エピソード535『夏は悩殺!』


目次


エピソード535『夏は悩殺!』

ショッピング・ショッキング!

吹利、デパートでショッピング中の尊&瑞希。

瑞希
「見てぇ、みこちゃん、このセット似合うかなぁ?」

瑞希が身体にあてて見せているのは、柄物タンクトップに白のショートパンツのひとそろい、なかなか夏らしい。

「ほんとだ、瑞希さん似合う。ね、私のノースリーブの白
のワンピース、どうかな?」
瑞希
「わお、清楚だぁ。みこちゃんらしい(くす)」
「いいなあ、買っちゃおうかな」
瑞希
「買っちゃおうよぉ、みこちゃん。これ着て海辺とか歩き
たいなぁ……そうだ、新しい水着買おうよ」
「水着かぁ、とりあえず見るだけ見てみようかな」

そして……水着売り場。華やかで色とりどりの萌える水着が並んでいる。
 はしゃぎながら水着を選ぶ二人。

「あれ?この声は……あ、やっぱり」

聞き覚えのある声にふと緑が振り返る。

「う〜ん、どれも可愛い、迷うな」
瑞希
「見て見てみこちゃ〜ん、これこれっ」
「瑞希さん、決めたんですか」
瑞希
「あたしのじゃなくて、みこちゃんの。これがいいよっ!」
「え゛これ?……(絶句)」

手渡されたのは……真っ赤のハイレグビキニ(爆)。
 これは……かなりきてるもんがある。

「び、ビキニ……しかも、こんなにハイレグっ!?
ちょ、ちょっと大胆過ぎません?(汗)」
瑞希
「なんでぇ絶対似合うよぉ、こういうのってなかなか似合
う人いないんだよ。みこちゃんなら絶対いける!」
「そんなあっ(焦りっ)」
瑞希
「ちょっとさ、ちょっとだけ試着してみようよね!ね!着
てみるだけ!」
「着るだけですよ……」

そして……試着中。
 ぴっちりしたビキニ。白い肌に映える真っ赤な水着のコントラストが美しい……。

「うわぁ……ほんとに大胆……これはちょっと(汗)」
瑞希
「み〜こちゃん、サイズどお?」
「サイズは合ってますけど……やっぱり恥ずかしいですよ〜」
瑞希
「どーれどれ、見せて見せて」

ひょいっと覗き込む瑞希。女同士の特権だろう……。

瑞希
「うわぉう!みこちゃん、せくしぃだいなまいとぉ!」
「きゃ、覗かないでくださいよっ!恥ずかしい」
瑞希
「いいじゃんいいじゃん。似合うって、絶対」
「でも……やっぱり恥ずかしい……(赤面)」
瑞希
「大丈夫、似合ってれば無敵!」
「無敵って……そんなあ」
瑞希
「なぁんでよぉ、これなら御影さん一発でノックダウンだ
ぞぉ」
「みっ瑞希さんってばっ」
瑞希
「着ようよぅ〜海辺でビキニのみこちゃん見たいよぉ〜」
「もう瑞希さんてば……でも、ちょっとだけなら着てもい
いかな(くす)」

ためたっているものの、どうやら実は気に入ってたらしい。
 そして、急にいたずらっぽい目になる尊。

「じゃ瑞希さん、あたしがこの水着着るかわりに、瑞希さ
んの水着あたしに選ばせてくださいね」
瑞希
「うみゅ……おっけい、交換条件」
「よおし」

くす……っと微笑む尊、なにか考えたらしい。
 手早く着替えて売り場を色々見てまわる。

「よしっ!これ」

尊が手にした水着は……。

瑞希
「ひょっ…豹柄っ」

そう、豹柄の結構胸元きわどいハイレグワンピース。
 しかもサイドが黒のメッシュになっているため、水に入ったらサイドが思いっきり透けてしまう……という凶悪なデザインである。

瑞希
「う……結構きわどいわね……」
「あたしがこれ着るんたから瑞希さんもこれ着てくれます
よね?(にこ)」
瑞希
「みゅう……むー……女に二言はないっ!」
「そうこなくっちゃ(くす)」
「こんにちわ」
「あ、緑ちゃん」
瑞希
「こんにちわ」
「水着……凄いの買うんですね」
「え、いや、これはね……それはそうと緑ちゃんも水着?」
「はい、夏に着る水着がもうぼろぼろになりかけてたんで」
瑞希
「ぼろぼろ?」
「あ、私、水泳部なんです。だからこれも競泳用です(水
着を見せる)」
「ふーん(これはこれで結構大胆ねぇ)」

そして……買い物終えて。
 デパート内の喫茶店。

「でも……旅館てまだ間に合うかな?」
「旅館?海行くんですか?」
「そうなの、それで水着買ってたの」
「私もついて行っちゃ迷惑ですか?」
「もちろん大歓迎よ(にこ)でも瑞希さん、宿どうします?」
瑞希
「大丈夫、うちのダンナの実家が旅館やってて、そこで部
屋とってもらえるから。割引にしてくれるよ、結構大きな
所だから他のみんなも誘っていけるよ」
「わぁ、すごい!楽しそう」
「楽しくなりそうですね」
瑞希
「もちろん、御影さんも誘うから、ね!」
「え(真っ赤)……御影さんの前で……これ……着るんで
す?」
瑞希
「そうだよぉ、チャンスじゃない!清楚かつさわやかな白
のワンピースでまず一撃、続けて大胆ビキニで一気にぐら
つかせて、とどめに艶やかな浴衣姿でフィニッシュよ!」
「フィニッシュって、コンボじゃ無いんですからぁ(真っ赤)」

その時、かしましくお喋りを楽しむテーブルから少し離れたテーブルに、聞耳を立てる一人の男がいた。

琢磨呂
(……しかと、聞いたぞ!とどめ&フィニッシュとな。み
こ姐さん大胆すぎるぜえええええええ!決めた。俺もいく
ぜっ!問題は、どうやって同行するか、だな……)

たまたま買い物に来ていた琢磨呂も、一休みしようとお茶していたのである。
 狙った被写体は逃さない、疾風怒濤、電光石火の名カメラマン。
 彼の腕前は万人が認める所である……撮影方法や撮影対象に多少問題があるような気がするが。

琢磨呂
(撮影場所は浜辺……とすれば装備はD装備からS装備だ
な)

琢磨呂は撮影プランに想いを巡らせ、ニヤリとほくそ笑むと、フィルムの買足しにカメラ屋に急いだ。
 一方こちら、そんな事は露知らぬ瑞希達。

瑞希
「よぉーし、こうしちゃいられない。早速みんな誘いいこっ!」
「あ、ちょっ……瑞希さんってば!待って」

元気よく走り出す瑞希、慌てて後を追う尊。
 その後ろからのんびり行く緑。
 むかうは……ベーカリー楠!。

暑い夏

からんころん。

観楠
「あ、御影さん、いらっしゃい。暑くなりましたねぇ」
御影
「まったく。なんでこの暑さのなかスーツ着てネクタイし
めてるんだろうって、たまに疑問に思うわ(上着を脱ぐ)。
アイスティーもらえる?」
「ダンナのスーツ姿って、見慣れてるから何とも思わない
けどな」

十は一足先にベーカリーで涼んでいた。

「よくよく考えるとダンナって会社勤め似合わないよなぁ
(笑)」
御影
「やかましい。その程度、とうに自覚してる(笑)」
観楠
「はい、アイスティーおまちどうさま」
御影
「あ、ども」
「そーいやダンナ、今年は取れそうなのか?夏休み」
御影
「ん?ああ、いまのところさっぱり分からん。休みナシっ
てこともじゅうぶん考えられるな」
「と、なると……海に行けるチャンスはこれっきりかもし
れないわけだ。おかわいさうに(笑)」
御影
「大きなお世話だ。……で、海か?次の仕事は」
「ああ……そうなんだけど……。ダンナ、場所変えて話そう」
御影
「別にかまわんが。……なんでまた」
「いや、その……なんとなく……な」
御影
「直紀さんに聞かれると困るからか?(笑)」
「そ、そーぢゃなくてだなぁっ!」
御影
「わかったわかった。それじゃ店長、アイスティーごちそ
ーさん」
観楠
「毎度ありがとうございました〜」

海へ行こう!

からん、ころん。
 御影たちが去った後暫く後、暑さに茹った直紀がヨロヨロ入って来た。

直紀
「あーづーいー(くてー)」
観楠
「本格的に夏日だねえ。はい、アールグレイ(笑)」
直紀
「ありがとーですー(一気に飲み干す)……ぷはぁっ生き
返るぅ!観楠さん、もー1杯ぃ!!」
観楠
「ぷはぁって……(苦笑)暑いの苦手だっけ?直紀さん」
直紀
「そーでもないんですけど、こー暑いともう、パーってどっ
か行きたいぃ!(じたじた)」
観楠
「……はい、おかわり(苦笑)」

カラン、カラン。

瑞希
「こんにっちはー!」
「み、瑞希さん!まってくださいってば(汗)」
観楠
「いらっしゃい。買い物の帰り?」
瑞希
「ふふっ、店長さんどーです?これー」

戦利品の柄物タンクトップに白のショートパンツのひとそろいを取りだし前にあてると、くるりと一回転。

観楠
「似合いますねえ、それどっかに着て行くんですか?」
瑞希
「皆誘ってどっかいきたいなーってさっき、みこちゃんと
話してたんです。でね、うちのダンナの実家が海辺で旅館
やってて、そこにしよっかなーって、店長さんも行きませ
ん?」
観楠
「海、ですかぁ……うーん、どーかなぁ」
瑞希
「駄目ですか?」
観楠
「あ、いやそーいうわけじゃなくて(汗)えーと……そー
ですね、うん。行きましょうか(笑)」
瑞希
「……なんか歯切れ悪いなぁ?」
観楠
「そ、そんなことないですよ(苦笑)」
瑞希
「じゃ、キマリね(笑)」
観楠
「はい(笑)あぁ、詳しい日取り決まったら教えて下さい」

言いつつ、エプロンのポケットを探る。

観楠
「(……吹利アクアガーデンの招待券、割と数貰ったんだ
けど……ま、いいや。朝にでもくれてやろう)」
ふと、ベーカリーの隅で顔を上げる者一名。

夏和流
「(ぼそ)……海……行きたい……」
みのる
「(きっぱり)宿題」
夏和流
「……あうう(;_;) 美人が行くらしいのにぃ……」
ああ受験生、ああ学生。夏休みの宿題とは量が半端じゃないのだ(笑)かくして、とりあえず我慢の子となる。もっとも、我慢が続いた試しは夏和流にはなかった(笑)
 暑さに伸びていた直紀の耳に、『どっかいきたいなー』、『旅館』、そして
 『海』のキーワードが届く。
 耳を打つ魅力的なキーワードに直紀の耳がぴくぴく反応する。

直紀
「(がばっ)いくっ!一緒につれてってぇぇ、瑞希さーんっ!」
瑞希
「直ちゃんもいく?よぉし、また今度直ちゃんの水着もあ
たし達で選んであげるっ。直ちゃん明日空いてる?」
直紀
「空いてますっ!うわあ楽しみっ」
瑞希
「まっかせなさい!直ちゃんにぴったりの奴選んであげる
わ!」
「あ……え……う〜ん(直紀さん、何にも知らないで……)」

