エピソード535『夏は悩殺!』


目次


エピソード535『夏は悩殺!』

ショッピング・ショッキング!

吹利、デパートでショッピング中の尊&瑞希。

瑞希
「見てぇ、みこちゃん、このセット似合うかなぁ?」

瑞希が身体にあてて見せているのは、柄物タンクトップに白のショートパンツのひとそろい、なかなか夏らしい。

「ほんとだ、瑞希さん似合う。ね、私のノースリーブの白
のワンピース、どうかな?」
瑞希
「わお、清楚だぁ。みこちゃんらしい(くす)」
「いいなあ、買っちゃおうかな」
瑞希
「買っちゃおうよぉ、みこちゃん。これ着て海辺とか歩き
たいなぁ……そうだ、新しい水着買おうよ」
「水着かぁ、とりあえず見るだけ見てみようかな」

そして……水着売り場。華やかで色とりどりの萌える水着が並んでいる。
 はしゃぎながら水着を選ぶ二人。

「あれ?この声は……あ、やっぱり」

聞き覚えのある声にふと緑が振り返る。

「う〜ん、どれも可愛い、迷うな」
瑞希
「見て見てみこちゃ〜ん、これこれっ」
「瑞希さん、決めたんですか」
瑞希
「あたしのじゃなくて、みこちゃんの。これがいいよっ!」
「え゛これ?……(絶句)」

手渡されたのは……真っ赤のハイレグビキニ(爆)。
 これは……かなりきてるもんがある。

「び、ビキニ……しかも、こんなにハイレグっ!?
ちょ、ちょっと大胆過ぎません?(汗)」
瑞希
「なんでぇ絶対似合うよぉ、こういうのってなかなか似合
う人いないんだよ。みこちゃんなら絶対いける!」
「そんなあっ(焦りっ)」
瑞希
「ちょっとさ、ちょっとだけ試着してみようよね!ね!着
てみるだけ!」
「着るだけですよ……」

そして……試着中。
 ぴっちりしたビキニ。白い肌に映える真っ赤な水着のコントラストが美しい……。

「うわぁ……ほんとに大胆……これはちょっと(汗)」
瑞希
「み〜こちゃん、サイズどお?」
「サイズは合ってますけど……やっぱり恥ずかしいですよ〜」
瑞希
「どーれどれ、見せて見せて」

ひょいっと覗き込む瑞希。女同士の特権だろう……。

瑞希
「うわぉう!みこちゃん、せくしぃだいなまいとぉ!」
「きゃ、覗かないでくださいよっ!恥ずかしい」
瑞希
「いいじゃんいいじゃん。似合うって、絶対」
「でも……やっぱり恥ずかしい……(赤面)」
瑞希
「大丈夫、似合ってれば無敵!」
「無敵って……そんなあ」
瑞希
「なぁんでよぉ、これなら御影さん一発でノックダウンだ
ぞぉ」
「みっ瑞希さんってばっ」
瑞希
「着ようよぅ〜海辺でビキニのみこちゃん見たいよぉ〜」
「もう瑞希さんてば……でも、ちょっとだけなら着てもい
いかな(くす)」

ためたっているものの、どうやら実は気に入ってたらしい。
 そして、急にいたずらっぽい目になる尊。

「じゃ瑞希さん、あたしがこの水着着るかわりに、瑞希さ
んの水着あたしに選ばせてくださいね」
瑞希
「うみゅ……おっけい、交換条件」
「よおし」

くす……っと微笑む尊、なにか考えたらしい。
 手早く着替えて売り場を色々見てまわる。

「よしっ!これ」

尊が手にした水着は……。

瑞希
「ひょっ…豹柄っ」

そう、豹柄の結構胸元きわどいハイレグワンピース。
 しかもサイドが黒のメッシュになっているため、水に入ったらサイドが思いっきり透けてしまう……という凶悪なデザインである。

瑞希
「う……結構きわどいわね……」
「あたしがこれ着るんたから瑞希さんもこれ着てくれます
よね?(にこ)」
瑞希
「みゅう……むー……女に二言はないっ!」
「そうこなくっちゃ(くす)」
「こんにちわ」
「あ、緑ちゃん」
瑞希
「こんにちわ」
「水着……凄いの買うんですね」
「え、いや、これはね……それはそうと緑ちゃんも水着?」
「はい、夏に着る水着がもうぼろぼろになりかけてたんで」
瑞希
「ぼろぼろ?」
「あ、私、水泳部なんです。だからこれも競泳用です(水
着を見せる)」
「ふーん(これはこれで結構大胆ねぇ)」

そして……買い物終えて。
 デパート内の喫茶店。

「でも……旅館てまだ間に合うかな?」
「旅館?海行くんですか?」
「そうなの、それで水着買ってたの」
「私もついて行っちゃ迷惑ですか?」
「もちろん大歓迎よ(にこ)でも瑞希さん、宿どうします?」
瑞希
「大丈夫、うちのダンナの実家が旅館やってて、そこで部
屋とってもらえるから。割引にしてくれるよ、結構大きな
所だから他のみんなも誘っていけるよ」
「わぁ、すごい!楽しそう」
「楽しくなりそうですね」
瑞希
「もちろん、御影さんも誘うから、ね!」
「え(真っ赤)……御影さんの前で……これ……着るんで
す?」
瑞希
「そうだよぉ、チャンスじゃない!清楚かつさわやかな白
のワンピースでまず一撃、続けて大胆ビキニで一気にぐら
つかせて、とどめに艶やかな浴衣姿でフィニッシュよ!」
「フィニッシュって、コンボじゃ無いんですからぁ(真っ赤)」

その時、かしましくお喋りを楽しむテーブルから少し離れたテーブルに、聞耳を立てる一人の男がいた。

琢磨呂
(……しかと、聞いたぞ!とどめ&フィニッシュとな。み
こ姐さん大胆すぎるぜえええええええ!決めた。俺もいく
ぜっ!問題は、どうやって同行するか、だな……)

たまたま買い物に来ていた琢磨呂も、一休みしようとお茶していたのである。
 狙った被写体は逃さない、疾風怒濤、電光石火の名カメラマン。
 彼の腕前は万人が認める所である……撮影方法や撮影対象に多少問題があるような気がするが。

琢磨呂
(撮影場所は浜辺……とすれば装備はD装備からS装備だ
な)

琢磨呂は撮影プランに想いを巡らせ、ニヤリとほくそ笑むと、フィルムの買足しにカメラ屋に急いだ。
 一方こちら、そんな事は露知らぬ瑞希達。

瑞希
「よぉーし、こうしちゃいられない。早速みんな誘いいこっ!」
「あ、ちょっ……瑞希さんってば!待って」

元気よく走り出す瑞希、慌てて後を追う尊。
 その後ろからのんびり行く緑。
 むかうは……ベーカリー楠!。

暑い夏

からんころん。

観楠
「あ、御影さん、いらっしゃい。暑くなりましたねぇ」
御影
「まったく。なんでこの暑さのなかスーツ着てネクタイし
めてるんだろうって、たまに疑問に思うわ(上着を脱ぐ)。
アイスティーもらえる?」
「ダンナのスーツ姿って、見慣れてるから何とも思わない
けどな」

十は一足先にベーカリーで涼んでいた。

「よくよく考えるとダンナって会社勤め似合わないよなぁ
(笑)」
御影
「やかましい。その程度、とうに自覚してる(笑)」
観楠
「はい、アイスティーおまちどうさま」
御影
「あ、ども」
「そーいやダンナ、今年は取れそうなのか?夏休み」
御影
「ん?ああ、いまのところさっぱり分からん。休みナシっ
てこともじゅうぶん考えられるな」
「と、なると……海に行けるチャンスはこれっきりかもし
れないわけだ。おかわいさうに(笑)」
御影
「大きなお世話だ。……で、海か?次の仕事は」
「ああ……そうなんだけど……。ダンナ、場所変えて話そう」
御影
「別にかまわんが。……なんでまた」
「いや、その……なんとなく……な」
御影
「直紀さんに聞かれると困るからか?(笑)」
「そ、そーぢゃなくてだなぁっ!」
御影
「わかったわかった。それじゃ店長、アイスティーごちそ
ーさん」
観楠
「毎度ありがとうございました〜」

海へ行こう!

からん、ころん。
 御影たちが去った後暫く後、暑さに茹った直紀がヨロヨロ入って来た。

直紀
「あーづーいー(くてー)」
観楠
「本格的に夏日だねえ。はい、アールグレイ(笑)」
直紀
「ありがとーですー(一気に飲み干す)……ぷはぁっ生き
返るぅ!観楠さん、もー1杯ぃ!!」
観楠
「ぷはぁって……(苦笑)暑いの苦手だっけ?直紀さん」
直紀
「そーでもないんですけど、こー暑いともう、パーってどっ
か行きたいぃ!(じたじた)」
観楠
「……はい、おかわり(苦笑)」

カラン、カラン。

瑞希
「こんにっちはー!」
「み、瑞希さん!まってくださいってば(汗)」
観楠
「いらっしゃい。買い物の帰り?」
瑞希
「ふふっ、店長さんどーです?これー」

戦利品の柄物タンクトップに白のショートパンツのひとそろいを取りだし前にあてると、くるりと一回転。

観楠
「似合いますねえ、それどっかに着て行くんですか?」
瑞希
「皆誘ってどっかいきたいなーってさっき、みこちゃんと
話してたんです。でね、うちのダンナの実家が海辺で旅館
やってて、そこにしよっかなーって、店長さんも行きませ
ん?」
観楠
「海、ですかぁ……うーん、どーかなぁ」
瑞希
「駄目ですか?」
観楠
「あ、いやそーいうわけじゃなくて(汗)えーと……そー
ですね、うん。行きましょうか(笑)」
瑞希
「……なんか歯切れ悪いなぁ?」
観楠
「そ、そんなことないですよ(苦笑)」
瑞希
「じゃ、キマリね(笑)」
観楠
「はい(笑)あぁ、詳しい日取り決まったら教えて下さい」

言いつつ、エプロンのポケットを探る。

観楠
「(……吹利アクアガーデンの招待券、割と数貰ったんだ
けど……ま、いいや。朝にでもくれてやろう)」
ふと、ベーカリーの隅で顔を上げる者一名。

夏和流
「(ぼそ)……海……行きたい……」
みのる
「(きっぱり)宿題」
夏和流
「……あうう(;_;) 美人が行くらしいのにぃ……」
ああ受験生、ああ学生。夏休みの宿題とは量が半端じゃないのだ(笑)かくして、とりあえず我慢の子となる。もっとも、我慢が続いた試しは夏和流にはなかった(笑)
 暑さに伸びていた直紀の耳に、『どっかいきたいなー』、『旅館』、そして
 『海』のキーワードが届く。
 耳を打つ魅力的なキーワードに直紀の耳がぴくぴく反応する。

直紀
「(がばっ)いくっ!一緒につれてってぇぇ、瑞希さーんっ!」
瑞希
「直ちゃんもいく?よぉし、また今度直ちゃんの水着もあ
たし達で選んであげるっ。直ちゃん明日空いてる?」
直紀
「空いてますっ!うわあ楽しみっ」
瑞希
「まっかせなさい!直ちゃんにぴったりの奴選んであげる
わ!」
「あ……え……う〜ん(直紀さん、何にも知らないで……)」

とりあえず、何か言おうと思ったのだが、ここで事の次第をばらしてしまっては台無しと、苦笑しつつも口をつぐむ尊。

瑞希
「そうだなぁ、直ちゃんは白とか…パステル系がいいかな」
「そうね、白っぽいワンピースに少し柄の入ったパレオな
んて似合うんじゃないかな」
瑞希
「わお、それいい。サングラスも欲しいところだ」
直紀
「麦藁帽子もつけたいなっ」
瑞希
「つば広でボサボサッとした奴ね」
「なんだか……きりがなくなっちゃいそう(くすくす)」
観楠
「(なんか……華やかでいいなぁ女の人は)」

只今下校中

と、こちらは下校中のスナフキン愛好会の面々。

フラナ
「もとみー、佐古田ぁ今日ベーカリーよって帰ろう」
本宮
「おぅ」
佐古田
「じゃん(いいよの音色)」

などと会話しながら校舎を出るいつもの3人組。
 そんな中、校門の前に立つ目立つ容姿の女の子を発見した。

フラナ
「あ、チカちゃんだ。ヤッホー、チーカーちゃーん!!」

チカと呼ばれた女の子はこちらに気づいたようでニコニコしながら手を振っている。

本宮
「誰あの娘?知ってるか佐古田?」
佐古田
「じゃじゃん(知らないの音色)」

そうこうしているうちに校門前にたどり着いた。

千影
「フラナ君いっしょに帰ろ☆……っと思ったけど友達といっ
しょかぁ……悪いからまた今度にしようかなっ」
フラナ
「そんな事言わないで一緒に帰ろぅ?ねぇ、もとみーも佐
古田もいいよね?」
佐古田
「じゃん(いいよの音色)」
本宮
「ああ、俺は別にかまわないぜ。(千影に向かって)えっ
と……俺、本宮和久、こいつが佐古田真一。よろしく」
佐古田
「じゃじゃじゃん(ヨロシクの音色)」
千影
「普通科2年の無道千影です☆本宮君に佐古田君これから
よろしく(ニコ)」
フラナ
「ねえねえチカちゃん、今日帰りにベーカリーに寄ろうと
思ってたんだけどそれでいい?」
千影
「パン屋さん?うんいいよ☆」

満員御礼ベーカリー楠

おしゃべりしつつ到着したベーカリー楠。
 今日は何時もよりお客が多い。
 からんからん。

フラナ
「やっほう店長さん」
本宮
「こんにちは」
佐古田
「じゃじゃじゃあぁぁん(こんにちはぁっの音色)」
千影
「……こんにちは」

フラナの後からおずおずと出て来る千影。

観楠
「いらっしゃい、その子は?」
フラナ
「チカちゃんだよ。今度うちの学校に転校してきたんだ」
千影
「よろしく(ぺこ)」
観楠
「こちらこそよろしく、ゆっくりしてってね」
瑞希
「あら、裕也。だぁれ〜その子?可愛いね」

テーブルで、旅行の計画を練っていた瑞希、早速目をつける。

フラナ
「あう、瑞希姉ちゃん。今度うちの学校に転校してきた無
道千影ちゃん。チカちゃん、僕の姉ちゃんだよ」
千影
「こんにちは、千影です」
瑞希
「千影ちゃん。じゃ、チカちゃんね。あたし斎藤瑞希、こ
いつの姉(ぐりぐり)」
フラナ
「みゅみゅみゅ〜」
千影
「仲良いですね、うらやましい」
フラナ
「(あんまし嬉しくない〜)」

店を見まわす千影。ふと、視界に映る、テーブルに広げた雑多な広告。
 ほとんどが夏服、海で使う道具が書いてある。

千影
「(テーブルを見て)何かしてるんですか?」
瑞希
「これ?うん、今度夏にみんなで海に行こうって話しあっ
て。その計画立ててるの」
フラナ
「ふうん、楽しそうだね」
瑞希
「とうぜん、あんた達もいくのよ」
フラナ
「え?」
佐古田
「じゃじゃん(海!の音)」

スナフキン愛好会、瑞希の前では彼らに選択権は、無い。

千影
「海……かぁ……あたしも行きたいな」
フラナ
「そうだ、チカちゃんも来ない?」
千影
「え?あたしも?…でも」
瑞希
「いいじゃん。泊まるのはうちの旦那の実家だし」
フラナ
「きっと楽しいよ、チカちゃんもおいでよ」
千影
「でもいいんですか?私なんかが行って(瑞希を見る)」
フラナ
「ぜんぜんいいよぉ!ねぇ行こう?」
瑞希
「これ(グリグリ)の友達の可愛い女の子なら当然OKよ(ニコ)」
千影
「……じゃあ、お言葉に甘えてお世話になります(ニコ)」
瑞希
「よし!そうときまれば次は水着ね(ジィー)銀髪に碧眼…ね…
瞳にあわせて…淡めのグリーンをベースにして可愛くリボンワン
ピースタイプでゴーね!」
千影
「あの、あの、なんの話ですか」
瑞希
「うーん、オプションは大き目の麦わら帽子でいいわね。
あ、でも水着とペアでおっきなリボンも捨て難い」
千影
「あの」
フラナ
「(服の裾くいくい)だめだよチカちゃん…瑞希姉ちゃん、
ああなると人の話聞かないから…」
千影
「うーん、ちょっと恐いけど、なんだか楽しみになってきた」

かららん。
 瑞希達に遅れた緑がようやく到着した。

観楠
「いらっしゃい緑ちゃん」
「緑ちゃん、今打ち合わせしてるの、早くいらっしゃいよ(にこ)」
「遅れましたぁ」
観楠
「あれ?緑ちゃん海行くの知ってるの?」
「はい、さっきデパートで会ったんで(にこ)」
本宮
(どきっ!)

本宮の心臓が跳ね上がる。

本宮
「(どぎまぎ)え?み……み、水島さんも……う……海、
行くんですか?」
「あ、こんにちは。はい……尊さんが……息抜きにちょう
どいいって」
フラナ
「そうだよね〜息詰まっちゃうもん。ふふふ、楽しみだね!もとみー」
佐古田
「(小さく口元に笑みを浮かべ)じゃじゃん!(楽しみだな〜の音色)」

冷やかしモードにはいっている三人。そこへ。

瑞希
「ちょっとあんたらうるさい。えっと、緑ちゃん」
「……え、はい」
瑞希
「じー(見つめる)」
「あのぉ……なん、でしょう(困惑)」
瑞希
「うん!可愛い。よし、緑ちゃんにはやわらかな白地に鮮
やかな柄付きにしよう!結構背高いから、模様も大柄でね」
「え?あの……」
瑞希
「やっぱりね、せっかく海行くんだから、競泳用のじゃな
くて、バシッと決めなきゃ」
「え……バシッ……ですか?(汗)」
瑞希
「よぉっし、直ちゃん、緑ちゃんの水着の案よし。ね、日
曜空いてる?空いてたらみんなで水着買いにいこ!」
「……え……あの……えっと」

唐突な展開に戸惑う緑、視線をさまよわせると、後ろのテーブルの尊と視線が合う、緑に気づくと苦笑しながら肩を竦める尊。

「あの……よろしく(にこっ)日曜日、空いてますから買
い物行けますよ」
本宮
「(どきっ!)……(水島さん、やっぱり……笑うと可愛
い……な)」

本日二度目、跳ね上がった本宮の心臓がでんぐりかえる。

瑞希
「よっしゃあ、あんたら荷物持ちに来なさいよね!」
フラナ
「えー」
佐古田
「じゃじゃぁぁん(めんどくさい〜の音色)」
本宮
「え……(ぽっ)お、俺で……よければ……いくらでも荷
物……持ちますから(緑に向かって)」
「ほんと、ですか……助かります」
瑞希
「(おやおやぁ……)ふぅん、じゃお願いね(くすっ、本
宮くんてば……)」
フラナ
「(ねーちゃん……なんか企んでるぞ……)」

微笑む緑を前に、ひたすら照れまくる本宮、チェシャ猫笑いを浮かべた瑞希。
 冷や汗ひとつ……のフラナ、我関せずの佐古田。
 瑞希は何をもくろむか?

