
- 豊中
- 「今の仮説によればそうだな。………………計算、ミスったか?誤差の
-
- 嵐だぞ」
- 江連
- 「回路の異常じゃないのか」
- 豊中
- 「そのチェックなら十回以上やったよ。パソコンのシールドもチェック
-
- したし」
- 江連
- 「しかし、メインがアナログ回路だろう?雑音に弱いぞ」
- 豊中
- 「そのへんは処置済みだ」
データの入ったフロッピーを古色蒼然たるパソコンから抜き取り、ネットワークマシンに。データ転送後、学生部屋に戻った下っ端二人を賑やかな声が出迎える。
- 竹村
- 「マックスで強度130ですねえ」
- 加藤
- 「江連君は?」
- 竹村
- 「マックス90。加藤さん、豊中君に変更しません?」
- 豊中
- 「あのー、加藤さん、少々お聞きしたいことが」
すっかり作業に飽きて科学雑誌を読んでいた加藤、顔を上げる。
- 加藤
- 「何?」
- 豊中
- 「ちょっと妙なデータが出てまして」
空いているワークステーションからログインし、データを呼び出す豊中。覗き込む加藤。
- 加藤
- 「どれ?」
- 豊中
- 「ここです。たしか、仮説によればここで出てくるのはパルス状の
-
- 波形のはずですよね?どうも仮説と合わないんですよ。仮説を棄却
-
- できるほどのデータはないのですが」
- 加藤
- 「ソースは?」
- 豊中
- 「これです。江連のファイルなんで…………コピーして、と」
あまりソフトウェアは得意でないようである。作業の手も早いとは言いがたい。
- 加藤
- 「うーん……………あ、ここね」
- 江連
- 「そこです。デルタ関数を使っているんですが」
- 加藤
- 「パルスだからねえ…………え?」
- 豊中
- 「デルタ関数?」
- 竹村
- 「おや?」
紙と鉛筆を使って手早く計算をはじめる竹村と豊中。自分のノートパソコンを叩く加藤。計算が終了したのは、三人ほぼ同時。
- 豊中
- 「……………うげっ」
- 竹村
- 「おやぁ?」
- 加藤
- 「ははぁ」
- 豊中&竹村&加藤
- 「これ、デルタ関数じゃなくってガウシアン・パルス
-
- だ」
- 江連
- 「……………てことは、つまり(げんなり)」
- 豊中
- 「数式そのものを間違えたな(げんなり)」
- 竹村
- 「良くある話だって(朗笑)」
- 加藤
- 「本当か?(爽笑)」
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