とりあえず、何か言おうと思ったのだが、ここで事の次第をばらしてしまっては台無しと、苦笑しつつも口をつぐむ尊。

瑞希
「そうだなぁ、直ちゃんは白とか…パステル系がいいかな」
「そうね、白っぽいワンピースに少し柄の入ったパレオな
んて似合うんじゃないかな」
瑞希
「わお、それいい。サングラスも欲しいところだ」
直紀
「麦藁帽子もつけたいなっ」
瑞希
「つば広でボサボサッとした奴ね」
「なんだか……きりがなくなっちゃいそう(くすくす)」
観楠
「(なんか……華やかでいいなぁ女の人は)」

只今下校中

と、こちらは下校中のスナフキン愛好会の面々。

フラナ
「もとみー、佐古田ぁ今日ベーカリーよって帰ろう」
本宮
「おぅ」
佐古田
「じゃん(いいよの音色)」

などと会話しながら校舎を出るいつもの3人組。
 そんな中、校門の前に立つ目立つ容姿の女の子を発見した。

フラナ
「あ、チカちゃんだ。ヤッホー、チーカーちゃーん!!」

チカと呼ばれた女の子はこちらに気づいたようでニコニコしながら手を振っている。

本宮
「誰あの娘?知ってるか佐古田?」
佐古田
「じゃじゃん(知らないの音色)」

そうこうしているうちに校門前にたどり着いた。

千影
「フラナ君いっしょに帰ろ☆……っと思ったけど友達といっ
しょかぁ……悪いからまた今度にしようかなっ」
フラナ
「そんな事言わないで一緒に帰ろぅ?ねぇ、もとみーも佐
古田もいいよね?」
佐古田
「じゃん(いいよの音色)」
本宮
「ああ、俺は別にかまわないぜ。(千影に向かって)えっ
と……俺、本宮和久、こいつが佐古田真一。よろしく」
佐古田
「じゃじゃじゃん(ヨロシクの音色)」
千影
「普通科2年の無道千影です☆本宮君に佐古田君これから
よろしく(ニコ)」
フラナ
「ねえねえチカちゃん、今日帰りにベーカリーに寄ろうと
思ってたんだけどそれでいい?」
千影
「パン屋さん?うんいいよ☆」

満員御礼ベーカリー楠

おしゃべりしつつ到着したベーカリー楠。
 今日は何時もよりお客が多い。
 からんからん。

フラナ
「やっほう店長さん」
本宮
「こんにちは」
佐古田
「じゃじゃじゃあぁぁん(こんにちはぁっの音色)」
千影
「……こんにちは」

フラナの後からおずおずと出て来る千影。

観楠
「いらっしゃい、その子は?」
フラナ
「チカちゃんだよ。今度うちの学校に転校してきたんだ」
千影
「よろしく(ぺこ)」
観楠
「こちらこそよろしく、ゆっくりしてってね」
瑞希
「あら、裕也。だぁれ〜その子?可愛いね」

テーブルで、旅行の計画を練っていた瑞希、早速目をつける。

フラナ
「あう、瑞希姉ちゃん。今度うちの学校に転校してきた無
道千影ちゃん。チカちゃん、僕の姉ちゃんだよ」
千影
「こんにちは、千影です」
瑞希
「千影ちゃん。じゃ、チカちゃんね。あたし斎藤瑞希、こ
いつの姉(ぐりぐり)」
フラナ
「みゅみゅみゅ〜」
千影
「仲良いですね、うらやましい」
フラナ
「(あんまし嬉しくない〜)」

店を見まわす千影。ふと、視界に映る、テーブルに広げた雑多な広告。
 ほとんどが夏服、海で使う道具が書いてある。

千影
「(テーブルを見て)何かしてるんですか?」
瑞希
「これ?うん、今度夏にみんなで海に行こうって話しあっ
て。その計画立ててるの」
フラナ
「ふうん、楽しそうだね」
瑞希
「とうぜん、あんた達もいくのよ」
フラナ
「え?」
佐古田
「じゃじゃん(海!の音)」

スナフキン愛好会、瑞希の前では彼らに選択権は、無い。

千影
「海……かぁ……あたしも行きたいな」
フラナ
「そうだ、チカちゃんも来ない?」
千影
「え?あたしも?…でも」
瑞希
「いいじゃん。泊まるのはうちの旦那の実家だし」
フラナ
「きっと楽しいよ、チカちゃんもおいでよ」
千影
「でもいいんですか?私なんかが行って(瑞希を見る)」
フラナ
「ぜんぜんいいよぉ!ねぇ行こう?」
瑞希
「これ(グリグリ)の友達の可愛い女の子なら当然OKよ(ニコ)」
千影
「……じゃあ、お言葉に甘えてお世話になります(ニコ)」
瑞希
「よし!そうときまれば次は水着ね(ジィー)銀髪に碧眼…ね…
瞳にあわせて…淡めのグリーンをベースにして可愛くリボンワン
ピースタイプでゴーね!」
千影
「あの、あの、なんの話ですか」
瑞希
「うーん、オプションは大き目の麦わら帽子でいいわね。
あ、でも水着とペアでおっきなリボンも捨て難い」
千影
「あの」
フラナ
「(服の裾くいくい)だめだよチカちゃん…瑞希姉ちゃん、
ああなると人の話聞かないから…」
千影
「うーん、ちょっと恐いけど、なんだか楽しみになってきた」

かららん。
 瑞希達に遅れた緑がようやく到着した。

観楠
「いらっしゃい緑ちゃん」
「緑ちゃん、今打ち合わせしてるの、早くいらっしゃいよ(にこ)」
「遅れましたぁ」
観楠
「あれ?緑ちゃん海行くの知ってるの?」
「はい、さっきデパートで会ったんで(にこ)」
本宮
(どきっ!)

本宮の心臓が跳ね上がる。

本宮
「(どぎまぎ)え?み……み、水島さんも……う……海、
行くんですか?」
「あ、こんにちは。はい……尊さんが……息抜きにちょう
どいいって」
フラナ
「そうだよね〜息詰まっちゃうもん。ふふふ、楽しみだね!もとみー」
佐古田
「(小さく口元に笑みを浮かべ)じゃじゃん!(楽しみだな〜の音色)」

冷やかしモードにはいっている三人。そこへ。

瑞希
「ちょっとあんたらうるさい。えっと、緑ちゃん」
「……え、はい」
瑞希
「じー(見つめる)」
「あのぉ……なん、でしょう(困惑)」
瑞希
「うん!可愛い。よし、緑ちゃんにはやわらかな白地に鮮
やかな柄付きにしよう!結構背高いから、模様も大柄でね」
「え?あの……」
瑞希
「やっぱりね、せっかく海行くんだから、競泳用のじゃな
くて、バシッと決めなきゃ」
「え……バシッ……ですか?(汗)」
瑞希
「よぉっし、直ちゃん、緑ちゃんの水着の案よし。ね、日
曜空いてる?空いてたらみんなで水着買いにいこ!」
「……え……あの……えっと」

唐突な展開に戸惑う緑、視線をさまよわせると、後ろのテーブルの尊と視線が合う、緑に気づくと苦笑しながら肩を竦める尊。

「あの……よろしく(にこっ)日曜日、空いてますから買
い物行けますよ」
本宮
「(どきっ!)……(水島さん、やっぱり……笑うと可愛
い……な)」

本日二度目、跳ね上がった本宮の心臓がでんぐりかえる。

瑞希
「よっしゃあ、あんたら荷物持ちに来なさいよね!」
フラナ
「えー」
佐古田
「じゃじゃぁぁん(めんどくさい〜の音色)」
本宮
「え……(ぽっ)お、俺で……よければ……いくらでも荷
物……持ちますから(緑に向かって)」
「ほんと、ですか……助かります」
瑞希
「(おやおやぁ……)ふぅん、じゃお願いね(くすっ、本
宮くんてば……)」
フラナ
「(ねーちゃん……なんか企んでるぞ……)」

微笑む緑を前に、ひたすら照れまくる本宮、チェシャ猫笑いを浮かべた瑞希。
 冷や汗ひとつ……のフラナ、我関せずの佐古田。
 瑞希は何をもくろむか?

瑞希
「大人数になってきたなぁ……うう、海行くの楽しみっ」

瑞希の声と重なって、涼しい風が入ってくる。

花澄
「こんにちは。……誰かどこかへ行くんですか?」
瑞希
「あ、花澄さんも行きません?」
花澄
「はい?」
瑞希
「皆誘ってどっかいきたいなーって、今みんなと、話して
たんです。でね、うちのダンナの実家が旅館やっててそこ
にしよっかなーって……花澄さん?」

怪訝そうに瑞希が覗き込んだのも無理はない。

花澄
「(どっかいくって……そうすると、切符予約とか、待ち
合わせとか、そういうおまけがどっとついてきて……でも、
瑞希さんと、みことさんで……)」

出不精の本領発揮。
 眉間に縦じわ三本、の状況である。

「花澄さん、どうしたんですか?」
花澄
「え、いえ、あの、ええと(汗)」
直紀
「花澄さん、一緒に行こっ!」
花澄
「あの、でも」
直紀
「忙しいとか?」
花澄
「え、いえ、というわけでも」

最初から『行きません』と言っておけばよいのだが、ここまで来ると、どうしようもない。

直紀
「(じーっ)一緒に、行かない?」
花澄
「(う、何でこんなに断りにくいのー)ええと」

と。
 とんでもない援軍が背後から出てきた。

譲羽
『行くっ!』
花澄
「ゆず!?」
譲羽
『行くのっ!ゆず、外に行くのっ!』

袋の蓋を押し広げ、ぴょん、と飛び出した木霊は、手近のテーブルの上に飛び降り、ぢいぢいと力説した。

譲羽
『花澄、外行かないんだもの。ゆずは、外好きなのっ!だ
から行くのっ!花澄も行くの!』
直紀
「……」

じっと譲羽を見つめる直紀。

譲羽
『?』
直紀
「か、かわい〜(きゅっと抱きしめる)」
譲羽
『ぢぃ(照)』

花澄は溜息を吐いた。

花澄
「そう言えば、どこにも連れてってないもんね……すみま
せん、じゃ、御一緒させて頂いて宜しいですか?」

涼しげなドアベルの音とともに、もう一人。

ユラ
「こんにちはぁ。今日って、けっこう、太陽さん、元気で
すよねぇ」
「あたしにはユラちゃんの方が元気に見えるけど(苦笑)」

苦笑い。当然である。
 ショートパンツにビスチェ、その上からシースルーのブラウスと、なかなか刺激的な格好である。
 しかし足元は実験室仕様のナースサンダル。
 色気があるんだかないんだかわかりゃしない。とりあえず、元気、ではある。

ユラ
「いやもう、白衣で実験室こもってると、こんな格好でも
しないことには暑くって。ところでみなさん、おそろいで
どうかしたんですかぁ」

ここしばらく実験がうまくいっていないせいだろう。
 やたら投げた口調である。

直紀
「ね、ね、ユラさんもどう?一緒に」
ユラ
「え?何でしょう」
瑞希
「えと、みんなで海いこうかって話を...」
ユラ
「海ぃ!?行くっ。行きますっっ!!あたしも連れてって
下さいっ」