瑞希
「大人数になってきたなぁ……うう、海行くの楽しみっ」

瑞希の声と重なって、涼しい風が入ってくる。

花澄
「こんにちは。……誰かどこかへ行くんですか?」
瑞希
「あ、花澄さんも行きません?」
花澄
「はい?」
瑞希
「皆誘ってどっかいきたいなーって、今みんなと、話して
たんです。でね、うちのダンナの実家が旅館やっててそこ
にしよっかなーって……花澄さん?」

怪訝そうに瑞希が覗き込んだのも無理はない。

花澄
「(どっかいくって……そうすると、切符予約とか、待ち
合わせとか、そういうおまけがどっとついてきて……でも、
瑞希さんと、みことさんで……)」

出不精の本領発揮。
 眉間に縦じわ三本、の状況である。

「花澄さん、どうしたんですか?」
花澄
「え、いえ、あの、ええと(汗)」
直紀
「花澄さん、一緒に行こっ!」
花澄
「あの、でも」
直紀
「忙しいとか?」
花澄
「え、いえ、というわけでも」

最初から『行きません』と言っておけばよいのだが、ここまで来ると、どうしようもない。

直紀
「(じーっ)一緒に、行かない?」
花澄
「(う、何でこんなに断りにくいのー)ええと」

と。
 とんでもない援軍が背後から出てきた。

譲羽
『行くっ!』
花澄
「ゆず!?」
譲羽
『行くのっ!ゆず、外に行くのっ!』

袋の蓋を押し広げ、ぴょん、と飛び出した木霊は、手近のテーブルの上に飛び降り、ぢいぢいと力説した。

譲羽
『花澄、外行かないんだもの。ゆずは、外好きなのっ!だ
から行くのっ!花澄も行くの!』
直紀
「……」

じっと譲羽を見つめる直紀。

譲羽
『?』
直紀
「か、かわい〜(きゅっと抱きしめる)」
譲羽
『ぢぃ(照)』

花澄は溜息を吐いた。

花澄
「そう言えば、どこにも連れてってないもんね……すみま
せん、じゃ、御一緒させて頂いて宜しいですか?」

涼しげなドアベルの音とともに、もう一人。

ユラ
「こんにちはぁ。今日って、けっこう、太陽さん、元気で
すよねぇ」
「あたしにはユラちゃんの方が元気に見えるけど(苦笑)」

苦笑い。当然である。
 ショートパンツにビスチェ、その上からシースルーのブラウスと、なかなか刺激的な格好である。
 しかし足元は実験室仕様のナースサンダル。
 色気があるんだかないんだかわかりゃしない。とりあえず、元気、ではある。

ユラ
「いやもう、白衣で実験室こもってると、こんな格好でも
しないことには暑くって。ところでみなさん、おそろいで
どうかしたんですかぁ」

ここしばらく実験がうまくいっていないせいだろう。
 やたら投げた口調である。

直紀
「ね、ね、ユラさんもどう?一緒に」
ユラ
「え?何でしょう」
瑞希
「えと、みんなで海いこうかって話を...」
ユラ
「海ぃ!?行くっ。行きますっっ!!あたしも連れてって
下さいっ」

いきなり声に生気がもどった。はっきりいって目の色が違う。

ユラ
「海かぁ。しばらく実家にも帰ってないし、懐かしいなあ。
ええ、是非。あ、でも、宿とか足とか……」
瑞希
「あ、宿はね、うちのダンナの実家が旅館だから」
ユラ
「それじゃそっちは大丈夫ですね……と、あとは足かぁ。
電車乗り継いでいくのも楽しいけど、けっこう面倒だし……
あ、それじゃ、豊中引っ張り出して、車出してもらおう。
でも、あいつ自分の車って持っていたかな……ま、いいや。
頼めばなんとかしてくれるでしょう、と。これで足一台と
カメラマン一人確保ですね」

一気にまくしたてると、ふう、と一息。

ユラ
「あ、そだ。それじゃ、水着新調しなくちゃ。」

店の前に、白いバンが止まる。ドライバーが降りてきて。
 からからん。
 暑さにばてて床に伸びている猫科動物のような顔で、豊中が入ってきた。
 なかなか御都合主義である。

ユラ
「あ、ちょうど良かった。ねえねえ豊中」
豊中
「……何か飲んでからにしてくれませんか、暑くて脳味噌
が溶けてます」
ユラ
「暑いっていうんなら、そのジャケットを脱ぎなさいよ(苦笑)」

白いコットンジャケットにカッターシャツ、ブラックジーンズという格好である。
 足元も靴下をしっかり履いた上でスニーカー。露出しているのは顔と両手だけというスタイルなのだから、これで暑くないはずがない。
 ちなみに、バンにはヒーターはあってもクーラーはついていない。

豊中
「店長、麦茶下さい。……俺としては、あまり肌を出す格
好はしたくないんですよ」
「(くすっ)女の子みたい(笑)」
豊中
「まあね。しかし事情が事情ですし。あ、店長これもお願
いします」

トレーに載っているのはししゃもパンとドーナツ。

観楠
「毎度、250円ね」
ユラ
「でね、海に行くんでドライバーが欲しいんだけど」
豊中
「……海ぃ?」

あまり嬉しそうではない。

豊中
「う〜ん……」
ユラ
「尊さんとか、直紀さんとかも行くんだけど」
豊中
「俺じゃなくって御影の旦那とか一の野郎を誘うべきです
よ」
「……どうしてそうなるんですか!?(真っ赤)」
豊中
「そのために水着を買ったんでしょう?(にや)」
「あ……よ、読んだのね!?(真っ赤)」

漣丸が手元にあったら、ざくざくとやられているところだった。

豊中
「違いますよ、その袋です。中身が水着かどうかは当て
ずっぽうだったんですが、そうか図星でしたか(にやぁ
り)」

指さした先はデパートの袋。

(まっかっか)

図らずも心中を白状してしまい沸騰寸前の尊。
 やかんを載せればお湯が沸くだろう。

ユラ
「(ぺしっと平手で豊中を叩く)あんたはねぇ……。とに
かく、あんたも来るんだからね」
豊中
「……決定事項のわけ?」
ユラ
「ドライバー兼荷物持ちね」
豊中
「車はレンタルになりますよ?」
ユラ
「つまり来るってことよね」
豊中
「仕方ないですね、選択権は無いようですし」
ユラ
「ええと、それじゃ、日程はいつごろになるのかな?」

アイスティーを飲みながら、ユラはポケットから手帳をひっぱりだした。
 開いたページには、なにやらわけのわからない記号がびっしり書かれている。

ユラ
「この実験は三日連続だから動かせないし……こっちで、
こないだのデータ転用するとして、何日くらい空けられる
かなぁ。ええと……と、すると、水着買いにいくとすると、
空くのは……」

なんのことやら、である。
 と、そのとき、どこかで電子音が鳴り始めた。

直紀
「あれ?あたしの携帯……とはちがうような……」

がたんっ。

ユラ
「しまったぁぁ(大汗)!!」

ユラの後ろで、椅子が倒れそうに揺れた。

ユラ
「こんなことしてる場合じゃなかったんだぁ。観楠さん、
すみませんけど、こっちのパンのほう、包んでいただけま
すか。あ、あたし、実験の途中なもんで、すみません、尊
さん、詳しいこと決まったら、今晩電話下さい。それじゃ
あたし、もう行きますんでっっ!!」

からんからんからんっっっ。
 あっけにとられている人々を残して、鳴り続けるタイマーを握りしめたまま飛び出していく。
 窓の外を、白衣を翻した自転車がまたたくまに遠ざかっていった。

豊中
「……阿呆」

一気に疲れ果てた表情で、豊中はぼそりとつぶやいた。
 と。

夏和流
「行きたいぃぃぃぃ!」
みのる
「一体、何が目的で海に行くつもりだ?」
夏和流
「目の保養!」
みのる
「そして、勉強しないつもりか」
流石は親友、きっちり心の内を読んでいる。だがそれで諦めるほど夏和流は自制がきく人間ではない(笑)

夏和流
「旅館で勉強もするからっ!お願いぃぃぃぃぃ!!」
「そんなに、美人が見たいの?」
夏和流
「あったりまえ! だから……え?」
「(にっこり)あたしも、行くわね」
夏和流
(汗)
「みのる君、あたしが、しぃぃぃっかり、みてるから」
夏和流
(大汗)
「(にっこり)ね?」
みのる
「……そういうことなら、いいがな。しっかりやれよ」 夏和流 :「あは、あははははは……(滝汗)」
「あ、夏和流君達も行くの?……えっと……彩……ちゃんだっけ?」
「はい、よろしくお願いします」
「よかったわねぇ夏和流君(にこ)」

夏和流、ピンチである。
 しかし、何はともあれ、海行き決定!

その夜の西山宅

で、その夜。

夏和流
「ねー、みのるも海に行かない?」
みのる
「海?昼間の話しか」
夏和流
「そう。涼子さんも一緒に」
みのる
「そんな暇はない。行きたければお前一人でいけ」
太郎
「ほっほう、海に行くのかの、夏和流くん」
夏和流
「あ、おじーちゃん。そうなの、ベーカリーのみんなで一
緒に」
太郎
「ふむ。行ってくるのじゃ」
みのる
「師匠。ですが、俺にはやるべきことが……」
太郎
「だれも、おまえに行けとはゆーとらん、わしは涼子さん
に行っておいでと言っとるんじゃ」
みのる
「は……?」
太郎
「涼子さんもたまには海にでも行きたかろう?」
涼子
「え?はぁ……」
太郎
「よし、決まりじゃ。みのる、護衛についてゆけ(笑)」
涼子
「え……(赤くなってうつむく)」
夏和流
「ね? いこーよー」
みのる
「……わかりました」
夏和流
「やったぁ!」

こうして、夜はふけてゆく。

式神だって女の子っ!

同じ頃、松陰堂。

訪雪
「一君、電話。小滝さんから」
「あ、はい、どうも」

どうせろくな用事じゃなかろうよ、と思いながら受話器を取る十。

ユラ
「あ、一?今度、キノエちゃんいちにち借りたいんだけど、
いい?」
「何だよ、やぶからぼうに」
ユラ
「んとね、こないだ、実験台になってもらったお礼、まだ
してなかったじゃない?で、今回はお礼がわりに、キノエ
ちゃんの服買おうかと思ったんだけど。あんたどうせまだ、
彼女に自分のお下がりを押しつけてるんでしょ?」
「……そりゃまぁ、ありがたいんだけど……(キノエに)
ちくしょう、俺の食費がお前の服にぃ……」
ユラ
「みっともないこと言うんじゃないって。たまにはいいじゃ
ないの。そちらさえよければ、明日にでも。いい?」
「ま、こっちはかまわないけどさ」
ユラ
「よかったぁ、ありがと。とりあえず夏物関係はひととおり
揃えるから。水着とか、どういうの好きか考えるように言っ
といて」
「水着ぃ?」
ユラ
「うん。いや、みんなで海に行くっていうから、あたしも水
着新調しようと思ったんだけど、買いに行くのにど〜おして
も日程合わないのよ。で、キノエちゃんだったらつきあって
もらえるかなってのもあってさ。んじゃ、いい?」
「はぁ…」

ため息。

ユラ
「それじゃ、明日松陰堂に迎えに行くから待っててって伝え
といて。じゃね」

かちゃん。
 一方的に電話は切れた。

キノエ
「ミツル、電話誰から?」
「ユラから、この前の実験台のお礼にキノエの服や水着、
買ってくれるってさ(ため息)」
キノエ
「ほんとっ水着もっ?さっすがユラさん話せるなぁ(喜)」
「……食費どうするかなぁ……ユラん所のバイト代あてに
してたんだが」
キノエ
「いいじゃない!そんなの、あたしの服と食費とどっちが
大事なの!?」 十 :「いや、服はくえんし・・・(言いつつ、テレビのスイッチをひねる)

大急ぎで茶碗を片づけるキノト、ブラウン管が『何故か』(笑)明滅する。
 この晩、満天の星空にもかかわらず、『何故か』松陰堂には特大の雷が落ちたという。
 嗚呼、合掌。

Lovers

ベーカリーにて「海っ!」の動議がなされたその翌日ベーカリー楠。

観楠
「とはいうものの……心当たりなぁ。さて……」

観楠の頭に昨日の会話がよみがえる。
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

瑞希
『店長さん、なるべく大勢の方が面白いんで、できるだけ
声かけといて下さいねっ☆」
観楠
「わかりましたぁ……」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

観楠
「心当たりなぁ……」
琢磨呂
「(からんっ) てんちょー、アイス頼まぁ」
観楠
「いらっしゃい。あ、岩沙君」
琢磨呂
「あー?」
観楠
「夏、みんなで休みとって海行こうって話あるんだけど」
琢磨呂
「海……か。で、メンツは?」
観楠
「うん。発案者の瑞希さん……ほら、最近良く来てる岩沙
君好みのおねーさん(笑)」
琢磨呂
「ほぉ、ぅ(鴨が葱しょってやってきたか)(にやぁり)」
観楠
「……のご家族と。あ、紅茶おまたせ」」
琢磨呂
「なんだ、ねーちゃんだけじゃねーのか(がっくし)」
観楠
「それと、尊さんは知ってるよね? あと直紀さんとグリー
ングラスのユラさんも来るんじゃないかなぁ」
琢磨呂
「ほぅほぅ(にやりにやり)(話が進展してるじゃねーか)」
観楠
「あとは、豊中さんも行くのかな? 御影さんも……かな」
琢磨呂
「てんちょーもだろ?(げそーっ)」
観楠
「ん、多分ね(笑) で、岩沙君その『げそーっ』って(汗)」
琢磨呂
「世の中美味い話はないもんだっていう俺の心の現れ」
観楠
「はぁ??」
琢磨呂
「まぁいいか。よし、その話、のったぜ!(笑)」
観楠
「そか、よかった(笑) これで写真はバッチリだね(笑)」
琢磨呂
「おぅ(笑) んじゃ、詳しいこと決まったらまた連絡頼む
ぜ。あ、そーだてんちょー」
観楠
「ん、なに?」
琢磨呂
「素子、誘わねーの?」
観楠
「もっ……!(汗)」
琢磨呂
「あいつもなんだかんだあったけど無事進学できたんだし
……その様子じゃ全然会ってないみたいだな(苦笑)」
観楠
「あー……いやその……まぁ、ねぇ(汗)」
琢磨呂
「いいじゃねーか(笑) 誘ってやればあいつも喜ぶぜ?」
観楠
「……そ、そー……だね、うん。誘ってみるよ(汗)でもさ」
琢磨呂
「んー?」
観楠
「あ、いいや。なんでもないよ(苦笑) あ、麗衣子ちゃん
は誘ってあげないの?」
琢磨呂
「あいつ、今受験生だぜ? それに」
観楠
「それに?」
琢磨呂
「ただでさえ美人ぞろいだってーのに、そんな中にアイツ
連れてってみろ! 俺の気が休まらねぇ(汗)」
観楠
「(想像中)……なるほど(笑)」
琢磨呂
「だろ? あれでヤキモチ焼かなきゃほんっとに可愛いヤ
ツなんだがなぁ〜〜。さて、と(紅茶を飲み干す)」
観楠
「お帰り?」
琢磨呂
「今から講義。夕方また来るから、なんかとっといて……」
観楠
「カツサンドとか、『濃い』ヤツね(笑)」
琢磨呂
「さすがてんちょー、わかってるぜ(笑) んじゃまた後で!」
観楠
「うーん……いきなりって感じもするけど……そーだよな。
誘うだけでも。素子ちゃんの下宿先の番号は、と」

TELTELTELTEL……

観楠
「……あ、もしもし素子ちゃん? うん、そう。元気そう
だね(笑)えっと、今度みんなで……」

Mission Start!

午後。
 わくわくと誰かを待ち受ける瑞希&直紀。
 と、どうやら待ち人来るのようだ。
 からんころん。

観楠
「いらっしゃいませ」
直紀
「あっ、御影さんっ!こんちわーっ!」
瑞希
「こんにちわ御影さん。こう暑いとぱぁっと泳ぎにいきた
くなりません?(笑)」
御影
「まぁ確かに、そんな気分になるわな」
瑞希
「でしょ?でしょ?(にっこり)」
御影
「?瑞希さん、なんかあったん?」
瑞希
「ん?ん〜ん、なぁんにも。ね、なおちゃん(笑)」
直紀
「そーですー(笑)なぁ〜んにもないですよ(笑)」
御影
「なんか陰謀を感じるんだが……まぁいいか。あ、店長、
今日はちと急ぐんで、バゲットだけもらえる?」
観楠
「この暑いのに、たいへんですねぇ」
御影
「ま、しかたのないとこやね」
瑞希
「あ、そぉそぉ。御影さん、みこちゃんがね、ちょっと寄っ
てほしいって言ってたよ」
御影
「尊さんが?ん、分かった」

ベーカリーを後にして、FLOWER SHOP Mikoに向かう御影。

瑞希
「作戦(くす)」
直紀
「大成功(くす)」
瑞希&直紀
(くすくすくすくす……)

顔を見合わせてくすくす笑う二人。

観楠
「な、何だろう一体……(汗)」

脅える観楠(笑)。

I miss you……

夏の日差しが眩しい午後、店の前に水をまく尊。

「いらっしゃいませ、……あ、御影さん」
御影
「どうも、瑞希さんに聞いてきたんだが、わしに何か?」
「あ、その……えっと……」
御影
「?」
「あの……いっしょに、海に行きませんか?」
御影
「海に?」
「あ、二人だけで行くんじゃなくて(焦)……瑞希さんと
直紀さんと花澄さんと、観楠さんも行くんです。緑ちゃん
も夏和流君達も来るし。大勢で出かけたほうが楽しいで
しょ?だから、御影さんも……いっしょに行きませんか?」
御影
「う……日取りとか、分かる?」
「来週の週末にしようかなって、瑞希さんたちと話してる
んですけど……」
御影
「あー、来週は『仕事』が入ってるんだ。それに今年は休
みが取れるかどうか分からんから……」
「え?御影さん、行けないん……ですか……?(がっかり
した顔)」
御影
「悪い。せっかく誘ってくれたのに。埋め合わせは必ずす
る」
「そんな、いいんです(にこ)。しかたないですもの。
お仕事、がんばってくださいね」

で、その日の午後。
 からん、ころん。

「こんにちは……(悄然)」
観楠
「おや、尊さん……どうかしたんですか?」
「あ、えっ?い、いえ、なんでもないです。大丈夫ですよ
(にこっ)」
観楠
「だったら、いいんですけど……」

からからころんかろん。
 ドアベルが元気のいい二人組の到来を告げる。

直紀
「こんにっちはーっ!」
瑞希
「こんにちはぁっ!」
観楠
「いらっしゃいませ。いつも元気ですねぇ(笑)」
直紀
「だって、海ですよぉ海っ!これで元気にならなくてどー
するんですか!(笑)」
瑞希
「……って、どしたの、みこちゃん?考え込んじゃって」
「そ、そぉんなことないですよっ(にこっ)」
瑞希
「あ、分かった。どーやって御影さんを墜とそうかシュミ
レーションしてるんだ(笑)」
「ちがいますっ!(照)それに、御影さん……来れないそ
うですし……」
直紀
「えーっ!!」
瑞希
「嘘ぉ!」
「ちょうど来週『お仕事』だそうです。だから……」
観楠
「(尊さん、それで元気なさそうだったのか……)お勤め
してる人って、お休みとか、あんまり思いどおりにならな
いから、こんなときは辛いでしょうね」
「お仕事ですから……仕方ないです」
瑞希
「でも、それにしたって御影さんも御影さんだわっ!みこ
ちゃんが直接ゆーわくしてるのになびかないなんてっ!」
「誘惑なんかしてませんっ!(照)」
直紀
「あれ?もしかして『お仕事』って、一さんと組んでやる
お仕事なのかな?」
「あ……聞いてなかったけど、たぶん……」
直紀
「え、じゃあ、一さんも来れない……の、かな……?」
瑞希
「そんな……。困ったわね、補完計画が……」
直紀
「あっ、あたし、一さんに直接確かめて来ますーっ!!
にーのーまーえーさーんっ!!」

ばんっ、ばたんっ。からころかろん、からん。
 ぴうーっ、と走り去る直紀。

観楠
「あぁ、直紀さん、気をつけて……って、もう聞こえない
かな(汗)」
瑞希
「……すばやい(汗)でさぁ、みこちゃん。あたしとお仕
事と、どっちが大事なの?。ぐらいは言った?」
「そっ(汗)……そんなこと、言えません……(照)」
瑞希
「むー。(みこちゃん、おねだりのしかたを勉強する必要
アリね……。そうだわっ、海でナンパしてきた男にさんざ
ん貢がせてオゴらせたあげくバイバイして、みこちゃんお
ねだり技能パワーアップ大作戦っ!これよこれっ!
うふふふふふふ、見てなさいよ御影さん!)」
観楠
「み……瑞希さん?どうしたんですか、いきなり拳握りし
めて含み笑いしたりして(汗)」
観楠
「(あ、そうだ)瑞希さん、瑞希さん、ちょっと」
瑞希
「なーに?店長さん」
観楠
「(内緒話もーど)あのですね……もう一人くらい、増え
ても宿の方、大丈夫ですか?」
瑞希
「んー大丈夫だと思うけど……かなみちゃん?かなみちゃん
ならもう人数に入ってるけど、もう一人って……あ(くす)」
観楠
「……(赤面)」

瑞希の顔にあのチェシャ猫笑いが浮かぶ。

瑞希
「だいじょーぶ、宿の方はまっかせて、何なら二人部屋に
する?(くすくす)」
観楠
「(ぶんっぶんっと首を振る)と、とんでもない!」
瑞希
「なーに弱気な事を(笑)ふぁいとだてんちょーさん(笑)」
観楠
「あはははははは……はぁ(汗)」

さすが瑞希、やはり強い。

訪雪、避暑に行く

SE
「ぱたぱたぱた」

茶の間の畳に寝転がっている、甚兵衛姿の訪雪。
 左手には扇。頭にヘッドフォン。卓袱台にはかき氷の残骸。
 聴いているのは「魅惑のハワイアン大全集」。

訪雪
「ぅあっちぃ…こう暑いと何をする気も起きんな」

松蔭堂には、エアコンなどという文明の利器はない。

訪雪
「たまには店も閉めちまって、ぱあっと海にでも行きてぇ
もんだよなぁ……そういや、最後に海に入ったなぁ……ひ
いふうみいよぉ、もう15年も前か。ヲレも出不精だしなぁ
(溜息)……海、かぁ」

幾度目かの溜息をついたところで、ふと頭をよぎるものがある。

訪雪
「待てよ。そういや…」

汗だくの体を引きずるようにして起き上がり、店の板敷の電話を取る。
 重いダイヤルに指をかけて、母校の番号に続いて4桁の内線番号を回す。
 東京、訪雪の母校である大学の学部長室。
 小柄な童顔の男が、秘書から回された電話を取る。

浦上
「はい、こちら浦上…ああ、ユキちゃんか。この間はどう
もありがとう」
訪雪
『こちらこそ、仕事を回していただいて感謝しています。
実は、お願いがあるのですが…』
浦上
「君がお願いとは珍しいね。何だい?」
訪雪
『先生の海の別荘、空いているときでいいから2、3日、
お貸し頂けないでしょうか』

数秒間の沈黙。

浦上
「はは、こいつぁ参ったね…彼女でも連れていくのかい?」
訪雪
『いたらもっとよかったんでしょうが…生憎とそういう縁
はありませんで』
浦上
「相変わらずモテてなさそうだな、君も…いいだろう。今
週中に鍵を発送して、管理人にも僕から話をつけとこう。
代わりと言っちゃナンだけど、行ったら掃除しといてくれ
る?それと、折り返しそちらの地酒を送ってくれると嬉し
いなぁ」
訪雪
『はいはい』

直紀とプールとかき氷

しゃわしゃわしゃわしゃわ、暑苦しい蝉の声が松陰堂板の間に響く。
 あるか無しかの微かな風に、ちりん、と、硝子の江戸風鈴が涼しげな音を立てる。

訪雪
「あっちぃ……流石に音だけじゃ涼しくならんか……」

ごろり、と板の間の涼をを求め、訪雪が寝返りを打つ。
 ばたん、と玄関の方から音がしてばたばたという足音は茶の間に近づいてくる。

直紀
「ほーせつさん!こんちはぁっ、一さんいますかっ!?」
訪雪
「ん?柳さんか、いらっしゃい。かき氷まだあるけど、ど
う?」
直紀
「あーあー(汗)あーとーでっ貰いますっ!ね、にのまえ
さんはー!?」
訪雪
「一君なら部屋にいたけど……急いでるなら裏の勝手口か
ら来れば良かったのに(苦笑)」
直紀
「だって……ここ通って行くの癖なんだもん。部屋にいる
のねっありがとっ」

くるっときびすを返し、部屋に向かおうとした時。

「若大家、氷ありませんか?こう暑いと……あれ、直紀さ
ん。いつ来たんですか?」
直紀
「にのまえさんっ!(ずいっ)」

間髪いれずにずいずい近づく直紀。
 なにか解らない迫力に押されじりじり後退する十(笑)。
 しかし、部屋がある限り壁というモノがある。どんっと壁にぶつかると、がしっと二の腕を掴みじぃっと十を見据える。

「な、な、な、直紀さん(滝汗)どうしたんですか」
直紀
「……一さん、来週お仕事入ってるってほんと?」
「え?ああ。ダンナと組んで一本入ってるけど」
直紀
「やっぱり……そうなんだ」

一瞬、泣きそうな顔になる……が、ブンブン頭を振りすぐ元の顔に戻る。
 二の腕を掴んでいた力が少し弱まる。
 はぁ……とひとつため息。

「あの……直紀さん??」
直紀
「あのね、来週ベーカリーのみんなと海に行こうって話に
なったの。それで、御影さん行けなくなったって聞いたか
ら……一さんもそうなのかなって思って」
「……ごめん」
直紀
「んーん、しょうがないもん。気にしてないよ(にこっ)
そだ、今度プールいこっ!ね?……だめ?」
「いや、その……二人で?」
直紀
「……(かぁっ)あーええっと、キノエちゃんとキノトちゃん
も一緒にっ!(汗)」
「あ……あいつらも一緒ね(汗)」

ぎこちなく笑いあう、二人。乾いた笑いが茶の間に響く。

訪雪
「おーい、二人ともかき氷食うかい?……ん?お邪魔だった
かな」
直紀
「あーあーあーっ(焦)お邪魔じゃないですー、ほーせつ
さーん(汗)かき氷貰うですー!」
訪雪
「いちごとメロン、懐かしのブルーハワイもあるけどどれ
がいい?一君はなににする?」
「(か、かき氷。個人的にはポピュラーないちごが……い
や!だめだ十!ここで、『じゃあ、いちごで』なんていった
日には男としてのプライドが!!だけど……いや、ここで負
けちゃだめだ!駄目なんだぁぁっ!!)……そのままで、お
願いします(しくしく)」
直紀
「それじゃ、かき氷になんないよ」
訪雪
「いやいやどうして柳さん。二の舞君、かき氷で氷の美味
さ『のみ』を追求した『白』を頼むなんざぁ……いやぁ通だ
ね(にやり)」

口では誉めているが訪雪、口元にはいぢわるな笑みが浮かんでいる。

「え、あ、う、そ、そんなんじゃ……それじゃ梅酒なんか(汗)」
訪雪
「梅酒は駄目。氷にかけるの勿体ないから。だいいち、月
13,500円の家賃で朝夕賄いつけて、そのうえ梅酒で氷まで
食おうって魂胆が気に入らんなぁ。そういう君には、せめ
てもの情けを込めて、スゥウィ〜トな「こおりいちごみる
く」を作ってやろう。
SE
がしゅがしゅ、たぱたぱたぱっ
訪雪
ほうら輝くばかりのピンク色だ。どうだ美味そうだろう?
勿体ないから全部食べてくれい」
「ぐ、ぐぅぅぅ(だ、だめだ十、此処で屈しては俺が今ま
で築き上げてきたイメージがっ、大和魂をもって耐えろ!
耐えるんだ十!南無八幡大菩薩!我に加護を!)」

それは……却下されると思う(笑)。
 まるで親の仇の如く目の前の「いちごみるく」を睨み付ける十。

直紀
「ねぇ食べないの氷?おいしーよ(しゃくしゃく)」

十の葛藤も知らず、はくはくと順当に自分の分を食べる直紀。

直紀
「一さん、食べないなら溶けちゃうからあたしが貰うねっ
(幸福笑顔)」

ひょいっぱくっ、と。目の前から取り上げられ直紀の口に運ばれる「いちごみるく」。

「あっあぁぁぁぁぁっ(汗)」

一十、いと、あはれ。

直紀
「ん?どーかしたの?(きょとん)」
「いえ……何でもないです(泣)」
訪雪
「(哀れな……ま、自業自得か)うーむ、冷やし飴も中々
美味い」

ちりーん、と風鈴が響く。
 此処で教訓。
  「いつまでも、有ると思うなチャンスと氷」

FLOWER SHOP Miko二階、尊宅

その日の晩。
 グツグツといい香りを放つ少々煮詰まりぎみのお鍋。
 その前でぼんやり鍋を眺める尊。

十兵
「おーい尊」
「……」
十兵
「尊?」
「……」
十兵
「尊!」
「あっえっ?何、おじいちゃん?」
十兵
「……焦げてるぞ(呆)」
「え゛?……きゃぁぁ(焦)水!水!ぢゃなかったえーっと
(慌)」

慌てて鍋をコンロから下ろす。

「あははは、しっぱいしっぱい(汗)」
十兵
「ぼんやりしおって……どうした、心配事か?」
「ううん、そんなんじゃ無いけど……御免、今夜のおかず
は、ある物でいい?」
十兵
「それは構わんが、変だぞおまえ」
「なんでも無いったら(苦笑)ちょっと疲れちゃっただけ」
十兵
「それなら良いが……」

尊の自室

「ふぅ(ころんとベッドに寝転ぶ)無駄に……なっちゃっ
たかな(苦笑)」

視線の先には壁にかかった白いスカート、白いワンピース。それとお気に入りの麦藁帽子。
 足元には真新しい紅い皮サンダルがちょこんとそろえられている。
 しばらく眺めているが、不意に飛び起きる。

「……もぅ!何やってんだろあたし、うじうじしたってしょ
うがないのに(苦笑)ちゃんと埋め合わせしてくれるって
言ってたし……よし!今日はお風呂入って寝る!」

御影の自室

御影
「ふぅ(ネクタイをほどいて)悪いことをしたかな……」

がっかりした尊の顔が浮かぶ。

御影
「う……罪の意識が……(苦笑)しかし冗談抜きに、何か
埋め合わせ考えんと……」

瑞希、語る

海行き決定の数日後。
 ベーカリーにて……海行きの打合せ中。
 一人、浮かない顔をしているのは尊。

「はぁ」
瑞希
「ねぇ、みこちゃん」
「ふぅ……」
瑞希
「みーこちゃん」
「……」
瑞希
「みこちゃんてば……」

うつろな目で黙り込んでしまった尊。

瑞希
「あ、御影さんだ」
「えっ!(ガタン)」
瑞希
「うそだよ〜ん、みこちゃんて正直者(くすくす)」
「瑞希さぁん……(苦笑)」
瑞希
「そんなに…残念?みこちゃん」
「え、そんな……(真っ赤)はい……でもお仕事じゃ……
仕方ないし」
瑞希
「む〜、だからさぁ。そんなに聞き分け良くっちゃだめよぉ
だめでもともとでも、ちゃんとワガママ言わなきゃ」
「でも、そんな事言ったら……御影さん迷惑だろうし……」
瑞希
「そうやってため込んじゃうのは、精神衛生上良くないの!
自分が思ったことはきっちり言わなきゃ。これからの二人の
事に関わってくるんだから」
「これからって(真っ赤)そんな……まだ」
瑞希
「まだ、じゃないわよ。充分考えられるでしょ。
言いたい事言えなくて。ため込んで、ため込んで大爆発!
より、しょっちゅう小規模爆発!の方がうまくやってける
んだから。ワガママいうこと怖がっちゃだめよ」
「瑞希さん……」
瑞希
「ね!だから、今度埋め合わせにどっか連れてって!でも
いい、来年こそは空けといて!でもいいから、自分のワガ
ママ言っちゃいなさい。それくらい男の人は許してくれるっ
て、ね」
「……ありがとう、瑞希さん」
瑞希
「みゅ……語ってしまった(ぽりぽり)」

黙って瑞希の言葉を噛み締めていた尊。
 何か吹っ切れたのか、一転、表情が明るくなる。

「……そう……です……よね(くす)」
瑞希
「そうそう!、元気一杯!の方がみこちゃんらしいんだか
ら後の事は後の事!とりあえず突っ走っちゃいなさいって、
ね(笑)」

春宵姫と夏姫達の装い

夜もふけた平塚宅。
 譲羽を隣に置き、電話帳と今時珍しい黒色ダイヤル電話機を前に花澄が悩む。

花澄
「うーむ(悩)」
譲羽
「?」

電話帳が開かれている。電話番号にきちんと線がついている。
 ……からには、電話をかけるだけなのだが。

花澄
「えい」

気合いを入れるほどのものかどうかはさて置き、花澄は受話器を取った。
 TelTel......

ユラ
『はい、もしもし小滝ですが』
花澄
「あの、夜分申し訳ありません。平塚と申しますが」
ユラ
『はい?……ああ、花澄さんですか?』
花澄
「はい、あの……ユラさん今日、水着買いにいかれるって、
言ってらしたですよね?」
ユラ
「ええ」
花澄
「あの、宜しければ、御一緒させて頂けません?」
ユラ
「え?」
花澄
「恥ずかしいんですけど、……あの人ごみの中に入るかと
思っただけで頭が痛くて」
ユラ
「え?……それじゃ、私が知ってるとこなら大丈夫ですよ。
じゃぁ待ち合わせ場所は……」

で、その当日。
 ひっそりした喫茶店。窓から明るい日差しが落ちる。

ユラ
「……ふう、ずいぶん買ったねぇ」
キノエ
「よかったのかなあ?こんなに」
ユラ
「いいのいいの」

お茶を飲む二人の脇に、大きな袋がいくつも寄せて置いてある。
 「夏物ひとそろい、揃えるから」との言葉通り、とりあえず下着から始めて、ジーンズ二本、ブラウス三枚、ショートパンツ二枚、ワンピースetc……

ユラ
「あとで、ファッションショー、しようね」

にこにことうなずくキノエが着ているのは、淡い草色のミニのワンピースだ。
 「色がむちゃくちゃ気に入って買ったのはいいけど、あたしが着ると膝丈になっちゃうから」というので、殆んど袖を通さなかった物をユラがキノエに譲ったのである。

ユラ
「さて、あとは花澄さんと合流するだけなんだけど……」
花澄
「こんにちは」

喫茶店の入り口で、花澄が手を振っていた。

ユラ
「ああ、良かった。待ち合わせ、ここで良かったんですね(笑)」
花澄
「え?」

ユラ、花澄と同じく、多少方向音痴らしい。

ユラ
「あ、ああ(汗)、こっちの事です(笑)」
花澄
「じゃぁユラさん……御願い、出来ますか」

三人がやってきたのは、駅前の商店街をちょっと入ったところにあるダンス用品の専門店だった。

ユラ
「ここ、夏になると水着も置くんですよ。もともとがレオ
タードやなんか扱ってるところなんで、あんまり『びきにぃ』
って感じのはなくって、わりとかちっとした仕立てのがメ
インなんだけど……」

吊された水着を見て回る。

キノエ
「あ、これ、可愛い」

手に取ったのは、赤白ボーダーのセパレーツ。

ユラ
「確かにかわいいけど……もったいないなぁ」
キノエ
「?」
ユラ
「どうせなら、もっとかっこいい系のが……」
キノエ
「……って言っても、偽レザーの編みあげの入ったショート
パンツとビスチェのセット買ってあるし……あんまり似たよ
うなのばっかりでも」
ユラ
「ううん……そうだねぇ。じゃ、これにする?」
花澄
「それで、これとこれも!」

いつの間にか、花澄がつば広のストローハットとクリアタイプの浮き輪を持って立っている。

ユラ
「あ、いいかも。じゃ、早速着てみて。ちゃんと帽子被って
ね。似合うよ、きっと……あ、ところで花澄さんは?」
花澄
「私は……ええと……」
キノエ
「あんなの、どうかなぁ」

指さしたのは、一見Aラインのミニのワンピースに見えるオフホワイトの水着。
 レモンイエローにシャーベットオレンジ、ライトピンクの、手書き風の大ぶりな花が踊っている。

ユラ
「あ、春色の夏水着。いいじゃないですか。それに造花いっぱ
いのっけたストローハット組み合わせて。どうでしょう?」
花澄
「そうですね、試着してみます」

にこにこと試着室に入っていく。

ユラ
「あたしは……どうしようかなぁ……っと」

ユラが手にとったのは、白いラインの入った黒いセパレーツ。
 前開きのジップアップ式のハーフトップにホットパンツ。巨大な銀のバックルがついている。

ユラ
「ホルターネックタイプなのかぁ。あんまり背中開けたく
ないけど、そしたらただのスポーツウェアになっちゃうし、
しょうがないかな。よし、これにしよっ」

手にとったところで、試着室のカーテンが開く。

キノエ
「こんな感じで……」
ユラ
「わ、かっこいいんだぁ。うん、健康的にかっこいい!!
うーん、うらやましいわぁ」

とか何とかいっているところで、隣の試着室から、花澄が首だけを出した。

ユラ
「……あ、どうですか?」

今度はそちらをのぞき込み、ユラは息をのんだ。

ユラ
「きれい……品がいいっていうか……モデルさんみたい」
花澄
「よかったぁ」
ユラ
「あ、でももうちょっと大胆なのでも……」
花澄
「い、いえっ、これにしますっ……あ、ところでユラさん
は?」
ユラ
「あ、もう選びました」
キノエ
「試着は?」
ユラ
「これから」

十数分後、三人はそれぞれに袋を抱えて店を出た。それぞれに満足そうな笑顔で。
 だが、キノエだけは、さっきのユラは一歩間違えばアメコミのコスチュームになりかねないと言うべきだったかどうか、まだ悩んでいた。

花澄
「あの、今日はありがとうございました」
ユラ
「あれ、まだですよ(くす)」
花澄
「まだって?」
ユラ
「浴衣がまだでしょう。夏物一通り揃えるんだから、やっぱ
り外せないですよ」
花澄
「でも、結構お値段張りますよ。心あたり、あるんですか?」
ユラ
「駅前に、きねや、って呉服屋さんがあるでしょう?あそ
こ」
花澄
「……えぇ?でも、あそこ何だかすごく高そうじゃないで
すか?」
ユラ
「敷居だけは、一応高そうに見えちゃうんですよね。でも、
そんなにお値段のしないのもいっぱいあるんですよ。私、
店長のおともでよく顔だしてるんで……」
花澄
「店長さん?」
ユラ
「グリーングラスの、です。あの方、実はわたしの漢方の
師匠の奥方で、普段着は着物、って人なんですよ。あ、そ
ういえば、反物だけ買って、仕立ては店長に頼んでもいい
んだっけ」
花澄
「……え、でも、いいのかしら」
ユラ
「ええ。いえね、実は私の友人が郷里で織物やってるんで
すけど、その伝手で、上布の訪問着を生産者価格で融通し
たら、とても喜ばれて。浴衣くらいならいくらでも縫って
くださるっておっしゃるから……ね、いきましょう。
で、キノトちゃんのも作ろ。ね?」

歩きかけて、ユラはふと足を止めた。道の向うに誰か見つけたらしい。

ユラ
「あ、直紀さぁん!!」

道向こうの直紀も気付いて手を振り替えす。
 信号が変わるのももどかしく、直紀がこちらへ駈けてくる。

直紀
「やっほー!ユラちゃんに花澄さんにキノエちゃん、みん
な揃って御買い物?」
ユラ
「ええ、いま、水着買ってきたとこなんです。で、これか
ら浴衣を見に(笑顔)」
直紀
「みゅっ?……浴衣?」

クルッとユラ達に背を向けて財布を覗き込む。

直紀
「(えーっと……ひの、ふの、みぃ……よっし!)いくぅ!
あたしもいくっ!連れてって、ね?」

直紀、ボーナスの使途決定。

ユラ
「じゃ、直紀さんも……あ、そうだ、どうせなら尊さんも誘っ
ちゃいましょうか(くす)」
花澄
「尊さんの浴衣姿かぁ……いいですね、誘っちゃいましょ
う(にこにこ)」

で、FLOWER SHOP Miko。

直紀
「尊おねーさーん(手を振る)」
「あら、直紀さん。ユラちゃんにキノエちゃんに花澄さん
まで、御揃いでどうしたんですか?」
直紀
「尊おねーさん、浴衣つくろっ(笑顔)」
「え、浴衣?」
ユラ
「実は、駅前に私の知り合いの呉服屋さんがあるんです。
そこで安く浴衣作れるんで、尊さんもどうかなって」
「ふぅん……(くすっ)実は浴衣はね、もうあるんです、
あたし」
花澄
「浴衣、御持ちなんですか?」
「ええ、一着だけ」
直紀
「むー……見たいっ!ね、尊おねーさん見せてっ!ね、花
澄さんも見たいよね」
花澄
「え?ええ、御迷惑でなければ……」
「(くすくす)ええ、いいですよ、ちょうど虫干ししてま
すし、じゃ、皆さん二階へどうぞ」

店頭に「休憩中」の札を掛け、二階へ招き入れる。

「さ、どうぞ、今冷たい物でも持ってきますね」

リビングには浴衣がかけられていた。

ユラ
「わぁ……素敵な青」
キノエ
「奇麗ねぇ……」

肩口の藍色から徐々に裾の薄蒼に変わるグラデーション。
 足元にあしらわれた赤と、青のシンプルな朝顔の華。
 対になった朱色の絞り帯。

「御待たせ(笑顔)」
花澄
「これ、素敵……ですね」
「ええ、でもあたしに似合うかどうか……(苦笑)」
花澄
「え?」
「あれ、母の形見……なんです。父が唯一、母にプレゼン
トしたって……(苦笑)父も大分照れ屋だったみたいで(くす)」
花澄
「……似合いますよ、きっと(くす)」
「……だといいんですけど(くす)」

娘二人、顔を見合わせ密やかに笑う。

直紀
「決めたっ!あたしもこーんな素敵な奴、作る!(ぐっと
握り拳)」
「良いのが有るといいですね、生地(笑顔)」
直紀
「ユラちゃん、早くいこっ!(笑顔)」
キノエ
「いいなぁ……こんなの欲しいなぁ……ねー、ユラさーん
(ぢぃー)」
ユラ
「はいはい(笑)じゃ、尊さん、ちょっと行ってきますね」
「行ってらっしゃい、素敵なのが出来るのを楽しみにして
るわ(笑顔)」

パパさんの甲斐性

海行き決定数日後。
 楠家の団欒、夕食後の洗い物をしながら。

観楠 :「ねぇ、かなみちゃん(ごしゅごしゅ
洗い物)」
かなみ
「なーに父様っ?」
観楠
「今度の日曜日、お友達と何か約束してるかな?(きゅっと
布巾で拭く)」
かなみ
「かなみ、なんにもやくそくしてないよっ?」
観楠
「(よっと、このお皿で終わりっっと)それなら良かった。
あのね、お店のお客さん達が海に行こうって誘ってくれて
るんだ、だから……」
かなみ
「父様っ海つれてってくれるのっ!?(喜)」
観楠
「え?あ、うん」
かなみ
「わぁぃ!うみっ!うみぃっ!(大喜)」

リビング中をぴょんぴょん跳ね回り、全身で喜ぶかなみ。

観楠
「ああ、かなみちゃん、そんなに跳ねたら危ないよ。(そ
ういや、この子を海に連れていった事、無かったっけ……
いかんな)」

苦笑する観楠。

かなみ
「ね、父様」
観楠
「ん?なんだい」
かなみ
「みずぎ、かって!」
観楠
「へ?(汗)」

一瞬、何の事か判らず、目が点になる観楠。

観楠
「みずぎ……って、海水浴に着る、水着?」
かなみ
「うんっ!(笑顔)かなみねぇ……これがいいっ!」

かなみが持ってきたチラシは、チャイルドスイムウエァの広告。

観楠
「ふぅん……(うーむ、フリルと花柄が可愛いなぁ)」

かなみが選んだ水着は、薄水色のワンピース、白いスカートのようなフリルと、大きくプリントされた向日葵が映える、中々可愛らしいものだった。

かなみ
「えっと……父様……だめ?(うわめづかい)」
観楠
「いいよ(笑顔)一緒に買いに行こうか」
かなみ
「わぁぃっ!父様だーいすきっ(笑顔)」

こうして、楠家の幸せな団欒はふけてゆく……。

夏だ!海だ!到着だっ!

いよいよ当日。
 がたごと、と、いささか古めかしい鈍行列車が行ってしまったホーム。
 ローカルな駅のため、駅員すら居ない。
 先ほどまで、車両一つをほぼ貸し切り状態にしていた一同がホームに降り立つ。

豊中
「なぁ、ユラ……結局電車で来るんなら俺は必要なかった
んじゃ無いのか?」

わいわいとはしゃぐ一同の中、げんなりとぼやく豊中。
 結局。人数が多くなったため、車でなく電車にしたらしい。

ユラ
「運転手はね、でも荷物持ちと、カメラマンは必要よ(笑)」
豊中
「はいはい聞いた俺が野暮でした(苦笑)よっと(荷物を
持ち直す)」
ユラ
「大体そんな暑苦しいジャケット羽織った上に、何なの?
その大荷物は(呆)」

それぞれ、海行きの装いの中、何時も通りのジャケットにでっかいバッグを抱えた豊中。

豊中
「ジャケットはいつもの事。この荷物は……ま、色々とな
(にやり)」
ユラ
「……(汗)……ま、いいけど……一体」
瑞希
「ユラちゃーん、早く乗らないと置いてくよ〜」

駅前に来ていた迎えのマイクロバスに乗り込んだ瑞希が手を振る。

豊中
「さ、さっさと乗らんと置いてかれるぞ」

そそくさとバスに乗り込む豊中。

ユラ
(豊中……ごまかしたわね……)

日本の夏、御影&十の夏

そのころ、浜辺では……。
 青い空! 白い雲! 燃え上がる太陽! コバルトブルーに輝く海っ!
 そして浜辺で戯れるココア色の乙女たちっ!