いきなり声に生気がもどった。はっきりいって目の色が違う。

ユラ
「海かぁ。しばらく実家にも帰ってないし、懐かしいなあ。
ええ、是非。あ、でも、宿とか足とか……」
瑞希
「あ、宿はね、うちのダンナの実家が旅館だから」
ユラ
「それじゃそっちは大丈夫ですね……と、あとは足かぁ。
電車乗り継いでいくのも楽しいけど、けっこう面倒だし……
あ、それじゃ、豊中引っ張り出して、車出してもらおう。
でも、あいつ自分の車って持っていたかな……ま、いいや。
頼めばなんとかしてくれるでしょう、と。これで足一台と
カメラマン一人確保ですね」

一気にまくしたてると、ふう、と一息。

ユラ
「あ、そだ。それじゃ、水着新調しなくちゃ。」

店の前に、白いバンが止まる。ドライバーが降りてきて。
 からからん。
 暑さにばてて床に伸びている猫科動物のような顔で、豊中が入ってきた。
 なかなか御都合主義である。

ユラ
「あ、ちょうど良かった。ねえねえ豊中」
豊中
「……何か飲んでからにしてくれませんか、暑くて脳味噌
が溶けてます」
ユラ
「暑いっていうんなら、そのジャケットを脱ぎなさいよ(苦笑)」

白いコットンジャケットにカッターシャツ、ブラックジーンズという格好である。
 足元も靴下をしっかり履いた上でスニーカー。露出しているのは顔と両手だけというスタイルなのだから、これで暑くないはずがない。
 ちなみに、バンにはヒーターはあってもクーラーはついていない。

豊中
「店長、麦茶下さい。……俺としては、あまり肌を出す格
好はしたくないんですよ」
「(くすっ)女の子みたい(笑)」
豊中
「まあね。しかし事情が事情ですし。あ、店長これもお願
いします」

トレーに載っているのはししゃもパンとドーナツ。

観楠
「毎度、250円ね」
ユラ
「でね、海に行くんでドライバーが欲しいんだけど」
豊中
「……海ぃ?」

あまり嬉しそうではない。

豊中
「う〜ん……」
ユラ
「尊さんとか、直紀さんとかも行くんだけど」
豊中
「俺じゃなくって御影の旦那とか一の野郎を誘うべきです
よ」
「……どうしてそうなるんですか!?(真っ赤)」
豊中
「そのために水着を買ったんでしょう?(にや)」
「あ……よ、読んだのね!?(真っ赤)」

漣丸が手元にあったら、ざくざくとやられているところだった。

豊中
「違いますよ、その袋です。中身が水着かどうかは当て
ずっぽうだったんですが、そうか図星でしたか(にやぁ
り)」

指さした先はデパートの袋。

(まっかっか)

図らずも心中を白状してしまい沸騰寸前の尊。
 やかんを載せればお湯が沸くだろう。

ユラ
「(ぺしっと平手で豊中を叩く)あんたはねぇ……。とに
かく、あんたも来るんだからね」
豊中
「……決定事項のわけ?」
ユラ
「ドライバー兼荷物持ちね」
豊中
「車はレンタルになりますよ?」
ユラ
「つまり来るってことよね」
豊中
「仕方ないですね、選択権は無いようですし」
ユラ
「ええと、それじゃ、日程はいつごろになるのかな?」

アイスティーを飲みながら、ユラはポケットから手帳をひっぱりだした。
 開いたページには、なにやらわけのわからない記号がびっしり書かれている。

ユラ
「この実験は三日連続だから動かせないし……こっちで、
こないだのデータ転用するとして、何日くらい空けられる
かなぁ。ええと……と、すると、水着買いにいくとすると、
空くのは……」

なんのことやら、である。
 と、そのとき、どこかで電子音が鳴り始めた。

直紀
「あれ?あたしの携帯……とはちがうような……」

がたんっ。

ユラ
「しまったぁぁ(大汗)!!」

ユラの後ろで、椅子が倒れそうに揺れた。

ユラ
「こんなことしてる場合じゃなかったんだぁ。観楠さん、
すみませんけど、こっちのパンのほう、包んでいただけま
すか。あ、あたし、実験の途中なもんで、すみません、尊
さん、詳しいこと決まったら、今晩電話下さい。それじゃ
あたし、もう行きますんでっっ!!」

からんからんからんっっっ。
 あっけにとられている人々を残して、鳴り続けるタイマーを握りしめたまま飛び出していく。
 窓の外を、白衣を翻した自転車がまたたくまに遠ざかっていった。

豊中
「……阿呆」

一気に疲れ果てた表情で、豊中はぼそりとつぶやいた。
 と。

夏和流
「行きたいぃぃぃぃ!」
みのる
「一体、何が目的で海に行くつもりだ?」
夏和流
「目の保養!」
みのる
「そして、勉強しないつもりか」
流石は親友、きっちり心の内を読んでいる。だがそれで諦めるほど夏和流は自制がきく人間ではない(笑)

夏和流
「旅館で勉強もするからっ!お願いぃぃぃぃぃ!!」
「そんなに、美人が見たいの?」
夏和流
「あったりまえ! だから……え?」
「(にっこり)あたしも、行くわね」
夏和流
(汗)
「みのる君、あたしが、しぃぃぃっかり、みてるから」
夏和流
(大汗)
「(にっこり)ね?」
みのる
「……そういうことなら、いいがな。しっかりやれよ」 夏和流 :「あは、あははははは……(滝汗)」
「あ、夏和流君達も行くの?……えっと……彩……ちゃんだっけ?」
「はい、よろしくお願いします」
「よかったわねぇ夏和流君(にこ)」

夏和流、ピンチである。
 しかし、何はともあれ、海行き決定!

その夜の西山宅

で、その夜。

夏和流
「ねー、みのるも海に行かない?」
みのる
「海?昼間の話しか」
夏和流
「そう。涼子さんも一緒に」
みのる
「そんな暇はない。行きたければお前一人でいけ」
太郎
「ほっほう、海に行くのかの、夏和流くん」
夏和流
「あ、おじーちゃん。そうなの、ベーカリーのみんなで一
緒に」
太郎
「ふむ。行ってくるのじゃ」
みのる
「師匠。ですが、俺にはやるべきことが……」
太郎
「だれも、おまえに行けとはゆーとらん、わしは涼子さん
に行っておいでと言っとるんじゃ」
みのる
「は……?」
太郎
「涼子さんもたまには海にでも行きたかろう?」
涼子
「え?はぁ……」
太郎
「よし、決まりじゃ。みのる、護衛についてゆけ(笑)」
涼子
「え……(赤くなってうつむく)」
夏和流
「ね? いこーよー」
みのる
「……わかりました」
夏和流
「やったぁ!」

こうして、夜はふけてゆく。

式神だって女の子っ!

同じ頃、松陰堂。

訪雪
「一君、電話。小滝さんから」
「あ、はい、どうも」

どうせろくな用事じゃなかろうよ、と思いながら受話器を取る十。

ユラ
「あ、一?今度、キノエちゃんいちにち借りたいんだけど、
いい?」
「何だよ、やぶからぼうに」
ユラ
「んとね、こないだ、実験台になってもらったお礼、まだ
してなかったじゃない?で、今回はお礼がわりに、キノエ
ちゃんの服買おうかと思ったんだけど。あんたどうせまだ、
彼女に自分のお下がりを押しつけてるんでしょ?」
「……そりゃまぁ、ありがたいんだけど……(キノエに)
ちくしょう、俺の食費がお前の服にぃ……」
ユラ
「みっともないこと言うんじゃないって。たまにはいいじゃ
ないの。そちらさえよければ、明日にでも。いい?」
「ま、こっちはかまわないけどさ」
ユラ
「よかったぁ、ありがと。とりあえず夏物関係はひととおり
揃えるから。水着とか、どういうの好きか考えるように言っ
といて」
「水着ぃ?」
ユラ
「うん。いや、みんなで海に行くっていうから、あたしも水
着新調しようと思ったんだけど、買いに行くのにど〜おして
も日程合わないのよ。で、キノエちゃんだったらつきあって
もらえるかなってのもあってさ。んじゃ、いい?」
「はぁ…」

ため息。

ユラ
「それじゃ、明日松陰堂に迎えに行くから待っててって伝え
といて。じゃね」

かちゃん。
 一方的に電話は切れた。

キノエ
「ミツル、電話誰から?」
「ユラから、この前の実験台のお礼にキノエの服や水着、
買ってくれるってさ(ため息)」
キノエ
「ほんとっ水着もっ?さっすがユラさん話せるなぁ(喜)」
「……食費どうするかなぁ……ユラん所のバイト代あてに
してたんだが」
キノエ
「いいじゃない!そんなの、あたしの服と食費とどっちが
大事なの!?」 十 :「いや、服はくえんし・・・(言いつつ、テレビのスイッチをひねる)

大急ぎで茶碗を片づけるキノト、ブラウン管が『何故か』(笑)明滅する。
 この晩、満天の星空にもかかわらず、『何故か』松陰堂には特大の雷が落ちたという。
 嗚呼、合掌。

Lovers

ベーカリーにて「海っ!」の動議がなされたその翌日ベーカリー楠。

観楠
「とはいうものの……心当たりなぁ。さて……」

観楠の頭に昨日の会話がよみがえる。
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

瑞希
『店長さん、なるべく大勢の方が面白いんで、できるだけ
声かけといて下さいねっ☆」
観楠
「わかりましたぁ……」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

観楠
「心当たりなぁ……」
琢磨呂
「(からんっ) てんちょー、アイス頼まぁ」
観楠
「いらっしゃい。あ、岩沙君」
琢磨呂
「あー?」
観楠
「夏、みんなで休みとって海行こうって話あるんだけど」
琢磨呂
「海……か。で、メンツは?」
観楠
「うん。発案者の瑞希さん……ほら、最近良く来てる岩沙
君好みのおねーさん(笑)」
琢磨呂
「ほぉ、ぅ(鴨が葱しょってやってきたか)(にやぁり)」
観楠
「……のご家族と。あ、紅茶おまたせ」」
琢磨呂
「なんだ、ねーちゃんだけじゃねーのか(がっくし)」
観楠
「それと、尊さんは知ってるよね? あと直紀さんとグリー
ングラスのユラさんも来るんじゃないかなぁ」
琢磨呂
「ほぅほぅ(にやりにやり)(話が進展してるじゃねーか)」
観楠
「あとは、豊中さんも行くのかな? 御影さんも……かな」
琢磨呂
「てんちょーもだろ?(げそーっ)」
観楠
「ん、多分ね(笑) で、岩沙君その『げそーっ』って(汗)」
琢磨呂
「世の中美味い話はないもんだっていう俺の心の現れ」
観楠
「はぁ??」
琢磨呂
「まぁいいか。よし、その話、のったぜ!(笑)」
観楠
「そか、よかった(笑) これで写真はバッチリだね(笑)」
琢磨呂
「おぅ(笑) んじゃ、詳しいこと決まったらまた連絡頼む
ぜ。あ、そーだてんちょー」
観楠
「ん、なに?」
琢磨呂
「素子、誘わねーの?」
観楠
「もっ……!(汗)」
琢磨呂
「あいつもなんだかんだあったけど無事進学できたんだし
……その様子じゃ全然会ってないみたいだな(苦笑)」
観楠
「あー……いやその……まぁ、ねぇ(汗)」
琢磨呂
「いいじゃねーか(笑) 誘ってやればあいつも喜ぶぜ?」
観楠
「……そ、そー……だね、うん。誘ってみるよ(汗)でもさ」
琢磨呂
「んー?」
観楠
「あ、いいや。なんでもないよ(苦笑) あ、麗衣子ちゃん
は誘ってあげないの?」
琢磨呂
「あいつ、今受験生だぜ? それに」
観楠
「それに?」
琢磨呂
「ただでさえ美人ぞろいだってーのに、そんな中にアイツ
連れてってみろ! 俺の気が休まらねぇ(汗)」
観楠
「(想像中)……なるほど(笑)」
琢磨呂
「だろ? あれでヤキモチ焼かなきゃほんっとに可愛いヤ
ツなんだがなぁ〜〜。さて、と(紅茶を飲み干す)」
観楠
「お帰り?」
琢磨呂
「今から講義。夕方また来るから、なんかとっといて……」
観楠
「カツサンドとか、『濃い』ヤツね(笑)」
琢磨呂
「さすがてんちょー、わかってるぜ(笑) んじゃまた後で!」
観楠
「うーん……いきなりって感じもするけど……そーだよな。
誘うだけでも。素子ちゃんの下宿先の番号は、と」

TELTELTELTEL……

観楠
「……あ、もしもし素子ちゃん? うん、そう。元気そう
だね(笑)えっと、今度みんなで……」

Mission Start!