「……なのになんで俺たちはこんな暑苦しいカッコでここ
にいるんだ?」
御影
「言うな、十。よけい暑くなる」

どっか、と防波堤の上にあぐらをかき仏頂面で海を眺める、いつもどおりの格好の御影と十。
 場違いなことこのうえない。

「だいたいなんで吹利の特物がこんなとこまで出張ってこ
なきゃならんのだ……」
御影
「しかたなかろう。こっちの特物の担当者が入院してて使
い物にならんのだから」
「だからってウチに話を持ってこなくてもいいのに……」
御影
「それはわしのセリフだ……」
「はぁ……直紀さんの水着姿、見たかった……」
御影
「言うな。むなしさがつのるだけだ」
「ダンナだって尊さんのビキニ、見たかったんじゃないの
か?」
御影
「言うな(ごりっ!)」

御影の手の中で先ほどから片手で弄んでいた石が砕ける。

「なんで重なるかな……」
御影
「言うなとゆーに」
キノエ
「ああっ、もう! 辛気臭いったら! 水着水着ってオヤ
ジみたいに!
 そんなに見たけりゃ、いっくらでも見せてあげるわよ、
ほらっ!」

赤白ボーダーのセパレートの水着にクリアタイプの浮き輪、水中眼鏡とシュノーケルを首にひっかけ、つばの広いストローハット。
 見る目のある奴なら間違いなくナンパに来るであろう、
 かなり気合の入ったいでたちのキノエだった。

キノト
「……姉さんの水着姿を見たいわけじゃないと思うんだけ
ど」
SE
「ばきっ」
キノエ
「ひとこと多いのよあんたはっ!」
キノト
(涙目)
「物陰でごそごそやってると思ったら……」
御影
「……うんうん、よく似合うよく似合う」
キノエ
「……なんか、ずいぶんなげやりな誉めかたね」
「遊びに来たんじゃないんだぞ」
キノエ
「さっきまで水着水着って嘆いてたの、だれ?」
「……」
キノト
「それはいいんだけど、これからどうするの?」
御影
「とりあえず、こっちの特物に顔出しておかんとな」
キノエ
「海は?」
「後でな」
キノエ
「あたしたちも特物に行かないとダメなわけ?」
御影
「……ま、いいか。打ち合わせだけだしな」
キノト
「え、じゃあ時間まで遊んでられるってこと?」
「えーと、ダンナ?」
御影
「おまえはダメだぞ」
「やっぱり?(汗笑)」
キノエ
「しっかり仕事してくんのよ(笑)」
「くぬぅ、主人が仕事に追われてるあいだ、式神は海での
んびりかよ。普通は逆じゃないか……阿部清明が聞いたら
どう思うだろう……」
キノト
「でもミツル、こないだそれやったら、『だれか保護者の
人、連れてきてね』って言われたんだけど……」
御影
「やったのか?」
「特物に資料を取りに行くのに……ちょっと。いや、しか
し結城さんもちょっと気を利かせてくれたって……」
御影
「普通は渡さん、普通は」
キノエ
「結局自分が出かけなきゃならないんだから、最初からミ
ツルが行けば何も問題はなかったんじゃない。
 って、そんなのはどーでもいいのよ!
 ねぇミツル! おこずかいちょーだい! おこずかいっ!
(迫りっ)」
「こっ……こずかいだぁ!? 式神が海で遊んでるあいだ
に額に汗して働いてる主人から金をせびろうってのかおま
いはっ!」
キノエ
「だって、海っていったら屋台のヤキソバがつきものだも
ん」
キノト
「お好み焼きもあるよ」
キノエ
「タコ焼き焼きイカ」
キノト
「かき氷にアイスクリーム!」
キノエ
「忘れちゃいけない焼きトウモロコシ!」
「お、おまえら……そんなふうに食い物を連呼するなぁっ
(る゛ーっ)」
御影
「……あいかわらずパンの耳か、おまえたちのご主人は?」
キノエ
「そーなの! 御影さんからも言ってやってよ、たまには
マトモなもの食べろって」
「食費の半分、お前のその水着に化けたんだぞっ(る〜)
それなのにこの上まだ金をせびろうというのかぁっ!」
御影
「ええい、泣くな暑苦しい!」
キノト
「……ふぅん。ぼくのはミツルの中学のときのお下がりな
のに(ぼそっ)」
キノエ
「……うっ、うるさいわねっ!(大汗)」
御影
「……大変だな」
「……言うな」
御影
「とにかく、とりあえずわしらは特物に顔だして仕事の詳
細を聞いてくるから、おまえらはここらで遊んでろ、行く
ぞ十」
「水着……」
SE
ごきっ!……ずるっずるっずるずる……。

引きずられて行く十。

キノト
「……ミツル、おこずかいくれなかったね(泣)」
キノエ
「しょーがないわよ白目むいてたもん」
キノト
「やきそば食べたいなぁ……」
キノエ
「あ、そーだ、いい事考えた!そこらのナンパ野郎にナン
パされて奢らせまくった挙げ句にポイってのどう?(笑)」

をぃ……どっかで誰かが同じような事言ってたぞ(汗)。

キノト
「ぼくに同意を求めないで欲しい……それに、それ、ねーさ
んが言うと洒落になってないよ?(汗笑)」
SE
ごきゃ!

キノトの顎に炸裂する伝説の右こーくすくりゅー。

キノト :「ほめんなひゃい、くひがひゅべりまひた(訳
御免なさ
い、口が滑りました)」
キノエ
「解ればよろしい。よっし、そーしよっと」

鼻歌交じりで、たったったと浜辺を駆けてゆくキノエ。
 しかし、ほんとーに成功するのだろうか(汗)。

宿、或いは観楠の受難

到着した宿は、中々落ち着いた雰囲気の日本風旅館である。
 窓からは海も見える。
 どうやらシーズンの狭間にはまったらしく、他の客はほとんどいない。
 で。

瑞希
「はーいみんな静かに!じゃ、部屋割り発表するわよー」
一同
「はーい!」

元気良く返事する一同。
 どうみても『修学旅行』のノリである。

豊中
「……まさか、この年で修学旅行をするとは思わなかった
な(苦笑)……いや、臨海学校かこの場合」 尊 :「ほんとに修学旅行みたい……(くす)」
夏和流
「僕は今年二回目の修学旅行っ♪」
みのる
「ちゃんと学を修めろよ」
観楠
「引率の先生みたいだね、みのる君(笑)」
豊中
「しかし、いいんですか?その格好、ダンナより先に俺達
に見せちゃって(笑)」

尊といえば、あの白のワンピースに鍔広の麦藁帽子、紅い皮サンダルと言ういでたち。

「いいのよ、またの機会もあるから(笑顔)」
豊中
「おや、立ち直ってますね(にやり)」
「当然よ(くすっ)」

それはさておき。

瑞希
「えーっと、まず店長さんは素子さんと二人部屋ね(笑)」
観楠
「(ぶふぁっ!)げほっ!ごほっ!」
素子
「なっ(ぼふっ)」

いきなりの攻撃に呑みかけの缶コーヒーを吹き出す観楠と、真っ赤になる素子。

かなみ
「みこ姉様、父様どうしたの?」
「ん?さぁ……大人の事情……って奴かな?(苦笑)」
かなみ
「?……ふぅん」
観楠
「げほっ……い、いや……あの……み、瑞希さん?(涙目)」
素子
「その……えーっと(真っ赤)」
瑞希
「と、いうのは冗談でぇ(くすくす)素子さんは緑ちゃんと、
店長さんはかなみちゃんと、それぞれ二人部屋ね」
観楠
「げほっげほっ……うー(目の幅涙)」

店長、爆沈。

瑞希
「直ちゃん、ユラちゃん、花澄さん、みこちゃんは四人部
屋ね。裕也、本宮君、佐古田君は琢磨呂君と四人部屋で、
あと……」

てきぱきと部屋を割り振る瑞希。

かなみ
「父様っはやく海いこっ!(にこっ)」
観楠
「あ、うん……(なんか……この先不安になってきたぞ(汗))」

観楠の予感、当たらずとも、遠からず。である。さて、部屋割りは終わって。

夏和流
「あれ、僕とみのるは二人部屋ですか?」
瑞希
「そうよぉ。静かな方が勉強に集中できるでしょ?」
夏和流
「……お心遣い、痛み入ります(泣)」

渚の縁カウント

再び御影&十のコンビ。

御影
「……」
「なぁダンナ、そんなに怒るなって」
御影
「怒っちゃおらん……余りの馬鹿馬鹿しさに呆れてるだけ
だ」
「ま、確かにな……(苦笑)」

特物から帰ってきた十と御影、先ほどの海岸で先ほどと同じように海を眺めている。
 が、しかし。今度はビーチパラソルとマットのおまけつきだ。

御影
「大体、わざわざ吹利から出張ってきて話を聞いたら……
なんだその『巨大クラゲ』ってのは!わしにクラゲと格闘
でもせいっちゅうんか!」
「さぁ……しっかし、本当にいるのか?数メートルのクラ
ゲなんて?」
御影
「さーな、目撃者がいるから呼ばれたんだろ?ま、確かに
そんなのがいたら調査も進まんな」

今回の仕事は、この浜辺に出没すると言う「巨大クラゲ」を補足、除去する事であった。
 この浜辺の護岸工事をする際、巨大クラゲが目撃され、それ以来測量や調査が止まっているのだ。
 ……巨大クラゲが恐いかどうかは別として。

御影
「わしは少し昼寝するからな、出番があったら呼んでくれ」
「いいさ、ダンナの出番は当分先だからな、寝ててくれ(苦笑)」

ふて寝モードに入る御影。
 尊との海行きをぶち壊され、挙げ句の果てに相手が巨大クラゲと来た日にゃぁふてくされたくもなる(笑)。
 で、数時間後。

「……さん」
御影
「……」
「……影さん」
御影
「……ん……」
「……ね、御影さんてば……おきて下さい」

耳元で誰かの声がして、御影の意識を眠りから引っ張り出す。
 気のせいか、耳に心地よいやわらかな声の主は尊のような気がした。

御影
(……きっと、彼女が起こしてくれるんならこんな感じ何
だろうか……)

ぼんやりと寝ぼけた頭でそんなことを考える。

「……みこちゃん、そんなんじゃダメよ〜、やっぱり『お
はようのキス』位しなきゃ(笑)」
「み、瑞希さんっ(汗)」
御影
(……今度は瑞希さんか……ん?おはようのキス……って
……おいっ!)

がばむっ!っと起き上がる御影。

御影
「なっ(絶句)」

目を開けた御影が見た物は、正面左から花澄、瑞希、キノエ、千影、緑、直紀、ユラ、かなみ、そして傍らに白いパーカーを羽織った尊がにっこり微笑んでいる。
 ぎぎぃっ!と首を回し、周りを取り囲む水着美女をゆっくり眺める。

御影
「……わし……おきて……る……よな(滝汗)」

にっこり笑う水着美女達の「悩殺ぱわー」に引きつりまくって思わずあとじさる。

御影
「(汗)……いかん、こんなの夢にまで見るようじゃ……
わし……本当に疲れてるな……そうだ、帰ったら医者行こ
う……(激汗)」
「ダンナ、いいかげん気付けよ(笑)あのな、俺もダンナ
も一言彼女たちに聞けば良かったんだ、『どの海に行くの
?』ってな(笑)」
御影
「なに?」
「そーいう事。まさに僥倖って奴だな(笑)」
「御影さん……まだ、お仕事……ですか?(じっ)」

尊の表情に陰りが差す。

御影
「あ、いや……(う……まずい……)」
「ダンナ、クラゲ退治は海中調査も必要だよな?(ニヤリ
と笑ってウインク)」
御影
「ん?……ああ、確かに!(にやり)化物クラゲも引きず
り出さな退治できんからな(笑)」
「それじゃそーゆー事で(笑)いっちょ『海中調査』と洒
落込みますか」
直紀
「やったぁ!ね、一さんも早く着替えて泳ご!(笑顔)」

ぐいぐい十の腕を引っ張って海の家へ連れてゆく直紀。

「御影さんも、泳ぎましょ!ね!(笑顔)」
御影
「ああ、じゃ、着替えてくるとするか」

ゆったりと海の家へ向かう御影。

瑞希
「おーい御影さーん(くす)」
御影
「なんか呼ん……」
瑞希
「えいっ!(笑)」
「えっ!きゃぁっ!(汗)」

御影が振り返った瞬間、尊のパーカーを引っぺがす瑞希。
 パーカーの下は、白滋の肌に映える真紅のハイレグビキニ。

御影
「あ……(絶句)」
「み、み、瑞希さんっ!パーカー返して下さいっ!(赤面)」

両手で身体を抱え、ぺたんと座り込んでしまう尊。
 しかし、座り込んだからって隠せるものでもないだろうに(笑)。

瑞希
「でも、魅せるために着たんでしょ?(くすくす)」
「それはその……(ちらっと御影の方を見る)あ、あたし
泳いできますっ!(真っ赤)」

たたっと駆け、流れるように飛び、ザンっと海に飛び込む。

御影
「……(絶句)」
瑞希
「おーい(御影の目の前で手を振る)ちょぉっと刺激が強
かったかな(くす)」

瑞希の話しによると、その後、御影が正気に戻ったのはたっぷり十分以上立ってからだったと言う話である。

おやぢの悪巧み

別荘から海まではえらく遠かった。桐下駄の足の甲を焼く陽射しに顔をしかめながら、訪雪は海岸に目をやった。夏の海辺は、思ったよりも空いていた。パラソルの間に疎らに散らばる、色とりどりの水着の人々。インドア派の若年寄の目には、別世界の存在のように健康に映る。そんな人々の中、ひときわ大きな一群に、ふと訪雪は目を留める。

訪雪
「……くくく(ヲレ笑い)……なるほど、な。
これは面白いことになりそうだ。
少しからかってやることにするか」
左手の紙袋をがさりと言わせて、浴衣の男は人混みに紛れて消えた。

渚の難破師(ユラちゃんナンパさる)

ユラ
「んーいー気持ち(伸び)」

砂の上に足を投げ出して、心地好い海風を受けるユラの背後から、怪しい人影が近寄る。

「ねぇそこの彼女、キミいま独りぃ?」

軽薄そのもののうわずった声。無視するユラ。

「おいおい、いきなり無視ってのはちょっとひどいんじゃ
なぁい?実はヲレ、この近くの別荘に来てるんだけど、よ
かったらそこでお茶しない?」

馴れ馴れしく肩を叩こうとする手をついと躱して振り返る。
 長い茶髪にサングラスの男。
 貧弱な体に羽織ったアロハシャツの前をだらしなくはだけて、脛毛の目立つ
 バミューダパンツに、足元はビーチサンダル。
 いまどき滅多に見ない、最早レトロの域にさえ達しているその格好を、頭の
 てっぺんから爪先まで見下ろして、ユラがくすりと笑う。

ユラ
「(苦笑)いまどきそんな格好してるナンパ野郎なんてい
ないわよ。で、お茶はお濃茶?それともおうす?」
「折角驚かそうと思ったのに、こんなにすぐ露顕しちまっ
たんじゃ、つまらんなぁ……ちなみにお茶は薄茶だ」

男が苦笑して、かけていたサングラスを取る。
 眼鏡の下には、見慣れた濁り目。

ユラ
「慣れないことをするもんじゃありませんよ。あなたもこ
こにいらしてたんですか?松蔭堂さん」
訪雪
「別荘に来てるってのはほんと。自分のじゃないけどね」
ユラ
「そうなんだぁ……あ、みんな向うの方にいますよ、行き
ましょうよ」

ユラの指さす先で、何人かが不審そうにこちらを見ている。

ユラ
「あ、そうだ、せっかくナンパされたんだし、それっぽく
いきましょうか(くす)」
訪雪
「いいねぇ、肩に手でもまわす?」
ユラ
「……暑いですよ。腕でも組みますか」

訪雪の腕にユラが手をかけ、歩き出す。
 ちなみにユラの格好はというに、水着の上から薄いブルーのシースルーのワンピース、さらにざっくり編んだ麦ワラ帽子をリボンで首の後ろにひっかけている。
 それがレトロナンパ男と連れ立って歩いているのだから、まあ、異様ではある。

「ユラ……ちゃん……?」

大抵の事では驚かないつもりの尊も、呆然といったおももちで、声をかける。

ユラ
「ナンパ、されちゃいました」

にっこり。
 後ろで数人ががくりと顎をはずした。

「あは、あははは……そ、そう(汗)」

引きつる尊。

「……ちょっと、そこのあんた、親切心から忠告してやる。
悪いことはいわん、命が惜しけりゃその娘だけはやめろ」
ユラ
「一ぇ……(ひきひき)」

何だぁ、といったふうに、サングラスのまま訪雪がそちらを向く。

豊中
「誤解するなって。ナンパするなら人間の娘にしとけっての」
ユラ
「なんかいったぁ?」
「おお言ったとも。いいかユラ、俺らならともかく。一般
人に迷惑かけたら、お前の場合下手すると犯罪になるんだ
からな」

あまりと言えばあまりの言われようにユラのほっぺたが「ひきっ」と引きつる。

豊中
「そういうわけだ。……だからさ、あんたの趣味をとやか
く言うつもりは無いが、こいつにとんでもない仕返しされ
る前に、さっさと謝って逃げた方が身のため……え゛え゛
え゛え゛っ!?」

『ナンパ野郎』の肩をぽんとたたきかけ、豊中は今度こそ本格的に顎をはずした。

豊中
「わ、若大家ぁ!?」

一同、ぎょっとしたようにユラの連れを凝視する。

訪雪
「……結局あっさりばれちゃうのね」

サングラスをとる訪雪。

ユラ
「でも今度はまわりじゅう驚いたじゃないですか。……で
もまあ、化けましたねぇ」

訪雪は苦笑してまたサングラスをかけた。伊達でもなんでもなく、本当に疲れた瞳に太陽の光が刺さるらしい。

花澄
「今、どちらにいらっしゃるんですか?」
訪雪
「ああ、この先のほうに知人の別荘がありましてね。そち
らに」
「すみません、若大家、よかったらそっちに泊めて下さいっ!」

言い終らないうちに、一が訪雪の袖にしがみついた。

御影
「……出張費、出とるやんか」
「だが、若大家のとこに世話になったら、出張費完全に浮
かせられるじゃないか。……食費何日分になると思ってる!?」
訪雪
「いいけど、庭の草むしりはやってもらうよ」
「そりゃぁもう、そのくらい。な?キノエ、キノト」
キノト
「ぼく、やだ」
キノエ
「やーよ、暑いもん」

あっさり。

「お、お、お……おまぇらぁ……(爆)」
豊中
「ま、あきらめて自分で草むしりするんだな(笑)」

と。
 がしっ!!

豊中
「……(汗)」
「……(汗)」

……。
 漂う沈黙。

「なぁ……(滝汗)」
豊中
「言うな一。呪うならさっさと離脱しなかった俺達の間抜
けさ加減を呪え(激汗)」
ユラ
「よっく解ったわ……あんた達があたしをどー思ってるか
が。そーいえばさっき『俺らならともかく』って言ってた
わよねぇ……ねぇ一(にっこり)」

嗚呼、美しきほほ笑み。
 天使の微笑とはかくあらんか。

ユラ
「ちょぉっとこっちいらっしゃい……(ずるずるずる)」
「ひっ!ひぃぃぃぃぃおた、おた、お助けぇっ(泣)」
豊中
「ユ、ユラ!一はくれてやる!だから俺は放せ!な?」
「あ、豊中!裏切る気か!」
豊中
「やかましい!大体おまえが……」

嗚呼、美しき友情。
 友とはかくあらんか。
 ……なんか……違う気がする……(汗)
 首根っこを引っつかまれ、ずるずる引きずられて行く二人。
 呆然と見送る一同。

「ユラちゃんて……いったい……(汗)」
訪雪
「やれやれ。ちょいと人選を誤ったようだが…
ま、あの二人に関しては自業自得というところか」

尊い労働……?

午後の別荘。
 『浦上荘』の立札は、人の背丈ほどもある草に埋もれている。草の一箇所ががさがさ揺れて、人の声がする。

「わかお〜やぁ、海行っていいですか〜ぁ?」
大きな草刈鎌を振り回して草を薙ぎながら、十が建物の方へ怒鳴る。蒸し暑い草いきれの中、シャツは汗だくになっている。

訪雪
「だぁ〜め。
建物の前全部刈って、海が見えるようになんなきゃ」
つれない一言。草の中とは打って変わって風通しの良いポーチの上で、寝椅子にゆったりと身を預けた訪雪は、十のいる辺りを眺めてトロピカルドリンクを味わっている。その傍らには、同じように寝椅子に身を沈めたキノエと、ポーチの上にぺたんと座ったキノトがいる。
 

「あと1m四方刈ったら、宿行っていいですかぁ?」
キノエ
「だーめ。宿代分くらいは働かないと悪いでしょ。
ねぇ?大家さん」
キノト
「うーん、ちょっと可哀想な気もするけど…僕らは先に
遊びに行ってるね。ミツル」
訪雪
「うむ。きりきり働けよ、二の舞君」
人間でないとはいえ、美少年と美少女、両手に花の訪雪は、すっかり鼻の下の伸びたすけべおやぢ状態になっている。

訪雪
「それじゃあキノエちゃんにキノト君、宿のみんなの所へ
遊びに行こうか。
アロハじゃおさまりが悪いから、浴衣に着替えて……
そうそう、君達の分もこっそり仕立てといたよ。
気に入ったなら着ていくといい」
キノト
「わあ、見せてくださいっ(にこ)」
キノエ
「(このおやぢ、実はミツルと同じくらい危ないのかも
(汗))」
わいわいと奥に引っ込む三人。独り残された十は。

「ちっくしょおお一体誰の所為で金がなくなったと思って
やがるんだあああ(目の幅涙)」
別荘の中で。

訪雪
「一君また吠えとるようだね」
キノト
「本当に置いてっていいのかな……(浴衣に袖を通して)
あ、これ渋い柄なのに、結構格好いいかも」
キノエ
「いいの、宿代浮かせるために自分で決めたんだから」
訪雪
「……あと10分したら柳さんが迎えに来るってのは、もう
少しだけ教えないでおこうか(微苦笑)」
労働報酬(笑)----------キノエとキノトが訪雪とともに宿へ出かけてしばらく。

SE
「ざっくざっく」
SE
「みーん、みーん。ジジジ」
「………」
SE
「ざっくざっく」
SE
「みーん、みーん。ジジジ」
「………あちぃ。くっそぉ、主人を残してホントに行くか??
あいつら」
単純作業と炎天下で頭がぼーっとする。シャツは汗を吸い取るだけ吸い取っていた。十が草刈りに勤しんでいる間、玄関には

直紀
「ええと、『浦上荘』うん!ここだ」
SE
「ぴんぽーん」
直紀
「出かけてるのかな?ほーせつさーん、いないのー」
きょろきょろとあたりを見る。庭まで来たところで、ぶつぶつと声が聞こえてきた。

「あと少し、後少し…」
直紀
「あ、一さん!ここにいたんだぁ」
「海……海…」
直紀
「おーい、にのまえさんってば」
「宿…温泉…露天…なお」
直紀
「に・の・ま・えさんってばっ!!」
ひょいっと屈んで、顔をのぞき込む