午後。
 わくわくと誰かを待ち受ける瑞希&直紀。
 と、どうやら待ち人来るのようだ。
 からんころん。

観楠
「いらっしゃいませ」
直紀
「あっ、御影さんっ!こんちわーっ!」
瑞希
「こんにちわ御影さん。こう暑いとぱぁっと泳ぎにいきた
くなりません?(笑)」
御影
「まぁ確かに、そんな気分になるわな」
瑞希
「でしょ?でしょ?(にっこり)」
御影
「?瑞希さん、なんかあったん?」
瑞希
「ん?ん〜ん、なぁんにも。ね、なおちゃん(笑)」
直紀
「そーですー(笑)なぁ〜んにもないですよ(笑)」
御影
「なんか陰謀を感じるんだが……まぁいいか。あ、店長、
今日はちと急ぐんで、バゲットだけもらえる?」
観楠
「この暑いのに、たいへんですねぇ」
御影
「ま、しかたのないとこやね」
瑞希
「あ、そぉそぉ。御影さん、みこちゃんがね、ちょっと寄っ
てほしいって言ってたよ」
御影
「尊さんが?ん、分かった」

ベーカリーを後にして、FLOWER SHOP Mikoに向かう御影。

瑞希
「作戦(くす)」
直紀
「大成功(くす)」
瑞希&直紀
(くすくすくすくす……)

顔を見合わせてくすくす笑う二人。

観楠
「な、何だろう一体……(汗)」

脅える観楠(笑)。

I miss you……

夏の日差しが眩しい午後、店の前に水をまく尊。

「いらっしゃいませ、……あ、御影さん」
御影
「どうも、瑞希さんに聞いてきたんだが、わしに何か?」
「あ、その……えっと……」
御影
「?」
「あの……いっしょに、海に行きませんか?」
御影
「海に?」
「あ、二人だけで行くんじゃなくて(焦)……瑞希さんと
直紀さんと花澄さんと、観楠さんも行くんです。緑ちゃん
も夏和流君達も来るし。大勢で出かけたほうが楽しいで
しょ?だから、御影さんも……いっしょに行きませんか?」
御影
「う……日取りとか、分かる?」
「来週の週末にしようかなって、瑞希さんたちと話してる
んですけど……」
御影
「あー、来週は『仕事』が入ってるんだ。それに今年は休
みが取れるかどうか分からんから……」
「え?御影さん、行けないん……ですか……?(がっかり
した顔)」
御影
「悪い。せっかく誘ってくれたのに。埋め合わせは必ずす
る」
「そんな、いいんです(にこ)。しかたないですもの。
お仕事、がんばってくださいね」

で、その日の午後。
 からん、ころん。

「こんにちは……(悄然)」
観楠
「おや、尊さん……どうかしたんですか?」
「あ、えっ?い、いえ、なんでもないです。大丈夫ですよ
(にこっ)」
観楠
「だったら、いいんですけど……」

からからころんかろん。
 ドアベルが元気のいい二人組の到来を告げる。

直紀
「こんにっちはーっ!」
瑞希
「こんにちはぁっ!」
観楠
「いらっしゃいませ。いつも元気ですねぇ(笑)」
直紀
「だって、海ですよぉ海っ!これで元気にならなくてどー
するんですか!(笑)」
瑞希
「……って、どしたの、みこちゃん?考え込んじゃって」
「そ、そぉんなことないですよっ(にこっ)」
瑞希
「あ、分かった。どーやって御影さんを墜とそうかシュミ
レーションしてるんだ(笑)」
「ちがいますっ!(照)それに、御影さん……来れないそ
うですし……」
直紀
「えーっ!!」
瑞希
「嘘ぉ!」
「ちょうど来週『お仕事』だそうです。だから……」
観楠
「(尊さん、それで元気なさそうだったのか……)お勤め
してる人って、お休みとか、あんまり思いどおりにならな
いから、こんなときは辛いでしょうね」
「お仕事ですから……仕方ないです」
瑞希
「でも、それにしたって御影さんも御影さんだわっ!みこ
ちゃんが直接ゆーわくしてるのになびかないなんてっ!」
「誘惑なんかしてませんっ!(照)」
直紀
「あれ?もしかして『お仕事』って、一さんと組んでやる
お仕事なのかな?」
「あ……聞いてなかったけど、たぶん……」
直紀
「え、じゃあ、一さんも来れない……の、かな……?」
瑞希
「そんな……。困ったわね、補完計画が……」
直紀
「あっ、あたし、一さんに直接確かめて来ますーっ!!
にーのーまーえーさーんっ!!」

ばんっ、ばたんっ。からころかろん、からん。
 ぴうーっ、と走り去る直紀。

観楠
「あぁ、直紀さん、気をつけて……って、もう聞こえない
かな(汗)」
瑞希
「……すばやい(汗)でさぁ、みこちゃん。あたしとお仕
事と、どっちが大事なの?。ぐらいは言った?」
「そっ(汗)……そんなこと、言えません……(照)」
瑞希
「むー。(みこちゃん、おねだりのしかたを勉強する必要
アリね……。そうだわっ、海でナンパしてきた男にさんざ
ん貢がせてオゴらせたあげくバイバイして、みこちゃんお
ねだり技能パワーアップ大作戦っ!これよこれっ!
うふふふふふふ、見てなさいよ御影さん!)」
観楠
「み……瑞希さん?どうしたんですか、いきなり拳握りし
めて含み笑いしたりして(汗)」
観楠
「(あ、そうだ)瑞希さん、瑞希さん、ちょっと」
瑞希
「なーに?店長さん」
観楠
「(内緒話もーど)あのですね……もう一人くらい、増え
ても宿の方、大丈夫ですか?」
瑞希
「んー大丈夫だと思うけど……かなみちゃん?かなみちゃん
ならもう人数に入ってるけど、もう一人って……あ(くす)」
観楠
「……(赤面)」

瑞希の顔にあのチェシャ猫笑いが浮かぶ。

瑞希
「だいじょーぶ、宿の方はまっかせて、何なら二人部屋に
する?(くすくす)」
観楠
「(ぶんっぶんっと首を振る)と、とんでもない!」
瑞希
「なーに弱気な事を(笑)ふぁいとだてんちょーさん(笑)」
観楠
「あはははははは……はぁ(汗)」

さすが瑞希、やはり強い。

訪雪、避暑に行く

SE
「ぱたぱたぱた」

茶の間の畳に寝転がっている、甚兵衛姿の訪雪。
 左手には扇。頭にヘッドフォン。卓袱台にはかき氷の残骸。
 聴いているのは「魅惑のハワイアン大全集」。

訪雪
「ぅあっちぃ…こう暑いと何をする気も起きんな」

松蔭堂には、エアコンなどという文明の利器はない。

訪雪
「たまには店も閉めちまって、ぱあっと海にでも行きてぇ
もんだよなぁ……そういや、最後に海に入ったなぁ……ひ
いふうみいよぉ、もう15年も前か。ヲレも出不精だしなぁ
(溜息)……海、かぁ」

幾度目かの溜息をついたところで、ふと頭をよぎるものがある。

訪雪
「待てよ。そういや…」

汗だくの体を引きずるようにして起き上がり、店の板敷の電話を取る。
 重いダイヤルに指をかけて、母校の番号に続いて4桁の内線番号を回す。
 東京、訪雪の母校である大学の学部長室。
 小柄な童顔の男が、秘書から回された電話を取る。

浦上
「はい、こちら浦上…ああ、ユキちゃんか。この間はどう
もありがとう」
訪雪
『こちらこそ、仕事を回していただいて感謝しています。
実は、お願いがあるのですが…』
浦上
「君がお願いとは珍しいね。何だい?」
訪雪
『先生の海の別荘、空いているときでいいから2、3日、
お貸し頂けないでしょうか』

数秒間の沈黙。

浦上
「はは、こいつぁ参ったね…彼女でも連れていくのかい?」
訪雪
『いたらもっとよかったんでしょうが…生憎とそういう縁
はありませんで』
浦上
「相変わらずモテてなさそうだな、君も…いいだろう。今
週中に鍵を発送して、管理人にも僕から話をつけとこう。
代わりと言っちゃナンだけど、行ったら掃除しといてくれ
る?それと、折り返しそちらの地酒を送ってくれると嬉し
いなぁ」
訪雪
『はいはい』

直紀とプールとかき氷

しゃわしゃわしゃわしゃわ、暑苦しい蝉の声が松陰堂板の間に響く。
 あるか無しかの微かな風に、ちりん、と、硝子の江戸風鈴が涼しげな音を立てる。

訪雪
「あっちぃ……流石に音だけじゃ涼しくならんか……」

ごろり、と板の間の涼をを求め、訪雪が寝返りを打つ。
 ばたん、と玄関の方から音がしてばたばたという足音は茶の間に近づいてくる。

直紀
「ほーせつさん!こんちはぁっ、一さんいますかっ!?」
訪雪
「ん?柳さんか、いらっしゃい。かき氷まだあるけど、ど
う?」
直紀
「あーあー(汗)あーとーでっ貰いますっ!ね、にのまえ
さんはー!?」
訪雪
「一君なら部屋にいたけど……急いでるなら裏の勝手口か
ら来れば良かったのに(苦笑)」
直紀
「だって……ここ通って行くの癖なんだもん。部屋にいる
のねっありがとっ」

くるっときびすを返し、部屋に向かおうとした時。

「若大家、氷ありませんか?こう暑いと……あれ、直紀さ
ん。いつ来たんですか?」
直紀
「にのまえさんっ!(ずいっ)」

間髪いれずにずいずい近づく直紀。
 なにか解らない迫力に押されじりじり後退する十(笑)。
 しかし、部屋がある限り壁というモノがある。どんっと壁にぶつかると、がしっと二の腕を掴みじぃっと十を見据える。

「な、な、な、直紀さん(滝汗)どうしたんですか」
直紀
「……一さん、来週お仕事入ってるってほんと?」
「え?ああ。ダンナと組んで一本入ってるけど」
直紀
「やっぱり……そうなんだ」