「どぅわあっっ!!」
直紀
「きゃ!」
「な、な、な……いつからそこに??」
直紀
「さっきから。呼んでるのに気がつかないんだもん。
……なんか、顔あかくない?だいじょぶ?」
「あ、いや…その(汗)」
直紀
「ほらぁ。頭、暑くなってるー。その分じゃずーっとそんな
状態で草刈りしてたんでしょ?熱射病になっちゃうよ。
そだ、ちょっと待っててねっ」
ぽふっと被っていた帽子を十にかぶせると、たたーっと建物の中に駆け込む。

「何しにいったんだろ、直紀さん。しかし…いつになったら
終わるんだ(げっそり)」
木陰に座り込み、目の前の光景を見て途方に暮れる。草刈りは庭の1/4が終わったあたり、海は遠い…しばらくして、直紀が手に硝子の器を持ってやってくる

直紀
「にーのまえさんっ!ほらっ(喜)」
「そ、それは……(ごくっ)」
直紀
「暑いときにはこれっ!かき氷、おいしーよ?」
「ん?上に掛かってるこれって…梅酒?」
直紀
「そう(笑)さっき台所で見つけたの。これなら食べられ
るんでしょ?早くしないと氷、溶けちゃうよ」
「じゃ、遠慮なく(しゃくしゃく)」
直紀
「あ、おいしいー。も、一杯ほしーなぁ(しゃくしゃく)」
「直紀さん、これ酒なんだけど。(う、ペース早いな。結構
酒好きなのか??(^^;)」
直紀
「おいしかったぁ(はぁと)一さんも、もう一杯どう?」
「じゃ、もう一杯」
そして小一時間………

「だーから、言ったこっちゃない(^^;」
少し傾きかけた日差し。半分以上空けた梅酒の瓶が転がる中十の横で直紀は…寝っこけていた(^^;

直紀
「んーーうにゅうう(ころん)」
「さて、梅酒を勝手にあけちまったがどうしたもんかな」
傍らで寝息をたてる直紀の髪に付いた草を払いつつ、髪を撫でる。こしのある黒い髪が指をすり抜ける。

「……酒が抜けるまで、このままでいるか」 夕方近くの海岸。パラソルはおおかた片付けられて、荷物をまとめかけたベーカリーの一行だけが残っている。
キノト
「ミツル、遅いね」
訪雪
「うむ。迎えに来たのを待たせてまで、頑固に草刈りを続
けるような男だとは思わなんだが…少々まずかったかな」
ユラ
「少し…風が冷たくなってきた(上腕をさする)」
瑞希
「十くんと直紀さん、まだ来ないけど…宿へ、戻ろうか」
訪雪
「すみません、斎藤さん。元はといえば、この私の悪乗り
が原因だ…私は此処で、もう少し待ちましょう。
キノエちゃん、キノト君、君達は先に宿へ行っとるかね」
キノエ
「あたしも…待ちます。キノトもだよね?」
キノト
「うん」
一行が本格的に荷物をまとめ終え、宿に向かって歩き出そうとしたところで、山に続く道の方から十が歩いてくるのが見えた。

キノエ
「ミツル!遅いじゃない!」
瑞希
「どうやら間一髪で間に合ったみたいね。といっても、
海は味わい損ねちゃったけど。直紀さんは?」
「…ここです」
重い足取りで歩いてきた十は、猫背気味の背を少し屈めてみせる。その広い背中につかまって、直紀が安らかな寝息を立てていた。

訪雪
「この匂い…梅酒だね?」
「ええ。調子に乗って飲んでるうちに酔い潰れちゃって…
酒が抜けるまでそっとしておこうと思ったんですが、
このままじゃ日が暮れそうなんで連れてきたんです」
十の背から降ろされても、直紀は目を覚まさなかった。目元から頬にかけてをほんのりと桜色に染めた寝顔は、あどけないながらもかなり色っぽいものがある。

直紀
「みゅう…にのまえ、さん…」
訪雪
「……(にやり)」
「な…何なんですその嫌らしい笑いは(滝汗)」
瑞希
「だって、ねぇ。
誰もいない海辺の別荘に、男と女二人きり…
こぉんな美味しいシチュエーションで、何も起きないって
方がおかしいわよねぇ(くす)」
御影
「そうかそういうことか…だから遅かったんだな。
(がしっ)白状しろ十、直紀さんを酔い潰して何をした」
「待ってくれ旦那、俺は別に何もしてないって。
そりゃあちょっとは…」
訪雪
「ちょっとは、何だって?」
「え、あの、いやその…頼む信じてくれ、俺は本っ当に、
無実なんだぁッ!」
キノエ :「まったくもう、うろたえちゃってみっともない。ミツルにそんな甲

斐性ないことぐらいみんなしってるわよ」 訪雪 :「てきびしいね、キノエちゃん」瑞希 :「普段の一さんならそうかもしれないけれど、ここは海よ!夏よ!夏
なのよ!」 十 :「だーから!違うって言ってるでしょうが!」御影 :「一応いっとくと、酔わせて云々は罰せられるで(鬼笑)」キノト :「ミツル」十 :「キノト!何とか言ってくれ!」キノト :「・・・不潔です」十 :「だぁああああああ!」

べしっ。
 今まで黙ってたユラが浮き輪で十の頭をはたく。ユラ :「寝てるんだから静かにしなさい」
 不満そうな十の顔。相対するメンツがみんな笑ってるのといい対象である。瑞希 :「ふうん、しかし気持ちよさそうに寝てるわね。直紀さん」キノト :「ミツルの背中広いもん」御影 :「十、おまえどこに行くつもりやった?」十 :「・・・みんなが泊まってるとこにつれてくつもりだったんだよ」訪雪 :「そんなら、そのまま一緒に行こうじゃないか。今晩は花火をするそうだ。

人数が多い方が楽しい。枯れ木も山の何とやらだ。君も来ると良かろう」 十 :「へいへい、枯れ木一号はせ参じます。でも、戻って荷物取って来なきゃ
な」 訪雪 :「かまわんよ儂がどうせ戻るから、ついでに持ってきてやろう」十 :「・・・どうした風の吹き回しです?」訪雪 :「やっぱよそうか」十 :「いえいえ、お願いします」

宿に向かい歩き出す面々。琢磨呂 :「でだ、もう一度聞こうか。にーちゃん」十 :「へっ?」夏和流 :「大丈夫です、ここにいるのは僕たちだけ。聞かれても恥ずかしくないで

しょ」 御影 :「『ちょっとは、』の続き、聞けへんかったからな」観楠 :「全く君たちは・・・(笑)」夏和流 :「後学のためです」

一方そことは離れて。訪雪 :「なんか、またつるし上げられてるのかな。二の舞君は」豊中 :「周りの連中がどうも気になってるようで」訪雪 :「若いってのはいいねぇ」尊 :「後ろのほう何やってるんですか?」訪雪&豊中:『さぁ』フラナ :「もとみーどうしたの?さっきから」本宮 :「え?あ、いや、その・・・・」
 先頭集団と後ろの集団の間にいるスナ同。どうやら、もとみーも十の告白が気になるらしい。やっぱり男の子(笑)御影 :「さぁ、いい加減はかんと風呂場で痛い目みるで(笑)」琢磨呂 :「中学生じゃあるまいし、いっちゃえよ」十 :「・・・縁側で酔っぱらって寝ちゃったから」夏和流 :「ふんふん」十 :「水着の上にパーカーだし」観楠 :「それで?」
 ごん。フラナ :「もとみー、前見て歩きなよ」佐古田 :「じゃじゃん(いたそー)」本宮 :「(いたたた)」
 耳ダンボのもとみーは電信柱にぶつかったらしい。十 :「夕方になったら冷えると思って」御影 :「で?」十 :「タオルケットかけて一緒に昼寝してた」
 ごん。
 こんどは御影が電信柱にクラッシュ(笑)もとみーと違うのは、自分からつっこんだことだろうか。観楠 :「御影さん、御影さん、電信柱傾いてる」琢磨呂 :「昼寝しただけかよ?」十 :「な、何期待してるんだ。おい、夏和流君そんなに笑うことないだろ」夏和流    :「いえいえ(くすくす) それで、どうしたんですぅ?」ユラ :「なんか馬鹿やってるみたいね」キノエ :「こんなもんよあいつの甲斐性なんて」

瑞希のまい・だーりん

浜辺で遊ぶ一同。
 だが、一部の人間が『ある事』に気付きだした。
 そう、身近だが、決して触れては行けない事に。

「瑞希さん、旦那様は?」
瑞希
「あ、ごめーん、車でぶっ飛んで来たから、少し休んでか
ら来るって」
「ふーん」

このやり取りを眺めていた豊中。
 しばらくして。

豊中
「(ん?そーいや、瑞希さんの旦那さん……見てないな)よし」
豊中
「瑞希さん、そういえば旦那さんは?」
瑞希
「え〜、さっき泳ぎにいっちゃった」
豊中
「あ、そうでしたか(探知開始……)」

周辺の人間の感情をマッピング。瑞希さんの精神パターンから推測される旦那さん
 像に適合する者……あれ?
 精神空間に広げた周辺地図に、チャフを撒いた時のレーダー画面のようなノイズ。

豊中
『……もしかして、あれの中心にが瑞希さんの旦那さんが?』

探知レベル最高に上昇。

SE(心理的)
ばぢぃっ!
豊中
「うわっ!(高電圧を食らった気分)」
瑞希
「どうしたの?」
豊中
「あ、ああ、いや……(びりびり)……べ、別に……(ぱた)」
観楠
「瑞希さーん、ちょっとー(手を振ってる)」
瑞希
「あ、御免、呼んでるから行くね、なーにー店長さーん」

たったったった……。

「豊中よ……何、しびれているんだ?」
豊中
「なに……少々……探知中に……リジェクトされて……な」
居候
『……わしまでしびれたぞぉぉぉ!』
御影
「誰を探知しようとしとったんだ」
豊中
「いえね、瑞希さんの旦那さんの居場所を、ね」
「そういえば……一度も見た事ないですね。瑞希さんの旦
那さん」
豊中
「姿どころか、精神にすら触れられなかった」
居候
『わしゃもーばちばちはいやじゃあ』
「ばちばちって……オマエの探知がリジェクトされたのか?
何者だ……瑞希さんの旦那さんって……(汗)」
御影
「しかし、だな……『あの』瑞希さんの旦那さんだぞ?」
「ただの男では務まらないでしょうね」
御影
「ああ……きっと俺等とは『格』が違うんだろうな」
「……」
御影
「……」
豊中
「……」

思わず納得し、互いに頷き合う三人。

豊中
「あの、御影の旦那……それは良いんですが……手すきな
ら運んでくれると……ん?何だこの音……って……でぇっ!
嘘だろ……おい(汗)」

果たして、豊中は何を見たのか。
 そのころ。

観楠
「あの、瑞希さん」
瑞希
「はい?」
観楠
「えーと……その、旦那さんは?」
瑞希
「あぁ、あの人なら。車の運転で疲れたから、少し休んで
から来るって」
観楠
「そーですかぁ……いや、お誘いいただいたお礼言おうと
思ったんですが」
瑞希
「あら、お礼なら私にでもOKですよ(笑)」
観楠
「あ、こりゃ……参ったな(苦笑)」

pipipi、pipipi、pipipi、pi……

観楠
「携帯? あ、こっちじゃないな」
瑞希
「あ、私だ。はい、もしもし……あら、あなた(はぁと)
は、なんですって!?」
観楠
「(なにかあったのかな?)」
瑞希
「急な仕事って、なによー! そんなのほっとけばいい
じゃない! なんのために休みとったのよっ!!」
琢磨呂
「何騒いでんだ?」
観楠
「ん、瑞希さんに電話があってさ。旦那さんからみたいな
んだけど、岩沙君……そのカッコ、なに?(汗)」
琢磨呂
「これか? 海のカッコだぜ?」
観楠
「そ、そりゃそーかもしんないけど……なんで海水浴場に
『フロッグマン』がいるわけ?(汗)」
琢磨呂
「ちっちっち。わかってねーなぁ、てんちょー」
観楠
「……わかりたくないような気がする……(苦笑)」
琢磨呂
「ボートもあるぜ。かなりの荷物になっちまったが」
観楠
「……ゾディアック?」
琢磨呂
「良くわかったな、正解だ(笑) やっぱ海、つったらあれ
しかねーだろ?(笑) 予算に余裕があればSSVが欲しい
所だったがな」
観楠
「……ここでなにするつもり?(苦笑)」
琢磨呂
「そりゃ野暮だぜ。海水浴に決まってるじゃねーか(笑)」
観楠
「(海水浴にそんな装備はいらないと思う……)知らない
よ、どうなっても(苦笑)」
瑞希
「そう、わかった。夕飯までには帰って来るのね?うん
待ってる。早く帰ってきてね(チュッっと携帯にキッス)」
観楠
「旦那さん、どーかされたんですか?」
瑞希
「なんでも急な仕事が入って、あの人じゃないとだめなん
ですって」
観楠
「え、でもこんな所から……間に合うんですか?」
瑞希
「大丈夫でしょ(笑)」
観楠
「会社、どこでしたっけ?」
瑞希
「吹利です」
観楠
「(ちょっとまった……来る時3時間以上かかってるのに、
どうやって?)」
琢磨呂
「てんちょー」
観楠
「ん、なに?」
琢磨呂
「なにか、聞こえねーか?」
観楠
「なにかって……波の音の他にはな……に……も……?」
琢磨呂
「いや聞こえる……これは……ローター音!?」
観楠
「ローターっていうと、ヘリの、あれ?」
琢磨呂
「あぁ。間違いねぇ、この甲高い風切音はジェットヘリ特
有の音だ!それにこの、どてっぱらに響く双発ガスタービ
ン独特の音!んなあほな……日本にあれが来てるって言う
のか?聞いてねぇぞ!」
観楠
「あれってなにっ?」
琢磨呂
「じきにわかる! 来たっぞ!あれだっ!!」

琢磨呂が指差した空の上。
 白地に空色・濃紺のストライプを施されたごついヘリが一機、こちらへやって来る。

観楠
「い、岩沙君(汗) あれ、あのヘリって……どーみても(汗)」
琢磨呂
「センサー、武装類は外して民間機風にカラーリングして
あるからトーシロは誤魔化せるかもしれんが俺の目は誤魔
化されんぞ……間違いねぇ。ありゃAH-64D『アパッチロン
グボウ』だっ!」
観楠
「あ、なんかチカチカと……発光信号?モールスかな?」
琢磨呂
「『ミ・ズ・キ・ゴ・メ・ン・ネ・ス・グ・カ・エ・ル』
……なんだそりゃぁ!?」
瑞希
「あなたぁ! いってらっしゃぁーい!(ぶんぶんっ)」

ヘリはそのまま明後日の方向に飛び去る。

琢磨呂
「いってらっしゃいって……(汗)」
観楠
「ふわぁ……なんかすごいもの見てしまったぞ。確かにあ
れで飛んでいけばすぐ着くよなぁ……あ、瑞希さん」
瑞希
「なんでしょう?」
観楠
「あの、旦那さんのお仕事って……一体?」
瑞希
「NTTの社員です(笑)」
観楠
「えぬてぃてぃの……はぁ〜〜(困惑)」
琢磨呂
「んなこたどーでもいい! まさか日本でアレを拝めるたぁ」
瑞希
「うちのひとねぇ、あーいうの好きなの(笑)」
琢磨呂
「いや……好き、だけで買えるもんじゃねーぞ、あれは(汗)」
瑞希
「中古で安いのがあったんだって。男の人っていくつになっ
てもああいうもの好きなんだから(くす)可愛いわよね」
琢磨呂
「可愛いって……可愛いって、ねーちゃんよ(絶句)」
観楠
「あれって、一機どれくらいするものかな?」
琢磨呂
「家一軒、建てる根性があれば、ひょっとしたら買えるか
もな」
観楠
「そ、そんなにするのか……すごいもんだねえ(汗)」

観楠の「家一軒」と琢磨呂の「家一軒」の規模は違うような気もするが。

琢磨呂
「あぁ……確かにすごいな(にやり)」
観楠
「岩沙君……?」
琢磨呂
「あんなもの俺の目の前に出されちゃ、しょーがねーよな
なぁ、てんちょー(笑)」
観楠
「なぁって……あ、なにか悪巧みしてるなぁ?(苦笑)」
琢磨呂
「人聞きの悪い(笑) 俺は、俺の純粋な探求心の欲求を
満たしたいだけだぜ?(笑)」
観楠
「ゲームじゃないんだよ?」
琢磨呂
「ちょっと見せてもらうだけだって(笑) 瑞希のあねさん
ちょっとお願いが……」
瑞希
「なに?お願いって?」
琢磨呂
「なに、簡単な事。旦那さんの職場に連れ……(なにっ!)」
瑞希
「?」

何処からとも無く伝わってくる無言の殺気。

琢磨呂
「(な、何だってんだ!この殺気は!冗談じゃねぇ!只者
じゃねぇぞっ!)」
観楠
「どうかしたの?琢磨呂君」
琢磨呂
「(ちきしょう、丸腰ってのは抜かった!店長達は気がつ
かねぇのか!……ん?俺だけ?……待てよ)」
瑞希
「ね、どうしたの?」
琢磨呂
「い、いやぁなかなかすごい旦那さんで、はっはっはっ(汗)」
瑞希
「そーでしょ?(ぽっ)だぁってあたしの旦那様だもん(はぁと)」

スッと霞のように消える殺気。
 内心、冷や汗をぬぐう琢磨呂。

琢磨呂
「(やっぱりか……ふん、姐さんの旦那さんにゃ手をだすなって事か
……ま、いいさ、今日のところは引き下がるが、必ず)」

にやりと再戦(?)を誓う琢磨呂。
 果たして、瑞希の旦那様の正体とは。
 ……深く追求するのはよそう。

譲羽海へ行く

一方こちらはビーチパラソル下の花澄と譲羽。
 パラソルの日陰で文庫本を読む花澄と、自分より大きい花澄の帽子をかぶり、ヨロヨロと歩き回る譲羽。
 とてとてとて、よろっ、ぽて。
 とてとてとて、よろっ、ぽて。

花澄
「ゆーず、あっちこっち歩かないの」

譲羽の腰に巻かれたレースのリボン。
 端は花澄の手に結ばれている。

譲羽
「ぢいっ!ぢぃぢぃ!(お水がいっぱい!花澄これ海?)」
花澄
「そうよ、これが海よ(にこ)」
譲羽
「ぢい……(でも、ゆず、海ん中、入れないもん)」
花澄
「そうねぇ……ニスだのラッカーだの塗る訳にもいかないし(苦笑)」
直紀
「かーすーみーさーんっ(ぶんぶん手を振る)」

大きな浮き輪を抱え、駆けてくる直紀。

直紀
「どーしたの?」
花澄
「いえ、ゆずが海に入りたいって……(苦笑)」
直紀
「ふぅん……ゆずちゃんあたしと海入ろっか?(笑顔)」
譲羽
「ぢいっ?(ほんと?)」
花澄
「ちょ、ちょっと直紀さん、そんな事したら……(慌)」
直紀
「大丈夫、まっかせて」

手早くタオルで体の水気を拭き取ると、譲羽をそっと抱え上げる。

直紀
「ゆずちゃん、絶対暴れたりしちゃだめよ、いーい?」
譲羽
「ぢい(わかった)」
直紀
「じゃ、行くよー」
花澄
「ちょっ!あ、あのっ(汗)……え?」

ざぶざぶと海に入っていく直紀。
 ところが不思議な事に譲羽を抱えた直紀の回り数センチの部分だけ水が無い。
 操水術の応用である。

直紀
「どう?ゆずちゃん、見える?」
譲羽
「ぢぃ……(すごい……)」

ナイフのように銀色の身体を光らせ泳ぎ回る魚達。
 ふわふわと半透明の身体を漂わせる、クラゲ。
 花のような触手を揺らめかせるいそぎんちゃく。
 何もかも始めてみるものばかり。
 数分後。

譲羽
「ぢぃっ!ぢぃっ!ぢぢぃっ!(花澄!あのねっ!サンマ
とねっ!ふわふわした奴とねっ!それから、それから……
いっぱいいたっ!(喜))」

手をぱたぱた振り全身で話す譲羽。どうやら魚は全て「サンマ」らしい。

花澄
「よかったわねぇ、ゆず。直紀さんにお礼は?(にこにこ)」
譲羽
「ぢぢぃっ!(ありがと、直紀おねーさん!)」
直紀
「えっと、お礼言ってくれてるのかな?どーいたしまして、
後でまた遊ぼうねゆずちゃん(笑顔)」

ともあれ、譲羽。
 日本で(?)初めて海に入った木霊になった……のかもしれない。

夏和流、勉強す

一方こちらは宿。
 遠くから楽しそうな歓声がかすかに聞こえる。

夏和流
「いいなぁ……僕も遊びたいなぁ……」
「呟いている暇があったら、勉強、勉強」
夏和流
「あう……(彩さん本当に勉強させるんだものなぁ)」
「ほら、手が止まってるわよ!夏和流君が終らないと
あたしも海行けないんだから!」
夏和流
「ひえ〜(汗)」

不幸な夏和流、しかし、これも受験生の定めか。

涼子
「どうぞ、麦茶です」
「どうもすいません。でもいいんですか? 皆さんと一緒じゃなくて」
涼子
「静かな方が、落ち着きますから(にこ)」
夏和流
「みのるは、なにしてんですか?」
涼子
「剣の型の練習だそうです」
夏和流
「そーですか。(せっかく海なのに、みのるも気が利かないなぁ)」
「ほーら。また手が止まってる」
夏和流
(僕はそもそも色気のあるシチュエーションじゃないし(;_;))

総員銭湯配備!?

一日遊んで、夕食後。
 尊達の部屋。

直紀
「あれ?尊おねーさん何処行くの?」
「え?汗かいちゃったし、御風呂行ってこようかなって」

尊の手には手ぬぐいを始めとする御風呂セットがあった。

直紀
「あー私も行くぅ!ユラちゃん達も行こ(笑顔)」
ユラ
「そう言えば、さっき瑞希さん聞いたんですけど、ここの
御風呂、海の見える露天風呂なんですって、しかも温泉!」
花澄
「へぇ……素敵ですね」
「花澄さんも行きませんか?」
花澄
「そうですね……御一緒しようかな(にこ)」
ユラ
「じゃ、いきましょ!」

襖一枚隔てた廊下では。

琢磨呂
「ふっふっふっふ……確かに聞いたぞ!露天風呂とな……
Target Lockon!!」

だだだっ!っと部屋へ駆け戻る琢磨呂。
 だんっ!っと襖を開けて。

琢磨呂
「総員銭湯準備!スクランブル!」
佐古田
「じゃじゃん?(戦闘?)」
本宮
「先輩……戦闘って(汗)」
琢磨呂
「違う!『銭湯』準備だ!風呂へ行くぞ!」
フラナ
「あ、そーいえばここのお風呂って海が見える露天風呂な
んだよ」
佐古田
「じゃん!じゃかじゃん!(露天風呂!行こう!)」
本宮
「でも先輩、なんでそんなに慌てて……」
琢磨呂
「Be silent!!質問は後で受け付ける!一分一秒たりとも無
駄にするな!」
本宮
「はぁ……(先輩……何をそんなに燃えてるんだろう……)」

で。
 こちらは露天風呂の女湯。

ユラ
「うっわー奇麗!」
花澄
「ほんと……夕日で真っ赤……」

目の前に広がる海を真っ赤に染めて沈みゆかんとする夕日。
 涼やかな海風が、湯に火照った肌に心地よい。

「あら?緑ちゃんに千影ちゃん、二人も入ってたの?そん
な、はしっこにいないでこっち、いらっしゃいよ(にこ)」

はしっこの方で恥ずかしそうに小さくなっていた緑と千影に気がつく。

「え、でも」
千影
「恥ずかしいですぅ」

その頃、男湯では。

琢磨呂
「……」
本宮
「……」
フラナ
「……あ、あの二人とも?どーしたの?(汗)」

不気味な沈黙にうろたえるフラナ。

佐古田
「……」

我関せず、と気持ちよさそうに湯に浸かる佐古田。

千影
『おねーさん達、みんなスタイル良いからうらやましいな』
直紀
『なーに言ってるのよ、千影ちゃんたちはこれからなんだ
から心配しないの(笑)あ、でもあたしより尊おねーさん
の方がちょっとおっきいかな?』
『きゃん!(驚)な、直紀さんてばっ!(笑)』
直紀
『むーやっぱり尊おねーさんの方がおっきい……』

分厚い生垣を挟んで聞こえてくる女湯の楽しそうなおしゃべり。

琢磨呂
「本宮よ……俺が急いでいた訳。解ったな?」
本宮
「(無言で頷く)」
琢磨呂
「そこに山があるなら登る!海があるなら潜る!そしてっ!
(握り拳っ)」

拳を握り締め、女湯と男湯を隔てる分厚い生垣を睨み付ける。

琢磨呂
「こんな偉大な目標に挑戦するのを誰が止められよう!」
フラナ
「……琢磨呂先輩が燃えている……」

違うぞフラナ。『萌えている』だ。

琢磨呂
「よし。まずこの障害物を何とかするか……」

と。

ユラ
『やっぱり、競泳やってるだけあって緑ちゃんは引き締まっ
てるねー(笑)』
『そんな……恥ずかしいです(照)』
本宮
「あ……み、水島さん……」

想像してるらしい本宮。
 カウントダウン開始……5・4・3・2・1……ぼひゅっ!

本宮
「うーん(ダウン)」
フラナ
「わっ(汗)もとみー!どーしたのっもとみー!」

オーバーヒートでひっくり返った本宮、可愛いものである。

琢磨呂
「しっかりしろ本宮っ……こうなったら俺だけでも」
御影
「俺だけでも……何だ?岩佐」
琢磨呂
「げ、ダンナ……(汗)」

いつのまにか風呂場の入り口に立つ御影と十。

「さっきから何騒いでんだ?ん?その手に持ってんのは……
カメラ、か?」
佐古田
「……」

相変わらず我関せず、がっしゅがっしゅと、マイペースで身体を洗う佐古田。
 のぼせてひっくり返っている、もとみー。
 介抱しているフラナ。

琢磨呂
「ダンナ方見逃してくれ!。後で直紀と尊の姐さんの奴、
焼き増ししてやるから、な」

悪魔の取り引きを持ち掛ける琢磨呂。

「それは美味し……じゃねぇっ!(慌)すぉんな事は許さ
ん!な!ダンナ」
御影
「……」
「ダンナ?……」
御影
「ん?ああ、確かに(汗)」
琢磨呂
「御影のダンナ……今の『間』は何だ?(汗)」
御影
「問答無用」

がしっと琢磨呂の頭をつかみ湯船に沈める御影。
 隣で手ぬぐいを頭に、気持ちよさそうに湯に漬かる佐古田。

琢磨呂
「がぼっがぼぼぼぼっ!(ば、馬鹿野郎!し、死んじまうっ!)」

数分後。
 ぷっかり湯船に浮かぶ琢磨呂と、ゆったりと湯に浸かる御影。

「(ダンナ……ひょっとして写真……(汗))」
だが、湯船に浮かぶ運命の者は一人ではなかった。新たに人影がさす。

夏和流
「あれ? 琢磨呂先輩……どうしたんですか?」
御影
「ああ、ちょっとな」
夏和流
「……のぞくんなら、おこぼれにあずかろーとか思ってたのに」
かくして余計な一言をはいた夏和流も、たゆたう事になった。教訓。やっぱりのぞきはいけないことです。……でも男のロマン?(笑)
  (旅館にて・入浴後)

観楠
「っ……あーあ(のびっ) やっぱ、温泉はいいなぁ」
かなみ
「あとでもっかいはいっていい?」
観楠
「今出たばかりだよ?」
かなみ
「んとね、おほしさまみるの。おそとのおふろってはじめ
てだもん!」
観楠
「でもねぇ。きっとのぼせちゃうから……あ、明日朝起き
てからにしよう。朝風呂って気持ちがいいんだよ(笑)」
かなみ
「うんっ(にこっ)」
観楠
「さて、御風呂のあと、と言えば……あ、あったあった」
かなみ
「?」

観楠、自販機にコインを投入。瓶入りの牛乳を買う(笑)
  左手を腰に当て、目線は上方45度!

観楠
「(くぃーっ)……くぅ〜〜っ(笑)」
かなみ
「父様、かなみもっ!」
観楠
「ちょっと待ってね……はい」
かなみ
「……(こくこく)」
観楠
「美味しい?」
かなみ
「……うん!」

2人、同じポーズで牛乳を飲む(笑)

観楠
「さて、と。部屋に帰ってのんびりするかな」
かなみ
「かなみ、まだあそびたい!」
観楠
「そ、そぉ? んじゃ、一度帰ってからにしようか。
お土産とかはまだ営業してるのかな?」

観楠、案内板を見る。

観楠
「えーと……温泉から出て、今ここだから。あ、卓球場が
あるなぁ。行ってみよっか?」
かなみ
「たっきゅう?」
観楠
「ピンポンのことだよ(笑)」

卓球場はすでに盛り上がっていた(笑)

観楠
「……なんだかなぁ(笑)」
瑞希
「あ、店長さん。御風呂どうでした?」
観楠
「いやあ、よかったです(笑) しかし、温泉で卓球……」
瑞希
「醍醐味でしょ?(くす)」
観楠
「全く(笑) 久しぶりにやってみますか」
瑞希
「じゃ、この次に入ってくださいね(笑)」
観楠
「はい(笑) えーと、ラケットは……」

観楠、ラケットを物色する。
  温泉に置いてあるシロモノである。
  ラバーの手入れなどしてあるはずがない(苦笑)

観楠
「ペン、シェイク……はあるんだな。おぉ、ガングリップ
まで!(汗) なんでこんなマイナーなラケットが(汗)」

とりあえずペンハンドを手に取る。

観楠
「ラバーは……タキネスぅ? かさかさに干からびてない
か、これ。意味ないなぁ(苦笑)」

軽く素振り。
  フォア、バック、ドライブ……。

フラナ
「やったぁ、僕の勝ちぃ! 次はぁ〜〜?」
観楠
「あ、僕かな?」
フラナ
「てんちょーさん」
観楠
「お手柔らかに、頼むよ(笑)」
琢磨呂
「5点先取な。サーブは2回交代だ」
フラナ
「はーい(笑) んじゃ、いくよー(こぉ〜〜ん)」
観楠
「(きらーんっ)!!」

ずぱぁぁーん!
  スリッパが鳴り響き。
  観楠、フラナの間延びしたサービスをいきなりスマッシュで返す。

フラナ
「て、てんちょーさん……(汗)」
観楠
「……あ、ごめんごめん(苦笑)」
フラナ
「んじゃ、も一度……えぃ(かこぉ〜〜ん)」
観楠
「(きらーん)サーブが高いっ!」

再び鳴り響くスリッパ(苦笑)

琢磨呂
「て、てんちょー(汗)」
フラナ
「なんか、目つきがかわってるー(汗)」
観楠
「さぁ、こいっ!」
琢磨呂
「……てんちょー、マジになんのはいかんぜ?(汗)」
観楠
「ん? 僕は普通だけど?」
琢磨呂
「そーかぁ? とにかく、次のサーブはてんちょーな」
観楠
「あ、そぉ? んじゃ……サーブ!」

観楠、バックハンドからのサービスをライン際に決める。

フラナ
「こんなの無理だよぉ〜〜」
琢磨呂
「てんちょぉぉ〜〜」
観楠
「え、あ?」
琢磨呂
「その、腕振り抜くのは無しで頼まぁ(汗)」
観楠
「あぁ、ごめんね(苦笑) んじゃ、いくよぉ」

観楠、フォアハンドからのサービスをネット際、サイドライン寄りに
  落とす(鬼っ)
  フラナ、どうにか食らいついて返すが、ボールが浮いたっ!

観楠
「甘ぁぁぁぁいっ!」

三度鳴り響くスリッパ(笑)

琢磨呂
「……だからよー(汗)」
観楠
「こ、これもだめなの?(汗)」
琢磨呂
「駄目だ。4対0で、次はフラナのサービスな。てんちょー
一撃で決めるのはなしだぜ?」
観楠
「あ、あぁ。ラリーを続けろってことか。了解」

フラナのサービス。
  観楠、軽く返し、フラナも返す。
  しばらくラリーが続いたが、フラナの打球が観楠の後方へ跳ねようとした!

観楠
「くっ!」

観楠、とっさに後ろへ飛びラバー面を上に向けながらラケットを上から下へ
  振り下ろす。打球は嘘のようにフラナのコートへ帰って来る(笑)

フラナ
「え、あれっ!?(汗)」

受けきれず、ゲーム終了(苦笑)

観楠
「ふぅ……いやぁ、なかなか面白かった(笑)」
フラナ
「てんちょーさん、強すぎ〜〜」
観楠
「そ、そーかな?(汗)」
フラナ
「スマッシュ打つ時足鳴らすの、ずるいよぅ」
観楠
「あー……癖で、つい(苦笑)」
琢磨呂
「てんちょー、卓球やってたろ?」
観楠
「ん、昔、ちょっとね(笑)」
琢磨呂
「やっぱりなぁ……(呆)」
観楠
「よし、次いこう、次!(笑)」

旅の夜はふけていく……

夏と言ったらやっぱりこれっ!

夕食後、くつろいでいる一同に瑞希の集合がかかった。
 所は宿の庭。

瑞希
「はーい、みんなそろったわねー(笑顔)」
フラナ
「ねーちゃん、何企んでるの?」
瑞希
「人聞きの悪い事言わないでちょーだい(こめかみぐりぐ
り)」
「瑞希さんみんな集めて一体……」
瑞希
「みゅ?みこちゃん、その浴衣……」

尊の姿は例の浴衣。
 泳ぐ間は上げていた髪も今は下ろしている。

「初めて着てみたんですけど……変じゃ……無いですか?
(照)」
瑞希
「ばっちりおっけい!でも、それはあたしじゃ無くって後
ろの人に言ってもらったら?(くす)」
「え?(焦)」

振り返れば。

御影
「ど、どうも……(焦)」

会話に入るタイミングを失って突っ立っていた御影。

「あ、あの……(赤面)……どう……ですか?」
御影
「……よく……似合ってる」
「良かった……」

赤面してうつむいてしまう尊。
 照れ隠しに頭を掻きながら明後日の方を向く御影。***************
 その他のカップルの場所、予約済み。
 要増補(笑)***************

夏和流
「……はあ、やーっと宿題片づいた……」
「今日の分は、ね」
夏和流
「……へーい」
「後でご褒美あげるから、そんなに嫌がらないの」
夏和流
「……ご、ご褒美って(赤面)」
「そんなんじゃないわよ(呆) エッチ」
夏和流
「あ、彩さんが紛らわしいこというからだろー!」
「……別にそれでもいいけれどね」
夏和流
「(声が裏返って) へぇっ?」
瑞希
「あれ? みのる君は?」
夏和流
「涼子さんがちょっと調子悪いからって、残りました」
瑞希
「ちぇっ残念。みのる君用にもいろいろ用意したのに」
夏和流
「でも、今はこうして二人きりですし(にや)」
瑞希
「なるほど、夏和流くんも結構気が利くんじゃない」 夏和流    :「斉藤さんにはにはかないませんケドね(笑)」
豊中
「なぁユラ、なーんかあてられちまうな」
ユラ
「言わないでよ、あたしだって……」
豊中
「あたしだって……なんだ(苦笑)」

あぶれた面々、数名。

花澄
「直紀さんも、尊さんも、浴衣姿奇麗ねぇ……(溜息)」
本宮
「で、瑞希さん一体……」
瑞希
「何言ってるの、夏の夜といえばこれしかないでしょ、肝
試しよ、肝試し(笑)」
一同
「きもだめしぃー?」
瑞希
「そ、ルールは簡単、二人一組でペアになって、この先の
神社の拝殿においてある御札を取ってくるの。当然、残っ
た人は脅かし役ね(くすくす)」

瑞希、チェシャ猫笑い。

フラナ
「(でた、あの笑い……ねーちゃんなんか企んでるぞ……)」
瑞希
「ペアの組み合わせは、あたしが作ったアミダクジプログ
ラム『らぶらぶふぁいやー壱号』にお任せよっ」

で。

フラナ
「ねーちゃん……これ……(汗)」
御影
「なんだか物凄く作為を感じるんだが……まぁいいか(苦笑)」

結果は……説明するのも野暮なほど物の見事にペア決定。
 これも、『公正』な瑞希のプログラミングによるものだろう。

肝試し 豊中&花澄&ユラの場合

豊中
「さて、俺の荷物は……」
ユラ
「なによこの巨大な荷物……お、重い(-_-;)」
花澄
「ずいぶん持ってらっしゃったんですねえ(感心)」
居候
『感心するようなものぢゃないと思うがのぅ……』
ユラ
「何が入ってんのよ、豊中」
豊中
「ふっふっふ、こんなこともあろうかとな(あやしげなモ
ノを取り出す)彼女もちには内緒にしといて下さいよ。ま
ず、赤外線フィルム入りカメラと赤外線投光器。こっちが
対人センサで、こっちは効果音入りのチップ。トラップ用
のワイヤースイッチ回路と発火装置。で……(まだある))」
ユラ
「あんた、何する気?」
豊中
「そりゃぁ、胆試しといやぁキッチリ脅かしてやらにゃ
(にやぁり)」
花澄
「この電球、変わった形をしてますねぇ」
豊中
「あ、それはコロナ放電を利用した……と、この説明はま
ずいか。あとでつけて見せて上げますよ。セッティングが
終ったら。鬼火に見えなくもないんです」
キノエ
『でも、ミツルは鬼火を見なれてるんだけど』
豊中
「大丈夫。これはごく普通の電球。見かけがものすごく怪
しい上にあいつが鬼火と呼ぶものとはまったく性質が違う。
理解できない代物に恐怖してもらおう(にやにや)」
花澄
「でも、電気がないと使えないものばかりですよね?」
豊中
「(オコジョのままのキノエをぷら〜んとぶらさげ)ほら
ここにキノエという電源が(笑)」
譲羽
「ぢい……(キノエちゃん、かわいそうかも……)」
豊中
「それに、スペシャル演出で花澄さんに御登場願いましょ
うか。譲羽君、もちろん君もだ。ユラはバンシーでもやっ
てみるか?」
ユラ
「あんたねぇ……(苦笑)」

苦笑しつつ、しばしあたりを見回す。

ユラ
「せっかくだし、ちょっと頼んでみるかぁ。友達になった
ばっかりだけど、いきなり協力要請ってことで」

ぱたぱた、と、一本の木にかけよる。

ユラ
「あのね、ちょっとお願いが…(ひそひそひそ)」
豊中
「いったい何頼んだんです?」
ユラ
「うーん、極めてオーソドックスだよ。『風もないのに木
がざわざわ』って奴ね。このへん一帯で協力してくれるっ
て。そのタイミングでその鬼火つけてもいいよね。ところ
でマヤにも何かさせる?」
豊中
「んじゃ、そのへんの暗がりに隠れて、かすれ声で泣いて
てもらおうかな。それともユラ、黒猫抱きしめた血まみれ
の幽霊ってのも」
ユラ
「そうねぇ、花澄さんはおぼろげで綺麗な雰囲気になるだ
ろうし、あたしはそっちでいこかな」
花澄
「お二人とも、楽しそうですねえ(くすくす)」
豊中
「そりゃあもう(にや)」
ユラ
「基本よねぇ(はぁと)」

肝試し 瑞希の場合

一同が出発地点でわいわいやってると。

瑞希
「くすくすくすくす……そーっと、そーっと……ばあっ!!」
フラナ
「うっわぁぁでっ出たぁ」
夏和流
「やっぱりでたぁぁ」
本宮
「わわわっ!みっみっみっ瑞希さんっ!」
佐古田
「ぎゅぃぃぃぃぃん(きょーふっ)」
御影
「なっ」
豊中
「(冷や汗つつー)」
「すっすっすいませんっ」

思いっきり驚く一同。

瑞希
「ちょっと……あんたら……」

ぴくく……と眉ひくひく。

瑞希
「なによぉっ!あたしメイク何もしてないのに、なんで怖
がるのよっ!」
「う〜ん(汗)(瑞希さんの『恐い』は意味が違う気がす
る……)」

流石、瑞希(笑)。

肝試し かなみ&譲羽の場合

出発地点からすぐの茂みにて。

かなみ
「(小声で)いい、ゆず。かなみが『今!』って言ったら
声出すの。それまで声出したらだめだよ」
譲羽
「ぢいっ(分かった)」
かなみ
「しーっ……」
譲羽
「(口を抑えてこくこくと頷く)」

少し離れた道からそれを見ている観楠と素子。

素子
「しっかり怖がってあげなきゃいけないですね(くすくす)」
観楠
「かなみちゃん……丸見えなのに(笑)」

肝試し フラナ&チカの場合

瑞希
「はーい、今度は裕也達が脅かす番よ」
フラナ
「見て見てチカちゃん」
千影
「フラナくん、そのカッコ……」

頭に狼耳(笑)らしきものをくくり、狼しっぽ、爪つき狼手袋をはめ、つけ牙までつけている。どうやら狼男のつもりらしいが……どうみても子供のおちゃめな仮装にしか見えない。

フラナ
「これでみんなを怖がらせるのっ」
千影
「……」
フラナ
「チカちゃん?」
千影
「フラナ君、かわいい〜(なでなで)」
フラナ
「違うぅぅぅ(ぱたぱた)」

肝試し 花澄の場合------------------

花澄
「春……春の夜、だよね。春霞」

白っぽい服の上から、白いシーツを羽織った形の花澄は首を傾げる。
  空気がぼんやりと水を含み、シーツの中の懐中電灯の光を拡散してゆく。

花澄
「あと、桜が散って……それと春雨…それも」

じきに、やってくる二人組。
  3mの範囲に入ったところで、異変には気付いたらしい。

「あ(花澄さん?脅かすのかな?)」
花澄
「春宵に、ようおいでになりました(にこ)」

声が幾重にも重なる。譲羽の仕業である。

花澄
「春は宵。春霞、桜花」

にこにこ、と笑いながらの声と同時に、霞が立ち込め、その中をふわりふわりと
  薄紅色の光の破片が舞う。

花澄
「でも、お忘れになっては困ります。
……桜の下には、死人が埋まっておりまする(にこ)」
「……な」

花澄の周りから、滲むように現れて来るもの達。ある者は落ち武者の姿、
  またある者はやせ衰えた女の姿。
  いつしか、雨が降り出している。雨の色はやはり、紅を帯びて見えた。

花澄
「ほうら、行きや」

ふわ、と動いた指のままに、彼らは一歩前に踏み出した。
 

「……御影さんには、見えてます?」
御影
「見えてる」
「ただの仕掛けじゃ、なさそうですね」

尊の手が微妙に動いた途端、
 

花澄
「(小声で)春の闇夜を」

声と同時に懐中電灯を消す。春の範囲が不意に真っ暗になった。
  笑い声が急激に遠ざかる。闇だけがそこに残る。

「え、どうして…花澄さんが向こうに行けば、明るくなる筈なのに」
SE
ぺと。
「?!」
花澄
「私はここです(くすくす)」

焦って振り返った先に、花澄の顔が見えた。

花澄
「今のはゆずの効果音。……どうでした?」
「さ、最後のが一番びっくりしたかも(苦笑)」
御影
「今のはどういう仕掛けで?」
花澄
「春の宵の百鬼夜行は、桜にまみれて奇麗だろう、と思って、
……そういう春があったらいいな、と思ったんです」
御影
「ほぉ、なるほど」
「綺麗でしたよ。びっくりしたけど(笑)」
花澄
「気に入ってもらえて嬉しいです。……さて、邪魔者は退
散するとしましょうか(にこ)」
「そんな、花澄さん(照) 邪魔だなんて……」
花澄
「だって、おふたりとも誰かがそばにいると、ものすごく
照れるんですもの。お邪魔しちゃいけないなって気持ちに
なりますよ(笑)」

花澄の言葉と同時に闇があたりを包む。

花澄
「それじゃ、ごゆっくり……」

笑いを含んだ声が遠ざかり、やがて月明かりが戻ってくる。

「もう、花澄さんったら……(照)」
御影
「……むう(照)」

どちらからともなく顔を見合わせるふたり。

御影
「……とりあえず、先に進むとするか(にっ)」
「そ、そうね。そうしましょうか(にこ)」
御影
「この先の小径を抜けると神社があったと思うんだが……」
「あ、あの……御影さんっ」