一瞬、泣きそうな顔になる……が、ブンブン頭を振りすぐ元の顔に戻る。
 二の腕を掴んでいた力が少し弱まる。
 はぁ……とひとつため息。

「あの……直紀さん??」
直紀
「あのね、来週ベーカリーのみんなと海に行こうって話に
なったの。それで、御影さん行けなくなったって聞いたか
ら……一さんもそうなのかなって思って」
「……ごめん」
直紀
「んーん、しょうがないもん。気にしてないよ(にこっ)
そだ、今度プールいこっ!ね?……だめ?」
「いや、その……二人で?」
直紀
「……(かぁっ)あーええっと、キノエちゃんとキノトちゃん
も一緒にっ!(汗)」
「あ……あいつらも一緒ね(汗)」

ぎこちなく笑いあう、二人。乾いた笑いが茶の間に響く。

訪雪
「おーい、二人ともかき氷食うかい?……ん?お邪魔だった
かな」
直紀
「あーあーあーっ(焦)お邪魔じゃないですー、ほーせつ
さーん(汗)かき氷貰うですー!」
訪雪
「いちごとメロン、懐かしのブルーハワイもあるけどどれ
がいい?一君はなににする?」
「(か、かき氷。個人的にはポピュラーないちごが……い
や!だめだ十!ここで、『じゃあ、いちごで』なんていった
日には男としてのプライドが!!だけど……いや、ここで負
けちゃだめだ!駄目なんだぁぁっ!!)……そのままで、お
願いします(しくしく)」
直紀
「それじゃ、かき氷になんないよ」
訪雪
「いやいやどうして柳さん。二の舞君、かき氷で氷の美味
さ『のみ』を追求した『白』を頼むなんざぁ……いやぁ通だ
ね(にやり)」

口では誉めているが訪雪、口元にはいぢわるな笑みが浮かんでいる。

「え、あ、う、そ、そんなんじゃ……それじゃ梅酒なんか(汗)」
訪雪
「梅酒は駄目。氷にかけるの勿体ないから。だいいち、月
13,500円の家賃で朝夕賄いつけて、そのうえ梅酒で氷まで
食おうって魂胆が気に入らんなぁ。そういう君には、せめ
てもの情けを込めて、スゥウィ〜トな「こおりいちごみる
く」を作ってやろう。
SE
がしゅがしゅ、たぱたぱたぱっ
訪雪
ほうら輝くばかりのピンク色だ。どうだ美味そうだろう?
勿体ないから全部食べてくれい」
「ぐ、ぐぅぅぅ(だ、だめだ十、此処で屈しては俺が今ま
で築き上げてきたイメージがっ、大和魂をもって耐えろ!
耐えるんだ十!南無八幡大菩薩!我に加護を!)」

それは……却下されると思う(笑)。
 まるで親の仇の如く目の前の「いちごみるく」を睨み付ける十。

直紀
「ねぇ食べないの氷?おいしーよ(しゃくしゃく)」

十の葛藤も知らず、はくはくと順当に自分の分を食べる直紀。

直紀
「一さん、食べないなら溶けちゃうからあたしが貰うねっ
(幸福笑顔)」

ひょいっぱくっ、と。目の前から取り上げられ直紀の口に運ばれる「いちごみるく」。

「あっあぁぁぁぁぁっ(汗)」

一十、いと、あはれ。

直紀
「ん?どーかしたの?(きょとん)」
「いえ……何でもないです(泣)」
訪雪
「(哀れな……ま、自業自得か)うーむ、冷やし飴も中々
美味い」

ちりーん、と風鈴が響く。
 此処で教訓。
  「いつまでも、有ると思うなチャンスと氷」

FLOWER SHOP Miko二階、尊宅

その日の晩。
 グツグツといい香りを放つ少々煮詰まりぎみのお鍋。
 その前でぼんやり鍋を眺める尊。

十兵
「おーい尊」
「……」
十兵
「尊?」
「……」
十兵
「尊!」
「あっえっ?何、おじいちゃん?」
十兵
「……焦げてるぞ(呆)」
「え゛?……きゃぁぁ(焦)水!水!ぢゃなかったえーっと
(慌)」

慌てて鍋をコンロから下ろす。

「あははは、しっぱいしっぱい(汗)」
十兵
「ぼんやりしおって……どうした、心配事か?」
「ううん、そんなんじゃ無いけど……御免、今夜のおかず
は、ある物でいい?」
十兵
「それは構わんが、変だぞおまえ」
「なんでも無いったら(苦笑)ちょっと疲れちゃっただけ」
十兵
「それなら良いが……」

尊の自室

「ふぅ(ころんとベッドに寝転ぶ)無駄に……なっちゃっ
たかな(苦笑)」

視線の先には壁にかかった白いスカート、白いワンピース。それとお気に入りの麦藁帽子。
 足元には真新しい紅い皮サンダルがちょこんとそろえられている。
 しばらく眺めているが、不意に飛び起きる。

「……もぅ!何やってんだろあたし、うじうじしたってしょ
うがないのに(苦笑)ちゃんと埋め合わせしてくれるって
言ってたし……よし!今日はお風呂入って寝る!」

御影の自室

御影
「ふぅ(ネクタイをほどいて)悪いことをしたかな……」

がっかりした尊の顔が浮かぶ。

御影
「う……罪の意識が……(苦笑)しかし冗談抜きに、何か
埋め合わせ考えんと……」

瑞希、語る

海行き決定の数日後。
 ベーカリーにて……海行きの打合せ中。
 一人、浮かない顔をしているのは尊。

「はぁ」
瑞希
「ねぇ、みこちゃん」
「ふぅ……」
瑞希
「みーこちゃん」
「……」
瑞希
「みこちゃんてば……」

うつろな目で黙り込んでしまった尊。

瑞希
「あ、御影さんだ」
「えっ!(ガタン)」
瑞希
「うそだよ〜ん、みこちゃんて正直者(くすくす)」
「瑞希さぁん……(苦笑)」
瑞希
「そんなに…残念?みこちゃん」
「え、そんな……(真っ赤)はい……でもお仕事じゃ……
仕方ないし」
瑞希
「む〜、だからさぁ。そんなに聞き分け良くっちゃだめよぉ
だめでもともとでも、ちゃんとワガママ言わなきゃ」
「でも、そんな事言ったら……御影さん迷惑だろうし……」
瑞希
「そうやってため込んじゃうのは、精神衛生上良くないの!
自分が思ったことはきっちり言わなきゃ。これからの二人の
事に関わってくるんだから」
「これからって(真っ赤)そんな……まだ」
瑞希
「まだ、じゃないわよ。充分考えられるでしょ。
言いたい事言えなくて。ため込んで、ため込んで大爆発!
より、しょっちゅう小規模爆発!の方がうまくやってける
んだから。ワガママいうこと怖がっちゃだめよ」
「瑞希さん……」
瑞希
「ね!だから、今度埋め合わせにどっか連れてって!でも
いい、来年こそは空けといて!でもいいから、自分のワガ
ママ言っちゃいなさい。それくらい男の人は許してくれるっ
て、ね」
「……ありがとう、瑞希さん」
瑞希
「みゅ……語ってしまった(ぽりぽり)」

黙って瑞希の言葉を噛み締めていた尊。
 何か吹っ切れたのか、一転、表情が明るくなる。

「……そう……です……よね(くす)」
瑞希
「そうそう!、元気一杯!の方がみこちゃんらしいんだか
ら後の事は後の事!とりあえず突っ走っちゃいなさいって、
ね(笑)」

春宵姫と夏姫達の装い

夜もふけた平塚宅。
 譲羽を隣に置き、電話帳と今時珍しい黒色ダイヤル電話機を前に花澄が悩む。

花澄
「うーむ(悩)」
譲羽
「?」

電話帳が開かれている。電話番号にきちんと線がついている。
 ……からには、電話をかけるだけなのだが。

花澄
「えい」

気合いを入れるほどのものかどうかはさて置き、花澄は受話器を取った。
 TelTel......

ユラ
『はい、もしもし小滝ですが』
花澄
「あの、夜分申し訳ありません。平塚と申しますが」
ユラ
『はい?……ああ、花澄さんですか?』
花澄
「はい、あの……ユラさん今日、水着買いにいかれるって、
言ってらしたですよね?」
ユラ
「ええ」
花澄
「あの、宜しければ、御一緒させて頂けません?」
ユラ
「え?」
花澄
「恥ずかしいんですけど、……あの人ごみの中に入るかと
思っただけで頭が痛くて」
ユラ
「え?……それじゃ、私が知ってるとこなら大丈夫ですよ。
じゃぁ待ち合わせ場所は……」

で、その当日。
 ひっそりした喫茶店。窓から明るい日差しが落ちる。

ユラ
「……ふう、ずいぶん買ったねぇ」
キノエ
「よかったのかなあ?こんなに」
ユラ
「いいのいいの」

お茶を飲む二人の脇に、大きな袋がいくつも寄せて置いてある。
 「夏物ひとそろい、揃えるから」との言葉通り、とりあえず下着から始めて、ジーンズ二本、ブラウス三枚、ショートパンツ二枚、ワンピースetc……

ユラ
「あとで、ファッションショー、しようね」

にこにことうなずくキノエが着ているのは、淡い草色のミニのワンピースだ。
 「色がむちゃくちゃ気に入って買ったのはいいけど、あたしが着ると膝丈になっちゃうから」というので、殆んど袖を通さなかった物をユラがキノエに譲ったのである。

ユラ
「さて、あとは花澄さんと合流するだけなんだけど……」
花澄
「こんにちは」

喫茶店の入り口で、花澄が手を振っていた。

ユラ
「ああ、良かった。待ち合わせ、ここで良かったんですね(笑)」
花澄
「え?」

ユラ、花澄と同じく、多少方向音痴らしい。

ユラ
「あ、ああ(汗)、こっちの事です(笑)」
花澄
「じゃぁユラさん……御願い、出来ますか」

三人がやってきたのは、駅前の商店街をちょっと入ったところにあるダンス用品の専門店だった。

ユラ
「ここ、夏になると水着も置くんですよ。もともとがレオ
タードやなんか扱ってるところなんで、あんまり『びきにぃ』
って感じのはなくって、わりとかちっとした仕立てのがメ
インなんだけど……」

吊された水着を見て回る。

キノエ
「あ、これ、可愛い」

手に取ったのは、赤白ボーダーのセパレーツ。

ユラ
「確かにかわいいけど……もったいないなぁ」
キノエ
「?」
ユラ
「どうせなら、もっとかっこいい系のが……」
キノエ
「……って言っても、偽レザーの編みあげの入ったショート
パンツとビスチェのセット買ってあるし……あんまり似たよ
うなのばっかりでも」
ユラ
「ううん……そうだねぇ。じゃ、これにする?」
花澄
「それで、これとこれも!」

いつの間にか、花澄がつば広のストローハットとクリアタイプの浮き輪を持って立っている。

ユラ
「あ、いいかも。じゃ、早速着てみて。ちゃんと帽子被って
ね。似合うよ、きっと……あ、ところで花澄さんは?」
花澄
「私は……ええと……」
キノエ
「あんなの、どうかなぁ」

指さしたのは、一見Aラインのミニのワンピースに見えるオフホワイトの水着。
 レモンイエローにシャーベットオレンジ、ライトピンクの、手書き風の大ぶりな花が踊っている。

ユラ
「あ、春色の夏水着。いいじゃないですか。それに造花いっぱ
いのっけたストローハット組み合わせて。どうでしょう?」
花澄
「そうですね、試着してみます」

にこにこと試着室に入っていく。

ユラ
「あたしは……どうしようかなぁ……っと」

ユラが手にとったのは、白いラインの入った黒いセパレーツ。
 前開きのジップアップ式のハーフトップにホットパンツ。巨大な銀のバックルがついている。

ユラ
「ホルターネックタイプなのかぁ。あんまり背中開けたく
ないけど、そしたらただのスポーツウェアになっちゃうし、
しょうがないかな。よし、これにしよっ」

手にとったところで、試着室のカーテンが開く。

キノエ
「こんな感じで……」
ユラ
「わ、かっこいいんだぁ。うん、健康的にかっこいい!!
うーん、うらやましいわぁ」

とか何とかいっているところで、隣の試着室から、花澄が首だけを出した。

ユラ
「……あ、どうですか?」

今度はそちらをのぞき込み、ユラは息をのんだ。

ユラ
「きれい……品がいいっていうか……モデルさんみたい」
花澄
「よかったぁ」
ユラ
「あ、でももうちょっと大胆なのでも……」
花澄
「い、いえっ、これにしますっ……あ、ところでユラさん
は?」
ユラ
「あ、もう選びました」
キノエ
「試着は?」
ユラ
「これから」

十数分後、三人はそれぞれに袋を抱えて店を出た。それぞれに満足そうな笑顔で。
 だが、キノエだけは、さっきのユラは一歩間違えばアメコミのコスチュームになりかねないと言うべきだったかどうか、まだ悩んでいた。

花澄
「あの、今日はありがとうございました」
ユラ
「あれ、まだですよ(くす)」
花澄
「まだって?」
ユラ
「浴衣がまだでしょう。夏物一通り揃えるんだから、やっぱ
り外せないですよ」
花澄
「でも、結構お値段張りますよ。心あたり、あるんですか?」
ユラ
「駅前に、きねや、って呉服屋さんがあるでしょう?あそ
こ」
花澄
「……えぇ?でも、あそこ何だかすごく高そうじゃないで
すか?」
ユラ
「敷居だけは、一応高そうに見えちゃうんですよね。でも、
そんなにお値段のしないのもいっぱいあるんですよ。私、
店長のおともでよく顔だしてるんで……」
花澄
「店長さん?」
ユラ
「グリーングラスの、です。あの方、実はわたしの漢方の
師匠の奥方で、普段着は着物、って人なんですよ。あ、そ
ういえば、反物だけ買って、仕立ては店長に頼んでもいい
んだっけ」
花澄
「……え、でも、いいのかしら」
ユラ
「ええ。いえね、実は私の友人が郷里で織物やってるんで
すけど、その伝手で、上布の訪問着を生産者価格で融通し
たら、とても喜ばれて。浴衣くらいならいくらでも縫って
くださるっておっしゃるから……ね、いきましょう。
で、キノトちゃんのも作ろ。ね?」

歩きかけて、ユラはふと足を止めた。道の向うに誰か見つけたらしい。

ユラ
「あ、直紀さぁん!!」

道向こうの直紀も気付いて手を振り替えす。
 信号が変わるのももどかしく、直紀がこちらへ駈けてくる。

直紀
「やっほー!ユラちゃんに花澄さんにキノエちゃん、みん
な揃って御買い物?」
ユラ
「ええ、いま、水着買ってきたとこなんです。で、これか
ら浴衣を見に(笑顔)」
直紀
「みゅっ?……浴衣?」

クルッとユラ達に背を向けて財布を覗き込む。

直紀
「(えーっと……ひの、ふの、みぃ……よっし!)いくぅ!
あたしもいくっ!連れてって、ね?」

直紀、ボーナスの使途決定。

ユラ
「じゃ、直紀さんも……あ、そうだ、どうせなら尊さんも誘っ
ちゃいましょうか(くす)」
花澄
「尊さんの浴衣姿かぁ……いいですね、誘っちゃいましょ
う(にこにこ)」

で、FLOWER SHOP Miko。

直紀
「尊おねーさーん(手を振る)」
「あら、直紀さん。ユラちゃんにキノエちゃんに花澄さん
まで、御揃いでどうしたんですか?」
直紀
「尊おねーさん、浴衣つくろっ(笑顔)」
「え、浴衣?」
ユラ
「実は、駅前に私の知り合いの呉服屋さんがあるんです。
そこで安く浴衣作れるんで、尊さんもどうかなって」
「ふぅん……(くすっ)実は浴衣はね、もうあるんです、
あたし」
花澄
「浴衣、御持ちなんですか?」
「ええ、一着だけ」
直紀
「むー……見たいっ!ね、尊おねーさん見せてっ!ね、花
澄さんも見たいよね」
花澄
「え?ええ、御迷惑でなければ……」
「(くすくす)ええ、いいですよ、ちょうど虫干ししてま
すし、じゃ、皆さん二階へどうぞ」

店頭に「休憩中」の札を掛け、二階へ招き入れる。

「さ、どうぞ、今冷たい物でも持ってきますね」

リビングには浴衣がかけられていた。

ユラ
「わぁ……素敵な青」
キノエ
「奇麗ねぇ……」

肩口の藍色から徐々に裾の薄蒼に変わるグラデーション。
 足元にあしらわれた赤と、青のシンプルな朝顔の華。
 対になった朱色の絞り帯。

「御待たせ(笑顔)」
花澄
「これ、素敵……ですね」
「ええ、でもあたしに似合うかどうか……(苦笑)」
花澄
「え?」
「あれ、母の形見……なんです。父が唯一、母にプレゼン
トしたって……(苦笑)父も大分照れ屋だったみたいで(くす)」
花澄
「……似合いますよ、きっと(くす)」
「……だといいんですけど(くす)」

娘二人、顔を見合わせ密やかに笑う。

直紀
「決めたっ!あたしもこーんな素敵な奴、作る!(ぐっと
握り拳)」
「良いのが有るといいですね、生地(笑顔)」
直紀
「ユラちゃん、早くいこっ!(笑顔)」
キノエ
「いいなぁ……こんなの欲しいなぁ……ねー、ユラさーん
(ぢぃー)」
ユラ
「はいはい(笑)じゃ、尊さん、ちょっと行ってきますね」
「行ってらっしゃい、素敵なのが出来るのを楽しみにして
るわ(笑顔)」

パパさんの甲斐性

海行き決定数日後。
 楠家の団欒、夕食後の洗い物をしながら。

観楠 :「ねぇ、かなみちゃん(ごしゅごしゅ
洗い物)」
かなみ
「なーに父様っ?」
観楠
「今度の日曜日、お友達と何か約束してるかな?(きゅっと
布巾で拭く)」
かなみ
「かなみ、なんにもやくそくしてないよっ?」
観楠
「(よっと、このお皿で終わりっっと)それなら良かった。
あのね、お店のお客さん達が海に行こうって誘ってくれて
るんだ、だから……」
かなみ
「父様っ海つれてってくれるのっ!?(喜)」
観楠
「え?あ、うん」
かなみ
「わぁぃ!うみっ!うみぃっ!(大喜)」

リビング中をぴょんぴょん跳ね回り、全身で喜ぶかなみ。

観楠
「ああ、かなみちゃん、そんなに跳ねたら危ないよ。(そ
ういや、この子を海に連れていった事、無かったっけ……
いかんな)」

苦笑する観楠。

かなみ
「ね、父様」
観楠
「ん?なんだい」
かなみ
「みずぎ、かって!」
観楠
「へ?(汗)」

一瞬、何の事か判らず、目が点になる観楠。

観楠
「みずぎ……って、海水浴に着る、水着?」
かなみ
「うんっ!(笑顔)かなみねぇ……これがいいっ!」

かなみが持ってきたチラシは、チャイルドスイムウエァの広告。

観楠
「ふぅん……(うーむ、フリルと花柄が可愛いなぁ)」

かなみが選んだ水着は、薄水色のワンピース、白いスカートのようなフリルと、大きくプリントされた向日葵が映える、中々可愛らしいものだった。

かなみ
「えっと……父様……だめ?(うわめづかい)」
観楠
「いいよ(笑顔)一緒に買いに行こうか」
かなみ
「わぁぃっ!父様だーいすきっ(笑顔)」

こうして、楠家の幸せな団欒はふけてゆく……。

夏だ!海だ!到着だっ!

いよいよ当日。
 がたごと、と、いささか古めかしい鈍行列車が行ってしまったホーム。
 ローカルな駅のため、駅員すら居ない。
 先ほどまで、車両一つをほぼ貸し切り状態にしていた一同がホームに降り立つ。

豊中
「なぁ、ユラ……結局電車で来るんなら俺は必要なかった
んじゃ無いのか?」

わいわいとはしゃぐ一同の中、げんなりとぼやく豊中。
 結局。人数が多くなったため、車でなく電車にしたらしい。

ユラ
「運転手はね、でも荷物持ちと、カメラマンは必要よ(笑)」
豊中
「はいはい聞いた俺が野暮でした(苦笑)よっと(荷物を
持ち直す)」
ユラ
「大体そんな暑苦しいジャケット羽織った上に、何なの?
その大荷物は(呆)」

それぞれ、海行きの装いの中、何時も通りのジャケットにでっかいバッグを抱えた豊中。

豊中
「ジャケットはいつもの事。この荷物は……ま、色々とな
(にやり)」
ユラ
「……(汗)……ま、いいけど……一体」
瑞希
「ユラちゃーん、早く乗らないと置いてくよ〜」

駅前に来ていた迎えのマイクロバスに乗り込んだ瑞希が手を振る。

豊中
「さ、さっさと乗らんと置いてかれるぞ」

そそくさとバスに乗り込む豊中。

ユラ
(豊中……ごまかしたわね……)

日本の夏、御影&十の夏

そのころ、浜辺では……。
 青い空! 白い雲! 燃え上がる太陽! コバルトブルーに輝く海っ!
 そして浜辺で戯れるココア色の乙女たちっ!