照れ隠しのためか先を急ごうとする御影を、尊は呼び止める。

御影
「ん?」
「ね、もうちょっと、ゆっくり歩きませんか?(ぽっ)」
御影
「あ、ああ(赤面)」

並んで歩こうとすると、どうしても肩が触れあってしまうほどの細い小径を歩く。虫の声がBGMだ。と、その時……

SE
「ぽとっ。ぼとぼとっ」

草陰からクモ、ヘビ、トカゲなどなどが、いっせいに投げ込まれた。御影の頭に巨大な女郎蜘蛛がぺったりはりつく。尊の足もとにはアオダイショウが転がる。

「(びくぅっ)ひっ……、や、いやぁ……」
御影
「……よくできてるよな、最近のオモチャは(笑)」
「へ、へびっ! いやっ……え?」
御影
「ゴムのオモチャだ。ほら(笑)」

頭に乗っかってる女郎蜘蛛を取り上げると、びろ〜ん、と引っぱってみせる。

「あ、あぁ、なんだ……良かった(ほっ)」
御影
「そんなに嫌いなのか?(笑)」

くっくっく、と喉の奥で笑う御影。そんな御影を軽く睨み、尊は頬を膨らませる。

「もう……御影さんのいぢわる。知ってるくせに」
御影
「まさかオモチャのヘビを恐がるほどとは思ってなかった
が(笑)」
「これでも、以前に比べればだいぶましになったんですよ(照)。前は気絶する位ならいい方で……そうじゃなかったら……」

何か思い出したのか、ふっ、と尊の表情が翳る。

御影
「どうした?気分でも悪いか?」
「(首を振る)何でもないんです(笑顔)ちょっと昔の嫌なこと思い出しちゃって、でも『あの事件』のおかげで克服できたし……み……武史さんの御陰です(笑顔)」
御影
「そ、そうか……(照)」

おたがいに『修羅』と戦ったときのことを思い出したのだろう、御影は指先で頬をかきながらそっぽ向いてるし、尊は両手の指をからめてうつむいたまま真っ赤な顔をしている。

「あはは。い、行きましょ、御影さん(焦)」
御影
「お、おう……(照) って、尊さん。なにもそんなに急
がなくても……」

なぜか急ぎ足になる尊。追いかける御影。
 と、突然尊は足を止める。その視線の先には、ヘビのオモチャが1匹だけころがっている。

「まぁったくもぉ。誰だか知らないけど、おもちゃだって
分かってれば、そう何度も何度も驚きませんよーだ(笑)」
御影
「あ、尊さんそれは……」

苦笑しつつヘビのオモチャをつまみあげる尊。
 と……それはうねうねと動きだし……

「ひっ……、や……いや、いやぁぁぁっ! へびっ、へび
ぃぃぃぃっ! いやあああああああああああああっ!!」

ヘビを投げ飛ばし、御影に力いっぱい抱きついて悲鳴をあげる尊。

「いやっ、いやぁっ! いやいやいやいやいやいやぁーっ!
へびっ、へびぃっ! いやあああああああああああっ!!」
御影
「尊さん、落ち着け。大丈夫、もういない」
「ひっ……いやぁ、もういやぁ(ぐすっ)」
御影
「大丈夫。大丈夫だ。もういないから」
「……ホント? ホントに?」
御影
「ああ、本当だ」

子供みたいに御影にしがみつきガタガタ震える尊。
 目に涙を一杯溜め、御影を見上げる。

「だ、大丈夫だと思ったけど……駄目だったみたい(泣き笑い)
や、やっぱり恐い」
御影
「大丈夫だ。もういないから落ち着いて、な?」

徐々に震えもおさまってきた。

「ええ……御免なさい……あ……あのっ……(真っ赤)」
御影
「ん?」

夜目にも分かるくらい頬を染め、蚊の鳴くような声で呟く。

「暫く……このままで……(御影の胸に耳を当てて目を閉じる)」
御影
「(微笑し、庇うように抱きしめる)もう……大丈夫だ」
「……はい……」

遠のいていた虫の音が再び合唱を始めた。

瑞希
「……なんだか本物が出てきて、みこちゃん泣かしちゃったみたいだけど……ま、結果オーライってとこかしら?二人ともいい雰囲気
じゃない(くすくす)ほら御影さん!もっと『ぎゅぅっミ☆』っと」
フラナ
「(あうあうあう、瑞希ねぇちゃんが萌えてる〜)」
佐古田
「……じゃじゃん」
瑞希
「ちょ、ちょっと佐古田くん!こんなときにギター鳴らさないの!いまいーとこなんだから!……って、そ、それって……」
フラナ
「わ、わ、わ……わぁぁぁぁっ!」
佐古田
「……じゃかじゃん(取ってくれぇ)」

ふりむいた瑞希とフラナが見たものは、頭の上でヘビにとぐろを巻かれて困っている佐古田の姿だった。別段、恐がってたりはしないあたりが佐古田の佐古田たる由縁である。

御影
「……なんかあっちのほうが騒がしいな」
「そ、そうね……」

顔を見合わせ、二人とも真っ赤になってパッと離れる。
 と。

SE
かくんっ!(膝が崩れる)
「あれっ(焦)」
御影
「おっと(支える)」

膝が笑い、その場にへたり込みそうになる尊を支える御影。

御影
「大丈夫?歩けるか?(笑)」
「ひ、膝が笑っちゃって……大丈夫ですっ(焦)」

と、強がって二、三歩歩き出したが。

SE
かくんっ!(再度膝が崩れる)
 
 尻餅をつくような格好でへたり込んでしまう尊。
「……(憮然)」
御影
「くっくっくっくっく……(必死に笑いを堪えている)」
「もぉ……笑わないで下さいっ!本当に恐かったんですから!」
御影
「すまん、すまん(笑)それじゃ……(屈み込む)よっと!」
「え?きゃっ(驚)」

へたり込んだ尊をヒョイと両手で抱え上げる御影。

「ちょ、ちょっと御影さんっ!お、おろして下さいっ!(真っ赤)」
御影
「ん?歩けなきゃわしが背負うか抱えてくしかないと思うんだが……
それとも暫くここにいるか?また蛇が出てくるかもしれんが(笑)」
「(ひきっ)は、早く行きましょうっ!御影さん早くっ!(汗)」

ぎゅっと目を閉じてしがみつく尊。

御影
「はいよ(笑)」

尊を抱え、軽々と歩いて行く御影。
 一方……。

佐古田
「じゃかじゃん(取ってくれぇ)」

困ったようにギターをかき鳴らす佐古田。

瑞希
「裕也!あんた取りなさいよ!(汗)」
フラナ
「やだよ!ねーちゃん取ってよ!(汗)」
瑞希
「あんた、かよわい女の子にそんな事させる気!」
フラナ
「ねーちゃんの何処がか弱いんだよ!」
瑞希
「あー!言ったわねぇ!裕也なんかこうしてやるっ!(ほっぺたをぎゅぅ)」
フラナ
「ひへー!ほーひうほほはかひょわふなひんはよ!(いてー!そういうところが
か弱くないんだよ!)」

こちらの騒ぎをよそに、尊を抱え歩いていってしまう御影。

瑞希
「あ!ほら、騒ぐからみこちゃんたち行っちゃったじゃない!」
フラナ
「ねーひゃんがいちはんははかひぃとおほふ(ねーちゃんが一番騒がしいと思う)」
瑞希
「まだゆーか(さらにぎゅぅ)」
フラナ
「いへへへ!ねーひゃんほへん(いててて!ねーちゃん御免!)」
瑞希
「何言ってるかわかんないもーん(笑)」
フラナ
「ひへー!(以下略(笑))」
佐古田
「じゃかじゃじゃん(いーから取ってくれぇ)」

相変わらずギターをかき鳴らす佐古田。
 いつまで続くのだろうか(笑)

肝試し そのころの涼子&みのる

二人は、縁側ですいかを食べていた。

涼子
「すいか……おいしいですね」
みのる
「ああ。もう、大丈夫か?」
涼子
「はい」
みのる
「そうか」
しばらく、すいかを食べる事だけの時間が過ぎていく。

涼子
「月、綺麗ですね……」
みのる
「いいや」
涼子
「?」
みのる
「人の方が、もっと綺麗だ」
涼子
「……そうですね(微笑)」
涼子は、じっとみのるの顔を見つめ、みのるは怒ったように、照れたように海を睨んでいた。

涼子
(ことん、と肩に頭をのせる)
みのる
(静かにじっと夜の海を眺めている)
穏やかに、時は過ぎていく。

肝試し 道に迷った直紀と十

直紀
「あれ?こっちって神社の裏手??」
「さっきの所は左に進むべきだったか。じゃ、戻りましょうか」
直紀
「………」
「直紀さん?」
目の前に広がるのは、一面の田んぼ。青々した稲が風の方向に揺れる。遠くに明かりがぽつぽつ。その光が急に揺れた。

直紀
「………ほたる」
「え?」
直紀
「うわぁ(喜)きれーい」
そうっと捕まえようとするが、蛍はふわりと手から逃れる。ふわりふわり、からかうように遊ぶように、近くに遠くに、直紀の周りを行ったり来たりする。

直紀
「あぅ、また逃しちゃった…」
「直紀さん、そのまま」
直紀
「へ?」
「動かないで」
直紀
「う、うん」
直紀の髪の上で一休みしていた捕まえる。

「はい、蛍」
直紀
「…えっと、ありがと(真っ赤)」
直紀の目の前で手を開く。蛍は小さい光を放ちふわふわと離れていった。その姿を見送り、しばらく目の前の光を楽しむ

「そろそろ戻りましょうか?あんまり遅いと
何を言われるか(苦笑)」
直紀
「そ、だね(笑)」
 蛍を追いかけて大分田んぼの奥まで来てしまっていた。ゆっくり元来た道を戻ろうとした時、
「直紀さん?!」
直紀
「ごめん!あ、足がすくんじゃって…」
ぎゅうっと腕にしがみつき、腕に顔をすり寄せる。目は頑なに閉じたまま…身体は少し震えていた。あたりは、月明かりと蛍の灯火。鈴虫のかすかな音色と、田んぼらしく蛙の鳴き声。蛙が鳴くたびに、直紀がビクッとする

「直紀さんひょっとして蛙…苦手?(笑)」
直紀
「そうよっ!さっきまで蛍に夢中で、蛙の存在をすっかり
忘れてたわ。…って一さん、何笑ってるのよぅ!!」
「いや、その、がまがえるとかイボイボのついた奴ならわ
かるけど、あれただのあまがえるじゃない(笑)」
直紀
「・・・ちいさいほうが、こわいんだもの(ジト目)」
「はいはい(苦笑)」

十は笑いながら、道の真ん中に鎮座する親指の先にも満たないかえるをつまみ用水路に放した。

「爪の先に乗せて遊んだりしなかった?」
直紀
「実家の周りに、たんぼがあってさ。小さいかえるが夏に
なるとたくさんでてくるの」
「なら、慣れてもよさそうなもんだけどな」
直紀
「その田んぼの脇は車が通る道になってるんだけど・・・」
「ふうん、俺の田舎もそうだったな・・・」

軽く相槌をうったとたん、十の微笑みが凍り付く。
 どうやら共通の体験に思い当たったらしい。

直紀
「雨のあとにその道通るとね、小さなかえるが・・・・・」
「ストーップ!みなまでゆーな、直紀さん!俺も苦手なん
だ、あれ!」
直紀
「あーん、思いだしちゃったよう!」
「せ、背中がむずむずする・・・・」

と、その時。二人の足元でくちゃっと言う音が・・・・。

「・・・・俺、今何かふんづけたような気が・・・(冷汗)」
直紀
「・・・・あたしも・・・」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
直紀
「きゃああああああっっ!!!」

そのままもときた道をダッシュする二人。
 と、しげみが動いて顔を出すフラナ、千影。

フラナ
「顔にこんにゃく当てるはずだったのに、失敗しちゃったね」
千影
「でも、何であんなに驚いたのかなぁ?」

千影は二人がふんずけたこんにゃくから土を払い落とし、首を捻った。
 ちなみに、今回行われた胆試しで一番驚いたのはこのペアだったらしい。
 ともに、「仕掛けが怖かったんじゃない!」と主張していたが。

立場逆転

夜の雑木林。道の曲がり角に隠れて、ターゲットを待つ千影、及びスナ同の3人。

佐古田
「ちゃぎっ(来たぞ)」
フラナ
「用意はいい?」
千影
「(…フラナ君、やっぱり子犬みたい)」
SE
「からん…ころん」
小さな光がひとつ、遠くから近付いてくる。黄色みを帯びた光のゆらめき具合は、懐中電灯とは明らかに違う。

本宮
「おかしいな…一人でくる人なんていたっけか」
本物の蝋燭を入れた提灯ひとつ。持っている人の影は定かでないが、白っぽい着物の帯の辺りだけがぼんやりと見てとれる。

佐古田
「(あと15m…12m…)」
フラナ
「(どきどきどきどき)」
と。突然提灯がぱっくりと割れて、竹ひごの間から吹き出した炎が、みるみるうちに薄い紙を舐めはじめる。炎上する提灯に照らされる持ち主の姿は、こけた頬骨の上に長いざんばら髪の乱れかかる…

フラナ
「で…でたあああっ!」
佐古田
「ぎゃりぃぃぃぃん」
本宮
「うあああおちつけみんな、あれはただの幽霊だ!」
自分が落ち着いたほうがいいと思うぞ、もとみー(笑)脅かし役も忘れて一目散に逃げ出す3人。

千影
「ま…待ってよみんな(後を追う)…
でも…どうしてあの人が…?」
遠ざかる悲鳴のあとには、再びの闇。提灯の残骸を下駄で踏み消しながら、独り取り残された人影が呟く。

訪雪
「やれやれ、何か誤解があったようだなぁ(苦笑)…
しかしここから先、灯りなしでどうやって帰ろうか」
途方に暮れる訪雪に前方の闇から突然声がかかった。

千影
「あの…こんなところでなにをなさってるんですか?」
訪雪
「うひゃあ(びく)…あ、いや、失礼。
この近辺で知人が肝試しをやっとる筈なんですが…
失礼ながら、お嬢さんも肝試しですか」
千影
「え、ベーカリーの皆さんのお知り合いなんですか?」
訪雪
「どうも見た顔だ思ったら、やっぱりそうでしたか。
では改めて、はじめまして。私は小松訪雪、
吹利本町で骨董屋をやっとる者です」
千影
「えっと、はじめまして私、無道千影っていいます☆」
訪雪
「よろしく無道さん」
千影
「千影でいいですよ小松さん」
訪雪
じゃあ千影さん。挨拶はこの辺にして…
とりあえず、どうにかして無事に宿まで行かんとなあ。
君も灯りは持っていないようだし」
千影
「大丈夫ですよ☆私、けっこう夜目がきくんです
案内しますから手を放さないでくださいネ(ギュッ)」
いうが早いか訪雪の答えを待たず手をつないで歩き出す千影

訪雪
「ではお願いするとしましょうか(冷たい手だな…)」
そのころスナ同の面々は…

フラナ
「はぁはぁもう大丈夫かな(キョロキョロ)
あれ?チカちゃんは?」
佐古田
「…じゃ…じゃん(し、知らない)」
本宮
「はぁはぁ…無道さん……まさかさっきの奴に!」
フラナ
「急いで助けに行かなきゃ!チカちゃーーーん!」
本宮
「待てよフラナ!俺も行くよ!」
佐古田
「ジャジャジャン!(急げー!)」
…勘違いをしていた(笑)場所は戻って千影と訪雪。あいかわらず千影に手を引かれ山を下っている。

千影
「小松さんはお化けとかって信じますか?」
訪雪
「わしかい?ああ、いると思うね」
千影
「見たこととかありますか?」
訪雪
「見たことねぇ…ゆずさんみたいな子も含むならあるかな」
千影
「ゆずちゃん…花澄さんの連れていたお人形さんですね」
訪雪
「まあ、見た目はね」
千影
「じゃあ小松さんはもっと凶悪そうな化け物とかは
見たこと無いんですね?」
訪雪
「見たことは無いかな」
千影
「そうですか(クスクス)」
訪雪
「?」
千影
「もしかしたら意外と近くにいるかもしれないですよ☆」
訪雪
「そう?……………ま、まさか…」
千影とつないでる手が汗ばんでくるのを感じる訪雪。

千影
「…あ・た・り☆(ニコ)」
振り向く千影。雲の隙間からさす月光のもと妖しく微笑む千影の口元には………牙その瞳は血のような紅…訪雪:「うひゃぁー!!」

千影
「きゃっ!」
SE
「どすん」
手をつないだまま訪雪が尻餅をつくように転んだため訪雪のうえに引っ張り倒されるかたちになった千影。

千影
「いたた…(自分の体勢に気づく)…小松さんこんなかわいい
女子高生を引き倒してどうするつもりなんですか(クス)」
訪雪
「(ビク)あわわわわ」
千影
「(クスクス)どうしちゃったんですかぁ☆」
SE
「ポロ」
訪雪
「(ビクビク)…ん?」
千影
「あれ?とれちゃった」
訪雪のうえに落ちてきたものは…仮装につかうおもちゃの牙…

千影
「あーあ、ばれちゃった」
訪雪
「…千影さん今までのは…」
千影
「ぜーんぶ、う・そ☆」
訪雪
「じゃあその目は…」
千影
「カラーコンタクトでしたぁ」
訪雪
「(ガク)…ふぅ、なんでまたわしなんかを驚かしたんです?」
千影
「んーと、ほんとはフラナ君達を驚かそうと思ったんだけど
みんな小松さん見てビックリして逃げちゃったから変わりに、ネ☆」
訪雪
「そういうことでしたか…アイタタ」
千影
「どうしたんですか?!」
訪雪
「ちょっと腰を打ったみたいでね、アタタ」
千影
「ごめんなさい…私、調子に乗っちゃって…だいじょぶですか?」
訪雪
「ああ、平気だよ」
といって立ち上がる訪雪。

千影
「ほんとにごめんなさい…」
訪雪
「気にしなくていいから、さ、早く山を下るとしましょう」
千影
「……うん!」
ふたたび手をつなぎ歩きはじめる2人。

訪雪
「(それにしてもさっきの牙と紅い瞳…まるで本物みたいだったな…)」
千影
「何か考え事ですか、小松さん?もうすぐ着きますよ」
訪雪
「いや、たいしたことじゃないよ」
そんなことを話してるとき…

フラナ
「チカちゃーん!どこー!」
本宮
「無道さーん!いたら返事をしてー!」
佐古田
「じゃじゃーん(どこだー!)」
千影を探しにきたスナ同の3人の声が聞こえてきた

千影
「(クスクス)小松さん、今度はフラナ君達をいっしょに
驚かしましょうよ」
訪雪
「(ニヤリ)ふむ、そうするとしようかね」
このあとフラナ、本宮、佐古田の絶叫が山にこだましたそうだ(笑)

花火 御影&尊

ふたつの影が、波打ち際を並んで歩いている。艶やかな浴衣姿の尊と、Tシャツにジーンズといういでたちの御影。

「あの……御影さん」
御影
「ん?」
「今日は、ありがとう……。嬉しかった……(にこっ)」
御影
「感謝されるほどのことは、やってないが(照笑)」

ジーンズのポケットに指をひっかけて歩く御影に後ろから近づくと、尊はそっと指先をのばす。御影のひじに指が触れる。その直前、指先はためらいを見せる。怯えるように、恥じらうように。
 物陰にて……様子を伺う影二つ。

瑞希
「うんうん、二人ともいい雰囲気じゃない(くす)」
本宮
「なんで……俺までつきあわされるんだろう……」
瑞希
「ぼやかないの、ほらほら本宮くん!『光の雨』作戦決行
よっ」
本宮
「はいはい……次の打ち上げ花火、スタンバイOKです」
瑞希
「撃てーっ!」
SE
「ひゅるるるるるるる〜、ぽんっ」
「あ……」 御影 :「ん? あぁ……」

次々と夜空に咲き乱れる大輪の炎の花。
 子供のようにはしゃぐ尊。

「わあ☆ きれーい(花火に見とれている)」
御影
「ああ、本当に……綺麗だ」

御影の視線は、笑いさざめく尊に注がれていた。慈しむように、まぶしげに。

琢磨呂
「おーい、こっちも花火やろーぜ花火!」
「行きましょ、御影さん(にこっ)」
御影
「そうだな、行くか(にっ)」

花火 本宮&緑

真夏の夜……遠くにはじける花火、足りなくなった花火を使いっパシリで買い出しに行く本宮、それを緑が手伝う。

本宮
「消火用バケツ……俺が持ちますよ」
「え、大丈夫ですよ……」
本宮
「いえ、重いですから。」
「(平気……なんだけど……な……)」

両手に花火を抱え、腕にバケツを引っかけ、歩き出す本宮。
 緑も続いて歩いて来る。
 紺色に格子模様、手縫いの浴衣姿の本宮。
 白地に色とりどりの金魚を彩った、しっとりとした浴衣を着込んだ緑。二人が連れ立って歩く様は…一見、カップルに見えなくも無い。

本宮
「(……何か……話題……何か……話さなきゃ……)」

内心焦りつつも、何も言えず黙ったままの本宮。
 そこへ……急に空が明るくなる。

「……あ、向こうの方」
本宮
「あ…」

緑が指差した先……。
 夏の夜空に大輪の花火が咲く、ひとつ……ふたつ……。

「きれい……」
本宮
「……きれい……ですね、本当に……」

立ち止まって、空を見上げる二人。しばらくして、意を決したように口を開く本宮。

本宮
「水島さん」
「……はい?」
本宮
「遠回りして……帰りませんか……」

海沿いに、花火を眺めながら歩く二人。打ち寄せる波の音が静かに聞こえてくる。

「静かですね」
本宮
「ええ、あの、本当に(言わなきゃ!今しかないんだ)」
 
  鼓動が高鳴り、気持ちがはやるのに、何の言葉も出てきてくれない。
 
本宮
「あの…水島さん」
 
  必死になって言葉をつむぎ出す、しかし、出て来る言葉は…
 
本宮
「…おまじないって、信じますか?」
「おまじない…ですか(きょとん)」
本宮
「あっあの、同い年の従兄妹がやってたんです『金色と銀色の鈴』
っていうおまじない」
「…聞いたことあります、恋のおまじないですね。銀色の鈴に
相手の名前を書いた紙、金色に自分の名前を書いた紙をつけて…」
本宮
「それをずっと一緒に肌身はなさずもっていれば、想い人が
振り向いてくれる…俺も後で、知ったんですけど」
「女の子って、おまじないとか好きだから(くす)」
 