「……なのになんで俺たちはこんな暑苦しいカッコでここ
にいるんだ?」
御影
「言うな、十。よけい暑くなる」

どっか、と防波堤の上にあぐらをかき仏頂面で海を眺める、いつもどおりの格好の御影と十。
 場違いなことこのうえない。

「だいたいなんで吹利の特物がこんなとこまで出張ってこ
なきゃならんのだ……」
御影
「しかたなかろう。こっちの特物の担当者が入院してて使
い物にならんのだから」
「だからってウチに話を持ってこなくてもいいのに……」
御影
「それはわしのセリフだ……」
「はぁ……直紀さんの水着姿、見たかった……」
御影
「言うな。むなしさがつのるだけだ」
「ダンナだって尊さんのビキニ、見たかったんじゃないの
か?」
御影
「言うな(ごりっ!)」

御影の手の中で先ほどから片手で弄んでいた石が砕ける。

「なんで重なるかな……」
御影
「言うなとゆーに」
キノエ
「ああっ、もう! 辛気臭いったら! 水着水着ってオヤ
ジみたいに!
 そんなに見たけりゃ、いっくらでも見せてあげるわよ、
ほらっ!」

赤白ボーダーのセパレートの水着にクリアタイプの浮き輪、水中眼鏡とシュノーケルを首にひっかけ、つばの広いストローハット。
 見る目のある奴なら間違いなくナンパに来るであろう、
 かなり気合の入ったいでたちのキノエだった。

キノト
「……姉さんの水着姿を見たいわけじゃないと思うんだけ
ど」
SE
「ばきっ」
キノエ
「ひとこと多いのよあんたはっ!」
キノト
(涙目)
「物陰でごそごそやってると思ったら……」
御影
「……うんうん、よく似合うよく似合う」
キノエ
「……なんか、ずいぶんなげやりな誉めかたね」
「遊びに来たんじゃないんだぞ」
キノエ
「さっきまで水着水着って嘆いてたの、だれ?」
「……」
キノト
「それはいいんだけど、これからどうするの?」
御影
「とりあえず、こっちの特物に顔出しておかんとな」
キノエ
「海は?」
「後でな」
キノエ
「あたしたちも特物に行かないとダメなわけ?」
御影
「……ま、いいか。打ち合わせだけだしな」
キノト
「え、じゃあ時間まで遊んでられるってこと?」
「えーと、ダンナ?」
御影
「おまえはダメだぞ」
「やっぱり?(汗笑)」
キノエ
「しっかり仕事してくんのよ(笑)」
「くぬぅ、主人が仕事に追われてるあいだ、式神は海での
んびりかよ。普通は逆じゃないか……阿部清明が聞いたら
どう思うだろう……」
キノト
「でもミツル、こないだそれやったら、『だれか保護者の
人、連れてきてね』って言われたんだけど……」
御影
「やったのか?」
「特物に資料を取りに行くのに……ちょっと。いや、しか
し結城さんもちょっと気を利かせてくれたって……」
御影
「普通は渡さん、普通は」
キノエ
「結局自分が出かけなきゃならないんだから、最初からミ
ツルが行けば何も問題はなかったんじゃない。
 って、そんなのはどーでもいいのよ!
 ねぇミツル! おこずかいちょーだい! おこずかいっ!
(迫りっ)」
「こっ……こずかいだぁ!? 式神が海で遊んでるあいだ
に額に汗して働いてる主人から金をせびろうってのかおま
いはっ!」
キノエ
「だって、海っていったら屋台のヤキソバがつきものだも
ん」
キノト
「お好み焼きもあるよ」
キノエ
「タコ焼き焼きイカ」
キノト
「かき氷にアイスクリーム!」
キノエ
「忘れちゃいけない焼きトウモロコシ!」
「お、おまえら……そんなふうに食い物を連呼するなぁっ
(る゛ーっ)」
御影
「……あいかわらずパンの耳か、おまえたちのご主人は?」
キノエ
「そーなの! 御影さんからも言ってやってよ、たまには
マトモなもの食べろって」
「食費の半分、お前のその水着に化けたんだぞっ(る〜)
それなのにこの上まだ金をせびろうというのかぁっ!」
御影
「ええい、泣くな暑苦しい!」
キノト
「……ふぅん。ぼくのはミツルの中学のときのお下がりな
のに(ぼそっ)」
キノエ
「……うっ、うるさいわねっ!(大汗)」
御影
「……大変だな」
「……言うな」
御影
「とにかく、とりあえずわしらは特物に顔だして仕事の詳
細を聞いてくるから、おまえらはここらで遊んでろ、行く
ぞ十」
「水着……」
SE
ごきっ!……ずるっずるっずるずる……。

引きずられて行く十。

キノト
「……ミツル、おこずかいくれなかったね(泣)」
キノエ
「しょーがないわよ白目むいてたもん」
キノト
「やきそば食べたいなぁ……」
キノエ
「あ、そーだ、いい事考えた!そこらのナンパ野郎にナン
パされて奢らせまくった挙げ句にポイってのどう?(笑)」

をぃ……どっかで誰かが同じような事言ってたぞ(汗)。

キノト
「ぼくに同意を求めないで欲しい……それに、それ、ねーさ
んが言うと洒落になってないよ?(汗笑)」
SE
ごきゃ!

キノトの顎に炸裂する伝説の右こーくすくりゅー。

キノト :「ほめんなひゃい、くひがひゅべりまひた(訳
御免なさ
い、口が滑りました)」
キノエ
「解ればよろしい。よっし、そーしよっと」

鼻歌交じりで、たったったと浜辺を駆けてゆくキノエ。
 しかし、ほんとーに成功するのだろうか(汗)。

宿、或いは観楠の受難

到着した宿は、中々落ち着いた雰囲気の日本風旅館である。
 窓からは海も見える。
 どうやらシーズンの狭間にはまったらしく、他の客はほとんどいない。
 で。

瑞希
「はーいみんな静かに!じゃ、部屋割り発表するわよー」
一同
「はーい!」

元気良く返事する一同。
 どうみても『修学旅行』のノリである。

豊中
「……まさか、この年で修学旅行をするとは思わなかった
な(苦笑)……いや、臨海学校かこの場合」 尊 :「ほんとに修学旅行みたい……(くす)」
夏和流
「僕は今年二回目の修学旅行っ♪」
みのる
「ちゃんと学を修めろよ」
観楠
「引率の先生みたいだね、みのる君(笑)」
豊中
「しかし、いいんですか?その格好、ダンナより先に俺達
に見せちゃって(笑)」

尊といえば、あの白のワンピースに鍔広の麦藁帽子、紅い皮サンダルと言ういでたち。

「いいのよ、またの機会もあるから(笑顔)」
豊中
「おや、立ち直ってますね(にやり)」
「当然よ(くすっ)」

それはさておき。

瑞希
「えーっと、まず店長さんは素子さんと二人部屋ね(笑)」
観楠
「(ぶふぁっ!)げほっ!ごほっ!」
素子
「なっ(ぼふっ)」

いきなりの攻撃に呑みかけの缶コーヒーを吹き出す観楠と、真っ赤になる素子。

かなみ
「みこ姉様、父様どうしたの?」
「ん?さぁ……大人の事情……って奴かな?(苦笑)」
かなみ
「?……ふぅん」
観楠
「げほっ……い、いや……あの……み、瑞希さん?(涙目)」
素子
「その……えーっと(真っ赤)」
瑞希
「と、いうのは冗談でぇ(くすくす)素子さんは緑ちゃんと、
店長さんはかなみちゃんと、それぞれ二人部屋ね」
観楠
「げほっげほっ……うー(目の幅涙)」

店長、爆沈。

瑞希
「直ちゃん、ユラちゃん、花澄さん、みこちゃんは四人部
屋ね。裕也、本宮君、佐古田君は琢磨呂君と四人部屋で、
あと……」

てきぱきと部屋を割り振る瑞希。

かなみ
「父様っはやく海いこっ!(にこっ)」
観楠
「あ、うん……(なんか……この先不安になってきたぞ(汗))」

観楠の予感、当たらずとも、遠からず。である。さて、部屋割りは終わって。

夏和流
「あれ、僕とみのるは二人部屋ですか?」
瑞希
「そうよぉ。静かな方が勉強に集中できるでしょ?」
夏和流
「……お心遣い、痛み入ります(泣)」

渚の縁カウント

再び御影&十のコンビ。

御影
「……」
「なぁダンナ、そんなに怒るなって」
御影
「怒っちゃおらん……余りの馬鹿馬鹿しさに呆れてるだけ
だ」
「ま、確かにな……(苦笑)」

特物から帰ってきた十と御影、先ほどの海岸で先ほどと同じように海を眺めている。
 が、しかし。今度はビーチパラソルとマットのおまけつきだ。

御影
「大体、わざわざ吹利から出張ってきて話を聞いたら……
なんだその『巨大クラゲ』ってのは!わしにクラゲと格闘
でもせいっちゅうんか!」
「さぁ……しっかし、本当にいるのか?数メートルのクラ
ゲなんて?」
御影
「さーな、目撃者がいるから呼ばれたんだろ?ま、確かに
そんなのがいたら調査も進まんな」

今回の仕事は、この浜辺に出没すると言う「巨大クラゲ」を補足、除去する事であった。
 この浜辺の護岸工事をする際、巨大クラゲが目撃され、それ以来測量や調査が止まっているのだ。
 ……巨大クラゲが恐いかどうかは別として。

御影
「わしは少し昼寝するからな、出番があったら呼んでくれ」
「いいさ、ダンナの出番は当分先だからな、寝ててくれ(苦笑)」

ふて寝モードに入る御影。
 尊との海行きをぶち壊され、挙げ句の果てに相手が巨大クラゲと来た日にゃぁふてくされたくもなる(笑)。
 で、数時間後。

「……さん」
御影
「……」
「……影さん」
御影
「……ん……」
「……ね、御影さんてば……おきて下さい」

耳元で誰かの声がして、御影の意識を眠りから引っ張り出す。
 気のせいか、耳に心地よいやわらかな声の主は尊のような気がした。

御影
(……きっと、彼女が起こしてくれるんならこんな感じ何
だろうか……)

ぼんやりと寝ぼけた頭でそんなことを考える。

「……みこちゃん、そんなんじゃダメよ〜、やっぱり『お
はようのキス』位しなきゃ(笑)」
「み、瑞希さんっ(汗)」
御影
(……今度は瑞希さんか……ん?おはようのキス……って
……おいっ!)

がばむっ!っと起き上がる御影。

御影
「なっ(絶句)」

目を開けた御影が見た物は、正面左から花澄、瑞希、キノエ、千影、緑、直紀、ユラ、かなみ、そして傍らに白いパーカーを羽織った尊がにっこり微笑んでいる。
 ぎぎぃっ!と首を回し、周りを取り囲む水着美女をゆっくり眺める。

御影
「……わし……おきて……る……よな(滝汗)」

にっこり笑う水着美女達の「悩殺ぱわー」に引きつりまくって思わずあとじさる。

御影
「(汗)……いかん、こんなの夢にまで見るようじゃ……
わし……本当に疲れてるな……そうだ、帰ったら医者行こ
う……(激汗)」
「ダンナ、いいかげん気付けよ(笑)あのな、俺もダンナ
も一言彼女たちに聞けば良かったんだ、『どの海に行くの
?』ってな(笑)」
御影
「なに?」
「そーいう事。まさに僥倖って奴だな(笑)」
「御影さん……まだ、お仕事……ですか?(じっ)」

尊の表情に陰りが差す。

御影
「あ、いや……(う……まずい……)」
「ダンナ、クラゲ退治は海中調査も必要だよな?(ニヤリ
と笑ってウインク)」
御影
「ん?……ああ、確かに!(にやり)化物クラゲも引きず
り出さな退治できんからな(笑)」
「それじゃそーゆー事で(笑)いっちょ『海中調査』と洒
落込みますか」
直紀
「やったぁ!ね、一さんも早く着替えて泳ご!(笑顔)」

ぐいぐい十の腕を引っ張って海の家へ連れてゆく直紀。

「御影さんも、泳ぎましょ!ね!(笑顔)」
御影
「ああ、じゃ、着替えてくるとするか」

ゆったりと海の家へ向かう御影。

瑞希
「おーい御影さーん(くす)」
御影
「なんか呼ん……」
瑞希
「えいっ!(笑)」
「えっ!きゃぁっ!(汗)」

御影が振り返った瞬間、尊のパーカーを引っぺがす瑞希。
 パーカーの下は、白滋の肌に映える真紅のハイレグビキニ。

御影
「あ……(絶句)」
「み、み、瑞希さんっ!パーカー返して下さいっ!(赤面)」

両手で身体を抱え、ぺたんと座り込んでしまう尊。
 しかし、座り込んだからって隠せるものでもないだろうに(笑)。

瑞希
「でも、魅せるために着たんでしょ?(くすくす)」
「それはその……(ちらっと御影の方を見る)あ、あたし
泳いできますっ!(真っ赤)」

たたっと駆け、流れるように飛び、ザンっと海に飛び込む。

御影
「……(絶句)」
瑞希
「おーい(御影の目の前で手を振る)ちょぉっと刺激が強
かったかな(くす)」

瑞希の話しによると、その後、御影が正気に戻ったのはたっぷり十分以上立ってからだったと言う話である。

おやぢの悪巧み

別荘から海まではえらく遠かった。桐下駄の足の甲を焼く陽射しに顔をしかめながら、訪雪は海岸に目をやった。夏の海辺は、思ったよりも空いていた。パラソルの間に疎らに散らばる、色とりどりの水着の人々。インドア派の若年寄の目には、別世界の存在のように健康に映る。そんな人々の中、ひときわ大きな一群に、ふと訪雪は目を留める。

訪雪
「……くくく(ヲレ笑い)……なるほど、な。
これは面白いことになりそうだ。
少しからかってやることにするか」
左手の紙袋をがさりと言わせて、浴衣の男は人混みに紛れて消えた。

渚の難破師(ユラちゃんナンパさる)

ユラ
「んーいー気持ち(伸び)」

砂の上に足を投げ出して、心地好い海風を受けるユラの背後から、怪しい人影が近寄る。

「ねぇそこの彼女、キミいま独りぃ?」

軽薄そのもののうわずった声。無視するユラ。

「おいおい、いきなり無視ってのはちょっとひどいんじゃ
なぁい?実はヲレ、この近くの別荘に来てるんだけど、よ
かったらそこでお茶しない?」

馴れ馴れしく肩を叩こうとする手をついと躱して振り返る。
 長い茶髪にサングラスの男。
 貧弱な体に羽織ったアロハシャツの前をだらしなくはだけて、脛毛の目立つ
 バミューダパンツに、足元はビーチサンダル。
 いまどき滅多に見ない、最早レトロの域にさえ達しているその格好を、頭の
 てっぺんから爪先まで見下ろして、ユラがくすりと笑う。

ユラ
「(苦笑)いまどきそんな格好してるナンパ野郎なんてい
ないわよ。で、お茶はお濃茶?それともおうす?」
「折角驚かそうと思ったのに、こんなにすぐ露顕しちまっ
たんじゃ、つまらんなぁ……ちなみにお茶は薄茶だ」

男が苦笑して、かけていたサングラスを取る。
 眼鏡の下には、見慣れた濁り目。

ユラ
「慣れないことをするもんじゃありませんよ。あなたもこ
こにいらしてたんですか?松蔭堂さん」
訪雪
「別荘に来てるってのはほんと。自分のじゃないけどね」
ユラ
「そうなんだぁ……あ、みんな向うの方にいますよ、行き
ましょうよ」

ユラの指さす先で、何人かが不審そうにこちらを見ている。

ユラ
「あ、そうだ、せっかくナンパされたんだし、それっぽく
いきましょうか(くす)」
訪雪
「いいねぇ、肩に手でもまわす?」
ユラ
「……暑いですよ。腕でも組みますか」

訪雪の腕にユラが手をかけ、歩き出す。
 ちなみにユラの格好はというに、水着の上から薄いブルーのシースルーのワンピース、さらにざっくり編んだ麦ワラ帽子をリボンで首の後ろにひっかけている。
 それがレトロナンパ男と連れ立って歩いているのだから、まあ、異様ではある。

「ユラ……ちゃん……?」

大抵の事では驚かないつもりの尊も、呆然といったおももちで、声をかける。

ユラ
「ナンパ、されちゃいました」

にっこり。
 後ろで数人ががくりと顎をはずした。

「あは、あははは……そ、そう(汗)」

引きつる尊。

「……ちょっと、そこのあんた、親切心から忠告してやる。
悪いことはいわん、命が惜しけりゃその娘だけはやめろ」
ユラ
「一ぇ……(ひきひき)」

何だぁ、といったふうに、サングラスのまま訪雪がそちらを向く。

豊中
「誤解するなって。ナンパするなら人間の娘にしとけっての」
ユラ
「なんかいったぁ?」
「おお言ったとも。いいかユラ、俺らならともかく。一般
人に迷惑かけたら、お前の場合下手すると犯罪になるんだ
からな」

あまりと言えばあまりの言われようにユラのほっぺたが「ひきっ」と引きつる。

豊中
「そういうわけだ。……だからさ、あんたの趣味をとやか
く言うつもりは無いが、こいつにとんでもない仕返しされ
る前に、さっさと謝って逃げた方が身のため……え゛え゛
え゛え゛っ!?」

『ナンパ野郎』の肩をぽんとたたきかけ、豊中は今度こそ本格的に顎をはずした。

豊中
「わ、若大家ぁ!?」

一同、ぎょっとしたようにユラの連れを凝視する。

訪雪
「……結局あっさりばれちゃうのね」

サングラスをとる訪雪。

ユラ
「でも今度はまわりじゅう驚いたじゃないですか。……で
もまあ、化けましたねぇ」

訪雪は苦笑してまたサングラスをかけた。伊達でもなんでもなく、本当に疲れた瞳に太陽の光が刺さるらしい。

花澄
「今、どちらにいらっしゃるんですか?」
訪雪
「ああ、この先のほうに知人の別荘がありましてね。そち
らに」
「すみません、若大家、よかったらそっちに泊めて下さいっ!」

言い終らないうちに、一が訪雪の袖にしがみついた。

御影
「……出張費、出とるやんか」
「だが、若大家のとこに世話になったら、出張費完全に浮
かせられるじゃないか。……食費何日分になると思ってる!?」
訪雪
「いいけど、庭の草むしりはやってもらうよ」
「そりゃぁもう、そのくらい。な?キノエ、キノト」
キノト
「ぼく、やだ」
キノエ
「やーよ、暑いもん」

あっさり。

「お、お、お……おまぇらぁ……(爆)」
豊中
「ま、あきらめて自分で草むしりするんだな(笑)」

と。
 がしっ!!

豊中
「……(汗)」
「……(汗)」

……。
 漂う沈黙。

「なぁ……(滝汗)」
豊中
「言うな一。呪うならさっさと離脱しなかった俺達の間抜
けさ加減を呪え(激汗)」
ユラ
「よっく解ったわ……あんた達があたしをどー思ってるか
が。そーいえばさっき『俺らならともかく』って言ってた
わよねぇ……ねぇ一(にっこり)」

嗚呼、美しきほほ笑み。
 天使の微笑とはかくあらんか。

ユラ
「ちょぉっとこっちいらっしゃい……(ずるずるずる)」
「ひっ!ひぃぃぃぃぃおた、おた、お助けぇっ(泣)」
豊中
「ユ、ユラ!一はくれてやる!だから俺は放せ!な?」
「あ、豊中!裏切る気か!」
豊中
「やかましい!大体おまえが……」

嗚呼、美しき友情。
 友とはかくあらんか。
 ……なんか……違う気がする……(汗)
 首根っこを引っつかまれ、ずるずる引きずられて行く二人。
 呆然と見送る一同。

「ユラちゃんて……いったい……(汗)」
訪雪
「やれやれ。ちょいと人選を誤ったようだが…
ま、あの二人に関しては自業自得というところか」

尊い労働……?

午後の別荘。
 『浦上荘』の立札は、人の背丈ほどもある草に埋もれている。草の一箇所ががさがさ揺れて、人の声がする。

「わかお〜やぁ、海行っていいですか〜ぁ?」
大きな草刈鎌を振り回して草を薙ぎながら、十が建物の方へ怒鳴る。蒸し暑い草いきれの中、シャツは汗だくになっている。

訪雪
「だぁ〜め。
建物の前全部刈って、海が見えるようになんなきゃ」
つれない一言。草の中とは打って変わって風通しの良いポーチの上で、寝椅子にゆったりと身を預けた訪雪は、十のいる辺りを眺めてトロピカルドリンクを味わっている。その傍らには、同じように寝椅子に身を沈めたキノエと、ポーチの上にぺたんと座ったキノトがいる。
 

「あと1m四方刈ったら、宿行っていいですかぁ?」
キノエ
「だーめ。宿代分くらいは働かないと悪いでしょ。
ねぇ?大家さん」
キノト
「うーん、ちょっと可哀想な気もするけど…僕らは先に
遊びに行ってるね。ミツル」
訪雪
「うむ。きりきり働けよ、二の舞君」
人間でないとはいえ、美少年と美少女、両手に花の訪雪は、すっかり鼻の下の伸びたすけべおやぢ状態になっている。

訪雪
「それじゃあキノエちゃんにキノト君、宿のみんなの所へ
遊びに行こうか。
アロハじゃおさまりが悪いから、浴衣に着替えて……
そうそう、君達の分もこっそり仕立てといたよ。
気に入ったなら着ていくといい」
キノト
「わあ、見せてくださいっ(にこ)」
キノエ
「(このおやぢ、実はミツルと同じくらい危ないのかも
(汗))」
わいわいと奥に引っ込む三人。独り残された十は。

「ちっくしょおお一体誰の所為で金がなくなったと思って
やがるんだあああ(目の幅涙)」
別荘の中で。

訪雪
「一君また吠えとるようだね」
キノト
「本当に置いてっていいのかな……(浴衣に袖を通して)
あ、これ渋い柄なのに、結構格好いいかも」
キノエ
「いいの、宿代浮かせるために自分で決めたんだから」
訪雪
「……あと10分したら柳さんが迎えに来るってのは、もう
少しだけ教えないでおこうか(微苦笑)」
労働報酬(笑)----------キノエとキノトが訪雪とともに宿へ出かけてしばらく。

SE
「ざっくざっく」
SE
「みーん、みーん。ジジジ」
「………」
SE
「ざっくざっく」
SE
「みーん、みーん。ジジジ」
「………あちぃ。くっそぉ、主人を残してホントに行くか??
あいつら」
単純作業と炎天下で頭がぼーっとする。シャツは汗を吸い取るだけ吸い取っていた。十が草刈りに勤しんでいる間、玄関には

直紀
「ええと、『浦上荘』うん!ここだ」
SE
「ぴんぽーん」
直紀
「出かけてるのかな?ほーせつさーん、いないのー」
きょろきょろとあたりを見る。庭まで来たところで、ぶつぶつと声が聞こえてきた。

「あと少し、後少し…」
直紀
「あ、一さん!ここにいたんだぁ」
「海……海…」
直紀
「おーい、にのまえさんってば」
「宿…温泉…露天…なお」
直紀
「に・の・ま・えさんってばっ!!」
ひょいっと屈んで、顔をのぞき込む

「どぅわあっっ!!」
直紀
「きゃ!」
「な、な、な……いつからそこに??」
直紀
「さっきから。呼んでるのに気がつかないんだもん。
……なんか、顔あかくない?だいじょぶ?」
「あ、いや…その(汗)」
直紀
「ほらぁ。頭、暑くなってるー。その分じゃずーっとそんな
状態で草刈りしてたんでしょ?熱射病になっちゃうよ。
そだ、ちょっと待っててねっ」
ぽふっと被っていた帽子を十にかぶせると、たたーっと建物の中に駆け込む。

「何しにいったんだろ、直紀さん。しかし…いつになったら
終わるんだ(げっそり)」
木陰に座り込み、目の前の光景を見て途方に暮れる。草刈りは庭の1/4が終わったあたり、海は遠い…しばらくして、直紀が手に硝子の器を持ってやってくる

直紀
「にーのまえさんっ!ほらっ(喜)」
「そ、それは……(ごくっ)」