  微笑む緑、その横顔を遠慮がちに見つめる本宮。
 
本宮
「でも…俺、ずっとわからなかったんです。おまじないをするっ
てことが」
 
  空を振り仰ぐ。続いていた花火が一旦途切れ、街の明かりが薄暗い海に照らし出される。
 
本宮
「言いたいことが…すべて言えれば、おまじないがすべて効くのなら。
世の中、もっと変ってるだろうし、みんな幸せになれるかもしれない」
 
  一言、言えれば…
 
本宮
「でも、そんな風には…いかないですよね。俺、わからな
かったんです。何のために…おまじないなんかするのかが」
「…本宮さん」
 
  なんで…そんなちっぽけな事に…願いを託すんだろう。わからなかった…ずっと。でも…
 
「本宮さん、その子は…きっと、勇気が欲しいんだと思います」
本宮
「勇気ですか…」
「おまじないをすることで、勇気をつけたいんだと思うんです」
本宮
「思いを伝える勇気を…」
「ええ…自分におまじないをかけてるんです、女の子は。
勇気をくださいって…」
本宮
「水島さん…」
 
  微笑む緑、ゆるくまとめた髪が額にかかる。思わず顔を赤らめて、視線をそらしてしまう本宮。
 
本宮
「水島さん、でも…俺」
 
  振り切るように顔を上げ、緑の顔を見詰める。
 
本宮
「…祈ることも、勇気を願うことも…大切だって思います。
でも…俺、それだけで終らせたくないんです」
「本宮さん?」
 
  きょとんとした目で軽く小首を傾げ、不思議そうに本宮を見る緑。
 
本宮
「水島さん」

言ったら、きっとこの人を悩ませる、それでも言わずにはいられなかった…
 

本宮
「…好きです」
「え…」
 
  その時、大輪の花火が空に咲き、光の雨が二人の姿を照らし出した。
「あの……それって(きょとん)」
本宮
「好きです……水島さんが」
「でも……私」
本宮
「先輩のことは知ってます……でも、でも俺、水島さんの
ことが」
「(後ろを向く)……」
本宮
「(緑の背中を見つめる)……」
「時間……時間ください……(走り出す)」
本宮
「あ、水島さん」
顔は見せずにその場を走り去る緑、本宮はその場に立ちつくす、花火はいまだに鳴り響いている。

真実の姿、真実の想い

昼間の喧騒と先ほどの騒ぎが嘘のように静まり返り、虫の音とそよぐ風の音だけが聞こえる静かな夜。
 海へ通じる中庭に出てくる人影一つ。

琢磨呂
「眠れないな……。外気に当ってはしゃいだ分、頭を放熱
させるかな」

中庭へと歩みを進める琢磨呂。
 中庭にたたずむ一つの影。

琢磨呂
「先客・・・か。こんな夜には黄昏てみたくもなるもんだ
よな(肩に後ろから手をおく)」
「(振り返りもせずに)そう、ね。潮風が本当に気持ちが
いいわ」
琢磨呂
「全くだ。気温は高いはずなんだが、妙に涼しく感じるな」
「月も、綺麗ね」
琢磨呂
「ブルズアイシューティング・ターゲットのように真ん丸
な月だな」
「(くすっ)なにぃ、それ?」
琢磨呂
「丸いなーってことさ」
「ふふふ」
琢磨呂
「ふふ……」
「今日、本当に楽しかった」
琢磨呂
「ああ、皆元気いっぱいだったしな」
「『水着の美女がいっぱいだあああああああ!うはははは
あ!』って騒いでた方もいらっしゃいましたけどね……」
琢磨呂
「ふ……誰のことだかな。俺は真っ赤なハイレグビキニを
望遠レンズでじっくり撮影していただけだから身に覚えは
ないけどなぁ」
「(赤面)でも、あれが皆んなの素直な姿なのかなと思う
わ。日頃、いろんな悩みやわだかまりを抱えるものだから
ね、人間というのは。何にも縛られない皆んなを見れたよ
うな、そんな気がしたわ。でもね、一人だけ違った」
琢磨呂
「あん?」
「琢磨呂君」
琢磨呂
「俺だいつだって素直さ……ねんて、尊の姐さんに言って
も通用しないだろうな」
「通用するもんですか」
琢磨呂
「あんまり見透かされるのは趣味じゃないんだがなぁ(苦
笑)」
「麗衣子ちゃん、残念だったわね」
琢磨呂
「受験じゃしょうがないさ」
「あたしとか、瑞希さんが楽しそうに遊んでるとき、琢磨
呂君ちょっと嫉妬してたでしょ」
琢磨呂
「するかっての! ただな……」
「ただ?(問い詰める瞳)」
琢磨呂
「ちょっと……心の拠所がなくて寂しかっただけだ」
「……平和、ねぇ〜」
琢磨呂
「ふん」

ひとしきり、月を眺めてぼうっとする2人。

「ねぇ、一つ聞いていい?」
琢磨呂
「?」
「前から聞きたかったのよ。琢磨呂君、いったいあなたは
誰?」
琢磨呂
「何を唐突に!」
「あなたがエアガンを振り回したり、ナイフを振り回した
りするのを普段見ているけれど、あれって普通の大学生が
することじゃないでしょ!?」
琢磨呂
「軍事マニアだからな……」
「そんなの、あたしが素直に信じると思う?」
琢磨呂
「……ふん。答える必要はない」
「じゃぁ質問の仕方を変えるわ! あなたが何をやってるか、
麗衣子ちゃんは知ってるの?」
琢磨呂
「今はまだ、知る必要はない」
「!」
「は……ん『今は』……ね。便利な言葉ね、それ。その
『今は』を何時まで続けるの?」
琢磨呂
「……」
「どうして言わないの? 心配かけたくないからなんて言い
訳、通用しないわよ!」
琢磨呂
「言えないんだよ。」
「意気地無し!」
琢磨呂
「……」
「なんとか言ってみなさいよ!」
琢磨呂
「ったく、しょーがねーねーちゃんだな! 御影のダンナに
言いつけるぞっての。……俺はな、危険な仕事をやってるこ
とは伝えてあるの!」
「え……?」
琢磨呂
「あんた、どこぞの退魔師だろ? 御影さんはどこぞの法的
組織みたいなもんに所属してるんだろ?」
「……いい……情報網ね」
琢磨呂
「それだけの情報網を持っているところさ」
「……警察……いえ、公安?」
琢磨呂
「目の前に銃刀不法所持のねーちゃんがいて、刑事機関は
ないだろう?」
「残念ね、漣丸は美術品扱いで所持許可は取ってあるの(くす)
でも……まさか……いっぱい情報を持ってて警察機関じゃ
ない……スパイ……じゃ、無い……わよね(苦笑)」
琢磨呂
「スパイ!……時代遅れの映画じゃないんだからな。そう
いう時は『情報機関』って言ってくれよな」
「あなたは日本人じゃないの?」
琢磨呂
「バカ、誰が情報機関を肯定した!」
「莫迦……って、知らないんだからしょうがないじゃない!」
琢磨呂
「じゃぁ、教えてやるよ」
「あら、あたしが絶対に黙っていられるという保証はない
わよ(くすっ)」
琢磨呂
「ただの花屋の店員だったら言いはしねーさ」
「(苦笑して肩を竦める)」
琢磨呂
「ねーちゃんだって裏の職業持ちだ、言えばどうなるか良
く知っているはずさ」
「脅してるの?(くすくす)」
琢磨呂
「わーーーーーっはっは!脅しが効く奴ならはじめからこ
んなとこでしゃべらんさ。 教えてやろう、岩沙琢磨呂。
統合幕僚部情報課所属 特殊情報収集作戦阻止班員だ。妖魔
だの式神何だの使って日本に入り込んできて、あれやこれや
とややこしい事をしてくれる輩をぶっとばす。 表の顔は大
学生……というやつだな」
「なっ!」
琢磨呂
「ま、平たく言えば自衛隊だな」
「統幕……噂には聞いてたけど本当にあったんだ……でも
琢磨呂君。やっと……本当の事を教えてくれたのね(にこ)」
琢磨呂
「だが……麗衣子には内緒だぜ?」
「わかったわ。でも、一つだけ」
琢磨呂
「あん?」
「麗衣子ちゃんが、あなたが裏の仕事を持っているという
事を知った時、若しくは疑ったとき。 嘘をつくのだけは
やめてあげて……。 彼女、本当の事を知ったらとても苦
しむと思うわ」
琢磨呂
「しかし……」
「しかしもいわしもないのっ!」
琢磨呂
「OKだ。そうするよ。 たとい、俺がすべてを打ち明けて
麗衣子が俺の事を嫌いになってしまうとしても、な」
「嫌いになんか、ならないわよ」
琢磨呂
「ねーちゃんに分かるかよ! そんなもの麗衣子に言って
みないと……」
「?……ねぇ……あたし何も言ってないけど……」
琢磨呂
「今、嫌いにならないって……?」
「だから、何を聞いても嫌いにならないって言ったのよ、
お馬鹿さんっ」
琢磨呂
「!」
「ええっ!」
麗衣子
「えへへ……」
琢磨呂
「あの……なんで……」
麗衣子
「話し、少し聞いちゃった。 そう、先輩そういう仕事し
てたのね……」
琢磨呂
「ぐはああああああああっ!不覚っ!(爆沈)」
「麗衣子ちゃん!?どうしてここに?」
麗衣子
「ん、模試が終わったから来ちゃったの」
「あの、受験だからって……」
麗衣子
「受験はまだ先ですっ(きっぱり)それに、息抜きは必要
でしょ?夏は長いし(くす)」
「はいはい、そうね。わかったわ、邪魔物は消えるとしま
しょう(笑)じゃね、麗衣子ちゃん(麗衣子にウインク一
つ残して闇に消える)」
麗衣子
「?」
琢磨呂
「尊さん、俺の事はもう分かっただろ……って、あれ?」
麗衣子
「尊さんなら、席を外したわ」
琢磨呂
「そっか」

しばしの沈黙。

麗衣子
「隠してたの?あたしに」
琢磨呂
「言えなかっただけだ」
麗衣子
「どうして言えないのよ!」
琢磨呂
「命懸けの仕事だ。麗衣子に心配かけたくないのは当然の
心理だろう?」
麗衣子
「莫迦」
琢磨呂
「……ふん、俺の評価は2文字か」
麗衣子
「大馬鹿よ!」
琢磨呂
「4文字とエクスクラネーションマークか。進歩したな」
麗衣子
「あたしがそれでどれだけ悩んで心配したと思ってるのよ!」
琢磨呂
「えーと、1、2、3、4」
麗衣子
「文字を数えなくていいから話しを聞いてよっ!!」
琢磨呂
「……」
麗衣子
「危ないものは持つ、生傷は絶えない、時として精神的に
も苦しむ先輩を毎日のように見てて、あたしがどう思って
たと思うの!?(涙目)」
琢磨呂
「(反論できん)」
麗衣子
「それにさっきの尊さんと話しをしていたときの台詞はな
に? 先輩がどんな仕事をしていようと先輩は先輩でしょ?
そんな些細な事で先輩という人を、愛した人を嫌いになれ
るとでも思うの!?(涙目)」
琢磨呂
「(臨界突破まで後1分……)」
麗衣子
「だから、お願い。隠し事は止めて。 どんな些細な事で
も、先輩の事が知りたいのに、それを隠すなんてことは……
(涙目)」
琢磨呂
「(30秒……)」
麗衣子
「……ねぇ、何か言ってよ!(涙目)」
琢磨呂
「(……10秒)」
琢磨呂
「(臨界点突破ああああああああああああああ!)」

突然立ち上がると、麗衣子を抱きしめる琢磨呂。

麗衣子
「っ!?……」
琢磨呂
「すまなかった。今俺に言えるのはそれだけだ。 許せ」

しばらくして琢磨呂の腕の中で麗衣子がささやく。

麗衣子
「やだ」
琢磨呂
「え?」
麗衣子
「許して、あげない」
琢磨呂
「あ、あのぉ〜……許さんって言われても……(汗)」
麗衣子
「ふふ、このネタで1ヶ月はいじめられるね」
琢磨呂
「ったく(頭ぽりぽり)……(顔を見合わせる)ぷっ……
くっくっくっく……」
麗衣子
「ふふっ……ふふふふ……」

しばし密やかに笑う。

麗衣子
「死んじゃ、やだよ?」
琢磨呂
「俺は、不死身だ」
麗衣子
「約束よ(目を閉じる)」
琢磨呂
「ああ、約束する(目を閉じる)」

ゆっくりと、唇が重なる。
 長いくちづけは、短い夜の終わりでもあった……。

SE
パシャッ!

フラッシュの閃光。

麗衣子
「きゃっ!」

麗衣子の短い悲鳴。

SE
「バズン!」

フラッシュの方向、及び強さから瞬時に位置を割り出し、電光石火で抜き放ったM93Rでセラミック弾を叩き込む。
 その時間実に0.01秒!

琢磨呂
「てめーーーーーー!待ちやがれえええええええええええ
ええええっ! そのカメラに1発ぶち込ませろおおおっ!」
SE
「ひえええええええええっ!」

そして叫び声。
 ドタバタ走り回る音。
 こうして日常が戻ってゆく。だが、この晩の出来事は、麗衣子と尊、そして琢磨呂の心の中に存在し続けるのであった。

観月の夜

観楠
「むー……?あれ、素子、ちゃん?」
素子
「あ、店長」
観楠
「どうしたの、こんな時間に?」
素子
「……なんだか、眠れなくて……昼間あれだけ騒いだのに」
観楠
「そっかぁ……」
素子
「店長は?」
観楠
「ん……トイレの帰り(苦笑)」
素子
「……(くすっ)」
観楠
「な、なんで笑うかな?(笑)」
素子
「さぁ……」

窓から差し込む月明かりが浴衣姿の素子を照らす。
 観楠、思わず息を呑んでしまう。

観楠
「(……)」
素子
「月が……すっごく奇麗……」
観楠
「(月……月もだけど、奇麗なのは月じゃなくて、その)」
素子
「……外」
観楠
「え、なに?」
素子
「外に出てみませんか?(微笑)」
観楠
「あ、あぁ(汗)でもちょっと冷えてきたんじゃないかな?」
素子
「大丈夫(笑)こう、すれば……」

素子、観楠の腕を取り体を預ける。

素子
「こうすれば、寒くない……」
観楠
「素子……ちゃん(照)」
素子
「ね?いきましょ(くすっ)」

月下舞踊

真夜中……海岸。
 月明かりに水面が揺らめく真っ黒な海、潮のにおい。
 きゅっと砂を踏みしめる。
 素足に砂の感覚が心地よい。
 ぱしゃんと音を立て、海水を手ですくうと空に放り投げる。
 ふわっと水の粒が舞い上がる。
 粒は水面に落ちることなく、直紀の周りをふらふら漂う。
 くす……と笑うと水をすくった手を斜めに薙ぐ。
 海面からふわふわ水の粒が昇る。

直紀
「月明かりのせいかなぁ……こんな事したがるのって」

また、笑みがこぼれる。足はゆっくりと動き出していた。
 出鱈目なステップ。
 潮騒の音。
 メロディになってない歌。
 風の匂い、月明かり。
 身体の動きに一足遅れてふわりと舞う、スカート。
 くるくる踊るたびに水の粒は、気持ちに反映して。
 よわく、つよく。
 ゆるやかに……ざわめく。
 ぱしゃん、と、おもいがけない水音がした。

ユラ
「こんばんは」

波打ち際からから、白い姿がふわりと立ち上がり、歩みよってくる。
 足首まで覆うしなやかな布。

ユラ
「なんだか、ぼおっとしてたら、潮が満ちてきちゃって」

スリップドレスの膝から下を足にまといつかせ、困ったように微笑む人影。

直紀
「いい、月夜ですよね」

踊る足を、ふと、止めて。
 きらきらの波のかけらが、月をうつしながらまといつく。
 手首に、足首に、潮風がゆらすスカートに。

ユラ
「ええ」

腰を過ぎて流れる髪が、ふわりと風に絡む。

直紀
「それに、いい風」

わけもなく、ころころ、と笑う。
 笑い声に答えるように、波の上にころころと水の粒が遊ぶ。

ユラ
「わたしも、おどりたいな」

言うより早く、濡れたドレスを脱ぎ捨てる。
 下に着た短い黒いワンピースが、月の光にしなやかに光る。

直紀
「あ、猫」
ユラ
「そうかもしれない」

笑い声、今度は二重唱。
 手をとりあって、くるくる回る。
 爪先が軽やかに砂の上をかすめる。
 潮のリズム。
 月と波のミラーボウル。
 時おりの波が、くるぶしに触れる。

ユラ
「あ」

しなやかな黒猫のステップが止まった。

ユラ
「だれか、くる」

さくさく、と砂を踏む足音。

ユラ
「それじゃ、またあとで」

月に向かって、大きな弧を描くジャンプ。
 黒い影は、すい、と消える。

訪雪黙考

深夜。
 静まり返った別荘の一階で、訪雪は眠れずにいた。
 二階の部屋に泊まっているはずの十は、いまはいない。
 12時を回った頃、階段を降りる忍び足の足音と、裏口の開く微かな音がした
 きり、まだ戻った気配はない。
 暑くて眠れない、というわけではない。
 盆地の町中に建つ松蔭堂の寝間に比べたら、ここは格段に涼しい。
 気が昂ぶって眠れないわけでもない。
 昼の浜辺での興奮の残滓も、今ではぼんやりとした記憶に変わってしまっている。

訪雪
「(忘れっぽいのは、周囲のモノたちに代わりに憶えても
らっているからかもしれない)」

そう考えたことで、眠れない原因に気付く。
 ここは他人の記憶が多すぎる。
 枕許に置かれた時計にさえ、他の誰かの……多分、浦上教授の記憶が、染み込んでいる。
 意識して読んでもいないのに、モノたちは勝手に語り出して、滲み出した記憶の無音のざわめきが室内を満たしている。

訪雪
「このままじゃ寝られやせんな……外へ行って風に当たっ
てくるか」

寝間着を浴衣に着替え、下駄をつっかけて外に出る。
 山の中腹に立つ別荘からは、海がよく見える。
 麓の旅館街の建物のいくつかは、まだ宴会でもやっているのか、煌々と点した灯が路を照らしている。
 吹利から来ている面々も、恐らくはその灯のどれかの下にいるのだろう。
 遠い波音に誘われるように、下り坂を歩む。
 松の枝の間から時折覗く星を見上げ、ざわめきの洩れ聞こえる旅館街を抜けると、いつしか道を覆うアスファルトは途切れ、下駄の歯はさくさくと砂を踏んでいた。
 訪雪は海をあまり知らない。
 関東平野の真ん中で生まれ、東京の雑踏で青春を過ごし、吹利の盆地に住まいを定めたいままでの人生で、海を身近なものとして感じたことはない。
 海はいつも、客としてはるばる訪れるものだった。
 耳の底に残ったモノの記憶が、絶え間ない波の音に洗われてゆく。
 海は記憶を運んでこない。
 寄せる波に足を浸し、風化しかけた貝殻を掌に包んでも、何も見えては来ない。
 海水浴客の残した空き瓶にさえ、ぼんやりとしか記憶は残っていない。
 世界中のすべての人間が、自分一人残して消えてしまったような錯覚に襲われて、ふと周囲を見回した訪雪の耳に、波とは違う水の音が届く。

訪雪
「……?」

人の気配。
 岬の松林の向こうで、誰かが波と戯れている。
 二本歯の足跡を砂に残しつつ、音のする方に歩いていく。
 低い、それでいて浮かれた話し声が聞こえる。
 内容は判らないが、多分……どちらとも、若い女。

訪雪
「(儂は…何をしている?柄にもなく人恋しくなったか)」

松の木立を大きく迂回して、岬の向こうに辿り着いたときには、既に渚に人影はなく、残された足跡を波が洗い流しているところだった。

訪雪
「無粋な覗き見はするもんじゃない、ということか……ど
れ、そろそろ帰って寝るとするか」

くるりと踵を返して、いま来た道を戻る。波は相変わらず、何の記憶も載せずに寄せては返していた。木の間からまだらに洩れる月明かりに照らされた山道。別荘へと続く道を登る訪雪が、ふと歩調を緩める。目の前の道の真ん中に、人影が立ちはだかっている。

訪雪
「……」
それまでの無表情を崩さぬまま、人影のほうに2、3歩近寄って、相手の足元に目をやり、その場に下駄を脱ぎ捨てて、無言で早足に歩みはじめる。裸足の爪先に下駄をつっかけて、小柄な人影がそのあとに続く。からころという下駄の音は数歩で消えて、波打つ髪の先から垂れた滴が、乾いたアスファルトの表面に点々と吸い込まれてゆく。午前1時。夜明けまではまだ長い。

月下異象

腕時計は、夜中の二時。
  砂浜が切れた辺りの岩場の上から。
  花澄は、しゃがみこんだままぼんやりと海を見ている。
  月は波ごとに小さく切り取られ、ちりちりと光っている。
  それをただ、ぼんやりと見ている。
  と。
 

花澄
「……?」
 
  波の具合が、何だか妙である。波打ち際からまだ少し先に、ぽっかりと
  光の輪が浮き上がった。
花澄
「……あれは、何?」
”大クラゲ ”
花澄
「……って、……あれ?」

確か、御影と一がここにやってきた、その仕事の原因ではなかったか。
  それにしては……何だか儚すぎ、奇麗すぎた。

花澄
「でもなんで、ここに来たの?」
”さあ。来たかったから来たのだろう”
花澄
「別に、人に迷惑かけたい訳ではないのよね?」
”どちらが迷惑をかけているのやら”

揶揄するような口調を、花澄は無視した。

花澄
「あのクラゲに伝えて。ここにいると狩られる。早く逃げたほうが良い」

頭の隅で、2人に頭を下げる。けれども警告も無しにただ狩るのは。
  何だか、厭だった。

花澄
「伝えて、くれた?」
”勿論”
花澄
「ありがとう」

そのまままた、膝を抱え込んで海を眺める。
  尽きることのない繰り返しを、飽きることなく眺める。
  ゆらゆらと。
  そのまま花澄は、眠りの中に移行していった。



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